いくつかの聴き比べを交えて「音楽」に浸った9時間。
推測だが・・・ジャズ好きという人種は「偏屈」である。もちろん、僕も例外ではなく、どちらかといえば狭い人間関係の下で生きている(笑) ところが、この3年ほどか・・・九州の新納さんの田園の中のレコード店~Ninonyno(ニーノニーノ)さんのBBS「こだわりの杜」に顔を出すようになって、そこでのやりとりを通じて、ジャズのお仲間が増えてきた。その後、このブログ<夢見るレコード>も始めて、さらに多くのジャズ好きの方と知り合うことができた。このごろでは、「杜」のお仲間と「ミニ杜」と称してオフ会的に集まったりもする。持ち寄ったレコードを聴いたり、しゃべったりしていると、本当に楽しい・・・そうして、判ったことがひとつある。「ジャズ好きはジャズ好きと語りたい」のである(笑) そして「オン/オフ」に係わらず、「語り合えるお仲間」がいるということは、素晴らしいことだ。
そんなお仲間のYoさんとは、たびたびジャズ話しのメールやり取りをしている。たいていは、最近入手して気に入ったレコードとか、逆にそうでもなかったもの、あるいは再発ものなどでも、やけに録音がいいと感じたものとか・・・そんなレコード話題である。レコードやミュージシャンに対する好み、あるいは録音に対する好み・評価などは、合ったり合わなかったりなのだが、そんなやり取りをしていると、「聴き比べてみたくなる盤」が、次々に浮上してくる(笑)
例えばこんな具合である。ある時、ラウズ~モンクのことから話しがグリフィン(リヴァーサイドの「ミステリオーソ」(nutty)に及んだ。
Yoさん~「モンクとやっているグリフィンは、緊張しているせいか大人しい」
bassclef~「いや、そんなこともない。いい感じでノッてるのでは」
お互いに「そうかなあ?」そして再聴してみるのだが、やはり意見は変わらない。それも伝える。またまた「う~ん・・・変だなあ」
その「ミステリオーソ」・・・双方の手持ちの盤は何なのかな?
う~ん・・・それじゃあ、ひょっとしたら録音の感じが違うかもしれんぞ(特にリヴァーサイドだから:笑)じゃあ、ぜひ聴き比べてみよう!・・・てな感じなのである。
Yoさん~Misterioso(riverside)黒・ステレオ《下の写真2点はYoさん提供》
《左写真:bassclef~Misterioso(riverside)青・小・モノラル》
この「ミステリオーソ」の聴き比べについては、すでにニーノニーノさんのBBS「こだわりの杜」に書き込みレポートをしたので、その書き込みを以下に再掲させていただきます。
モンク/ミステリオーソ(riverside)~
これは「モンクとのグリフィンはおとなしい感じ」というYoさんの印象~[ミステリオーソでは頼りなげに聴こえるんです。録音の所為かもしれません。モンクのピアノが強く明確に録られているので余計に音の小さなグリフィンがそのように聞こえるのかもしれません。ステレオだと左隅で小さくなって吹いているように聴こえます。(モノとステレオの違いも有るのかも?)]というYoさんと「いつものグリフィンだと思う」というbassclefのメールやりとりから、Yoさん手持ちの<黒・小・ステレオ>とbassclefの<青・小・モノラル>を、ぜひ比べてみよう!という経緯があったわけです。
曲はlet's cool one にした。この曲、途中でモンクらがバッキングを止めてしまい、完全にグリフィンのテナーだけになる辺りがスリリングだ。メロディがチャーミングで、モンク曲の中でも特に好きなのだ。
先に[黒・小・ステレオ]から~
聴き馴染んだあのメロディが始まる・・・ところが、グリフィンが左の方、それもかなり遠い。確かにYoさんの印象どおりで・・・・他の楽器とのバランスからいっても、かなり小さめだ。これは・・・「おとなしいグリフィン」になってしまっている(笑)これを聴いたのなら・・・たしかに「モンクに遠慮でもしているのか?」と感じてしまうだろう(笑)Yoさんに「う~ん・・・(なぜグリフィンが大人しい・緊張?と感じたのか)これで判った」と言う僕。Yoさん、ちょっとホッとしたような表情。
続いて[青・小・モノラル]~いきなりのピアノのイントロから音が元気だ。カッティングレベル自体もモノラルが高めにしてあるようだ。
