アーニー・ヘンリー

2007年5月 7日 (月)

<ジャズ回想 第11回>(その2)ああ・・・この音だ。Yoさん宅、再・再訪期。

Yoさん宅~3人の音聴き会は、まだまだ続く・・・。

ちょっと前に、ニーノニーノの新納さんからTELがあり、ピーターソンのWe Get Requestsの「モノラル溝あり」の音は凄いですよ・・・と教えてくれた。「ええっ!T字MGM-VERVEに溝があるんですか?」「はっきりしないんですが、初期のT字にはあるらしんですよ」
僕など、いわゆるT字ラベルの場合「long playing(Verve Inc.)には溝がある」が「MGM-VERVEになってからは溝がない」と思い込んでいたのだが、そうではなかったのだ。T字MGMになってどの辺りのタイトルまで「溝あり」が存在するかはよく判らないが、ともかくT字VERVEラベルの初期のいくつかには「溝あり」があるらしい。Dscn1687_1
そうして自分の手持ち盤をいくつか調べてみると・・・Night Train(V6-8538:T字MGM)には、はっきりと幅の広い溝があったのだ。そして、Requests(V6-8606:stereo)の方はというと・・・とても溝とは言えないわずかな段差のある「筋」(T字の横棒の左右の1cmほどを通っている直径7cmほどの円周)」があるだけだったのだ。
《上の写真では「筋」だか「溝」だか判りにくいが、下のラベル写真と比べると明らかに「溝」とは違う。残念である(笑)》
ちなみに、この「筋」は、普通の大きさの円周だが、Trio Plays(V6-8591)のセンターラベルの「筋」は、3cm弱の円周とうんと小さい。だから「溝」なしにも「大筋」「子筋」とあることになる(笑)

このRequestsがいわゆる 「優秀な録音のレコード」ということは知ってはいた。しかし、オーディオ的な興味の薄かった僕は、かえってそんな評判への反発もあり(笑)あまりちゃんとその音を聴いてなかったのかもしれない。アンプを真空管に、そしてスピーカーをJensenに換えた頃から、だんだんとピーターソン自体を聴くようになり、そうして改めてこのRequestsを聴きなおしてみると・・・これがチャーミングないい音だったのだ(と、気づいただけなのだが:笑) もちろん「音」の前に、演奏が素晴らしいことは言うまでもない。どの曲でも、レイ・ブラウンやエド・シグペンという名人たちが、その至芸をさらっと見せてくれるのだが、特に、1曲目のボサノヴァ風の quiet night がいい。この曲のエンディング・・・同じ和音パターンの繰り返す辺りで、ピーターソンが高音部で「遊ぶ」のだが、その意図的に軽くしたようなタッチが、実に、小気味いい。このレコードでは、1曲が短いこともあり、いつものピーターソンよりだいぶんあっさりした感じでもあり、それがまた僕には気持ちいい。軽めのタッチではあるが、しかし、しっかりとキーを叩いている」~そんな感じのタッチの質感を凄くよく捉えている録音だと思う。もちろん、レイ・ブラウンのウッドベースの音圧感・存在感も充分に出ている。そして、このレコードの録音engineerは、いつものVal Valentineではなく、Bob Simpsonとなっているのだ。Simpsonは、ハリー・ベラフォンテなどRCAでの仕事が多いようだが、Bill Evans/Trio 64(verve)や、ミンガス/ミンガス、ミンガス、ミンガス(impulse)なども彼の録音らしい。僕は、このRequestsの音が好きだ。

そんな「いいステレオ録音」のRequestsに、「モノラル・溝あり」があったとは・・・。同じ頃、Yoさんとのメールやりとりでも、そのRequestsの話題になり、Yoさんは「ステレオ・溝あり」をすでにお持ちで、なんと「モノラル・溝あり」も、つい最近、入手されたとのこと。Request_st_1
「じゃあ」ってんで、その3種・・・
ステレオ溝なし~bassclef
ステレオ溝あり~Yoさん
モノラル溝あり~Yoさん
を聴き比べしてみよう!ということになっていたのだ。

僕はすぐに3枚のセンターラベルをぐぐっと見つめた。Yoさんの2枚には確かに「幅の太い溝」がくっきりと彫りこまれている。これこそ「MGM-Verveの溝付き」だ!《センターラベルの写真2点は、Yoさん提供》
さっそくこの3枚を聴き比べてみた。Request_mono

先にステレオ盤の2枚をかけた。この2枚・・・右からのレイ・ブラウン、左からのエド・シグペン、そして中央(やや左か)からのピーターソン・・・音場の感じは全く同じだ。音質の方も、大きな差というのはなかったかもしれない。しかし、「全体としての鳴り」が・・・やはり「溝あり」の方がよかったのだ。ピアノがどう、ベースがどう、ということではないのだが・・・それぞれの楽器の音色に、より太さが、より艶が、そしてより瑞々しさが感じられたのだ。

