Coral

2014年1月18日 (土)

<ジャズ雑感 第35回>ミルト・ヒントンというベース弾き

002 ≪写真~Bethlehem bcp 1020≫
ミルト・ヒントン。なんというか・・・真に重厚なベーシストである。そして、ウッドベースにおける伝統的4ビートジャズの体現者である。僕の想う「伝統的」とは・・・まず「ベース音のでかさ」である(笑)。ミルト・ヒントンのベース音は間違いなく「大きい」。それは録音されたベース音であっても、その「鳴り」~弾かれた音がベースの胴から廻りの空間に拡がる感じ・・・辺りの空気が振動する感じ~で判る。アタッチメント(マイク)が普及するよりもうんと前の時代のベース弾きには要求されたであろう「音の大きさ」・・・ヒントンは、その「大きな音」を余裕でクリアしていて、さらにその大きい音を、「太くて、丸い、輪郭の拡がる感じの音」(これがおそらくガット弦の特徴)で鳴らしている。これが・・・ウッドベース好きにとっては、実に魅力的なんです(笑) 
さきほどから「大きい、大きい」と叫んでいるのだが、これは・・・ウッドベースを生音で(マイクを使わずに)弾いた状態でも充分に「大きい」という意味であって、単に出来上がったレコードで聴ける状態で「ベースの音量が大きい」状態とは、ややニュアンスが違う。レコードでは「大きく」聴こえても、それが「生音で大きい音」とは限らない。このことは、ウッドベースという楽器の使われ方(マイク、弦高の高さ加減)にも関係してくるので、以下に少々、ベース談義を(笑)

Hinton_playing_a_contrabass_4 Milthinton2
≪ミルト・ヒントンの写真2点~見よ、この太い弦!(ガット弦)、そして弦高の高さ!右の写真でお判りのように、右手の指の腹を弦に深く当てて、なおかつ、指板の一番下の辺りで弾いている。全てはウッドベースから大きな音を生みだすための作法だ≫

~ちょっと乱暴な言い方だが、70年代以降、ほとんどのベーシストがアタッチメント型マイク(ウッドベースの駒に直接、貼り付けたり、はめ込んだりして音を拾う型のマイク)を使うようになって、その結果、1970年~1985年くらいまでの15年間くらいだったか・・・ほとんどのジャズレコードで聴かれるウッドベースの音が、「フニャフニャ」になってしまった。当時の代表的ベーシスト~エディ・ゴメスもロン・カーターもリチャード・デイビスもペデルセンもジョージ・ムラーツも~誰も彼も、アタッチメントマイクを使うようになって、そうすると、音をよく拾ってくれるので、(その結果)弦高を低くセッティングしたのだろうか・・・その時期のレコードで聴かれるベース音は、音量は大きくて、低い音もよくサスティーンされ(伸び)、音程(の良し悪しも)も聴き取りやすくなったのだが・・・それは空気を振動させた音色ではなくて、限りなくエレベ(電気ベース)に近い、電気的な音色になってしまったわけで・・・それは伝統的なウッドベース好きにとっては・・・致命的に「良くない」ことだったのだ。
ただ、そんな時代でも、例えば、レイ・ブラウンは「大きな生音」を維持していた。エリントンとのデュエット(1972年:パブロ録音)を聴けば、そのベース音の馬力、粘り、ビート感の強靭さに驚かずにはいられない。そうして・・・こういう「グルーヴ感」は、(私見では)ある程度、弦高を高くしてベース本体から発される生音を『空気中に響かせる』状態にしないと、生まれないものだと思う。
・・・このようなことは「ウッドベース好き」にとって、どうにも「気になること」かと思います。ですので、1970年代~80年代中期頃のウッドベースの音質が、それほど気にならない方は無視してください(笑) また前述の『ベース音のフニャフニャ傾向』も、ある時期に目立ったもので、その後は(私見では1990年くらいから)、マイク機器そのものが改良されたこともあって、アタッチメントマイクを使っていても、それほど電気っぽくない自然な聴きやすい音質に改善されてきたように思う。加えて、弦高も高めのセッティングにして、ウッドベース本来の力強い「ベース音」を発しているベーシストも増えてきているようだ。たとえば、クリスチャン・マクブライドのベース音は『ベース本体がよく鳴っている』感じが充分にあって、本当に素晴らしい。
ちなみに「生音が大きな鳴り」のベース弾きはミルト・ヒントンの他にも、もちろんいっぱい居るわけで、私見ですが、例えば~
ジョージ・デュビュビエ
ウイルバー・ウエア
チャールス・ミンガス
ジョージ・タッカー
エディ・ジョーンズ
などをこのタイプとして挙げたい。そして、このタイプのベース弾きは、たぶん、ガット弦(ウッドベースで使う弦の種類)を使っている・・・と、睨(にら)んでます。