そして・・・グリフィン。中央から太く、そして大きな音量バランスでテナーが鳴り始める。Yoさん「全然、違う!」さきほどホッとしたYoさん、今度は、モノラル盤の「粋のよさ」に、少々、悔しそう(笑)
どちらかというとステレオ派(特にライブ録音では)の僕でも、こうして続けて聴くと・・・この「ミステリオーソ」に関しては、モノラル盤の方が「音楽」が
楽しめる。う~ん・・・モノラルも悪くないなあ(笑)
それにしても解せないのが、この黒・ステレオ盤は、裏ジャケにray fowlerもクレジットされており、例の「変なステレオ3D図面」もある。
そして僕が聴いてきたステレオ盤(昔のポリドールの2枚組monk's world)でも、こんなに「遠いグリフィン」ではなかった。戻ってから聴いたファイブスポット未発表テイクでのグリフフィンも、中央やや左から、もっと大きなバランスで元気に鳴っていたのに・・・。この「黒・小・ステレオ盤」では、フォウラーが、意図的に、テナーを抑えたバランスでのミキシングをしたのかなあ・・・?当時のriversideは、ちょっと変則で、あるセッションなりライブの際、モノラル用の録音とステレオ用の録音を「同時に」やってしまったらしい。ミキシングで各楽器の位置、音量を「変えて」しまったのかもしれないし、録音の際の「マイクの位置取り」において・・・モノラル用の方にアドヴァンテージがあったのかもしれない(笑)
いずれにしても・・・モンクのファイブスポットは、本当にいいライブです。僕はもう大好きなレコードで、これでベースがアブダリマリクでなく(もちろん悪くないのですが)ウイルバー・ウエアだったらなあ(笑)と隣のkonkenさんに洩らした僕でした。
レコードというのは、普通は~普通でない場合ももちろんあるでしょうね(笑)~なかなか同じタイトルのものを何種類も集めない。しかし、そのレコードに「ラベル違い」があることが判っていて、しかもお互いの手持ちの中でそれらが揃ったとなると・・・これはやはりその「ラベル違い」で、どんな具合に音質が違うのか、あるいは違わないのか? そんなことを知りたい気持ちになるのも、レコード好きとしては無理からぬことだろう(笑)
さきほどの「グリフィン」と同じ経緯で浮上してきたここ最近の「聴き比べ候補盤」あるいは「お勧めの好録音盤」(ほんの一部)を以下に挙げてみる。
Lorindo Almeida/~Quartet(pacific:PJLP-7) 10インチ盤~[ラベルの艶:有り/無し]
Stan Getz/~Plays(clef:10インチ盤)と ~Plays(norgran:12インチ盤)と 同音源のEP盤(EP-755)
Oscar Peterson/We Get Requests(verve)~このレコードは、MGM-VERVEのT字ラベルなのだが・・・「モノラル溝あり」と「ステレオ溝あり」と「ステレオ溝なし」の3種あることが判ったので、それもぜひ聴き比べてみよう!とあいなった(笑)
(以下は、bassclefの思う好録音盤として)
Frank Rosolino/Free For All~[米specialty盤とセンチュリー国内盤]
Thelonious Monk/Blues Five Spot(milestone/ビクター)
Bill Evans/Time Remembered(milestone/ビクター)この2タイトルは共に
1982年頃発売されたriversideの未発表音源だ。
こんな具合に「聴きたい盤」が増えてくると、どうしても集まりたくなる(笑) そんなわけで半年振りにYoさん宅におじゃますることになり、今回はkonkenさんと2人で藤井寺に向かった。早めに出たのだが、関~伊賀辺りが事故渋滞で、そこを抜けるのに1時間以上もかかってしまった。トンネルの途中で止まってる時など~まだこの先、何時間待たされるかも判らないので~せっかちな僕は「チャンスは今日だけじゃない・・・」と、あきらめかけたりしたのだが、konkenさん「ここまできたら絶対に行く!」と力強い一言。じゃあ、ってんで、覚悟決めて、あれこれとジャズ話しなどして渋滞の苦痛を耐え忍ぶ二人。いいかげんイヤになってきた頃・・・天は我々を見捨てなかった(笑) 伊賀の「加太(かぶと)トンネル」を出ると、とたんに渋滞が消えたのだ。二人とも「やったあ!」 後はもう、飛ばすに飛ばす(笑)
そうして 11:30頃にはYoさん宅に到着できたのである。よしっ、これでまた「あの音」が聴けるぞ!
