バラード

2019年12月31日 (火)

<ジャズ雑感 第41回> ヴィクター・フェルドマンという人

何十年もレコードを聴いていると『う~ん、何を聴こうかなあ・・・いいのが無いなあ』と、こんな風に積極的に聴きたいと思えるレコードが一向に浮かんでこない・・・無理やり何かを選んで聴いてみても・・・やはりイマイチ良くない。そんな経験が誰にもあるかと思う。そんな時、僕の場合は「困った時のマイルス」である(笑) 
つい先日も、そんな状況から選んだ「マイルスもの」は Seven Steps to Heaven(columbia)だった。そしてこのレコードを掛けてその音楽が流れてくると・・・目論見どおり、すぐに僕は幸せな気分になれたのである(笑) そしてこのレコードを聴くといつも・・・こう思う。
『ヴィクター・フェルドマンのピアノはいいなあ』と。
Miles-seven-3092

この作品はハリウッドとニューヨークでの2つの録音セッションから3曲づつ収録されていて、一般的には、ニューヨーク録音~ピアノにハービー・ハンコック、ドラムがトニー・ウイリアムスということもあって、その凄くかっこいい(ジャズのサウンドとしてスタイルが新しい)収録曲~seven steps to heaven, so near so far, joshua の方により人気があるかと思いう。まあ人気というより、この作品のシャープで現代的なイメージがこの3曲に象徴される感じか。そしてそのことに対して僕にもまったく異論はない。実際、この3曲は素晴らしいのである。何がどう素晴らしいか・・・ひとことで言うと、とにもかくにもトニーウイリアムスのドラミング(ドラムの叩き方)が凄いのだ。それまでとは明らかに違う、新しくてかっこいい叩き方なのだ! 
seven steps~での管が吹く『パっ!パっ!パっ!パッ!パ~パ~パッ!』というテーマ(メロディーというより、ぶち切るスタッカートだけの合わせ)の後の3小節のドラム・フィル(短いソロとも言える)を聴けば、なにかしらそれまでのドラムの乗り方と違う感じを受けるはずだ。
『スタタタッ・スタッ・スタッ・ッタ・ッ・ッ・タタッ!~』う~ん、凄い!かっこいい!こんな音、とても文字では表せません(笑)そして音楽の音というものは聴いて感じるものだと思うが、敢(あ)えて説明的に言えば・・・このかっこよさとは・・・4ビートの内に8ビートの感覚を混ぜてきた乗り、という感じかな。僕が思うに、これはなにも「新しい」から賞賛されているわけではなく、なんと言うか・・・このサウンドを耳にすると・・・とにかく気持ちいいからなのです(笑)
あ、いや、しかし今、僕が語りたいのはトニーのドラミングのことではなく、ヴィクター・フェルドマンのことであった。実は今、その斬新さを褒め上げてきた、この seven steps to heaven なる曲を創ったのが・・・ヴィクター・フェルドマン、その人なのです!2管が短く切る音だけで『パっ!パっ!パっ!パッ!パ~パ~パッ!』そしてその後の3小節を埋めるドラムソロ!その後、もう一度、パ~パ~パッ!+1小節ドラムがあって、今度はすうっと流れるようにビートを効かす8小節~これが「ぶち切ったような」提示テーマの後だけに、この流れるような感じが気持ちいい。そして再び「ぶち切りテーマ」に戻り1コーラスを終える。
う~ん・・・こんな曲の構成を思い付くとは・・・もうそれだけで、ヴィクター・フェルドマンという人は凄いじゃないか!

しかし、そのフェルドマン氏にとってアンラッキーと思えることがある。この秀逸な自作曲(seven steps~)を引っ提げてマイルスとの1963年4月のハリウッド・セッションに臨んだわけで、当然、この自作曲も録音されたはずなのだが、そのseven steps~は発表されなかったのである。
<追記~ところがその1963年4月録音フェルドマン入り seven steps to heaven の音源・・・
録音から41年後の2004年に発表されていたのである。下の青文字・追記2ご参照下さい>
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発売されたLPに採用されたのは、1か月後の1963年5月に録音された前述のニューヨーク録音の seven steps to heaven だったのである。ちなみにその3曲の中の so near so far については4月のハリウッド録音の同じ曲が Directionsという2枚組で発表されている。この so near so far の2つのテイクの違い・・・これは実に興味深いです。12/8リズム(1拍3連を4回続けるようなリズム)に乗せて圧倒的にモダンなNYC録音の so near so far。これに対し、後年に発表された Directions 収録の so near so far は、ちょっと速め
テンポのわりと普通の4ビートなのである。しかし・・・これも悪くない(笑)

*追記1~ニューヨーク録音3曲の残りの1曲、Joshua もヴィクター・フェルドマン作曲でした。こちらも、もしもハリウッド録音が残っているのならば、ぜひ聴いてみたい(笑)
*追記1’~この Joshua にもハリウッド録音が在りました! フェルドマン絡みでメールやりとりをしていたsige君が知らせてくれました。
下記のマイルス7CDに収録されているようです。you tube音源のアドレスはこちら~
https://www.youtube.com/watch?v=CHWetvUQU1Q&feature=youtu.be
 

*追記2~ところが!そのフェルドマン入り(4月ハリウッド録音)の seven steps to heaven が残っていたのである! ひょっとしたら・・・という気持ちで色々と検索していたら見つかりました。
Miles Davis/Seven Steps:The Complete Columbia Recordings of Miles Davis 1963-1964(2004年・CD7枚組) というタイトルで発売されていて、1963年4月17日・ハリウッド録音として、seven steps to heavenの2つのテイクが収録されているようです。念のためyou tubeでも検索してみたら、その問題の2テイクの音源が載ってました。
p~フェルドマン、ds~フランク・バトラーです。興味のある方、ぜひ聴いてみてください。上がtake5、下がtake3です。
https://www.youtube.com/watch?v=UZKArpIsbBk&list=RDUZKArpIsbBk&start_radio=1 
https://www.youtube.com/watch?v=UH-jOzeeRg0

僕は・・・さっそく(笑)その seven steps to heaven、2テイクとも聴いてみました(クレジットではtake5、take3となっている)以下、私的な感想~
NYC録音(トニー、ハンコック入り)と比べると、テンポがやや遅めになっているが、テーマ部分のベース、ピアノ、2管の合わせはほとんど同じ。ただソロ順が違って、テーマの後、先にジョージ・コールマンのソロ、それからマイルスのソロとなっている。そしてフェルドマンのソロ・・・これ、作曲者だけあって・・・まったく素晴らしいです!その後、ピアノソロか合わせなのか、やや曖昧なままドラムと若干の絡みがあって、ラストのテーマに戻る。ソロの間の合わせの部分に若干の綻び(ほころび)があるかもしれないが、もちろん充分にかっこいい演奏である。フェルドマンのピアノのテーマ合わせ・ソロに拙い点は全くない。フランク・バトラーだってまったく悪くない。「乗り」の基本が4ビートというだけで、それはその時点では当たり前のことだったわけで、全体的にブラシを多用したセンスのいい、充分にかっこいいドラミングなのである。しかも!僕が seven steps to heavenの演奏で最も印象に残っている1か所~それは演奏の最後の最後・・・トニーが短いロールを入れてそれをクレシェンド、デクレシェンドさせて、すうっ!と終わるあの場面・・・あの秀逸なドラムの演出・・・あの部分をバトラーがこのNYCよりも1か月前の演奏で、すでにやっているのである!アレは・・・果たしてマイルスのアイディアなのか、あるいはバトラーがハッと思い付いてやったのか・・・? いずれにしても、NYCセッションでのトニーのあのエンディング部分での「ロール」は自己のアイディアではなかった・・・ということになる。そんなわけで・・・フェルドマン作曲の seven stepsにはハリウッド録音も存在したが、なぜか発売
されたのはNYC録音テイクになってしまった。そうなった理由は、決してフェルドマンやバトラーの演奏の出来が悪かった~ということではなく、トニーのドラミングがあまりにも革新的で凄すぎたからなのだ!そして常に新しいかっこいいスタイルを目指すマイルスが、この「新しいノリ/新しいサウンド」を獲得してしまったのだ・・・マイルス(CBS側)にしてみたら、この新作レコードはマイルスの新バンド~トニー、ハンコックの入った)のいいプロモーションにもなるし、フェルドマンには申し訳ないが(作曲のクレジットは入っているので著作権料がフェルドマンに入るからいいだろう・・・)ここはNYCセッションのテイクでいこう!・・・そんなところだったのではないだろうか?

そして・・・Joshua のハリウッド録音テイクも、テーマ部分、2管のハーモニー、ピアノのコンピング(和音での伴奏)など 正式発売されたNYCテイク と同じ。やはりフェルドマン自作曲においてはきっちりとその型が完成されていたのだ。ただ、seven~同様に、NYCテイクよりもやや遅めのテンポでゆったりした感じにはなっている。だがその分、マイルス、ジョージ・コールマンのソロは、余裕をもってじっくりフレーズを展開させていて・・・なんだかこちらのテイクの方が味わい深い。

*追記3~未発表音源を集めた2枚組 Directions は1981年に発売された(日本盤はサークル・イン・ザ・ラウンドというタイトルで発売されている)

傑作自作曲が自分の演奏したテイクで発表されなかったこと・・・このことがフェルドマン氏にとって不幸なことだったかどうかは微妙な問題なので置いといて~マイルスからのバンド参加の要請を、フェルドマンが丁重に断った、ということらしい~まずは「フェルドマンのピアノ」について語りたい。ここで、僕が聴くたびに『いいなあ・・・』と感じるロスアンゼルス(ハリウッド)録音について触れておかねばなるまい。
basin street blues,
I fall in love too easily,
baby won't you please come home 
~これら3曲である。
先に言ってしまうと・・・この3曲がバラード(ゆっくりしたテンポの静かめな演奏)ばかりでどれも絶品なのだ。マイルスのバラードの巧さは、これはもう誰が聴いても素晴らしい!と感じるだろう・・・いや、ものごとにはすべて好みの違いという側面があるから、オレはマイルスのバラードは嫌いだ!という方もいるでしょう。だからもちろん僕の好みでの話し~ということでご理解してもらって(笑)、僕はそういえばジャズ聴きの初期からマイルスのラウンドミッドナイトやマクリーンのレフトアローンを聴いて好きになったので、まあ抒情的なバラードが元々、自分の好みだったということかと思う。
そんな風だから、マイルスのこの<Seven Steps to Heaven>を聴いて バラードで演奏された I fall in love too easily  をすぐに好きになった。後にシナトラの歌を聴いてこの曲をもっと好きになった(笑)そして他の2曲も聴けば聴くほどに心に染み入ってくるわけである。
A面1曲目は basin street blues は、うんと古い曲のはずだが、ものすごくゆっくりしたテンポの、なんとういうか・・・マイルス・マジックによって、かっこいいブルージーでモダンなバラードに仕上げられている。
テーマのメロディーはタイトルどおりブルースっぽい感じか。そのメロディーをマイルスは、止まりそうなゆっくりテンポの下、ミュート・トランペットから生み出す厚みと深みのある音色、そして息の長いフレーズでこの曲の物語を綴る。その妙をじっくりと味わうと、次は
フェルドマンのピアノだ。
フェルドマンのソロ(アドリブ)終始「歌って」いると思う。その時の音楽がごく自然に流れるように歌おうとしているように感じる。右手のシングルトーンは、慌てることのない溜め気味の乗りで、決して弾きすぎることなく、気の利いたいいフレーズ(メロディー)を繰り出してくる・・・そこに左手でスタカート気味のコード(和音)を差し込んでくるのだが~この辺、ちょっとウイントン・ケリーに似ている(笑)~それを右手のフレーズのリズムと合わせるような弾き方に変化させつつ、徐々に盛り上げてくる・・・そんな感じだ。そうしてそれらは基本的に、静かな中での盛り上げ方であって、なんというか・・・誠に品がよくて情緒がある。だから僕はフェルドマンの、バッキングやソロを聴いていると、いつも『う~ん・・・いいピアノだなあ・・・』と感じてしまうわけだ(笑)
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そしてもうひとつ、とても大事なことがあって、それは録音の質感である。CBSの録音は丸みがあってそれも僕の好みなのだが、特にこのハリウッド録音3曲には、どの楽器の音にも、しっとりした仄(ほの)かに温かみのあるような質感があって、なんというかそれがマイルスのミュート付けたトランペットや、それからこのフェルドマンのピアノの優し気なタッチ、品の良さと似合っている。
さて、
フェルドマンのリーダー作は幾つかあるのだが、イギリス時代のヴィブラフォン中心のものとか、映画にリンクした企画ものなどが多くて、フェルドマンの情緒感のあるピアノをじっくり味わえる作品が案外に見つからない。いや、ひとつ、いいのが在った。

riverside の Merry Olde Soulというレコードである。これ、最初はOJC盤で聴いてその録音・収録曲、そしてもちろん演奏の良さ・・・つまり全面的に素晴らしい内容に驚いた。
(2009年7月「リヴァーサイドの不思議」2人のエンジニア~Jack HigginsとRay Fowler という記事を書きました。ここからどうぞ)
その Merry Olde Soul~2年ほど前にようやく黒ラベルのステレオ盤を入手した。このレコードは1961年1月の録音でエンジニアはレイ・フォーラー。録音が良い、というのはピアノの音にしっとり感があって、それから特にサム・ジョーンズのベースの音が素晴らしいからだ。サム・ジョーンズは僕も好きなベース弾きだけど、録音(作品)によって、やけにペンペンと薄い音に聞こえたりすることがあって(レッド・ガーランドとの盤など)それが残念なのだが、この Merry Olde Soul のベース音は、全体に音圧感が高めで、切れの良さに加えて適度に厚みもあって、とってもいい! そう、ブルー・ミッチェルの『ブルー・ムーズ』でのサム・ジョーンズの音色とほぼ同質と言えそうだ(ブルー・ムーズのエンジニアもやはりレイ・フォーラー)
この中に特に好きな1曲がある。
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A面3曲目の serenity という曲である。ちょっとクラシックっぽい格調高い甘い曲調かもしれないが、僕はこの曲(とその演奏)がどうにも好きなのである。ちなみにserenityという単語を辞書で引いてみると・・・うららかさ、静穏、平静というような意味とのこと。この曲・・・正にそのタイトルどおり、清らかさを感じるような静かなバラードだが、曲の最後の方では、この静かなる男が控えめに、しかし、じわ~っと盛り上げてくる。両手をフルに使ってトリルというのか、たくさんの音を途切れないように連続してくる感じで、それをクレシェンド(だんだん強くする)させてくるのだ。しかしそのクレシェンドは案外に短めで、決してくどくはない。このserenity・・・フェルドマンという人の核心が表れたような曲、演奏だと思う。きっとフェルドマン自身も充分に満足したはずだ。そう確信できるほどに、このレコード・ジャケットのフェルドマンは素晴らしい笑顔を見せてくれている(笑)
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2014年1月26日 (日)

<ジャズ雑感 第36回> クリス・コナーの声

ジャズを長いこと聴いてきたが、実は・・・僕はヴォーカルものをあまり聴いてない。限られた何人かの女性歌手~アン・バートン、キャロル・スローン、アイリーン・クラール、アニタ・オディ、ジューン・クリスティ、それから、クリス・コナー、この辺りをたまに聴く・・・そんなヴォーカル初心者である。もちろん、美人歌手のゴージャスなジャケットを目にすると・・・そのオリジナル盤を欲しくなるが、人気の盤はどうしても「いい値段」になるので、僕の場合はその現実を見ると、すぐに諦める(笑) インストものに対しては、もう少しだけだが粘る(笑) そんな僕が、オリジナル盤に若干の拘りを持って、知らぬ間に初期の何枚かを集めさせられていた(笑)・・・それが、クリス・コナーなのである。

クリス・コナーと言えば・・・誰もが、バート・ゴールドブラットの傑作ジャケット~「うな垂れるコナー」と「マイク挟みコナー」・・・あれを思い出してしまうだろう。コナーのベツレヘム10インチ盤は、内容の良さと共にあのジャケットの素晴らしさもあって、やはり人気が高い。そして値段も高い(笑) ベツレヘムのコナー音源を僕は安物CDで聴いていて、「悪くないなあ・・・」」と感じていた。そしてその頃、あの10インチ盤1001番のジャケットと同じ写真のEP盤(7インチ)を見つけたのだ。

101ab_2 ≪BEP 101Aと101B~10インチ盤1001番と同内容。全8曲どれも素晴らしいが、僕は・・・what is there to say が特に好きだ≫

102ab ≪BEP 102Aと102B~10インチ盤1002番と同内容。cottage for sale がいい。アコーディオンの音色が印象的≫

首尾よく入手した、そのEP盤から流れてきた「クリス・コナーの声」・・・・これが僕には、なんとも凄かったのである。
ハスキーがかった太くて低めの声・・・張り上げている感じではないのに、凄い音圧感があって、とにかくよく「鳴って」いる(笑) 人の声を「鳴っている」というのも変な表現だが、実際、コナーのそれは・・・ググッと聴き手の心に迫ってくる・・・そんな存在感のある「声」だったのだ。

101のジャケット写真~コナーがマイクのスタンドを両手で挟み込むようにしながら、体をグッと後方に反らして(つまり、マイクから離れるようにして)、「大きな声」を出している。そういえば、クラシックの歌い手さんがマイクを使って大きな声で唄い込む時に、意図してマイクから後方に離れるような動作をしているじゃないか。あれは、もちろん「巧く見せるため」などではなく(笑)、やはり、歌い手さんがフォルテで発声した場面で、マイクを入力過多にさせないための(音を歪ませないための) 動作なのだろう。
それにしても、本当に口を大きく縦に開いている。そういえば、クリス・コナーの写真はたいてい「大きく口を開けている」場面が多い。後述する12インチ盤 6004番 の「大口」はもちろん、BCP20 も BCP56 も、かなりの「大口」である。やっぱり、大きな音声を発したい場合には、大きく口を開ける方が、より自然だろう。

1002_2  10インチ盤の2枚・・・1001番(マイク挟み)と1002番(うな垂れ)。僕は先にEP盤4枚を揃えたので、まあ音源(全16曲)は聴ける・・・ということで、10インチ盤は後回しとなっていた。それで今回「写真でも」と思ったのだが、両方持っている、と思い込んでいた10インチ盤は・・・実は、1002番しか持っていなかった(笑)
≪右写真~10インチの1002盤。「うな垂れ」もダークな色調に独特な雰囲気がある≫   

Bethlehem でのクリス・コナー作品~まず2枚の10インチ盤が1954年に発売され、その後、3枚の12インチ盤~BCP20、6004が1955年、BCP56が1957年の発売らしい。(オムニバスの6006番 も加えれば4枚だが、コナーの4曲は既発音源)
10インチ盤の1001番は、伴奏がピアノのエリス・ラーキンスのトリオで8曲、1002番の伴奏は、ヴィニー・バークのクインテットで8曲、この全16曲が、12インチ盤化の際に分散されてしまったので、12インチ盤にアルバムとしての統一感があるとは言い難い。

6004番「lullabys」には~1001番から5曲、1002番から6曲、そして別セッション(サイ・オリヴァー楽団)から3曲の全14曲収録。

ChrisBCP56番「Chris」には~1001番から残りの3曲、1002番から残りの2曲、そしてサイ・オリヴァー楽団から3曲、そして後の4曲がラルフ・シャロンのグループ(K&JJを含む)の全12曲収録。



BCP20番~全てラルフ・シャロンのグループで、全10曲収録。
A面1曲目の blame it on my youth が素晴らしい!This_is_2

さて、クリス・コナーを話題としたからには、ここでもう一度、整理しておきたいことがある。もちろん、6004盤~sings lullabys of birdland のジャケットのこと・・・「大口」と「半口」である(笑)前々回の「スタン・リーヴィー」記事のリストやコメントにおいて、すでに「大口」ジャケットが先の発売で、「半口」が後の発売らしい・・・というところまでは述べた。
その根拠は、「大口」ジャケットと「半口」ジャケットにおける表記の違い方にある。以下~下写真6点はdenpouさん提供。

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≪左写真~「大口」の裏、右写真~「半口」の裏≫

1.裏ジャケット「レコード宣伝」番号の表記~
  「大口」では、BCP 6001番~6007番まで
          BCP ~64番まで。
   「半口」では BCP 6001番~6032番まで
          BCP ~79番まで

2.裏ジャケット アドレス表記の違い~
「大口」は*2種存在。
<左NY、右CALIF><左NY、右NY>
「小口」は <左NY、右NY>

上記の状況を常識的に考えれば、あるレコードに宣伝として載せるレコードのタイトルは、すでに発売されているタイトルのはずだから(もちろん、近日中に発売される予定のレコードが載る場合もあるようだが)、裏ジャケットに掲載された宣伝レコードの番号が「若い」方が、やはり発売が「先」と言えるだろう。
この6004番2種の場合は~denpouさんが指摘してくれたように、6032番まで載せている「小口」に対し、6007番までしか載ってない「大口」の方が「先」であることは、まず間違いないであろう。Bcp6004_6 Bcp6004_7
≪「大口」~<左NY、右NY>のジャケットと、「長方形ロゴ」のセンターラベル≫
Bcp6004_8 Bcp6004_9
≪「半口」~<左NY、右NY>のジャケットと、「長方形ロゴ」のセンターラベル。denpouさんが発見した「長方形ロゴ」左端の「十字マーク」。この「十字マーク」が「大口」センターラベルには無い。そして「ロゴ」自体のデザインも両者で微妙に異なる。
「半口」ラベルの方は、BETHLEHEM の下の「HIGH FIDELITY」文字が銀色ラインに囲まれているが、「大口」ラベルの方は「HIGH FIDELITY」の下に銀色ラインがない。
そして、中心穴(チュウシンケツ・・・という呼び名はないかと思うが:笑)の左右の「BCP-6004」と「Side A」文字が、両者で左右逆になっている。

そしてもうひとつ・・・先ほど、*印を付けて「大口」ジャケットにも2種が存在と書いた。実は最近、denpouさんがYoさん宅におじゃました際、Yoさん手持ちの6004番:クリス・コナーが、「大口」であること、そして・・・<左NY、右CALIF><センターラベルがリーフ>であることを「発見」してくれたのだ。それまでは、denpouさん手持ち「大口」「小口」が、ともに<左NY、右NY>だったので、アドレス表記違いによる発売時期の先・後の判断にもうひとつ、疑問が残っていたのである。
P1110448 P1110449 P1110450 Yoさんの「大口」は、アドレス<左NY、右CALIF>に加え、盤のセンターラベルも<リーフ>であった・・・これでもう間違いない!というわけで・・・クリス・コナー『sings lullabys of birdland』には、ジャケットだけでも、「大口」に2種、「小口」に1種~計3種の存在が確認できたわけである。

≪追記≫(2/3) Yoさんコメント(1/27付)で、<左NY、右CALIF>ジャケットで中身の盤が「十字マーク・長方形ロゴ」のものがあったとのこと。denpouさん「大口」のセンターラベル(長方形ロゴ)には無かった「十字マーク」が付いている。チャランさん「大口」の「十字マーク・長方ゴ」とも異なる。

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上写真6点はYoさん提供~special thanks to Mr.Yoさん!

≪追記≫(1/27) チャランさんからの情報によると~
チャランさん手持ちの「大口」センターラベル(下写真2点)は、「十字マーク・長方形ロゴ」「フラットかなあ?」とのこと(denpouさんの「大口」は「長方型ロゴ」) チャランさんの仔細なチェックにより、もう1点の差異が見つかった~それはこのLPの目玉曲(lullaby of birdland)の表記下カッコ内の作曲者名クレジットだ。チャランさん手持ちのセンターラベルのものだけ、(Forster - Shearing)となっているのだ。他3点は全て(Shearing)である。これは・・・?