そしてモノラル盤。ベースが中央により、やはり、かなり「太く」なった。ピアノの音自体も幾分、大きくなったようだ。一聴して、迫力はやはり増している。このモノラル盤が鳴ったらすぐに、僕の右隣に座ったkonkenさんが「オレ、この方が好きだな・・・」と一言。
そして・・・このモノラルの太さ、たくましさは充分に判るが・・・やはり「オレはステレオの方が好きだな」とbassclefが対抗する(笑)
Yoさんも、「このピーターソンのレコードに関しては・・・ステレオの方が好みかな・・・」と洩らす。
僕個人の気持ちとしては、先ほど書いたような、このレコードの「軽めのタッチ」「あっさり感」という感覚が、モノラルの方だと「たくましく」なりすぎてしまうような気がして、ステレオ録音のベースが右、ピアノが左、というちょっと薄め(とも言える)の音場の中で、軽々とノッているような感覚・・・説明しづらいのだが、そういう「軽み味」には、ステレオ盤の方が「合っている」というような、ごく感覚的な理由で、ステレオ盤の方がいい、ということなのだ。
それにしても、自分の手持ちRequestsは「溝なし」であることがはっきりしてしまったわけで、少々、落胆した。あのわずかな筋~段差を、無理やりに「溝」かもしれんぞ・・・と思い込もうとしていたのかもしれない(笑)

ピーターソンをもう1枚~Night Trainから1曲聴く。konkenさんのステレオ盤では、なぜかレイ・ブラウンのベース音がやや小さく聴こえるそうで、その点をYoさん宅で確認したかったとのこと。聴いてみると・・・左チャンネルのレイ・ブラウンのベースが、やや押さえ気味のバランスで、他のVerve盤で聴かれるいつものレイ・ブラウンと比べても音圧感が物足りない。
konkenさん手持ちステレオ盤は、ラベルの色が灰色っぽいもの(小筋)で、やや後期の再発盤かもしれない。
音全体がちょっとこもったような録音のように感じる。いずれにしても、先ほどのRequestsに比べると、だいぶん平凡な音だと思う。そして、レイ・ブラウンに関してはどちらかというと「よくない録音」かもしれない。
ちなみに僕も戻ってから、さっそくこのNight Train(ステレオ溝あり)も聴いてみたが・・・やはり同じようなバランス・音質で、ちょっと残念であった。ただ、このレコード・・・レイ・ブラウンが遠い代わりに、右側からのエド・シグペンのドラムスは、けっこう迫力のある録音だ。ハイハットがしっかり(ちょっとやかましいくらい)入っており、バスドラもちょっとこもり気味だが、音量豊かに鳴る。ドラムス好きには楽しめるレコードかもしれない。録音は1962年、エンジニアは、Val Valentineだ。

そういえば、もう1枚、強く印象に残っているピアノ・トリオの盤がある。
バリー・ハリス/Breakin' It Up(argo) all the things you are である。
この渋いピアノトリオのレコード、僕はCDとビクターの国内盤(ステレオ)を持っていた。
bassclef~「録音があまりよくない印象」に対して、Yoさん~「いや、そんなことはない「録音そのものはいいが、ピアノ自体がちょっとよくないのかもしれない」というようなやりとりがあった。そして、Yoさん宅で聴かせてもらったArgo のオリジナル盤(モノラル)では・・・う~ん、確かにピアノの響き、その余韻に若干の「古ぼけた」ものを感じたのだ。スタジオに置いてあったピアノの調弦が微妙にずれていたのかもしれない(ピアノというのは1つのキーに対して複数のスチールの弦(太い針金みたいなもの)を使っているのだが・・・その複数の弦のたった1本のピッチが微妙にずれている~そんな風に聞こえないこともなかった。よくホンキー・トンク・ピアノという表現で、場末のバーのピアノから聴かれるあの独特の「くたびれサウンド」あれが・・・調弦のずれたピアノの音、といえば雰囲気はお判りいただけると思う。もちろん、このバリー・ハリスの使ったピアノは、そんなにホンキー・トンクはしていないが、部分部分で、時にちょっとそんな響きを感じたのだ。あまり状態のよくないピアノだったのかもしれない。
そんなところまで~つまり「録音の拙さでのイマイチのピアノの音」ではなく「ピアノ自体の状態の拙さ」での、あのちょっとくすんだようなピアノ音~というところまで判ってしまった(少なくとも、そういう風に感じ取れてしまった)のだ。それにしても、このYoさんのシステムは・・・そのレコードのサウンドを聴けば、その時の演奏、そして録音の「真実」までもが、その場に暴き出されてしまうような・・・そんな「怖ろしい」装置だと言えるのかもしれない。

さて、この会・・・「その1」で書いたように、冒頭のラウズ3連発から、ほとんどテナー特集と化していった。

ラウズ(epic)の2枚とtakin'care(jazzland)の3連発
ズート・シムス/ズート!(riverside)白ラベル fools rush in
ベニー・ゴルソン/the other side of~(riverside)  jubilation
ジミー・ヒース/really bag から ?
ジョニー・グリフィン/Big Soul Band(riverside)から
deep river, jubilation 
ロリンズ/at the village vanguard(bluenote) softly as in a morning surrise
<ゲッツの Plays~聴き比べ>
JRモンテローズ/The Message(jaro)
straight ahead と violets for your furs
コルトレーン/coltrane(prestige)NY  violets for your furs
テディ・エドワーズ/It's About Time(pacific) fools rush in
エディ・ロックジョー/Tranckin'(prestige:青・イカリ RVG)
there'll never be another you
フリップ・フィリプス/I'll never be the same(ClefのEP盤)

