Specialty

2008年9月15日 (月)

<ジャズ雑感 第25回>熱いべース奏者たち(C面)レッド・ミッチェル

レッド・ミッチェル~しなやかなビート感。

Presenting_4 先日、sigeさんとyositakaさんという音楽好きの友人と音聴き会(この3人では30年振り)をやったのだが、その折、yositakaさんが、再三「レッド・ミッチェル」という名を口にするのである。そういえば、10年ほど前だったか・・・彼からの年賀状に「~最近はレッド・ミッチェルを~」という一節があったことを僕は思い出した。ジャズ好きが集まっても、なかなかレッド・ミッチェルというベース弾きの話しにはならない。彼はハンプトン・ホーズとのレコードでミッチェルを好きになったというのである
そのことからも、yositakaさんが(クラシック中心かと思っていた)僕の想像以上にジャズに深く入り込んでいることが判った。そんなyosiさんからも大いに刺激を受け、またちょうど前回の《夢レコ》で、Mode盤~Warne Marsh Quartetで、少々、レッド・ミッチェルに触れたこともあり・・・そんな流れから、今回は、レッド・ミッチェルを<夢レコ>~熱いべース奏者たち(C面)として取り上げてみたい。

僕は、レッド・ミッチェルこそ本当の意味でベースの名手であると思う。1950年代後半からのアンドレ・プレヴィンやハンプトン・ホーズとの諸作に始まり、その後の50年以上も現役で活躍したので、彼の参加したレコードの数はとても多いはずだ。つまり彼には常に仕事のオファーがあったわけで、それはなぜかといえば・・・やはり「巧い」からだろう。そしてそれは単に「巧い」のではなく、その「巧さ」にイヤミがないというか・・・どんなタイプのジャズにも巧くフィットできるベースを弾くことができたからだと思う。
そういえば、レッド・ミッチェルを「嫌い」だという人に出会ったことがない。
ミッチェルという人は、ミンガスやラファロのように強く自分を主張するタイプではなく、しかし与えられた持ち場では、きっちりといい仕事をする・・・そんな名脇役的なタイプとも言えそうだ。そうだな・・・映画「7人の侍」での宮口 精二というか(笑)
僕がレッド・ミッチェルというベース弾きを意識するようになったのは、ジャズ聴きのだいぶ後になってからである。ジャズのベースでは、最初にミンガス、次にラファロ、そしてウイルバー・ウエア・・・そんな突出した、ある意味「判りやすい」個性にまず惹かれた。そしてその頃は、まだプレヴィンやホーズのピアノトリオものまでは手を拡げていなかったので、ミッチェルのベースを耳にするチャンスも少なかったはずだ。だから僕の場合は、レッド・ミッチェルというベース弾きの凄さにいきなり開眼したわけではなく、いくつかのレコードを聴いていると「あれ・・・このベース、ちょっといいな」と思う場面があって、クレジットを見ると、それがレッド・ミッチェルで、そんな繰り返しの内に知らぬ間に彼を好きになっていた・・・そんな風に自覚している。そんな「我、レッド・ミッチェルに開眼せり」レコードをいくつか紹介しようと思う。

Buddy Collette/Jazz Loves Paris(specialty) 

001_3 《「僕のレコードリスト」によると、豊橋の隣の街~豊川市のプリオというビルでのレコードフェアで、1993年9月に入手している。この1987年の再発盤、音はかなりいい。もともとミッチェルのベース音は大きいとは認識しているが、それにしてもベース音がだいぶ大きめになっているように聞こえる。そういうマスタリングだったのかもしれない》