 Img_0852 Cha
ついでに自分の手持ち「半口」を見たら、なんと、僕:bassclefの「半口」センターラベルは十字マークなしの「長方形ロゴ」だったのだ。(denpouさんの「半口」は、「十字マーク・長方形ロゴ」)
う~ん・・・これはどうしたことか?(笑) これでは、ジャケットは、「大口」2種と「半口」1種~の3種。そして「盤」(センターラベルの仕様)は、「大口」2種、「半口」2種の計4種が存在することになる。いや・・・下記のYoさん<センターラベルがリーフ>も入れれば、5種となる。これは・・・まだまだ追跡調査が必要だぞ(笑)

≪追記≫2/2
このクリス・コナーの6004番『sings lullabys of Birdland』~何種類もの版が見つかったのだが、それでは発売された型としては、いったい幾つの種類があるのか? ちょっと整理してみたい。
≪夢レコ≫前々回の「スタン・リーヴィー」からのジャケット裏の≪アドレス表記の違い≫考察により、発売の順番の大筋としては~
<センターNY>⇒<左NY,右CALIF>⇒<左NY、右NY>で間違いないかと思う。
その「ジャケットありき」を基本に考えてみると、発売順は以下のようになる。

1.「大口」<左NY,右CALIF>リーフ
2.「大口」<左NY,右CALIF>長方形ロゴ・十字マーク
3.「大口」<左NY,右NY>長方形ロゴ・十字マーク/Forster表記
4.「大口」<左NY,右NY>長方形ロゴ
5.「半口」<左NY,右NY>長方形ロゴ・十字マーク
6.「半口」<左NY,右NY>長方形ロゴ

*「長方形ロゴ」の十字マーク有りと無し・・・これについての新旧は、判りません。(また「長方形ロゴ」ラベルだけでの「十字マークの有無」の分布状況を調べる必要がある:笑) ただ・・・アドレス<左NY,右CALIF>ジャケットの盤に「十字マーク」が在ったことから見ると・・・「十字マーク有り」が先なのかな?と考えられます。

チャランさんのコメントに≪YoさんのはCALIFで制作、私とdenpouさんのはNYで制作されたのだと思います≫~とありました。
僕も『スタン・リーヴィー(BCP37)の同一タイトル2種発見の時点では、そのように「アドレス表記」と「製作(プレス)」を直結して考えていたのですが、どうやらそう簡単にはいかないのかな・・・と見方が変化してきました。
その「ジャケットのアドレス」と「センターラベル仕様」について、以下・・・僕の妄想です(笑)

まず、<センターNY>アドレスの時代には、まだ西海岸事務所がなかった~ということから、全て東海岸製作(プレス)ということかなと思います。問題は、西海岸事務所設立以降の「ジャケット製作の状況」と「プレス工場の状況」の関連です。つまり・・・ジャケットは、<センターNY>の次に、<左NY,右CALIF>ジャケットを、次に<左NY、右NY>を、それぞれ、1種類だけを製作していった(仮にそのジャケットが東海岸の製作だろうと西海岸製作だろうと、種類は1種類)ではないかなと・・・考えるのが自然かと思います。つまり・・・ジャケット表記とプレスは連動していない場合もある~という考えです。

「スタン・リーヴィー」記事で示したように、BCP37(Stan Levey)という一つのタイトルにおいて、<センターNY>と<左NY、右CALIF>の異なる2種が存在していたことから、それぞれのレコード(ジャケットと盤)が、東海岸と西海岸の2箇所で「製作されたのでは」と推測したわけですが、このBCP37以外には、その種のサンプルがあまり見つからない。そしてここに絶好のサンプルとして、クリス・コナーの6004番(sings lullbys of Birdland)が出現したわけです(笑) それについては上記のように、「発売された型」として、今のところ6種の版があったわけですが、それでは、どうして、あのクリス・コナー6004番は、6種(6回)も発売されたのか?・・・以下、また妄想です(笑)会社の運営という観点からみても、よほど「いっぱい売れた/まだまだ売れそう」というタイトルしか、追加プレス(発売)はされないはずである。あの頃、一般的なジャズのレコードというものが、全米中でどれくらい売れたものなのか・・・・判りませんが、仮に3000枚(初回)プレスとしたら、追加プレスは、せいぜい500~1000枚くらいではないでしょうか?  そうした「追加プレス」を決定した場合でも、市場での販売状況を見ながら、こまめに少しづつ、少しづつ(笑)という感じだったのでは・・・。逆に言えば・・・ほとんどのタイトルは、「初回プレス」だけだと考えられるわけです。
そうして初回プレスだけの場合で、わざわざ「東海岸プレス」と「西海岸プレス」と分けて製作するのかな・・・?(却ってコストが高く付く) というのが僕の疑問点なのです。
だから・・・西海岸事務所設立直後の一時期、BCP37やBCP6004など、一部のタイトルについては、両海岸で製作(プレス)したが、それ以降は、ほとんどのタイトルは「一箇所のプレス」だったのではないか。(それが東か西かは判らない) だから・・・(一箇所で一括製作してきたであろう)ジャケットのアドレスが<左NY、右CALIF>であっても、それはベツレヘム社としての規模をアピールする意味合いとしてのCALIF表記であって、だからそれがそのまま「西海岸製作(プレス)」とは限らない~と思う。
そして、その西海岸事務所を閉鎖した後の時期になると・・・誠実なるベツレヘム社は(笑)、ジャケット裏右下隅の[Hollywood, CALIF]表記を消して、そうすると・・・空いてしまったスペースがデザイン上、かっこ悪いというので(笑)・・・そこに[New York, NY] なる表記を入れた。それが・・・<左NY,右NY>になった・・・というストーリーです


*ベツレヘム・レーベルの変遷を判りにくくしている大きな要素として、2つのシリーズが複合・並行して発売されたことがあるかと思う。 そこで、自分の手持ちリストの番号並びとアドレス表記、に加えて「センターラベルがリーフ」情報も加えてみた。改めて、その番号並びとリーフの分布を俯瞰してみると、改めて確認できたことがある。

10インチ番時代が全て<センターNY>(1650 BROADWAY, NEW YORK 19表記を含む)そして<リーフラベル>だったことから、アドレスの変遷としては~
<センターNY>⇒<左NY、右CALIF>⇒<左NY、右NY>⇒<左NY、右OHIO>⇒<OHIO>の順。
そして盤センターラベルの変遷は~
<リーフ>⇒<長方形ロゴ>(長方形ロゴにも2種類あり~クリス・コナーの「大口」「小口」のラベル写真を参照のこと)の順で、間違いないと思う。
そして大筋として、以下のことが言えるかと思う。

ジャケット<センターNY>のものは、盤も<リーフラベル>である。
そして、BCP26番辺りから、ジャケットは<左NY、右CALIF>も現われるが、センターラベルは<リーフラベル>のものも多い。同様に6000番代の初期:6010番辺りまでのものにも、ジャケ<左NY、右CALIF>の<リーフラベル>が散見される。
おそらく・・・ジャケットは新規に制作された<左NY、右CALIF>を使っていったのだが、センターラベルは<リーフ>デザインの在庫が残っていてしばらくはそれを使っていた~そんな感じではないだろうか。
難しいのは、カタログの番号順と、<アドレス表記>や<センターラベル>の分布状況に「ズレ」があることだ DeluxeシリーズBCP1番~92番代と6000番代が並行して発売されていった状況で、まずは<センターNY>から<左NY、右CALF>へのアドレス表記移行(あるいは2種ジャケットの並行発売)が、いつ頃だったのか?・・・これがポイントだと思う。
以下、私見だが~
10インチ盤に続いて発売されてきた、Deluxeシリーズ:BCP1~92番の初期タイトルが、ほぼ<センターNY>であること。
BCP37番辺りから<左NY、右CALF>が現われていること。
その<左NY、右CALF>が6001番からは連続していること。
以上の点から、移行期は「BCP37番辺り」と推測している。
(実際に・・・BCP37番の『スタン・リーヴィー』には、<センターNY>と<左NY、CALIF>の2種が存在しているわけだから)

<スタン・リーヴィー>にも載せた「ベツレヘム12インチ盤手持ちリスト」をここに再掲するが、サンプル例を追加するとともに、より「版」の新・旧を探るために、<アドレス情報>の他にも以下の情報も追加した。

≪センターラベルについて~「リーフ」である場合は「リーフ」と表記した。この「リーフ」・・・同じ赤色のセンターラベルをlaurel(月桂樹)と呼ぶ場合もある。なお、表記ない場合のセンターラベルは、全て「長方形ロゴ」となる。
(長方形ロゴには「十字マーク」の有り/無しの2種類が存在するが、このリストではその有・無は表記しない)≫

≪盤が「フラット」である場合は、「フラット」と表記した。表記ない場合は、全てGG(グルーヴ・ガード)となる≫

◎印はYoさん、*印はdenpouさん、チャ印はチャランさん、無印がbassclefの手持ちから確認したもの。(このリストは、情報あれば、随時、追加記入していきます)

Bethlehem Deluxe series (12 inch LP)
 3  <左NY、右CALIF>リーフ フラット
 6  <左NY、右CALIF>
*7 <左NY、右NY>
  8  <左NY、右CALIF>
 9  <左NY、右CALIF>
  13 <左NY、右CALIF> (Ralph Sharon)
*13<センターNY>  リーフ フラット(K+JJ)
 14<センターNY 19> リーフ フラット
 15<センターNY 19> リーフ フラット
 17<センターNY>   リーフ フラット
 18<センターNY>   リーフ フラット
*19<センターNY>   リーフ フラット
20<センターNY>     リーフ フラット
*21<センターNY>  リーフ
  22<センターNY>   リーフ フラット
 24<センターNY>   リーフ フラット
◎25<センターNY>     リーフ  フラット 
 26<左NY、右CALIF>リーフ フラット
 27<センターNY>   リーフ フラット
 29<センターNY>   リーフ フラット
 30<センターNY>     リーフ フラット
 31<左NY、右CALIF>リーフ
 33<左NY、右CALIF>リーフ フラット
 34<センターNY>
*35<左NY、右CALIF> フラット
37<センターNY>リーフ フラット と 
   <左NY、右CALIF>リーフ の2種あり(Stan Levey)
  38<左NY、右CALIF>
 39<左NY、右CALIF>
 40<左NY、右CALIF> リーフ
 41<センターNY>   リーフ フラット
*42<左NY、右CALIF>リーフ フラット
*43<左NY、右CALIF>リーフ フラット
44<左NY、右CALIF>  リーフ フラット
 46<左NY、右CALIF>リーフ フラット
*47<左NY、右CALIF>リーフ フラット
  48<左NY、右CALIF>リーフ フラット
 50<左NY、右CALIF>リーフ
*52<左NY、右CALIF>リーフ
*53<左NY、右CALIF>リーフ フラット
*54<左NY、右CALIF>リーフ フラット
  55<左NY、右CALIF>リーフ フラット
 56<左NY、右CALIF>リーフ フラット
 58<左NY、右CALIF>リーフ フラット
*60<左NY、右CALIF>リーフ フラット
 61<左NY、右CALIF>リーフ フラット
*64<左NY、右CALIF>リーフ フラット
66<左NY、右CALIF>
*68<左NY、右CALIF>
◎69<左NY、右CALIF>
 71<左NY、右CALIF>
◎77<左NY、右NY>
 80<左NY、右NY>
*82<左NY、右NY>
*83<左NY、右NY>リーフ
*84<左NY、右NY>リーフ
*85<左NY、右NY>
*87<左NY、右NY>

Bethlehem 5000 series (12 inch LP)
5002 <左NY、右NY>
5006 <左NY、右NY>(Russ Garcia/Sounds in the night)

Bethlehem 6000 series (12 inch LP)
 6001<左NY、右CALIF>
◎6004<左NY、右CALIF> 「大口」リーフ(Yoさん) *写真
◎6004<左NY、右CALIF> 「大口」 十字ロゴ   
チャ6004<左NY、右NY> 「大口」(チャランさん) *写真 十字ロゴ 
[lullaby of birdland]作曲者が[Forster-Shearing]表記
*6004<左NY、右NY> 「大口」(denpouさん) *写真
*6004<左NY、右NY>  「半口」(denpouさん) 十字ロゴ*写真
  6004<左NY、右NY>   「半口」
◎6005<左NY、右CALIF>リーフ
 6006<左NY、右CALIF>
 6007<左NY、右CALIF>リーフ フラット 
 6008<左NY、右CALIF>リーフ
◎6010<左NY 、右CALIF>リーフ 
 6011<左NY、右CALIF>
*6014<左NY、右CALIF>
 6015<左NY、右CALIF>
 6016<左NY、右CALIF>
*6017<左NY、右CALIF>
*6018<左NY、右CALIF>
 6020<左NY、右NY>
◎6021<左NY、右NY>
 6025<左NY、右NY>
 6029<左NY、右NY>
 6030<左NY、右NY>
*6038<左NY、右NY>
◎6045<左NY、右NY>
 6049<左NY、右CALIF>
*6051<左NY、右CALIF>
*6055<左NY、右Ohio>
◎6061<左NY、右Ohio>
◎6064<OHIO>
*6063<OHIO>
 6069<OHIO>

EXLP-1(3LP 箱入り:アドレス表記なし)
EXLP-2<左NY、右CALIF>

そして・・・まだ大きな「謎」が残っている。それは、なぜ6000番代より発売の古いはずの、BCP1~92番Deluxeシリーズの中の若い番号~僕の手持ち盤では、3・6・8・9・13番が、なぜ<左NY、右CALIF>なのか? アドレス表記の変遷は、<センターNY>⇒<左NY、右CALIF>⇒<左NY、右NY>⇒<左NY、右OHIO>⇒<OHIO>のはずである。
ここがよく判らない。いや、もちろんこれらが、再発としての<左NY、右CALIF>であれば問題ない。つまり・・・これらの番号タイトルの<センターNY>1stの存在が確認できれば、<左NY、右CALIF>は後年発売された2ndである~と、誠にすっきりとした説明が付くのだから。
ところが、これが見つからない。ネットでいろいろチェックしてみても、今のところは見つかっていないのだ。どなたかお持ちであれば、ぜひ情報提供を(笑)
この謎については・・・例えば、こういうのはどうだろうか?
Deluxeシリーズが発売され始めた時、何らかの理由で、1~9番辺りが「欠番」として使われなかった。そして、Deluxeシリーズの30番辺りから、6000番代が並行して発売され始めた頃に~つまり<左NY、右CALIF>ジャケットに移行し始めた頃~発売されたいくつかのタイトルが、その「空き番号」であるBCP1~9番に充てがわれていった~というのが、今の僕の妄想なのだが(笑) 

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2010年11月23日 (火)

<思いレコ 第18回>チェット・ベイカーのPacifc盤

チェット・ベイカー・・・抑制の美学

Dscn2508_10 チェット・ベイカー・・・この人のトランペットには独特な何かがある。その「何か」をどんな風に表現したらいいのか・・・音や音色のことを言葉で表わすのは、なかなか難しい。
例えば・・・あなたがある歌手なりミュージシャンを好きに(嫌いに)なったとする。音程がどうとかフレーズがどうとか言ったりもするが、聴き手にとっての好みというのは・・・突き詰めていけば「歌手の声質」であり「楽器の音色」に対する感覚的なものかと思う。では・・・演奏者にとっての好みというのはどんな風に現れるものだろうか・・・。

ジャズという音楽を色々と聴いてくると、トランペットという楽器からも実に色んな「音色」が発せられきたことが判ってくる。マイルス・デイヴィスの音色とクリフォード・ブラウンの音色は、やはり相当にその質感が違う。
ミュージシャンの発する「音色」というものは・・・やはりその人の感性や美学から生まれてくるものだと思う。
アドリブのフレーズとかタンギングとかの技術上・奏法上のことはある程度、分析的・後天的に造られていくものかもしれないが、その人が発する「音色」というものは、歌手の声と同じように先天的なもので、それは「その人であること」を決定づける根本だと思う。もちろんどの楽器の奏者の場合でも、その楽器を持った端(はな)からその「先天的音色」が出るはずもないが、その修練過程において、無意識にでも「あんな音、こんな音がいいなあ」と感じながら、その「音色」が創られていくものではないだろうか。そうして、チェットという人は・・・心底、己(おのれ)の感性、いや、もっと本能的・肉体的な意味での生理感覚だけで、トランペットという楽器をまったく自分の好きなように鳴らしている・・・そんな風に思えてならない。

チェットはトランペットを溌剌(はつらつ)とした感じでは吹かない。
チェットのトランペットは、いわゆる金管楽器に特有の輝かしいものではなく、くぐもった様に暗く低く、しかし妙に乾いた感触のある・・・そんな不思議な音色で鳴る。
チェットは音色だけでなくその語り口も独特だ。
フレーズはたいてい、のそ~っと始まり、戸惑ったように口を噤(つぐ)んだり、そうしてまた訥々(とつとつ)と語り始める・・・そんな風情だ。
スローものでは、いや、速めの曲でさえも、いつもどこか一歩引いた視点で吹いているように見える。
そうなのだ・・・この人は明らかにいつも「抑えて」吹いているのだ。
人が何かを訴えたい時に、声高(こわだか)に叫ぶよりも、逆に抑えた方がうんと説得力が増す・・・ということもあるように、チェット・ベイカーという人は、そんな「抑えた語り口の凄み」というものを、本能的に身に付けている稀なミュージシャンなのかもしれない。
そんな独特な音色と語り口でもって、チェットという人は己(おのれ)を語るわけだが、その音(サウンド全体)から醸し出される情感の漂い方が、これまた尋常ではない。あの「寂しさ」や「けだるさ」・・・あんな風に直截に鋭く深く「ある情感」を感じさせる「音」というものもめったにないだろう。
そしてその「音」は、フィーリングの合う聴き手には、どうしようもないほど素晴らしい。

僕はチェットのスローバラードをどれも好きなのだが、特にこれは・・・と思うものをいくつか挙げてみたい。後期のものはあまり聴いてないので、どうしても初期の作品からのセレクトになってしまう。Dscn2507_2
《チェットの最初のリーダーアルバムとなった10インチ盤/Pacific PJLP-3。チェットのトランペットの斜め下向き、なぜか切り取ってしまった背中の真っ直ぐライン、それらが水色と黒の中に見事にデザインされていて・・・実に素晴らしい。この写真では判別しづらいがセンターラベルは<艶あり>で、裏ジャケ下の住所はSANTA MONICAとなっている。この10インチ盤では imagination というスローバラードが秀逸だ》

キング発売の「チェット・ベイカー・カルテット」第1集・第2集(キング18P~の1800円定価のもの)を、発売当時に入手し損ねた僕は、その後もあの水色のジャケットが欲しくて仕方なかった。Dscn2519_2
たまに中古盤屋で見つけても、そのキング盤は5000円以上の値段で我慢せざるを得なかった(笑)
だいぶ後になってから東芝が発売した「コレクターズLPシリーズ from オリジナル10インチ」なるシリーズで、ようやくその音を聴くことができた。このシリーズは元々の10インチ盤のジャケットをそのまま12インチに引き伸ばしたものだが、それでも、オリジナル10インチ盤の素晴らしいデザインと「同じもの」が見られるだけで、僕は充分にうれしかった。
そうしてようやく、その「本物の水色ジャケット」の10インチ盤を手に入れることができた。東芝12インチ盤と並べてみると・・・やっぱりこのジャケットは10インチの方が収まりがいいようだ(笑)

その「カルテット第2集:featuring ラス・フリーマン」にmoon loveという曲が収められている。ラベルのクレジットには kern-grossmith-wodehouse とクレジットされており、東芝盤解説では『ジェローム・カーンが作曲したもので~』という岩波洋三氏の解説もあるが、これ、元々はクラシックの曲で、それはどうやらチャイコフスキーの交響曲第5番第2楽章からの引用らしい。
というのも・・・先日、サックス吹きの友人sige君とグロッタ(ジャズ喫茶)にてジャズ話しなどしていると、ちょうどこのチェットのmoon loveが掛かったのだが・・・「このチェット、いいだろう」と僕が言うと「あれ?・・・何でチャイコフスキーが・・・」とsige君。そういえば彼はクラシックにも詳しいのだ。
そうか・・・この曲の元メロディは、チャイコフスキーだったのか。それにしても、本当にいいメロディじゃないか・・・。
このメロディがチェットのあの音色でもって流れてくると・・・なんとも内省的な思いに沈み込んでいくような風情がある。それは・・・寂しさだけでなく、仄(ほの)かに希望を感じさせるような・・・そう、哀しいのだけど微(かす)かに微笑んでしまう・・・そんな雰囲気だ。それを「ペイソス」と呼んでもいいのかもしれない。う~ん・・・やっぱり、チェットはいいなあ・・・(笑)

moon loveという曲は、うんと初期のpacific録音。
《ついに手にいれたオリジナル10インチ盤 Pacific PJLP-6》Dscn2505_2

この10インチ盤にもジャケット違いが存在する。カラーとモノクロだ。Dscn2517 そして・・・そのカラー盤にも2種類あるかも。
この10インチ盤写真の「黄土色っぽいもの」と「セピア色っぽいもの」の2種があるようだ。
(東芝12インチ再発盤は、そのセピア色盤が出自かも)
僕もオリジナル10インチ盤の現物2種を並べて確認したことはなく、ネット上での写真による比較なので、絶対とは言えない。  

《PJLP-6の裏ジャケット》

Dscn2506_2 この10インチ盤の収録8曲は、もちろん全てインストなのに、なぜかsings~の時の写真が使われている。それともこのセッションの合間に歌の練習でもしていたのだろうか(笑)


 

 

そういえばリチャード・ツアージックというピアノ弾きが気になっている。だいぶ前にこのブログでチラッと触れたPianists Galore!(world pacifc) に入っていた1曲(Bess,you is my woman)~あの普通ではない暗さがどうにも気になったのである。
そしてその頃、ちょっと珍しい日本盤2枚組みを入手した。
《チェット・ベイカー・イン・パリ》         

Dscn2513_4 この2枚組は日本ポリドール発売。ラベルが白いテスト盤のようだが、この2枚組の何曲かがチェットとツワージックの共演セッション。僕はこのLPで 初めて sad walk という曲を聴いたのだが、これがまたそのタイトルそのままに、なんとも寂しい・・・どうにも寂しい雰囲気なのだ。たぶん・・・ツアージックがチェットのために書いた曲なんだろう。というより・・・いつも耳にしているチェットのトランペットのサウンドがツアージックの耳に、身体に沁み込んでしまって、そうして,じわじわとこの寂しいメロディが湧きだしてきた・・・そんな気になってしまうほど、この曲はチェットに合っている。
この2枚組LPを聴いて、しばらくの後、香港でCD(仏polydor)を見つけた。そのCDには、チェット~ツアージックのセッション全9曲が収録されていた。ホントは・・・CDなんかじゃなく、仏Barcleyのオリジナル盤が欲しい・・・(笑)

チェットのPacifc10インチ盤は、PJLP-3、PJLP-6の他にもいくつか出てます。その辺りはまたの機会に。

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2010年7月 4日 (日)

<ジャズ回想 第23回>雨降りの1日は、レコード三昧だった。

~United Artistsというレーベルを巡って~

久しぶりに藤井寺のYoさん宅でのレコード聴きをすることになった。今回は4月白馬の集まりに参加できなかったリキさんと僕(bassclef)のために、Yoさんが声を掛けてくれたのだ。集まったのは、愛知からリキさん・konkenさん・僕。関西からdenpouさん、PaPaさん、Bowieさん。Yoさんを入れて7人となった。

午前中から夕方まで約8時間・・・皆であれこれと聴きまくったわけだが、今回はクラッシクから始まった。
Vx25_j_2 まずはYoさんから、シュタルケルのチェロ独奏。コダーイの曲を鋭く弾き込むシュタルケルのチェロ。その中低音が豊かに捉えれた、しかもエッジの効いた好録音。ジャケットを見るとこれがなんと1970年頃の日本でのレコーディング。つまりこの日本ビクター盤がオリジナルなのだ。Vx25_lシュタルケルのチェロをYoさんはディグ(探求)しているようで、そういえば2~3年前の白馬でも、シュタルケルの日本での実況録音盤~バッハだったか?~をセレクトしていた。この人のチェロは、強くて毅然としており、曖昧なところがない・・・そんな感じだ。 《シュタルケルの写真2点~Yoさん提供》
それから、ムターなる女流 ヴァイオリニスト~言わずもがなの「美人」~の2種(共にグラモフォン音源)に話題が。ムターについては、おそらく事前にリキさんとBowieさんが音源セレクトを相談したのかな。
カラヤン指揮(1988年)
~クラシック不慣れな僕らのためにお2人が気をつかってくれたのだろう(笑)・・・曲は「チャイコフスキーのヴィイオリン協奏曲」冒頭から少し経過すると飛び出てくる印象的なメロディ・・・ああ、この曲なら僕でも知っている(笑) 1988年のデジタル録音ということもあってか、ムターのヴァイオリンだけでなくバックのオーケストラまでクリアに聞こえる。
次に同じ曲の70年代もの(グラモフォン音源)Bowieさんのセレクト。こちらはアナログ録音だがバックのオケの音圧感がより豊かで肉厚な感じがする。これも良い録音だ。こちらのヴァイオリンはミルシュタインだったか。指揮はアヴァド。アヴァドという人・・・曲の終盤になると劇的に盛り上げる感じがいつもあって(たぶん)僕はなぜだか嫌いではない。そんなシンプルな躍動感みたいなものがカラヤン盤よりも濃厚に感じられて、この協奏曲は僕にも充分に楽しめました。
ムター繋がりでリキさんからもう1枚~
「これは・・・珍盤の一種かも」というリキさんが取り出したのは、立派の箱入りのLP2枚組。タイトルは「Carmen-Fantasie」(今、調べたら録音は1992年。正規品はもちろんCDであろう)ジャケット写真は・・・ヴィオリンを弾いているムターの立ち姿。正規CDと同じデザインだと思うが・・・このムター、ちょっと色っぽい。
掛けたのは「チゴイネルワイゼン」
曲の出だしからちょっと大げさな感じのするあのメロディ(好きな方、sorryです) これはグラモフォン音源のはずだが、センターラベルは白っぽくてデザインも違う。ラベルには小さい文字でmade in Japanと入ってはいるが、解説書の類(たぐい)は一切ない。聴いてみると・・・音からするとちゃんとした音源のようだとYoさんが言う。臨時に版権をとった記念のLPセットのようなものだろう・・・という意見も出たが、いずれにしても、所有者のリキさんでさえ、その出自を知らない「謎のムターLP2枚組」である。
ムター好きを隠さないYoさんが「欲しい・・・」とつぶやくと、ダジャレ好きなPaPaさんは「そんなごムターな・・・」などと言ってる(笑)