さて・・・ここらで、話しをレコードに戻しましょう(笑)
ミルト・ヒントンのベツレヘム盤『Milt Hinton』1955年1月録音。
005_3 このベツレヘム盤・・・僕の手持ちは bcp1020なる番号表記である。(左の写真とこの記事の一番上) いろんな資料で調べてみると、この『ミルト・ヒントン』~(ディスコグラフィでは)まずは10インチ盤 BCP-1020番として発売された後、12インチ盤 DeluxシリーズのBCP-10番として発売されたことになっている。しかるに・・・今、僕の目の前にある12インチ盤『ミルト・ヒントン』は、bcp1020番なのだ。
「さあ、これ、いかに?」というわけで・・・ちょうど前回の<夢レコ>(スタン・リーヴィー記事)の追記としてこの話題にも触れたところ・・・M54さんから決定的なコメント情報が寄せられた。その情報から、僕はいろんなことを妄想した(笑) 
以下、M54さんとのコメントやりとりの一部を再掲しながら、氏が提供してくれた写真も載せて、ベツレヘム盤『ミルト・ヒントン』の12インチ盤2種存在の謎に迫ってみたいと思う。

M54さん~
≪ミルト・ヒントンは持ってますので確認」してみました。ふ~む、面白いですね。 僕のはbcp10 ですが、表の右上の表示はシルバーのシール貼りです。 bassさんの記事から想像するにこの下にはbcp1020が隠れているのではないかと! 裏面ですが、これも左右の上部角のレコードnoはBCP-10ですがこの10の後に黒く塗りつぶしてあるのです。 この塗りつぶしの下は20が隠れていると思います≫
Dscn0848 Dscn0846

≪上記写真2点はM54さん提供。まさに「シール貼り」と「マジック消し」だ。ジャケット裏のミュージシャンのパーソネルの箇所:clarinetのA.J. SCIACCA なる人物にTONY SCOTTとメモ書きしてある。相当なジャズマニアの所有レコードだったのだろう(笑)≫

bassclef~
≪う~ん・・・そうですよ、M54さん、その推測で、まず間違いない、と思いますよ。つまり・・・ベツレヘム社は、10インチ盤1020番と(たぶん)同じジャケットをそのまま使って、まずは、12インチ盤を造った。当然「そのまま」だから、この12インチ盤は表ジャケ・裏ジャケ ~とも1020番が表記されていた~(これが単純ミスなのか、確信犯なのかは判らないけど:笑)後からシールでも貼っておけばいいだろう~てなことで「BCP 10」のシールを表ジャケ右上のbcp1020の上に貼った! そして、裏ジャケットはシール代が嵩(かさ)むので(笑)黒マジックで、「BCP-1020」の1020という数字4ケタの下2ケタの20を消した! 54さん・・・そういうことでしょうね。シールの下には間違いなく「bcp1020」という番号が表記されていることでしょう。そのシールを剥がしてみて~とは言いませんから(笑)
12インチ盤が出来上がってから・・・「あ、10インチ番(1020)と同じ番号じゃ、まずいね」ってことで修正を図ったんでしょうね。それにしても「シール貼り」はともかく、黒マジックで消す~というのはなかなか大胆な作戦ですね(笑)

