Columbia

2019年12月31日 (火)

<ジャズ雑感 第41回> ヴィクター・フェルドマンという人

何十年もレコードを聴いていると『う~ん、何を聴こうかなあ・・・いいのが無いなあ』と、こんな風に積極的に聴きたいと思えるレコードが一向に浮かんでこない・・・無理やり何かを選んで聴いてみても・・・やはりイマイチ良くない。そんな経験が誰にもあるかと思う。そんな時、僕の場合は「困った時のマイルス」である(笑) 
つい先日も、そんな状況から選んだ「マイルスもの」は Seven Steps to Heaven(columbia)だった。そしてこのレコードを掛けてその音楽が流れてくると・・・目論見どおり、すぐに僕は幸せな気分になれたのである(笑) そしてこのレコードを聴くといつも・・・こう思う。
『ヴィクター・フェルドマンのピアノはいいなあ』と。
Miles-seven-3092

この作品はハリウッドとニューヨークでの2つの録音セッションから3曲づつ収録されていて、一般的には、ニューヨーク録音~ピアノにハービー・ハンコック、ドラムがトニー・ウイリアムスということもあって、その凄くかっこいい(ジャズのサウンドとしてスタイルが新しい)収録曲~seven steps to heaven, so near so far, joshua の方により人気があるかと思いう。まあ人気というより、この作品のシャープで現代的なイメージがこの3曲に象徴される感じか。そしてそのことに対して僕にもまったく異論はない。実際、この3曲は素晴らしいのである。何がどう素晴らしいか・・・ひとことで言うと、とにもかくにもトニーウイリアムスのドラミング(ドラムの叩き方)が凄いのだ。それまでとは明らかに違う、新しくてかっこいい叩き方なのだ! 
seven steps~での管が吹く『パっ!パっ!パっ!パッ!パ~パ~パッ!』というテーマ(メロディーというより、ぶち切るスタッカートだけの合わせ)の後の3小節のドラム・フィル(短いソロとも言える)を聴けば、なにかしらそれまでのドラムの乗り方と違う感じを受けるはずだ。
『スタタタッ・スタッ・スタッ・ッタ・ッ・ッ・タタッ!~』う~ん、凄い!かっこいい!こんな音、とても文字では表せません(笑)そして音楽の音というものは聴いて感じるものだと思うが、敢(あ)えて説明的に言えば・・・このかっこよさとは・・・4ビートの内に8ビートの感覚を混ぜてきた乗り、という感じかな。僕が思うに、これはなにも「新しい」から賞賛されているわけではなく、なんと言うか・・・このサウンドを耳にすると・・・とにかく気持ちいいからなのです(笑)
あ、いや、しかし今、僕が語りたいのはトニーのドラミングのことではなく、ヴィクター・フェルドマンのことであった。実は今、その斬新さを褒め上げてきた、この seven steps to heaven なる曲を創ったのが・・・ヴィクター・フェルドマン、その人なのです!2管が短く切る音だけで『パっ!パっ!パっ!パッ!パ~パ~パッ!』そしてその後の3小節を埋めるドラムソロ!その後、もう一度、パ~パ~パッ!+1小節ドラムがあって、今度はすうっと流れるようにビートを効かす8小節~これが「ぶち切ったような」提示テーマの後だけに、この流れるような感じが気持ちいい。そして再び「ぶち切りテーマ」に戻り1コーラスを終える。
う~ん・・・こんな曲の構成を思い付くとは・・・もうそれだけで、ヴィクター・フェルドマンという人は凄いじゃないか!

しかし、そのフェルドマン氏にとってアンラッキーと思えることがある。この秀逸な自作曲(seven steps~)を引っ提げてマイルスとの1963年4月のハリウッド・セッションに臨んだわけで、当然、この自作曲も録音されたはずなのだが、そのseven steps~は発表されなかったのである。
<追記~ところがその1963年4月録音フェルドマン入り seven steps to heaven の音源・・・
録音から41年後の2004年に発表されていたのである。下の青文字・追記2ご参照下さい>
Dscn3093

発売されたLPに採用されたのは、1か月後の1963年5月に録音された前述のニューヨーク録音の seven steps to heaven だったのである。ちなみにその3曲の中の so near so far については4月のハリウッド録音の同じ曲が Directionsという2枚組で発表されている。この so near so far の2つのテイクの違い・・・これは実に興味深いです。12/8リズム(1拍3連を4回続けるようなリズム)に乗せて圧倒的にモダンなNYC録音の so near so far。これに対し、後年に発表された Directions 収録の so near so far は、ちょっと速め
テンポのわりと普通の4ビートなのである。しかし・・・これも悪くない(笑)

*追記1~ニューヨーク録音3曲の残りの1曲、Joshua もヴィクター・フェルドマン作曲でした。こちらも、もしもハリウッド録音が残っているのならば、ぜひ聴いてみたい(笑)
*追記1’~この Joshua にもハリウッド録音が在りました! フェルドマン絡みでメールやりとりをしていたsige君が知らせてくれました。
下記のマイルス7CDに収録されているようです。you tube音源のアドレスはこちら~
https://www.youtube.com/watch?v=CHWetvUQU1Q&feature=youtu.be
 

*追記2~ところが!そのフェルドマン入り(4月ハリウッド録音)の seven steps to heaven が残っていたのである! ひょっとしたら・・・という気持ちで色々と検索していたら見つかりました。
Miles Davis/Seven Steps:The Complete Columbia Recordings of Miles Davis 1963-1964(2004年・CD7枚組) というタイトルで発売されていて、1963年4月17日・ハリウッド録音として、seven steps to heavenの2つのテイクが収録されているようです。念のためyou tubeでも検索してみたら、その問題の2テイクの音源が載ってました。
p~フェルドマン、ds~フランク・バトラーです。興味のある方、ぜひ聴いてみてください。上がtake5、下がtake3です。
https://www.youtube.com/watch?v=UZKArpIsbBk&list=RDUZKArpIsbBk&start_radio=1 
https://www.youtube.com/watch?v=UH-jOzeeRg0

僕は・・・さっそく(笑)その seven steps to heaven、2テイクとも聴いてみました(クレジットではtake5、take3となっている)以下、私的な感想~
NYC録音(トニー、ハンコック入り)と比べると、テンポがやや遅めになっているが、テーマ部分のベース、ピアノ、2管の合わせはほとんど同じ。ただソロ順が違って、テーマの後、先にジョージ・コールマンのソロ、それからマイルスのソロとなっている。そしてフェルドマンのソロ・・・これ、作曲者だけあって・・・まったく素晴らしいです!その後、ピアノソロか合わせなのか、やや曖昧なままドラムと若干の絡みがあって、ラストのテーマに戻る。ソロの間の合わせの部分に若干の綻び(ほころび)があるかもしれないが、もちろん充分にかっこいい演奏である。フェルドマンのピアノのテーマ合わせ・ソロに拙い点は全くない。フランク・バトラーだってまったく悪くない。「乗り」の基本が4ビートというだけで、それはその時点では当たり前のことだったわけで、全体的にブラシを多用したセンスのいい、充分にかっこいいドラミングなのである。しかも!僕が seven steps to heavenの演奏で最も印象に残っている1か所~それは演奏の最後の最後・・・トニーが短いロールを入れてそれをクレシェンド、デクレシェンドさせて、すうっ!と終わるあの場面・・・あの秀逸なドラムの演出・・・あの部分をバトラーがこのNYCよりも1か月前の演奏で、すでにやっているのである!アレは・・・果たしてマイルスのアイディアなのか、あるいはバトラーがハッと思い付いてやったのか・・・? いずれにしても、NYCセッションでのトニーのあのエンディング部分での「ロール」は自己のアイディアではなかった・・・ということになる。そんなわけで・・・フェルドマン作曲の seven stepsにはハリウッド録音も存在したが、なぜか発売
されたのはNYC録音テイクになってしまった。そうなった理由は、決してフェルドマンやバトラーの演奏の出来が悪かった~ということではなく、トニーのドラミングがあまりにも革新的で凄すぎたからなのだ!そして常に新しいかっこいいスタイルを目指すマイルスが、この「新しいノリ/新しいサウンド」を獲得してしまったのだ・・・マイルス(CBS側)にしてみたら、この新作レコードはマイルスの新バンド~トニー、ハンコックの入った)のいいプロモーションにもなるし、フェルドマンには申し訳ないが(作曲のクレジットは入っているので著作権料がフェルドマンに入るからいいだろう・・・)ここはNYCセッションのテイクでいこう!・・・そんなところだったのではないだろうか?