こういう音聴き会では、各人のお勧め盤を順番に聴いていくわけだが~そうすると、当然、各人の趣味嗜好が様々なので、厭きない流れになるというわけだ。実際の順番どおりではないが、ここで皆さんのお勧め盤をいくつか紹介したい。

Yoさん~今回は実は<UAレーベル>というのが隠れ主題になっていて(と勝手に解釈していた僕) それもあってか、そろそろ・・・という感じでYoさんが1枚のUA盤を取り出した。
Uas_5034_j_2 《リトルの写真4点~Yoさん提供》 Booker Little/~+4(united artists)ステレオ盤青ラベル 
この渋いUA盤からYoさんが選んだのは moonlight becomes you。スタンダード曲である。リトルはうんとスローなバラードで吹いている。
ラファロと共演のTime盤にもひとつスローものがあったと思うが、このUA盤(Booker Little +4)にもこんなに素敵なスローバラードmoonlight becomes you が入っていたのか。Uas_5034_lところが・・・僕はこの「ブッカーリトル・プラス4」~国内盤さえ持ってない。リトルがリーダーなのだから、ローチのことは気にせず聴くべきレコードだったのだな・・・などとモゴモゴ弁解する僕(笑)そういえば、Yoさんもマックスローチ苦手絡みということもあり、このUA盤の入手は他のUA盤に比べれば遅かったらしい。リトルという人・・・スパッと抜けのいい音色にも特徴があるが、丁寧にじっくりとメロディを吹くその誠実感・・・みたいなBcp_6061_j 味わいが実にいいのだ。 
Booker Little/~& Friends(bethlehem) if I should loes you
こういう音聴き会ではいつもちょっとした偶然がある。この日、konkenさん・リキさんとクルマで藤井寺へ来たわけだが、車中ではたいていiPODをシャッフルで掛けている。音源は konkenさんCDなのだが、ジャズ、ロック、ヴォーカルがごちゃ混ぜで入っているので、この3~4時間がけっこう厭きない。四日市の辺りで、トランペットが深々と吹く聴いたことのあるメロディが流れてきた。このメロディは・・・知っている。そうだ、if I should lose youだ。BGM的に流してはいても、気になる音(音楽)が掛かるとと、iPODの真ん中辺りを押してデータを表示したくなる。「ああ・・・ブッカーリトルかあ」と納得。
そんな場面があったことをYoさんに告げると、ちょっと嬉しそうなYoさんは続けてリトルのbethlehem盤を取り出して、if I should lose you をセレクトした。うん・・・いい。「やっぱりiPODで聴くよりいいな」と僕が言うとkonkenさん、ひと言「当たり前じゃん」Bcp_6061_l
どちらの演奏も、本当にスローなバラードである。一拍をカウントしてみると明らかに1秒より遅い。♪=60以下の超スローなテンポだ。
リトルはバック陣にきっちり淡々と伴奏させながら、悠々とじっくりとメロディを吹く。ほとんど崩さない。しかし不思議に味がある。リトルの音色・・・とても抜けのいい感じで、どちらかというジャズっぽくない音色とも言えそうだが・・・どこかしら、わずかな翳りがある・・・ようにも感じる。それは説明しづらい何かであって・・・妙な言い方になるが、黒人全般に一般的には似合うはずのブルース感覚とはちょっと違う感性のトランペッターであるような気がする。そしてその「翳り」とバラードはよく似合う。ブッカー・リトルという人、どうにもバラードがいいじゃないか。

Dscn2490bassclef~
Jimmy Woods/Conflict(contemporary)ステレオ盤。 conflict
右側からタッカーのザックリした切れ込み鋭い戦闘ベースが、たっぷりと鳴る。いつになくハードボイルドな感じの増したハロルド・ランドもいい。やや左側から鳴るカーメル・ジョーンズも覇気のある音色だ。そしてピアノは ・・・なんとアンドリュー・ヒル。ヒルが弾くストレーと なブルースも面白い。Dscn2492リーダーのウッズのアルトは、ちょっとクセのある粗野な感じだが、もちろん嫌いではない。ウネりながら巻き込むような吹き方は・・・ちょっとドルフィ的でもある。そしてもちろんエルヴィンもいい(笑)ドッカ~ンと響くドラムサウンドがこのレーベルの端正な感じの音で鳴るのも実に悪くない。

Miles Davis/Round Midnight(columbia CLモノラル6つ目) round midnight 
ここでいつもの聴き比べ病が出る(笑)Columbiaはスタンパー違いで音が違いが大きいと言われているが、そういえば実際に試したことはない。このRound Midnight・・・同じモノラル6つ目をYoさんもお持ちで、じゃあマトリクスを見てみよう・・・僕のはジャケはぼろぼろだが(笑)盤は1C。Yoさんのは1J。CとJなら違うと思うよ・・・と、Yoさん。
Dscn2493聴き比べの時は、僕はウッドベースの音(聞こえ方、バランス、音圧感)やシンバルの打音に注目するのだが、columbia録音のシンバルはいつもうんと控えめバランスなのでこの場合、フィリー・ジョーのシンバルであってもあまり参考にならない。そこでウッドベースだ。同じ音を出しているはずのチェンバースのベースでも、Columbia録音の場合、presitigeに比べると低音を厚めしたような感じがあり、僕の場合は、ややギスギスした感じのprestigeでのベース音よりも、ややソフトな感じのcolumbiaの方が好みではある。Dscn2489
さて、この2枚を続けて掛けてみると・・・・・・その雄大に鳴るチェンバースのベース音・・・その輪郭においてやはり1Cの方がよりくっきりした音圧感で鳴ったようだ。ベース以外には特に大きな違いは感じなかったが、全体をパッと聴いた印象として、1Cスタンパーの方が色艶が濃いというか鮮度感が高いように聞こえた。やはり・・・Columbiaレーベルではスタンパー違いによる音質の違い(鮮度感)というものがあるのかもしれない。むろんタイトルによってその差異は様々だろう。

Kenny Clarke/(Telefunken Bluesと同内容の12inch盤)から solor
アルトがFrank Morgan・・・ここでPaPaさんが鋭く反応。
PaPaさん~
僕がモーガンの名を出すと、PaPaさん、すかさず1枚のレコードを取り出す。おおっ、GNPのフランク・モーガンだ!盤を出すと鮮やかな赤。
Cimg5658_2Frank Morgan(GNP)赤盤 the nearness of you

《GNP盤写真2点~PaPaさん提供》
モーガンのアルトは・・・う~ん、これは好みが分かれるだろうな・・・ちょっと軽い音色でフレーズの語尾をミョ~!ミォ~!としゃくるような感じ。どこかの解説で「名古屋弁のアルト吹き」という表現があった。素晴らしい!(笑) ちょっと、ソニー・クリスにも似ているな・・・と思ったら、PaPaさん、次にソニー・クリスを出してきた(笑) Cimg5663さすが・・・パーカー以後のアルト吹き全般に精通しているPaPaさんだ。セレクトにテーマがある。
Sonny Criss/Up Up and Away(prestige) 紺イカリラベル から sunny

この「サニー」はもちろんあの有名ポピュラー曲。録音が1967年なので、当時のジャズロック調まっしぐら。何の衒(てら)いもなく、当時のヒット曲を料理しているようで、それは案外、クリスの持ち味であるちょっと軽いポップな感じと合っているのかもしれない。
そういえば、PaPaさんと僕が思わず微笑んでしまった場面もあった。フランク・モーガンだけでなく、もう一人、ディック・ジョンソンというアルト吹きをセレクトしてきたのだが、2人ともemarcyではなく、riversideのMost Likelyを持ってきたのだ(笑) この時、音はかけなかったが、なにか1曲となったら・・・たぶんPaPaさんも 静かにバラードで吹かれる the end of a love affair を選んだであろう。

denpouさん~
ちょっとマイナーなピアノトリオを本線とするdenpouさんではあるが、この日はピアノ主役ではない10インチ盤をいくつか持ってこられた。

Dscn0301 《写真~denpouさん提供》
Georgie Auld / (discovery:10inch) here's that rainy day
darn that dream
ジョージ・オールド・・・いや、古い日本盤ではこの人の名をりをちゃんと「ジョージイ・オウルド」と表記してあったぞ。GeorgeではなくGeorgieという綴(つづ)りに注目したのだろう。
スイング時代のビッグバンドっぽいサウンドをバックにゆったりと吹くこのテナー吹き。コーニイ(古くさい)な感じがまったく・・・悪くない(笑)
古いテナー吹きをけっこう好きな僕も、もちろんジョージイ・オールドを嫌いではない。Cimg5664_2そういえば何か10インチ盤を持ってたけど・・・などと言っていると、PaPaさんが自分のレコードバッグからすうっ~と見せてくれたのは・・・roostの10インチ盤。「おおっ、これだ!」
それにしても・・・PaPaさん、なんでも持っている(笑) Cimg5665_3 このroyal roost盤・・・面白いのは、裏ジャケットが無地・・・一文字も入ってない、無地の青一色であることだ。 さっぱりしていいじゃないか。そういえば、スタン・ゲッツの10インチも同じように裏ジャケットは無地だったかな。 当時のroyal roostさん・・・デザインとしての無地だったのか、単なる手抜きなのか(笑)
《royal roostのオウルド写真2点~PaPaさん提供》

さて・・・オウルドの10インチ盤から、here's that rainy dayという好きな曲がかかったので、僕はあのレコードを想い出した。あれ・・・エルヴィンとリチャード・デイヴィスのimpulse盤 Heavy Soundsだ。 As9160_jあれは・・・フランク・フォスターの堂々としたバラード吹奏がたまらなく魅力的なのだ。このレコード・・・拙ブログ夢レコでも小話題になったことがある。それは・・・録音のバランスとしてのリズムセクションの捉えられ方についてのコメントで、そのバランスがこのHeavy Soundsでは明らかにベース、ドラムスが大きすぎるというのがYoさん意見だった。今回、here's that rainy dayつながりだったが、Yoさんお持ちのそのimpulse盤(これは赤黒ラベルが初版)を聴いてみた。As9160_l右チャンネルからリチャード・デイヴィスの芯のある強いピチカット音が・・・かなり大きな音で鳴りまくる。 う~ん・・・これは・・・確かに大きい。フランク・フォスターのテナーが主役なのだが、音量バランス、それに弾き方そのものが管に負けないくらい「主張する音」となっている。僕はデイヴィスの音は強くて大きい~と認識しているので、僕としては「大きくても」問題ない(笑)ただ・・・一般的にみて、ジャズ録音における管とリズムセクションのバランスにおいては・・・少々、出すぎかな(笑)まあでもこのレコードはエルヴィンとリチャード・デイヴィスのリーダー作ということでもあるのだから・・・ヴァン・ゲルダーがあえてそういうバランスにしたとも考えられる。《Heavy Sounds写真2点~Yoさん提供》

Dscn0243_2《写真~ denpouさん提供》
Max Bennett~おおっ!あのシマウマだ!この10インチ盤・・・ただ、シマウマが2匹いるだけなのに、どうにもいいジャケットだ。denpouさんのこの手持ち盤はコンディションもいい。ジャケット表のコーティングもキレイでシマウマのオシリも艶々している(笑)
ベツレヘムというと名前が浮かんでくる女性ヴォーカルに、ヘレン・カーという人がいる。ヘレン・カーのリーダーアルバムとしては、10インチでは<ビルの一部屋に明かり>、12インチでは<浜辺に寝そべる2人>がよく知られているが、この「シマウマ」にも2曲だけヘレンの唄が入っている。konkenさんのリクエストもあり、この10インチ盤から ヘレンカーの歌入り(they say )を聴く。カーさん・・・声質にはやや低めで落ち着いた感じで、ビリーホリデイみたいに、しゃくったような歌い方もするが、わりと甘えたような唄う口でもある。そのカーの歌も悪くないのだが、ここはやはり間奏に出てくる、「おお、このアルトは?」くらいにハッとする鮮烈なアルトの音色に痺れる。そう、チャーリー・マリアーノである。マリアーノは唄伴でも遠慮しない。ここぞ・・・という感じで自分の唄を出しまくる。特に50年代の彼は激情マリアーノだ(笑)Dscn2504
ちなみにこの「シマウマ」(Max Bennett)は、それはそれは高価なのである(笑)でも同じ音源(8曲)をどうしても・・・という場合は、12インチではMax Bennett Plays(BCP-50)でも聴かれます。この辺りのbethlehem盤はどれもいいです。僕はマリアーノ目当てで集めました。

konkenさん~
Peggie Lee/Black Coffee(UK brunswick:10inch)
何年か前に杜のお仲間でも小話題になり何度か登場した10インチ盤。今回、ジャケット・盤ともコンディションのいいものをkonkenさんが入手。う~ん、やっぱりいい音だ。米Decca10インチと続けて聴いてみると・・・ペギーの声の鮮烈さ、バック伴奏陣のクリアさなど・・・やはりUK10インチに軍配が上がるようだ。ついでに米Deccaの12インチ盤も聴くとこちらの方がすっきりとしたいい感じなので、どうやら米Decca10インチ盤にはカッティングレベル(低い)も含めてプレス品質の問題があるかもしれない。

リキさん~
ロスアンゼルス交響楽団/Candide(Decca) バーンステインOverture ミュージカル音楽を豪快に爽快に楽しく聴かせてくれる。それにしてもこういう壮大になるオーケストラはYoさん宅の大きなスピーカーで聴くと理屈ぬきに楽しめる。

こんな具合にあれこれと連想ゲームのように飛び出てくる皆さんのお勧め盤を楽しんでいると、いくら時間があっても足らないなあ・・・という気分になるわけである。そんな中、でもやはり「レーベル興味」の音比べも楽しみたい・・・というのが、Yoさんと僕の病気である(笑)
こういう音聴き会の前にYoさんとメールやりとりしていると、そんな「レーベル話題」に関して何かしらテーマらしきものが浮かび上がってくる。
今回は・・・United Artistsである。以前から僕らの集まりで「UAのステレオ盤とモノラル盤」の話題になることがけっこうあった。具体的には・・・UAのいくつかのタイトルにおいては~<どうやらステレオ盤の方がモノラル盤より音がいい>ということで、まあもっともそれは、Yoさんと僕がチラチラと主張していただけで(笑)検証タイトルがなかなか揃わないこともあって、実際の聴き比べまでは話しが進まなかった。(Yoさんはだいぶ前から同タイトルで両種揃えていたようだ:笑)
僕が最初に、そのUAのステレオ/モノラルの音質違いに気づいたのは、アイリーン・クラールのBand & Iの2種を聴き比べた時だ。アイリーン・クラールは僕にとっては数少ないヴォーカルもの集めたい人で、このUA盤は5年ほど前だったか、先にモノラル(赤ラベル)その半年ほど後にステレオ盤(青ラベル)と入手した。そうして後から手に入れたステレオ盤を聴いて・・・僕は驚いた。「音の抜けが全然違う!」
このBand & I はバックがビッグバンド風なので、まあ簡単に言うとたくさんの音がバックで鳴っている。その大きな響きの様が、赤ラベル(モノラル)では、詰まったような感じで、なにやら暑苦しい感じが濃厚だったのである。アイリーン・クラールの声そのものにそれほど差はないようだったが、パッと聴いた時に、クラール独特のあの爽やかさ、軽やかさみたいな感じがモノラル盤では味わえなかったとも言える。
ステレオ盤では、バックのバンドの音群がそれはもうパア~ッと抜けて・・・「抜け」というのは、僕の中ではけっこうキーワードなのだが・・・説明しづらいのだが、周波数的に高音が出ているとかいう意味合いだけでなく、その鳴り方の「空気間」というか、その場で(録音現場)鳴り響いた音響の「感じ」が、よりリアルに捉えられている・・・というような意味合いで「抜けがいい」と表わしているつもりではある。
Dscn2494 Yoさんは、3年ほど前だったか・・・konkenさんお勧めのMotor City Sceneのキング国内盤ステレオを聴いて、その演奏を気に入り即座にそのオリジナル盤(モノラル)を入手した。ところが・・・どうも「違うなあ」ということで、国内盤であってもあのステレオ盤の方が遥かにいい音だった・・・という冷静な判断を下したらしい。そうしていつの間にか・・・Motor City SceneのUAステレオ盤(青ラベル)を入手していたのである(笑)
僕もクラール盤で感じていたことなので、UAの赤/青についてはまったく同感だった。そんな経緯もあって、Yoさんとは何度か「UA~United Aritistsは青ラベルだよね」みたいな会話をしていたわけである。Dscn2495
僕もまたkonkenさんのキング盤「モーター・シティ・シーン」を何度か聴いて、実に欲しい1枚だったのだが、わりと最近、ステレオ盤を入手して、その良さに満足しているところだ。4曲どれも良いのだが、特にA面2曲目 minor on top で出てくるぶっとい音のベースソロが気に入っている。ベースはポール・チェンバース。彼のいかにも大きそうな音が・・・そうだな、プレスティッジほど硬くなく、コロムビアほど柔らかくなく、適度な芯と適度に豊かな拡がりを保ちながらしっかりと芯のある素晴らしい音色で捉えられている。UAの録音エンジニアはあまり話題にならないが、なかなか素晴らしい録音だと思う。そのA面2曲目~ minor on topを掛けてもらった。
う~ん・・・素晴らしい!艶のある音色で細かいことをやらずに余裕たっぷりに吹くサド・ジョーンズ、それからいつものことながら、小気味いいシングルートーンを適度なアクセントを付けながらサラッと弾くトミー・フラナガン、そしていつもよりちょっと抑えた感じの、つまり・・・全編ブラッシュでリズムを刻むエルヴィン・ジョーンズ、そしてさきほど言ったポール・チェンバースのでかい音像のベースがやや左チャンネル辺りから響き渡る。いやあ・・・素晴らしい!Yoさんのウーレイから鳴る「抜けのいいベース音」も快感である。
この1曲があまりに素晴らしくて・・・赤ラベル(モノラル盤)と聴き比べることなど忘れてしまった(笑)
Uajs_15003_j_2《UJASステレオ盤の写真2点~Yoさん提供》
その替わりにというわけでもないのだが、今回、意図して持ってきたレコードが、Undercurrent(UA)である。同じUAでも・・・この作品は「サックス吹きラベル」である。Uajs_15003_l
   これについては・・・Yoさんがステレオ盤(UJAS~、僕がモノラル盤(UJA~)を持っており、僕はわりと最近、このモノラル盤を聴いて・・・その音の感じにやや違和感を覚えていた。ひと言で言うと「強すぎる」という感じがあったのだ。Yoさんとはメールではある程度、音の様相までのやりとりをしたが、やはり・・・音は聴かねばダメだ(笑)
7人が集まった会ではあるが、同音源の聴き比べにはあまり興味のない方も多いと思われるので、僕はちょっと遠慮気味にではあるが「ちょっとこれを・・・」と言って、灰色一色の暗いジャケット~モノラル盤:Undercurrentを取り出した。「ああ、それ、やりまひょか:笑」微妙に関西弁のYoさんが応えた。このUndercurrent・・・1978年だったか国内盤を入手した以来、僕はもう大好きでそのキング盤(ステレオ)を聴きまくってきた。あまり良好とは思えない録音(ちょっと弱い感じ)の音ではあったが、しかし、それは繊細に絡み合う2人の音世界に合っている・・・とも思えた。

<UnderCurrent モノラル盤/ステレオ盤から my funny valentine を聴き比べした後、Yoさんとのメールやりとり>Dscn2497
basslcef~
UAモノの方は「優雅で繊細」とだけ思っていた二人のデュオに、相当な力強さを感じました。エヴァンスのピアノがかなり近い音で入っていて(音量レベルそのものも大きいような感じ)かなり強いタッチに聞こえます。ガッツあるデュオ・・・という感じにも聴けました。
(ステレオ盤を聴いてみての印象)
やっぱり、青のステレオ盤、ある種、柔らかさが気持ちよく、そしてギター、ピアノのタッチの強弱感もよく出ていてよかったですね。エヴァンス、ホールのデュオ音楽としては、モノ盤のピアノは強すぎで繊細さに欠けた感じがありますね。楽器が二つだけのためか、他のUA作品でのステレオ、モノラルほどの音の落差はなかったようですが。同じサックス吹きセンターラベルでも、違い(ステレオはグレイ、モノラルはやや黄色がかった感じ)があることが判りました

Yoさん~
エバンス&ホールの件、UA盤はステレオとUK盤のモノがあります。UKモノはbassclefさんのモノオリジと同じようにカッティングレベルも高く、力感がありますが、ちょっと厚ぼったい感じがします。ステレオはちょっとレベル低めですが、透明感と力感が上手くバランスして好きです。
(USモノ盤を聴いてみての印象)
Undercurrentモノ盤は音自体は悪く無いのですが、仰るとおり「強い」という感じがあのDuoには似合わないように感じました。私は元々「DuoなんだからStereoが良いに決まっている:笑」と言う事で買ったのです。同じところから2人出てくるのは嫌いなので・・・(笑)

《この「黄色がかったモノラルラベル」については・・・Yoさんからも「モノラルでも普通はステレオと同じグレイ(灰色)だと思います」との情報をいただいた。僕の手持ちモノラル盤のラベルは・・・どう見ても黄色っぽい。これはいったい・・・? ひょっとしたら非US盤かも?と心配になった僕は、ジャケット、ラベルを仔細にチェックしてみたが・・・カナダ盤、オーストラリア盤、アルゼンチン盤などという表記はどこにもなかった。よかった(笑)》

