レイ・ブラウン

2014年1月18日 (土)

<ジャズ雑感 第35回>ミルト・ヒントンというベース弾き

002 ≪写真~Bethlehem bcp 1020≫
ミルト・ヒントン。なんというか・・・真に重厚なベーシストである。そして、ウッドベースにおける伝統的4ビートジャズの体現者である。僕の想う「伝統的」とは・・・まず「ベース音のでかさ」である(笑)。ミルト・ヒントンのベース音は間違いなく「大きい」。それは録音されたベース音であっても、その「鳴り」~弾かれた音がベースの胴から廻りの空間に拡がる感じ・・・辺りの空気が振動する感じ~で判る。アタッチメント(マイク)が普及するよりもうんと前の時代のベース弾きには要求されたであろう「音の大きさ」・・・ヒントンは、その「大きな音」を余裕でクリアしていて、さらにその大きい音を、「太くて、丸い、輪郭の拡がる感じの音」(これがおそらくガット弦の特徴)で鳴らしている。これが・・・ウッドベース好きにとっては、実に魅力的なんです(笑) 
さきほどから「大きい、大きい」と叫んでいるのだが、これは・・・ウッドベースを生音で(マイクを使わずに)弾いた状態でも充分に「大きい」という意味であって、単に出来上がったレコードで聴ける状態で「ベースの音量が大きい」状態とは、ややニュアンスが違う。レコードでは「大きく」聴こえても、それが「生音で大きい音」とは限らない。このことは、ウッドベースという楽器の使われ方(マイク、弦高の高さ加減)にも関係してくるので、以下に少々、ベース談義を(笑)

Hinton_playing_a_contrabass_4 Milthinton2
≪ミルト・ヒントンの写真2点~見よ、この太い弦!(ガット弦)、そして弦高の高さ!右の写真でお判りのように、右手の指の腹を弦に深く当てて、なおかつ、指板の一番下の辺りで弾いている。全てはウッドベースから大きな音を生みだすための作法だ≫

~ちょっと乱暴な言い方だが、70年代以降、ほとんどのベーシストがアタッチメント型マイク(ウッドベースの駒に直接、貼り付けたり、はめ込んだりして音を拾う型のマイク)を使うようになって、その結果、1970年~1985年くらいまでの15年間くらいだったか・・・ほとんどのジャズレコードで聴かれるウッドベースの音が、「フニャフニャ」になってしまった。当時の代表的ベーシスト~エディ・ゴメスもロン・カーターもリチャード・デイビスもペデルセンもジョージ・ムラーツも~誰も彼も、アタッチメントマイクを使うようになって、そうすると、音をよく拾ってくれるので、(その結果)弦高を低くセッティングしたのだろうか・・・その時期のレコードで聴かれるベース音は、音量は大きくて、低い音もよくサスティーンされ(伸び)、音程(の良し悪しも)も聴き取りやすくなったのだが・・・それは空気を振動させた音色ではなくて、限りなくエレベ(電気ベース)に近い、電気的な音色になってしまったわけで・・・それは伝統的なウッドベース好きにとっては・・・致命的に「良くない」ことだったのだ。
ただ、そんな時代でも、例えば、レイ・ブラウンは「大きな生音」を維持していた。エリントンとのデュエット(1972年:パブロ録音)を聴けば、そのベース音の馬力、粘り、ビート感の強靭さに驚かずにはいられない。そうして・・・こういう「グルーヴ感」は、(私見では)ある程度、弦高を高くしてベース本体から発される生音を『空気中に響かせる』状態にしないと、生まれないものだと思う。
・・・このようなことは「ウッドベース好き」にとって、どうにも「気になること」かと思います。ですので、1970年代~80年代中期頃のウッドベースの音質が、それほど気にならない方は無視してください(笑) また前述の『ベース音のフニャフニャ傾向』も、ある時期に目立ったもので、その後は(私見では1990年くらいから)、マイク機器そのものが改良されたこともあって、アタッチメントマイクを使っていても、それほど電気っぽくない自然な聴きやすい音質に改善されてきたように思う。加えて、弦高も高めのセッティングにして、ウッドベース本来の力強い「ベース音」を発しているベーシストも増えてきているようだ。たとえば、クリスチャン・マクブライドのベース音は『ベース本体がよく鳴っている』感じが充分にあって、本当に素晴らしい。
ちなみに「生音が大きな鳴り」のベース弾きはミルト・ヒントンの他にも、もちろんいっぱい居るわけで、私見ですが、例えば~
ジョージ・デュビュビエ
ウイルバー・ウエア
チャールス・ミンガス
ジョージ・タッカー
エディ・ジョーンズ
などをこのタイプとして挙げたい。そして、このタイプのベース弾きは、たぶん、ガット弦(ウッドベースで使う弦の種類)を使っている・・・と、睨(にら)んでます。

さて・・・ここらで、話しをレコードに戻しましょう(笑)
ミルト・ヒントンのベツレヘム盤『Milt Hinton』1955年1月録音。
005_3 このベツレヘム盤・・・僕の手持ちは bcp1020なる番号表記である。(左の写真とこの記事の一番上) いろんな資料で調べてみると、この『ミルト・ヒントン』~(ディスコグラフィでは)まずは10インチ盤 BCP-1020番として発売された後、12インチ盤 DeluxシリーズのBCP-10番として発売されたことになっている。しかるに・・・今、僕の目の前にある12インチ盤『ミルト・ヒントン』は、bcp1020番なのだ。
「さあ、これ、いかに?」というわけで・・・ちょうど前回の<夢レコ>(スタン・リーヴィー記事)の追記としてこの話題にも触れたところ・・・M54さんから決定的なコメント情報が寄せられた。その情報から、僕はいろんなことを妄想した(笑) 
以下、M54さんとのコメントやりとりの一部を再掲しながら、氏が提供してくれた写真も載せて、ベツレヘム盤『ミルト・ヒントン』の12インチ盤2種存在の謎に迫ってみたいと思う。

M54さん~
≪ミルト・ヒントンは持ってますので確認」してみました。ふ~む、面白いですね。 僕のはbcp10 ですが、表の右上の表示はシルバーのシール貼りです。 bassさんの記事から想像するにこの下にはbcp1020が隠れているのではないかと! 裏面ですが、これも左右の上部角のレコードnoはBCP-10ですがこの10の後に黒く塗りつぶしてあるのです。 この塗りつぶしの下は20が隠れていると思います≫
Dscn0848 Dscn0846

≪上記写真2点はM54さん提供。まさに「シール貼り」と「マジック消し」だ。ジャケット裏のミュージシャンのパーソネルの箇所:clarinetのA.J. SCIACCA なる人物にTONY SCOTTとメモ書きしてある。相当なジャズマニアの所有レコードだったのだろう(笑)≫

bassclef~
≪う~ん・・・そうですよ、M54さん、その推測で、まず間違いない、と思いますよ。つまり・・・ベツレヘム社は、10インチ盤1020番と(たぶん)同じジャケットをそのまま使って、まずは、12インチ盤を造った。当然「そのまま」だから、この12インチ盤は表ジャケ・裏ジャケ ~とも1020番が表記されていた~(これが単純ミスなのか、確信犯なのかは判らないけど:笑)後からシールでも貼っておけばいいだろう~てなことで「BCP 10」のシールを表ジャケ右上のbcp1020の上に貼った! そして、裏ジャケットはシール代が嵩(かさ)むので(笑)黒マジックで、「BCP-1020」の1020という数字4ケタの下2ケタの20を消した! 54さん・・・そういうことでしょうね。シールの下には間違いなく「bcp1020」という番号が表記されていることでしょう。そのシールを剥がしてみて~とは言いませんから(笑)
12インチ盤が出来上がってから・・・「あ、10インチ番(1020)と同じ番号じゃ、まずいね」ってことで修正を図ったんでしょうね。それにしても「シール貼り」はともかく、黒マジックで消す~というのはなかなか大胆な作戦ですね(笑)

M54さん~
≪ジャケ裏の住所表示ですが、センターのみで Bethlehem Records,1650 Broadway, New York 19, N. Y. です。盤はフラットです。bassさんのもフラットではないですか?≫

bassclef~
≪はい、住所表記もまったく同じです。盤もフラットです。ということは・・・(便宜上、こう呼ぶが)僕のbcp1020番も、M54さんのBCP-10番も、おそらく、全く同一の(製作段階でも)ものでしょうね。ジャケットも中身の盤もまったく同じ12インチ盤~ミルトヒントン」ということになります。僕の手持ちは「シールなし」「マジック消してない」状態ですが、シールは剥がれ落ちたものかもしれません(笑) まあごく常識的に考えれば、ベツレヘムさん~1020番が10インチと12インチと同じだあ!というミスに気付くまで・・・ある程度、出荷してしまって、その後、「シール&マジック」で修正したものを出荷した~ということになるのかな≫
004

~というような事情です。
つまり・・・ここに実例として挙げた12インチ盤『Milt Hinton』は、異なる2種ではなく、製作段階では「まったく同じもの」だったと考えて間違いないと思います。その同じものを、比較的短い期間の内に、「シール貼り・黒マジック消し」で、「違う番号のもの」に見せかけただけであって、「もの」としてはまったく同一な商品であろうかというのが僕の結論です。
そして、この12インチ盤・・・実はもう1種、別のエディション(版)が存在しているかもしれません。これは以前にネットで見かけた記憶の話しなので確証はありません。それは・・・表ジャケットの色合いもセピア調とは違う感じだし(モノクロのように見えた)、何よりも表ジャケットの右上に「長方形ロゴ」が見えたのだ(そう記憶している) そしてその「長方形ロゴ」にはBCP-10と印刷されているように見えた。現物で確認できてないので、断定はできませんが、おそらく・・・「シール貼り」処理したbcp 1020ジャケットの在庫がなくなったので、新しく「長方形ロゴ&BCP-10」ジャケットを製作したのではないかなと推測できます。
*『ミルト・ヒントン』の「長方形ロゴ・BCP 10」をお持ちの方、ぜひコメント情報をお寄せください。