M54さん~
≪ジャケ裏の住所表示ですが、センターのみで Bethlehem Records,1650 Broadway, New York 19, N. Y. です。盤はフラットです。bassさんのもフラットではないですか?≫

bassclef~
≪はい、住所表記もまったく同じです。盤もフラットです。ということは・・・(便宜上、こう呼ぶが)僕のbcp1020番も、M54さんのBCP-10番も、おそらく、全く同一の(製作段階でも)ものでしょうね。ジャケットも中身の盤もまったく同じ12インチ盤~ミルトヒントン」ということになります。僕の手持ちは「シールなし」「マジック消してない」状態ですが、シールは剥がれ落ちたものかもしれません(笑) まあごく常識的に考えれば、ベツレヘムさん~1020番が10インチと12インチと同じだあ!というミスに気付くまで・・・ある程度、出荷してしまって、その後、「シール&マジック」で修正したものを出荷した~ということになるのかな≫
004

~というような事情です。
つまり・・・ここに実例として挙げた12インチ盤『Milt Hinton』は、異なる2種ではなく、製作段階では「まったく同じもの」だったと考えて間違いないと思います。その同じものを、比較的短い期間の内に、「シール貼り・黒マジック消し」で、「違う番号のもの」に見せかけただけであって、「もの」としてはまったく同一な商品であろうかというのが僕の結論です。
そして、この12インチ盤・・・実はもう1種、別のエディション(版)が存在しているかもしれません。これは以前にネットで見かけた記憶の話しなので確証はありません。それは・・・表ジャケットの色合いもセピア調とは違う感じだし(モノクロのように見えた)、何よりも表ジャケットの右上に「長方形ロゴ」が見えたのだ(そう記憶している) そしてその「長方形ロゴ」にはBCP-10と印刷されているように見えた。現物で確認できてないので、断定はできませんが、おそらく・・・「シール貼り」処理したbcp 1020ジャケットの在庫がなくなったので、新しく「長方形ロゴ&BCP-10」ジャケットを製作したのではないかなと推測できます。
*『ミルト・ヒントン』の「長方形ロゴ・BCP 10」をお持ちの方、ぜひコメント情報をお寄せください。

Bethlehem盤 『Milt Hinton』なるレコードの内容についても、少々、触れておきたい。
この初リーダー作はカルテット~ピアノにディック・カッツ、ドラムにオシー・ジョンソン、そしてクラリネットには、A.J.Sciacca なる聞き慣れない名前だが、このSciacca(ショッカと読むらしい)なる人・・・どうやらトニー・スコットの本名らしい。
ベース弾きのリーダー作ということで、ミルト・ヒントンは over the rainbow と these foolish things で、お得意の「ヒントン節」を披露しながら、全編、ベースでメロディを弾いている。トニー・スコットが抑えた感じでヒントンのベースに絡む these foolish things はなかなか聴き応えがある。

Photo_2 ああ・・・そういえば僕がミルト・ヒントンという人をいいなあ・・・と最初に感じたのは、あれは、ハル・マクージックのcoral盤『Jazz at the Academy』というレコードからであった。そのレコードでも、やはり over the rainbow を、ヒントンがベースでメロディを弾いているのだ。ギターのバリー・ガルブレイスとドラムのオシー・ジョンソンがごく控えめに伴奏している。これがとってもいいのだ! ヒントンという人が自分の好きな曲を、そのメロディを奏でるのが嬉しくて仕方ない・・・という感じがあって、サビ辺りからテンポがどんどん速くなったりする(笑) それでもその生き生きしたヒントンの「唄い」が本当に素晴らしい! 聴衆も固唾(かたず)を飲んで、このベース弾きの唄を聴き入っている様子なのだ。サビで盛り上がってきた辺りで誰かが「ぅおお~」と短い歓声を上げる・・・おおっ、この演奏、ライブ録音だったのか!そうしてメロディを唄い終えると・・・聴衆は一気に拍手・・・という over the rainbow なのである。
ちなみに、このcoral盤は、アルトのハル・マクージックの音色も素晴らしくて、もちろん、僕のマクージック愛聴盤である。ちなみに、at the Academy というタイトルではあるが、どうも拍手や歓声の入り方がワザとらしいトラックが多くて、どうやら全編がリアルなライブ録音ではないようだ。しかし・・・ヒントンが弾くover the rainbow だけは、何度聴いても、そこにリアルなライブ空気感が感じられるので、僕としては、これこそ、「ミルト・ヒントンの畢生(ひっせい)の傑作ライブ演奏」として記憶していたい(笑)