そして・・・Joshua のハリウッド録音テイクも、テーマ部分、2管のハーモニー、ピアノのコンピング(和音での伴奏)など 正式発売されたNYCテイク と同じ。やはりフェルドマン自作曲においてはきっちりとその型が完成されていたのだ。ただ、seven~同様に、NYCテイクよりもやや遅めのテンポでゆったりした感じにはなっている。だがその分、マイルス、ジョージ・コールマンのソロは、余裕をもってじっくりフレーズを展開させていて・・・なんだかこちらのテイクの方が味わい深い。

*追記3~未発表音源を集めた2枚組 Directions は1981年に発売された(日本盤はサークル・イン・ザ・ラウンドというタイトルで発売されている)

傑作自作曲が自分の演奏したテイクで発表されなかったこと・・・このことがフェルドマン氏にとって不幸なことだったかどうかは微妙な問題なので置いといて~マイルスからのバンド参加の要請を、フェルドマンが丁重に断った、ということらしい~まずは「フェルドマンのピアノ」について語りたい。ここで、僕が聴くたびに『いいなあ・・・』と感じるロスアンゼルス(ハリウッド)録音について触れておかねばなるまい。
basin street blues,
I fall in love too easily,
baby won't you please come home 
~これら3曲である。
先に言ってしまうと・・・この3曲がバラード(ゆっくりしたテンポの静かめな演奏)ばかりでどれも絶品なのだ。マイルスのバラードの巧さは、これはもう誰が聴いても素晴らしい!と感じるだろう・・・いや、ものごとにはすべて好みの違いという側面があるから、オレはマイルスのバラードは嫌いだ!という方もいるでしょう。だからもちろん僕の好みでの話し~ということでご理解してもらって(笑)、僕はそういえばジャズ聴きの初期からマイルスのラウンドミッドナイトやマクリーンのレフトアローンを聴いて好きになったので、まあ抒情的なバラードが元々、自分の好みだったということかと思う。
そんな風だから、マイルスのこの<Seven Steps to Heaven>を聴いて バラードで演奏された I fall in love too easily  をすぐに好きになった。後にシナトラの歌を聴いてこの曲をもっと好きになった(笑)そして他の2曲も聴けば聴くほどに心に染み入ってくるわけである。
A面1曲目は basin street blues は、うんと古い曲のはずだが、ものすごくゆっくりしたテンポの、なんとういうか・・・マイルス・マジックによって、かっこいいブルージーでモダンなバラードに仕上げられている。
テーマのメロディーはタイトルどおりブルースっぽい感じか。そのメロディーをマイルスは、止まりそうなゆっくりテンポの下、ミュート・トランペットから生み出す厚みと深みのある音色、そして息の長いフレーズでこの曲の物語を綴る。その妙をじっくりと味わうと、次は
フェルドマンのピアノだ。
フェルドマンのソロ(アドリブ)終始「歌って」いると思う。その時の音楽がごく自然に流れるように歌おうとしているように感じる。右手のシングルトーンは、慌てることのない溜め気味の乗りで、決して弾きすぎることなく、気の利いたいいフレーズ(メロディー)を繰り出してくる・・・そこに左手でスタカート気味のコード(和音)を差し込んでくるのだが~この辺、ちょっとウイントン・ケリーに似ている(笑)~それを右手のフレーズのリズムと合わせるような弾き方に変化させつつ、徐々に盛り上げてくる・・・そんな感じだ。そうしてそれらは基本的に、静かな中での盛り上げ方であって、なんというか・・・誠に品がよくて情緒がある。だから僕はフェルドマンの、バッキングやソロを聴いていると、いつも『う~ん・・・いいピアノだなあ・・・』と感じてしまうわけだ(笑)
Dscn3087

そしてもうひとつ、とても大事なことがあって、それは録音の質感である。CBSの録音は丸みがあってそれも僕の好みなのだが、特にこのハリウッド録音3曲には、どの楽器の音にも、しっとりした仄(ほの)かに温かみのあるような質感があって、なんというかそれがマイルスのミュート付けたトランペットや、それからこのフェルドマンのピアノの優し気なタッチ、品の良さと似合っている。
さて、
フェルドマンのリーダー作は幾つかあるのだが、イギリス時代のヴィブラフォン中心のものとか、映画にリンクした企画ものなどが多くて、フェルドマンの情緒感のあるピアノをじっくり味わえる作品が案外に見つからない。いや、ひとつ、いいのが在った。

riverside の Merry Olde Soulというレコードである。これ、最初はOJC盤で聴いてその録音・収録曲、そしてもちろん演奏の良さ・・・つまり全面的に素晴らしい内容に驚いた。
(2009年7月「リヴァーサイドの不思議」2人のエンジニア~Jack HigginsとRay Fowler という記事を書きました。ここからどうぞ)
その Merry Olde Soul~2年ほど前にようやく黒ラベルのステレオ盤を入手した。このレコードは1961年1月の録音でエンジニアはレイ・フォーラー。録音が良い、というのはピアノの音にしっとり感があって、それから特にサム・ジョーンズのベースの音が素晴らしいからだ。サム・ジョーンズは僕も好きなベース弾きだけど、録音(作品)によって、やけにペンペンと薄い音に聞こえたりすることがあって(レッド・ガーランドとの盤など)それが残念なのだが、この Merry Olde Soul のベース音は、全体に音圧感が高めで、切れの良さに加えて適度に厚みもあって、とってもいい! そう、ブルー・ミッチェルの『ブルー・ムーズ』でのサム・ジョーンズの音色とほぼ同質と言えそうだ(ブルー・ムーズのエンジニアもやはりレイ・フォーラー)
この中に特に好きな1曲がある。
Dscn3089

A面3曲目の serenity という曲である。ちょっとクラシックっぽい格調高い甘い曲調かもしれないが、僕はこの曲(とその演奏)がどうにも好きなのである。ちなみにserenityという単語を辞書で引いてみると・・・うららかさ、静穏、平静というような意味とのこと。この曲・・・正にそのタイトルどおり、清らかさを感じるような静かなバラードだが、曲の最後の方では、この静かなる男が控えめに、しかし、じわ~っと盛り上げてくる。両手をフルに使ってトリルというのか、たくさんの音を途切れないように連続してくる感じで、それをクレシェンド(だんだん強くする)させてくるのだ。しかしそのクレシェンドは案外に短めで、決してくどくはない。このserenity・・・フェルドマンという人の核心が表れたような曲、演奏だと思う。きっとフェルドマン自身も充分に満足したはずだ。そう確信できるほどに、このレコード・ジャケットのフェルドマンは素晴らしい笑顔を見せてくれている(笑)
Dscn3090_20230101104401




| | | コメント (18)

2010年7月 4日 (日)

<ジャズ回想 第23回>雨降りの1日は、レコード三昧だった。

~United Artistsというレーベルを巡って~

久しぶりに藤井寺のYoさん宅でのレコード聴きをすることになった。今回は4月白馬の集まりに参加できなかったリキさんと僕(bassclef)のために、Yoさんが声を掛けてくれたのだ。集まったのは、愛知からリキさん・konkenさん・僕。関西からdenpouさん、PaPaさん、Bowieさん。Yoさんを入れて7人となった。