どれもこれもいい演奏のものばかりで、これらのいくつかを続けてかけたり、もちろん間にヴォーカルなどを入れたりしたのだが、さすがにテナーばっかりではねえ・・・てなわけで「ミニ・アルト特集」となった。
フィル・ウッズである。

Dscn1695_1 Quincy Jones/Quintessence(impulse) A面1曲目のQuintessence~

この曲~ちょっと北欧の雰囲気が漂うような優雅なメロディだ~僕はもう大 好きである。
そして、この曲でフィルウッズのアルトが、もう巧さ爆発!何度聴いてもこの曲は厭きない。
輝くようなバックのブラス群の乗ってフィル・ウッズが唄い上げる。
このimpulseのVan Gelder録音は、特に好きだ。強すぎず、甘すぎず、適度な輝きと張り具合~バンドのメンバーが巧い人ばかりなのでそこのクインシーのアレンジが合わさって、ゴージャスなビッグバンドジャズが楽しめるいい1枚だと思う。

ウッズのもう1枚~Alive & Well 60年代後半の「激情ウッズ」の有名盤だ。この欧州オリジナル盤はジャケットも封筒型(上下が裏側に折り返している。全体に紙質が薄くて、その薄さに品がある)で、人気も高いらしい。
1曲が長いのだが、ウッズは最初から激情している。そして、途中のベースソロが・・・これはまたすさまじい音だった。アルトが鳴っている間は、ドラムのダニエル・ユメールも叩きまくるので、さすがにベースがちょっと隠れがちだが、ベースソロのなったとたん・・・録音技師がグンッとフェーダーを上げたに違いないのだが(ドラムの音も止み、入力オーバーにならないので)突然、ベースが巨大化する。
そして、サポートするリズムがない状態で、ベース特有の幽玄な世界に入っていく。このベース奏者、とにかく「熱いハート」があるなあ・・・ジミー・ギャリソンが時々見せるような「フラメンコ奏法」に近いような弾き方を混ぜて、堂々としたソロを展開する。この場面での音は・・・生のベースかもしれない。3人で聴いたが、この1968年頃は・・・ウッドベースに付けるアタッチメント(駒に貼り付けるタイプの小さいマイク)を付けた音なのかどうか微妙に判りにくい。生音をうんと近づけて録音したような音でもあるし、アタッチメントからの(電気的)音の配分を少なめにしてアンプから鳴らしているような音でもあるし・・・はっきりしない。だがひとつ言えるのは、ヨーロッパのべーシストはとにかく「巧い」ということだ。アタッチメント付きだったとしても、その前にまず、「ベースがよく鳴っている」 「しっかりと弾いている音」 「きちんとした音程」~そんな技術的な基礎がしっかりしているベースの音なのだ。一音一音のタッチに力感・質感がしっかりとあり、だから聴いていて全然、不快ではない。
1975年くらいのペデルセンも「巧い」ベースの代表だ。一時期のライブでは、どうしてもアタッチメント全開の電気的サウンドになったようだが、レコードではやはり「いい音」を出している。
そしてYoさんのウーレイは、こういう巧い奏者の音をひときわ甘く、そして音楽性豊かに鳴らしてくれるようだ。Jwalking ともう1枚のsteeple chase盤(ドラムスがビリー・ハートで、ギターが若いジョン・スコのやつ)を聴いたのだが、この装置で聴くペデルセンは、とにかく気持ちがいい。そういえば、1年半ほど前に初めてYoさん宅を訪れた折にも、たしかこのペデルセンのJwalking(LPとCD)を聴かせてもらったな・・・この日、聴いたのもやはり、カルロス・ジョビン作のFelicidade・・・甘い中にサウダージ(哀愁)を感じさせる見事なメロディ・・・好きな曲だ。そしてこの曲を選んで、ベースでメロディを弾くペデルセンのセンスにも素晴らしいと思う。
ちなみに、もう30年前のことだけど、このJWalkinにはちょっと思い出がある。ジャズ研の先輩ギターのケニー・マー坊氏の好きなレコードで、このLPの中の”J Walkin"にトライしていたので、何度も聴いたはずなのに・・・その頃にはペデルセン=巧いだけでおもしろくないべーシストという、全くレベルの低い思い込みで、深く聴こうというスタンスさえなかった。あの時、すでにボサノヴァ好きだった僕が、このFelicidadeを聴いていたならば・・・僕のジャズの好みというのは、どうなっただろう? そんな意味のないことを考えてしまう僕である。
ペデルセンということで、僕が持ってきていた1枚もかけてもらう。Dscn1696_1
ピーターソン/Great Connection(MPS/テイチク)just squeeze me 1971年録音。
この頃の録音盤をあまり聴かない僕なのだが、このレコードは例外的に好きな1枚だ。ペデルセンのたっぷりとしたベース音が軽くグウ~ンと伸びる様が、実に気持ちいいのだ。ベースという楽器の胴体や、弦の芯が鳴ってからの、アタッチメント増幅音なので(だと思う)軽々しくは聞こえない。
やはり、ペデルセンは本当に巧い!
ルイス・ヘイズの切れのいいシンバル音、そして軽めに弾くピーターソンの艶やかな音色とタッチ感(音圧にまだまだ余裕がたっぷりあるような感じ)も素晴らしい。そんな「好録音」のピアノトリオ盤なのだ。
それにしても、テイチク盤でこの音なら、MPSオリジナルならさぞや・・・(笑)