ジャズ聴きもある程度長くなると・・・ちょっと渋いレコードにも興味が湧いてくる。このレコードフェアへは、たしか歯医者で親知らずを治療した後に直行したものだから、その麻酔が切れ始めて痛くてしょうがない(笑) フェアにはいくつかの業者が出品していたが、ジャズのコーナーはわずかで、僕は根性でエサ箱を探ったが、ハードバップものに目ぼしいものが見つからなかった。それでも、ひどい歯痛をガマンして来たのだから、という気持ちもあり、ちょっと気になった2枚を買ったのだった。当時、まだ西海岸ものはあまり聴いていなかったので、こんな地味なものを買うということに、自分でも意外な感じもあった。それが、Jazz Roles Royce(fresh sound盤)と、もう1枚がこのJazz Love Parisだ。もちろんオリジナル盤ではなくて、復刻ものである。このレコードを聴いた時・・・僕はレッド・ミッチェルという人の巧さを、初めて意識したような・・・そんな記憶がある。クレジットを見ると、おおっ、その後に好きになったフランク・ロソリーノの名前もあるじゃないか。久しぶりにこのJazz Loves Parisを聴いてみた。

「バラ色の人生」la vie en rose~有名なシャンソンの名曲である。シャンソンというと・・・全くの余談だが、実は僕は「シャンソン」という音楽がちょっと苦手である。シャンソン曲のメロディは好きなのだ。「枯葉」「セシボン」「パリの空の下」・・・どれも素晴らしいメロディで、もちろん嫌いではない。僕が苦手なのは・・・いわゆるシャンソンでのあの唄い口~メロディをそのまま唄うのではなく、途中から「語り」のようになっていく~あの感じが苦手なのである。もちろん全てのシャンソン歌手が決まったように「語り」的な唄い口で唄うわけではないとも思うのだが、シャンソンというと・・・どうにも「ドラマティックに語る」あの演劇的なイメージが振りかぶってきてしまい・・・素直に音楽として楽しめなくなってしまうのだ。
それはそうと、このJazz Loves Parisなるレコード・・・シャンソンの名曲をジャズ風に演奏しているのだが、どうやらこの1曲「バラ色の人生」が、ミッチェルのフューチャー曲らしく、誰もが知っているあのメロディをベースが弾く仕掛けなのだ。ミッチェルは、ゆったりとした間合いであのメロディを、ゆったりと弾く。そして、この「ゆったりさ加減」が・・・実にいい(笑)
なぜ僕がこういう「ゆったりさ加減」に拘るのか・・・ちょっとした説明が必要かもしれない。
ベースという楽器では(弓弾きではなく、指で弾(はじ)くピチカットの場合)同じ音を、管楽器のようには長くは伸ばせない。
いや、正確に言うと・・・その音が伸びていたとしても、弾かれた直後から徐々に減衰していく運命にあるわけだ(笑)
声や管楽器の場合なら、その音を(その音の音圧を)ひと息で(もちろん、息の続く間は)維持しながら、しかもその音量を強くしたり、弱くしたりできる。しかし、ピアノ(打楽器)やベース、ギター(弦楽器のピチカットやピック弾き)では、これができないのである。自転車に乗っていて、ある時点からペダルを漕がなければ、徐々にスピードが落ち最後には止まってしまう。ペダルを漕ぐことなく自転車を少しでも先に進めようとした場合、自転車が止まりそうになったその時、身体を前の方に乗り出して、その勢いで少しでも進もうとするだろう。ジャズのウッドベースでも「伸ばすべき音」が必要な場合、その最後の方では、少しでもそのノート(音程)の音量・音圧を維持しようとして、その音程を押えている左手で、懸命にヴィブラートを掛けたりする。(ジャズの世界では、ヴィブラートの掛け具合、あるいは、掛ける・掛けないは、個々の奏者の好みで、特に法則性はないとは思う。
