<ジャズ雑感 第5回>熱いベース奏者たち(A面) ヘンリー・グライムス
音圧を聴く・・・いや、音圧を感じるウッドベース。
ジャズを聴くとき、たいていの場合、ウッドベースの動きに意識が向いてしまう。ウッドと言ったのは・・・エレベ(エレクトリック・ベース)の入ったジャズを、ほとんど聴かないからだ(笑) ジャズ聴きの最初から、そんな聴き方をしていたわけではないのだが、ウッドベースという楽器に魅せられてからは、まず「ベースを聴く」というのが、僕にとっては自然なことになってしまったようだ。ジャズを聴いていて、普通に「耳に入る」楽器は、やはり・・・その曲のテーマ(メロディー)を奏でるサックスやペット、それにピアノだろう。まず、彼らのテーマを聴き、それからアドリブを聴く。もちろん僕も、サックス奏者やピアノ弾き~彼らのテーマやアドリブを聴く。その「唄いっぷり」を聴きとろうとうする。いいアドリブには、う~ん、と唸る。でも、そういう「メロディー聴き」と同時に・・・その後ろで「なにやらうごめいている」ベーシストやドラムスの動きを聴きとりたい~彼らの「唄」も感じとりたい~と強く思うのだ。ウッドベースもドラムスも、主役を支えるリズム陣ではあるが・・・主役の背後で、ただ「さしさわりのない音」を出しているだけではなく、一個の人間(ミュージシャン)が、「何らかの意図を持って音を出している」はずなのだ。特にジャズでは!
音楽というのは・・・やはり、一種の「音響」でもあるわけで、特にウッドベースの低音の音圧やら、ドラムスのバスドラやハイハットの音というもの・・・ある意味、刺激的な「音響」というものは・・・少々でも「それを聴こう」と意識さえすれば~主メロディを聴きながらも「背後の音を聴こう」というような意識の持ち方に慣れてくれば~聴こうとしなくても「聞えてくる」ものだと思う。
ウッドベースの場合だと・・・弾き手によっての「音圧の強さ・弱さ」「ビート感の違い」「ベースラインの動き方」それからもちろん「音色の違い」などを、楽しめるようになってくる。こうして、いろんなベーシストの個性を知ってくると・・・例えば、知らないリーダー名義のレコードに遭遇した時でも、そこに知った名前のベーシストを見つければ~そのベーシストが自分の好みかどうかも加味して・・・そのレコードを購入するかどうかの判断ポイントとすることもできるのだ。ジャズのベーシスト像というと、一般的には・・・「バックに徹する」「目立たない(目立ってはいけない)」みたいなイメージが強いように思う。たしかにそういうタイプも多い。しかし、ジャズの世界には、いろんなベーシストがいる。それに、ベーシストというのは・・・案外に偏屈な人種である(笑) 一見おとなしく、バッキングをこなしているように見えても、実はその陰で~勝手に2拍3連でノリをためてみたり、ドラマーと示し合わせて2拍目に「ド~ン」と入れてみたり、ベースラインを低音域のあたりだけでさまよってみたり、高音域で遊んだり、さらに、ぐいッと音圧を上げたり、またはぐっと下げたり~などと、けっこういろんなことをやっていたりするのです(笑)
だから、ことさらベースを聞こう、などと思わなくても、そんな風なベース奏者の「主張」を、いやおうなしに「聴かされてしまう」ことも、けっこうあるものなのだ。そうして僕は、そんな個性の強い、いやアクの強いベーシストが好きだ。例えば・・・
ウイルバー・ウエア
ミンガス
ダグ・ワトキンス
ジョージ・ジョイナー
ジョージ・タッカー
ベン・タッカー
ヘンリー・グライムス
ジミー・ギャリスン
スコット・ラファロ
それから・・・アクが強い、という表現はちょっとあたらないかもしれないのだが・・・本当の意味で、これほど個性の強いガンコなベーシストはいないんじゃないか、と思えるこの人・・・レイ・ブラウン。
そんな僕の好みのベーシスト達。まだまだいるのだが、キリがない。これらのベーシスト、それぞれの「いい盤」を一挙にコメントしたい気もするのだが、やはりベースについては、僕の拘りの根っこなので、A面~?面として、ミュージシャンを絞って、その分ちょっと詳しく紹介していきたい。いつもクドくてすみません(笑)
今回は・・・ヘンリー・グライムスに絞って、話しを進めていきたい。