左側に手すりのついた、ちょっと急なこの階段を上り始めると・・・そういえば昨年の秋、この部屋に14人も集まったのだなあ・・・と懐かしいような気持ちになる。あの時は先に到着していたパラゴンさんが「ヴォーカル特集」を展開しており、階段の途中で漏れ聞こえてきたのは・・・キャロル・スローンだった。スローンのOut Of The Blue(columbia)からの・・・deep purple~イントロ部分での、弦を使ったちょっと不協和音のようなアレンジが特徴的なあの曲~が流れていたように記憶している。もっともこういう記憶は、後から自分の中で勝手に脳髄インプットされたりもするので、アテにはなりません(笑)
*10月の「大阪・神戸・秋の陣」会の模様は、拙ブログ記事に長々と書いてあります。こちらからどうぞ。
さて・・・今回の3人会は、ラウズ3連発から始まった。ラウズから始まり、そのまま「テナー特集」と化し、次に「聴き比べ」をやり、インストばかりではちょっと厭きるので、「ヴォーカル」や「ピアノトリオ」を混ぜ、再び「聴き比べ」。その後、ちょっとだけクラシック。それからアルトで、またヴォーカル・・・そんな感じで、実にいい按配に、次々と「音楽」が流れていった。ひとつの曲が終わると、短くその感想を言い合い、そして次にかけるレコードを取り出す・・・時間がどんどん経っているようでもあったが、3人とも休む素振りを見せない。そして・・・全く疲れない。まるで名手の吹く自然なアドリブのようではないか(笑)
Yoさんが最初にかけたのは、チャーリー・ラウズの Yeah!(epic) からyou don't know what love is。普通はバラードで演奏されることの多いyou don't know だが、ラウズは、あえて最初からベースがゆったりテンポの4ビートを刻むリズムを選んだようだ。そして、ペック・モリソンの強くギザギザしたような音色が、目の前のスピーカーから弾んだ瞬間・・・「ううっ。これは凄い!」と僕:bassclefは、 唸ってしまった。右隣に座ったkonkenさんも、やはり「うう・・」とスピーカーの方を見つめたままだ。
《上下の写真2点ともYoさん提供》
前回、レコードによっては響きが膨らみすぎる場合のあった、ウッドベースの音が見事に締まっているのだ。いや、充分に存在感を感じさせながら、わずかに引き締まった感じになっているようなのだ。ペック・モリソンという人の参加レコードはそれほど多くないと思うが、そのいくつかのレコードで、音の大きそうなガッツあるタイプのべーシストだとは感じていたが、正直に言うと、ここまでペックモリソンが「凄い」と感じたことはなかった。
「凄い」というのは・・・なんというか、ペック・モリソンというべーシストの「音が大きい」ことが判るだけでなく、その一音一音に込める気合やら、ベースで紡(つむ)ぐライン全体の迫力・・・そんなものまで「判って」しまったという意味なのだ。
いかにも音が大きそうで太くて重くて、ちょっとギザギザしたような独特なモリソンの音色。心持ち、弾むようなビート感が心地よい。彼の刻む4ビートが見事にゆったりと、しかし決して鈍重にはならずに「音楽」を支えている。それに乗っかって、ラウズのテナーが深く沈みこむような音色でもって、自分の唄を吹き進んでいく。それから、デイブ・ベイリーの重心の低いドラムス。
それらがしっくりと溶け合った実に感じのセッションではないか。たぶん「音色」の相性までもがよかったのだろう。Yeah!という作品は・・・本当に傑作と呼んでもいいだろう。
そういえば、ラウズのテナーも、このEpic盤:Yeah!では、実に魅力的な音で録られているように思う。前々回の<夢レコ>では、ラウズの音色を「深い」と表現したが、Yeah!でもやはり・・・深い。その深さにさらに落ち着きが増して、どっしりした重さも加わっているような感じなのだ。
そのラウズのテナーの音色が、面白いことに、同じ時期の2枚のEpic盤~[Yeah]と[We Paid Our Dues]とでは、微妙に違っていたのだ。レーベルが同じでも「同じ音」と決め付けてはいけないようだ(笑)
以下、その比較の印象を少しだけ。(jazzlandのTakin' Care~も参考として聴いてみた)