午前中から夕方まで約8時間・・・皆であれこれと聴きまくったわけだが、今回はクラッシクから始まった。
Vx25_j_2 まずはYoさんから、シュタルケルのチェロ独奏。コダーイの曲を鋭く弾き込むシュタルケルのチェロ。その中低音が豊かに捉えれた、しかもエッジの効いた好録音。ジャケットを見るとこれがなんと1970年頃の日本でのレコーディング。つまりこの日本ビクター盤がオリジナルなのだ。Vx25_lシュタルケルのチェロをYoさんはディグ(探求)しているようで、そういえば2~3年前の白馬でも、シュタルケルの日本での実況録音盤~バッハだったか?~をセレクトしていた。この人のチェロは、強くて毅然としており、曖昧なところがない・・・そんな感じだ。 《シュタルケルの写真2点~Yoさん提供》
それから、ムターなる女流 ヴァイオリニスト~言わずもがなの「美人」~の2種(共にグラモフォン音源)に話題が。ムターについては、おそらく事前にリキさんとBowieさんが音源セレクトを相談したのかな。
カラヤン指揮(1988年)
~クラシック不慣れな僕らのためにお2人が気をつかってくれたのだろう(笑)・・・曲は「チャイコフスキーのヴィイオリン協奏曲」冒頭から少し経過すると飛び出てくる印象的なメロディ・・・ああ、この曲なら僕でも知っている(笑) 1988年のデジタル録音ということもあってか、ムターのヴァイオリンだけでなくバックのオーケストラまでクリアに聞こえる。
次に同じ曲の70年代もの(グラモフォン音源)Bowieさんのセレクト。こちらはアナログ録音だがバックのオケの音圧感がより豊かで肉厚な感じがする。これも良い録音だ。こちらのヴァイオリンはミルシュタインだったか。指揮はアヴァド。アヴァドという人・・・曲の終盤になると劇的に盛り上げる感じがいつもあって(たぶん)僕はなぜだか嫌いではない。そんなシンプルな躍動感みたいなものがカラヤン盤よりも濃厚に感じられて、この協奏曲は僕にも充分に楽しめました。
ムター繋がりでリキさんからもう1枚~
「これは・・・珍盤の一種かも」というリキさんが取り出したのは、立派の箱入りのLP2枚組。タイトルは「Carmen-Fantasie」(今、調べたら録音は1992年。正規品はもちろんCDであろう)ジャケット写真は・・・ヴィオリンを弾いているムターの立ち姿。正規CDと同じデザインだと思うが・・・このムター、ちょっと色っぽい。
掛けたのは「チゴイネルワイゼン」
曲の出だしからちょっと大げさな感じのするあのメロディ(好きな方、sorryです) これはグラモフォン音源のはずだが、センターラベルは白っぽくてデザインも違う。ラベルには小さい文字でmade in Japanと入ってはいるが、解説書の類(たぐい)は一切ない。聴いてみると・・・音からするとちゃんとした音源のようだとYoさんが言う。臨時に版権をとった記念のLPセットのようなものだろう・・・という意見も出たが、いずれにしても、所有者のリキさんでさえ、その出自を知らない「謎のムターLP2枚組」である。
ムター好きを隠さないYoさんが「欲しい・・・」とつぶやくと、ダジャレ好きなPaPaさんは「そんなごムターな・・・」などと言ってる(笑)

こういう音聴き会では、各人のお勧め盤を順番に聴いていくわけだが~そうすると、当然、各人の趣味嗜好が様々なので、厭きない流れになるというわけだ。実際の順番どおりではないが、ここで皆さんのお勧め盤をいくつか紹介したい。

Yoさん~今回は実は<UAレーベル>というのが隠れ主題になっていて(と勝手に解釈していた僕) それもあってか、そろそろ・・・という感じでYoさんが1枚のUA盤を取り出した。
Uas_5034_j_2 《リトルの写真4点~Yoさん提供》 Booker Little/~+4(united artists)ステレオ盤青ラベル 
この渋いUA盤からYoさんが選んだのは moonlight becomes you。スタンダード曲である。リトルはうんとスローなバラードで吹いている。
ラファロと共演のTime盤にもひとつスローものがあったと思うが、このUA盤(Booker Little +4)にもこんなに素敵なスローバラードmoonlight becomes you が入っていたのか。Uas_5034_lところが・・・僕はこの「ブッカーリトル・プラス4」~国内盤さえ持ってない。リトルがリーダーなのだから、ローチのことは気にせず聴くべきレコードだったのだな・・・などとモゴモゴ弁解する僕(笑)そういえば、Yoさんもマックスローチ苦手絡みということもあり、このUA盤の入手は他のUA盤に比べれば遅かったらしい。リトルという人・・・スパッと抜けのいい音色にも特徴があるが、丁寧にじっくりとメロディを吹くその誠実感・・・みたいなBcp_6061_j 味わいが実にいいのだ。 
Booker Little/~& Friends(bethlehem) if I should loes you
こういう音聴き会ではいつもちょっとした偶然がある。この日、konkenさん・リキさんとクルマで藤井寺へ来たわけだが、車中ではたいていiPODをシャッフルで掛けている。音源は konkenさんCDなのだが、ジャズ、ロック、ヴォーカルがごちゃ混ぜで入っているので、この3~4時間がけっこう厭きない。四日市の辺りで、トランペットが深々と吹く聴いたことのあるメロディが流れてきた。このメロディは・・・知っている。そうだ、if I should lose youだ。BGM的に流してはいても、気になる音(音楽)が掛かるとと、iPODの真ん中辺りを押してデータを表示したくなる。「ああ・・・ブッカーリトルかあ」と納得。
そんな場面があったことをYoさんに告げると、ちょっと嬉しそうなYoさんは続けてリトルのbethlehem盤を取り出して、if I should lose you をセレクトした。うん・・・いい。「やっぱりiPODで聴くよりいいな」と僕が言うとkonkenさん、ひと言「当たり前じゃん」Bcp_6061_l
どちらの演奏も、本当にスローなバラードである。一拍をカウントしてみると明らかに1秒より遅い。♪=60以下の超スローなテンポだ。
リトルはバック陣にきっちり淡々と伴奏させながら、悠々とじっくりとメロディを吹く。ほとんど崩さない。しかし不思議に味がある。リトルの音色・・・とても抜けのいい感じで、どちらかというジャズっぽくない音色とも言えそうだが・・・どこかしら、わずかな翳りがある・・・ようにも感じる。それは説明しづらい何かであって・・・妙な言い方になるが、黒人全般に一般的には似合うはずのブルース感覚とはちょっと違う感性のトランペッターであるような気がする。そしてその「翳り」とバラードはよく似合う。ブッカー・リトルという人、どうにもバラードがいいじゃないか。

Dscn2490bassclef~
Jimmy Woods/Conflict(contemporary)ステレオ盤。 conflict
右側からタッカーのザックリした切れ込み鋭い戦闘ベースが、たっぷりと鳴る。いつになくハードボイルドな感じの増したハロルド・ランドもいい。やや左側から鳴るカーメル・ジョーンズも覇気のある音色だ。そしてピアノは ・・・なんとアンドリュー・ヒル。ヒルが弾くストレーと なブルースも面白い。Dscn2492リーダーのウッズのアルトは、ちょっとクセのある粗野な感じだが、もちろん嫌いではない。ウネりながら巻き込むような吹き方は・・・ちょっとドルフィ的でもある。そしてもちろんエルヴィンもいい(笑)ドッカ~ンと響くドラムサウンドがこのレーベルの端正な感じの音で鳴るのも実に悪くない。

Miles Davis/Round Midnight(columbia CLモノラル6つ目) round midnight 
ここでいつもの聴き比べ病が出る(笑)Columbiaはスタンパー違いで音が違いが大きいと言われているが、そういえば実際に試したことはない。このRound Midnight・・・同じモノラル6つ目をYoさんもお持ちで、じゃあマトリクスを見てみよう・・・僕のはジャケはぼろぼろだが(笑)盤は1C。Yoさんのは1J。CとJなら違うと思うよ・・・と、Yoさん。
Dscn2493聴き比べの時は、僕はウッドベースの音(聞こえ方、バランス、音圧感)やシンバルの打音に注目するのだが、columbia録音のシンバルはいつもうんと控えめバランスなのでこの場合、フィリー・ジョーのシンバルであってもあまり参考にならない。そこでウッドベースだ。同じ音を出しているはずのチェンバースのベースでも、Columbia録音の場合、presitigeに比べると低音を厚めしたような感じがあり、僕の場合は、ややギスギスした感じのprestigeでのベース音よりも、ややソフトな感じのcolumbiaの方が好みではある。Dscn2489
さて、この2枚を続けて掛けてみると・・・・・・その雄大に鳴るチェンバースのベース音・・・その輪郭においてやはり1Cの方がよりくっきりした音圧感で鳴ったようだ。ベース以外には特に大きな違いは感じなかったが、全体をパッと聴いた印象として、1Cスタンパーの方が色艶が濃いというか鮮度感が高いように聞こえた。やはり・・・Columbiaレーベルではスタンパー違いによる音質の違い(鮮度感)というものがあるのかもしれない。むろんタイトルによってその差異は様々だろう。