Dscn2499《追記》
「アンダーカレント」という作品~
ステレオとモノラルの音の質感のことばかり書いてしまったので、その音楽の中身についても少し触れたい。デュオという形態は・・・難しい。その2人の個性を好きなら、ある意味、その人の手癖・足癖までたっぷりと見られるわけで面白いとも言えるが、ジャズはやはりリズム(ビート感)だ!という気持ちで聴くと・・・確かにデュオというのはあまり面白くない場合もけっこうありそうだ。
さて、エヴァンスとホールのデュオ・・・これは・・・僕は本当に凄いと思う。もちろんその前に、本当に好きだ(笑) その「凄い」は突き詰めていくと・・・やはりこのレコードのA面1曲目~my funny valentine の凄さなのだ。ごく一般的に言うと・・・ピアノとギターというのは、本来(器楽的な面として)ジャズでは相性が悪い。ハーモニーを出し、メロディも出し・・・という機能面で似ているので、出した時のサウンドとして「カブル」(被る~音が重なってしまってハーモニーが引き立たないというか・・・そいういうニュアンスで相性が悪いと・・・いう面は確かにあると思う。
この「アンダーカレント」は、ある意味・・・そうした器楽上の困難さに、ビル・エヴァンスとジム・ホールという2人の名人(白人技巧派として)が挑戦した・・・そんなレコードだと僕は思う。そうしてそんな2人の何が凄いのか・・・というと、それは「鋭すぎるリズム感の交歓、いや、せめぎ合い」ということになるかと思う。 my funny valentineは、普通の場合・・・スローバラードで演奏される。しかし、このテイクは違う。1分=180~200ほどと思われる急速調である。いきなりエヴァンスの引くメロディからスタカートをバリバリと掛けてキビキビしたテキパキした硬質my funny valentineなのである。ドラムスとベースがいないので、たしかに・・・なにやら疲れる。というより、普通のジャズだったら、あるはずの「聞こえるビート」「聞こえるタイム」がないのだ!これは・・・困る(笑) 落ち着かない(笑)フワフワしちゃう(笑)
しかし・・・これは2人の音楽的チャレンジでもあるのだ。ビートとタイムは今、聴いている自分が発現すればいいのである。アタマの中でも、あるいは手を膝に叩いたスラッピングでも何でもいいので、カウントを取って聞こえてくるビートに合わせてみる・・・そうすると2人の演っている「音」というのが、いかに凄いか・・・判ってくる。
このmy funny valentine・・・聴いていてグッ、グッと突んのめっていくような感じを受けないだろうか。この音楽が好みでない方にしてみれば、セカセカした感じと言ってもいいかもしれない。それはおそらく・・・テンポが速いからだけでなく、2人のノリ方が当たり前に「乗る」4ビートではないからのだ。小節のアタマ(4拍の1拍目)を、あえて外したようなフレージング。2拍・4拍のノリをあえて外したようなリズムのコンピング(相手がソロを弾いている時にバックに差し入れる和音) 2人はそのコンピングをどうやら1拍半(1.5拍)
のタイミングで入れているようだが、それを意地になって連続してくる。そしてその「1.5拍」は強烈なシンコペーションにもなってくるのだ。
<2小節8拍を~2・2・2・2(2x4=8)と2拍づつ刻むのではなく、例えば、1.5・1.5・1.5・1.5+2(この最後の2拍を1.5+0.5の場合もある)と
刻む。いや・・・この考えを倍の4小節(16拍)まで引き伸ばして、その間、延々と1.5拍攻撃を続けている場面さえあるようだ>
う~ん・・・こりゃ、聴いててもホント、どこがどこやら判らなくなる(笑) しかし・・・この2人はこの曲のどこで何をどうやっても、コーラスの進行を寸分違(たが)えずに音楽を進めていく。確固たる信念を持って先鋭的なリズムのやりとりを進めていく2人の厳しい佇まいに、僕は思わず身を硬くしてしまう・・・それくらいこの my funny valentineは凄い・・・と思う。そんな2人の緊迫したやりとりが、ひと山越えると、今度は、ジム・ホールがその真骨頂を見せる。エヴァンスのピアノのソロの途中、ホールはギターで4ビートを演ってしまうのだ。いや、ジャズを4ビートで演るのは当たり前だが、そうじゃない。よくあるようにベースの替わりをギターの低音部シングルトーンで弾くのでもない。ギターのコード(和音)を弾きながらそのまま4ビートを表出してしまうのだ!「なんだ、これは!」最初にこのレコードを聴いた時、その「和音の4ビートカッティング」に僕はブッとンだ。これは・・・ちょっとギターを弾いたことのある人ならば・・・同様に感じるであろう、ある意味「ショッキングなサウンド」なのである。そしてもっと凄いと思うのは・・・ジム・ホールという人がその「和音の4ビートカッティング」の音量を、微妙に抑え加減にして、なんというか技巧的に凄いというだけでなく、その技術をちゃんと音楽的なものにしてしまっていることなのだ。このジム・ホールは・・・本当に凄い、いや、素晴らしい。なお、いつもの僕の妄想では(笑)この「4ビートカッティング」が鳴り始めた瞬間、ピアノのビル・エヴァンスは、グッと目を見開いた。そうしてほんの一瞬、間を取ったが、その素晴らしいアイディアとサウンドに嬉しくなり、「よしっ!それならばオレもグイグイいくぜ」と鋭いフレージングに切り込んでいったのだ・・・。
*この「アンダーカレント」については、コメントも頂いたyositakaさんがご自身のブログでも触れてくれた。「2人のデュオ」という観点で素晴らしい表現をされている。
http://blogs.yahoo.co.jp/izumibun/32543379.html
このアドレスでご覧ください。bassclefもコメントをしました。その補足として、この追記を載せました。

UA盤話題で何度となく言葉になった、その「抜けの良さ」は、アイリーン・クラール、Motor City Scean、Undercurrent以外のタイトルでも実感していた。それは、有名なアート・ファーマーのModern Art。2ヶ月ほど前だったか、いつも2人でレコード聴きをするrecooayajiさんのモノラル盤と僕のステレオ盤で聴き比べた際、モノラル盤では引っ込み気味だったベースとドラムスが、ステレオ盤では、スパ~ッと抜けたように、大きな響きになり、しかもそれはふやけた感じではなく、しっかりした音圧感を伴った鳴りに聞こえたのである。
通常の場合、モノラル盤志向のrecooyajiさんであっても、レーベルによってはステレオ盤の方がいいのかな?・・・という見識もお持ちだ。つまり・・・いい録音のステレオ盤には偏見はない(笑) 実際、同タイトル2種(Art)を聴き比べてみて、これだけ「ベースの出方、ドラムの鳴り方が違ってくると・・・これはやっぱりステレオ盤の方がいいね」という場面もあったりで近頃は、僕らの仲間でも「UAはステレオ」がちょっとしたキーワードともなっている(笑)

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2010年3月15日 (月)

<思いレコ 第17回>ミルト・ジャクソンのあの音色

ヴィブラフォンという楽器のこと。

僕がミルト・ジャクソンの魅力に目覚めたのは・・・「Milt Jackson」(prestige)というレコードからである。それまでにモンク絡みでも聴いてはいたが、ミルト・ジャクソンという人を決定的に好きになったのはこのOJC盤を聴いてからだ。
もともと、ヴィブラフォンの音~それ自体には、惹かれるものがあった。ジャズを聴き始めてすぐの高1の頃だったか、当時買ったばかりのFMラジオ(1972年頃~なぜか簡易トランシーバ付き。同じラジオが2台あれば離れていても会話ができる、というやつ:笑)から流れてきたヴィブラフォンの音に僕は反応した(笑)あれはたぶんMJQだったと思うが、その時、兄貴に『この「ヴィブラフォンの音」っていうのは・・・いいね』と言うと、フォーク好きの兄貴は「ふう~ん」とまったく興味なさそうだった(笑)そんな記憶がある。

ヴィブラフォン(vibraphone)というのは、実に独特な楽器である。おそらく誰もが小学校の頃に触れた「木琴」~あの鍵盤部分が金属製なので「鉄琴」と呼ばれるのだろう。そのヴィブラフォン・・・ピアノと同じ音列の鍵盤楽器であることは間違いないのだが、ピアノと違って、ヴィブラートを掛けられるのである。ヴィブラートというのは、簡単に言えば「音が揺れる」という意味合いだと思うが、ピアノ(もちろんアコースティックの)だと、どの鍵盤をどう押えても・・・もちろん音は揺れない。ヴァイオリンやチェロなどの弦楽器なら、左手である音程を押えたままその左手を揺らすことで・・・唄の場合ならノドの独特な使い方により、どの音程でも任意に「ヴィブラート」を掛けられる。
ヴィブラフォンというのは、そのヴィブラートを掛けられるように「細工」した楽器なのである。まあ、だからこそ・・・ヴィブラフォンという名前なんだろうけど(笑)
*注~vibraphone《ビブラートをかける装置つきの鉄琴。(略式)vibes》とある(ジーニアス英和辞典より)

ヴィブラフォン奏者で、僕がわりとよく聴く(聴いた)のは、ジョージ・シアリング、(シアリングはピアニストです。このとんでもない勘違いを、上不さんがコメントにて指摘してくれました) テリー・ギブス、ライオネル・ハンプトン、それからたまに聴くのがゲイリー・バートンくらいなのだが、ミルト・ジャクソンのヴィブラフォンは他のヴィブラフォン奏者とだいぶ違うようなのだ。もちろんどの楽器でも奏者によって音色は違う。特に管楽器ではその違いは判りやすいかと思う。鍵盤楽器の場合、音を直接に鳴らす部分がハンマーなので、音色自体の違いというのは他の楽器よりは出にくいかとも思う。もちろん、鍵盤を押す時のタッチの強弱やフレーズのくせ(アドリブのメロディやアクセントの位置の違い)で、演奏全体には大きな違いが出てくるわけだが。
そんなわけで、ある程度、ジャズを聴き込んだジャズ好きが、パッと流れたヴィブラフォンの音を聴いて、その演奏がすぐに「ミルト・ジャクソン」と判る・・・ということもそれほど珍しいことではないと思う。それはもちろん、ジャケット裏のクレジットを「見ると」判る・・・ということではなく(笑)その演奏のテーマの唄い口、アドリブのフレーズがどうにも独特なので「ミルト・ジャクソン」だと判るはずなのだ。そしてさらに言えば・・・そういう演奏上のクセだけでなく、ミルトの「音色そのもの」が、これまた実に独特だから「判る」こともあるように思う。
あれ・・・たった今、僕は『鍵盤楽器では音色自体の違いは出にくい』と言ったばかりなのに(笑)
それでは・・・その「独特な音色」は、どうやってできあがったのだろうか? 

ミルト・ジャクソンを好きになって、彼のレコードやCDを集めていた頃、あるジャズ記事を読んだ。(スイング・ジャーナルか何かの雑誌だったような記憶があるのだがはっきりしない)それは、ヴィブラフォンという楽器の「モーター」について触れた記事だった。
「モーター?」 当時は、ヴィブラフォンをなんとなく「生楽器」のように認識していたのだが、よく考えたら、エレキ・ギターと同じく「電気楽器」だったわけだ。
鍵盤楽器の運命として、ひと度(たび)、鍵盤を叩いて発生させてしまった「音」は、もう変えることはできないわけで・・・つまり、その音が発せられた後には、左手もノドもその音の発生源に触れてない状態なのだから、どうやったって、ヴィブラートを掛けられる道理はない。当たり前である(笑)
そこで「モーター」なのである。ヴィブラフォンの鍵盤の下には小さい扇風機が付いていて、「モーター」はその小さな扇風機を回して「風」を起こすために付けられている。マレットで鍵盤を叩いた後に鳴っている音に、その「風」を当てると・・・「音が揺れる」仕組みなのだ。つまり・・・ヴィブラフォンのヴィブラートとは、マレットで鍵盤を叩いた後の「人工的効果」だったのだ!
《*注~すみません。この楽器のメカニズムのこと、よく知らないまま書いてしまいました(笑)今、ちょっと気になって、ウィキペディアで調べたら・・・「ヴィブラートが人工的」に間違いはなかったのですが、モーターが回すのは、扇風機というより「小さな羽根」で、それは「音に風を当てる」ためではなく、その羽根を回転させることで鍵盤下の共鳴筒を開けたり閉めたりする~その動きによって、「音が揺れる」ようです》

しかし、好きになって聴いてきたミルト・ジャクソンの「音」(音色自体+演奏技法も含めたサウンド全体)に充分に馴染んでいたはずの僕は・・・一瞬、その「人工的」が信じられなかったのだ(笑)
つまり、それくらい・・・ミルトのプレイは、自然な唄い口だったのだ。歌い手さんがすう~っと軽くヴィブラートを掛けるように、チェロ奏者が思い入れたっぷりに左手を震わすように・・・ミルトの演奏には、充分すぎるほどの「自然なヴィブラート感」があったのだ。
これは実は凄いことで、つまり・・・ミルト・ジャクソンという人は「自分の唄い」を充分に表現するために・・・おそらくそれまでにその楽器にはなかった「音色」を創り上げてしまったのだ!

その「ヴィブラフォンのモーター」記事の詳細までは記憶にないのだが、ポイントは・・・ミルト・ジャクソンの場合、そのモーターの回転数が他の奏者とは違う~というようなことだったと思う。
「回転数」という言葉にちょっと説明が要るかと思うが、つまり・・・弦楽器でいうところの「左手の揺らし方の速さ・遅さ」に当たる。「揺らし」の波形の上下(山と谷)の間隔を短め(速め)にするか長め(遅め)にするか~という意味合いになるかと思う。
ミルトよりちょっと古い世代のヴィブラフォン奏者~例えばライオネル・ハンプトンの音は、もう少し細かく速く揺れてるように聞こえるので、比べた場合、ミルトのヴィブラートは、だいぶ「遅め」に聞こえる。
音を言葉に置き換えることなどできないが、その感じを強いて表わそうとすれば・・・速い揺らしを《ゥワン・ゥワン・ゥワン・ゥワン」とすれば、遅い揺らしだと「ゥワァァワァ~ン・ゥワァァワ~ン」という風に聞こえる。
そうして、ミルトという人は、その「揺れ方」まで自在にコントロールしているようなのだ。彼のスローバラード(例えばthe nearness of you)を聴くと・・・テーマのメロディの語尾の所を「ゥワァァワァ~ン・ゥワァァワ~ン」と遅くたっぷりと揺らす場合と、あまり揺らさない(ヴィブラートが速め・軽め)場合もあるのだ。たぶん、モーターのスピードを小まめに調整しているのだろう。
人工的な機能を人間的な表現力にまで高めてしまう・・・これこそ、僕がミルトに感じた「自然な唄い口」「自然なヴィブラート感」の秘密なのかもしれない。
そして、ミルト・ジャクソンの秘密は・・・たぶん「モーター」だけではない。
ミルトのあの独特の深い音色・・・僕は、鉄琴を叩く、あの2本の鉢(ばち)~マレットにも秘密がある・・・と推測している。
ハンプトンやテリー・ギブスの音は、もう少し堅くて打鍵がキツイいと言うか、ちょっと「キンキン」した音に聞こえる。ミルトの打鍵ももちろん強いのだけど・・・(私見では)たぶんマレットの布が分厚いので、だから強く叩いたそのタッチに若干のクッションが入って、ソフトに聞こえるのではないだろうか。ソフトと言っても打ち付けられた瞬間の音の感触として、ヒステリックな感じがしない・・・ということで、もちろん「やわ」という意味ではない。ミルトの打鍵にはしっかり「芯」があり、あの粘りながら脈々と続く長いフレーズの打鍵音ひとつひとつに充分な音圧感もある。しっかりとテヌートが掛かっているというか・・・前に叩いた音が残っている内に次の音が被(かぶ)さってくる・・・というか。ずっしりとした音圧感が、どうにも凄いのである。
つまり・・・ミルトは、重いマレット(布が分厚いので)でもって、適度に強く、適度に弱く、叩きつける時の「返し」を微妙に調整しながら、しかしもちろんマレットから鍵盤に充分な打鍵力を与えている・・・という感じかな。その絶妙な「タッチ感」に、さきほどの「遅めのモーター回転」を、巧いこと組み合わせて、そうして出来上がったのが、あの「ミルト・ジャクソンの音色」ということかもしれない。
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《4~5年前に入手したprestige のN.Y.C.ラベル~僕の数少ないNYCの一枚だ(笑)》

そんな「ミルト・ジャクソンの音」を、分厚く・太く・温かみのあるサウンドで録ったのが・・・ヴァン・ゲルダーなのだ。このレコードを聴いていると・・・ミルト・ジャクソンが自分の楽器から出したであろうその音・その鳴り・その音圧感を、ヴァン・ゲルダーがそのままレコード盤に閉じ込めたな・・・という気がしてくる。

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《裏ジャケ写真~OJC盤では黒色が潰れていたが、オリジナル盤ではさすがに鮮明である。当たり前か(笑)》

さて、Milt Jackson(prestige)である。
ある時、僕はこの「Milt Jackson」・・・うんと安いOJC盤で買って、それほど期待せずに聴いてみた。当時、ミルト・ジャクソンといえばMJQのことばかりで、この地味な盤が紹介されることはあまり多くはなかったように思う。だからこの作品が「バラード集」なんてことは全く知らなかったのだが、スローバラードでのじっくりとじわじわと唄い込むミルト・ジャクソンのヴィブラフォンは、本当に素晴らしいものだったのだ。
収録曲も、the nearness of you, I should care,my funny valentine など、いい曲ばかり。片面が10分ほどと短くてすぐ終ってしまうので、僕はその度にレコードをひっくり返し・・・だから、どちらの面も本当によく聴いた。そうして、このレコードを心底、好きになってしまったのだ。
Photo
《このOJC盤を買ったのはいつ頃だったのか・・・今、僕のレコードリストで調べてみたら・・・1991年8月だった。それより以前に meets Wes や前回記事のOpus De Jazzなども入手していたから、この真の名盤に出会うのは、けっこう遅かったようだ》

たまたま買った「安いOJC盤」~僕には大当たりだった(笑)
余談だが、このMilt JacksonのOJC盤・・・ナンバーが001番で、どうやらあの膨大なOJCシリーズの第1号だったようだ。やっぱりオリン・キープニューズ氏にも「内容が良い」という自信があったのだろう。
バラード集だけど、ほんのりとブルースもあり、全6曲・・・まったく厭きない。どの曲でも脈々と湧き出るミルトのフレーズに、それはもう、deepなソウル感が全編に溢れ出ており(ソウルと言ってもR&Bのソウルではなく、深い情感・・・というような意味合い)本当に素晴らしい。特に the nearness of you は絶品!
これこそが、バラード好きでもあるミルト・ジャクソンの本領発揮・・・そして本音でやりたいジャズだったと思えてならない。
主役がミルトなので、おそらくいつもよりうんと抑えた感じのホレス・シルヴァーのピアノにも適度にブルースぽい感じがあって、ミルトの叙情といいブレンドを醸(かも)し出しているように思う。この作品・・・ピアノがホレス・シルヴァーで本当によかった・・・(笑)

そして、この「Milt Jackson」には、もうひとつ・・・素敵な偶然があった!
1980年頃だったか・・・ワイダやポランスキー、ベルイマンの映画を見るために、毎週、名古屋まで通ったことがある。「灰とダイヤモンド」「地下水道」や「水の中のナイフ」それから「ペルソナ:仮面」などを、実に面白く・・・というより、映画マニアを気取って、しかめっ面をしながら観ていたわけである(笑)そして、内容とは別のところで妙に印象に残った映画がひとつあった。
「夜行列車」である。この映画・・・列車の同部屋に乗り合わせた人々の物語で、「灰とダイヤモンド」や「地下水道」に比べれば、僕にはたいして面白くなかった。しかし印象に残っている・・・そのテーマ音楽がとてもいい曲だったのだ。
寂しい映画にピタリと合う、寂しいメロディ・・・独特に上下するような独特なメロディが、映画の間、何遍も流れてくる。映画が終わり・・・僕はその独特なメロディを忘れたくないがために、地下鉄までの帰り道でもハミングしたり口笛を吹いたりしていた(笑) その効果もあってか・・・何年か経っても、時にそのメロディが、アタマにちらついたりするのだった。
ただ、僕はその曲は映画のオリジナルだろうと思ったので、その曲の正体など知るべくもなく、そのメロディの記憶も徐々に薄れていった。
そうして・・・前述の「ミルト・ジャクソン」なのである。このレコード・・・A面最後の曲が流れてきた時、僕は思わず「おおっ!」と声を出した(笑)
これは・・・あの曲だ!あのメロディじゃないか!
クレジットを見ると・・・《moonray》とある。11年ぶりの再会である。こういう時・・・音(音楽)の持つ力ってなかなか凄いものがあって、いろんな感情・感覚がぐわ~っと甦ったりする。ジャケット裏の解説には~MOONRAY:an old Artie Shaw opus(アーティーショウの古い作品)との記述があった。ようやく僕は、あの「夜行列車」のテーマ曲が、moonrayという古いスタンダード曲であることを知ったのである。
その後、もう一枚、ジャズのレコードに入っている moonray を知った。それは、ローランド・カークの、いや、ロイ・へインズの「Out Of The Afternoon」(impulse)である。
お持ちの方、ぜひ聴いてみてください。うねるようなメロディが不思議な寂しさを湧き起こすような(僕には:笑)名曲だと思う。
このmoonray事件には後日談があって~2年ほど前だったか・・・ニーノニーノさんBBSのお仲間:M54さんが、やはり映画「夜行列車」を見て、何やら印象に残った曲がある。気になって仕方ない・・・というような書き込みをされたことがあるのだ。その書き込みを見た僕は、その気分が全く100%まで実感できたので・・・もったいぶりながら(笑)そのテーマ曲の正体をお教えしたわけである。
当時のヨーロッパ映画では、盛んにジャズの曲(演奏)を映画に使ったそうで、ということは・・・1960年頃のヨーロッパの映画人もジャズに何かを感じとって映画にジャズ音楽を使い、何十年も後にその映画を観た人間もその音楽から何かを感じ取って、ある感興(かんきょう)を抱く・・・まったくジャズというのは素晴らしい何かですね(笑)

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2008年8月 8日 (金)

<ジャズ回想 第16回>暑い日にYoさん宅に集まった(その2)

やっぱりロリンズはいい!

今回のYoさん集まりではいろんなジャズ、クラシックを聴いた。ペッパー、ゴードン、マリアーノ、フィル・ウッズの50年代ジャズの後、ちょっと「現代ジャズ」(チコ・フリーマンとアーサー・ブライス)。クラシック(プレヴィンとカラヤンの「惑星」、展覧会の絵、デュプレのチェロ、ラフマニノフの3番、チョン・キョンファのバッハ曲など)も聴いた。マイルスやフランクロソリーノ、MODEレーベルのミニ特集、「my one & only love」の聴き比べ、それから、ロック(ツェッペリンの何か)も少し。もちろん女性ヴォーカルもいくつか聴いた。エセル・エニスのChange of Scenery(capitol)、リタ・オビンク(オランダの歌手)、エリス・レジーナ。さらに、サラ・ヴォーンとクリフォード・ブラウンのemarcy盤~ブルーバック、ブラックバック、カナダ盤、日本盤BOXセット(デジタル・リマスター)~の聴き比べ。これはなかなか面白かった。
いつものことだが、こうした音聴き会を終えると、いろんな音楽の様相~そのイメージみたいなもの~がアタマの中を渦巻いて、たいていその日の夜はうまく寝付けない。翌日もなにやらぼお~ッとした感じなのだが、それは「心地よい疲れ」でもあり、なかなか悪くない。そうして、ちょっと落ち着いてから、会で聴いた曲を改めて自分の手持ち盤で聴いてみると、その曲を聴いた時の感触がリアルに甦ってくるのだ。そんな具合で、混沌としていた音たちのイメージが整理されてくると・・・その日の音盤たちを記録しておきたくなるのが僕の病気だ(笑) どのレコードもいいものばかりなので「全て」を書き残しておきたい気持ちもあるのだが、今回の(その2では)ジャズ盤で印象に残っているものをいくつか書いてみたい。

《以下の写真~「橋」以外は全てYoさん提供》
Prst_7677_j Yoさんが「じゃあ、エルヴィンを」と言って針を落とす。張りのあるテナーとバリトンの野太い音。この両者とエルヴィンのドラムスが絡みあうようなテーマの曲だ。たしかに聴いたことのあるサウンドだが、うう・・・これはエルヴィンのbluenote盤かな? いや、ちょっとbluenoteとは感じが違うようだ。それとこのバリトンは・・・bluenoteのエルヴィンにバリトン入りなんてあったかな? そうか、このバリトン・・・ペッパー・アダムスか。となると・・・あっ、そうだ・・・アダムスのプレスティッジ盤、ズート入りのあれだ!「これ、エンカウンター?」と聴くと、Yoさんが「うん」と、ジャケットを見せてくれた。このレコード・・・僕は何かの再発盤で持っているのだが、ズート目当てに聴いたわりには、そのズートがいつもの柔らかい感じとは違っているような印象を持っていた。たしかにこのズート・・・いつもよりバリバリと吹いているみたいで、ちょっと新しい世代のテナーみたいに聞こえなくもない。エルヴィンと演っているためか、1968年の演奏なので、ズートのスタイルもちょっと変わってきているのか。聴いた曲は in and out。ブルースっぽい曲だが、バリトン、テナー、それからピアノ(トミー・フラナガン)が1コーラス(12小節)づつソロを取るのだが、どのコーラスでもエルヴィンがブレイクを取る。その4小節の間、ソロ奏者は「バッキングのリズムなし」でアドリブしなくてはならない。このブレイクがあまりにも頻繁なので、最初は新鮮に感じたその「ストップ感」がちょっとくどい感じもしないではない(笑)Prst_7677
それにしても、エルヴィンのシンバルの・・・いや、スネアやらバスドラ、それら全体から湧き上がってくるような「鳴り」は・・・凄い。ただ、もともと「ドカ~ン!」と鳴るエルヴィンの「響きの全体」に、ちょっと「エコー」が掛かり過ぎていて、量感は凄いがややタイトさに欠けるようにも感じる。1968年12月の録音。そんな「エコー感」からも、engineerは・・・ヴァン・ゲルダーだと思い込んでいたのだが・・・今、手元にある米fantasy再発盤(日本ビクタートレーディング)の裏ジャケットには、Tommy Nolaと表記されていた。