Yeahの方~深みと重み、それに渋みがブレンドされたような音色。豊かに響く。ラウズは元々、わりとサブトーンを使うので、音色の輪郭自体も丸みのある方だが、やや膨らみ気味かもしれない。だがしかし、僕はラウズに関しても、Yeahでの音色の方が好みのような気がする。
We Paidの方~(Yeahに比べると)音色自体もちょっと締まり気味で、サブトーンなどの響きの余韻を程よく抑えたような感じ。だから・・・ラウズが少しだけ知性的になったような感じがする(笑)
Takin' Care(jazzland) からpretty strange ~この盤では、再び「膨らみ気配」のテナーになった。サブトーンの余韻もやや強調気味か。もちろん悪い録音ではないのだが・・・2枚のEpic盤の~両者共にどうにも魅力的なテナーの音色だった~直後に聴いたこともあり、「あれ?」という感じがするくらい「普通」のテナーの音に聞こえてしまったことも事実だが、まあそれくらいYeah!の録音が素晴らしいということだろう(笑)
・・・・・ラウズ3連発を聴き終えると・・・このYeah!を初めて耳にしたらしいkonkenさんも「ラウズも、いいねえ」と嬉しそうだ。
ハロルド・ランドやテディ・エドワーズ、それからこのラウズ・・・独りでじっくりと吹かせると実にいい味を出すタイプだと思う。その手のテナーのちょっといいレコードも、この後でかかることになる。
さて・・・今回は、いきなりの「驚愕のベースサウンド」で始まったので、その後かけたいろんなレコードのそれぞれのべーシスト達の「音の印象」を少しまとめてみたい。
《We Paid Our Dues(epic)黄・モノラル。写真2点ともYoさん提供》
ラウズ2枚目のレコード~We Paid Our Dues(epic) からは、バラード:when sunny gets blueを聴いた。
~ラウズとセルダン・パウエルが3曲づつ分け合っての1枚。交互に1曲づつ配置されているとのこと。ラウズの3曲は以下。
When Sunny Gets Blues
Quarter Moon
I Should Care
2曲のスタンダードなど、とても趣味のいい選曲だと思う。気になるペック・モリソンの名が、なぜかパウエルの方のセッションに載っている(笑)》
この曲でのべーシストはレジー・ワークマンであった。(このレコードでの)ワークマンは・・・ベースの音色がもうちょっと下の方に伸びたような感じ。音色の説明はとても難しい(笑)そうだな・・・ビル・エヴァンスのExplorations(riverside)でのラファロのベース音に近い感じかな。ワークマンもラファロと同じく一音一音をグウ~ンと伸ばすビート感を持つ弾き手だ。このレコードでも「巧いべーシスト」の音色だったが・・・その音量はたぶんペックモリソンよりも小さい。そして、ラウズのテナーのもっさり感には・・・ペック・モリソンの方が「相性」がいいように感じた。
いずれにしても、さきほどのペック・モリソンとはおもしろいように「音」が違う。いや・・・「音が違うことが判る」のだ。そしてそれは、それぞれの奏者にそれぞれの「個性」がある~そんな当たり前のことを、もう理屈ではなく目の前の音から確認できるということなのだ。
2人のベース奏者を比べただけでも、こんな風に「個性の違い」が見えてくる・・・これは面白いですよ(笑)
もちろん演奏の良し悪しや録音の具合によって、その「表われ方」に微妙な差はあるかもしれないが、音量・音圧、そして音色、そんなその奏者の「真実」を、そこにあるスピーカー(の間の空間)から感じとることができるのだ。聴く方には面白いが、演奏者には「怖い」ことだろうなあ(笑)
ちなみに、サックスやピアノは違いが判るが、ベースやドラムだと判りにくい・・・とよく言われるかと思う。管楽器やピアノの場合だと、その主役の吹くテーマやアドリブを聴き込めば(そして身体で覚えてしまえば)音色やら(特徴的な)フレーズなどから、各奏者の違いを聴き分けやすいのかもしれない。その点、たしかにベースが主役のソロイストとして、メロディーを弾いたり、アドリブを弾きまくることは少ない。しかし・・・僕は、ベースやドラムスの場合でも全く同じだと思う。ベースならその(好きになった)べーシストの演奏(ライン)を意識して、ある程度まで聴き続ければ、終いには「その奏者」のクセを身体が覚えてしまいます。そうなれば何かのレコードをメンバーを知らずに聴いたとしても「あれ?この弾き方は・・・」てな感じで「その奏者」だと、判るようになったりします。(もちろん判りやすい奏者と、そうでない奏者がいますが)