Bethlehem盤 『Milt Hinton』なるレコードの内容についても、少々、触れておきたい。
この初リーダー作はカルテット~ピアノにディック・カッツ、ドラムにオシー・ジョンソン、そしてクラリネットには、A.J.Sciacca なる聞き慣れない名前だが、このSciacca(ショッカと読むらしい)なる人・・・どうやらトニー・スコットの本名らしい。
ベース弾きのリーダー作ということで、ミルト・ヒントンは over the rainbow と these foolish things で、お得意の「ヒントン節」を披露しながら、全編、ベースでメロディを弾いている。トニー・スコットが抑えた感じでヒントンのベースに絡む these foolish things はなかなか聴き応えがある。

Photo_2 ああ・・・そういえば僕がミルト・ヒントンという人をいいなあ・・・と最初に感じたのは、あれは、ハル・マクージックのcoral盤『Jazz at the Academy』というレコードからであった。そのレコードでも、やはり over the rainbow を、ヒントンがベースでメロディを弾いているのだ。ギターのバリー・ガルブレイスとドラムのオシー・ジョンソンがごく控えめに伴奏している。これがとってもいいのだ! ヒントンという人が自分の好きな曲を、そのメロディを奏でるのが嬉しくて仕方ない・・・という感じがあって、サビ辺りからテンポがどんどん速くなったりする(笑) それでもその生き生きしたヒントンの「唄い」が本当に素晴らしい! 聴衆も固唾(かたず)を飲んで、このベース弾きの唄を聴き入っている様子なのだ。サビで盛り上がってきた辺りで誰かが「ぅおお~」と短い歓声を上げる・・・おおっ、この演奏、ライブ録音だったのか!そうしてメロディを唄い終えると・・・聴衆は一気に拍手・・・という over the rainbow なのである。
ちなみに、このcoral盤は、アルトのハル・マクージックの音色も素晴らしくて、もちろん、僕のマクージック愛聴盤である。ちなみに、at the Academy というタイトルではあるが、どうも拍手や歓声の入り方がワザとらしいトラックが多くて、どうやら全編がリアルなライブ録音ではないようだ。しかし・・・ヒントンが弾くover the rainbow だけは、何度聴いても、そこにリアルなライブ空気感が感じられるので、僕としては、これこそ、「ミルト・ヒントンの畢生(ひっせい)の傑作ライブ演奏」として記憶していたい(笑)

ミルト・ヒントンは2000年に亡くなっているが、1989年(ブランフォード・マルサリスのTrio Jeepy(2枚組)でも、生き生きしたビート感で、まったく衰えていないベース音を聴かせてくれる。この時、ミルト・ヒントンは79歳のはずで ある・・・まったく凄いベーシストがいたものだ。
ジャズは・・・ますます止められない(笑)

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2007年10月21日 (日)

<ジャズ雑感 第21回> Wally Heiderというエンジニアのこと。

好きなライブ盤をいくつか挙げると・・・ハイダー録音ばかりじゃないか!

 

 

 

《追補》~コメントからの転載を追加しました。それから、この記事の最後に「ハイダー録音盤のリスト」を追加しました。今後も書き足します(10/28)


前々回のミッシェル・ルグラン記事の時だったか・・・「アット・シェリーズ・マンホール」での録音が素晴らしい、と書いた。特にレイ・ブラウンのベース音がよかったのだ。ブラウンという名手が弾くウッドベースの自然で豊かな音量が、膨らみすぎないギリギリのバランスで捉えられていたのだ。もう1枚~カル・ジェイダーの「アット・ブラック・ホーク」でも、やはりウッドベースがいい按配で録られているのを思い出し、そのクレジットを見ると・・・どちらのレコードもエンジニアはWally Heider(ワリー・ハイダー)という人だった。その記事へ頂いたSugarさんからのコメントによると、「ハイダー氏は、録音機材を積んだトレーラー(クルマ)を持っていて、当時の西海岸でのライブ録音の多くをてがけていた」ということだ。 (SugarさんのHPはこちら)(Sugarさんが以前にハイダー氏について書かれた記事はこちら)
その後、西海岸でのライブ盤を聴いていて「これは音がいいなあ・・・」と感じたら、必ずクレジットをチェックするようになった。そうして・・・いくつかの「ハイダー録音」を発見した。001

 

ところで「シェリーズ・マンホール」というと・・・皆さんもすぐに思い出すレコードがあると思う。僕もすぐにビル・エヴァンスのAt Shelly's Mannne-Holeを連想した。このレコード、僕は国内盤しか持っていない。ビクターが1977年に発売したSMJ-6197である。エヴァンスのレコードはたくさん聴いたが、正直に言うと、僕はチャック・イスラエルのベースがあまり好きではなかったので、特にこのライブ盤を愛聴してきたわけではなかった。ところが、このレコードの別テイク集「Time Remembered」~ビクターが1983年に発売した「ジャズの巨人 未発表録音集」というシリーズ。この盤はリアルタイムで入手していた~を、1年ほど前に再聴した時に・・・そのピアノの音とベースの音に「何か」を感じた。エヴァンスのやや線の細い音色と(もちろんシェリーズ・マンホールに備え付けのピアノは、特に良い楽器ではないと思う)、ピンと張り詰めたようなタッチ感~エヴァンスというピアニストの表現したい何か・・・そんなものを、感じ取れたように思ったのだ。ライブ録音にも関わらずだ。それから、チャック・イスラエルのウッドベース・・・これにはちょっと驚いた。彼のウッドベースは・・・ぐぐっと重心の低い深い音色だったのだ。重厚で品がある音色だった。僕があまり好みでなかったのは・・・たぶん、彼のタイム感みたいなもの~絶対に突っ込んでこないビート感・・・よく言えば落ち着いているし、逆に言うとどっしりとしすぎていて、ちょっともったりしてしまう~についてだったのかもしれない。イスラエルの良さというのは、この「深い音色」にあったのか・・・。僕のベースへの好みが変わってきたためか、あるいは、1977年当時の国内盤よりも1983年の未発表音源盤の音質の方が、うんと良かったためなのか(鮮度感にかなりの差がある!ピアノの音色は瑞々しいし、ベースの音色にもより切れが感じられる))・・・いずれにしても「At Shelly's Manne-Hole」では感じ取れなかった「イスラエルの美点」を、僕はようやく理解できたのだ。002
そして同時に、この「1963年のライブ録音(の元テープの状態)は相当にいいぞ・・・」とも直感したのだ。考えてみれば、1983年に発表した1963年の未発表音源というのは、いわばその1983年発売がオリジナルなわけで~もちろんこの日本盤の少し前に(あるいは同時発売かもしれない)アメリカでも2LP(シェリーズ・マンホールとの)として発売されたものが「USオリジナル」になるとは思うが~要は、その「元テープ」の管理状態が良好であったならば、こんな風に20年後の発売であっても、瑞々しさが失われることはないのだろう。しかしこうなると・・・1963年の米オリジナル「Shelly's Manne-Hole」の音は、こりゃあ凄いんだろうな・・・と思わざるを得ない。う~ん・・・欲しい(笑)4
そんな事を想いながら、僕は何気なくこの未発表音源盤の裏ジャケットを見た・・・recording engineer~Wally Heider
という文字が飛び込んできた! お おっ・・・これもハイダー録音だったのか! この小発見は、僕には実にうれしいことだった。
ビクター日本盤「At Shelly's Manne-Hole」に限れば、の裏ジャケのどこにもHeider氏のクレジットはない。
<米オリジナル盤をお持ちの方~ぜひその音質、裏ジャケのことなどお教え下さい>
《追補》この後、NOTさんから米オリジナル盤情報を頂きましたので、コメント欄から転載します(以下、斜体字)
SHELLY'S MANNE=HOLEのライブはグリーンのORPHEUMレーベルがオリジナルです。国内盤も持っていますので聴き比べたところオリジナルの方が鮮度が高く鮮やかに聴こえるのは当然として一番違うのはbassclefさんも指摘されているようにベースの音です。国内盤のベースはエコーがかかったようなブーン・ブーンという音なのに対しオリジナルのベースの音自体は国内盤よりやや小さいものの締りのあるブン・ブンといった音です~

 

 

 

さて、もう1枚。今朝のことだ。ウエスでも聴こうか・・・と取り出したのは「フル・ハウス」(riverside)だ。

このレコードは前から大好きだった。ウエスもグリフィンもケリーも、その演奏が素晴らしいのはもちろんだが、僕の中では「ウエスのギターの音が一番いい」レコードでもあったのだ。ウエスのギターの、太さ・甘さ・タッチの切れなどが実に聴きやすい温かい音色で録られているのだ。僕には、このウエスの音が一番、自然に聞こえる。
そんなことを想いながら・・・ライブ?~ツボハウス?~西海岸? ああ・・・これはひょっとすると・・・と裏ジャケットを見ると・・・そこには誇らしげに、RECORDING ENGINEER:WALLY HEIDER とクレジットされていたのだ!
嘘のようなホントの話しである(笑)003_2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<MW-2032~1970年頃に日本グラモフォンが発売していたリヴァーサイド「Jazz anthology」シリーズ~ラベルは茶色の環っか>