*以下追補~その観点でミッチェルのベースをよく聴いてみると、ミッチェルは音を伸ばした際に、ヴィブラートはほとんど掛けてないように聞こえた)
そんな事情もあり、ある曲のメロディをベースで弾く場合、なかなか「間」が持てないこともある(特にスローテンポの場合)ある音(音程)を充分に伸ばしてクレシェンド(だんだん強く)したいような気持ちでいたとしても、ひとたび、ベースから出たその音(音程)は、どんどん減衰していくのだ。それは、まるで意図しないデ・クレシェンドじゃないか(笑)
そんな時・・・たいていのベース奏者は気持ちが焦る(笑)だからそこで「倍テン」(テンポを倍にとって)にして、アドリブ風のフレーズを入れてしまうことも多い。それがセカセカしたように聴こえてしまうこともあるかと思う。
ミッチェルというベース弾きの良いところは、まず「音が大きそう」なことだ。強いピチカットから生まれるその豊かなベースの鳴り具合と、しっかりした左手の押さえにより充分に伸びるそのベース音。それでもやはり上記のように、スローテンポのバラードにおいては、メロディのある箇所では、音が消えていく場面もある。しかしミッチェルはその伸ばしたいはずの音が消えかかっても・・・全く焦らないのである。見事に堂々としているのである。 
僕がレッド・ミッチェルを凄い・・・と思うのは、実はここなのである。音が消えかかっても、そんなことは全く気にしてない・・・ように聴こえる。それよりも、その時の「メロディの唄い」だけを意識して「唄の自然な流れ」を持続させようとしている・・・そんな風に聴こえるのだ。だから「間」が充分に感じられるし、時には、倍テン風なフレーズも入れるが、それはごく自然にその前後のフレーズと繋がり、なんというか・・・「唄の呼吸みたいなもの」が乱れない。そういう「唄い口」こそが素晴らしいのだ。これって・・・「楽器で唄う」ということにおいて、簡単そうで実は一番難しいことかもしれない。
ミッチェルのベースがテーマのメロディを弾く場面は、このla vie en rose「バラ色の人生」だけでなく、もうちょっと古い録音~Hampton Hawew vol.1(contemporary)でB面4曲目~these foolish thingsにも出てくる。こちらでも、先ほどの「唄の自然な流れ」というツボを押えたミッチェルの見事なテーマ弾きが聴かれる。
このようにベースがメロディを弾く場合だけでなく、ミッチェルは、もちろん他のスロー・バラードやスタンダードでのベース・ソロも巧い。彼はどんなテンポの曲でも、たっぷりと鳴る音量を生かして強く弾いてゆったりと伸ばすフレーズと、倍テンにして細かく軽やかに唄うフレーズとを、いい具合に織り交ぜてくる。そのバランス感覚が見事なのだ。だからよくあるように「ベースソロだけ別の世界」という感じにはならずに、それまでの演奏のビート感を保ったまま、ソロ場面ではベースもグルーヴする・・・という感じで・・・とにかくその演奏が自然に流れていく。この辺りの「しなやかさ」が、実に独特な味わいで、技巧的な意味でなく「ベースが唄っている」・・・そんな感じがするべーシストだと思う。
そしてyositakaさんがご自身のブログでも強調しているように、バッキングでのミッチェルも、これまた素晴らしい! 要はレッド・ミッチェルという人は、全て素晴らしいということだ(笑) そんな演奏も少しだけ紹介しよう。