そうして、そんな「耳」(意識)になってくると・・・オーディオの「素晴らしさ」そして「怖さ」は、よりいっそう増すのかもしれない。
ベースの音がいいねえ・・・という感想をkonkenさんと言い合っていると、Yoさんが次なるレコードを繰り出してきた。
ソニー・ロリンズ/A Night At The Village Vanguard(bluenote)~UAラベルだったかな?~から softly as in a morning sunrise をかける。
*訂正~このbluenote盤は<RVG刻印ありのリバティー・モノ盤>でした(Yoさんコメント参照)
強烈な引っ張り力でウッドベースという楽器を雄大に鳴らしているであろうウイルバー・ウエア。
そのベース音は、ガット弦の特徴でもある、音色のエッジが丸く膨らみながら低い方に伸びるような音色だと思う。そのウエアの大きな音像が、充分な膨らみを持ちつつ、切れ味ある鳴りっぷりだ。
この曲でのエルヴィンはブラシで通すが、時にアタックを効かせたエルヴィンのバスドラが、コンパクトにドシッ!ドシッ! とすっとんでくる。乾いたいいドラムスの音だ。この頃のエルヴィンは、まだまだ端正な感じだ(笑)
僕は、もちろんこの「ヴィレッジ・ヴァンガード」は大好きなレコードで、以前にも記事にしたのだが、実は、このライブ盤の音については、ちょっとひずみっぽい雑な録音だと思っていた。しかし、このリバティ・ラベル盤は、ドラムもべースも、そしてもちろんロリンズのテナーも、いい具合にすっきりした、そして実にいい音だった。
以前からYoさんの装置では、ベースがよく鳴る。充分すぎるほどの音量・音圧がベース好きの僕にはうれしくなるようなサウンドだった。ただそれがゆえにレコード(その録音バランス)によっては、どうしてもベースが出すぎ・膨らみすぎの感じもあって、Yoさんももちろんそれを自覚されており、今回は、その辺りも調整をしてきたらしい。どこをどうしたとかは、例によって尋ねもしなかったが・・・出てくる音~その低い方から中音・高音のバランスは~さらに「いい方」へ(少なくとも僕の耳には)変わっていたのだ。
「ベースの音色」で言うと・・・低い方での響きの輪郭の広がり具合が2割くらい締まってきて、そのことで、ベースのライン(弾いている音程)が、より鮮明になってきた。「ベースの抜け」がぐんとよくなったのだ。特にウイルバー・ウエアとかジョージ・デュビュビエらの「大きく太く鳴らす」タイプのベースラインが、見事に「抜けた」ように感じる。今、思うに・・・どうやらYoさんは、「ベース音像膨らみの絞り気味調整」~その仕上がり具合を、ベースにうるさい僕に聴いて(聴きとって)もらいたかったのかもしれない(笑)
そして、ベースの音色の輪郭がややスリムになったことで、さらによくなった(と僕が感じた)のは・・・ドラムスなのである。実はベースの低い方とドラムスのバスドラ(右足で踏む大きい太鼓。直径が一番大きいので「ドン!」と低く鳴る)は、実際の演奏においても、わりと「かぶり」やすいらしく、バスドラがドン、ドンと大きめな音量で鳴ると、その瞬間(バスドラの響きの余韻が残っている間)自分で弾いているベースの低音が聞き取りにくくなることがあるのだ。そのバスドラが、以前よりすっきりしてきたようだ。バスドラ、ベースの中低音~その辺りの景色が、霞(かすみ)が晴れたように、クリアに浮かび上がってきたのだ。
そしてなぜか、ハイハット(左足で踏む~シンバル横向きに上下2枚に合わさったやつ。「ッシャ!ッシャ!」と鳴る)の音も、前よりくっきりと感知できたのだ。いや、以前ももちろん聞こえてはいたが、今回聞いたハイハット・・・シンバルの厚みというか・・・重みのある「ッシャ!」になっているのだ。特に冒頭でかけた、Yeah!(ドラマー:デイブ・ベイリー)とこの辺りは僕の錯覚かもしれないが・・・低音域のややかぶり的な要素が取り払われたことで、もともと鳴っていた中高音辺りのハイハットも、より実在感のある「鳴り」として浮かび上がってきたのかもしれない。あるいは、この「ハイハット」については「弦の艶が出てきた」ことと~ちょっと前の「杜」に、そんなコメントがあった~関係があるのかもしれない。