Kenny Clarke/(Telefunken Bluesと同内容の12inch盤)から solor
アルトがFrank Morgan・・・ここでPaPaさんが鋭く反応。
PaPaさん~
僕がモーガンの名を出すと、PaPaさん、すかさず1枚のレコードを取り出す。おおっ、GNPのフランク・モーガンだ!盤を出すと鮮やかな赤。
Cimg5658_2Frank Morgan(GNP)赤盤 the nearness of you

《GNP盤写真2点~PaPaさん提供》
モーガンのアルトは・・・う~ん、これは好みが分かれるだろうな・・・ちょっと軽い音色でフレーズの語尾をミョ~!ミォ~!としゃくるような感じ。どこかの解説で「名古屋弁のアルト吹き」という表現があった。素晴らしい!(笑) ちょっと、ソニー・クリスにも似ているな・・・と思ったら、PaPaさん、次にソニー・クリスを出してきた(笑) Cimg5663さすが・・・パーカー以後のアルト吹き全般に精通しているPaPaさんだ。セレクトにテーマがある。
Sonny Criss/Up Up and Away(prestige) 紺イカリラベル から sunny

この「サニー」はもちろんあの有名ポピュラー曲。録音が1967年なので、当時のジャズロック調まっしぐら。何の衒(てら)いもなく、当時のヒット曲を料理しているようで、それは案外、クリスの持ち味であるちょっと軽いポップな感じと合っているのかもしれない。
そういえば、PaPaさんと僕が思わず微笑んでしまった場面もあった。フランク・モーガンだけでなく、もう一人、ディック・ジョンソンというアルト吹きをセレクトしてきたのだが、2人ともemarcyではなく、riversideのMost Likelyを持ってきたのだ(笑) この時、音はかけなかったが、なにか1曲となったら・・・たぶんPaPaさんも 静かにバラードで吹かれる the end of a love affair を選んだであろう。

denpouさん~
ちょっとマイナーなピアノトリオを本線とするdenpouさんではあるが、この日はピアノ主役ではない10インチ盤をいくつか持ってこられた。

Dscn0301 《写真~denpouさん提供》
Georgie Auld / (discovery:10inch) here's that rainy day
darn that dream
ジョージ・オールド・・・いや、古い日本盤ではこの人の名をりをちゃんと「ジョージイ・オウルド」と表記してあったぞ。GeorgeではなくGeorgieという綴(つづ)りに注目したのだろう。
スイング時代のビッグバンドっぽいサウンドをバックにゆったりと吹くこのテナー吹き。コーニイ(古くさい)な感じがまったく・・・悪くない(笑)
古いテナー吹きをけっこう好きな僕も、もちろんジョージイ・オールドを嫌いではない。Cimg5664_2そういえば何か10インチ盤を持ってたけど・・・などと言っていると、PaPaさんが自分のレコードバッグからすうっ~と見せてくれたのは・・・roostの10インチ盤。「おおっ、これだ!」
それにしても・・・PaPaさん、なんでも持っている(笑) Cimg5665_3 このroyal roost盤・・・面白いのは、裏ジャケットが無地・・・一文字も入ってない、無地の青一色であることだ。 さっぱりしていいじゃないか。そういえば、スタン・ゲッツの10インチも同じように裏ジャケットは無地だったかな。 当時のroyal roostさん・・・デザインとしての無地だったのか、単なる手抜きなのか(笑)
《royal roostのオウルド写真2点~PaPaさん提供》

さて・・・オウルドの10インチ盤から、here's that rainy dayという好きな曲がかかったので、僕はあのレコードを想い出した。あれ・・・エルヴィンとリチャード・デイヴィスのimpulse盤 Heavy Soundsだ。 As9160_jあれは・・・フランク・フォスターの堂々としたバラード吹奏がたまらなく魅力的なのだ。このレコード・・・拙ブログ夢レコでも小話題になったことがある。それは・・・録音のバランスとしてのリズムセクションの捉えられ方についてのコメントで、そのバランスがこのHeavy Soundsでは明らかにベース、ドラムスが大きすぎるというのがYoさん意見だった。今回、here's that rainy dayつながりだったが、Yoさんお持ちのそのimpulse盤(これは赤黒ラベルが初版)を聴いてみた。As9160_l右チャンネルからリチャード・デイヴィスの芯のある強いピチカット音が・・・かなり大きな音で鳴りまくる。 う~ん・・・これは・・・確かに大きい。フランク・フォスターのテナーが主役なのだが、音量バランス、それに弾き方そのものが管に負けないくらい「主張する音」となっている。僕はデイヴィスの音は強くて大きい~と認識しているので、僕としては「大きくても」問題ない(笑)ただ・・・一般的にみて、ジャズ録音における管とリズムセクションのバランスにおいては・・・少々、出すぎかな(笑)まあでもこのレコードはエルヴィンとリチャード・デイヴィスのリーダー作ということでもあるのだから・・・ヴァン・ゲルダーがあえてそういうバランスにしたとも考えられる。《Heavy Sounds写真2点~Yoさん提供》

Dscn0243_2《写真~ denpouさん提供》
Max Bennett~おおっ!あのシマウマだ!この10インチ盤・・・ただ、シマウマが2匹いるだけなのに、どうにもいいジャケットだ。denpouさんのこの手持ち盤はコンディションもいい。ジャケット表のコーティングもキレイでシマウマのオシリも艶々している(笑)
ベツレヘムというと名前が浮かんでくる女性ヴォーカルに、ヘレン・カーという人がいる。ヘレン・カーのリーダーアルバムとしては、10インチでは<ビルの一部屋に明かり>、12インチでは<浜辺に寝そべる2人>がよく知られているが、この「シマウマ」にも2曲だけヘレンの唄が入っている。konkenさんのリクエストもあり、この10インチ盤から ヘレンカーの歌入り(they say )を聴く。カーさん・・・声質にはやや低めで落ち着いた感じで、ビリーホリデイみたいに、しゃくったような歌い方もするが、わりと甘えたような唄う口でもある。そのカーの歌も悪くないのだが、ここはやはり間奏に出てくる、「おお、このアルトは?」くらいにハッとする鮮烈なアルトの音色に痺れる。そう、チャーリー・マリアーノである。マリアーノは唄伴でも遠慮しない。ここぞ・・・という感じで自分の唄を出しまくる。特に50年代の彼は激情マリアーノだ(笑)Dscn2504
ちなみにこの「シマウマ」(Max Bennett)は、それはそれは高価なのである(笑)でも同じ音源(8曲)をどうしても・・・という場合は、12インチではMax Bennett Plays(BCP-50)でも聴かれます。この辺りのbethlehem盤はどれもいいです。僕はマリアーノ目当てで集めました。

konkenさん~
Peggie Lee/Black Coffee(UK brunswick:10inch)
何年か前に杜のお仲間でも小話題になり何度か登場した10インチ盤。今回、ジャケット・盤ともコンディションのいいものをkonkenさんが入手。う~ん、やっぱりいい音だ。米Decca10インチと続けて聴いてみると・・・ペギーの声の鮮烈さ、バック伴奏陣のクリアさなど・・・やはりUK10インチに軍配が上がるようだ。ついでに米Deccaの12インチ盤も聴くとこちらの方がすっきりとしたいい感じなので、どうやら米Decca10インチ盤にはカッティングレベル(低い)も含めてプレス品質の問題があるかもしれない。

リキさん~
ロスアンゼルス交響楽団/Candide(Decca) バーンステインOverture ミュージカル音楽を豪快に爽快に楽しく聴かせてくれる。それにしてもこういう壮大になるオーケストラはYoさん宅の大きなスピーカーで聴くと理屈ぬきに楽しめる。