ミルト・ヒントンは2000年に亡くなっているが、1989年(ブランフォード・マルサリスのTrio Jeepy(2枚組)でも、生き生きしたビート感で、まったく衰えていないベース音を聴かせてくれる。この時、ミルト・ヒントンは79歳のはずで ある・・・まったく凄いベーシストがいたものだ。
ジャズは・・・ますます止められない(笑)

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2005年8月21日 (日)

<ジャズ雑感 第4回> The Birdland Stars On Tour (RCA victor)

つい揃えたくなるvol.1とvol.2~アル・コーンというテナー奏者。

50年代のジャズレコードには、vol.1、vol.2 というシリーズものが、けっこうあるようだ。たいていジャケが同じで色違い、あるいは似たデザインのジャケで一対になっていることが多い。僕は・・・このシリーズものに弱い(笑) オスカー・ピータースンのEP盤(Clef)など、色違いで5タイトルは、あるらしい。運よく(いや、悪くか)1枚でも入手したら・・・絶対に残りが欲しくなるようにできている。ずるいレコード会社め。(笑) そんなシリーズ物~揃いのものも不揃いのものも~気に入っているやつを、何枚か紹介したい。

Manny Albam/The Jazz Greats Of Our Time vol.1(coral)  これは、けっこう音がいい。8月1日の「ジョー・バートン」で書いたMCA幻のLP選集からも洩れていたはずだ。(後に紙ジャケCD化はされた)
Many Albamは、TV・映画でも有名なアレンジャーだ。この手のビッグ・スモールコンボ(あるいは・・・スモール・ビッグバンドというべきか:笑)は、いいソロイストが入っているかどうかがポイントだ。そして、この「~Our Time」は、パーソネルがいい。以下、7人の管奏者とピアノ・ベース・ドラムスのテンテットだ。050801
Gerry Mulligan
Al Cohn
Zoot Sims
Phil Woods
Bob Brookmeyer
Nick Travis
Art Farmer
なかなか粒揃いのミュージシャンばかりではないか。Coralは相当の予算をかけたのだろう。その証拠に・・・ジャケには12コマの写真~個々のミュージシャンの演奏中アップ写真(tpのニック・トラヴィス以外)~を配し、「ご覧のとおりの豪華なミュージシャンですよ」とアピールをしているのだ。実際・・・どの人のソロもいい。シムスはもちろんのこと、アル・コーンも全然負けてないし、またこういう場面でのフィル・ウッズというのは、これまたいいソロをとるのだ。張り切り具合がいい加減(ちょうどいい、という意味です:笑)に出るようだ。マニーアルバムという人を知らなかったとしても、このての盤は、パーソネルで中り(あた)をつければ、大丈夫です。好みのミュージシャンが、何人かでも入っていればいいのです(笑) 僕自身、アル・コーンを好きになってきたのは、まだこの7~8年くらいで、きっかけは・・・スタン・ゲッツも何かの盤で取り上げている<オー・ムーア>という素晴らしい曲の作者が、このアル・コーンと知って、それで、もうぐ~んと興味が湧いたのだ。枯れたような味わいの音色を持つ、いいテナーです。こういう職人的な味わいのミュージシャンを好きになると、もうこれは、ある意味、大変です(笑) こういうタイプの人は、サブで参加しているような渋い盤が、あまた存在するので、欲しい盤が一挙に拡がってしまうようです。

