<やったあレコ 第4回> スターダスト(Decca)
「1947年のスターダスト」~奇跡のような15分を聴き比べてみた。
ニーノニーノさんのオフ会(4月白馬にて))では、ラファロ入りのワーナー盤やClefの10インチ盤、リバーサイド盤やマーキュリー盤など本当に素晴らしい盤を聴くことができた。そして・・・45回転の凄さを垣間見ることができたのもこの時だった。ゲストの方が持ち寄ったライオネル・ハンプトンの「スターダスト」~EP4枚組(Decca)に度肝を抜かれたのだ。EP4枚組というフォーマット自体もすごくチャーミングだったが、やはりその「音」に、どうしようもなく魅かれてしまったのだ。
1971年頃・・・ジャズの聴き始めの頃に知ったこの「スターダスト」は、以前から好きな演奏だった~他の時代の演奏と区別するためにか、1947年のこの演奏を「オリジナル・スターダスト」と表記していることが多い~この15分ほどの演奏が全く長く感じない。次々と現れるソロがどれもいいし、とにかくハンプトンのソロが・・・もうどうしようもなく素晴らしいのだ。いわゆるモダンジャズが好きな僕だが、この47年の「スターダスト」には~スイング時代(の終わり)の演奏だからつまらない~などというようなことは、これっぽちも思わない。中3の時、AMラジオ(日立ミュージックインファイフォニックという番組)で聴いてなんとなく「いいなあ・・・」と感じて、その後、FMラジオからカセットに録音してまた何度も聴いて・・・とにかく大好きな演奏なのである。そんな風に好きな演奏だったので、10インチの盤というものを初めて買ったのも、このDeccaのJust Jazz All Stars/Star Dustだった。ただその10インチ盤を入手した頃は、聞き比べなどという意識もなかったし、機器が悪かったのか耳が悪かったのか、とにかく・・・10インチの盤質の悪さ(チリパチノイズ)ばかり気になってしまい、10インチ盤もたいしたことないなあ、で終わっていたのだ。
ところが・・・白馬で聴いたあの音は、全くの別物だった。ジャズ好きが集まり、若干のお酒も入ってみんなの気分がなごやかになっており、そしてこの1947年の演奏があまりに素晴らしくて・・・だから、あんな素晴らしい「まろやかな音」に聞こえたのかもしれない。
ウイリー・スミスが吹くテーマ:あのベンドさせる(せせりあがる)箇所、チャーリーシェイバースが観客を湧かす箇所(唇を緩めて出す「ぶお~っ」というような音)、スラム・スチュアートの弓弾きとハミングでのユニゾン、それからハンプトンの出足でのあの強烈な叩き具合と切れのいい倍テンポのソロ。全てが素晴らしかった・・・。
そのEP4枚組のボックスセットを、ちょっと前に運良く入手できたのだ。ジャケットは10インチ盤と全く同じ。オートチェンジャー用のためか、4枚の各片面にStar Dust が、もう片面に The Man I Love が収録されている。15分の全曲を聴くには、4回もEP 盤をはめ換えなくてはならないので、ちょっと面倒ではある。でも・・・うれしい(笑)
それと、10インチ盤のウラジャケット右上に、also available in 45RPM ALBUM 9-154 とも表記されている。この9-154番は、正に、今回入手した4EPの型番である。ということは・・・10インチも4EP盤も発売時期は不明だが、この2タイトルが同時期のものであることは、間違いないだろう。
少し前にUK盤EP(これは1枚のウラオモテに「スターダスト」のみ収録)も入手していたので、以前にいい印象のなかった10インチ盤の再評価も含めて、これら4種類の盤で、しっかりと聞き比べをしてみることにした。
Lionel Hampton/The Original Star Dust(ビクター)VIM-5505(M) 1978年 国内盤
Lionel Hampton/Just Jazz:Star Dust (Decca) DL 7013 10インチ盤
Lionel Hampton/Just Jazz:Star Dust( Decca) Album 9-154 EP4枚組
Lionel Hampton/Star Dust(part 1 & part 2)(Brunswick) OE 9007 UKのEP盤
このビクター国内盤は、一聴すると~10インチやEPよりもカッティングレベルが高いので~いい音に聞こえる。実際、ヴォリューム位置が同じだと、音量の大きい分だけ「迫力」を感じたりする。しかし、次々に登場してくるソロイストたちの楽器の音色に~この音色を味わうというのがジャズ聴きの大きな楽しみなのだ~どうも魅力が感じられない。「こもったような感じ」だ。この「スターダスト」は、相当に古い録音なので(1947年)そのためかな?とも思い、次に10インチとEPで聞いてみると・・・これが全然違うのだ。「鮮度」が違う。(その「鮮度感」は、10インチと4EP間に差はないようだ)
どんな風に違うのか(僕が感じたのか)・・・出足のハンプトンのイントロでは、ハンプトンも「弱め・小さめ」に叩いているようで、それほど差を感じないのだが、アルトのウイリー・スミスが、あの「せせりあがる」吹き方で登場してくる時の音色、それから観客の唸るような歓声・・・これらの「質」が全然違う。ものすごく、はっきり・クッキリしている。テナーのコーキー・コーコランの音色も、国内盤では、「ふやけ気味」で、柔らかい音色というより、やはりこもった感じの音に聞こえる。同じ箇所を聞き比べると・・・10インチとEPでは、テナーの音色がもう少し「高い音域までくっきり鳴り、堅い」感じだ。そうして、ソロの最後の方でアタックをかけて吹く場面など、この「堅い」音色の方が、明らかに「リアル」だ。「歓声」の質でもそうだったが、10インチやEPでは、何かこう「ピントがギュッとあって締まった感じの質感」を感じられるのだ。たぶん・・・この国内盤では、ヒスノイズを目立たないようにするためか、イコライズして中高域をかなり絞ったのだろう。10インチやEPでは、確かに盤質の程度不良ということもあり、けっこうチリパチが鳴ったりするが、それでも「中高域まですっきり抜けた感じ」がする。「鮮度感」が違う。一言で言うと・・・とにかく「楽器の音色の生々しい」のだ。「中高域」と簡単に書いたが、これは単に周波数の高い音域というだけでなく、おそらく、様々な倍音まで含む「響きの成分」が、この「中高域」にたっぷり含まれているのだと思う。一般的に高域の「シュ~シュ~・ノイズ」を嫌う国内盤では、過度のイコライジングにより、この大切な「響きの成分」まで減衰させてしまっているようにも思う。