ヘンリー・グライムス。まず、その「音色」がすごい。きれいに弦が響く「ボムン・ボムン」というようないわゆるウッドベースの音色ではなく、「ベキン・べキン」と聞こえたりする。左手をガシッと押さえた上で、右手のひとさし指(あるいは中指も加えて)で、強靭に引っ張ったような音だ。おそらく強く引っかけすぎて、それでも強引に弦を弾ききってしまうから、こういう「ベキン」というような音色になるのだろう。多分、グライムスが最も影響を受けたであろう、ミンガスもおなじように「歪む音色」を出す人だ。私見だが・・・ミンガスは多分に意図的にそういう「サウンド」を出しているように思う。とにかくベースから引き出すパワーの量、というものが圧倒的に多い。さすがのグライムスも師匠のミンガスには、ちょっと負けてるかもしれない(笑) いずれにしても・・・ミンガスもグライムスも、普通にきれいに鳴らすタイプのベーシストとは、受ける感じがおそろしく違う。主張が強い。一音一音のピチカート音に「強さ」があり「アク」がある。そうしてこの人のベースソロには・・・深いソウルを感じる。
Gerry Mulligan/Reunion with Chet Baker(pacific)1958年
このレコードは、友人のkonken氏が、パシフィックのオリジナル盤を持っており、何度か聴かせてもらったが、やはり「凄い音」だった。管楽器もよかったが・・・とにかく、グライムスの、あの「ベキン・ベキン」のベース音が、リアルな感じで鳴ってました。(写真は konken氏提供。2ndかもしれない、との本人談あり)
僕の手持ち盤は・・・いや、盤じゃあないな(笑)・・・CD(米EMI)です。まあ、強いて言えば・・・元LPには8曲収録だが、このCDには、別テイクが大量に入っており、その分、グライムスのベースソロがふんだんに聴けるのが、まあ、ちょっとはうれしい(笑)
このレコードは、マリガン/ベイカー組み合わせの再開セッションだが、それにしても、このグループにグライムスとは・・・。かなりの違和感を覚える。音の方は・・・全体にあっさり流れるノリの中で、グライムスは、ハードにブンブンとベースをうならせて、すごくスイングしている。ソロもゴリゴリと強引に弾いている。マリガンとベイカーの「軽い音色」(好きなんですが)。その音色がスムースに流れるジャズには、普通は「差しさわりのない」タイプのベースを使うはずなんだが・・・。例えばモンティ・バドウイッグとか~それだと音楽が平板なものになる~とまで考えて、ちょっとアヴァンギャルドなヘンリー・グライムスという人を起用したのであれば・・・マリガンという人も、やはり凄い人だ。 それとも・・・このレコードの録音時に、たまたまグライムスしか空いてなかったのかもしれない(笑)
ジャズの4ビートでのノリのポイントは、1、2、3、4拍の、2拍目と4拍目にアクセントをもってくることだ。ドラムスのハイハットも、この2拍目と4拍目に(1)、「キュッ!」、(3)、「キュッ!」とハイハットの「小気味いい音」を入れるのだ。ちなみに、この2拍目・4拍目のアクセントのことをアフタービートと呼ぶ。
さて、このグライムス。この人のベースの弾き方は、異常に2拍目・4拍目が「強い」。そこまでやらなくても・・・と思うほど、2拍目・4拍目にアクセントを強調した4ビートの弾き方なのだ。
オーディオの世界で、「音の高低」(周波数)を測定するオシロスコープというのがあるらしいが、もしも「音圧」を計る測定器があったとして、ベースのランニングの「音圧」を測れたら・・・これはおもしろいだろうなあ。僕の言う「音圧」とは、「音量」とはちょっと違う。もちろん、音圧が上がれば(上げれば)おのずと音量も上がるだろうが・・・ここでの「音圧」というのは、ベースを弾く時の右手のピチカートする時の、「指のひっかけ具合とか引っぱり具合のパワーの強さ・弱さ」みたいなものを表現しようとした「音圧」のことです。
冒頭に、「ジャズの世界には・・・本当にいろんなベーシストがいる」と書いたが、これは~ランニングの音(選び取る音階)とかソロの唄い口(フレーズ)が違うというだけでなく~この平均的なピチカートの「音圧」が<低いタイプ>、<高いタイプ>のベーシストがいて、また、その基礎パワーの中で<安定音圧のタイプ>、<強弱が大きいタイプ>がある、というような意味なんです。
それにしても・・・ヘンリー・グライムス。この人の1拍目と2拍目(3拍目と4拍目)の「音圧の差」は、相当に凄いだろうなあ(笑) まあ「ダイナミックレンジが広い」とも言える(笑)
さて、そんな「ガンコ的アフタービート死守」派のベースソロは、だから時々4ビートのランニングだけ、というのもある。ランニングだけのソロ、一見、退屈に見えるかもしれないが・・・グライムスに限っては、このアクセントの強調やら音色のハード風味のおかげで、全く退屈などすることはない。まったく・・・世の中には、本当にいろんな人間がいるものだ(笑)だから・・・おもしろい。
あと何枚か、グライムスの参加しているレコードも紹介しておきます。
ロイ・へインズ/アウト・オブ・ジ・アフタヌーン(impulse) ローランド・カークも参加しており、どの曲も快演ぞろいだが、特に<Fly Me To The Moon>でのベースソロは・・・素晴らしい!
