<発掘レコ 第3回> ヘンリー・マンシーニ/マンシーニ ’67(日本ビクター)SHP-5594
ジャズのマインドで練り上げられた役どころに、しかるべき役者を配する。マンシーニは、見事な演出家なのだ。
マンシーニが好きだ。マンシーニがよく使うあのコーラスが「ほわわ~ん」と流れてくると・・・僕は、そこはとなくシアワセな気分になる。そうして、そのいい気分がしばらく心に残る。映画音楽としてマンシーニが作った曲は、どれもシンプルで覚えやすいメロディを持ち、知らぬ間にハミングしてしまいそうな、素敵な曲ばかりだ。本当にいい曲が多い。
しみじみとした情緒のあるタイプの曲・・・例えば<ムーン・リヴァー>~この曲はオードリー・ヘップバーンでも唄えるように、狭い音域の中で作ったメロディだそうだ~あんな風に・・・本当にシンプルで、唄いやすくて、しかも、しみじみとした情緒がある・・・こんなにいいメロディってめったにない。<ムーン・リヴァー>というと・・・1970年頃だったかに、NHKで放送していた「アンディ・ウイリアムス・ショウ」を想いだしてしまう。あの番組のテーマで、いつもこの曲が流れていたのだ。日曜日だったかなあ・・・毎週、この番組を楽しみにしていた。僕の家のTVはまだ白黒だったが、音楽好きの友人が「アンディウイリアムスの目は青いんだぞ!」とうれしそうに教えてくれたりした。
マンシーニのもうひとつの面、キャッチーなメロディを持つユーモラスなタイプな曲・・・例えば<ピンク・パンサー>~これは、あの「泥棒が抜き足差し足・・・」という感じのメロディが、すぐ印象に残ってしまう曲だ。ちなみにあの中のテナーサックスのソロは・・・プラス・ジョンソンという人だ。マンシーニという人は、「曲の演出」がとても巧い人だと思う。それぞれの曲に合ったアレンジ~どんな風にスポットを当てるか?どの場面でどんな楽器を使おうか?~そんなことを巧みに考えているのだと思う。<ピンクパンサー>のテナーは、やはり・・・あのプラス・ジョンソンの、ちょっとアクの強いちょっとお下品なな感じ(笑)の音色で吹かれるべき曲だったのだ。ピタッとはまった演出、という感じがする。仮に・・・この<ピンク・パンサー>のテナーがコルトレーンだったとしたら・・・ほらっ、どうにも違和感があるでしょう(笑)
僕は長い間、こんな風に映画音楽の作曲家としてのマンシーニしか知らなかった。映画音楽だけでも、もう充分に素晴らしいマンシーニなのだが、実は、彼には深いジャズ・マインドがあるようで、「ジャズのテイストあふれる」レコードをたくさん創っているのだ。有名なところでは、アート・ペッパーも参加している「Combo!」というのもあるが、今回は~もう少しポピュラー風だが「ジャズ」を感じさせる~そんな盤を何枚かを紹介したい。
マンシーニ’67(日本ビクター) この盤は、95年3月、普通の中古盤屋さんで入手しているので、特に「発掘レコ」とも言えないのだが、価格が1100円という微妙な?値付けだったので、いわゆる「ラウンジ系のレア盤」みたいな扱いではなかったはずだ。ペラペラのジャケットと細身のオビに惹かれるものがあったし、「サテン・ドール」「いそしぎ」「ラウンド・ミッドナイト」などジャズの曲も多めに入っているので、ちょっと迷ったが入手したのだ。裏解説には・・・「ジェリー・マリガンを思わせるバリトンサックス」とか「有名なスタジミュージシャンが起用されている」とか書いてあるが、はっきりとしたミュージシャンのクレジットは一切なかった。さて、聴いてみると・・・どうにもジャズっぽい。「サテン・ドール」のエンディングの部分では、どう聴いても・・・レイ・ブラウンじゃあないか!というウッドベースも飛び出てくる。それから「いそしぎ」でテーマを吹くトロンボーンはディック・ナッシュだろう。後に、マンシーニのRCA盤がまとめて復刻された際、この「マンシーニ’67」も出たはずだが、その詳しいクレジットによると・・・ベースはやはりレイ・ブラウン。「ジェリー・マリガンを思わせるバリトンサックス」の正体は・・・バド・シャンクであったように記憶している。
もちろん、他にもいい盤がある。
Uniquely Mancini(RCA Victor:LSP-2692)1963年。この盤は、地元「ラビットフットレコード」のラウンジ系コーナーで入手した。Victor犬ラベルのステレオ盤で、キッチリしてとてもいい音質だ。サブタイトルが、The Big Band Sound of Henry Manciniとなっており、<Lullaby of Birdland><C jam blues><Stairway to The Stars>などジャズっぽい曲も多い。ソロイストには、プラス・ジョンソン(ts)、テッド・ナッシュ(as)、ロニー・ラング(fl)、コンテ・カンドリ(tp)、ディック・ナッシュ(tb)、ヴィンセント・デ・ローズ(french horn)などが、うまいこと配置されている。 好きな1枚だ。
The Mancini Touch(RCA Victor:LSP-2101)1959年録音。 この盤もなぜか地元の「こんぱく堂」で入手。こんな地味なオリジナル盤が、どうして地元トヨハシにあったのだろうか? 余談だが、あるレコードがたどる軌跡というものには・・・ほんとに興味深いものがある。
この盤は、ストリングス入りではあるが、ナッシュ兄弟、ロニー・ラング、ヴィクター・フェルドマン(vib)、ジョニー・ウイリアムス(p)、それからシェリーマンなどがクレジットされている。おもしろいのは、そのクレジットが「ソロイスト」ではなく、「Featured Performers」とされていることだ。純粋なジャズではありませんよ、という意味合いだろうか。まあ、呼び名はなんであっても、少しでも「その人」の演奏が聴ければいいのだ。バラードで演奏される<my one&only love>がいい。イントロや間奏にボブ・ベインのギターが少し入るが、主メロディは・・・これまたディック・ナッシュではないか(笑)
思うに・・・マンシーニは、トロンボーンという楽器を、すごく好きなんだろう。スロウなしみじみ曲では、たいてい、トロンボーンがメロディを吹く。
Our Man In HollyWood(RCA Victor:LSP-2604)にも、いい曲が入っている。<two little time>だ。センチメンタルな感じに溢れたメロディを吹くのは、やはり・・・ディック・ナッシュ。とろけるようなボントロの音色が素晴らしい。しみじみとしたこの曲の味わいが、この音色でより一層、映えるようだ。
きりきりとしたジャズではないが、しゃれた演出(アレンジ)で、腕利きのジャズメンが気の効いた短いソロをとる~こんなゆったりとした味わいのヘンリー・マンシーニの音楽を、僕は大好きだ。
それにしても・・・世の中には「いい音楽」がいっぱいだ。これだから、レコードは止められん。
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