これまで「フル・ハウス」は何度も聴いてきたが、録音エンジニアまで意識したことはなかった。それに、この国内盤の裏ジャケットは写真コピーみたいで、だから活字のピントもやや甘くかなり読みにくい。相当に意識して読まなければ、気がつかなかっただろう。
それにしても、自分が「いい録音」と感じていたこの「フル・ハウス」も、ハイダー録音だったとは・・・これはもう偶然ではないだろう。まあ大げさに言ってますが、つまるところ・・・僕が「ハイダー録音」(その音質やバランス)を好きだ、というだけのことなのだろう(笑)
では、ハイダー録音の特徴とは何なのか? 音の説明は、いつでも難しいが、僕の感じる「ハイダー録音」の良さは・・・「どの楽器も自然で温かみのある音色で捉えられていること」それからやはり「ベース音の厚さ」だろうか。ライブ録音の場合、一般的には低域の薄いバランスになることも多いようで、だからドラムスばかり目立つちょっとやかましい感じになっていることもあるのだが、「ハイダー録音」だとそうではないのだ。ウッドベースの音がどっしりと入って、シンバルも強すぎない自然な音量に聞こえるので、(僕には)とても聴きやすいバランスになるのだ。「重心が低い」と言えるかもしれない。

「聴きやすいバランスのライブ録音」ということで・・・もう1枚、好きなレコードを思い出した。5_2
アート・ブレイキーの「スリー・ブラインド・マイス」(UA)だ。これまた日本盤です。キング発売の1500円盤シリーズのこの盤は、4~5年前に入手した。ちなみに、このキングのUAシリーズは、どれも音がいいように思う。

ウエイン・ショーター、フレディ・ハバード、カーティス・フラーの3管時代・・・1962年の録音なのだが、僕はこの3管になってからのブレイキーのブルーノート盤はほとんど持っていなかったので、このユナイト盤を新鮮な気持ちで聴くことができた。
A面1曲目の three blined mice はベースのイントロから始まる。
左チャンネルから、ジミー・メリットのベースが太くてしっかりとした音で流れてくる。ややあってシダー・ウオルトンのピアノが入り、次に右チャンネルからブレイキーのシンバルが聞こえてくる。曲の導入部分でもあり、ブレイキーは抑え目の音量でシンバルを叩いているようだ。そういえば、ブレイキーという人は意外に繊細なドラマーで、1曲の中でも場面によって音量を抑えたり強めたりしていることが多いのだ。「叩く」場面では、ちょっとくどいこともあるけど(笑)
そして、最初にこのレコードを聴いた時・・・ライブ盤だとは思わなかった。1曲目が終わって拍手が入り、ようやく「あれ?ライブだったのか」と判ったのだ。それくらい、しっかりとしたいい録音だと感じていたのだ。
このレコードで特に好きなのは、A面2曲目~blue moonである。全編、フレディ・ハバードをフューチャーした1曲である。裏ジャケのクレジットによると、アレンジはショーターだ。そういえばimpulse盤のBody & Soulのサウンドに似ている。ここでのハバードは素晴らしい。。ブルー・ムーンというシンプルな曲のメロディを、ちょっと崩しながら吹くだけなのだが、艶やかに鳴るトランペットの音色を、ゆったりと伸ばす音でじっくりと楽しませてくれる。僕はハバードをそれほど聴き込んではいないが、ハバードのこの「音色」は快感である。
そして、ハリウッドの「ルネサンス」というクラブで録音されたこのレコード・・・キング盤の裏ジャケにはしっかりとしたクレジットがあり、そこにはこう書かれていた。
LOCATION-THE RENAISSANCE,HOLLYWOOD
ENGINNEER-WALLY HEIDER

 

《追補》~みなさんから「ハイダー録音盤」のコメント情報を頂きました。貴重な情報ですので、それらのタイトルを以下にリストしました。今後も追加情報あれば、書き足していきます。

 

Michel Legrand/At Shelly's Manne-Hole(verve)
Cal Tjader/Saturday Night/Sunday Night At The Blackhawk(verve)
Bill Evans/Time Remembered(milestone)
Bill Evans/"Live" (verve)
Wes Montgomery/Full House(riverside)
Art Blakey/3 Blind Mice(united artists)
Milt Jackson Quintet featuring Ray Brown / That's The Way It Is (impulse)
MJQ / Live at The Lighthouse (atlantic)
Barry Harris/~ at the Jazz workshop(riverside)
Cannonball Adderley/~ at the Lighthouse(riverside)
Cannonball Adderley/Poll Winners(riverside)
Cannonball Adderley/JAZZ Workshop Revisited(riverside)
George Shearing/~ & the Montgomery Brothers(jazzland)
Oliver Nelson/Live from Los Angeles(impulse)
Archie Shepp/Live in San Francisco(impulse)
Don Randy/Last Night(verve)
Charles LLoyd/Forest Flower(atlantic) 
Charles LLoyd/Love-In(atlantic)
Charles LLoyd/Journey Within(atlantic)
Budyy Rich/Big Swing Face(pacific)
Terry Gibbs/Dream Band vol.4:Main Stem(contemporary)
Johnny Griffin/Do Nothing 'til You Hear From Me(riverside)
Carmen Mcrae/Live at Sugar Hill(time)
Dexter Gordon/Resurgence of Dexter Gordon(riverside)
Harold Land/West Coast Blues! (jazzland)
Ray Charles/ Live in Concert(ABC)
Sergio Mendes & Brasil '65 /「In Person At El MATADOR!」(Atlantic)
*Lenny Mcbrown/Eastern Lights(riverside) 1960 10月

 

<以下はCD>
Dizzy Gillespie/Live In Stereo At Chester,PA.(jazz hour)
Frank Sinatra /Live! Seattle,Washington Concert(jazz hour)
Miles Davis/Live At the 1963 Monterey Jazz Festival(MJF)

以下は、ハイダー関わり盤?~
Carmen McRae/The Great American Songbook(Atlantic)
Larry Banker Quartette/Live At Shelly's Manne-Hole(vault)~このvault盤については、クレジット確認なしです。

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2007年7月20日 (金)

<ジャズ雑感 第19回>ミッシェル・ルグランのこと。

聴くたびに「ああ・・・いい曲だなあ」と、思わずつぶやいてしまう・・・そんな曲が誰の心にもあるものと思う。僕にも好きな曲がいっぱいある。そうして、そんな風に「好きだ」と感じたいくつかの曲が同じ作者によるものだった・・・と判った時のワクワク感。それはまるでいい鉱脈を発見したような気分で、そこら辺りを探っていけば、まだまだお宝がいっぱい潜んでいるぞ・・・という期待感が渦巻いて、なにやらうれしくなってしまうのだ。
2年ほど前だったか、この<夢レコ>でも取り上げた、マット・デニス(ロリンズのオン・インパルス記事)やジョニー・マンデル(ビル・パーキンス記事)という作曲者の存在に気付いた時は、正にそんな気分だった。

ジャズを長いこと聴いてきて・・・どうやら僕の好きな曲には、2つの流れがあるようだ。僕はモンクやランディ・ウエストン、それからフレディ・レッドの創る曲が好きである。それらは例えば・・・reflections や pretty strange、それからtime to smile であったりするのだが、あのちょっとゴツゴツしたような感じのメロディ・・・しかしメランコリックな雰囲気のある曲調・・・そんな感じの曲が、僕の好みになっているようだ。
そしてもうひとつの流れ・・・「ゴツゴツ曲」とは、だいぶん肌合いが違うのだが、例えばマット・デニスの創る everything happens to me というような曲にも大いに惹かれてしまうのだ。大げさな感じではなく、ふと自然に流れてきたかのような素敵なメロディとモダンなハーモニーを持つ洒落(しゃれ)た曲・・・そんな曲も好みのようだ。
僕はクラシックをほとんど聴かないが、いわゆるクラシックの名曲というものは、どれも素晴らしいと思う。チャイコフスキーの「花のワルツ」やドヴォルザークの「家路」などは大好きである。4~5年ほど前に「惑星」の中のメロディ(木星だったかな)をそのまま使ったポップ曲が流行ったが、あれはやはり・・・本当にいいメロディは、いつ誰が聴いても「いい!」と感じる~ということなのだろう。

そして今回は、そんな「いいメロディ」を創る作曲家・・・ミシェル・ルグランのことを書きたい。Dscn1729
そう・・・「シェルブールの雨傘」のルグランである。それから「風のささやき」のルグランである。こんな風に映画音楽のヒットメイカーというイメージが強いフランスの作曲家ではあるが、ジャズ好きは知っている。
ルグランが「ジャズ者」であるということを(笑)

ルグランが大ヒットメイカーになる前(1958年6月)に、アレンジャーとして「ジャズ」のレコードを吹き込んでいる。マイルスやコルトレーン、それからビル・エヴァンスらが参加しいる、あの有名なレコードだ。Dscn1731
Michel Legrand meets Milese Davis(mercury) このレコードは何度も日本でも再発されたはずで、このMeets Miles Davisは、「ルグラン・ジャズ」というタイトルでも出ていたと思う。この写真の盤は、1973年~1974年頃だったか・・・日本フォノグラムが発売した「直輸入盤」だ。右上に貼ってあるシールのセリフがおもしろい。<世界でも売っていない貴重な名盤です。第4期 米マーキュリー社 特別製作盤> このシリーズは、オリジナルの仕様と関係なく、全て「赤ラベル」だったと思う。たしか、クインシー・ジョーンズ記事の時に、この「赤ラベル盤」を載せたように記憶している。僕はルグランにはそれほどの興味もなかったが、「1958年のコルトレーンやビル・エヴァンスが聴ける」という理由で、この盤を入手した。
3つのセッションに分かれていて、どれもオーソドクスなアレンジの下、豪華なメンツのソロが楽しめる、とてもいい内容だと思う。但し、このレコード・・・ルグランはアレンジャー専任なので、ルグランの曲はひとつも聴けない。