Hampton Hawes/All Night 002Sessions vol.1(contemporary:1956年)
《1956年としては充分にいい録音だと思うが、僕の手持ち盤、僕の機械では、他のcontemporary盤に比べて、ベース音はややブーミーに膨らませた感じもある。録音はロイ・デュナンだと思うが、クレジットには、sound by Roy Duannという微妙な表現なので、ひょっとしたら録音は別のエンジニアかもしれない。この盤は1970年頃の米再発。盤はペラペラだが、A面にはLKS刻印がある。B面はなぜか手書きLKS》

このレコード、ライブ録音だが、右チャンネルから太っいミッチェルのベース音が聴ける。005
vol.1のB面1曲目~broadwayは、かなりの急速調だが、ミッチェルはベースを充分な音量と余裕のノリで鳴らし切っており、素晴らしいビート感を生み出している。それからベース・ソロの場面でも、8分音符のフレーズを繰り出しつつ、バッキングと同じ4ビート的フィーリングを残そうとしているのか~つまり、4分音符4つ弾きも混ぜながら~その急速調でのビート感を維持しながら、見事なべースソロを演じている。素晴らしい!

さて、レッド・ミッチェルということで、僕が印象に残っているレコードをいくつか挙げてきたが、例によって初期の何枚かに集中してしまったようだ(笑)あと少しだけ簡単にコメントすれば・・・50年代のリーダー作~Presenting Red Mitchell(contemporary)とHere Ye(atlantic)の2枚は、ベースの名手というだけでない「ハードバップ的な覇気」を感じさせてくれる好盤だと思う。60年代のI'm All Smiles、The Seanceというライブ録音も好きだし、それから、うんと後期のリーダーアルバム(「ワン・ロング・ストリング」や「ベースクラブ」など)もいい。それからcontemporaryのアンドレ・プレヴィンとの諸作も、もちろん悪くはない。いずれにしても「音楽の自然な流れ」を造り出すミッチェルの持ち味は、どの時期のレコードにあっても、変わりはないと思う。

それにしても・・・僕がレッド・ミッチェルの良さに開眼したあの地味なレコード~Jazz Loves Parisを買うキッカケにもなったあの「歯痛」には、充分に感謝せねばなるまい(笑)

*2012年6月2日追記~コメント欄にて話題に上った、ミッチェルの日本のライブハウスでのライブ盤~ 《ケニー・ドリュー・ミーツ・レッド・ミッチェル・アット・歪珠亭(ひずみだまてい)タイトルは「とういん」》を紹介しているブログを見つけました。レッド・ミッチェルの熱烈マニアらしいmooreさんなる方のブログ~HOME SUITEのこのページをご覧ください。http://home-suite.blog.ocn.ne.jp/home_suite/2008/03/post_8da4.html

そのLPの写真も拝借して紹介しておきます。Home_suite542

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2006年2月16日 (木)

<ジャズ雑感 第14回> トロンボーンのバラード、ちょっといいやつ(A面)

カーティス・フラーとフランク・ロソリーノのことを少々・・・。

トロンボーンの音色には「厳しさ」よりも、どちらかというと「ほのぼの感」というようなものを感じる。僕は、ジャズを聴き始めて長い間、テナーやアルトの咆哮!みたいなジャズの激しい部分に目線を向けていたので、そんな風にのんびり感のあるトロンボーンという楽器を熱心には聴いてこなかった。トロンボーンの音色自体をあまり好きではなかったとも言える。それでもたくさんのジャズを聴き、スタンダード曲をいろいろ覚えていくうちに・・・スロウなテンポで演奏される「バラード」というスタイルを、徐々に好きになってきたようだ。そしてそんな頃、耳にした「トロンボーンのバラード」というものに・・・何かこう特別な「いい雰囲気」を感じるようになったのだ。
そんな「いい雰囲気」を最初に意識したのは・・・あの盤だ。初期のソニー・クラーク聴きたさゆえに入手した Cal Tjader/Tjader Plays Tjazz(fantasy) である。この中のクラーク入りでないカルテットの方に、Bob Collinsというトロンボーン奏者をフューチャーしたバラードが2曲含まれていた。050907_002
I've never been in love before と my one&only love の2曲。これが、なんというか・・・まさにほのぼのしていて聴いてて「いいなあ・・・」と感じたのだ。そうして、ようやく「トロンボーン」という楽器も悪くないぞ、と思い至ったのだ(笑) このチェイダー盤の記事はここ。 http://bassclef.air-nifty.com/monk/2005/09/post_d5c1.html 

それからは、少しづつボントロのLPも集まってきた。そんな中から特に好きなアルバムを何枚か挙げてみよう。

カーティス・フラーの the magnificient trombone of Curtis Fuller (epic) というアルバムが好きだ。_002

dream
two different worldsなど、いい
バラードが詰まっている。
もともと「ぼ~っ」としたトロンボーンの音色だが、フラーの「ぼ~っ」は特に柔らかい肌触りだ。そしてそこに甘さだけでなく、ちょっと「ビターな何か」を感じる。その何かとは・・・侘しさ(わびしさ)みたいな感覚である。