こんな具合にあれこれと連想ゲームのように飛び出てくる皆さんのお勧め盤を楽しんでいると、いくら時間があっても足らないなあ・・・という気分になるわけである。そんな中、でもやはり「レーベル興味」の音比べも楽しみたい・・・というのが、Yoさんと僕の病気である(笑)
こういう音聴き会の前にYoさんとメールやりとりしていると、そんな「レーベル話題」に関して何かしらテーマらしきものが浮かび上がってくる。
今回は・・・United Artistsである。以前から僕らの集まりで「UAのステレオ盤とモノラル盤」の話題になることがけっこうあった。具体的には・・・UAのいくつかのタイトルにおいては~<どうやらステレオ盤の方がモノラル盤より音がいい>ということで、まあもっともそれは、Yoさんと僕がチラチラと主張していただけで(笑)検証タイトルがなかなか揃わないこともあって、実際の聴き比べまでは話しが進まなかった。(Yoさんはだいぶ前から同タイトルで両種揃えていたようだ:笑)
僕が最初に、そのUAのステレオ/モノラルの音質違いに気づいたのは、アイリーン・クラールのBand & Iの2種を聴き比べた時だ。アイリーン・クラールは僕にとっては数少ないヴォーカルもの集めたい人で、このUA盤は5年ほど前だったか、先にモノラル(赤ラベル)その半年ほど後にステレオ盤(青ラベル)と入手した。そうして後から手に入れたステレオ盤を聴いて・・・僕は驚いた。「音の抜けが全然違う!」
このBand & I はバックがビッグバンド風なので、まあ簡単に言うとたくさんの音がバックで鳴っている。その大きな響きの様が、赤ラベル(モノラル)では、詰まったような感じで、なにやら暑苦しい感じが濃厚だったのである。アイリーン・クラールの声そのものにそれほど差はないようだったが、パッと聴いた時に、クラール独特のあの爽やかさ、軽やかさみたいな感じがモノラル盤では味わえなかったとも言える。
ステレオ盤では、バックのバンドの音群がそれはもうパア~ッと抜けて・・・「抜け」というのは、僕の中ではけっこうキーワードなのだが・・・説明しづらいのだが、周波数的に高音が出ているとかいう意味合いだけでなく、その鳴り方の「空気間」というか、その場で(録音現場)鳴り響いた音響の「感じ」が、よりリアルに捉えられている・・・というような意味合いで「抜けがいい」と表わしているつもりではある。
Dscn2494 Yoさんは、3年ほど前だったか・・・konkenさんお勧めのMotor City Sceneのキング国内盤ステレオを聴いて、その演奏を気に入り即座にそのオリジナル盤(モノラル)を入手した。ところが・・・どうも「違うなあ」ということで、国内盤であってもあのステレオ盤の方が遥かにいい音だった・・・という冷静な判断を下したらしい。そうしていつの間にか・・・Motor City SceneのUAステレオ盤(青ラベル)を入手していたのである(笑)
僕もクラール盤で感じていたことなので、UAの赤/青についてはまったく同感だった。そんな経緯もあって、Yoさんとは何度か「UA~United Aritistsは青ラベルだよね」みたいな会話をしていたわけである。Dscn2495
僕もまたkonkenさんのキング盤「モーター・シティ・シーン」を何度か聴いて、実に欲しい1枚だったのだが、わりと最近、ステレオ盤を入手して、その良さに満足しているところだ。4曲どれも良いのだが、特にA面2曲目 minor on top で出てくるぶっとい音のベースソロが気に入っている。ベースはポール・チェンバース。彼のいかにも大きそうな音が・・・そうだな、プレスティッジほど硬くなく、コロムビアほど柔らかくなく、適度な芯と適度に豊かな拡がりを保ちながらしっかりと芯のある素晴らしい音色で捉えられている。UAの録音エンジニアはあまり話題にならないが、なかなか素晴らしい録音だと思う。そのA面2曲目~ minor on topを掛けてもらった。
う~ん・・・素晴らしい!艶のある音色で細かいことをやらずに余裕たっぷりに吹くサド・ジョーンズ、それからいつものことながら、小気味いいシングルートーンを適度なアクセントを付けながらサラッと弾くトミー・フラナガン、そしていつもよりちょっと抑えた感じの、つまり・・・全編ブラッシュでリズムを刻むエルヴィン・ジョーンズ、そしてさきほど言ったポール・チェンバースのでかい音像のベースがやや左チャンネル辺りから響き渡る。いやあ・・・素晴らしい!Yoさんのウーレイから鳴る「抜けのいいベース音」も快感である。
この1曲があまりに素晴らしくて・・・赤ラベル(モノラル盤)と聴き比べることなど忘れてしまった(笑)
Uajs_15003_j_2《UJASステレオ盤の写真2点~Yoさん提供》
その替わりにというわけでもないのだが、今回、意図して持ってきたレコードが、Undercurrent(UA)である。同じUAでも・・・この作品は「サックス吹きラベル」である。Uajs_15003_l
   これについては・・・Yoさんがステレオ盤(UJAS~、僕がモノラル盤(UJA~)を持っており、僕はわりと最近、このモノラル盤を聴いて・・・その音の感じにやや違和感を覚えていた。ひと言で言うと「強すぎる」という感じがあったのだ。Yoさんとはメールではある程度、音の様相までのやりとりをしたが、やはり・・・音は聴かねばダメだ(笑)
7人が集まった会ではあるが、同音源の聴き比べにはあまり興味のない方も多いと思われるので、僕はちょっと遠慮気味にではあるが「ちょっとこれを・・・」と言って、灰色一色の暗いジャケット~モノラル盤:Undercurrentを取り出した。「ああ、それ、やりまひょか:笑」微妙に関西弁のYoさんが応えた。このUndercurrent・・・1978年だったか国内盤を入手した以来、僕はもう大好きでそのキング盤(ステレオ)を聴きまくってきた。あまり良好とは思えない録音(ちょっと弱い感じ)の音ではあったが、しかし、それは繊細に絡み合う2人の音世界に合っている・・・とも思えた。

<UnderCurrent モノラル盤/ステレオ盤から my funny valentine を聴き比べした後、Yoさんとのメールやりとり>Dscn2497
basslcef~
UAモノの方は「優雅で繊細」とだけ思っていた二人のデュオに、相当な力強さを感じました。エヴァンスのピアノがかなり近い音で入っていて(音量レベルそのものも大きいような感じ)かなり強いタッチに聞こえます。ガッツあるデュオ・・・という感じにも聴けました。
(ステレオ盤を聴いてみての印象)
やっぱり、青のステレオ盤、ある種、柔らかさが気持ちよく、そしてギター、ピアノのタッチの強弱感もよく出ていてよかったですね。エヴァンス、ホールのデュオ音楽としては、モノ盤のピアノは強すぎで繊細さに欠けた感じがありますね。楽器が二つだけのためか、他のUA作品でのステレオ、モノラルほどの音の落差はなかったようですが。同じサックス吹きセンターラベルでも、違い(ステレオはグレイ、モノラルはやや黄色がかった感じ)があることが判りました

Yoさん~
エバンス&ホールの件、UA盤はステレオとUK盤のモノがあります。UKモノはbassclefさんのモノオリジと同じようにカッティングレベルも高く、力感がありますが、ちょっと厚ぼったい感じがします。ステレオはちょっとレベル低めですが、透明感と力感が上手くバランスして好きです。
(USモノ盤を聴いてみての印象)
Undercurrentモノ盤は音自体は悪く無いのですが、仰るとおり「強い」という感じがあのDuoには似合わないように感じました。私は元々「DuoなんだからStereoが良いに決まっている:笑」と言う事で買ったのです。同じところから2人出てくるのは嫌いなので・・・(笑)

《この「黄色がかったモノラルラベル」については・・・Yoさんからも「モノラルでも普通はステレオと同じグレイ(灰色)だと思います」との情報をいただいた。僕の手持ちモノラル盤のラベルは・・・どう見ても黄色っぽい。これはいったい・・・? ひょっとしたら非US盤かも?と心配になった僕は、ジャケット、ラベルを仔細にチェックしてみたが・・・カナダ盤、オーストラリア盤、アルゼンチン盤などという表記はどこにもなかった。よかった(笑)》