もう1枚、エルヴィン絡みで聴いたのは~As9160_j
Heavy Sounds(impulse) このimpulse盤は1967年発売なので、センターラベルは「赤・黒」がオリジナルとのことだ。これは好きなレコードだ。テナーがフランク・フォスター・・・特にフォスターという人を聴き込んではいないのだが、このレコードを聴くたびに「いいテナ ーだなあ」と思ってしまう。そしてこのimpulse盤、何がいいかって・・・ベースのリチャード・デイビスがいいのである。まずギュッと締まったベースの音色が心地いい。それから、デイビスのグイグイッと引っ張るようなビート感も、そして、ソロを取るときのガッツ溢れる「唄おうとするマインド」も素晴らしい。
そういえば、リチャード・デイビスを一度だけ見た。新宿ピットインで森山威夫のライブが終わった後に、翌日行われる<リチャード・デイビスmeets 森山威夫、板橋文夫>の公開リハーサルなるものを1時間ほど見ることができたのだ。あれは・・・たしか翌日にソニー・ロリンズを渋谷公会堂で見た時なので・・・1981年だったように記憶している。As9160_2
椅子とかは片付けられてしまい、それでも残った熱心なファンが注目する中、そのリハーサルが始まる。ところが、リチャード・デイビスのベースの音は・・・細くてペンペンだった(笑) レコードで聴くあの強靭さがほとんど感じられないその貧弱な音色に、僕はもう本当にがっかりしてしまった。ところが、デイビスが10分、20分と弾き込むにつれ・・・ベースの音が徐々に「深く」なってきたようなのだ。弾き込むことでベース自体が鳴るようになってきたのか、あるいはアンプの調整をうまく合わせてきたのか、とにかく「いい音」になってきた。リハーサルなので、テーマとエンディングの合わせくらいで、ベースもソロなどほとんど取らないのだが・・・なんというか、マグマの地熱のように吹き出てきて、演奏が「徐々に熱くなってくる」ような感じだった。あの独特なグルーブ感は・・・デイビス自身の持つ底の知れないジャズマインド~そのマインドの深さが生み出す凄さだったのかもしれない。リハーサルであの具合なら・・・これは本番では、さぞや・・・と思わせてくれるリチャード・デイビスであった。
ちなみに、私見では、この日、いくつか聴いたチコ・フリーマンとの名コンビのべーシスト~セシル・マクビーとよく似たタイプだと思う。音色の質、ビート感、マインド・・・好きなタイプのべーシストである。
さて、このHeavy SoundsからYoさんが選んだのは~shiny stockings。これは文句なく、いい曲だあ!(笑)この有名曲・・・実はフランク・フォスター自身の作曲である。
Heavy Sounds(impulse)は、先ほどのEncounter(presitge)とほぼ同時代の録音なのだが、「録音」という観点で比べると、僕はこのHeavy Soundsの方が、うんと好きだ。フォスターの(たぶん)しっとりした音色も自然な味わいだし、デイビスのベースのタイト感もよく録れている。そして何よりもエルヴィンのドラムス・・・その全体の鳴りが~もちろん「でっかい鳴り」ではあるが、過剰な強調感がない(ように感じる) こちらもimpulseなので、録音はVan Gelderかと思いきや・・・今、僕の手持ち盤(再発のグリーンラベル)でチェックすると、Bob Simpsonだった。この人、オスカー・ピーターソンの「リクエスト」の名エンジニアである。

Lps_2 ロリンズの「橋」をかけてもらった。このレコード・・・僕は長い間、日本盤で聴いていたのだが、ようやくRCA VictorのLSP盤(ステレオ)を入手した。自分の荒っぽい装置で聴いても「かなりの鮮度感」と思ったので、ぜひYoさん宅のいい装置で聴いてみたかったのだ。
where are you?を聴く。ロリンズのテナーの音が、その音の輪郭がググ~ッと余韻を持って拡がる。「エコー」で拡がるのではなく、ロリンズ自身がおそらくテナーを揺らして音色の音場を拡げている・・・そんなソノリティ(「音の響き具合」というような意味合いか)を感じる。時に、ロリンズが音をベンド(音程を微妙に上げ下げするような感じ)させる辺りの表現力・・・これには参ってしまう。あの上げ下げは・・・おそらく、マウスピースに通す息をわざと詰まるようにしてベンドさせているのだろう。そんな「小技」だけでなく、とにかく全編がロリンズ独特の音色によるロリンズの「唄」になっている。う~ん・・・これは気持ちいい!このwhere are you? は、ロリンズのバラードでは最高かもしれない。(笑)ジム・ホールの控えめな音量だが、キュッと芯のあるギターもいい音で鳴っている。以前からRCAのステレオ録音は好きだったが、この「橋」は、自然な質感の、しかし充分に音圧感を持った本当にいい録音だと思う。
次に、Yoさん手持ちのモノラル盤も聴いてみる。モノラル盤もやはりいい音だ。つまったような感じもなく、テナーの音も伸びやかに拡がるし、ウッドベースの厚み・音圧感は、やはりモノラル盤の方に分がありそうだ。
私見では、RCA Victorは、モノラル盤でもステレオ盤でも、音質の感じに大きな違いはないように思う。音質の傾向としては、過剰な色づけが少なくて、どの楽器の音もしっかり録られている感じがして、実に聴きやすい音だと思う。録音エンジニアは、Ray Hallだ。RCA Victorステレオ盤のいいところは・・・モノラル盤に比べても各楽器の音圧感がほとんど落ちないまま、ピシッと各楽器が定位されることで、僕はロリンズのテナーが右寄りから振りかぶってくるようなステレオ盤が好みである。

もうひとつ、Yoさん手持ちのロリンズのVictor盤を聴いた。Lsp_3355_j
The Standard(LSP:ステレオ盤~こちらもengineerはRay Hall) である。my one & only loveをかける。実はこの前に、ちょっとした「my one & only love」特集があり、チコ・フリーマン(Beyond The Rain)、リッチー・カムーカ(mode盤)のmy one & only loveを聴いていたのだ。そしてロリンズのこの曲~意外な感じがするが、ピアノがハンコックなのである。
僕は「このmy one、いいんだけれど、ハンコックのピアノがなあ・・・」と隣にいたkonkenさんに言うと・・・「合わないだけじゃないですか?」とクールな反応であった。ロリンズとハンコック・・・確かに「合わない」(笑)たぶん、他ではない取り合わせである。久しぶりに聴いたこのmy one & only love~ ゆったりと音をいつくしむように吹くロリンズはやっぱり素晴らしいじゃないか。良くない印象だったハンコックのピアノも、左手のハーモニーがちょっと「新しい感じ」で僕の好みとはちょっと違うが・・・切れのいいタッチがいい音で録られており、案外に悪くなかった(笑)Lsp_3355
このStandard~これも実にいい音だった! これではRCAのロリンズは全てステレオ盤で揃えたくなってしまう。そういえば、ブログ仲間のbsさん<Blue Spirits>で、うんと以前から「RCA期のロリンズは凄い。ぜひステレオ盤で聴いてほしい」という内容の記事を書かれていた。今回、「橋」と「スタンダーズ」のステレオ盤を続けて聴いてみて、bsさんの得たであろう感触を実感できた。
そして、もっと実感したのは・・・僕はやっぱり、ソニー・ロリンズを大好きなんだ!ということかもしれない(笑) 

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2008年7月31日 (木)

<ジャズ回想 第15回>暑い日にYoさん宅に集まった(その1)

リュウゼツランを観る会という名の音聴き会~

A702 今回のYoさん宅集まりは、なんと言っても50年に一度の開花と言われる「リュウゼツラン」を観る会~といういこともあり、到着後、まず皆がその面妖なる植物の下に集まる。根っこの部分には、長くて先の尖った「葉っぱ」~サボテンのように肉厚でしかもその葉っぱの両側には棘(とげ)がある~が何本も放射状に拡がっている。Yoさんによると、どうやら、この尖った凶暴な感じを指して「龍舌蘭」と呼んでいるとのことだ。その根っこ部分のの中央から直径10cmほどの太い茎が天に向かって伸びている。高さは4mほどか。その茎の一番高いほうに、クルクルと蔓(つる)状の小さい茎がが7~8本くらい飛び出している。
その先端がどうやら「花」(小さい円筒系の感じ)の部分らしい。なんとも不思議な姿のリュウゼツランである。
午前中から軽く30度はあるかという熱さでもあり、戸外にそう長くは居られない。記念写真も撮ったので、「じゃあ・・・そろそろ」ということで、いつもの「音聴き会」に突入する我々である。
《上写真はYoさん提供~7月上旬のリュウゼツラン。訪問時にはもう少し高くなっていたかもしれない。どことなく中国大陸を感じさせる植物だ》

Yoさん、リキさん、recooyajiさん、konkenさん、それに僕:bassclefの5人がソファに落ち着く。Musashi no Papaさんはやや遅れるが、絶対に参加したいとのこと。みんな気合充分なのだ(笑)
Bcp6010_j_2  まず、Yoさんがお気に入りの歌い手~オードリー・モリスのbethlehem盤を選ぶ。僕は、モノラル・カートリッジを含む4種のカートリッジで、出てくる音にどんな具合 に違いがあるかな?・・・という興味があったので、ちょっとお願いして、同じ曲を4種で聴き比べさせててもらうことにした。
モリスは落ち着いた声質(こえしつ)で、決して声を張り上げない唄い方の、とても品のある歌い手である。いつも思うのだが、ヴォーカリストへの好みというのは・・・本当に人それぞれだが、その理由は、最後は「声質」しかないと思う。その人の声が、好きなのか嫌いなのか?それは・・・純粋に感覚的、生理的なものだろう。「声」に対する(それぞれの方の)許容範囲があって、次に「巧さ」に対する評価~評価と言ってもこれも「好みの唄い方」かどうか・・・という類(たぐい)のものだと思う~そんなものから、さまざまな歌手への好みが決まってくるように思う。
当たり前のことだが、カートリッジを変えると・・・その声質(こえしつ)が微妙に違って聞こえてくる。Bcp6010_2
どう違ってくるのか・・・表現するのが難しいが、大雑把に言えば~
「声質~声が細めなのか、あるいはやや太めか」や「声の大きさ~声の出方とバックの楽器の出方のバランス」という辺りにおいて、わずかな違いが現れる・・・という感じかな。
《モリスの写真2点はYoさん提供》

Yoさんが昨夏に導入したエミネントの2種は(モノラル、ステレオ)同じ肌触りの音質だったが、ソロ(モノラル)の方が、やや声が大きく聞こえて、少しだけ声が丸くて太いかな・・・という気がした。ジュビリーとSPUでも同様にSPUの方が、声が若干太くなったように聞こえたように思う。僕の場合は、どうやら人間の声の変化に対しては、大雑把にしか感じ取れないようだ。楽器の音だともう少し判りやすい。ジュビリー、SPUの次に、エミネントのモノラルで掛けた時・・・(僕の耳には)バックの楽器がすっきりして、明らかにいい音になったように聞こえた。こざっぱりした・・・というか。それがベツレヘムの品格みたいなものに合うようにも聞こえて、僕には新鮮だった。
カートリッジ別での聴き比べをする際・・・こんな風に変わってしまうこと自体を楽しむ~ということもできるが、それはたぶん、僕のようなヴォーカル初心者のノリだろう。ヴォーカルの「聴き比べ」としては・・・もっとモリスの声の質感の方に拘った聴き方もできるはずだ。その「拘り」とは・・・おそらくその歌い手への愛情が強い人ほど「微妙な質感の違い」が気になってしまう・・・という類(たぐい)のものだと思う。要は(この場合)オードリー・モリスという人をどういう声質の歌い手だと捉えているか・・・どんな声質で聴きたいのか・・・どの声が好きなのか」という(感じ方の)基準みたいなものをしっかり持つことだと思う。そうであれば「この歌手にはこのカートリッジが合う」という判断もできるだろう。
正直に言うと、僕はヴォーカルの声質(への感性)については・・・今ひとつ定見がない(笑)だから今回の4種カートリッジ聴き比べで、その声質が微妙に変わると・・・オロオロと迷うばかりだった(笑)やはりどこまでいっても僕は「ヴォーカル初心者」のようだ(笑)

Cimg3803_2そうこうしている内にPapaさんが到着した。事情で早く帰らねばならない Papaさんの手持ち盤から聴くことになった。
まず、デクスタ ー・ゴードンの「煙草の煙ジャケ」が出てきた。Dootone盤~ Hot&Cool だ。Cimg3804その黒い盤面を見て、recooyajiさんが
「red vinylが・・・」とつぶやく。「えっ?」とPapaさん。Yoさんも、そのデクスターには、たしか「赤盤」が出ていたはずだ~と付け加える。それを聞いて・・・Papaさんの顔がどんよりと曇った(笑)
「黒盤でも充分にオリジナルですよ」という僕の言葉にも「いや、もし黒と赤が同時だとしても、赤が限定で出ている以上は、それがオリジナルです!」と、早くも新たなファイトを燃やすPapaさんである(笑)Cimg3805
cry me a river を聴く。堅めの音色で吹き倒すデクスター。時々、与太ったようにもたれたノリになる辺りが、妙にかっこいい(笑)
1955年のデクスターは、このDootone盤とベツレヘム盤くらいしかないはずで、この後、しばらく(レコード上は)ブランクがある。


Cimg3816_2 《上写真~papaさん所蔵のModern Art(intro)》 
続いて、出ました! intro盤のペッパーが!見ると、ジャケットも盤もピカピカだ。う~ん・・・こりゃ凄い。茶色のセンターラベルに格調高いロゴのINTRO文字が誇らしげだ(笑)

この「モダン・アート」を僕はもう好きで好きで、東芝盤で聴き倒してきたが、オリジナルのintro盤・・・果たして音の方は・・・?
ペッパーの絶品バラード~ bewitchedを聴く・・・う~ん、参りました!Cimg3814_2
なんだ、このアルトの音色はっ! 一聴、大人しめのアルトなのだが・・・これは凄い。なんというか・・・ピシッとした「芯」を感じさせるアルトの音色なのだ! そしてそれは・・・ペッパーの心の奥底に秘めていた情熱が、抑えても抑えても、沸々(ふつふつ)と湧き出てくるようなあの吹き方・・・そして、そういう吹き方であることが伝わってくるような音であった。なんなんだ・・・この存在感は! いやあ・・・やっぱり「イントロのペッパー」は素晴らしいレコードだ。世のコレクター諸氏があれだけ「ペッパーのintro盤」に情熱を賭けるのも、これは無理からぬことだと実感させられた。

Cimg3806 もうひとつ、ペッパーで行こう! Marty Paich Quartet(Tampa)だ。こちらは当然のごとく「赤盤」が出てくる。
黒盤(ジャケットが黄色でラベルがピンク色)の方はリキさん宅で聴かせてもらったことがあるが、あの黒盤も実にいい音だった。
たまたまYoさんがこの「マーティー・ペイチ・カルテット」の日本バップ復刻盤を持っていたので、並べてみる。バップ盤も見事な出来映えである。盤の重さもあるし、センターラベルの赤色も、ほとんどオリジナルの色具合に近い。そのセンターラベルに1箇所だけ違いを発見した。下のラベルの写真2点を見比べてみてください。「溝」の有無だけでなく、オリジナル盤にはある「ハシゴ柵」の模様が復刻バップ盤にはないのである。この違いは・・・僕は製作者の良心からだと推測している。Cimg3811_3Vap_tp28_3   


《左側~Papaさん提供、右側~Yoさん提供》
over the rainbowを掛ける。この赤盤オリジナルも、品格のある素晴らしい音で鳴った。Papaさんも嬉しそうだ。
このover the rainbow・・・もちろんペッパーの名演なのだが、実はちょっと面白い場面があるのだ。
このover the rainbowには、ちょっと変わったアレンジが施されており、ペイチのピアノがイントロとして先導フレーズ~なにやらバロック風の下降するフレーズ~を1小節だけ弾く。すると、ペッパーがあの有名なテーマを吹き始めるのだ。しかし、このバロック風フレーズがちょっとクセモノで、イントロとして1小節だけで終わらずに、アルトが主メロディに入ってもまだ1小節ほどそのバロック風のバッキングを続けるアレンジなのだ。それが・・・「判りにくい」(もう1小節そのパターンが続いていくかのように思える)
そしてたぶんそのためだろう・・・主メロディの2回目の出だし・・・ここでもイントロと同じ「バロック」をピアノが弾くのだが、そのピアノのフレーズが1小節を終えても、ペッパーが入ってこないのだ。ピアノはそのバロック風フレーズを続けているので、パッと聴いても「間違い」には聞こえない。聞こえないが・・・僕はこれはペッパーの勘違いだと思う。その証拠に「アタマの位置」からは、ちゃんとベースも入ってくるのだ。そのベースを聴いて「アッ、まずい!」とペッパーは思ったはずだ。しかし・・・出遅れたからには今さらメロディなんか吹いてたまるか・・・てなもんで、なにやらフワフワとしたフレーズ~まるで木の葉が風に舞っているような~を吹きはじめると・・・さすがはペッパー! それがちゃんとしたアドリブになってしまうのだ(笑) そのままサビ(ピアノのメロディの間にオブリガートを入れるペッパー)そしてエンド・テーマに入り短いコーダが付いて・・・その1コーラスだけで、実にあっさりと終わってしまう。このover the rainbowは・・・短いがしかし気の利いたエッセイのような、そんな逸品(いっぴん)だと思う。 そういえば、ペッパーには「もうひとつのover the rainbow」がある。ショーティー・ロジャーズとのcapitolCimg3812盤なのだが、それについてはまた別の機会に(笑)

余談だが・・・このMarty Paich Quartet の裏ジャケットを眺めていたら、「おっ!」という小発見があった。engineerに、Val Valentineと表記してあるではないか! このValentineという人~僕などは60年代に入ってからのVerveの中心的エンジニア氏という認識しかなかった。そのValentine氏が、まさかこんな早い時期(1956年)の西海岸のレコードを録音していたとは・・・そして、このTampa盤のMarty Paich Quartet~僕は(1956年としては)なかなかの音だと感じたのだ。
Cimg3810_2  Valentineという人は、Verveであれだけ多くの作品を録音しているのだから、もちろん名エンジニアのはずだが、これまで僕は、Verveでの彼の録音を特に素晴らしいとは感じていなかった。だからこのtampa盤のペッパーの音を聴いて「意外」な感じを受けたのだ。う~ん・・・これは、若かった感性の鋭いValentineだからいい音なのか、あるいは西海岸だからいい音なのか・・・加えて、Valentine氏にも西海岸時代があったということと、そしてValentineとWally Heider(西海岸の名エンジニア)の関係は? この辺り・・・まったく興味は尽きない。
《デクスター・ゴードン(dootone)とペッパー(intro, tampa)の写真~すべてPapaさん提供》

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2008年6月 4日 (水)

<ジャズ回想 第14回>4回目の白馬は雨降りだった。

2008年5月~杜の会in白馬

毎年、この時期になると、ひとつ楽しみなことがある。長野県白馬で行われるニーノニーノさん主催の「杜の会in白馬」である。2005年の第1回から数えてもう4回目だ。今年は、関西からのYoさん、Musashi no papaさんに、愛知・静岡組の~recooyajiさん、konkenさん、マント・ケヌーマーさん、そして僕:bassclef~6人が合流してのクルマ旅となった。1369astaire
5月24日(土)集合場所の伊勢湾自動車道「刈谷ハイウエー・オアシス」にて、うまく合流できた我々6名は「やあやあ」と挨拶を交わす。papaさんとは3月の藤井寺以来だが、recooyajiさんとマントさんは、papaさんと初対面となる。「杜」で知り合ったお仲間が初対面する時・・・ちょっとおもしろい現象が起きる。「~です」と事前に聞いていたはずの名字を言いあっても、なかなかピンとこないのだ。それで「recooyajiです」と「杜」でのハンドルネイムを発声すると・・・「ああっ、recooyajiさんですかあ!」と、描いていたその人のイメージが、今、目の前にいる生身の人間と劇的にマッチする~という仕組みなのだ(笑) そういえば、2005年に初めて「洗濯船」1Fのあの食堂に入って行った時~すでにほとんどのメンバーが集合しており談笑していた~僕が「bassclefです」と言うなり、皆さん「ああ~っ」と反応してくれたなあ。そして全員(ほとんどの方が初対面)が名字+ハンドルネイムで自己紹介をすると、不思議なほどに打ち解けてしまうのだった。

さて、なごやかになった6名に気合が入る。「いざ、白馬へ!」
最初の運転はpapaさんだ。昨年、僕が失敗した土岐ジャンクションでの<伊勢湾自動車道~中央自動車道>も巧く乗り継ぎ(あたりまえか:笑)中津川の長いトンネルも抜けていく。こういう長いトンネルは6人でワイワイやってると早いけど、1人だと本当に長く感じる。しかもあの「微妙に暗めのオレンジ色」あれがいけない。あんな風にトロ~ンとした色合いでは・・・どうしたって眠くなるじゃないか(笑) Yoさんのワゴン車も3500ccでパワーに余裕があるのだが、papaさんは運転も相当に巧いようで、緩やかに続く登りカーブでもスムースな走りだ。そういえば、さっきYoさんが「papaさんはA級ライセンスを~」と言ってたな。僕は最後列でkonkenさんと隣合わせだ。ちょっと新しめのテナーの音が流れている。「これ、誰だろう?」「判らん」「わりと最近の録音だろうね」てなジャズ雑談。なにしろ、2人とも新しい録音のジャズをほとんど聴いてないのでよく判らないのだ(笑) スピーカーが後列にもあり、けっこう大きめな音量だったので、ちょっとだけヴォリュームを下げてもらった。その時のpapaさんとYoさんの反応で~音を下げろということは、あいつら、マレイを気に入ってないな・・・というような会話に違いない(笑)~このテナーが「デビッド・マレイ」だと判った(笑)そういえば、マレイについては・・・3月のYoさん宅でも、papaさんお勧めの2~3タイトルを聴いたばかりだ(笑)
お昼前までになるべく行けるところまで行っておきましょう~という作戦にしたので、ほとんど休憩を取らない。その内、マレイのCDが一巡したらしく同じ曲が流れるので「そろそろ替えましょう」などと最前列助手席のYoさんにお願いする。後はバルネなど聴きながら・・・あれ、もう松本近くまで来ているじゃないか。朝の集合が早かったこともあるので、梓川SAでちょっと早めのお昼休憩。
次の運転はマントさん。マントさん、仁科三湖辺りのクネクネ道でもけっこう飛ばす。クルマがよく走るので嬉しいのだろう。 マントさんに後から聞くと、あれでも抑え目に走ったと言うところが、ちょっと怖い(笑) だんだんと曇ってきているようで、なんとかガマンしていたような雨が、ついにパラパラと降り始めた。この辺りまで来ると、左側には槍ヶ岳とかの景色が素晴らしく広がるはずなのだが、そんな山々の姿もほとんど見えなくなってしまう。まあいいか・・・どうせ我々は山歩きをしにきたわけではない。
そんなこんなで、2時過ぎには「洗濯船」に到着。幹事役のSPUさんとパラゴンさんが笑顔で出迎えてくれた。会が始まる前に、皆さんのレコードを見せてもらうのも楽しみのひとつだ。僕はpapaさんに声をかけて、papaさんコレクションから見せていただくことにした。papaさん、今回はパーカー10インチを遠慮して(笑)他の貴重盤をたくさん持ってきてくれた。食堂のテーブルにずら~っと並べる。パラゴンさんがヴォーカル好きということで、ヴォーカルの珍しい盤をいくつか~キティ・ホワイトの見たことのない盤(emarcy盤ではない) ピンキーのvantage盤など・・・挙げていけばキリがない。あの辺りだと・・・ヴォーカル好きが見たらマイってしまうだろうな。僕はやはりインスト中心なので、ペッパーのdiscovery 10インチ盤2点にどうしても目がいってしまう(笑) これは・・・聴いてみたい! 食事の後の地下JBLルームでの第3部の時「ぜひ」とお願いした。
そうこうしてると、ワガママおやじさん、Dukeさん、千葉xyzさんも到着した。千葉xyzさんとpapaさんは今回の白馬が初参加だ。「洗濯船」オーナーのMさんも加えて、さあ・・・これで、今回の参加者12名が揃ったじゃないか。御大Dukeさんが一言~「ちょっと早いですが揃ったので始めましょうか」外の雨もだいぶ強くなってきたようだが・・・今から、ひたすらレコード音楽に耳を傾ける我々には関係ないか(笑)

第1部「トーク・タイム」(14:45~17:15)地下JBLルーム
ワガママおやじさんと不肖bassclefのトーク~各1時間づつたっぷりと語らせていただきました(笑) 昨年の「白馬:杜の会」からこの新企画が始まった。事前に指名された方が、60分ほど時間を頂いて、自分の選曲とコメントを皆さんに聴いていただくのである。テーマは全くの自由。昨年の白馬では、洗濯船MさんとYoさん。秋の杜では、パラゴンさん、recooyajiさん、Gamaさんが、この「トークタイム」を通して、自己の音楽原点的心情を吐露したのだった。その秋の杜の宴会の時、パラゴンさんから「2008年白馬トークタイム」のご指名を受けてしまったのだ。
好きなレコード(演奏)を掛ければいいのだよ~と思ってはみても、いざ「お前が好きなようにやれ」と言われると・・・案外、迷うものなのである。それに、あまりマニアックに過ぎるのもなあ・・・などとあれこれ悩んだのだが、結局はジャズジャイアントの隠れた名演~みたいな線でいこうと決めた。白馬直前のワガママおやじさんの「杜」への書き込みでも、同じような迷いがあるらしいことが判った。自分の好みで選曲できる「トーク」は楽しいけど、けっこう大変なのである(笑)

