<ジャズ雑感 第33回> 初期チェットベイカーの未発表音源のこと
たまにはCDのことも(笑)~見逃せない未発表音源もあるじゃないか。
相変わらずLPレコードばっかり聴いているのだが、久しぶりにCDを入手した。
Chet Baker/The Complete 1955 Holland Concerts(lonehill)
この数年、僕はCDをほとんど買ってない。試みに購入記録リストをチェックしてみると・・・
2012年は2枚(今回分)、2011年に1枚、2010年に3枚、2009年は2枚、2008年に2枚、2007年は4枚、2006年3枚、2005年12枚、2004年13枚、2003年28枚、2002年24枚・・・とこんな感じになる。これより以前の2000年前後くらいまではCDも年に30~40点は入手していたと思うが、月に10~15枚くらいは入手しているLPレコードに対して、CDは「ほんのたまに」状態である。
それでは僕はどんな場合にCDを買っているのか・・・自分の購入リストをチェックしていて、ほぼ以下のパターンしかないことが判った。
1.新発見の未発表音源もので興味ミュージシャンのもの (どうしても聴いてみたい!)
2.持ってないもので、うんと安いもの (もちろんLPレコードで欲しいけどオリジナル盤はどうせバカ高い。日本盤も案外、見つからない。そんな時、たまたま入ったお店で他に買うものがなかったりすると、この安いCDでガマンしておこうかな・・・となる。僕の場合、圧倒的に bluenoteレーベルものに多い(笑) bluenoteは一頃、日本盤LPでさえうんと高価だったので)
この理由だけが引っ掛かるわけで、1のような音源がそうそう見つかるものでもないし、2のように持ってないものでうんと安いものがそうそうあるわけでもない。だから・・・僕の場合、CDを入手する機会はうんと少ないのだ(笑)
さて・・・チェット・ベイカー。僕はチェットをかなり好きなのだが、どうやら彼の真のマニアというわけではないようだ。というのは・・・僕は彼の後期の作品をほとんど持っていないし、聴いてないからだ。僕がレコードを集め、そして聴いているのは、やはり彼の初期ものである。
チェットについては、この<夢レコ>で触れたこともあるが、僕はとにかく彼の「音色」に惹かれている。その音色から放たれる・・・妖気、香気みたいな感じにどうしようもなく惹かれるのだ。
思うに・・・音や音色のことというのは理屈じゃないのだ。音や音色というものは、何らかの理屈を持って分析した後に「判った」とか「凄い」と判断するようなものではなく、それがスピーカーから流れてきてそれを聴いた瞬間に、肌で「感じる」ものだと思う。
そう、正に「肌合い」の問題なのだ。それが自分の感性にピタッとくるのかこないのか・・・そういう種類のものだと思う。
そして僕の場合は、初期チェットの音色・フレーズに「肌が合う」・・・ということなのかと認識している。
そんな初期チェットのPacificの10インチ盤には、これはもうどうしようもなく魅力を感じている。それはもう変わらない。(笑)
ああ、またチェットの話しになってしまった。チェットの「音」については≪夢レコ~≪チェット・ベイカーのPacific盤≫をご覧ください。
7インチでも10インチでも12インチでも何でもいい(笑) とにかくレコード盤というものを大好きな僕だが、それだから「CDは聴かない」とまでは偏屈ではない(笑) そう・・・今回はCDの話しなのだ(笑)
ちょっと前に、チェット絡みの検索で、たまたまこれを見つけた。この「たまたま」というところがちょいと哀しい(笑) つまり・・・僕は普段から「未発表音源のCD」をくまなくチェックしているわけでもなく、興味の中心は常に過去の遺産(オリジナル盤)に向かっているわけで・・・でもそれも過ぎると「いい音源」を知らないまま」になってしまう。たまには「未発表音源の新発売CD」の情報もチェックしないとダメだぞ・・・という自戒を込めて、今回はこのCDを紹介してみたい。
Chet Baker with Dick Twardzik/The Complete 1955 Holland Concerts(lonehill) 2008年発売らしい?