いずれにしても・・・ベースが豊かな響きはそのままに、よりタイトに少しスリムに(このことで、僕などはベースの音色により色気みたいなものを感じた)、しかもドラムスの方もぐっと見晴らしがよくなり、バスドラ、ハイハットもくっきりと浮かび上がる! これは・・・リズムセクションの動き・具合までじっくりと聴きたいジャズ好きには・・・もうたまらなく魅力のある音だったのだ。
~「じゃあ次はちょっと新しいエルヴィンだあ!」とkonkenさんが取り出したのは・・・
Elvin Jones/ Polly Currents (bluenote)liberty から Mr. Jones。
《写真2点はkonkenさん提供》
これは1968年だったかの録音で、だいぶエルヴィンの音が荒々しくなっている。テナーが凄い。このレコードには2人のテナー奏者がクレジットされていた。ジョー・ファレルとジョージ・コールマンだ。僕はジョー・ファレルはけっこう好きなので、初期のメイナード・ファーガソン時代のルーレット盤なども聴いていているが、なかなかワイルドな凄いテナー吹きだと感じている。長いソロを取るテナーがジョー・ファレルだろう。どうやらこの曲ではファレルだけがソロをとっているようだ。
エルヴィンのドラムス・・・この頃の録音になると、先ほどの1957年録音のコンパクトに締まった音とは、だいぶん違う。まず全体にドラムス(正に複数形のドラムスでないと感じが出ない)の響き全体がバカでかい!(笑)
スネアやらバスドラが、いちいち「ドカン!」「ドカン!」と鳴り響いている。いいんだもう・・・何でも。エルヴィンなら・・・許す(笑)
3人で豪快な鳴りのエルヴィンを堪能しました。しかしこの時代のエルヴィン・バンドのべーシスト~ウイルバー・リトル~は大変だったろうな・・・。さすがにエルヴィンが大きく鳴らしている時には、その響きに隠れがちだったが、それでもあのうねり・あの響きの中で、きっちりと芯のある強い音色が強力にビートを刻んでいるウイルバー・リトルもいいべーシストだ。
ああ・・・今日はベースばかりに耳がいく(笑)いや、耳がいかなくても・・・勝手に身体にベースの音が入り込んでくるのだ(笑)もともとベース好きの僕には、このYoさんの装置は、もう実に極楽なのであった(笑)
さて・・・そろそろ「聴き比べ」をやらねばならんね(笑)とYoさんと僕はゲッツの盤を取り出した。
同じ音源で4種の盤が揃った。
Yoさん~ Stan Getz/Plays(clef:MGC-137) 10inch
Yoさん~ Stan Getz/The Artistry(clef:MGC-143) 10inch
bassclef~Stan Getz/Plays(norgran:MGN-1042) 12inch
bassclef~Stan Getz/~Quintet(clef:EP-155) 7inch
ちなみに「子供キス」のジャケットで有名なStan Getz Playsだが、もちろん10インチ盤の方が古い。
Plays(137)とartistry(143)~こちらの方が元々の「子供キス」ジャケなのだ~の2枚の10インチ盤が発売された何年か後になって、12インチ盤のStan Getz Plays(1042)が出たのだろう。10インチ盤には各8曲。12インチ盤には12曲(137の8曲+143のA面4曲) 収録してある。
このスタン・ゲッツの聴き比べは、少し前に、ニーノニーノさんのBBS「こだわりの杜」の書き込みから浮上してきた話題だった。以下にちょっとその模様を転載します。
No.15098
ハンドルネーム:Yo (2007.3.8,14:58:03)
皆さん、ご無沙汰です。
ひょいと見たら10インチと12インチの話ですね。大概は10インチが先かなと思うのですが、Dukeさん、ひとつ下記の3枚の順序を教えて欲しいのです。(乱入すみません。)
Stan Getz Plays (Clef MGC137):Dec.12'52
Artistry of Stan Getz (ClefMGC143):Dec.29'52&Apr.16'53
Stan Getz Plays (Norgran MGN1042):Dec12&29 '52
Norgran12インチ盤が10インチのClef盤2枚をカップリングしてある感じですが、52年12月のセッションだけでまとめてあるので、オリジナルがどうなのか知りたいのです。特にあの有名なジャケがNorgran盤とClef143と同じなのでどちらが先か知りたいです。よろしくお願いします。