2008_0116s90000013_3 <ワガママおやじさんのトーク>
S&Gの「サウンド・オブ・サイレンス」を巡っての話し~
ポールサイモンが独りで吹き込んだSimon Before Garfunkelというアルバム。確かアメリカでは発売されずに、日本だけで発売許可されたというレコードである。このSimon Before Garfunkelは、僕にとっても思い出の1枚だ。中3の時だったか・・・このCBSソニーのLPを入手して、それはもう聴きまくったものだ。この「サウンド~」ギターのアルペジオで始まるイントロこそ、おなじみのパターンなのだが、唄の出足~hello darkness, my old friend~ポールは、怒ったようなぶっきらぼうな調子で唄い始める。ちょっとボブ・ディラン的というか・・・感情を抑えたようなポールの静かな気迫を感じる唄い出しだ。このレコードでは全曲、伴奏は自分の弾くギターだけ。しかし、そのシンプルさが、かえってポールの音楽(S&Gではなく)の骨格を見事に浮き彫りにしたのかもしれない。唄いながら、ギターを叩き、足を踏んでリズムを取るポール。この「サウンド・オブ・サイレンス」・・・抑えていた彼の内に秘められたいろんな感情がモロに溢れ出てしまったような、素晴らしい唄とギターであった。この「独りS&G」を初めて聴いた方も多いようだったが、誰もが感銘を受けたようだった。このPaul Simon Song Bookについての、ワガママおやじさんの記事はこちら、http://ameblo.jp/d58es/day-20080116.html それと、mono-monoさんの記事http://mono-mono.jugem.jp/?eid=195
67camperさんの記事http://blog.goo.ne.jp/67camper/e/0dfa2c93fde73f44354648646df7d583もおもしろいです。

おやじさんのトーク後半は「後期の2008_0524s90000013_2リー・モーガン」特集だ。1965年のCornbreadから、1968年のCaramba、1971年のBobby Humphrey(女性フルート奏者)への客演、それから映画「真夜中のカウボーイ」のサントラEPなどをかけてくれた。「真夜中~」これ、ハーモニカのトゥーツ・シールマンがメロディを吹いていて、ちょっとムード歌謡っぽいモーガンのトランペットが軽くアドリブする~という珍品。僕はもちろん初めて耳にした。他の4000番台のLPも正直なところ、全て初めて聴いたものばかりだ。僕はどうしても「ハードバップ」的なサウンドが好きなので、1965年の「コーン・ブレッド」での、ちょっと大人しい・・・というより弱々しい、しかし妙に存在感のあるテナーの音色が気に入った。そのテナー奏者は・・・ハンク・モブレイなのであった!
*このワガママおやじさんのトーク内容については、「こだわりの杜」へのご自身の書き込みがありましたので、ここに再掲させていただきます。
(以下斜体字部分)2008_0606s90000004_2
《トーク自体は再現出来ませんが、お聞き頂いた曲を羅列しますね。実はトーク、下原稿ではS&G中心で考えてました。サウンドオブサイレンスの3パターン、ブックエンドから一曲を挟んで明日に架ける橋で、S&Gバージョンとアレサ・フランクリンバージョンを掛けて、JAZZを一曲二曲で組み立てていたのですが、2008_0606s90000005_4 それでは余りにマズかろう云うことで、当日はアンディーウィリアムス一曲とポールサイモン/ソングブックからサウンドオブサイレンスを!
JAZZからは「コーンブレッドとそれ以降のリーモーガン」に焦点を当ててみました。コーンブレットB面。どん底の時期のリーモーガンの演奏からEPミッドナイトカーボーイ。2008_0606s90000002_2キャランバからヘレンズ・リチュア、 そうあのヘレンへ捧げた曲。ボビィーハンフリーのフルートインからサイドワインダーをお聞きいただいて、締めは恩人でもあろうベニーゴルソン・アンド・フィラデラルフィアンズからカルガリー。 この時点で時間オーバーだったので演奏時間の短いカルガリー選んだけど、アフタヌーンインパリの演奏がお勧めです》
《以上5点の写真・盤~ワガママおやじさん提供》

さて、僕:bassclefの方は「ジャズジャイアントの隠れた名演」みたいな流れに決めたのだが、セレクトにあたっては、ちょっとだけ捻って<中編成・ビッグバンドをバックに気持ちよく吹くサックス奏者たち>というのを、一応のテーマとした。トークは1時間という枠があるので、曲順くらいは決めておかないと・・・ということで、ズボラな僕としては珍しく原稿らしきものを用意した。原稿と言っても・・・曲名、時間、ステレオ/モノラルの区別。録音年、録音エンジニアのデータ・・・あとは一言コメントくらいのものなのだが。
まあ・・・実際に話しを始めたら、やはり原稿を棒読みするというのも、とても不自然なものなので(笑)結局はいつものように、思いついたことを話しているうちに、つい長くなってしまったようだ。だから何曲かはカットせざるを得ませんでした(笑)
それでは以下~僕の悪戦苦闘の記録として(笑)ちょっとDJ風にアレンジした<白馬でのbassclefのトーク>を載せておきます。
もちろんこの通りに話したわけではありませんが、話しのニュアンスは、だいたいこんな感じだったはずです。なお時間が不足したので、8番のグリフィンと9番のゲッツは、かけられませんでした。

<bassclefのトーク>
今日は、まあ・・・テナー&アルトの特集です。サックス奏者の名演はあまたあるんですが、今回はちょっと捻りました(笑)
というのは、コンボではなく「ビッグバンドや中編成コンボをバックに気持ちよく吹く名プレーヤーたち」というのを一応のテーマとして、その辺りでまず好きなもの・・・そして、できるだけ録音が優秀かな・・・と感じているレコードからセレクトしてみました。あまりにもマイナーなミュージシャンは避けて、有名どころのちょっと渋いレコード・・・という趣ですかね。サックスばっかりではおもしろくないので、一部、トランペット奏者のフューチャリング曲も混ぜました。それから、ステレオ盤・モノラル盤・レーベルなども、できるだけ混ぜ混ぜにしてみました。Fox

1. I wished on the moon 1961年ステレオ
    エディ・ロック・ジョー・デイヴィス/The Fox & The Hounds(RCA victor)バックのリズム陣までくっきりと録られた録音もなかなかいいです。 (engineerは、mickey croffordという人) 曲は・・・思わずワクワクするようなアレンジにのって、ロック・ジョーが楽しそうに吹く I wished on the moonにしましょう。ロックジョーというテナー吹きは、飄々とした感じが堪りませんね。なお、アレンジャーはBobby Platerという人です(ライオネル・ハンプトン楽団~ベイシー楽団でロックジョーと仲間) ビッグバンドはNYのトップジャズメン17人としかクレジットされてませんが、多分、ベイシー楽団でしょう。だとすれば、ベースはエディ・ジョーンズだと思います。

Les_brown_jazz_song_book 2. let's get away from it all 1959年 ステレオ
     レス・ブラウン楽団/Jazz Song Book(coral)
次は、ズートといきましょう! レス・ブラウンというのは、わりとポピュラーっぽい楽団だと思いますが、このアルバムでは、巧いソロイスト(フランク・ロソリーノ、ドン・ファーガキストら)を、Song_bookうまい具合に配分していて(各3曲づつくらい)、充分にジャズっぽいアルバムだと思います。ズートの誠にスムースなフレージングと、あっさりと乗る軽い感じが気持ちいいですね。
《ここでPapaさんから、「このアルバムはいいですよ」とうれしい一言。Papaさんはモノラル盤をお持ちとのこと。僕の手持ちはピンクラベルのプロモだ》

3.   round about midnight 1959年 モノラル
     アート・ペッパー/プラス・イレブン(contemporary)
このレコード、オリジナルを持ってないので、今回はYoさんに借りました(笑)このレコードは最高! まず演奏がいい。アレンジもいい。そして・・・録音もいい!(roy dunan) ジョー・モンドラゴンのベースも重い音で録られています。僕はキングの国内盤ステレオで聴いているのですが、それを聴いていても「ステレオ盤オリジナル」も相当にいい音だろうな~と推測できます。ステレオ盤だと・・・ペッパーのアルトが中央に定位したまま(その音圧感が全く落ちずに) ベースとドラムスが左右に分かれてオーケストラは後ろから・・・というような定位になると思います。このレコードでは、ペッパーのテナーが3~4曲聴けるのですが、ここはやっぱりアルトということで(笑)
bernie's tune のペッパーのソロも素晴らしいのですが、同じようなテンポの曲が続いてしまうので、ここはスロウもの~ A面4曲めのround about midnightにしました。アレンジャーは、マーティ・ペイチです。

4.   day in day out 1961年 モノラル/ステレオVerve_2
Terry Gibbs Dreamband (contemporary)
モノラルのオリジナル盤はこちら~verve V-2151:The Exciting~ですが・・・このcontemporary盤は、1990年発売の新発見ステレオ・マスターなので、少々こじつければMain_stem、このLPを「ステレオ盤オリジナル」と呼ぶこともできます。このレコード・・・とにかく録音が抜群! エンジニアは、あのwally heiderです!ではA面1曲目の day in day outを。
短いソロは・・・コンテ・カンドリ(tp)とビル・パーキンス(ts)です。ベースはバディ・クラークという人。音がでかそうですね(笑) ぺッパーの・・・いや、マーティー・ペイチのtampa盤に入ってた人です。

  Photo_45.  quintessence(4'14") 1961年 ステレオ

クインシーPhoto_6・ジョーンズ/クイセッテンス(impulse)
フィル・ウッズの輝くようなアルトの鳴りを。(van geldr) 曲の終わりの短いカデンツァも、ウッズの 巧さ爆発です。文句なし! 何度聴いても、このimpulse盤は気持ちがいい。

6.   isn't this a lovely day?(4'14") 1953年 モノラル 《写真・盤~konkenさん提供。この盤、実は両面ともB面のラベルが貼られていた。これが、この個体だけのミスなのか、あるいは・・・》
    
フレッド・アステア/~ストーリー(clef) 1369astaire_2
大編成ばっかりではちょっと疲れますので、ここで中休みとして・・・テーマから離れて「唄」をひとつ。フレッド・アステアのIsn't this a lovely day? を。実は・・・このレコードもkonkenさんからの借り物です(笑)
ほのぼのしたような、しみじみしたような情感が漂う名唱・名演だと思います。 優しげなテナーソロは・・・フリップ・フィリップスです。

7.  from now on 1957年 モノラル
   マーティー・ペイチ/Picasso of jazz(cadence)
もうひとつ、モノラル録音のいいやつを。cadenceというレーベルは、たぶんcolumbiaの子会社です。その cadenceの子会社があのcandidです。だからこの「Picasso」は、candidからも出たこともあると思います。渋いトランペットは、ジャック・シェルダンです。独特の沈んだような音色・・・いいソロですね。実は、アルトのクレジットがないのです。この辺りの白人系のアルトをいろいろ聴いてみました。でも・・・判りませんでした。ジーン・クイルかジョー・メイニか、あるいはチャーリー・マリアーノかな?と推理してます。ペッパーやバド・シャンクではないですね。ハーブ・ゲラー、ロニー・ラングではないような感じがします。Photo
《そういえば、cadenceレーベルの小話題として~このcadence~Dukeさんの好きなピアニスト:ドン・シャーリーの初期の作品がたくさんあるレーベルで、実はこれ、ある有名なシンガーがオーナーなんですよ・・・などと話そうかなと思っていたら、cadenceと言った瞬間に、すぐ「アンディ・ウイリアムスの・・・」と声がかかりました(笑)さすがに皆さん、よくご存知です(笑)
アルト奏者のクレジットがない話しも、それを切り出す前に、recooyajiさんから「アルトは誰ですか?」との声。やっぱりちょっと気になる、いいソロだったようだ(笑) 
《その後、PapaさんがこのレコードPicasso of jazzのパーソネルを調べてくれたようで、「こだわりの杜」へ書き込みにて知らせてくれた。
録音年月日 1957 June 7&8   Los Angels
”The Picasso of Big Band "
Pete Candoli, Buddy Childer, Jack Sheldon (tp) Herbie Haper (tb) Bob Envoldsen (vt-b, cl) Vince Derosa (fhr)
Herb Geller ( as ) Bob Cooper, Billy Perkins (ts) Marty Berman (bar) Marty Paichi (p) Joe Mondragon (b) Mel Lewis (d)
う~ん・・・あのアルト奏者は、ハーブ・ゲラーだったのか! まずいなあ、「違う」候補の3番手にゲラーを挙げていたなあ(笑)》Big_soul_band

8.  jubilation(3'53") 1960年 モノラル
  グリフィン~The Big Soul-Band(riverside) 
ちょっと「くどい」音色のグリフィンです。ベースのヴィクター・スプロウルズの音がでかそうなこと! 録音はレイ・フォウラー。

9.   bim bom(4'32") 1961年  ステレオGetz_bigband_bossa_2
     スタン・ゲッツ/Big Band Bossa Nova(verve)
これ、ジョアン・ジルベルトの曲。ゲッツのテナーもマイルドでいい。スネアのリム・ショットとかシンバルのドラムスの音とブラスのバランスが絶妙。 けっこう好きな録音です。verveですがval valentineではなくて、george kneurr&frank laicoという人です。ガットギター・ソロは・・・ジム・ホール!

10.far out east(4'30") 1958年  モノラル/ステレオ
      ロリンズ/ブラス&トリオ(metro) Photo_2
このメトロ盤がオリジナルです。これ、ようやく入手しました(笑) 長いこと、こちらのverve盤(緑色のやつ)で聴いてました。一応、VerveとしてはオリジナルのはずのT字のVerve Inc.(long playing 溝あり)盤なんですが、このverve盤は・・・音があまりよろしくない(笑) モノラルだステレオだという前に、ロリンズのテナーの音に厚みがない。鮮度感に乏しい。それに全体にやけにエコーが強いし、ドラムスやベースの音が遠い感じです。
一方、Metroのステレオ盤では~ロリンズだけが左側で、ビッグバンドとリズムセクションは右側~という、ちょっとおかしなステレオの定位ですが、何よりもテナーの音の鮮度が段違いです。生き生きしたロリンズの音が気持ちいい!1958年の好調なロリンズ! ベースのヘンリー・グライムズも重い音で録られてると思います。B面のコンボの方で比べると、ドラムスやベースの鮮度感の差がよく判ります。では・・・オリジナルのMGM盤(ステレオ盤)ではどうなのか・・・続けて聴いてみましょう。もっともロリンズらしい~と思える1曲を。Brasstrioverve
      verve盤~A面4曲目のfar out east~30"ほど
   metro盤~A面2曲目 far out east
え~と、このタイトル・・・有名なway out westのもじりだそうです(笑)
実は、このロリンズのメトロ盤・・・テナー1本のソロが入ってるんです。body & soulなんですが、1958年でのテナーソロというのも珍しいでしょう。ところが・・・すでに1948年にテナー1本のソロが存在しております。ロリンズの方(body & soul) も掛けたいところなんですが・・・最後に、この「史上初のテナーサックス1本のソロ演奏」と言われているやつを聴いていただきたいと思います。

11.  piccaso モノラル 1948年
コールマン・ホウキンスの「ピカソ」です!Photo_7
これ~THE JAZZ SCENE~mercuryからSP6枚組がオリジナル~10インチ2枚組~EP5枚組~12インチLP~という順で発売されたのだと思います。音は12インチよりEPの方が圧倒的にいいようです。このEP盤5枚セット・・・盤質も最高だし、私的にはけっこうお宝盤です(笑)
なお、ジャケットの図柄はゲッツの「plays Bacharach」に使われてましたね。では・・・1948年の「ピカソ」を。
《あらゆる希少盤をお持ちだとも思えるPapaさんが、珍しくも「う~ん・・・このEP Boxは・・・欲しい」と言ってくれたので、僕はちょっと嬉しかった(笑)まあ半分は、compliment(お世辞)だろうけど(笑)》

第2部(19:15~22:00)
毎年、食事の後に「この1曲」をやるのですが、今年は皆さんの「燃える自己紹介」の後、おいしい泡盛もだいぶん入りながらの「この1曲」で、その後、オークションへ突入。1F食堂タイムが終了したのは例年より1時間ほど遅めの時刻だった。以下、皆さんの「この1曲」をリストしておきます。

Ethel_ennis パラゴンさん~エセル・エニス(jubilee盤:Lullbies For Losers紫ラベル)金色ラベル から
You'd Better Go Now~この名曲を、エセルは、あっさり加減の唄い口で、しかし、しっとりと唄う。それとこのjubilee盤・・・普通、モノラル盤は青か黒だと思うのだが、なぜか・・・パープル!これは・・・珍しい。さっそくpapaさんの熱い視線が(笑)
《上の写真・盤はパラゴンさん提供》
2008_0606s90000003

ワガママおやじさん~Eddie Lockjaw Davis with Shirley Scottから serenade in blue
《右の写真・盤はワガママおやじさん提供》

マントさん~E・パイネマン女史(V)のドボルジャークバイオリン協奏曲

《下の写真・盤はkonkenさん提供》
1186marlenekonkenさん~Marlene De Plankの唄~Fools Lushi In
マーレーンの唄い口は・・・いつも優しい。聴いていて、理屈抜きに安らぐのだ(笑)konkenさんは、あのsavoy盤:Marleneも持っており、この歌い手のレコードをほとんど揃えているようだ。

Yoさん~Jazzville'56(dawn)からlover man(ジーン・クイル)Jazzville56
《右と下の写真・盤~Yoさん提供》
クイルもまたアルトの名手だ。パーカー、マクリーンも演奏したこのバラードを、クイルは、凄く情熱的に吹いている。フレーズ展開に破綻(はたん)をきたしそうな場面もあるのだが、その危うさがスリリングでもある。Jazzvilleこのドーン盤・・・たしかトランペットのディック・シャーマンのいいバラードも入っていて、いいオムニバス盤だと思う。


洗濯Mさん~高木麻早「ひとりぼっちの部屋」~「い~まあ~ッア」と声を思い切り伸ばした後に、短く「アッ」と声を切るところが素晴らしい(笑) 

Dukeさん~ダイナ・ワシントンの初期の10インチ盤からI want to cry 
~生々しい声が印象的。この10インチ盤は30分後にオークションにて、Musashi no papaさんがゲットした。そのpapaさんのコメントを以下。
《白馬の杜でDUKEさんからオークションで譲って戴いたダイナ ワシントンは素晴らしいレコードでした。8曲のうち特に気に入ったのが杜で流された I want to cry でした。チェックしたみると1948年10月16日ロイヤルルーストNYでの録音でバックのペットはガレスピーのようです。この1曲は素晴らしい。私のお気に入りになりました》

PaPaさん~ドイツのアルト奏者~ミハエル・ナウラ
(フィル・ウッズにも似た感じの名手だった。vibraphoneはWolfgangという名だけ覚えてますが、あれは・・・チェット・ベイカーともsandra盤で共演しているWolfgang Lackerschmidなのかな?)
《以下、訂正》
Papaさんからのデータを以下。リーダーのミハエル氏をアルトだと勘違いしてました。ミハエル氏はピアノ、アルトはペーター・レインケという人でした。
ヴィブラフォン奏者も、ウオルフガング違いでした(笑)
Michael Naura Quintet(German Brunswick 87912)
Michael Naura(p)      
Peter Reinke(as)      
Wolfgang Schluter(vib)   
Wolfgang  Luschert(b)   
Joe Nay(ds) 

千葉ZYXさん~テクノっぽいやつ(曲名失念。ごめん!)

SPUさん~Clifford Brown&Max Roach (emarcy) Img_0011_5
10inch盤から delilah。Img_0016_4






ローチ/ブラウンのemarcy盤では、たしか・・・これだけが10インチ盤とのことだ。《写真・盤~SPUさん提供》

recooyajiさん~スリーキャッツ「黄色いさくらんぼ」(日本コロンビア)25cm盤

bassclef~クリフォード・ブラウン「ブルー・ムーン」(emarcy EP盤)

<第3部~地下JBLルーム 夜10時30分~1時30分頃まで>白馬第3部
ある意味、この第3部が最も楽しい時間である。というのも、ここでは皆さんが、いわば「本音盤」を掛けるので、毎年、印象に残るレコードが飛び出るのだ。今回は・・・タイトル・順番など、どうにも記憶があやふやである。皆さんの飲まれたアルコールがJBLルームに気化して、それと音の洪水で・・・僕の脳髄も麻痺してしまったのかもしれない(笑)それでも印象に残っているレコード達をいくつか。

Yoさん~「聴き比べ2題」
<ハロルド・ランド~The Fox>(contemporary盤とHi-Fi盤)からthe fox one down
<アート・ペッパー~Surf Ride>(savoy12インチ盤とdiscovery10インチ盤)からsurf ride

ワガママおやじさん~「ソニー・クラーク~Leapin' & Lopin'からケベック入りのdeep in a dream

SPUさん~「ウディ・ハーマン」Woodchoppers(dial)10インチ盤からit's the talk of town(ラベルにはon the townと表記)

konkenさん~アーサー・ブライスIn The Traditionからin a sentimental mood

洗濯船Mさん~サラ・ヴォーンのlullby of Birdland(emarcy)

Okpapaさん~ペップ・ボネPep Bonet(スペインのサックス奏者)この人、ちょっとロリンズ風。そんなバリバリと吹くテナーに、ちょっとヘタウマ風なピアノとベースが絡む。Papaさん、こういうヨーロッパ系の「武骨ジャズ」も好みらしい。そういえば、イギリスのディック・モリシー(ts)にも、同じような雰囲気を感じた。《写真・盤はPapaさん提供》

Jazz_vane_2bassclef~ジミー・ロウルズweather in jazz vane(andex)からsome other spring。このレコード・・・CDで愛聴してきたのだが、ちょっと前にようやくオリジナル盤を入手できた。ロウルズという人のしみじみとした持ち味がよく出ていて、好きなレコードだ。それに、Andexというレーベル・・・なかなか音がいい(笑) この頃は、こういう、日向ぼっこをしながら居眠りしているような・・・そんなまったりした感じが好きになってきた。《このandex盤はプロモ盤なのでラベルが白だ》

マントさん~DECCAでホルストの惑星(カラヤン・VPO)からジュピター。何度聴いても・・・やっぱりいい曲だ(笑)
チャイコフスキーのロミオとジュリエット(同)からロミオとジュリエット(2000番台)。DUKAS:LA PERI poeme dance'(ラージラベル)~このデュカスの曲・・・最初の金管楽器が一斉に鳴り響くあたりは、サウンドとして気持ちがよかった(笑)

千葉ZYXさん~「ToTo」のLPから(タイトル失念・・・ごめん!)
この1曲は・・・ZYXさんが茶目っ気を出して「ある大物ジャズメンが参加している」とのクイズ曲となった。昔、ローリング・ストーンズにロリンズが参加したLPのことは知っている。誰かが「楽器は?」と尋ねると・・・「いや、まあ・・・聴いてみましょう」と口ごもりながらも、小さい声で「トランペットです」とヒントをくれる優しいZYXさんだった(笑) ToToという名前は知っているが、ちゃんと聴いたことがない(笑)冒頭からギターがしばらく続いた後・・・なにやら聴いたことのあるぞ~と思える音色のトランペットが鳴りはじめる。この、ちょっとくぐもったような音色と、ためらいがちなフレージングは・・・おおっ、あれだ。「わかったあ! マイルス!」と僕は言う。「当たりです!」とZYXさん。「さすがですね」などと誉めてくれるZYXさん。でもね、ZYXさん・・・マイルスのトランペットなら、ジャズ好きなら誰でもすぐに判っちゃうんですよ(笑) それにしてもこのToToへのマイルスの客演~おそらくオーヴァーダビングなのだろうが、ソフトなロック調にかぶして吹くマイルスのフレーズには、全く違和感がない。それになんと言っても、一人の人間がそこでしゃべっているような・・・そんな説得力があるじゃないか。Img_0006_4

SPUさん~Woody Herman/Woodchoppers(dial:10inch)
毎年、夜が更けてくると異常に元気になってくるSPUさんである(笑)
SPUさん、いつもいいところを入手しているようで、いろいろと見せてくれる。ソニー・クラーク・トリオ(bluenote)にも惹かれたが、ここはやはり昼間にチラと見せていただいたダイアルの10インチ盤である。  Img_0018_3 《写真・盤~SPUさん提供》
それはWoody Hermanの10インチ盤。聞かせてくれたのが、バラードの it's the talk of town(ラベルのクレジットでは"on the town"と表記されている) これ、ウッディ・ハーマンと言っても、フリップ・フィリップスのフューチャー曲で、彼の見事なソロがたっぷりと入っている・・・これはいいっ! 
まったくフィリップスという人は、こういうゆったりしたバラードを吹かせると、もう独壇場である。僕の好きな「フィリップ風」がゆったりと謳いあげる。ううう・・・これは、垂涎盤だあ!(笑) フィリップス好きの僕にとっては、この夜のMIV盤(most impressive vinylという勝手な造語です)は、このダイアル10インチ盤である。