わりと早い時期にジャズメンに取り上げられた、ルグランの曲をひとつ挙げよう。
Dscn1730 <once upon a summer time>~1962年のマイルスのCBS盤~Quiet Nights のA面2曲目に収録されている。あのチャーミングなメロディをギル・エヴァンスとマイルスが哀愁たっぷりに描き上げているが・・・このonce upon a summer time には・・・いまひとつ馴染めない。重く立ち込めたような雰囲気を醸し出すのはギル・エヴァンス得意のやり方だが、曲の中ほどで壮大に鳴るブラス群も唐突な感じだし、全体に重々しくなりすぎてしまい・・・私見では、このルグラン曲の持つ「可憐さ」みたいな雰囲気に欠けるように思う。
余談だが、この曲・・・有名なわりには、案外にインスト・ヴァージョンが少ないようなので、(マイルスが吹き込んだからかもしれない:笑) ヴォーカル・ヴァージョンを3つ、紹介しよう。Dscn1732
トニー・ベネットの I'll Be Around(columbia 1963年) 
ビル・エヴァンスが伴奏したモニカ・ゼッタランドのレコード~Waltz For Debby(phillips 1964年)にも入っていたはずだ。
それからもちろん、ブロッサム・ディアリーの once upon a summer time(verve 1958年) だ。
どれも、しっとりとした可憐な雰囲気がよく出ていて、いい出来だと思う。


ここで、ルグラン自身がピアノを弾くインスト盤をいくつか紹介したい。
Michel Legrand/At Shelly's Manne-Hole(verve) シェリーズ・マン・ホール1968年シェリーズ・マンホールでのライブ録音。

Dscn1725 このレコードは、ルグランのピアノ、レイ・ブラウンのベース、シェリーマンのドラムスというトリオでライブでのピアノトリオが楽しめるのだが・・・実は、ルグランのピアノはあまり印象に残らない(笑)
ルグランのピアノ・・・もちろん充分に巧い。巧いのだが、速いパッセージをわりとパラパラと弾くだけで、ぐぐ~っと突き詰めていくようなsomething に欠けているように思う。「軽い」と言ってもいいかもしれない。でもしかし、僕はこのレコードを好きなのである。
というのは、このレコードではなんといってもレイ・ブラウンが素晴らしいからなのである。レイ・ブラウンの演奏はいつでも凄いと思うが、このレコードでは、特に録音が素晴らしいのだ!engineerは Wally Heiderなる人である。
私見だが、このWally氏・・・ベース録音の名手に違いない。おそらくかなりのオンマイク・セッティングだろうが、弦を引っ張る・弾く時のタッチ感と、響いた後の音色の拡がり~このバランスが実に巧い具合なので、豊かな鳴りでありながらべーシストのタッチ感もよく出ている・・・そんな印象のベース音である。
verveの録音ディレクターは、一般には Val Valentine の場合が多いが ライブ録音では別の人が担当することあるようだ。そういえば「西海岸のライブ録音」で、僕が素晴らしいと思ったレコードをもう1枚、知っている。
Cal Tjader の Saturday Night/Sunday Night At The Blackhawk(verve)というレコードである。
このレコードにも、やはりベースが凄い音で入っている。べーシストは、Freddy Schreiberという他では聞いたことがない名だが、プレイ自体も巧いし、とにかくそのぶっといベース音に痺れたレコードである。
そしてこのAt The Blackhawk のengineerが、これまたWally Heiderとクレジットされているのだ! これは、もう偶然ではないだろう。ベース録音の名手(と、勝手に決め付けた:笑)であるこのWally氏の録音レコード・・・他にもご存知の方、ぜひ教えて下さい。
さて、演奏の方~B面1曲目の my funny valentine に僕はぶっ飛んだ。
ルグランのピアノとスキャットが中央やや左、そしてレイ・ブラウンの・・・本当に芯のある太っとい(ここは「ブットイ」と読んでください:笑)ベース音が、中央やや右寄りから弾き飛んでくる!
この有名な曲・・・ルグランはテーマから全てスキャットである。ルグランのスキャットは・・・う~ん・・・あまり聴かないようにしながら(笑) 右側のレイ・ブラウンのベースに集中する・・・凄い音圧である。一音一音を強くきっちりと弾き込みながら、なおかつルグラウンの繰り出すバロック風アドリブ・スキャットに、余裕の唄いっぷりで対抗してくる。この晩のブラウンはノリノリだったようで、どの曲でも安定感と適度なワイルドさを兼ね備えたバッキングとソロの連発で、どうにも素晴らしいウッドベースを聴かせてくれる。この写真でお判りのように、この「シェリーズマンホール」はバリバリの国内盤である。国内盤で、この音なら、オリジナルならさぞや・・・と想像せざるを得ない僕である(笑)
1968年盤ならラベルはMGM-Verveだろうし、それほどの貴重盤とは思えないのだが、なぜかあまり見かけないような気がする。
ああ・・・ルグランの曲について書いているうちに、レイ・ブラウンの話しになってしまった(笑)

ミシェル・ルグランは、やはりジャズ好きなのだろう。前述の「meets Miles Davis」だけでなく、その後にも、自分の曲をアレンジしてジャズの名手に吹かせたジャズのレコードがいくつかある。

Dscn1721 Bud Shank/Windmills Of Your Mind(world pacific ST20157) arranged by Michel Legrand

録音は・・・ジャケットにスティーブ・マックイーンの顔が入っていることから、たぶん1968~1969年くらいだと思う。ちなみにこのレコードのタイトル:Windmillos Of~は、邦題「風のささやき」で、映画「華麗なる賭け」に使われた曲だったはずだ。

さて・・・このレコードは好きな1枚なのだ。Dscn1722
バド・シャンクの艶やかなアルトの音色が、実にいい録音で入っている。曲によって入るストリングスには少々シラけるが、ブラス陣にもアーニー・ワッツやコンテ・カンドリなど名手を揃えており、そしてベースがレイ・ブラウン、ドラムスはシェリー・マンだ。アレンジは全てルグランだが、どの曲でもブラス群はわりと控えめに鳴っており、それを背景にしたシャンクのアルトにスポットが当たるので、気持ちのいいアルトの音色を堪能できる。 Dscn1723
<The Windmills Of Your Mind>や<Watch What Happens>
<I'll Wait For You>(シェルブールの雨傘)
それから・・・さきほどインスト・ヴァージョンが少ないと言ったばかりだが
<Once Upon A Summrtime>を、この盤でも演っていた。さすがに作曲者自身のアレンジはいい感じだ。バックの音を控えめにして、この曲のチャーミングなメロディを美しく映えるように工夫している。
それにしてもバド・シャンクは・・・音は豊かで太いしピッチも正確だし・・・何を吹いても、むちゃくちゃ巧いぞ。

もう1枚、アルトの名手~フィル・ウッズをフューチャーしたレコードがある。
ルグランはアルトが好きなのかな。Dscn1724
Michel Legrand/Live At Jimmy's(RCAビクター) 1973年録音~
このアルバムもやはりライブ録音である。ベースはロン・カーター、ギターにジョージ・デイヴィス、ドラムスはグラディ・テイト。サックスなしのカルテットでbrian's songやI'll wait for youを演っているが、やはりウッズの入った watch what happens や you must believe in spring の方が楽しめるようだ。you must~でルグランがエレピを弾いているのがちょっと残念だ。

もう1枚、CDを紹介しよう。Dscn1726こちらはだいぶ新しい1993年録音のCDである。
バド・シャンク、バディ・コレット、ビル・ワトラスらをフューチャーした中編成コンボで、ベースはブライアン・ブロンバーグ、ドラムスはピーター・アースキン。自作曲ばかりをコンパクトにアレンジしたすっきりした演奏ばかりで、しかしどの曲もメロディがいいので、楽しめる1枚だと思う。僕はCDを全編通して聴くことはめったにないのだが、このCDはたまにかけると・・・たいてい1枚通して聴いてしまう。

さて、ここでもう一度、ビル・エヴァンスを登場させないわけにはいかない。
思うに・・・エヴァンスは、ルグランの曲を相当に好きだったようだ。モニカ盤でも once upon a summer time をしっとりと実にいい感じで伴奏していたし、自分のリーダーアルバム~Montrex Ⅲ(fantasy 1975年)でも前述の<The Summer Knows>をベースのエディ・ゴメスとのデュオで演奏している。
この<The Summer Knows>は「おもいでの夏」という邦訳にもなっている。
この曲は・・・本当にルグランの傑作だ!
囁くように始まるメロディ・・・どことなく寂しいような雰囲気が漂う。海辺の空が暗い雲で覆われているような感じだ。そしてその同じメロディがしばし続くと・・・空気感が微妙に変化する。曇り空の切れ目から光りが差してきたような・・・まさにそんな感じなのだ。(実はこの時、全く巧妙にハーモニーが「短調から長調」へと、すり変わっているのだが、ルグランの凄いところは、そういう手法が技巧だけに終わっていないことだと思う)
そしてメロディは徐々に盛り上がる・・・とはいっても大げさに盛り上がるわけでもなく、抑制感をもって徐々に高まってくる・・・しかしその静けさの内側には、溢れんばかりの情熱が感じられる・・・そんな気配を感じる素晴らしいメロディの展開なのだ! 