Dscn2499《追記》
「アンダーカレント」という作品~
ステレオとモノラルの音の質感のことばかり書いてしまったので、その音楽の中身についても少し触れたい。デュオという形態は・・・難しい。その2人の個性を好きなら、ある意味、その人の手癖・足癖までたっぷりと見られるわけで面白いとも言えるが、ジャズはやはりリズム(ビート感)だ!という気持ちで聴くと・・・確かにデュオというのはあまり面白くない場合もけっこうありそうだ。
さて、エヴァンスとホールのデュオ・・・これは・・・僕は本当に凄いと思う。もちろんその前に、本当に好きだ(笑) その「凄い」は突き詰めていくと・・・やはりこのレコードのA面1曲目~my funny valentine の凄さなのだ。ごく一般的に言うと・・・ピアノとギターというのは、本来(器楽的な面として)ジャズでは相性が悪い。ハーモニーを出し、メロディも出し・・・という機能面で似ているので、出した時のサウンドとして「カブル」(被る~音が重なってしまってハーモニーが引き立たないというか・・・そいういうニュアンスで相性が悪いと・・・いう面は確かにあると思う。
この「アンダーカレント」は、ある意味・・・そうした器楽上の困難さに、ビル・エヴァンスとジム・ホールという2人の名人(白人技巧派として)が挑戦した・・・そんなレコードだと僕は思う。そうしてそんな2人の何が凄いのか・・・というと、それは「鋭すぎるリズム感の交歓、いや、せめぎ合い」ということになるかと思う。 my funny valentineは、普通の場合・・・スローバラードで演奏される。しかし、このテイクは違う。1分=180~200ほどと思われる急速調である。いきなりエヴァンスの引くメロディからスタカートをバリバリと掛けてキビキビしたテキパキした硬質my funny valentineなのである。ドラムスとベースがいないので、たしかに・・・なにやら疲れる。というより、普通のジャズだったら、あるはずの「聞こえるビート」「聞こえるタイム」がないのだ!これは・・・困る(笑) 落ち着かない(笑)フワフワしちゃう(笑)
しかし・・・これは2人の音楽的チャレンジでもあるのだ。ビートとタイムは今、聴いている自分が発現すればいいのである。アタマの中でも、あるいは手を膝に叩いたスラッピングでも何でもいいので、カウントを取って聞こえてくるビートに合わせてみる・・・そうすると2人の演っている「音」というのが、いかに凄いか・・・判ってくる。
このmy funny valentine・・・聴いていてグッ、グッと突んのめっていくような感じを受けないだろうか。この音楽が好みでない方にしてみれば、セカセカした感じと言ってもいいかもしれない。それはおそらく・・・テンポが速いからだけでなく、2人のノリ方が当たり前に「乗る」4ビートではないからのだ。小節のアタマ(4拍の1拍目)を、あえて外したようなフレージング。2拍・4拍のノリをあえて外したようなリズムのコンピング(相手がソロを弾いている時にバックに差し入れる和音) 2人はそのコンピングをどうやら1拍半(1.5拍)
のタイミングで入れているようだが、それを意地になって連続してくる。そしてその「1.5拍」は強烈なシンコペーションにもなってくるのだ。
<2小節8拍を~2・2・2・2(2x4=8)と2拍づつ刻むのではなく、例えば、1.5・1.5・1.5・1.5+2(この最後の2拍を1.5+0.5の場合もある)と
刻む。いや・・・この考えを倍の4小節(16拍)まで引き伸ばして、その間、延々と1.5拍攻撃を続けている場面さえあるようだ>
う~ん・・・こりゃ、聴いててもホント、どこがどこやら判らなくなる(笑) しかし・・・この2人はこの曲のどこで何をどうやっても、コーラスの進行を寸分違(たが)えずに音楽を進めていく。確固たる信念を持って先鋭的なリズムのやりとりを進めていく2人の厳しい佇まいに、僕は思わず身を硬くしてしまう・・・それくらいこの my funny valentineは凄い・・・と思う。そんな2人の緊迫したやりとりが、ひと山越えると、今度は、ジム・ホールがその真骨頂を見せる。エヴァンスのピアノのソロの途中、ホールはギターで4ビートを演ってしまうのだ。いや、ジャズを4ビートで演るのは当たり前だが、そうじゃない。よくあるようにベースの替わりをギターの低音部シングルトーンで弾くのでもない。ギターのコード(和音)を弾きながらそのまま4ビートを表出してしまうのだ!「なんだ、これは!」最初にこのレコードを聴いた時、その「和音の4ビートカッティング」に僕はブッとンだ。これは・・・ちょっとギターを弾いたことのある人ならば・・・同様に感じるであろう、ある意味「ショッキングなサウンド」なのである。そしてもっと凄いと思うのは・・・ジム・ホールという人がその「和音の4ビートカッティング」の音量を、微妙に抑え加減にして、なんというか技巧的に凄いというだけでなく、その技術をちゃんと音楽的なものにしてしまっていることなのだ。このジム・ホールは・・・本当に凄い、いや、素晴らしい。なお、いつもの僕の妄想では(笑)この「4ビートカッティング」が鳴り始めた瞬間、ピアノのビル・エヴァンスは、グッと目を見開いた。そうしてほんの一瞬、間を取ったが、その素晴らしいアイディアとサウンドに嬉しくなり、「よしっ!それならばオレもグイグイいくぜ」と鋭いフレージングに切り込んでいったのだ・・・。
*この「アンダーカレント」については、コメントも頂いたyositakaさんがご自身のブログでも触れてくれた。「2人のデュオ」という観点で素晴らしい表現をされている。
http://blogs.yahoo.co.jp/izumibun/32543379.html
このアドレスでご覧ください。bassclefもコメントをしました。その補足として、この追記を載せました。

UA盤話題で何度となく言葉になった、その「抜けの良さ」は、アイリーン・クラール、Motor City Scean、Undercurrent以外のタイトルでも実感していた。それは、有名なアート・ファーマーのModern Art。2ヶ月ほど前だったか、いつも2人でレコード聴きをするrecooayajiさんのモノラル盤と僕のステレオ盤で聴き比べた際、モノラル盤では引っ込み気味だったベースとドラムスが、ステレオ盤では、スパ~ッと抜けたように、大きな響きになり、しかもそれはふやけた感じではなく、しっかりした音圧感を伴った鳴りに聞こえたのである。
通常の場合、モノラル盤志向のrecooyajiさんであっても、レーベルによってはステレオ盤の方がいいのかな?・・・という見識もお持ちだ。つまり・・・いい録音のステレオ盤には偏見はない(笑) 実際、同タイトル2種(Art)を聴き比べてみて、これだけ「ベースの出方、ドラムの鳴り方が違ってくると・・・これはやっぱりステレオ盤の方がいいね」という場面もあったりで近頃は、僕らの仲間でも「UAはステレオ」がちょっとしたキーワードともなっている(笑)

| | | コメント (39)

2006年12月21日 (木)

<思いレコ 第13回>Miles Davis/Someday My Prince Will Come(columbia)

「いつか王子様が」~ウイントン・ケリー、3拍子の切れ味。

Dscn1526_3 ふとした時にアタマの中に聞こえてくる「音」というものがある。いつだったか、この<夢レコ>でも書いたように、僕の場合はマイルスのものにそんな「音」が多い。マイルスのLPはどれも好きで何度も聴いたものだが、とりわけ好きなのが、このSomeday My Prince Will Comeだ。実際・・・僕はこの「Someday~」を、いったい何回くらい聴いてきたのだろうか。何度、聴いてもそのたびに「う~ん・・・いいなあ」という想いでいっぱいになってしまい、A面が終わると、1曲目のSomeday~だけもう1回聴いたりするのだった(笑)
そんな風だから、どうやら細胞のどこかにこの「音」が染み込んでいるらしく、ふとした時にアタマの中にあのベースの音~
bom,bom,bom/bom,bom,bom/bom,bom,bom/bom,bom,bom~が聞こえたりする。そうなると・・・もういけない(笑)その後のケリーのブロックコードやら、マイルスがテーマを吹く時のミュートの響き具合やらが、どんどんとアタマの中にあの曲が流れてきてしまうのだ。