えっ!1955年のチェット!しかもピアノにディック・ツアージックが入っている。これは聴いてみたいな・・・というわけである。このCDの音源は「1955年のオランダでのコンサート」ということで、クレジットによれば、1955年9月17日(5曲:アムステルダム)、9月18日(5曲:シュヴェニンゲン)、9月21日(2曲:ドイツ)でのライブ音源となっている。「チェット・イン・パリ」という仏Barcley発売のものが1955年10月のパリでの正式録音なので、その前にオランダにツアーしたのだろう。
≪下写真~このパンナム飛行機のタラップ場面・・・あのPacific盤に使われた写真と同じ場面での別ショットのようだ。この後、あの女性モデルが登場したのだろう(笑)≫
基本的に「未発表ライブ音源」というものには、音質面での過剰な期待をしてはならない(笑) でもこのオランダ音源は正式コンサートを、ちゃんとマイク立てて録ったようで、、ピアノやベースもしっかり聞えるし、時折、チェットのトランペットが若干オフ気味になるが、全体的にそれほど悪くはない。2曲だけ入っているドイツ音源の方は・・・オマケという感じで明らかに音質が良くない。
内容は・・・う~ん、やっぱり・・・最高とは言えないが(笑) ブックレットの写真が素晴らしいし、1955年のチェット・ベイカーのコンサートがどんな様子だったのか・・・それがとても興味深くて、僕はこのCD:73分を一気に聴き通すことができた。コンサートはチェットのMCから始まるのだが、これがちょいと面白い。というのは、チェットが「メンバーの訂正」をアナウンスするからである。
≪演奏を始める前にちょっと訂正したいことがあるのですが・・・プログラムでは、ピアノ~ラス・フリーマンとなってるけど、今日のピアノはディック・ツアージックです。それとベースも、ボブ・カーターではなくて、ジミー・ボンドです≫ みたいなことを言うのである。どちらのコンサートでも、同じように訂正アナウンスしているので、直前にメンバーが変わったことについて、ちょっとした拘りもあったのかもしれない。
演奏の方は~
tommyhawk を元気に始めて 次に indian summer をゆったりと・・・という進行だ。そして「歌入り」も、but not for me、my funny valentine(途中切れ)や someone to watch over meを混ぜており、チェットにも案外にサービス精神があるのだな・・・と但し・・・この日のチェットはどうやら、「歌」にはあまり気乗りしていなかったようだ。というのは、someone~では、メロディを変に崩し過ぎて進行がずれかけたり、また、but not for meでは、ベースソロの後にチェットが歌で入るのだが、それが明らかに遅れたタイミングで入ってしまうので、ベースやピアノが困っている様子が判る(笑)
それから、チェットは歌以外にもスローバラードとしてindian summer の他にも、I'm glad there is you や imagination を演っていて、チェットはやっぱり自分の「いい部分」を充分に判っていて、こうしたコンサートでも、好きなバラード曲を選んでいたのだ。
このCDには収録されてないが、ブックレット解説には、当時の英メロディーメイカー誌のコンサート評が引用されていて、それによると、my old flame もバラード曲としてレパートリーになっていたようだ。
しかし、チェットの深く沈みこんでいくようなバラードは・・・あの音色の微妙なニュアンスの味わいに醍醐味があるので、残念ながら広いコンサート会場では、チェット独自のトランペットの音色の存在感がもうひとつ生きてこないように思う。
そんなこんなで通して聴いてみると・・・このCDは、どうやらピアノのディック・ツアージックにも焦点を当てているのだな・・・とも思えてくる。そういえば、CDのタイトルもちゃんと「~with Dick Twardzik」となっているじゃないか。
このツアージックのピアノというのがとても変わっていて、普通にジャズっぽく巧い~といタイプではないのだが、なんとも形容しがたい「寂しさ」がピアノの響きの中から溢れてくる・・・そんな感じの個性のピアノ弾きかと思う。
スローテンポでの someone to watch over me~チェットの歌の後の間奏はツアージックが弾くのだが・・・これが何とも凄い。