僕の手持ち盤から、もう1曲、お願いする。
Dscn1694 Blues For Tomorrow(riverside)~a sad thing
この1曲は、ハービー・マンのリーダーアルバム(great idea of Western Manne)からだ。このsad thing でのバスクラの音を聴いた時、「ぞぞ~ッ」とした(笑)もちろんハービーマンが吹いているのだが・・・怖ろしいほど透徹したような音色なのだ。a sad thingというタイトルからも覗(うかが)えるように、マンがそういう風に吹いているのだとも思うが、録音されたこの「音」も凄い!バスクラ自体をそれほど聴き比べる機会もないが・・・この音に、僕は驚いてしまったのだ。そしたら・・・この1曲(1枚)は、riversideにしては珍しい西海岸の録音で、マンの西海岸ツアー時にロスで録音されたとのことだ。どうりでいつものriversideの音とはちょっと肌合いが違ったわけだ。それにしても、ハービー・マンという人、たまに吹くテナーも巧いし、バスクラもこんな音で鳴らす・・・すごい才人だったのだろうな。

さて、この会。インストばかり聴いていたわけではない。ヴォーカルものを大好きなkonkenさんが、いい盤を持ってきたので、随所にそれらを混ぜながら進めていった。(以下4点は1144ross_2konkenさん提供)

Annie Ross/Gypsy(world pacific)から 
Overture 
Everything's C oming Up Ross

Darlene/The Nearness Of You(epic)1314_darlene_2

《このepic盤は、以前にrecooyajiさんに教えていただいたもので、それを気に入ったkonkenさんが速攻で入手した》

Greetje Kauffeld/Clifford : Sings To A Tribute To Clifford Browon(オランダomega)から1336kauffeld

I remember Clifford 《konkenさんのお気に入り盤。しっとりした風情のあるいい歌い手だ。70年代後半のオランダ録音だが、音は瑞々しい感じもあり、とてもいい》

Marlene/Marlene(savoy)から
Some Oter Time
If I Love Again

1322marlene_1 どれもよかったのだが、やはり、savoyのマーレーンは素晴らしかった。優しくて柔らかいマーレーンの声も、丁寧な唄い方も、そしてハンク・ジョーンズのバッキングなど全てが素晴らしい。以前、リキさん宅でこのマーレーン(僕の手持ちは、残念ながらAudiophileのreissue盤)をかけた時も、Yoさん、リキさん「いいねえ」とうなずいたなあ・・・そういえばあの時、リキさんが一言。「このトランペット、なんでこんなにエコーが・・・・」そう思って聴くと・・・たしかに、このレコードでのジョー・ワイルダー、いい感じで唄の合間にフレーズを入れるのだが、いかんせん・・・エコーがかかりすぎだ。やっぱりRVG録音だなあ(笑)
この「エコー」だけはちょっと気にはなるが、savoyのヴァン・ゲルダーは、適度に柔らかく、そしてベースやドラムスの音がtoo muchではなくて、ちょうどいいバランスなのだ。僕は、savoyでのヴァン・ゲルダーの音・・・嫌いではない。

こんな風に3人でいろいろ聴いていると、知らぬ間に・・・もう陽が落ちかけている。なぜそれが判るのかというと・・・二つの巨大なウーレイの1mほど後方の壁の高い位置に小窓があって、そこにはいつもカーテンがかけられているのだが、どうやらその方角が西側らしく、陽が落ちてくると・・・いつもそのカーテンが濃いオレンジ色に染まってくるのだ。そのオレンジ色を見ると「ああ・・・もう夕暮れかあ」という気持ちになってしまう。6時にはおいとまする予定だったので、もうあまり時間がない。こりゃあ、いくら時間があっても足りないや(笑)そんな僕らの気持ちを見てとったか・・・「僕はもうちょっと遅くなってもいいですよ」と、Yoさんが助け船を出してくれた。「いやあ・・・それは・・・」と恐縮するkonkenさんと僕。しかし・・・その恐縮にはあまり迫力がない(笑)ほとんど「そうしてもらっていいですか?」という雰囲気が顔に出ていたのだろうと思う。「ちょっと休憩がてら外で軽く何か食べて、それからまた少し聴きましょう」というYoさんのありがたい申し出に乗っかった格好で、それでは・・・pm9:30をリミットに第2部をやりましょう!ということになった。いやあ・・・これはうれしかった(笑)実際、その方が夕方の渋滞からも逃れられるし・・・いや、それよりなにより、もうちょっとこの音を聴いていたいのだ・・・よかったあ! Yoさん、ありがとう!