bom,bom,bom/bom,bom,bom/bom,bom,bom/bom,bom,bom・・・最初、そんな風にチェンバースがウッドベースの1弦のF(ファ)の音だけを弾き始める。これはウッドベースではけっこう高い方の音程で、ギターのフレットで言うと3弦の10フレットの位置になる。この「ボン・ボン・ボン」(1小節に3回)を4小節(12回)続けると・・・ケリーのピアノが入ってくる。モダンな響きの感じのするコード(和音)だけでまず16小節。次にケリーは、右手のシングルトーンで軽くアドリブを入れてくる。アドリブといっても、まだ曲のテーマが出る前のイントロ部分なので、軽くいこうぜ、という予告編くらいの感じだ。しかし・・・この予告編でのケリーはいい。3拍子の「ノリ」が素晴らしいのだ!
チェンバースがきっちりと(どちらかというとやや無表情なくらい)3拍づつ刻むF音にのっかって、ケリーは、キレのいい右手で飛び跳ねる。アイディアに満ちたフレーズを、全く力まずに、軽く、そしてしなやかに弾き込んでいる。ワルツというリズムに独特の躍動感みたいなもの~まさに鮎が水面に飛び跳ねているような~そんな感じが、うまく現れているのだ。ケリーの3拍子は全く素晴らしい!
そんなわくわくさせるようなケリーのアドリブ予告編が16小節続くのだが・・・まだ「いつか王子さまが」のメロディは出てこない。これっぽちも出てこない。おそらく「出してはいけなかった」のだろう。この辺り・・・全てはマイルスの指示のはずだ。「絶対に主メロディは弾くなよ」と、あの声で言ったに違いない(笑) そう確信できるのは、やはりさきほどの「チェンバースのF音連打」なのである。チェンバースは、出足のベースだけの部分から1弦Fの音を続けている。マイルスが入ってくるまで、本当に同じ音だけを延々と弾き続けているのだ。試みにちょっと小節数をカウントしてみた。1小節に3回のF音を弾く計算だ。
ベースのみ部分4小節(12回)
ケリー/和音部分16小節(48回)
ケリー/アドリブ部分16小節(48回)・・・都合、108回のF音のみ連打である。ああ、そういえば、さっきチェンバースがF音を弾き続けるのは「マイルスが入るまで」と書いたが、実はもうちょっとオマケがあった。マイルスがテーマを吹き始めての8小節は・・・やはりF音を続けているのだ。だからそれも足すと・・・108回+24回=132回だ。ただでさえベースのランニング音をメロディックに変化させることを好むチェンバースが、自分のチョイスとしてこれだけ同じノート(音程)を続けられるだろうか? やはり・・・マイルスの指示だと思う。それにしてもいくらマイルスの指示でも、チェンバースもいい加減、厭きただろうなあ・・・(笑)
でも、ここでぐぐっとガマンするから・・・いよいよ入ってくる「いつか王子様が」のメロディが生きてくるのだと思う。こんな具合にさんざんじらしておいて・・・いよいよマイルスがテーマのメロディをミュートで吹き始める。
そりゃあ、マイルスは気持ちいいだろうなあ・・・そんなマイルスが小憎らしいけれど・・・聴いている方も、本当に気持ちよくなってしまうのだ。そういえば・・・小さい頃、TVの相撲中継を親父と見ていたのだが、千秋楽の大一番だというのに、なかなか始まらない。仕切り前の儀式めいた段取りがやけに長いので、僕が「早くやればいいのに」と言うと、親父は「バカッ!これがいいんだ!」と力むのであった。あれと同じ理屈かもしれない(笑)

マイルスのこんなやり方は、たぶん当時1960年では珍しかったと思うのだが、今でいう「ペダル」(曲が進行してコードが変わっていっても低音部だけは同じ音程を維持していくような手法)とよく似ている。ただ「ペダル」というのは、たいていは低い音域でやるのに、この曲では高域F連打なので、言わば「逆ペダル」だ。
ちなみに、このチェンバースのF音連打のパターンは、ソロとソロの間つなぐブリッジの部分でも、それから曲のエンディングの部分でも出てくる。それらが実に効果的なのだ。そしてそれに乗っかるケリーのアドリブがまたかっこいい。それにしても・・・ディズニー映画のかわいらしいワルツ曲に、こんな演出を加えて、しかもそれがムチャクチャ効果的になっている~そんなマイルスの構成力というのは、本当に素晴らしい。Dscn1570_1

《columbia:PC8456》1977年頃の米再発。センターラベルは・・・うんと安っぽいので、あまりお見せしたくない(笑) 60年代に入った頃のcolumbiaのステレオ録音は、ベースやピアノ、そして管の音も、意外に厚めの音で、しっとりとした味わいがある。好きなステレオ録音だ。6つ目のステレオ盤(CS8456)が欲しいなあ(笑)~先日、このレコードの1961年のオリジナル盤で「いつか王子様が」を聴き比べる機会があった。想像していたとおり・・・モノラル盤(recooyajiさん)、ステレオ盤(konkenさん)ともに、やはり素晴らしい音だった。「モノラル」での各楽器の厚みや豊かさも凄い。ステレオだと、もう少し全体に軽みがでてきて優しい味わいになってくる。いつもおとなしめにシンバルを鳴らすジミー・コブのシンバルのライトな味わいには「ステレオ」の方が似合うように感じた。もともと僕は、ベースやドラムスがちょっと離れて聞こえた方が好みなので~もちろんリアルステレオでそれぞれの楽器の音圧(実体感みたいなものという意味合い)がしっかりと録られていることが前提だが~「ステレオ録音」の方がより好みだった。そういえば、ニイノニーノの新納さんは、以前からHPでも「VictorやColumbiaなど大手はステレオ録音の方が優れている」と書いておられたが、僕なども、ヘンリー・マンシーニのあのゴージャスなサウンド(「ハタリ」や「ピンク・パンサーなど)をステレオ盤で味わうと、その意見には大きく頷いてしまうのである。
【追記】NOT(ブログ~These Music Suit Me Well)さんが、さっそくこのSomeday My Prince Will Comeの1961年オリジナルの6つ目:ステレオ盤/モノラル盤のセンターラベルの詳しい記事をアップしてくれました。う~ん・・・ラベルの世界も深い(笑)

ジャケット話しでひとつ。カヴァーの女性はフランさんという当時のマイルスの奥さんだったとのことだが、ステレオ盤とモノラル盤には、些細な(いや、しかしけっこう大きなとも言える)違いがある。ジャケットの一番下の方~フランさんの胸元の「青い布切れ」の見える分量がだいぶん違うのである。ステレオ盤だとほんの少し。モノラル盤だと1cm以上は見える。この辺りの「ステレオ盤/モノラル盤についてのジャケットの謎」については、拙ブログにリンクしてあるmono-monoさんの記事に詳しい。おもしろいですよ。

さて・・・もうひとつ、ケリーのピアノのことを。
マイルスがテーマの出足、8小節を吹いている時~チェンバースはまだ高音F音を続けているのだが~この時、どうにも印象的なケリーのバッキングがある。ケリーがとても切れ味の鋭いコンピング(バッキングの時、主にコード(和音)を弾くこと・・・かな?)を、ワルツの3拍子の普通には入れないようなどうにも微妙な位置に、すごく短く「スッ!」「スッ!」と・・・そう、まるで豆腐に包丁を沈めるような感じで、差し入れてくるのだ。この曲を何度も聴いてきたが、特に分析的に聴いたわけでもなく、だから僕には、なかなかその「スッ!」のリズム~タイミングが判らなかった。ただ「かっこいい!」と感じていたのだ(笑)
3拍子でのアクセントの付け方というものに絶対の決まりがあるわけではないと思うが、例えばドラムスのハイハットについて言えば・・・1956年頃からマックス・ローチがやったのは・・・少なくともテーマの部分のバッキングでは「1、2、3」の2拍目と3拍目にハイ・ハットを踏むやり方だったと思う。あるいは2拍目だけにハイハットという場合もあったかもしれない。1、2、3とノル場合、普通に考えても、これなら自然にノレる。だから・・・その後も、このローチ方式がたぶん一般的になっていったように思う。
余談だが、初期の3拍子ジャズを聴いたなかで、どうにも違和感を覚えたプレイがあった。もちろんローチのではなく、誰のレコードだったか忘れてしまったが、そのドラマーは、3拍子の曲にも関わらず、全く普通に4拍子の場合と同じように、ウラ打ち(2拍目と4拍目にハイハットを踏むこと)をしていたのである。たしか最後までそのやり方で踏み続けていたので、確信犯だったとは思う(笑)
そういう踏み方をすると・・・どういう風に聞こえるのか?文字ではなかなか説明しづらいのだが・・・3拍子が2小節で「1、2、3/4、5、6」と6拍分のカウントとなる。この6拍をひとつの単位として捉えた場合、ハイハットの2拍・4拍打ちをそのまま機械的にあてはめれば「1、、3/、5、」の最初の小節の2拍目(2番)と、2小節目の1拍目(4番)と3拍目(6番)の位置にアクセントがくることになる。口で言うと・・・「ウ・チャ・ウ/チャ・ン・チャ」(チャがアクセント部分)てな感じか。3拍子を2小節単位でくくれば、こういうアクセントの入れ方も全くOKなわけで、ちょっと聴くのに慣れさえすれば・・・自然なノリに聴けると思う。ただ、僕が聞いたレコードでのその「3拍子ウラ打ち死守」違和感を覚えたのは・・・聴いていて、どうにも「ノッて」なかったからである。おそろしく不自然な感じがした。
おおまかに言えばアクセントの位置自体は、この2、4、6の位置でも合っているとは言えるのだが、それは・・・6拍単位のウラ打ちでも数字上の辻褄は合う~というだけのことのように思う。音楽は「辻褄合わせ」だけでは面白くないのだ。