そんなエヴァンスが、大好きだったであろうルグラン曲がある。
<You Must Believe In Spring>である。
これも寂しげな気配の曲で、なにか人生の黄昏(たそがれ)みたいな・・・しかしそこにはしみじみとした情感が溢れている・・・そんな雰囲気を感じてしまうのは僕だけだろうか。
エヴァンスは、リーダーアルバム~You Must Believe In Spring(warner 1977年)を残しているが、実はこの曲・・・1年ほど前にトニー・ベネットとの共演で吹き込んでいるのだ。たぶん・・・エヴァンスはこのルグラン曲を、ベネットとの吹き込みで、気に入ったのだろう。
Dscn1720

Tony Bennette & Bill Evans/Together Again(improv)1976年録音


このTogether Again・・・どの曲も素晴らしいが、特にこのYou Must Believe Springは絶品だと思う。このデュオは・・・心に沁みる。どちらかというと声を張り上げ歌いこむ・・・というイメージのベネットだが、このルグランの名曲では、意外なほど声量を抑えている。ぐぐ~っと力を込めて声を抑え込んだような~ただ力を抜くのではなく、全身全霊を持って声量をコントロールしているようなピアニシモ~そんな囁(ささや)くような歌い方で、この曲の繊細なメロディを浮き彫りにしている。そのベネットの気迫に、エヴァンスも一歩も引かない。短いがこれまた気迫のこもったソロでベネットに応える。だいぶ前の<夢レコ>にもチラッと書いたが、このエヴァンスとベネットのデュオは、本当に素晴らしい。一流の腕を持った2人の武士が、間合いを計りながら静かに対峙しているような・・・そんな風情を感じさせる格調の高いヴォーカル盤である。僕はこのレコードで「ヴォーカル」というものに開眼したとも言える。そのくらい「唄心」というものを感じるレコードだ。

ルグランのメロディには、いつもちょっと寂しげな感じと、しかしそこはかとなく流れる温かみ・・・そんな感じがあり、どの曲も情感に溢れている。ヨーロッパの香りというか・・・クラシック的ロマンティシズムというか・・・とにかく、メロディがキレイなのである。そしてそのメロディを支えるハーモニー(和音)の進行が、これまた見事なのである。
他にもルグラン曲にはいいものがあるので、以下に記事中の曲も含めて、曲名だけ挙げておく。
<what are you doing the rest of your life?>
<how do you keep the music playing?>
<Brian's song>
<once upon a summer time>
<the windmilles of your mind>(風のささやき)
<the summer knows>(おもいでの夏)
<you must believe in spring>
<I'll wait for you>(シェルブールの雨傘)

・・・今回、僕はたまたまミシェル・ルグランを挙げたが、「好きだ」と感じるメロディやハーモニーは、もちろん人それぞれだろうし、全くそれでいいのだと思う。
だから・・・世評だけに囚(とら)われるのではなく、自分自身が聴いてみて「好きだな」と感じとることのできた作曲家やミュージシャンが少しづつ増えていくこと・・・それは、音楽を聴いていく上でとても大きな楽しみなのだと、強く思うのだ。
そういえば・・・「シェリーズ・マンホール」で触れた、Wally Heiderという 録音engineer氏のことも、僕なりの「新発見」かもしれない。だから・・・ちょっとうれしい(笑)

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2006年6月15日 (木)

<ジャズ回想 第5回> オフ会はいつも雨降り。

「ミニ杜の会 in 浜松&豊橋」持ち寄りレコード備忘録~

朝から雨降りの日曜日(6月11日)・・・ニーノニーノさんの「こだわりの杜」(BBS)でのお仲間である、マントさん宅と拙宅での「ミニ杜の会 in 浜松・豊橋」を敢行した。
そういえば・・・D35さん宅「ミニ杜」の時も、一日中、すごい大雨だったな。(5月7日/D35さん・リキさん・マントさん・bassclef の計4名。この時の様子はミニレポートとして「こだわりの杜」に書き込みをしたので、その一部をこの記事の最後に転載しておきます)

さて今回は、パラゴンさん・Yoさん・D35さん・それに私bassclef が、午前中からマントさん宅に集結した。三島方面から駆けつけたパラゴンさんは、気合も充分で、すでに9時半ころには着いていたそうだ。
全5名が揃い、やあやあとか言いながら・・・11:00頃にスタートした。みんなの持ち寄り盤から、1~2曲づつかけていこう、といういつもの作戦だ。以下、みなさんのセレクトを覚えている限り、まとめて紹介しようと思う。
僕の興味電波は、常にオーディオよりもレコードの方に向いているので、いつものごとく、どなたがどんな盤からどの曲を選んだのか・・・というレコード備忘録的な内容になってます。白馬の時もそうだったが・・・とにかく、凄い盤が続々と出てくるので、どの盤を見ても「欲しい・・・」という煩悩ばかりが渦巻いてしまって(笑)・・・とても精神の平静を保っていられなかったようです。そんな訳で、かけた曲目とその順番もはっきりとは覚えてません。曲目など訂正・補足などあれば、コメントなどでお知らせ下さい。なおデジカメも持っていかなかったので、皆さんの貴重盤は写真は撮れませんでした。この記事の写真は、bassclefの手持ち盤のみです。

まずは・・・<マントさん>のセレクトから~
*以下の「シェリーマンの一撃」の記事~その後、refugeeさんからのコメント欄にもあるように、MP3音源2種を入念にチェックしました。自分のレコード2種も先入観を捨てて再聴したところ・・・「歪み」という表現に自信がなくなりました(笑)要は「歪み」と「自分にとってのやかましさ」を混同していたのかもしれない・・・それなのに「断定的表現」は良くないなあ・・・と反省いたしましたので、一部を訂正・補筆します。<   >内が補筆分です。なお原文も見えるように訂正しておきます。

Andre Previn から始めることになった。
My Fair Lady(contemporary:モノラル黄色ラベル:大きい文字のジャケ)から get  me to the church on time~
そういえば、このA面1曲目の冒頭すぐの辺りで、いつも気にかかることがあった。プレヴィンのピアノが短くメロディを弾いた後、ドラムのシェリーマンがロールの後、「ガギ~ン!」とシンバルを叩くのだが・・・あの最初の強打音のシンバル音だけが「かなり歪んでいる」のだ。 <が、僕にはかなり「やかましく」聞こえるのだ。歪んる?の一歩手前くらいのうるさいシンバル音に聞こえてしまうのだ。>

<その感じは>これまで聴いた以下のどの盤でも~

King_my_fair_1 国内盤キング(ステレオ2種:薄ペラジャケのキング日本盤/キング1500円盤)。
米オリジナル・モノラル(My Fair Ladyの大きい文字なし)。
米オリジナル・モノラル(大きい文字でMy Fair Lady:今回の盤)。
~同じ箇所で同じように歪んで聞こえた。<僕には「やかましく」聞こえた。>(残念ながら「ステレオ・レーベル」は未聴)

《写真の上:「My Fair Ladyの大きい文字なし盤」。下:「薄ペラジャケのキング日本盤・1969年》

オーディオではなく、録音段階の問題だとは思うけど・・・と、その「歪み」<録音レベル過剰>のことを話すと・・・マントさんもやっぱり「やっぱり歪んでる?」と反応してきた。いずれにしても、このシンバル音を聞いて「あれ?」という感じを持っていた方は、案外いらっしゃるのではないだろうか。
まさかシェリーマンが叩いたシンバル自体が、あんな風に歪んでしまう<やかましい>ことはないだろう。あとの方ではそんな場面もなかったし、その歪みも<やかましさ>は、やはり録音時に入力オーバーした<のレベルが高すぎた>ような感じに聞こえる。プレヴィンがルヴァート気味に静かに弾くピアノの後・・・突如現れるあの1打目のシンバル強打・・・その入力過多に録音機械が耐えられなかったのかもしれない。<音楽の「静」から「動」へという場面にしても、あのシンバル音は、やや大きすぎるように聞こえてならない。>
パラゴンさんは「そういうことって、けっこうあるよ」~だからそう気にしないよ~という余裕の反応だったのだが、僕などまだまだ未熟者なので・・・あの名手シェリー・マンがそんなに「強く叩きすぎるはずはない」との思いもあり、その「録音レベル設定の失敗」を50年も経ってしまった今、「名手、ロイ・デュナンともあろう人が・・・」と、悔やんだりしているのだ(笑) 

GiGi から aunt alicia's march (だったかな?)のステレオレーベル盤(黒ラベル) 僕の持ってるGigiは普通の米contemporary盤(OJCより前に出てたやつ)なのだが、マントさん所有のこの盤には、「STEREO白抜き楕円」が誇らしげに輝いている。う~ん・・・ちょっとうらやましい。
こちらの盤は、録音が本当に素晴らしい。プレヴィンのピアノが左側、レッド・ミッチェルのベースの大きな鳴りが、中央やや右側の少し後ろの方から聞こえてくる。それからドラムの気配が生々しい。スネアを「コン!」と打ったような音などの響きの余韻がキレイに中空に残るような感じの音だ。
それから・・・2枚の 垂涎的10インチ盤。
Lester Young と Johnny Hodges の Collates(mercury) だ。この2枚は、以前(5月7日)にD35さん宅での「ミニ杜」の時に、見せていただいた。ジャケットはもちろんストーン・マーチンで、10インチの白地に「薄めの青っぽい色」を効かせた見事な出来映えのイラストだ。
まずは、レスターヤングから(Tenderly だったか?)
これはベースもサックスもしっかりと大きく聞こえる。10インチの盤というと、時代そのものが古くて「遠いような録音」という場合が多いが、このmercury 盤は、だいぶ録音がよさそうだ。特にテナーの音はよく響くしっかりとした音で入っているようだ。
ホッジスの10インチからはTenderly・・・これも何度聴いてもやはり・・・素晴らしい。ジャケットの「ウサギ」も本当にチャーミングなのだ。