そうして第2部(pm8~9:30)でかけたのは・・・
エラ~
Songs In A Mellow Mood(decca)~
米decca:ジャケが灰色でなく青っぽい色のやつ。若いエラがちょっと前田ビバリに似ている(笑)
英brunswick(エラの声、輪郭がやや細くなるが気品を感じる。若くてきれいになったような感じ)

アン・バートン~
ballads & burtonとblue burton を Artoneのオリジナル、Artoneの2nd?(2枚組の1976年の)とオランダCBSの盤で聴き比べをしてみた。
Artoneのオリジナル~ballads & burtonは、瑞々しさがいっぱいでやはりいい! ところがblue burtonの方、これはどうやら・・・プレス段階の不具合らしいのだが、ヴォーカルやピアノやらの音圧が上がった箇所で「歪む」のだ。ちなみに、同じArtoneを2枚買ったパラゴンさんによると、やはり2枚とも、同じ箇所で「歪む」そうだ。2ndでは「歪まない」。
Artoneの2nd?(2枚組の1976年の)~悪くない。ただ、やはりベースのキレが、ややなくなったような感じはある。
オランダCBSの盤(blue burtonのみ)~歪まない。けどちょっと鮮度が落ちたかな・・・。

サラ・ヴォーン~
swingin' easy(emarcy) p :ジミー・ジョーンズ、b :リチャード・デイビス、ds:ロイ・へインズ、 
After Hours(roulettte) 伴奏はドラムレスで、b:デュビュビエ、g:マンデル・ロウなどであった。

Swingin_sarahここでは、swingin' easy(emarcy) のことを少しお伝えしよう。
このemarcy盤・・・サラが椅子に座っているジャケットで、あまり知られているレコードではないように思うが、むちゃくちゃいい音だった。サラの声だけでなくドラムのブラシのざわざわ感や、ベースの音圧、ピアノの艶・・・鮮度感もたっぷりの文句なしにいい音だった。サラもこの頃は、まだ可愛げがあるかな(笑)
《上と下の写真2点~Yoさん提供》

Yoさんが、polka dots & moon beamsをセレクトする。
実はこのバラードには、とんでもない場面があった。知っている方は知っているアレだ(笑)
ピアノのイントロから、サラが情感込めて静かに歌いだしてすぐ・・・全く唐突に「ドタっ!」という音が鳴ったのだ!それもかなり大きな音だ。その「ドタッ!」の、あまりの違和感に、3人とも思わずスピーカーの方を振り向いた。「何? 今の音・・・」 もう一回聞いてみる・・・「ドサッ!」はっきりと聞こえる。・・・どうやら何かが落ちたような音か・・・いや・・・バスドラの音だぞ・・・と、僕は言う。だとしたら・・・この「ドサッ!」は、ロイ・へインズの「演奏」なのか? いや、どう聴いても・・・この音は、意図した音には聞こえない。鳴るタイミングもあまりにも中途ハンパの場所だ。
「音楽」になってない。だから・・・演奏での音ではないだろう、と僕らは推測をした。
では、なぜあんな音が鳴ったのか?
konkenさん~ロイへインズの単純ミス説<たまたま右足を降ろしたら・・そこにバスドラ・ペダルがあった>
(笑)
bassclef~ロイ・へインズのミスはミスだが「バスドラ・ペダルのチェック説」
つまり・・・<ペダルの踏み具合を何気なくチェックしようとして(鳴らすつもりではなく、軽く踏むだけのつもりだったのだが、足が勝手に踏み込んでしまった>(笑)Swingin_sarah_l
《補足》このロイ・へインズの「ドサッ!」については、その後、konkenさんから、素晴らしいコメントをいただいた。「あれはミスではなかったかも・・・polka dots~という曲の中の歌詞(bump:ドスンという音/人がぶつかること、というような意味)に合わせて、ロイ・へインズが意図的に出した音だろう」という「新発見」である。コメント欄もぜひお読みください》

それにしてもサラ・ヴォーンは偉い。バラードの出足にあんな音響が鳴ったというのに、動じることもなく、そのまま唄い続けてしまう・・・プロですね。
いや・・・それでもあの「音」の後に、すっと振り返り、ロイ・へインズを睨みつけたかもしれない(笑) そうしてロイ・へインズの右足が凍りついていたのかもしれない。
実際・・・この曲では、もう2度とバスドラの音は鳴らなかったのだから(笑)古いレコードの中に潜んでいた、こんなエピソードと共に、この会もようやく終わろうとしているのだった。

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2006年9月26日 (火)

<思いレコ 第12回> Ernie Henry/Presenting(riverside)

ウイルバー・ウエアのこと(その2)Wilbur Ware の discography

_002_3 昨年8月頃~夢見るレコード<やったあレコ 第3回> After Hours Jazz(Epic) ああ、エルヴィン!~の記事中に、エルヴィン・ジョーンズ参加作品のディスコグラフィ(1959年くらいまでの)みたいなものを載せたことがある。あのリストは、主に(コルトレーンとの共演以外の)「ハードバップのエルヴィン」という興味から、1959年くらいまでの参加作品をまとめたものだった。

僕は一人のミュージシャンを好きになると、しばらくの間、そこに集中してしまう(笑)前回の<夢レコ>でフューチャーしたウイルバー・ウエアについても、一時期あれこれと調べてみたことがある。ちょうどその頃、発売され始めたリヴァーサイドのビクター盤裏ジャケットに載っているウエアの参加作品紹介などを参考にして、ウエアのディスコグラフィを作ったりしていた。
しかし、そのビクターの国内盤発売がひと段落してしまうと・・・ウエア参加盤は、なかなか見つからなくなった。もうないのかな・・・と思ってる頃に、米ファンタジー社からOJCシリーズが発売されるようになって、それまで全く知らなかったリヴァーサイド盤やプレスティッジ盤が次々と発売されるようになった。そしてそれらの中に、ウイルバー・ウエアの参加作品がけっこうあったのである。それらも含めて、とりあえず僕が知っているウエアのレコードをまとめてみた。