フラーは、スムースなフレイズでアドリヴを切り盛りするというタイプではないと思う。特にバラードでのフラーは、メロディをあまり崩さずに、しかしフレイズのキリを意図的にぶち切ってその音をベンドさせる~クォォオオという風に音を下げて止める感じ~というようなわりとゴツゴツした表現で「ジワジワと」唄い込んでいく・・・。本当に「ジワジワ」効いてきます(笑)
そんな風にフラーという人は、バラードでの「泣き」表現が本当に個性的だと思う。そんなフラーの独特な「唄い回し」については・・・
Mike Berniker という人が裏解説で~dream の1stコーラスでは、フラーはほとんど泣いているかのようにみえる箇所がある(he almost seems to cry)~
実にうまいこと表現している。
それから・・・このレコードでは控えめに入るレス・スパンのギタ-も実にいい。こんな名手がいたのか!と感じ入った。ウエスに似た感じのオクターブ弾きも出てくるが、スパンのギターの音色は、一音一音がとにかく厚い。弦が太いのだろうか・・・厚くて温かい。レス・スパンは、60年前後のクインシー・ジョーンズのビッグバンドでも聴ける。
CBSソニーの1500円盤を何度も聴いているが、いまだに大好きなアルバムである。録音もとてもいい音で入っているように思う。

フランク・ロソリーノ という人もいる。この人は本当に巧い!JJジョンソンも速いパッセイジを軽々と吹くが、音色自体はわりあい軽いように思う。ロソリーノの速いパッセイジの一音一音には、JJよりさらに「キレと重さ」があるように思う。トロンボーンという楽器自体に興味がある方なら、ロソリーノの「巧さ」は凄すぎる世界じゃあないだろうか、と推測する。
ロソリーノ・・・それほど聴き込んだわけじゃあない。チャーリーマリアーノと共演しているベツレヘム盤とキャピトル盤くらいかもしれない。若くて亡くなったとのことなのでレコード自体もそれほど多くないはずだ。そんなフランク・ロソリーノ・・・全く素晴らしいとしか言いようのないアルバムがあるのだ。それがこれだ。

Free For All (specialty)_003

このspecialty というレーベル、西海岸のマイナーレーベルだったとのことだ。よく知られているのは、リー・モーガンの「Dizzy Atmospher」だ。
このレーベルで他に思いだすのは、バディ・コレットの I Love Paris(だったかな?) くらいだ。復刻専門レーベルのVSOPから出てたように思う。

僕の手持ち盤は、センチュリーのGコレクションというシリーズで発売された国内盤である。91年頃出ていたセンチュリーのLPには、なかなか貴重な
ものが多い。たしかラファロ入りのパット・モランやべヴ・ケリーのAudio Fidelity盤もあったはずだ。他にも、むちゃくちゃ地味なピアノトリオものなども、カタログに載っていた。それとセンチュリーの場合、同じタイトルをCD/LPで出していたのだが・・・なぜかLPの方がCDより安い、というタイトルもけっこうあったように記憶している。あれって・・・LP盤を買ったほうがすごくお得感があったのになあ(笑)
それなのに~ベニー・グリーンとソニー・クラークの共演盤(エンリカ原盤)だけは買ったのだが~リアルタイムでは、ほとんど入手してないのだ。今になってみれば・・・全く残念なことだと思う。が・・・これはレコード好きの毎度毎度の出来事である。仕方ない(笑)

さて、フランク・ロソリーノの Free For All (specialty) 
レナードフェザーの裏解説裏解説によると・・・この Free For All というアルバムは、1958年に録音されてはいたが、長い間未発表だったとのことで、ロソリーノはこの盤の発掘前の78年に亡くなったらしい。
フェザーの記事の最後に1986年と表記されているので、86年頃に始めて復刻されたのだろうか。