<パラゴンさん>
Pat Moran/~Trio(audio fedility)から Making Whoopee
美人の女性が~いやあ・・・脚しか写ってないのだが(笑)~赤いヒールをピアノの鍵盤に乗っけているあのジャケット・・・これが見事なコーティング仕様で、しかもgatefoldジャケなのだ! センターラベルは銀色だった。AF(Audio Fedility)は、音がいいことを売りものにしていたレーベルなので、見開きジャケの内側には、何やらレコード溝やら周波数特性のような図が満Mant_2載されていた。こんなメカ的な図説よりも、ラファロの写真でも載せてくれよ!と言いたくなる(笑)
スコット・ラファロのベースはいつ何を聴いても・・・やはり凄い。ラファロの鋭いタッチ~弦に指を引っかけてから、その弦を引っ張る時のスピードの速さ~みたいなものが、充分に感じとれる音だった。それにしても・・・いいジャケットだ(笑)
《写真は、bassclef手持ちのCDです。プラスティック・ケースが哀しい》

Rita Rice のJazz Pictures(オランダ・フィリップス盤)から cherokee~
何、かけよう?パラゴンさんが「チェロキーを」。・・・するとすかさず「チェロキー?唄うの?」と、Yoさんが尋ねる。僕は一瞬、何のことやらわからず。チェロキーはチェロキーである・・・と思ったのだが、そういえば、ヴォーカルヴァージョンでの「チェロキー」は聴いた記憶があまりない・・・いやほとんどないぞ、そういえば。だから・・・ヴォーカルものもたくさん聴いているYoさんにしてみれば、あの曲に歌詞なんてあったのか? という疑問をすかさず持ったわけだ。どんな歌詞だろうね?と皆で言ってる内に・・・一箇所だけだが「チェロ~キ~!」という場面があった(笑)

<D35さん>
Ann Richards/Many Moods of Ann Richards(capitol)から by myself
このCapitolのステレオ盤(虹ラベル)は、キラキラするようなステレオ録音だ。D35さんの「ゴージャスという感じの音だね」という
表現に激しく同意した。ゴージャスといっても、派手でドンシャリするような録音じゃあない。各ブラスや管の楽器がよく分離して
端正にきれいに鳴ってくる、そうしてアン・リチャーズの、正統的な唄いっぷりにピタリと合う・・・そんな感じのいい録音なのだ。
僕はcapitolの音が嫌いじゃないなあ・・・といつもそう思う。なんというか音に「余裕がある」のだ。3000ccのクルマですかね。

Henry Mancini/Pink Panther(RCA Victor)~このVictorのDynagroove盤は、本当にいい音だ。
60年代中期の「アメリカ的代ステレオ録音の見本」という感じかもしれない。ビッグバンドがきれいに左右に広がる。
そして・・・あの「テナー」があの「テーマ」を吹く。このテナー奏者は・・・プラス・ジョンソンである。
あのちょっと「笑いを抑えたような風情」は、プラス・ジョンソンにしか出せない。以前、何かのコメントでも書いたが、
<もし、このピンクパンサーのテーマがコルトレーンだったら>どうです?あの生真面目なトーンでこのユーモラスなテーマを吹かれたら・・・
すごい違和感があるでしょう(笑) でも・・・そんなサウンドもちょっと聴いてみたい(笑) 
僕はマンシーニが大好きなので、RCA Victor盤はけっこう持っているのだが・・・このPink Panther はまだ未入手の垂涎盤だ。ジャケットの豹のイラストもとてもかわいい。

<Yoさん>
Nogranの The TENOR(オムニバス)から
Ben Webster のTenderly
Flip Phillipsの I didn't know what  time it was
このNorgran盤は、テナー奏者の音源を集めたオムニバスのはず・・・しかし、やけに音がいい。テナーだけでなく他の楽器も全てクリアで粒立ちのいい音色なのだ。その辺はマニアの方はよくご存知のようで、普通は比較的割安なオムニバスものだが、この「TENOR」は、音も価格も別格だそうである。ジャケットは、もちろんストーン・マーチンである。素晴らしい!
それから・・・出ました!Benny Green の bluenote 1599。
あの青い笑顔のSoul Stirin'だ。これは僕も大好きな盤なのだ。
テナーにジーン・アモンズも参加、ピアノのソニークラークも端正なタッチを聞かせてくれる誠にソウルフルな傑作である。
かけた曲は・・・That's All ~思い切ったスロウテンポのバラードだ。

<bassclef>~EP盤(clef)から2曲ほどかけてもらった。Dscn1336
Flip Phillips  but beatiful ~このところ、この人のテナーにまいっている。レスターヤングよりもう少し新らしめの感覚のフレーズで、特にバラードをゆったりと吹き進めるフィリプスには独自の美学を感じてしまう。ゆったりとそよ風にたなびくかのような優しい音色・・・。好きなテナーだ。
EP盤からもう1曲は~Stan Getz   time on my hands~真の名演である。
あと1枚は、ホッジスの10インチ盤に続けてかけてもらったのだが、
Johnny Hodges/plays the prettiest Gershwin(verve:stereophonicラベル) から someone to watch over me~たぶんmercuryの録音からは10年ほど後の録音のはず。ホッジスもだいぶアッサリ加減になっているようで、ストリングスをバックに軽く吹いているようで、これはこれで聴きやすい。

ここでちょっとこんなのを・・・ということで、パラゴンさんの手持ちから~弘田三枝子の 78cm45回転のオーディオマニア向け盤、タイトル失念(笑)オビには「マニアを追い越せ・・・78/45の音!」とかなんとかのコピー。演奏曲目は、ポピュラーチューンとジャズっぽい曲ばかりで、ちゃんとしたジャズオーケストラのちゃんとしたアレンジだ。一流スタジオミュージシャンがきっちりと決められた音」を弾いたような演奏にのって、しかし弘田三枝子も職人的巧さで唄っていた。かけた曲は・・・失念(笑)何か有名なポピュラー曲だったような・・・。「You're the sunshine of my life」だったかな?

マントさん:「お昼の前に、これじゃあ・・・(笑)」(弘田三枝子の唄はさすがに巧かったのですが、あまりに「狙った」内容の盤だったので)ということで
「重いジャズ」をいきましょう・・・と、私:bassclef 手持ちのCD(残念!)からFreddie Redd の Shades of Redd(bluenote)~米キャピトルが出したbluenote connoisseur sereisというボーナストラックが付いていたシリーズ)
この盤・・・少し前に refugeeさんのブログで、フレディ・レッド(p)の記事が出て(jazzカテゴリーの5月16日付)そのコメントでのshaolinさんのお勧め曲がこの1曲目~Thespian だったのだ。僕は、Time to Smile (the connectionのB面1曲目)という曲を挙げたのだが、このShades of ~もCDで持ってはいた。Dscn1338
そして、この曲:Thespianを何度か聴いてみて・・・改めてこの曲の魅力にはまってしまったのだ。
スロウなテンポでバラード風のテーマなのだが、ちょっと変わった曲なのだ。とにかく・・・8分音符が何小節も連続して続く。しかもその8分音符一個一個をたっぷりとテヌートを効かせて吹いているので・・・なかなか「途切れる」箇所がないのだ。・・・つまり息をするところがない(笑)
だから4小節ほど吹いたところで、2人の管奏者~マクリーンとティナ・ブルックス~が、ここぞ、とばかりに「っすはあ~っ!」という息継ぎをするのだ。
まるで水泳選手が水から浮き上がって慌てて息を吸うような感じで・・・。その「っすはあ~っ!」という音が、微笑ましくもあり気高くもある(笑) 
そんな思索的・哲学的・宗教的ですらあるこのバラードは、その恐怖的8分音符連続テーマが終わると、同じテーマのまま倍の速いテンポ~
いわゆるハードバップっぽいノリになる~そうして、今度はマクリーンも。ようやく何かから開放されたかのようにのびのびと、うれしそうにアルトを吹き始めるのだ。それにしても、こんな凄い曲~管奏者にとってはまさしく死に物狂いにさせられる曲だろう~を思いつくフレディ・レッドという人とは・・・。
ところでこのThespianという曲~テナーとアルトで奏でる重くて陰鬱な空気、それから途中で倍テンになったりする~そんな構成自体や全体に流れる雰囲気が、モンクの「ブリリアント・コーナーズ」にちょっと似ているようにも思う。ひょっとしたら・・・レッドはモンクのあの曲から、ヒントを得たのかもしれない。Shades of Redd・・・ぜひ聴いてみてほしいアルバムではある。

お昼の後は、クラシック本線のマントさんのリクエストもあり、まずクラシックから。

<Yoさん>
ジャクリーヌ・デュ・プリ(アルバム名失念)(EMI赤ラベル)Elgarの曲~
これは・・・鮮烈なチェロ!鮮烈な音楽!という感じだ。鋭い感性の人間の途方もなく一途な感じが・・・音の合間に漂う。後半の方で、デュプリが倍テン(いや、ジャズじゃないぞ:笑~3連だか16分音符の連続)で弾くような場面あたりから、音楽は異常に盛り上がってくる・・・。
グレン・グールド(columbia:マスター・ワークス)~録音はいい。digitally recordedと書いてあったので、比較的新しい録音だろう。クラシックはほとんど聴いてないのだが、この曲(曲名失念)でのルバート的な長い導入部を聴いていて・・・この人の何かこう・・・自分の内部に入っていくような思いつめたような感じのピアノには・・・「孤独」みたいなものを感じた。そしてそういう内省的なピアノには、すごく惹かれるものがあった。ちなみにグールドもよく唸るそうだ。モンク、パウエル・・・自己い内向していくピアノ弾きは・・・どうしても唸ってしまうのだろうか。そういえばビル・エヴァンスのレコードでも
よく聞くと・・・曲にあわせて「ム~・ウ~」と小さくハミングしてるような声が聞こえる演奏がいくつかあったように思う。(consecrationsで顕著)