そんなわけで、今回は、ウイルバー・ウエアのディスコグラフィを載せたい。もちろん未完なのだが、とりあえず録音年と月の順番で並べてみる。
その後で、思いつくままにいくつかの盤について、あれこれと書いてみたいと思う。

*もちろんウイルバー・ウエアの参加作品は、他にもまだあるはずである。ご存知の方は、ぜひコメント欄にてお知らせください。

  1. Johnny Griffin/J.G.(cadet) 1956年
  2. Art Blakey & Jazz Messengers/The Cool Voice Of Rita Rey
   (phillips) 1956年6月(2曲のみ)
  3. Art Blakey & Jazz Messengers/Originally(columbia) 1956年
  (2曲のみ)
  4. Ernie Henry/Presenting(riverside) 1956年 8月
  5. Matthew Gee/Jazz By Gee!(riverside) 1956年 8月(A面5曲)
  6. J.R.Monterose/~(bluenote) 1956年10月
  7. Zoot Sims/Zoot(riverside) 1956年10月
  8. Lee Morgan/Indeed(bluenote) 1956年10月
  9. Kenny Drew/This Is New(riverside) 1957年 3月
10. Hank Mobley/Hank(bluenote) 1957年 4月
11. Herbie Manne/The Jazz We Heard Last Summer(savoy)
  1957年 5月(B面2曲)
12. Thelonious Monk/Monk's Music(riverside) 1957年 6月
13. (various artisits) /Blues For Tommorrow(riverside) 1957年 6月
  (1曲のみ)
14. Thelonious Monk/Monk With Coltrane(riverside) 1957年春
  (とされているが、どうやら1957年夏の録音のようだ)
15. Sonny Clark/Dial S For Sonny(bluenote) 1957年 7月
16. Jenkins, Jordan & Timmons(new jazz) 1957年7月
17. Thelonious Monk/Monk Meets Mulligan(riverside) 1957年 8月
  (オルタネイト・テイク集のLPも出た)
18. Ernie Henry/Seven Standars and Blues(riversied) 1957年 9月
19. Kenny Drew/Pal Joey(riverside) 1957年10月
20. Kenny Drew/I Love Jerome Kern(riverside) 1957年
21. Kenny Drew/Harry Warren Show Case(judson) 1957年
22. Kenny Drew/Harold Aren Show Case(judson) 1957年
23. Dick Johnson/Most Likely(riverside) 1957年10月
24. Wilbur Ware/Chicago Sound(riverside) 1957年10月・11月
25. Sonny Rollins/A Night At The Village Vanguard(bluenote)
  1957年11月
26. Sonny Rollins/More From The Village Vanguard(bluenote)
    1957年11月
27. Kenny Dorham/2 Horns, 2 Rhythm(riverside) 1957年12月
28. Toots Thielmans/Man Bites Harmonica(riverside)  1957年12月
29. Toots Thielmans/Time Out For Toots(decca) 1958年 1月
*上記のデッカ盤~ベースはダグ・ワトキンスでした。
30. Johnny Griffin/Way Out(riverside) 1958年 2月
31. Johnny Griffin/~ Sextet(riverside) 1958年2月
32. Blue Mitchell/Big Six (riverside) 1958年7月
33. Tina Brooks/The Waiting Game(bluenote) 1961年 3月
  (モザイクのティナ・ブルックスboxセットが初出自。その後CDで発売)
34. Clifford Jordan/Starting Time(jazzland) 1961年 6月
35. Grant Green/Remembering(bluenote) 1961年 8月
36. Charles Moffett/The Gift (savoy) 1969年
37. Paul Jeffrey/Family (mainstream) 1969年
38. Clifford Jordan/In The World (strata east) 1969年
39. Cecil Payne/Zodiac (strata east) 1969年・1970年
40. Walt Dickerson/Tell Us Only Beatiful Things(whynot) 1975年
《以下、追加》
41. Music Minus One:Alto Sax,Jazz Rhythm Records(MMO)
42. RAVE/LPS 502/SAVINA/SAVINA AND ALL THAT GENTLE JAZZ
     (未確認)
このリストの中で持ってないのは、34.36.38.である。
34のRememberingは、1980年頃にキングの世界初登場シリーズだったかで出たことがあるのだが、つい買いそびれた。
たぶん・・・グラント・グリーンの米capitolのCD(タイトル不明)この音源が入っているかと思う。