オリジナル盤には「(奏者の)存在感」がある、と表現されるが、ひょっとしたらこの「響き」の中に・・・その時代の「空気の質感みたいなもの」が入り込んでいるのかもしれない。
それから強い音で吹いた時(弾いた時)の「音圧」に、より一層のダイナミズムを感じる。この国内盤だと~リミッター的な何かのためか~全体に大きな音量で入ってはいるが、その代わりに、ダイナミックスが失われているような気がしてならない。ピアニシモからフォルテ(ここぞっ!という場面で演奏者も気合を込めて強く吹いてような時)で鳴った時の、「音量・音圧の強さ」は・・・これはもう、EP盤・10インチ盤の圧勝だ。この「圧勝」は・・・ハンプトンのソロの最初の4つの音。これを聞くと判る。ソロの出番を待ちに待ったハンプトンが、思い切りアタックを効かせて叩き始めるのだが・・・この4音の「強さ」~気合の入った「さあ、いくぞ!」という音だ。素晴らしい!このフォルテの質感が、最も無理なく、しかも強力に出てきたのは・・・やはり45回転EPだった。何かの機械で測定すれば・・・このEPから飛び出てくるあの4音の「音量・音圧」の数値は、実際、国内盤や10インチより高いだろう、と思う。
さて、残る1枚~UKのEP盤は英Bruncwickからの発売だが、発売時期はよく判らない。ウラジャケの右下に小さく~
W.B.M. 2/55 と表記してある。ひょっとしたら1955年2月発売ということなのかな?(英国EP盤に詳しい方・・・ぜひお教え下さい)
音質は・・・Decca4EPと同じ頃のマスターを使っているのか、Decca盤と大きな音質の差は感じなかった。UKシングルもスムースないい音だ。1枚のウラオモテなので、実際、このUK盤をターンテーブルに載せることが一番多いのだ。
今回、はっきり判ったのは、この「国内盤」と「EP/10インチ」には、はっきりとした質感の差があったということだ。そして10インチとEPについては・・・明らかな差というものは感じなかった。これは・・・10インチ盤(確かにチリパチは多かったのだが)も、かなりのものだということでもある。楽器の音色の質感などは、10インチもEPも、ほとんど同じだったように思う。ただ、音量・音圧のダイナミクスについては・・・どうやら45回転の方に分がありそうな気がする。強い音がスムースに前に出てくるような感じと言ったらいいのか。
そんなわけで・・・このところ徐々に徐々に7インチEP盤(=45回転)を集めだしている。7インチEP盤にはもうひとつの魅力がある。
picture sleeve(ジャケット)である。このジャケットに素晴らしいものが多い。あの小さい7インチだと・・・どうにもキュートなのである。
日本のように33回転のコンパクト盤という仕様は、アメリカにはないようで、EP盤=7インチ=ほぼ45回転のようだ。
(EP盤については、また別の機会に少しづつ・・・)
さて、今回の聞き比べは・・・1947年という古い音源についての~あくまでこの4種のサンプル(盤質などの個体差も相当あるだろうし)に関しての~全く個人的な感想というレベルの話しです。だからもちろん、全ての国内盤の音質が悪い、ということではないのです。
ひとことで国内盤と言っても、元の録音の良し悪し/製作時期/使用したマスターテープ/レコード会社などによっても、いろいろな質の違いもあるだろうし。個人的には、1973年からCBSソニーが出したColumbiaの再発は、案外に悪くないと感じている。ひとつ言えるのは、どこの国の再発であっても「擬似ステレオ」だけは絶対によくない、ということだ。ステレオ機器が普及したため、単純にモノラルよりステレオの方が価値があるということで、古いモノラル音源を強引に「ステレオ」として再発した時期があるのだ。高音と低音を、左右のチャンネルに電気的に振り分けたような類(たぐい)の擬似ステが多かった。1965年くらいから1975年くらいの再発ものの外盤ジャケットには、たいてい electronically rechanneled for stereo とか表記してあるのでそれと判った。しかし、日本盤には無表記(というより「ステレオ」だけ表記)のものが多く、聴いてみてがっかりということもあった。現在の再発ものには、あんな質の悪い擬似ステレオなんて皆無だろう。しかし再発されるたびに、マスターテープの鮮度落ちをカバーするためであったとしても、巧妙にデジタル処理(昔のイコライジングなどというレベルより、はるかに聞きやすくなっていることは認めるが)など、「いじられる」可能性は高いだろう。そうした比較的高価な「巧妙再現音盤」に、僕はそれほど魅力を感じない。
古いジャズを好きになった者としては・・・とにかく「生々しい音」が閉じ込められていて(全てがいい音質とは限らないが:笑)、しかも、その時代の空気を感じ取ることができるジャケットの魅力も含めて「オリジナル盤」というものに魅かれることの方が、うんと自然なことだよ、と自己弁護のように考える僕である。
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