<パラゴンさん>
Abbey Lincoln/That's Him (riverside ステレオ黒ラベル)からstrong man~
イントロからロリンズの個性的なトーンが・・・。ロリンズ好きな僕などは、あのロリンズの音色とフレーズ~唄伴であってもほとんど関係なくロリンズ節なのである~が出てきただけで、もうすぐに嬉しくなってしまう。
Peggy Lee/black coffee (10インチ盤:英Brunswick)
これがまた異様に生々しいペギーリーの声。やけにマイクに近く唄ったのか、まったく
すぐそこで唄っているような感じなのだ。これは凄い。ペギーリーを特に好んではいないが・・・
ペギー信者がこの「声」を聴いたら・・・この英10インチ盤を強奪したくなるかもしれない(笑)
このあまりに有名なBlack Coffee・・・ハズカシナガラ、僕は持っていないのでちゃんと聴いたことがなかった。
ピアノがJimmy Rowlesだと、本日初めて知った次第です(笑) 

Dscn1334そうしてそのJimmy Rowles・・・たまたま、彼のリーダーアルバムを持ってきていたのだ。bassclef手持ちから~
Jimmy Rowles/Weather In A Jazz Vane(andex/VSOP復刻)から some other time

andexのオリジナル盤など持っているはずもなく(笑) これはvsop復刻盤なのだが、けっこう音がいいのだ。ビル・ホルマンや、ハーブ・ゲラーらがリラックスした雰囲気のロウルズ色を演出している。地味だがとてもいい内容の盤だと思う。復刻盤でこれくらいなら、いい盤質のオリジナルで聴いたら音の方もさぞや・・・と思える1枚である。Burtoncoming

Gary Burton /something coming (RCA) からon green dolphin street
これはVictorのきれいなステレオ録音で、チャック・イスラエルのベースが鮮烈に入っている。ちょっとおとなしめのベーシストのはずだが、
かなり強めの音に聞こえて迫力があるのだ。ギターのジム・ホールも「柔らくも芯のある」あの独特なトーンで迫ってくる。このVictor盤の音質は・・・マントさんのシステムの、どちらかといえば細身で硬質な音に、とても合って いたように思う。

第1部(マントさん宅)では、14:45をタイムリミットと決めていた。もうそろそろ時間切れである。ここでパラゴンさんは、また一人、三島方面へ帰っていく・・・。お疲れさまでした。Yoさん・D35さん、bassclefの3人は、豊橋の拙宅まで向かう。


第2部(bassclef宅)~pm4~pm5:30
ここではだいたい以下のような曲をかけた。

<Yoさん>
ernie henry/presenting(riverside)  から  gone with the wind
sonny rollins/way out west”in STEREO" から  solitude
Johnny griffin/way out(riverside)  から cherokee
bill evans/I will say goodbye(warner) から the peacocks
(続けてbassclef手持ちのCDから)
Jimmy Rowles/the peacocks(columbia)  から the peacocks~これはスタン・ゲッツとのデュオ演奏だ。心に染み入ってくる素晴らしい演奏だ。

<D35さん>同じ曲で比べてみたい、とのことで~
henry mancini  pink panther 
Ann Richards  by myself

<bassclef>
Henry Mancini/Hatari! (RCA Victor) から the sounds of Hatari ~
打楽器とブラスの織りなすサウンド・スペクタクルだあ!(月並みな表現で
すが:笑) 僕の機械では、この録音に入っている「本当のダイナミズム」みたいなものは、おそらく出てないだろうなあ・・・と思わせられる凄い録音(だと思う) 
Mancini '67 からsatin doll
~エンディング部分で、明らかにレイ・ブラウンだ!と判るフレーズが飛び出てくる。というのは・・・以前、<夢レコ>に載せたビクター国内盤には、ミュージシャンのクレジットがなかったのだ。だから、聴くたびに、これはレイ・ブラウンだろうなあ・・・と思っていたのだ。ちょうど遊びにきていたkonkenさんも「ああ・・・レイ・ブラウンだねえ」とニンマリ。
Bill Perkins/Quietly There (abc Riverside)から Quitetly There ~3月の<夢レコ>にて紹介した盤です。

Anita O'day  Don’t Be That Way ~あまりヴォーカルを聴かない・・・はずだった僕もこの頃はなぜかヴォーカルも聴くようになった。なかでもアニタ・オディのこの盤はけっこう気に入っており、聴く度にアニタの鮮やかな唄い口にノックアウトされてしまうのだ(笑) センターラベルは、T字のVERVE INC.でモノラルのしっとりと分厚い音が悪くない。 自分の予感としては・・・この先、徐々に、徐々に、ヴォーカルの方へも踏み込んでいきそうではある。Dscn1339_1 いやあ・・・困ったものだなあ・・・(笑)

《5月7日のD35さん宅でのミニ杜の様子:bassclefのコメントから》

みなさんのかけた盤・・・D35さんの分が、さきほどのレポートでは断片的になってましたので、まとめて紹介しますね。

エラ/like someone in love(verve) ~エラのバラード集とも言える。よくやるスキャットなど全くなく、しっとりとしたいい曲ばかりのレコードだ。
途中、いいサックスだなああ・・・と思うと、スタン・ゲッツかあ!という仕掛けなのです(笑)
裏ジャケットをよく見たら、テナー(のソロ)はゲッツ、アルトのソロはテッド・ナッシュということを新発見した。

アン・リチャーズ/the many moods of Ann Richards(capitol) 1960
~ステレオ/モノラル盤から by myself~キャピトルの場合・・・僕は、ステレオ盤の方が好みだった。キャピトルの録音は、落ち着いて地力のある録音という感じがする。それでいて、細かい打楽器系やトライアングルみたいなかわいい音もキレイに聞こえるような気がする。

ポリー・バーゲン(columbia)~columbiaのキレイなステレオ録音をバックにポリーの外見に似合わない意外にも太い声(というか濃い響き)が、豊かに鳴ってました。
D35さん・・・ドラマティクに唄うポリーバーゲンを本当に好きなんですね。

リー・ワイリー/west of the moon (RCA Victor) 1956 から east of the sun(だったかなあ?
D35さん、違ってたらすみませんです:笑)
~その前にかけた10インチ night in Manhattan(1951)でのワイリーの歌声に比べると・・・やはり声が「年食ったなあ・・・」とリキさん。リー・ワイリーは、バーバラ・リーにも似ているねえ、という
話しも出たりした。ほとんど声を張り上げない、古きよき時代のノスタルジックな唄い方なのかもしれない。

ジェイムス・テイラー/mad slide slim(warner) ~テイラーの声だけでなく、アコースティックギターの優しい響きもよかったです・・・。

ヘンリー・マンシーニ/ピンクパンサー(RCA Victor)dynagroove
~これ、いい音でしたね。どの楽器もクリアに軽快に聞こえてくる、思わず楽しくなってしまう・・・ステレオ的ミュージックというか・・・そんな感じだった。マンシーニ、やっぱりいいですね(笑)みなさんの持ち寄り盤だけ少々・・・。
リキさん~エラのcrap hands:3種<Verve Stereophonicラベルの2種(ラベルの違いはちょっと説明しづらいです:笑)とクラシック復刻盤。音の傾向は、3種で見事に違いましたね。2番目にかけたstereophonicラベル盤が、1番目より、もうちょっとベースやドラムが前に出てきて、好みではありました。
>リキさん、2番目は、どちらのsterephonicでしたかね?(笑)
ジュリーロンドンのliberty盤:12インチ(ターコイズラベルの1st)と同じジャケの7インチ
クリス・コナーの12インチと7インチ。
同じジャケットが大・小で並ぶと・・・チャーミングなものですね(笑)揃えたくなる気持ちは充分に判ります(笑)
リー・ワイリーの10インチ盤(columbia)これに
有名なnight in Manhattanが入ってました。
クラシックの方でGAMBAという人の指揮/ロンドンsymphony?の英デッカ盤。この盤・・・もうやたらとダイナミックレンジが凄い録音で、フォルティシモでオーケストラが鳴る場面では~日曜日の昼間でも心配するくらいの~それは凄いヴォリュームが出ました。あの小~大の音量差というのは、なかなかジャズにはないかもしれない。