・・・さて、ウイルバー・ウエア。
1956年のargoのジョニー・グリフィン。このJ.G.のオリジナル盤は・・・ジャケットが「カンガルー・スピリット方式」で有名なのである。
このJ.G.については、リンクしてある NOTさんのブログ these music suit me well に詳しい。
僕の手持ちは、1975年のビクター盤で、もちろん、ジャケットは左右に分かれない(笑) ウエアの(僕が知っている限り)初録音らしいが、リーダーがジョニー・グリフィンなので、さすがのウエアもちょっと遠慮しているのか・・・1年後のもう本当に自由自在に飛び跳ねているかのような感じに比べると、案外におとなしく弾いているように聞こえる。ソロ場面もほとんどない。
それと、どの曲も3分程度と短く、あっさりと1曲が終わってしまうので、「ゴリゴリのハードバップ」を期待すると、ちょっと違うようだ。いつもはもっと豪快に演っているシカゴ一派が、今日はちょっとヨソイキの演奏をしました・・・という感じだったのかもしれない。しかしながら、A面4曲目に riff-raff というウエアのオリジナル曲が1曲だけ配置されており、この曲ではウエアの「ウエア節」がたっぷりと聴ける。グリフィンのテナーは、どの曲においても、もうすでに・・・「グリフィン」である(笑) 

それにしても、こうやって並べてみると・・・ウイルバー・ウエアの参加レコードは、やはりリバーサイドに圧倒的に多いようだ。
ケニー・ドリューとのjudson2枚も含めると、20枚もある。そのriverside音源のほとんどはOJC盤で入手したが、なぜだかOJCでは発売されなかったタイトルもいくつかあった。ケニー・ドリューとの諸作(19~22番)である。
19番については、ビクター国内盤CDでガマンしたが、他の3タイトルは、長い間どこからも出なかったはずだ。

_003_4うれしかったのは・・・20番の I love Jerome Kernである。これはWAVEシリーズの第1回発売タイトルに含まれていて、僕は雑誌の広告で見たような記憶があった。しかし、WAVEの復刻シリーズもこの頃はあまり認知されていなかったようで、地方都市では販売されていなかった(笑)
そうこうしているうちに・・・浜松の中古レコード店で、この I Love Jerome Kern を発見したのだった。

ついでに言うと・・・前述のJudsonの2枚も、OJCではついに出ずじまいで、このWAVEシリーズのだいぶ後の方の回で~しかも一度、発売延期になった後にようやく~復刻されたのだった。この2枚は3000円もしたが、ウエア聴きたさに・・・いや、もちろんジャケットの魅力もあり(笑)すぐに入手した。ドリューとのデュオ演奏ということで、ウエアのベースが張り切ってピアノに絡んでくるような展開を大いに期待したのだが・・・ベースの録音自体も「遠い音」だし、演奏としてもウエアは全くピアノに「絡まない」ことが判り、ちょっとがっかりした(笑) もっともそんなことは、judsonというレーベルがムードミュージック系のコンセプトらしいことを考えれば~それはジャケットのムード路線を見れば判ることだ~大いに想像がつくことだったのかもしれない。それでも・・・裏ジャケには Kenny Drew at the piano の下に小さい字で accompanied by Wilbur Ware とクレジットされている。_003_5 _004_10

   

《この写真の2枚は、judsonのオリジナル盤。どうしても欲しくて2年ほど前に入手した。ずしりとくる盤の重さが・・・うれしい。
しかしながら、内容に期待してはいけない:笑》

僕にとっては「やったあレコ」と呼べそうな珍盤がある。
それが40番にリストした Jazz Rhythm Records:Music Minus One/Alto Sax である。
特殊なものなのであえて40番目とした。何が特殊かというと・・・このレコードは、通称、MMO(ミュージック・マイナス・ワン)と呼ばれる(たぶん)ジャズ演奏の練習用のレコードなのだ。この盤は「アルト編」で、いくつかのスタンダード曲を、アルトで吹きやすいキーでやっている。
ただ・・・あくまで「練習用」なので、最初のテーマ部分でも~当然ここでメロディが出てくるはずの箇所でも~ピアノ、ベース、ドラムは、バッキングだけやっていて、テーマ部分は誰も吹いていないのである。その空白のメロディを「あなたが吹きなさい」という趣向のレコードなのだ(笑)
だから、もしMMOということを知らずに、このレコードを聴いていると・・・かなりお間抜けな感じを受けるだろう(笑)
ちなみに Don Abney(p)、Mundell Lowe(g)、Bobby Donaldson(ds)、それからWilbur Ware(b)という
カルテットではある。推定だが録音は1961年頃か? M1_1

おもしろいのは・・・いくつかの曲ではベースにソロスペースが与えられており、ウエアは、普通にべースソロをとっているのだ。
このレコードは、なかなかの珍盤だろう。裏ジャケットを見ると、他にも「テナー編」や「トロンボーン編」、それに「トランペット」、「ギター」に「ピアノ」、それから「ドラム」や「ヴィブラフォン」の写真まである。僕はアルト編しか持ってないが、おそらく他の盤のいくつかには、共通のリズムセクションが使われていたはずだ。ウエアが参加しているのなら、ぜひ聴いてみたいものだ(笑)