当時のプロデューサーだったDavid Axelrod の回想がおもしろい。裏解説には~
「ロソリーノも僕もこのアルバムの出来には大喜びだったよ。だって西海岸からの[ハードバップ]アルバムになるはずだったのだから。よくある[西海岸」というイメージからは抜け出したかったんだよ。何週間もかけてパーソネルと曲目を選んだんだ。結果は凄いものだったよ。だから・・・どうしてか判らないが、あれがリリースされなかったことには、もうすごくがっかりしたものだよ」
~みたいなことが書いてある。じっくりと人選したというだけあって、確かにメンツはいい。ロソリーノを支えたのはこの4人だ。
ハロルド・ランド(ts)
ルロイ・ヴィネガー(b)
ヴィクター・フェルドマン(p)
スタン・レヴィ(ds)
なんというか・・・ミュージシャンの相性みたいなものまで、しっかりと考え抜かれているようで、出てくるサウンドが実に「こなれて」いる。
ただ巧い、というだけでなく、品のあるまとまりの良さが感じられる。David Axelrod という名前は全く知らないが、この1958年当時に、
本当にいいアルバムを創ったものよ、と感心してしまう。

まず・・・B面1曲目の stardust これがもう実に素晴らしいのだ!
ピアノがきっかけの和音だけ出すと・・・いきなりヴァース(前奏)のメロディから吹き始める。ヴァースはピアノとのデュエットでルバート風。僕はもうこのヴァースからぶっ飛んだ。端正な輪郭のはっきりしたトロンボーンの音色で
名曲「スターダスト」のあのメロディを~「こうしかない!」」という風に吹き進む。ちょっとしたフェイク(メロディを軽く崩すこと)も抜群のセンスで、あくまでもこの曲の「格調高さ」を守りきっている。そして・・・ロソリーノのトロンボーンは「ぼお~っ」とは聞こえない。スピードの速いクルマのデザインが、箱型から流線型になって(結果として)きたような音色だ。丸みを保ちながら「キレ」がある。メカニックな美しさ、と言ってもいいかもしれない。僕は元来、どちらかというと・・・フラーやベニー・グリーンなど音の「太っい」(ぶっとい)朴訥型のボントロの方が好みだったはずなんだが、このstardust でのロソリーノには・・・何というか・・・彼の「ダンディさ」にすっかり参ってしまったのだ。

ヴァースが終わると・・・案外速いテンポできっちりとベース(ヴィネガー)がキッチリと2分音符をキープし始める。
1コーラス目はベースとドラムだけのバッキング。2コーラス目に入ると、ようやくピアノがバッキングに入ってくる。すると・・・ベースが2分音符を維持しながらも、ピアノのコンピング(和音をいろんなタイミングで弾きこむこと、というような意味合い)の具合からか、すぐにロソリーノが倍テンのノリに持ち込んでいく。ここからのロソリーノのフレイズの見事なこと。よく倍テンになると、勢い余ってフレイズやノリなんかもけっこういい加減になったりするのだが、ロソリーノは崩れない。全く崩れない!これこそ名手だ。本当に巧い。僕の好みでは・・・JJの巧さより、さらに温かみのある巧さ、と感じる。

58年録音だが、音質は相当いい(と思う) specialty は、たしかOJCレーベルの中にも含まれていたはずだ。 OJCはriverside,prestige,contemporary 以外にもこのspecialty や nocturn というマイナーなレーベルの音源も復刻しており、まだまだ他にも聴いてみたい音源がいっぱいあります。OJCを侮るべからず(笑)

このロソリーノの1枚~「トロンボーンのいいバラード」というテーマは、実はこのロソリーノ盤から思い立ったのです。それくらい好きなアルバムである。トロンボーンにはまだまだ名手、個性派がいっぱいだ。とても1回では終われないようだ(笑)
ジミー・クリーブランド、ベニー・グリーン、マシュー・ジー、
それからもちろん JJジョンソンも(笑)
大好きなのです。いずれまた何枚かを取り上げてみたい。

それにしても・・・ジャズには名演がいっぱいだあ!

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