No.15099
ハンドルネーム:Duke (2007.3.8,16:06:44)
Yoさん、お久しぶりです。Goldmine Jazz Album Price Guideとw. Bruynicckx著Modern Jazzz Discographyの両方で調べた結果、Clef MGC 137とMGC 143は1953年、Norgran MGN 1042は1955年となっています。NorgranのほうにはApr.16'53のセッションは入っていないようです。Yoさんのおっしゃるように「Norgran12インチ盤が10インチのClef盤2枚をカップリングしてある」ということになります。ご参考になれば。
No.15100
ハンドルネーム:Yo (2007.3.8,16:49:02)
Dukeさん、ありがとうございます。
あのゲッツがサックスを抱いて子供のキスを受けているジャケがどちらが先か気になったんです。そうですか Norgran1042は2年も後ですか?12月の早い2つのセッションをまとめてあるので、ひょっとしたらClef143が最後かなと思っていました。・・・良かった。Clef盤大事にします。(笑)・・・でもClef盤のゲッツの音が特別すごいとは思わないので、Norgran1042も聴いてみたいですね。
No.15101
ハンドルネーム:bassclef (2007.3.8,19:24:31)
Dukeさん、みなさん、こんばんわ。
10インチと12インチ・・・なにやら面白そうな気配が(笑)Yoさんが挙げられたゲッツの3種、やはり10インチ2枚が先ですか。「子供にキス」のジャケットは、10インチだと[plays]ではなくて、artistryの方なんですね。
>Norgran1042も聴いてみたいですね~
Yoさん、偶然にもそのNogran1042(12インチ)なら持ってました(笑)
以前「関西・杜の会」(Yoさん宅)でもちらっとかけてもらったゲッツのclef・EP盤(time on my handsやらbody & soulなど4曲入り)の音もかなりいいぞ、と思ってるのですが、Norgranの12インチ盤の方も、ゲッツのテナーの音は・・・かなりいいように感じました。もっとも僕の好みのゲッツが、52年頃なので、何を聴いても「よく」感じてしまうのかもしれませんが(笑)
またぜひ10インチと12インチとそれと7インチでbody & soulなど聞き比べてみたいですね。
~こんな具合で、この「ゲッツ・聴き比べ」は、僕自身もものすごく楽しみにしていたのである。1952年のゲッツ・・・僕はこの頃のゲッツがどうにも好きなのだ。どの曲においても、ゲッツがあのマイルドなテナーの音色で吹き始めると、フレーズがどうだとかなど考える間もなく・・・その曲は「ゲッツの唄」になってしまう。もう何をどう吹いても・・・ゲッツなのだ(笑)言わば・・・too marvelous for words(笑) とにかく素晴らしい。
さあ、その1952年のStan Getz Plays・・・かける順番をちょっと相談した。
やはり時代の新しい方からということで、僕の12インチ盤Playsからにした。どの曲も素晴らしいのだが、どうせならEP盤(4曲収録)にも入っている曲にしよう、ということで、time on my hands を選んだ。
1 Norgran盤~ミディアムテンポにノッたピアノのイントロが流れてくる・・・すぐにテーマを吹き始めるテナー。盤質がそれほどいいとは言えないので、多少チリパチが入るが、ゲッツのテナーの音色は・・・くっきりとして充分に鮮度感のある悪くない音だ。ただ、中高音をわずかに強めにしたような感じもあり・・・だから、この12インチ盤でのゲッツのテナーは、ちょっとだけ硬質な感じに聞こえなくもない。というのも、僕はこのtime on my handsを、12インチ盤よりも先にEP盤で聴き込んでいたので、そのEP盤に比べての話しである。
10inch Clef盤~これが「Plays」だよ、と言われると、一瞬、たじろぐが(笑)・・・このイラストのジャケットも、さすがにデビッド・ストーン・・・実にいい味わいだ。なかなかお目にかかれない一枚でもある。裏を見て嬉しくなる。というのは・・・この10インチの裏ジャケットの写真(黄色のゲッツ)が、僕のEP盤と同じ写真だったのだ!