《下の写真・盤~ワガママおやじさん提供》
2008_0323s90000014_5ワガママおやじさん~Sonny Clark/Leapin' & Roapin'(bluenote)NYラベル
お勧めはやはり・・・deep in a dream。さすがワガママおやじさん、ジャズのコアなところをご存知だ。この「リーピング~」チャーリー・ラウズとトミー・タレンティンの2管入りセッションが主なのだが、この1曲:deep in a dreamだけは、アイク・ケベックのテナー1本。そしてこれが実にいい。ソニー・クラークのバラードを弾くときの独特なロマンティックな感じ・・・そのイントロからしばらくはピアノのソロが続く。「あれ、これ、テナーは?」と皆が思ったころ・・・ケベックが「ずず~っ」と忍び込むような気配で吹き始める(笑)、ソニー・クラーク/アイク・ケベック~2人の音が醸し出す雰囲気と、この曲の、ちょっとセンチメンタルな雰囲気が見事にマッチしている。このバラードは、やはり絶品と言わねばなるまい。

Yoさん~<ハロルド・ランド:Foxの聴き比べ>
《以下6点、ランドとペッパーの写真・盤~Yoさん提供》The_foxhifi_6

ランドのThe Foxは、もともとHi-Fiレーベルへの吹き込み(1960年)だが、一般的に知られているのは、contemporaryの緑ラベル(1968~1970頃)として再発されたものだと思う。僕もその緑ラベルを愛聴していた。そういえば・・・第1回白馬の時に、Yoさんとランド話題になり「Foxはいいよね」みたいな話しになったな。そのYoさん、最近、FoxのHi-Fi盤を入手されたとのことで、じゃあ、あのcontemporary盤とどんな具合に違うのか・・・
という流れになっていた。Yoさんによると、contemporary盤は「いつものcontemporaryらしい、自然な質感のいい音」なのだが、Hi-Fi盤(モノラル)は、全く音造りが違うとのこと。簡単に言えば、あまり西海岸っぽくないそうである。Fox_hifi
最初にHi-Fi盤から~まずジャケットがいい。暗めの赤色、灰色、黒色などが太い筆でググッと塗りたくってあるだけの抽象絵画っぽいジャケットなのだが、中身の音の力感みたいなものが感じられるのだ。A面1曲目のThe Fox B面のOne Down を聴く。各楽器の音がメリハリのハッキリした太い輪郭で、全体的に音が強い感じだ。パーソネルを知らずにパッと聴いたら・・・イーストの黒人ハードバップだと思ってしまうだろう。もっとも・・・このThe Fox~ランドもエルモ・ホープもリズムセクションもみんな黒人だし、実際、こういうハードバップ的な4ビートジャズをやっているバンドのサウンドに、東海岸と西海岸で、それほどの違うがあるはずもないのだが。ただ「録音の感じ」の違いは・・・明らかにあると思う。その「音の感じ」で言うと・・・Hi-Fi盤では「ジャズが強く聴こえる」ように感じたのだ。ピアノのエルモ・ホープの叩きつけるようなタッチも、相当に迫力あるガッツあるタッチとして鳴った。いずれにしても、Hi-Fi盤の音は、モノラル盤と言うことも含めて・・・魅力的なジャズのサウンドではあった。なおHi-Fi盤の録音は1959年。録音エンジニアは・・・Art Becker & David Wiechmanとなっている(contemporary盤の裏ジャケに表記あり)

Foxcontemporay 次にcontemporary盤~この緑ラベル・・・何度も聴いているので僕には親しみがある。裏ジャケの解説はLeonard Featherで、1969年10月としてあるので、発売は1969年か1970年だろう。
さて「緑ラベルのステレオ盤」だ。一聴・・・ランドのテナーが少し細くなり(と言ってもそれは悪い意味ではない)音色もややソフトな感じになった。ドラムスの「鳴り」が全体的に「すっきり」してきた。音楽全体の鳴り」として・・・たしかにやや軽くなったような感じはする。しかし・・・本来、ランドやフランク・バトラーが楽器から出している「サウンド」としては・・・僕はこのcontemporary盤の方が「自然」だと思う。いい意味での「軽やかさ」~僕はこの感じを「軽み」(かろみ)という言葉で表したい(笑)~が感じられるサウンドだと思うのだ。Foxcontemporay_2 う~ん・・・Hi-Fi盤もいいが、やはりこちらのcontemporary盤もいい・・・聴いている方々もそれぞれの音にに感じるところがあったようで、判断に迷っているような気配ではある。これは、Hi-Fi盤とcontemporary盤との「音造り」の違いでもあり、また「モノラル盤」と「ステレオ盤」のそれぞれの特徴(良さ)が現れた好サンプルかもしれない。ジャズ好きの「音」や「音楽スタイル」に対する好みの傾向は様々だし、そういう好みの違い方というようなことへの興味を、Yoさんも僕も持っている。そんなこともあって、どちらの音が好みか・・・というアンケートをすることになった。この場にはちょうど9名いた。僕の予想は「半々」だった。
まず「Hi-Fi盤」~4名が手を上げる。そして「contemporary盤」~これも4名。1名が手を上げてない(笑) Yoさんは決着を付けたいようだ(笑)「konkenさんは?どっちが好き?」と追求する。konkenさん「うう・・・」唸りながら「やっぱり・・・contemporaryかな・・・」 これで5対4だ。やはりほぼ半々か・・・。まあいずれにしても、実に興味深い「音の好み」の違いじゃないか(笑)

Pepper_surfride_savoy_2  Yoさん~<ペッパーのサーフライド>
さて、savoy12インチ盤(MG-12089)とdiscovery10インチ盤2点(Art Pepper Quartet 3019)と(Art Pepper Quintet 3023)
発売は、10インチ盤の3019が1952年、3023が1954年。12インチ盤が1956年と、当然のことだが、10インチ盤の方が早い発売である。Surfride
最初に掛けたのは、savoy盤12インチ~曲は急速調のsurf ride。
サックスの音にメリハリがあり、全体的に明るい感じ。とても1952年の録音とは思えないほどパリッとしたジャズの音だ。さすがにVan Gelderのマスタリングした12インチ盤だ。張りのあるジャズっぽさも充分に感じられる。
Yoさんは「うん、このsavoy盤も悪くないなあ」とちょっと嬉しそう(笑)

次に、discovery10インチ盤~これは僕の私見だが、10インチ盤というのは、時代も古い分だけ(たぶん)12インチ盤に比べると、盤質の材料やカッティングの精度において、若干のデメリットがあると思う。ただし「モノ」としての魅力~あの10インチという大きさからくる圧倒的な存在感、古み感など・・・それがそこにあるだけで、素晴らしい(笑)そう思わせてくれるほど、ある種の10インチ盤には、エモイワレヌ魅力を感じる。ペッパーのこの2枚のdiscovery盤もそんなレコードである。
《下の10インチ盤2枚~写真・盤はPapaさん提供》Discovery10inch_2_2

さて、その音は・・・? Mさんが慎重に針を下ろす。
材質・盤質からくるノイズはほとんどない。いいコンディションのようだ。
一聴・・・全体の音がおとなしい感じか。ちょっと楽器全般がくすんだような色合いになったかもしれない。ぱっと聴いて受ける印象は・・・古い写真がセピア色に染まりつつあるような・・・そんな感じに近いかもしれない。そして僕には、その「セピア色」が心地よい。ちょっと高音の方が詰まったような音なのだが、こうして2枚続けて聴いてみると、この「ちょっとおとなしい鳴り方」の方が、より自然なものに聞こえないこともない。
ドラムスのシンバルのクリアさや、それからペッパーのアルトの輝き具合においては、確かに12インチ盤の方に分があった。それでも10インチ盤の「自然な鳴り」に僕は惹かれるものを感じた。
目をつぶって「音」だけを聴けば、12インチ盤の方を選ぶ方が多いかもしれない。しかし~パーカーのダイアル盤の時にもちらっと書いたのだけど~こちらのアタマに「貴重な10インチ盤。時代的にはオリジナルの10インチ盤」という思いも入り込んでの聴き比べなので(そうならざるを得ない)そういう意味で「10インチ盤有利」になってしまうことがないとは言えない(笑)
いずれにしても、こういうのは「好み」の問題だと思う。例えば、僕自身は・・・一般的には強い音が好きなのだが、Van Gelder特有のかけるエコーが(強すぎる場合)あまり好きではない。Cimg0268
ひとつだけ確かなのは「ペッパーは凄い」ということだ(笑) レコード化の段階で、後から何をどういじったとしても、1952年にペッパー達が演奏した素晴らしい演奏(音楽)は・・・・厳然として、そこにあったわけなのだから。
《上の写真~savoy12インチ盤には収録されなかった4曲(These Foolish Things, Everything Happens to Me, Deep Purple, What's new)と、レッドの2曲を収めたArt Pepper/Sonny Redd~通称Two Altos(regent)。なるほど・・・ラベルは緑でしたか!写真・盤~Musashi no papaさん提供》

好きになったミュージシャンの音を集中して聴くのならば・・・どんな版のレコードを聴いたとしても、感じるところは絶対にあるはずだ・・・と思いたい。まあもちろん、音がいいレコードで聴くに越したことはないのだが(笑)

《写真・盤はkonkenさん提供》Photo
最後の方に聴いたのは、konkenさんの「アーサー・ブライス」in the traditionからJitterbug Waltz と in a sentimental mood。
どちらかというと古い年代のジャズが中心の会なので、こういう1970年代後半の、ガッツあるハードっぽいジャズがかかると、新鮮な感じもあり、楽しく聴けた。斜め前に座って、なにやらブライスのアルトに集中している様子のPapaさんに「こういうの好きでしょう・・・」と言うと「これは気に入りました!」と一言。Papaさんは、もちろんパーカー命のような方だが、デビッド・マレイなどちょっと新しい世代のサックス奏者も愛聴しているようだ。

そして大ラス~洗濯船Mさんが「では最後に1曲」と静かに言う。
「バ~バ・バ~ラ・バッバッ・バッバ・パ~」ああ・・・これは皆がよく知っているレコード・・・サラ・ヴォーンのemarcy盤だ!Mさんが、bluebackのジャケットがイーゼルに掲げられる。ねっとりした唄い回しのサラの声が、力感豊かに流れてくる。あのサラのアドリブ・フレーズを諳(そら)んじているらしいkonkenさんが、サラと一緒にスキャットしている(笑)酔っているので音程は覚束(おぼつか)ないが、気持ちは充分に判る(笑)
見事なまでにコントロールされたサラの声が厳(おごそ)かに流れつつ・・・2008年の白馬:杜の会は、ようやく終わろうとしているのだった。

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2008年4月10日 (木)

<ジャズ回想 第12回>半年ぶりにYoさん宅に集まった。その1

いいレコードを聴くと幸せな気分になる~

(*Musashi no Papaさんが、あの日のレコード写真を送ってくださったので、いくつかの写真を追加しました。lora albright, anita o'day, pinky winters, zoot sims(煙草), charlie mariano(imperialの2枚)がPapaさん提供分です。4/13)

寒い冬が終わる頃になると、たいてい「そろそろ集まりましょうよ」というやりとりがあって、「じゃあ」ということになる(笑) そんなわけで、久しぶりにYoさん宅での音聴き会である。昨年9月の「秋の杜」以来か・・・今回は、愛知から、リキさん、D35さん、konkenさん、スノッブSさん、僕:bassclef。それから神戸からMusashi No PaPaさんの6人が集まった。
PaPaさんは昨秋から「杜」(ニーノニーノさんのBBS)に書き込みを始めた方で、ちらっと書かれるレコードのタイトルから、相当なコレクター氏であることが充分に窺(うかが)われた。だから・・・Yoさんを通して、PaPaさん所有の10インチ盤もいくつか見せていただくようお願いしてある(笑)

ちょっと急なあの階段を上がり音聴き部屋に入ると、すでにリキさんがソファの後ろの席で落ち着いていた。「何からいきます?」とYoさん。そうは言っても、最初の内は皆さん遠慮気味だったりして、もじもじしているので(笑)Yoさんが自分の選んだレコードをいくつか掛けていくことになった。
こんな時は、軽くヴォーカルからがいい。
Yoさんが手に取ったジャケットは・・・フランス国旗みたいな青・白・赤3色のあれ~モリスがくっと開いた目が印象的なXレーベルの有名な盤だ。Audrey_morris_bistro

《写真Yoさん提供:Audrey Morris(オードリー・モリス)のBistro ballads》 Bistro_2

Yoさんはレコードの音質~録音の具合による各楽器の音圧感やらバランス~によって、使うカートリッジをセレクトする。セレクトといっても、2つともステレオカートリッジ(オルトフォン・ジュビリーとSPUシナジー)なのである。Yoさんはかねてから、「モノラル盤だから必ずしもモノラル・カートリッジにする必要はない」という考えをお持ちで、それは、モノラルレコード溝の深さと針の径に関する理論的な裏づけからなのだが、そのYoさんも、昨夏に若干の変化を見せた。新たに導入した2台目のプレーヤーにも2本のアームを付けたのだが、その際、カートリッジの1つをモノラルとしたのだ。もう1つはステレオで、共にエミネントというメーカーとのこと。エミネント・ソロ(モノラル)というのは・・・ごく単純に言えば、従来のものより、(モノラルカートリッジとしては)高域まで伸びるということらしい。そんなわけで、4本アームのステレオカートリッジが3個、モノラルカートリッジが1個という選択肢になる。僕など、これらのカートリッジ個々の性格まではよく判らないので、何やら混乱してしまいそうだが、これまでも巧いこと2個の使い分けをしてきたYoさんだから、新規導入の2種のエミネントの個性と使い勝手もほぼ把握できてきたのだろう。

最初に左側のプレーヤーで掛けた。選んだカートリッジは、ハイパー・エミネント(ステレオ)だ。ピアノのイントロから始まる曲~nobody's heart belongs to me だ。「ピアノ、誰?」の問いに「弾き語りだよ・・・たぶん」とYoさん。ピアノも声もちょっとおとなしい感じだ。ドラムスもベースもいないので、余計にそう感じるのかもしれない。しかし、それがモリスの落ち着いた優しい声質には合っているかもしれない。「ちょっと換えてみようか」と、Yoさんが(SPUシナジー)の方でかけてみる・・・「おお!」という皆の反応。一聴・・・音全体がスカッと抜けた感じだ。こちらの方がうんとピアノの音が太くて、しっかりと聞こえるのだ。モリスの声もやや大きくなり、ふくゆかさが増したようだ。カートリッジの出力の違いもあるかもしれないが、全体的に音がしっかりしてきたように僕は感じた。ただ、女性の声に対する微妙な味わい・・・そんなところに敏感なリキさんは「僕は・・・さっきの方がいいな」とつぶやく。
確かに、後者のカートリッジだと、モリスの声がちょっとだけ年を取ったようにも聞こえる。逆に言えば、前者の方が「より若い声のモリス」なのだ(笑)ヴォーカルが好きなリキさんの美学としては、その辺りに拘りがあるのだろう。僕など「声」も、器楽的に聞いているので、単に「大きくハッキリ」聞こえる方が、いい音だろうと思ってしまうようだ。Img_1600_2
実は、ちょっと後にも同じようなことがあって、それは、ローラ・オルブライトのあの素敵なジャケット~Lola Wants You(KEM)のEP盤(PaPaさん手持ち)を聴いた時である。そのメリハリある音に驚いた僕が「ううっ、これはいい音ですねえ」と言うと、「いや・・・ローラはもうちょっと柔らかいですよ」というリキさんとYoさん。そうか・・・日ごろからあのオリジナルを聴いている耳には、45回転のローラは、ちょっと張り切りすぎだったのかもしれない。
そういえば、僕などは、どんなヴォーカルが出てきても、ある意味、それをホーン楽器(テーマを吹く)の一種として聴いているようなところがあって、テーマをどのように吹くか(唄うか)、どんな風にメロディを崩すのか、あるいは崩さないのか・・・そんなことには興味が向かうが、その歌い手が醸し出す情緒・・・みたいな部分には、案外、無頓着なのかもしれない。いずれにしても、僕は、まだまだヴォーカルを味わう(その声の質感を味わう)・・・という境地には至ってないようだ。う~ん、ヴォーカルも奥が深いなあ(笑)
それにしても・・・みなさん、あの12インチ盤を持ってるのだな。たしか、パラゴンさんもrecooyajiさんも持っていたはずだ。PaPaさんが見せてくれた「青のローラ」を見ながら、ううむ・・・と悔しがるkonkenさんと僕であった(笑)

そうこうしている内に、神戸からにPaPaさんも到着。愛知の5人はPaPaさんとは初対面だったので、やあやあという挨拶。PaPaさんは、白い大きめのレコードバッグにぎっしりと詰め込んできた。「ダイアルのパーカーはいくつか持ってきました」というPaPaさん。チラッと見える10インチ盤たちが気になる僕だが「10インチの方は、また午後にでもたっぷりと」と、やせ我慢をする(笑)
《センターラベルは黄色も鮮やかなN.Y.だ。録音はもちろんvan gelderである。写真はYoさん提供》Photo_2Photo_10
Yoさんがフィル・ ウッズの「Woodlore」を、すうっと取り出した。バラードが流れてくる。知らない曲だが、実にいいメロディだ。いや・・・これはbe my loveか? それをうんとスロウにして崩しているのかもしれない・・・などと思って、ジャケ裏を見たら、falling in love all over again というニール・へフティのオリジナル曲だった。 この「ウッドロア」~僕はCDを持ってたのだが、こんなに素敵なバラード演奏があったとは・・・恥ずかしながら気が付いていなかった。be my loveは、この絶品バラードの次に入っていた。be my loveも溌剌(はつらつ)としたウッズがとてもよかった。バラードでもそうだったが、ごく初期のウッズの音には、なんというか「気合」が入っている。そして気合だけでなく、その音色になんとも言えないような甘い色気みたいなものがある。う~ん・・・ウッズのこのレコード、 こんなによかったのかあ・・・と、改めてジャケットを見せてもらう。 右上のprestige横のLP7478の丸い囲みが一瞬、シールに見えたのでちょっと指でさすってみたりしたが、もちろん印刷だった(笑)
それにしても・・・僕は「いい演奏」なら音源は何であっても「いい」と判るはず~と思っていたのだが、この「ウッドロア」に対しては、全くの不覚を取ったようだ。僕の場合、CDで持っていてもあまり愛着が湧かないので、それが故に「音楽」をしっかり聴いてないのかもしれない。これはまずいな・・・と反省する気持ちになってしまった。そうだ、元の演奏には何の罪もないのだ(笑) どんな音質であっても、中身をしっかり聴いてあげなければ。
そういう反省をする一方、言い訳ではないが、「オリジナル盤」と「いいオーディオ」が合わさった時に発揮されるなんというか「出てくる音が持つ理屈ぬきの威力」~そういったものも確実にあるのだな・・・ということも実感させられた。そんな「いい音」で聴くと・・・驚くほどに「その演奏」が判ってしまう~そんな感じだ。そういえば、Yoさんはフィル・ウッズを凄くお好きなようで、epicのWarm Woodsも、それからちょっと後のヨーロッパ録音のものも、ほとんどをオリジナル盤で持っていたはずだ。やっぱりレコード好きという人種は、好きなミュージシャンの本当にいいレコードをよく知っているということなのだろう。

次はテナーだ。てなわけでPaPaさんもお勧めのバルネ・ヴィランがかかった。劇画風のイラストのジャケットのやつ~IDAのLa Note Bleueだ。バラードのgood bye これは好きな曲だ。次にベサメ・ムーチョ。なぜかベサメを2テイクやっている。録音がうんと新しい時代なのでもちろんいい音だ。しかし、今ひとつ、軽い感じだ。音が軽いのか演奏が軽いのか・・・それは微妙だが。同じバルネでも昔のを聴こう~ということになり、仏RCAの有名なレコード「Barney」~バルネが脱いだ背広を肩にかけてるやつ~から、またまたベサメ・ムーチョを。バルネ氏、ベサメ・ムーチョが大好きなんだろう。 この1959年の演奏・・・ケニー・ドーハムの吹くテーマもいいし、もちろんバルネのテナーもいいソロを吹く。そしてデューク・ジョダンのピアノも、ちょっと不思議な音色のしかしいい味わいだ。僕は・・・どうしても50年代の演奏と音が好きなようだ(笑)Cd_2
《聴いたのは、たしか仏RCAオリジナル盤だったが、左の写真は僕の日本盤CD。近年、発掘された長尺未発表曲4曲が付いているので、「バルネ」の内容が大好きな方には気になるCDかもしれない》

テナー特集に移ってわりとすぐだったか、茶目っ気を起こしたYoさんが、ジャケットを見せずに何かをかけた。しっとりしたバラード。テナーである。わりあい中高音を中心に吹く感じの吹き方だ。あまり聞いたことのないメロディを抑え気味に吹いている・・・「誰か判る?」とYoさん。たしかに聞いたことのあるはずのテナーの音色だが・・・よく判らない。konkenさんが「ジョニー・グリフィンかな?」とつぶやく。そういえば・・・この高音域の音色が、グリフィンがうんと抑えて吹いた時の音色にも似ているような気もする・・・違うかなあ。ややあって、このテナーから軽くコブシを廻すようなフレーズが出た時「う~ん・・・グリフィンかな?」と僕も言う。Yoさん、黙っている・・・どうやら違うらしい(笑) もうしばらく聴き進めると、これはどうにもよく知ってるテナー吹きだぞ・・・と思う。ああっ!あれだっ。「ハロルド・ランド!」 「当たり!」というわけで、ジャケットを見せてもらうと・・・Carl's Blues(contemporary)だった。

001_2《聴いたのはもちろんオリジナル盤だったが、左写真は僕の手持ち~1970年頃の米再発盤です。そういえば・・・ニーノニーノさんのBBS「こだわりの杜」での、Yoさんとのやりとりのキッカケになったのが、このCarl's Bluesだった。A面のバラード~「言い出しかねて」も絶品だ》
曲はB面2曲目のLarue。う~ん・・・再発盤だけど持っているレコードだったのに。そういえば、僕はいつもA面ばかり聴いていたのだ。Larueというのは、たしかクリフォード・ブラウンの曲で、ラルーという奥さんの名前にちなんだ曲だったはずだ。しかし、僕はこの曲自体をよく覚えていなかった。だから・・・なかなかハロルド・ランドだとは判らなかったのだ。ということは・・・僕はブラインドがわりと得意な方だと思っていたが・・・その人の音だけで判断しているわけではなく、半分は(いや、それ以上か)演奏している曲名~特にスタンダード曲~と結びつけて、そういうディスコグラフィー的な知識を交えて、そのレコードなりミュージシャンを「覚えて」いるようだ。そういえば「音」の感じもブラインドの大きなヒントになる。ドラムやベースの音(録音の感じ)で50年代、60年代、70年代以降~と大まかな録音年代は判るのだ。もっとも(僕の場合は)例えばその音源が70年代以降の音だと判っても、その辺りのレコードをあまり聴いてないので、それが誰なのかほとんど判らない(笑)
Carl's Bluesといえば、このLPの録音の良さについて書かれた記事があるのだ。それは「ジャズ批評別冊~ジャズ喫茶80年代」というやつで、だいぶ前にワガママおやじさんのブログでも取り上げられたことがある。
http://ameblo.jp/d58es/entry-10035477644.html#cbox
たしか・・・嶋 護という録音技師が、prestigeやcontemporaryなど、ジャズレーベルの録音の質感の違いみたいなことを判りやすく記事にしている。読んでいて、うんうんと頷(うなづ)ける内容で、嶋 護氏は最終的にはcontemporaryの録音を好きなようで、特にフランク・バトラーのドラムソロの録音をそれはもう褒め上げていたのものだ。そのワガママおやじさんのブログ記事のコメント欄で、Yoさんがこの本(の内容)に興味を持ったことが判った。たまたま僕もこの本を持っていたので、この日、ぜひYoさんに読んでもらおうということで持ってきていたのだ。もちろんそんなことは知らないYoさんが、ハロルド・ランド絡みとはいえ、ちょうどこのレコード(B面のlalue)を掛けてくれるとは・・・ちょっと素敵な偶然じゃないか(笑)

《以下のランド、ズート、エドワーズの写真5点はYoさん提供》

Land_grooveyard同じくランドのcontemporary盤~Grooveyardからeverything happens to me。You Don't Know What Love Is。このレコード、なぜだかあまり見かけないぞ。しかし・・・欲しい(笑)Zoot_riverside 

ちなみにこのGrooveyard~モノラル盤の方は、ジャケットは同じなのに、なぜだかHarold In The Land of Jazzというタイトルになっている。