このリストでのriverside盤、僕の手持ち盤はほとんどOJCなのだが、数少ないオリジナル盤が、4番のアーニー・ヘンリー/Presentingである。この盤には、ちょっとした歴史がある(笑)
・・・というのは、この盤は、僕がちょっと、いや・・・かなりの無理を言って、大阪のYoさんから譲っていただいたものなのだ。
2005年9月~最初にYoさん宅におじゃました時、Yoさんとレコード店(冗談伯爵)で待ち合わせた。2人で20分ばかりレコードを探していたのだが、斜め向かいでエサ箱をチェックしていたYoさんがこの盤を取り上げた。それを見た僕は~それまでのYoさんとのメールのやりとりで、ウイルバー・ウエアの話しが出ていたこともあり~「ああ・・・それはいい盤ですよ。アーニー・ヘンリーにちょっとクセがありますけど」などと言ったはずだ。riverside青ラベル:モノラル盤としては、良心的な価格だったように思う。Yoさんは、「よしっ!」と一声。即、購入決定だ。
Yoさんは、モンク作品では「ブリリアント・コーナーズ」が好きだとのことだったので、もちろんアーニー・ヘンリーというアルト吹きの「人となり」は知っているはずだ。あのアルトに拒否反応ということはないだろう・・・でも僕も薦めた手前、ちょっと心配ではあった。「あんまりよくなかったら、申し訳ないなあ(笑)」と僕。

2006年6月~Yoさん宅再訪の折、僕は2枚の「日本盤」を持っていった。ビル・エヴァンスの「コンセクレイションズ」(2LP:アルファ)と「コンセクレイションズ2」(1LP:アルファ)である。
やはり、そのちょっと前のメールやりとりで・・・僕の方は晩年のエヴァンスにそれほど強くは惹かれていないのだが、Yoさんは逆にあの「鬼気迫るような」エヴァンスの音楽にすごく魅力を感じている~ということが判っていた。そしてYoさんは、オランダ盤のエヴァンスのライブ盤(日本盤と同じ内容のキーストンコーナーでのライブ)を入手したので、僕の持っている日本盤2LP~発売時点ではこれがオリジナルということにはなる~と聴きくらべてみたい、ということであった。こんなやりとりの間からも、Yoさんがこの2LPにも強い興味を持っていることが伝わってきたのだ。このエヴァンスの日本盤2LPはヤフーなどでも案外に人気がある、とのことだった。

僕も「エヴァンス好き」ということでは相当なものだと思っているが、最晩年のエヴァンスは・・・「息せき切って、ただただ自分の音楽を発露している」という感じがして、聴いていて何かこう・・・辛い(つらい)のだ。ベースのマーク・ジョンソンも好演しているので、何度か聴いたのだが「辛くなるような感覚」をどうしても拭(ぬぐ)えないのだ。そんな僕の事情と、この日本盤に対するYoさんの思い入れが、ちょうどうまい具合に重なって、何かの盤と交換することになったのだ。その時、僕のアタマに浮かんだのが・・・・あのアーニー・ヘンリーだったのである。エヴァンス日本盤に多少の人気があろうとも、この申し出は自分でも、ずうずうしいにも程がある!思ったのだがなんとしたことか・・・Yoさんは即座にOKしてくれたのである!「この盤はbassclefさんが持っていた方が幸せでしょう」と。_005_6

《Presenting(RLP 12-222:モノラル青ラベル)~純正オリジナルは「白ラベル」で「青ラベルは2ndで」とのことだが、この「青ラベル」も充分に音はいいのだ》

内容は・・・これはもうアーニー・ヘンリーの、あの「重い音色とためたノリ」での独特のねちっこいフレーズ~そうとうに暑苦しい(笑)~
が満喫できる素晴らしいものだ。ヘンリーの一音一音に「気合」を感じるのだ。その気合に応え、これも怖ろしいほど「重い音」をぶちまけてくるウイルバー・ウエア。それから、キレのいいトランペットも聞こえてくる。「あれ、このトランペット、誰?」と思うと・・・これがなんとケニー・ドーハムなのだ。ドーハムではあるのだが・・・こちらが勝手にイメージしていたような弱々しい音色のドーハムではないのだ。キレがあって味がある・・・そんなトランペットだ。ピアノのケニー・ドリュー、アート・テイラーも、みんなが張り切っていいソロを繰り出してくる。特に、B面3曲目のcleo's chant はマイナー調の曲で、この盤の全体に流れる重々しいムードによく合っており、好きな演奏だ。そしてこの曲でのウエアのベースソロ!音がとにかくでかい。そして重い。それから・・・あの独特なノリ!<4ビート2小節(8拍)に「1、2、3、4、1、2、3、4」と素直に乗らずに・・・「1、2、3、1、2、3、1、2」という感じに乗ってくる> 1956年のこの時点で、もう完全に「ウエア節」である。全く one & only なベース世界だ。僕はウエアのソロが始まると・・・嬉しくてなっていつもゲハゲハと笑ってしまう。

・・・そんなわけで、冗談伯爵でYoさんが見つけたあのriverside盤~コーティングが厚くて、深い緑色の背景にヘンリーの白いシャツがよく映える~Presentig は今、僕の手元にある。
ウイルバー・ウエアの入ったこの盤は・・・Yoさんと僕の、いわば友情の証しのような盤かもしれない。
そういえば・・・「コンセクレイションズ」を購入した折、中のハガキを送ると「もれなく」未発表音源のシングルCDをプレゼント!ということで
そのシングルCDも持っているのだった。この3曲は、どれもフェイドアウトしてしまうし、それに何年か後に「コンセクレイションズ2」で世に出た音源なので、大した価値もないが・・・エヴァンスの「コンセクレイションズ:記念のセット」として、ぜひともYoさんに持っていてもらわなくてはいけない(笑) 

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