《10インチ盤3点の写真はYoさん提供》
さあ・・・と同じ曲、time on my handsをかけてもらう。イントロでは、それほど大きな差は感じなかったが、 ゲッツのテナーが入ってくると・・・う~ん、やはりだいぶ違うぞ・・・先ほどの12インチの方がすっきり感のあるちょっと新しめの音とすると、10インチの方は落ち着いた感じで、ややこもった感じもあるが・・・その「こもり感」が心地いいのだ。 ゲッツのテナーが、よりソフトにマイルドに聞こえるのだ。 「ソフト」と言っても、音色がふやけたわけではない。テナーの音色の肌触りが「より木目細やか」になったと言えばいいのか。 そうしてその「マイルド」さは、僕が以前から知っているEP盤でのゲッツの音と同質なものだったのだ。音全体のイメージとしては「温かみと品がある」ということかもしれない。
7inch Clef盤~このEP-15 5は以前にも<夢レコ>に登場させたことがある。ここ、Yoさん宅の10月の集まりの時、第1部の最後にかけてもらった。その時、たしかDukeさんがこう言った・・・「いつものゲッツと違う!」僕の推測では、その「違う」は、よりソフトにキメ細やかに聞こえる、という意味だったのだと、今は思う。7インチ盤は一般に盤質が良くないことが多い。扱い方の問題なのか盤の材質の問題なのかは判らないが、僕のいくつかのEP盤にも盤質のいいものはほとんどない(笑)そして・・・ゲッツのこのEP-155は、うれしいことに、盤質が最高なのである。
このEP盤からの time on my hands は・・・音色の質感はやはり10インチ盤と同じ感じである。そして、もう少しだけテナーの音色に潤(うるお)いが増したようで、そのテナーの音色が、軽く「フワ~ッ」と浮かび上がってくるような感じでもある。う~ん・・・やっぱりこの45回転はいいなあ(笑)
《EP盤~EP-149とEP-155。10インチ盤:Playsの8曲が、この2枚のEPに、4曲づつ収録されている。同じセッションからの音源で型番も近いのに・・・なぜか155の方が音がいい。ゲッツのテナーが、滑らかでクリアなのだ。コンディションの差だけではないように思うのだが・・・不思議である》
もう1枚の10インチ盤~artistryの方からも何か聴こう、ということになり、かけた曲は、A面のthese foolish things。さきほどのPlaysの8曲は、52年12月12日の録音で、こちらのartistyのA面4曲は、12月29日である。録音日はとても近い・・・なのに録音の感じはちょっと違うようだ。Yoさんも僕も、この点については同じような印象を持ったようだ。つまり・・・artistryも、もちろん悪くないのだが、ゲッツのテナーの生々しさ~そんな「気配」のレベルでは、どうも12日の8曲の方が「いい録音」のようだね・・・というような話しをした。 《写真3点:Yoさん提供~この10インチ盤のartistryが、「子供キス」の初出自ジャケットである》
・・・と、まあ、こんな 具合で会は進んでいくのだった。まだほんの少ししかお伝えしていないが、このままではあまりに長くなりすぎる(笑) だから、とりあえずここまでを「その1」として、ひときりつけよう。いったい「その~いくつ」までいくのだろう(笑)
まだまだお伝えしたいレコードのことや、聴き比べの話しもある。
次回をお待ちください・・・。
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