そのアル・コーンが大活躍する盤がある。 050801

The Birdland Stars On Tour (RCA victor)vol.1 LPM-1327 と vol.2 1328 である。パーソネルは・・・Al Cohn、 Conte Candoli、 Phil Woods、Kenny Durham(ジャケには、DorhamではなくDurhamと表記されている) John Simmons、 Kenny Clark、 Hank Jones。 この盤もいいメンツである。ず~っと欲しかったのだが、なかなか日本盤が出なかったはずだ。1年ほど前だったか、ようやく揃いで入手した。2枚とも、ジャケの左上には、「変な鳥がサックスを吹いているイラストとBirdland Series」というロゴが入っている。ジャケ右下のRCA Printed in USAのRCAの前にはCマーク(〇印で囲まれた)が付いている。レコード番号も連番になっているので、端(はな)から2枚分を発売する意図だったのかもしれない。1956年のライブの録音~モノラルということで、音質はそれほどいいとは感じないが、そんなことより演奏がいいのだ。アレンジの仕事が多そうなアル・コーンも、ここではソロをふんだんにとっており、ふくゆかなコーンの音色をたっぷりと味わえる。コンテ・カンドリやフィル・ウッズの張りのあるソロも聞かれる。この2枚は・・・機会があったら、ぜひ聴いてみて下さい。

さて、もう一対。こちらもRCA系だが、Vikレーベルから出た2枚だ。
Birdland Dream Band vol.1 (Vik) LX-1070
Birdland Dream Band vol.2 (Vik) LX-1077

DSCN0814 何年か前に、BMGから復刻LPで出たはずだ。これは、メイナード・ファーガスンのリーダーアルバムと言えるのかもしれない。というのは・・・正確に言うと、僕の手持ち盤の LX-1070の方には、「vol.1」と表記されてないのだが、1077の方には、Maynard Fergusonという名前と volume2 が表記されているのだ。よくあるケースだが、1070を発売したら、案外に好評だったんで、残りテープを集めて「vol.2」として発売したのかもしれない。その際、ファーガスン名義とした方がより売れるだろう、ということだったのでは、と思う。この2枚は、もちろん同じVikレーベルだが、微妙にジャケやセンターラベルの形式が違うのだ。共に、ジャケ右下に小さくRCA printed in USA とあるのだが、1070の方には、RCAのすぐ前に、「Cマーク」が付いている。そうして、1077(vol.2)の方には、RCAの前に何もない。センターラベルについても・・・Vikという字体、ラベル色などは、全く同一だが、LX-1070の方は、ラベルに印刷された同じレコード番号のすぐ下にA面(G4JP-7605)、B面(G4JP-7606)と表記されており、vol.2には、LX-1077という番号の下には何もない。 一般的に言って、CマークとかRマーク(なんらかの商標)が付くほど、時代が「新しい」はずだ。だから、僕の手持ち2枚は、1077(vol.2)のCマークなしが、オリジナルVikで、1070が、後年の再発Vikかもしれない。
この2枚は、完全にビッグバンドの編成で、vol.1の方は以下~
トランペット~4人(ファーガスン、ニック・トラヴィス、他2人)
トロンボーン~2人(ジミー・クリーブランド、エディ・バートかソニー・ルッソ)
サックス~4人(アル・コーン、バド・ジョンソン、ハーブ・ゲラー、アーニー・ウイルキンス)
これに、ハンク・ジョーンズ(p),ミルト・ヒントン(b)、ジミー・キャンベル(ds) というリズムだ。さすがに、ドリームバンドというだけのことはある。アレンジャーにもビル・ホルマン、マーティー・ペイチ、マニー・アルバムなど起用したようだ。バンドのサウンド・・・これはもう「張り切ったビッグ・バンド」だ。ファーガスンの「キンキン」の高音トランペットには、本能的にバンドメンを煽る(あお)機能があるみたい(笑)で、全体にすごくハイ・テンションな感じだ。だから・・・ところどころに出てくるトロンボーンの、ちょっと「緩い音色」~多分、ジミー・クリーブランド~や、テナーのアル・コーンのソロに、「ほ~っ」とするのは、僕だけだろうか(笑) でも、ファーガスン・・・たまに聴くとスカッとしますね。56年のこの頃からかなり有名だったわけで、ちょっと後の60年代初期のルーレット時代にも、とてもいいバンドを組んでいる。ファーガスンて、けっこうバンドのバランスを考えてるようで、サックスセクションにいいソロイストを配置してるようだ。ルーレット盤では、ジョー・ファレルが大活躍している。ああ、話しが脱線してきたぞ・・・このルーレット盤については、また別の機会に書きます。