そうしてこの間、なにげなく「いつか王子様が」を聴いていたら・・・「ぽっ」とアタマの中に電気が点いた(笑)  そうだっ!ケリーは、正にこの6拍単位での2、4、6の位置にあの「スッ!」「スッ!」を入れていたのである。ただし・・・先ほど「面白くない例」として挙げた機械的な6拍のウラ打ちではなく・・・「スッ!」が、実に微妙なタイミングで差し込まれているのだ。
3拍子でノッている以上、やはり1、2、3、1、2、3というカウントの中での生き生きしたノリが必要なのだと思う。その「ノリ」とは・・・微妙なシンコペーションであると考えている。この6拍ウラ打ちで3拍子特有の揺れるような感じを出すには・・・2小節目の1拍目・3拍目(つまり4番目と6番目)の位置に、わずかに「突っ込むような感じ」が必要なように思う。そうして、ケリーは・・・このサジ加減が実に絶妙で、一瞬、大丈夫かな?と感じてしまうほど突っ込み具合が「切れて」いるのだ。素晴らしいセンスだと思う。
この辺りのことは、本当に微妙なタイミングのことなので、とても文字では言い表せない。興味がある方は・・・ぜひ、このマイルスの「いつか王子様が」を、マイルスがテーマを吹き始めた際のケリーのバッキングを、ぜひ聴いてみてください。

みなさんもたぶん大好きであろうこの曲~マイルスが練りに練って構成したであろう「いつか王子様が」。
マイルス、モブレイ、コルトレーンの素晴らしいソロが聴き所であることはもちろんだが・・・ケリーならではのムチャクチャに鋭いセンスがあったからこそ、あのチャーミングなテーマを持つ3拍子が、本当に生き生きとしたものになったように思う。Dscn1569

さあ・・・マイルスがテーマを吹き終わった後に、再び始まるチェンバースのF音連打・・・そして再びケリーの見せ場。ケリーのピアノがぐうんと冴えてくる。このままいつまでも続けていけそうないいアドリブだ。
だがしかし・・・マイルスの鋭い構成力がそれを許さない。ケリーがシングルトーンを弾いている途中で、全体の音量を少し下げさせた後に、今度はクレシェンドをかけさせる~この辺り、チェンバースに向かって手のひらを上に向けて「上げろ」と指示しているマイルスが見えるようだ~チェンバースの音量が俄かに上がってくる。そのクレシェンドに反応したケリーがブロックコードのバッキングに戻してくる。ああ・・・これで終わるのだなあ・・・誰もがそう思ったそのとおりに・・・ケリーの終止感の薄い不思議な和音で「すう~っ」と、この曲は終わるのだ。見事なエンディング!
そうしてそのケリーの最後の音が伸び切ったその時「ッポン!」という音が聞こえる。あの「ポン!」の意味するものは・・・マイルスの会心の「OK!」のように、僕には思えてしまうのだ。
それにしても・・・あれはいったい何の音なんだろう?(笑)

【追記】 bsさん、貴HPの戯言日記にて当記事を話題のこと、ありがとうございます。リンクしてあるbsさんのHP(blue spirits)には、もうだいぶ前からこのマイルスのSomeday記事が載っております。僕の記憶の中では「恐るべき傑作」というようなbsさんのコメントが印象に残っていた。拙ブログをアップしてから再読しました(先に読むと影響されてしまいそうで:笑) マイルスの曲順に至るまで練りに練ったやり口を「悪魔の仕業」とまで激賞されております。全く異論ございません(笑) 

| | | コメント (33) | トラックバック (2)

その他のカテゴリー

A&M ABC paramount Alex de Paola Argo Bel Canto Bethlehem Brew Moore Candid Chuck Wayne Clef Columbia Concert Jazz Band Contemporary Coral Decca Dee Gee Discovery division of Liberty Dootone Dragon Emarcy Epic ESP Fantasy Hal Valentine Hi-Fi I'll never be the same Impulse Intro Jack Higgins JAZZ HERO'S DATE BANK Joday Keytone Liberty bluenote Mode my fevorite things Nocturne Norgran Pacific Prestige Ray Fowler RCA victor Riverside Roost Roulette Rumsey Lewis Savoy Specialty Tampa United Artists UK columbia Verve アイリーン・クラール アル・コーン アン・バートン アート・ファーマー アート・ブレイキー アート・ペッパー アーニー・ヘンリー アービー・グリーン アーマド・ジャマル ウイルバー・ウエア ウイントン・ケリー ウエス・モンゴメリー エセル・エニス エディ・コスタ エリオット・ローレンス エリック・ドルフィー エルヴィン・ジョーンズ オスカー・ピータースン オスカー・ムーア オムニバス オリジナル盤 オーネット・コールマン カーティス・カウンス カーティス・フラー キャノンボール・アダレイ キース・ジャレット ギル・エヴァンス クインシー・ジョーンズ クリス・コナー クリフォード・ブラウン ケニー・クラーク コルトレーン コートにすみれを サウンド・オブ・ミュージック サックス吹きラベル サム・ジョーンズ サラ・ヴォーン シェナンドー シェリー・マン シナトラ ショーティー・ロジャーズ シリアルナンバー ジェリー・マリガン ジミーロウルズ ジミー・ウッズ ジミー・ギャリソン ジミー・クリーヴランド ジミー・ロウルズ ジャズ ジュリー・アンドリュース ジョアン・ジルベルト ジョニー・ホッジス ジョン・ベンソン・ブルックス ジョージ・オールド ジョージ・バロウ ジョージ・ラッセル ジョー・ゴードン ジョー・バートン ジョー・プーマ スコット・ラファロ スタン・ケントン スタン・ゲッツ ステレオ1100番シリーズ セルジオ・メンデス セロニアス・モンク セント・ジェームズ病院 ソウル ソニーボーイ ソニー・クラーク ソニー・ロリンズ タッド・ダメロン チェット・ベイカー チック・コリア チャック・ウエイン チャーリー・パーカー チャーリー・マリアーノ チャーリー・ミンガス チャーリー・ラウズ テッド・ナッシュ テンダリー ディスク36 ディック・ツアージック ディック・ナッシュ デクスター・ゴードン トケビ市場 トニー・スコット トニー・ベネット トミー・フラナガン トロンボーン ドン・エリオット ナベサダ ネムジャズイン ハル・マクージック ハロルド・ランド ハワード・マギー ハンプトン・ホウズ バスクラリネット バディ・コレット バド・シャンク バラード バリー・ガルブレイス バート・ゴールドブラット バート・バカラック ビル・エヴァンス ビル・パーキンス ピチカット フィル・ウッズ フランク・ロソリーノ フリップ・フィリップス ブッカー・アーヴィン ブッカー・リトル ブリュー・ムーア ヘンリー・グライムス ヘンリー・マンシーニ ベン・ウエブスター ペッパー ペッパー・アダムス ペテュラ・クラーク ペデルセン ペレス・プラード ボサノヴァ ボビー・スコット ポール・ウインター マイルス・デイヴィス マッコイ・タイナー マット・デニス マトリクス マリアン・マクパートランド マーク・マーフィー ミシェル・ルグラン ミュージカル映画 ミルト・ジャクソン ミルト・ヒントン メイナード・ファーガスン モンクス・ミュージック ライオネル・ハンプトン ラビット・フット・レコード ラムゼイ・ルイス ランディ・ウエストン リッチー・カミューカ リーフラベル リー・コニッツ レイ・ブラウン レコードリスト レコード収納 レス・スパン レッド・ガーランド レッド・ミッチェル ロイ・へインズ ロリンズ ローリンド・アルメイダ ワリー・ハイダー録音Wally Heider ヴァージル・ゴンザルヴェス ヴィクター・フェルドマン ヴィニー・バーク ヴィブラフォン ヴィブラート 秋吉敏子 立花実 艶ありラベル 艶なしラベル 赤ラベル 長方形ロゴ 限定盤 音符ラベル 10インチ盤 25センチ盤 7インチ <やったあレコ> <ジャズ回想> <ジャズ雑感> <思いレコ> <旅レコ> <発掘レコ> EP盤