一応、トミフラのピアノも伴奏をつけてて、いわゆるフリーではないのだが・・・グライムスという人は、ベースのソロ部分では、あまり「イン・テンポのタイム感」を重視してないようで、精神はまさにフリーだ!なんというか・・・普通のFly Me To The Moonではない(笑) この曲の持つ「ほのかな哀愁」みたいなイメージを、思い切りダークにして、ぐちゃぐちゃにかき混ぜてしまったような・・・そうしてそれをベースという楽器から「搾り出したような音」なのだ。「黒い」イメージのある、インパクトの強いソロだと思う。
Henry Grimes/Henry Grimes Trio (ESP 1026)1965年
やはりグライムスは、地がフリーのミュージシャンなのだろう。グライムスに興味を持ち始めた頃、がんばって手に入れたのだが・・・ あんまり聴いてない(笑) ベースという楽器は・・・ある制約(例えば、4ビートというリズム)の下で、基本のバッキングをこなしながら、そのバッキングの中にどれだけおもしろいアイディアや主張をちりばめるか、あるいはベースソロにおいてどれだけ「フリーな感覚」を持ちこめられるか、というような部分に、聴いていてのおもしろさがあったりするのだ。だから、ベーシストのリーダーアルバムでベースソロが延々と続いたり、またはフリーイディオムで、ベースのモノローグ(独白)が始まると・・・たとえ器楽的には興味深くても・・・聴いていてあんまりおもしろくないのだ。(少なくとも僕には。だから、チェンバースのベース・オン・トップもあまり好みではない。同じブルーノートでも
「ポール・チェンバース・クインテット」の方が、ドナルド・バードやクリフォード・ジョーダン、それにエルヴィン!も入っており、聴いてても、うんと楽しい。ベースがテーマを弾く<ソフトリー~>にもチェンバースの気合が感じられる。やはり・・・これもエルヴィン効果なのか。)
マッコイ・タイナー/リーチング・フォース(impulse) 1963年 私見では、マッコイはこの頃が一番輝いていた。スタンダードのちょっと新らしめのモード的解釈やらオリジナルのモード曲と、マッコイ自身のピアノプレイが、うまくかみ合っており、聴いていてとにかく気持ちがいい。ドラムスもロイ・へインズで、あの乾いたスネア音とマッコイのクリアなタッチは、よく合っている。そして、ベースがグライムスである。58年の「リユニオン」の頃ほど、2拍目・4拍目のアクセントは強調されておらず、その分、全体に安定した「重い音」で鳴らしている。重い音と重いビート感のおかげで、「ひと味違う」ピアノトリオに仕上がっている。A面3曲目<Thema For Ernie>でのベースソロは~ガッツある音色をフルに鳴らして、ビート感を維持したまま、ちょっとだけハードボイルドな唄い口で弾き切っている~まったく素晴らしい。本当にいいベーシストである。
ソニー・ロリンズ/ロリンズ・ミーツ・ホウキンス(RCA Victor)
<Summer Time>のソロが好きだ。ハードな中に唄心を感じる。
ソニー・ロリンズの海賊盤~59年のストックホルムやら63年のドイツでのコンサートのライブ盤として何枚か出た~ロリンズとのトリオ編成の演奏は、どれもなかなかすごい。確信を持って4ビートを弾きこむグライムスのベースがトリオを引っ張っていく。ロリンズの大きなノリを、グライムスが支えたり、煽ったり、拮抗したりしている。これらの海賊盤の中では、1984年頃、正式?に dragonレーベルから出た Sonny Rollins Trio/St.Thomas in Stockholm(dragon)は、音質もまずまず。これは・・・1959年のライブだが、ロリンズのものすごくワイルドな面が出ている凄い演奏です。この盤は、少し後にDIW(ディスクユニオンのレーベル)からも出たように記憶している。
63年ライブ(unique盤)は、どの盤も音は相当に悪い。よほどのロリンズ好きかグライムスのマニア(そんな人おるんかいな?)
以外には、お勧めできません(笑)
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