ズート・シムス   Zoot(riverside) 
fools rush in
同じ曲の聴き比べということで
テディ・エドワーズ It's about time(pacific)
から fools rush in Photo_3
このエドワーズのテイクを聴き終わると、PaPaさんが「・・・やっぱりズートには敵わないね」と、静かにではあるが言い切る。
「いや・・・」と、Yoさんも一言。エドワーズやランドなど、 曲のテーマをじっくりと吹き進めるタイプの、強いて言えば「訥弁(とつべん)型」のミュージシャンも好きなYoさんとしては、ズートだけが凄いのではないよ、と言いたいのだろう。しばしの間、静かなる論戦を繰り広げる。若干の緊張感がお2人の間に漂う(笑)Teddy
おせっかいの僕は「まあ、タイプも違うしね」と、割りこんだ(笑) 確かにノッてきた時のズートの鮮やかな語り口~テーマを見事に崩していくあの絶妙なバランス感~には、どんなテナーの名手も敵わないだろう。僕もあのfools rush inには、充分に参ってます(笑) 
Teddy_edwardspacific_2一方・・・エドワーズの方は、もうちょっと不器用だ。テーマをあまり崩さずに、丁寧に吹いていく。そうしてその端正なテナーの音色でもって、じっくりとこの曲のメロディを唄い上げる。後からじわじわと効いてくるような感じだ。
この曲の味わいとしては・・・僕もやはりズートの方が好みかもしれない。テナーの違いだけではなく、バックのミュージシャンの違いも大きいようだ。ズート側には、ベースのwilbur wareが入っている~僕など、それだけでriverside盤に軍杯を上げたい (笑) もちろんそんなことも、全ては「好み」によるものであることは言うまでもない。それぞれの音楽好きが、それぞれの感性で、フェイヴァリット~ミュージシャン、曲、レーベル、エンジニア~を持つ・・・そんなことが一番、楽しいことなんだろう。

インストが続いたところで、またヴォーカルでもいこうよ~ということになり、D35さんが何やら取り出している。Felicia
・・・いきなり、落ち着いてはいるが、説得力ある歌声が流れてきた。ちょっと「語り」のようなドラマティックな唄い方だが、あまり声を張り上げないところに、逆に凄みを感じる・・・そんな個性のある歌い手だと思う。デッカ盤のジャケットの方が有名かもしれない。
フェリシア・サンダースのTime盤/Felicia Sanders(time)だ。I wish you loveを掛ける。この曲・・・僕はシナトラ とベイシーのreprise盤で聴いているが、なかなかいい曲である。僕も同じレコードを持っていたのでちょっとうれしい。ちなみにこのtime盤~おそらく、2ndジャケットだろう。サンダースのアップ写真のジャケットの方が1stだと思う。1stの方が2曲余分に入っている。
《マクレエのbethlehem盤。写真Yoさん提供》

Photo_4次に、カーメン・マクレエ(sugar hill)~マクレエ・・・むちゃくちゃ巧い歌い手なのだが、そういえば「マクレエ命」みたいな人は、あまりいないよね・・・なんて話しをしながら、まずYoさんが「唇のマクレエ」(bethlehem 10inch)を取り出す。聴いた曲・・・失念(笑)
独特の乾いた感じの声は、やはり「マクレエ」だが、意外にも曲のメロディはほとんど崩さない。こういう端正なマクレエは悪くない。
もうひとつマクレエを・・・と、D35さんの手持ち盤から「シュガーヒルのライブ盤」を出した。A面1曲目sunday(だったかな?)を聴く。このライブ盤でのマクレエは、もうメロディをストレートに唄わない「マクレエ節」になっている(笑)
そしてこのレコード・・・ライブ録音なのだが、ベースの音が凄い!と思ったら、隣に座ったD35さんが、にやっと笑ってクレジットのエンジニア~の所を示してくれた。Wally Heider!そういえば、このシュガーヒルも西海岸でのライブ録音だったのだ! このブログの<Wally Heiderというエンジニア>のワイダー・リストにもさっそく追加させてもらいました(笑)Img_1598

PaPaさんは、ヴォーカル盤にも造詣が深い。
anita oday(advanceというレーベルの10インチ盤)~これは初めて見たレコードだった。ace in the hall という曲名に聞き覚えがある。たぶん・・・ボブ・シールのflying duthmanというレーベルから「若き日のアニタ」というようなタイトルで復刻されたLPのオリジナルだろう。
what is this things called loveを聴いてみる。アニタのことだから、この曲・・・多分、急速調だよ・・・と予想した通りの速いテンポになったが、途中からラテン風アレンジになったのにはちょっ驚いた。
そしてPaPaさんのバッグから出てきたのは・・・「沼地のピンキー」である。
マニアには有名なPinky Wintersのargo盤だ。この盤の登場に、喜んだのが、今回、初参加したスノッブS田さん。そうなのだ。S田さんも相当なヴォーカル好きなのである。このargo盤・・・相当に希少らしい。実際、ネットでさえほとんど見かけない。Img_1591
ピンキーの唄は、あまり聴いてない僕だが・・・案外にクセのない声質で、とても聴きやすい唄い方だった。実に巧い歌い手である。
それにしても、このargo盤のジャケット・・・どうにも独特な雰囲気だ。なぜ沼地なのか? なぜトレンチコートを着ているのか? S田さんによると、なんでも「コート3部作」というのがあるそうな(笑) アン・フィリップス・・・ジェリー・サザン・・・あと誰かな? どれも、なにかしら寂しげな感じがするね。ひょっとしたら、「女性が着るトレンチコート」には何か特別な意味があるのかもしれないね・・・などと訳の判らん話しをする僕らであった(笑)

次に聴いたのは、カーティス・フラーのThe Magnificent。これは、個人的に「かなりいい音」だと思っているCBSソニー盤の実力はどんなもんかな? という気持ちが以前からあり、今回、Yoさんお持ちのEPICのオリジナル・ステレオ盤と聴き比べてみることにしたのだ。たまたまkonkenさんもそのCDも持ってきていたので、それも併せて、CD、Epicステレオ・オリジナル、CBSソニー盤という3種の two different worlds を比べてみることになった。  
           
Dream《Magnificentの2点~Yoさん提供》
<CBSソニー盤>~全体にしっとりした感じがあり、ベースの音圧感もしっかりとある。Dream_3
<CD>~CBSソニーのLPと比べると・・・ちょっとこもった感じがあり、トロンボーンだけでなく、各楽器の鮮度感が足りない。マスターテープ鮮度という点では、1973年くらいに復刻したソニー盤の方が、だいぶ有利であっても不思議ではない。
<Epicオリジナル盤>~ラウズのYeah!で、Epic盤の音の良さというものは充分に判っていたが、「EPICのステレオ盤」の音にも実は相当な興味があった。united artisitsのレコードによくあるように、モノラル盤よりステレオ盤の方がさらにいいのではないだろうか・・・という期待もある。
さて、そのEpicステレオ盤~各楽器の定位感はソニー盤とほぼ同じ。一聴してソニー盤とあまり変わらないようにも聞こえたが・・・いや、やはり違うぞ。ソニー盤の持つ「甘さ」が、もう少しキリリッと締まり、各楽器の音にオリジナル盤ならではの鮮度感がある。特にトロンボーンの音に、より厚み・輝き・深みがあるようだ。
そんなオリジナル盤を聴いた後でのソニー盤の印象としては~「悪くない」の一言。ちょっとだけ低音を強調気味かもしれないが、各楽器を聴きやすいバランスで巧くまとめてある・・・そんな感じか。まあ僕は、これで我慢しよう(笑)

さて、PaPaさんは相当なコレクター氏で、事前にリクエストした10インチ盤~ダイヤルのパーカー、prestigeのマイルス、ロリンズ、モンク、roostのゲッツなどを含めて30枚ほどを持ってきてくださった。
この日、10インチ盤で聴かせてもらったのは、以下。

ゲッツ(roost 407) Jazz At Storyville から parker51
パーカー(dial 201)Charlie Parker Quintet から
lover manとgypsy 
マイルス(prestige 124) Miles davis The New Sounds から
my old flame 
ズート・シムス(prestige new jazz 1102)Zoot Sims In Hollywood  から what's new
チャーリー・マリアーノ(imperial 3006と3007) から
sweet & lovely
これら10インチ盤については、ゲッツのroostの10インチ盤と12インチ盤の音質の具合とか、パーカーのダイアル10インチ盤の音はどんな感じなのか・・・というような観点から、またの機会にまとめてみたいと思う。
ここでは、ズート・シムスとチャーリー・マリアーノについて、僕の手持ち再発盤との絡みを少しだけ書いておきたい。

10インチ盤のマイルスを聴いた後、ちょっとトランペット談義になり、なんとPaPaさんは、マイルスのペット自体はあまり好みではないとのこと。
トランペットは、リー・モーガンやハバードのようにバリバリと鳴ってほしい・・・というPaPaさん。僕はどちらかというと、トランペットは、マイルス、ベーカー、ファーマーといった中音派が好みかもしれない。しかしトランペット特有のあの「ッパ~パ~ッ!」という突進力も、もちろん嫌いではない(笑)僕は後期のハバードは、あまり好まないが、初期のハバードは、どんなフレーズを吹いても、凄い切れがあって、やっぱり気持ちがいい。
そんなやりとりを聴いていたYoさんが、しっとり派のアート・ファーマーをセレクトした。Early_art 《アートの写真2点~Yoさん提供》

Art Farmer/Early Art(new jazz)
B面から I've never been in love before だ。Early_art_3飛び跳ねるように小気味のいいピアノソロ・・・これを聴いてすぐにkonkenさんが「ケリーだね」と言う。konkenさん、たしかこのレコードは持ってないだろうに・・・さすがはケリー好きだ。その通り、ピアノはウイントン・ケリーだ。
そしてベースが・・・アディソン・ファーマーだ。アディソンは「ボン・ボン・ボン・ボン」と4分音符をわりと伸ばさない弾き方をする。安定はしているが、ビートが突き進んでこない。そんな特徴のアディソンファーマーを、僕があまり好んでないことを知っているkonkenさんは、こちらを向いて「アディソン・ファーマーだよ」とも言うのだった(笑)僕は思わず苦笑いをした。ところが・・・今、聴いているベース音がそれほど嫌ではないのだ。これまで、アディソン・ファーマーを「いい」と思ったことはなかったはずだった・・・しかし、このYoさんの装置で聴くウッドベースの一音一音には・・・有無を言わさない説得力があったようだ。ビートは確かに進んでこない。しかし、この人の「ボン・ボン」という一音一音に、これまで感じたことのなかった、柔らかな膨らみ具合を感じたのだ。もうちょっと硬直した感じの音だと思っていたその「ボン・ボン」には思ったよりも豊かな音圧があり、それらがソフトなクッションのように弾(はじ)けるような様を感じ取れたのだ。それはそれで気持ちがよく「ああ、こういう良さのあるべーシストだったのか・・・」と、納得がいってしまう僕だった。 これも「いい音」の威力なんだろうな・・・(笑)
そして、I'll walk alone。やはりファーマーは・・・バラードが巧い。しっとりした音色でじっくりといいメロディを吹き込む。このEarly Artは(A面だけだが)ロリンズも参加しているので、僕も黄緑ラベルを持っているが、とても好きなレコードだ。

In_hollywood_10 さて、ズートも聴かねばなるまい。 ZOOT SIMS In Hollywood (prestige new jazz 1102)から what's new
《写真~PaPaさん提供》
ズートの10インチ盤~これなどもうジャケットを見ているだけで、幸せになる。モノクロでTシャツを着た若いズートが煙草に火を点けているやつである。掛けたのは、たしかwhat's new。このトランペットは誰?という話しになったが、その時は、これもジョン・オードレイかな?と言ったような気もするが、正直、判らなかった。というのも・・・この10インチ盤の裏側は、何にも書いてない真っ白だったのだ(笑)  Zoot_3
さっき調べてみたら、この10インチ盤4曲は、1954年のセッションで~p:ドリュー、b:ラルフ・ぺナ、そして、トランペットはstu williamsonであった。なるほど・・・納得のチェット・ベイカー、ジョン・オードレイ路線の音色だったな。そして、その10インチ盤は、 意外なほど新しい感じのいい音だった。Good_old_zootすっきりさっぱりしており、シンバルもクリアなのだ。みんなも「いい音だねえ」という反応だったのだが、実際、録音も1954年と10インチ盤としては、比較的、新しいほうで、そしてなんと言っても、西海岸での録音というのが「音がいい!」と感じた理由だろう。
《10インチ盤:In Hollywood の4曲は、12インチ盤~good old Zootに収録されている。上の写真2点は、米fantasy再発です》

さて・・・チャーリー・マリアーノ(imperial 3006と3007) だ。
マリアーノのあのimperialの10インチが2枚ともが、今、僕の目の前にある!う~ん・・・と唸るのみだ(笑)
「マリアーノはやっぱりバラードを聴きたいな」という僕のリクエストで、vol.2の方から when your lover has gone をかけてもらう・・・すると意外なことに、このwhen your lover has gone は普通のスインガー(4ビート)で演奏されていた。「あれれ?」という僕の反応を見て、PaPaさんが気をきかせてくれる。「じゃあ他の曲にしましょうか」そこでvol.1の方の裏ジャケを見ると、sweet & lovelyというタイトルが目に入る。Pomeroyroostよし、これにしよう、ということで掛けてもらう・・・うん、今度こそバラードだ。しかしテーマを吹くのはトランペットだった。これは誰だろう? ちょっとチェット・ベイカーに似ている。裏ジャケ解説をしっかり見てみると・・・Herb Pomeroyだった。                                 《上の写真~ポメロイのroulette盤》
ポメロイは、当時のボストンで音楽の先生的な存在だったミュージシャンだったと思う。あまりレコードが出てない人だと思うが、PaPaさんと「そういえば何かリーダーアルバムがあったね」・・・などとPaPaさんと話す。僕もあの「緑っぽい色のジャケット」の様子を思い出すが、さすがにタイトルまでは出てこない(笑) 今、調べてみたらThe Herb Pomeroy Orchestra(roulette)というレコードだった。このレコードは持っているのだが、あまり印象に残っていない(笑) 10_5

  バラードでのマリアーノはやっぱりいい。このsweet & lovely~主旋律を吹くポメロイに、マリアーノは、抑えたような音で、すす~っと忍び寄るようなオブリガートを入れてくる。サビの部分はマリアーノだ。2コーラス目はマリアーノがソロ。そして今度はサビ部分をポメロイ。スロウのテンポに倍で乗るようなマリアーノ。長いフレーズでも息を切らさずに粘りながら吹き込んでくる。マリアーノのアルトの音色の底には・・・強靭な何かがある。バラードに拘る僕としては、vol.2収録のit's magicにも注目したい。これも素晴らしい!

10_2_3 それにしても、この2枚の10インチ盤・・・見れば見るほど素晴らしい。imperialからのジャズレコードということで、余計に希少に見えてくるかもしれないが、実際、この2枚の持つ佇(たたず)まいはどうだ。アルトを吹くマリアーノの精悍な横顔(vol.1)からは、若い頃のマリアーノの血気が感じられるし、ちょっとヘタウマ風のイラストのvol.2も悪くない。ジャケットから醸し出されるその素晴らしい雰囲気(atmosphere)を、なんとか心に留めておきたくて・・・僕は、しばらくの間、ジャケットをさすったり、裏返してみたり・・・センターラベルの青色を眺めたりしていた。

Photo《右の写真は1997年に東芝が発売した2枚。大きさは12インチなのだが「コレクターズLPシリーズ from オリジナル10インチALBUMS」という涙ぐましいタイトルのシリーズである。このシリーズでは、roost、pacific、nocturnからの復刻タイトルもあったので、たくさん入手した。だから、オビに付いていた特典応募券を切り取って、僕はドロシー・ドネガンの非売品LPも入手した(笑)》

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2008年2月21日 (木)

<思いレコ 第15回>The Magnificent Trombone of Curtis Fuller(epic)

フラーが見た5分間の夢~優しくてブルージーな”dream”

Dream_005《一見、オリジナル盤に見えるかもしれないが・・・これはCBSソニー発売の国内盤ECPU-6です。CBSソニー・ジャズ1500・シリーズで全20タイトル出た中の1枚。その20タイトルの中には、あのWe Paid Our Dues!も含まれていた!そのECPU-9番は、痛恨の未入手盤である(笑)》

このレコードは、もう長いこと、僕の愛聴盤である。A面1曲目のI'll be aroundは、スインギーなギターのイントロ~見事なコード弾きで始まる。トニー・ベネットも唄ったこの曲、メロディが自然に展開していく感じで、それをフラーがまたウキウキするような気分で吹いているので(そうに違いない:笑)聴いているこちらも、実に気分がよくなってくる。そして次の曲が、dreamだ。
dream・・・この有名なスタンダードを、フラー達はものすごくゆっくりのテンポで演奏する。おそらく1分=60くらいのテンポだろうか。
メトロノームのカウントをベースが刻む4分音符とすると、その4分音符ひとつが、ちょうど1秒(くらい)ということになる。そして「1秒」というタイムは・・・案外に長い。
試みに、1(イチ)、2(ニイ)、3(サン)、4(シイ)と、ゆっくり4秒かけて、声に出してもらえれば、1分=60というテンポが、かなり遅いということを実感していただけるかもしれない。
ちなみに、ベースのウオーキングラインというのは(普通の場合)1小節に4分音符を4回刻むので、このテンポ(1分=60)だとすると、1小節を進めるに4秒かかることになる。そして、フラーはこの曲を2コーラス+カデンツァで終えている。
余談ではあるが、このdreamという曲は32小節なので、この曲を一周(1コーラス)するのに、4X32=128秒。2コーラスでは256秒(4分16秒)かかることになる。カデンツァの部分に、たっぷり30秒以上はかけているので、約5分という計算になる。
このレコードの解説書を見ると・・・dream 5:11秒と書いてあった。
「1分=60くらい」という、大ざっぱなカウント解釈だったが・・・それでもだいたい合っているじゃないか(笑)

さて、バラードを演奏する場合、べーシストは1小節に2分音符を2つ弾くのが普通だ。しかし、このdream は相当に遅いテンポ設定である。このテンポでの2分音符では・・・いかにスロー・バラードでも、さすがに間が空きすぎてしまう。だから・・・このべーシスト~バディ・カトレット(Buddy Cattlett) は、バラードではあっても、あえて「4つ打ち」を選んだのだと思う。テンポ設定と、このベースのウオーキングの感じは、一見すると「スロー・ブルース」と似ているかもしれない。しかし・・・ちょっと違う。これはやはり「バラードでの4つ打ち」なのだ。その証拠に、カトレットは、一音一音を、本当にきっちりした4分音符で(付点をほとんど使わずに~付点を使うとブルース的なフィーリングが出てくる)ウオーキングを進めてくるのだ。
そして、この「バラードでの4つ打ち」が、独特の「溜めたようなビート感」を生み出しているように思う。この「溜めた」ような感じを、どう説明したらいいのだろう。そうだなあ・・・例えて言えば・・・自転車をゆっくり漕いでいる感じに近いかもしれない。
中学校の時だったか・・・校庭にわりと小さめな円を描いて、その円周上を自転車で廻って走る~という遊びをしたことがあった。
ゆっくりと走らないと円周を飛び出してしまう。だから・・・ギアを重くして、ゆっくりとペダルを漕ぐのだが、ゆっくりすぎると自転車が倒れてしまう。その辺りの漕ぎ具合が難しい。
安定的かつ持続的な動力を与え続けないとうまく廻れないのだ。たぶん・・・持続的なトルク力がポイントなのだろう。

僕が思うウッドべースのウオーキングに必要な「トルク感のある粘り具合」みたいな感じ・・・カトレットが、まさにそんな具合にベースを弾くことで生まれた「スロウ・バラードでの持続的なビート感」(トルク的な力感と言ってもいい)」は、なかなか味わい深い。バラードであっても、なんとなくブルージーな味わい~微(かす)かにブルース的な感じ~が漂うのだ。そんな独特の効果を聴いてしまうと・・・ひょっとしたらこの「4つ打ち」は、その辺りまで計算したフラーの指示だったのかもしれないぞ・・・とも思えてくる。

そんな質感を持つべーシストのウオーキングに乗っかって、このdream は、繰り返すが「遅いテンポ」で演奏される。
うっかりすると今にも止まりそうなテンポだ(笑)
そして・・・フラーはこのテンポでも全く動じない。
というより・・・この「遅さ」を選んだのは間違いなくフラーであろうし、だからフラーは、この「遅さ」を充分にコントロールしている。そして・・・充分に「唄って」いる。

最初のコーラスで、フラーはこの曲のゆったりしたメロディを~ほとんど崩さずに~本当にゆったりと吹き、2回目のコーラスの前半をピアノに任せる。そして2コーラス目の後半から再びテーマを吹き~今度はほんの少し崩して~そしてエンディングでは、リット(それまでのリズムを止めてしまう状態)した後、フラーが短いカデンツァ(伴奏陣なしで独りだけで吹く)を入れて、そして、終わる・・・そんな2コーラスだけの演奏だ。
つまり・・・フラーのアドリブは全くないのだ。

フラーは、いろんなニュアンスのトーン(音色)や、フレーズの終わりの箇所でボントロ特有の(音程を下降させるような感じの)ベンドさせるような吹き方でもって、この曲のテーマを吹き進めていく。夢見るような「優しい感じ」が溢れ出る。
スロウなバラードをこんな風に深く吹く(吹こうとする)フラーには、たぶんアドリブなんて必要ないのかもしれない。テーマを吹けば・・・それが彼の「唄い」なのだ!
フラーという人は、本当にバラードが好きなんだなあ・・・と思えてくる。

そういえば、もうひとつ付け加えておきたいことがあった。このレコードで初めて聴いたレス・スパンという人のギターを、すごく好きになったのだ。このギター弾き・・・とにかく音が太いのである。太くて温かい感じのする甘い音色。そして時々繰り出すオクターブ奏法も~だからレス・スパンは、奏法的に言えばおそらくウエスに近い感じだとは思う~いい切れ味だ。
それから最も印象に残ったのは、特にスロー・バラードでのバッキングで、素晴らしく味わいのある弾き方をしていることなのだ。
先に書いたように、この dream は「テンポが遅い」ので、テーマを吹くフラーのメロディの合間合間に、どうしても「隙間」ができる。
そんな隙間に、スパンは見事なオブリガート的フレーズを、すす~っと差し入れてくれるのだ。そのタイミング、そのフレーズの素晴らしさ・・・この辺り、実に巧いギター弾きだと思う。
さらに、やはりバラードのバッキングで時に見せる独特な「アルペジオ的な音」にも、本当に驚かされてしまう(dreamのエンディング部分~リットする辺りで、その「音」が聴ける)
あれは、たぶん・・・ギターのうんと高い方のフレットでコードを押さえておいて、ピッキングしているような音なのだが~あるいは、各弦をかき鳴らすタイミングを微妙にずらしての指弾きかもしれない~なんというか・・・「ペキ・ペキ・キラリン・キラリン!」という感じのする、まさに輝くようなハーモニクス風アルペジオ的な音なのだ。そんな個性派ギタリスト~レス・スパンについては、また別の機会にまとめてみたい。

Dream_006 Curtis Fuller(tb)
Walter Bishop Jr.(p)
Buddy Cattlett(b)5曲
Jimmy Garrison(b)3曲
Les Spann(g)
Stu Martin(ds)

今回は、フラーと、ベースとギターにしか触れなかったが、ピアノのウオルター・ビショップもいいピアノを弾いている。
こんな具合に、なかなかの個性派が揃って造り上げた、このレコード~The Magnificent Trombone of Curtis Fuller(epic)は、フラーというボントロ吹きの「優し気な風情」が、見事に表われた地味ではあるが本当に味わい深いレコードだ。思い切って、フラー独りのワンホーンにしたところと、バラードをメインに持ってきたところが、ポイントだと思う。
ちょっと前にこの夢レコでも取り上げた、チャーリー・ラウズの傑作「Yeah!」にも、同じようなクオリティの高さを感じるのだが、どうやら・・・EPICというレーベルには、凄く趣味のいいプロデューサーと、優秀な録音エンジニアがいたようだ。
そしてさらに、ジャズ魂溢れる解説者も・・・というのも、このepic盤のジャケットの裏解説に、ちょっといい一節を発見したからなのだ。

<dream の最初のコーラスでは~彼がほとんど泣いているかのような~そんな瞬間がある>
(on Dream...there are times in the first chorus, when he almost seems to cry)
”almost seems to cry”とは、フラーの独特の「唄い廻し」・・・あの「感じ」を描こうとしたであろう、実に素晴らしい表現ではないか!
ちなみにこの解説者・・・あまり聞いたことがない名だが、Mike Bernikerという人である。

それにしても・・・世の中には素晴らしいレコードが一杯だあ!(笑)

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