いわゆる、ジャズの語法ではなくて・・・スローなテンポを、またあえてそのスローな気だるさを噛み締めていくような・・・しかし、このスタンダードソングのセンチメンタルで儚(はかな)げな感覚を、ツアージック流に表している・・・というそんな感じなのだ。なんだかクラシックのピアノコンチェルトの独奏部分を聴いているようでもあるのだが、そんなことはどうでもいい。音楽家が言葉では表せない「何か」を音で表現しようとする・・・というマインドにおいては、ジャズもクラシックもないはずなのだ。今、この音楽を聴いているその時、ディック・ツアージックというピアノ弾きの得がたい個性を味わえば、それでいいのだと思う。
でも、このピアノ・・・嫌いな人は嫌いだろうなあ(笑)
*ツアージックについては<夢レコ>2005年6月22日記事~<チェット・ベイカー・イン・パリ>でも触れております。ご覧ください。
ちなみに、ディック・ツアージックの唯一のリーダーアルバムとしては、Pacificの12インチ盤~A面:ツアージック、B面:ラス・フリーマン の「Trio」という作品がある。そちらのタイトルでは、Richard Twardzik と表記されている(Richardの愛称がDick)
さて、ここにもう1枚、チェット・ベイカーのライブ音源CDがある。それは~
Chet Baker/Boston 1954(uptown) というもので、ボストンのジャズクラブstoryvilleでの1954年ライブのFMラジオ放送音源である。
1955年オランダでのコンサート録音も貴重だったが、こちらは何と言っても1954年のチェット・ベイカーである。なにしろ1952~1954年くらいのチェットときたら、マリガンとのコンビ・自己のカルテットで、Pacificレーベルに次々と傑作を吹き込んでいた時期で、どの作品でも、この頃のチェットの音色は・・・絶品なのである。
加えてこの音源・・・「ジャズクラブでのライブ」なのだ。ジャズはやっぱり・・・狭いところが絶対にいい(笑)
そしてstoryvillieというクラブはライブ演奏を定例的にラジオ放送していたとのことで、だから音質も本当に素晴らしい。
言うことなしではないか(笑)
このCDには、1954年3月16日、1954年3月23日、1954年10月19日の3セットで57分収録されている。10月のセットだけは2曲10分しか入っていないが、3月のセットはどちらもも「MC~3曲~(MC)~2曲+closingテーマ1曲」という構成になっていて、どちらも約22~24分に収まっている。どうやらこのクラブでの演奏1セットは、おそらくラジオの放送時間に合わせての20分強だったようだ。
こちらのピアノはラス・フリーマン。チェットはもちろんのこと、この頃のフリーマンも素晴らしい。抑えの効いたタッチで弾き込む中音域中心の明るくなりすぎないフレーズが心地よい。そういえば、フリーマン自作曲で the wind という秀逸なバラード曲があるのだが(columbia盤with stringsに収録) 嬉しいことに、この「Boston 1954」CDでは2曲目にその the wind がされているのだ。
チェットはこの曲の紹介MCで、わざわざ≪この曲は最近、Columbiaレーベルで新作の12インチレコードのために録音したばかりなんだ。そのレコードは来週の発売だよ≫なんて宣伝している(笑) きっとチェットも大好きな曲だったんだろう。
もし初期チェットのライブ音源から何か1枚をお勧めするとしたら・・・僕は迷うことなく、このCD~Boston 1954(uptown)を選ぶ(1992年発売)
ちなみに、1のパターンで僕が入手したCDをいくつか挙げてみると~
モンク&コルトレーン/ファイブスポットのライブ(東芝)
*音質は最悪だが、1957年の燃えるようなコルトレーンを感じられる。
モンク&コルトレーン/カーネギーホールのライブ (mosaic)
*2005年発売。こちらは音質良好。モンクもコルトレーンも凄い。
ソニー・クラーク/Oakland 1955(uptown)
*音質がチェットのuptownに比べると悪い。初期のS.クラークもいい。
ハロルド・ランド/At The Cellar 1958」(lonehill)
*スコット・ラファロのベース音が(録音上)小さくて遠いのが残念。
ヴィクター・フェルドマン/ Latinsville(contemporary/fantasy)
*別テイク多数。S.ラファロのベース、やっぱり最高!
すぐに思いつくのはこんなところだ。これらはもちろん、僕:bassclefの興味・関心に引っ掛かったCDであり、だからもちろん「これを聴け」と言ってるわけではない・・・当たり前か(笑)
ジャズ好きのみなさんそれぞれ気になるミュージシャンが居るわけで、なんにしても・・・CDにも聴いておきたいものがいくつもある・・・ということだけは間違いない・・・・だからまだまだジャズは止められないぞ(笑)
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