さて、この「バードランド・ドリームバンド」。このバンド名からも、つい「バードランド」でのライブ録音かと勘違いしていたのだが、今、よくジャケ裏を見ると・・・「メイナード・ファーガスン指揮で、1956年9月7日、11日に、ウエブスターホール&スタジオ2で録音」と書かれているのだ! そういえば、拍手などどこにも聞かれない。それにしても、ジャケットの写真がバードランドでの演奏中のものなので、(あの「ステージ後ろのカーテン飾り」で、それと判る)ライブ盤だと錯覚してしまうのも無理はないなあ。ここでも・・・「ずるいレコード会社め」だ(笑) なお、vol.2は、56年9月24日、25日録音となっており、パーソネルも若干だが、変更している。

ちょっと余談だが・・・この頃のジャズのひとつのカテゴリーとして「東海岸の白人ジャズ」がある。この言葉は、僕の知る限り・・・ジャズ批評などにもたびたび登場する「吉岡祐介」という評論家が、言い始めた言葉(概念)のはずだ。イースト=黒人、ウエスト=白人 という単純な図式で語られることの多いジャズのスタイル(便宜上、分けるとき)に~いや、それだけじゃ無理だ。
実際には、「東海岸の白人ジャズ」みたいなカテゴリーが存在しているぞ~というような主張だったはずだ。(記憶が定かではないが、多分・・・ジャズ批評の「ウエストコースト・ジャズ」の特集号に掲載されていると思う)*[その後、吉岡氏ご本人からコメントを頂き、この記事はジャズ批評「ジャズ・50年代」に収録されているとのことです。興味の湧いた方はぜひ!]     どういうわけか・・・この「吉岡説」は、あまり広まらないようだが、僕はこの主張を全面的に支持したい。というのは・・・僕自身、昔はあまり興味のなかったハル・マクージックやアル・コーンらの演奏を、主にCoral系のレコードで、愛聴するようになってから、いわゆるウエストコーストとはちょっと肌合いの違うクールさ~ウエストものほど「カラッ」としてない~そんなものを意識し、またその雰囲気を嫌いじゃないぞ、ということを自覚してきた頃に、ちょうどこの「吉岡説」を読んだので、ピタリと合点がいったからなのだ。

先に「あるカテゴリー」のスタイルやら特徴を意識して聴くのではなく、偶然に聴いたレコードで、あるミュージシャンを意識し始め、その周辺を聴き込んでいったら・・・どうやらそれが「~と呼ばれるカテゴリー」だった、という流れでジャズを聴けること。僕はそれをとてもシアワセなことだと思う。カテゴリーというのは、便宜上、説明するのに、後付で考えた言葉(概念)であり、それ自体にとらわれて、「これは、~というカテゴリーだからいいんだ」なんてことはやはり・・・むなしい。やっぱり・・・まずは、「人」だと思う。ある「人」に興味を覚え、だからいろいろ聴いてみて、そうして「その人の個性」を好きになる(あるいは・・・嫌いになる)というようなことが、それを聴く本人にとって、意味があるのだ、と思う。(もちろん、どんなミュージシャンを好きになるかは、全く自由なわけだし) それにしても・・・ジャズの世界には、いろんな個性がある。ありすぎる(笑)  そして・・・やっぱりジャズは、やめられない。

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