マントさん~見せていただきましたっ!10インチ盤2枚・・・あれはもう・・・正しく芸術品ですね。
デヴィッド・ストーン・マーチンのジャケット見てるだけで・・・幸せでした(笑)
ジョニーホッジスの collates#2 と
レスターヤングの collates#2
共にmercuryの10インチ~しかもジャケットもいわゆるミント(と呼べるだろう)ジャケットのイラストの青い色が・・・ちょっと淡い色調で、品があってキレイでした・・・(ため息)
クラシックでは、白馬で登場の「すごい録音盤」のカラス。エラートの仏10インチ盤~フォーレの曲:ピアノと男性バリトン? これも録音がナチュラルできれい。もう1枚のクラシックは・・・独グラモフォンの・・・?(>マントさん、すみません・・・つづりとか出てきません(笑)よろしくどうぞ)

bassclef~D35さんのヴォーカル、トラッドフォーク路線の好みから、合いそうかなあ・・・と思って持っていったのは・・・
バカラック(A&M)のmake it easy...とreaching out。RCA Victor盤のデスモンド/マリガン。
アニタオディのAnita(Verve)、あとジャケットがキレイなFunny Face(Verve:青ラベル)~ジャケットがオードリーの目・鼻・口だけのアップのやつ。唄は・・・かわいく唄ってました。リキさんは・・・オードリーも案外嫌いじゃないみたいでした(笑)
ペッパーは、僕が個人的にもリキさんに聴いてほしかった・・・最晩年のgoing home(galaxy)~ピアノのジョージ・ケイブルスとのデュオでペッパーがクラリネットを、独特の押さえたような音圧で吹く~ごく個人的にはこの曲(82年録音)でのピアノの音は・・・
凄く良かった!録音の新らしめのものが装置にあったのか・・・この直前に前述のクラシック大音量が鳴った後で、スピーカーがこなれてきた?ためなのか、とにかく、このケイブルスのピアノ、ペッパーのクラリネットの、淡々とした中にも温かさが感じられるいい音でした(盤は普通の国内盤だったのですが)
1957年ペッパーの「モダン・アート」(東芝盤LNJ)からbewitchedも聴いてもらいました。

装置のことは~38cmの同軸(アルティック)と300Bの真空管2本、マッキンのプリとのこと(すみません。マランツの#7復刻でした)~置いといても、D35さんが、日頃からとにかく「ヴォーカル」を気持ちのいいナチュラルな音で聴きたい、と言われているその通りに、ヴォーカルは・・・エラ、リー・ワイリー、アニタ・オディ、アン・リチャーズ、それからリンダ・ロンシュタットまで、どれも気持ちよく自然な肌合いの「声」で聴けました。もちろんアリアのカラスや男性バリトン(テノール?)もムリのない余裕のきれいな唄で、クラシック苦手な僕にも、抵抗なく聞こえてきました。
やはり、その人の装置のキャラクターというものは、「その人に合う」ようになっていくものなんでしょうね。前半でかけた、あれ、あの盤・・・。
ジェイムス・テイラーのMad Slide SlimからのYou've Got A Friend...あのテイラーの、頼りなげなような、でもしっかりと温かい唄の声・・・よかったですね。控えめに叩くパーカッションもきれいに鳴ってました。あのテイラーの「優しい雰囲気」は最高に出てましたね!

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2006年5月24日 (水)

<やったあレコ 第5回> オスカー・ピータースンのClef盤『背中』

オスカー・ピータースンの<軽やか8ビート感覚>

Norman Grantz の得意技に、一人の作曲家の曲ばかりで1枚のアルバムを創る Plays ~というシリーズがある。エラには直線が個性的なビュッフェの絵画をジャケットにしたシリーズ、ピータースンにも「印象派風絵画」ジャケの9枚の作曲家シリーズがあった。

リンクしてある67camperさんという方のブログで、この9枚が紹介されている。どのジャケットもキレイなので全部が欲しくなる:笑) この9枚は大体1957年頃の録音で、Verve2000番台シリーズなのだが、9枚とも6000番台のステレオ盤でも出ているらしい。
そして、この「印象派風絵画」シリーズの「元ネタ」みたいなピータースンのレコードがあったのだ。こちらの録音はだいぶ古くて、1951~1952年らしい。ピータースンとレイ・ブラウン、そしてバーニー・ケッセル(あるいはハーブ・エリス)というドラムなしのトリオ編成のようだ。(1957年録音の方は、ドラム入りのピアノトリオ) Clef の600番台がオリジナルだ。それが・・・あのデヴィッド・ストーン・マーチンの「背中シリーズ」だ。どれも同じデザインなのだが「色合い」を変えている。Peterson_on_clef_etc_002_1

この「色合いの違い」がなかなか曲者のようで、どれでもいいのだが1枚入手すると・・・どうしても他のも欲しくなる(笑) それがNorman Grantz の作戦に違いないと判っていても・・・抗(アラガ)えない(笑)
僕は、この「背中」をEP盤で何枚か集めてきた。EP盤は”extended play” の略で、アメリカのEP盤というのは片面6~7分くらいで、たいていは4曲入っている。だから日本でいう「コンパクト盤」的なのだが、アメリカのEP盤は、基本的に45回転なのである。
このピータースンのEP盤「背中」・・・何人かは揃ったのだが、そうこうしているうちにEP盤(7インチ)と同じ図柄でLP盤(12インチ)も出ていたらしい、ということが判ってきた。当然、12インチがオリジナルだろう。それに・・・好きな作曲家の分は、やはり4曲だけでは物足りない。他の曲も聴いてみたい。12インチも欲しいよなあ・・・と、ごくごく自然な流れで12インチも少しづつだが入手した。それがこの3枚だ。 

Peterson_on_clef_etc_001_2    

《 plays Cole Porter/MGC-603(左)~ジャケ左上には”CLEF RECORDS”のシール。これをはがせば・・・たぶんmercuryという文字が現れるだろう(笑)
plays Irving Berlin/MGC-604(右)
plays Harold Arlen/MGC-649(真ん中)~この649番には”Hi-Fi”のロゴがジャケ左上にある。そしてジャケ裏には、"Oscar Peterson plays composers"なるシリーズ9タイトルが曲名入りで載っている。あと6枚もあるのかあ・・・(笑)》 

《追補》この後、refugeeさん、NOTさんのご指摘(コメント欄参照)により、このPeterson plays composersシリーズは、全10タイトルであることが判った。参考までに以下にリストアップしておく。

MGC-603 Oscar Peterson Plays Cole Porter
MGC-604 Oscar Peterson Plays Irving Berlin
MGC-605 Oscar Peterson Plays George Gershwin
MGC-606 Oscar Peterson Plays Duke Ellington
MGC-623 Oscar Peterson Plays Jerome Kern
MGC-624 Oscar Peterson Plays Richard Rodgers
MGC-625 Oscar Peterson Plays Vincent Youmans
MGC-648 Oscar Peterson Plays Harry Warren
MGC-649 Oscar Peterson Plays Harold Arlen
MGC-650 Oscar Peterson Plays Jimmy McHugh


ピータースンの4ビートの「ノリ」は・・・確かに凄い。あれよあれよ、とアイデアに満ちたフレーズが飛び出し、しかもそれが尽きない。そしてたいていは高音部で3連やら16分音符を軽く交えながら、華麗にアドリブを繰り広げていく。こうなれば、もうエンジン全開である。そうして、ピアノという楽器が参ってしまうのではないか、と思うほどそれはもう・・・果てしなくノリ続ける(笑) ただ・・・「ノリ」の質は、やはり・・・やや単調である。
いくら速いフレーズを弾いても、「ノリ方」がややスイング的なのだ。説明しづらいのだが~4ビートは1小節に4つの4分音符で進行していくのだが~その4つの4分音符、全てに「ノってしまう」というか・・・雰囲気で説明すると・・・「ウン・ウン・ウン・ウン」と、4つ全てに均等に体重がかかっている」という感じなのだ。
「ノリ」の話しは・・・難しい。「ノリ」の質というものは・・・もちろんミュージシャンの個性により違ってくるが、やはり演奏スタイル(結果としての)~例えば1930年代と1950年代では、明らかに違うと思う。
「スイング」と「ハードバップ」の違い~楽器編成や取り上げる曲の感じも違うが・・・一番の違いは、実は「ノリの質」かもしれない。
バップやハードバップ(と呼ばれるスタイル)になりつつある頃には、この「ノリ」が「ウー・ウン・ウー・ウン」という風に、1拍目と3拍目を意図的に弱くして、2拍目と4拍目を強調させたのだ。つまりアクセントに「でこぼこ」を付けたのだ。スイングというスタイルにおいては、そういう明確な意識はなかったと思う。
判りやすい例で言うと・・・ドラムスの「バスドラ」、あれを聴けばよく判る。スイング時代までは、1小節を、正に4分音符4回「ドン・ドン・ドン・ドン」とバスドラを鳴らしているのだ。もちろん「ドン」の「ン」を休符にして「ドッ・ドッ・ドッ・ドッ」と鳴らしたり、あるいは「ドッ・(休み)ドっ・(休み)」と1小節に2回鳴らす場合もある。ただしこの2回の場合も・・・やはり、1拍目と3拍目にアクセントを置く場合が多かったはずだ。いずれにしても、スイング時代の「ノリの質」というのは・・・1小節の4分音符4回を「均等に」ノッている、そんな意識だったと思う。
ピータースンの「ノリ」には・・・そんな「ウンウンの感じ」が残っているように思える。もちろん・・・それが悪いというわけじゃあない。スイングのノリは気持ちいいのである。
1947年のライオネル・ハンプトンの「スター・ダスト」~あれだってやはりノリで言えばスイングだろう。だけどとにかくあのアドリブとあのノリは、実際・・・気持ちいいのである。
しかし・・・ピータースンの、そのノリまくる「ノリ」をあまり聴くと・・・やや疲れてくる。ステーキの後は野菜を食べた方が健康にもいい(笑) 

そこで・・・ピータースンの「バラード」なのである。象徴的な意味で「バラード」と書いたが、「ボッサ」あるいは「ラテン」でも一向に構わない。
Clefの古い音源からMPSやパブロなどの新しい録音まで、どのレコードを取っても、たいてい「バラード」や8ビート系「ボッサ風」、あるいは16ビート系(サンバ風)の曲が何曲か入っている。ピータースンはやはり判っているのだ~4ビートばかりでは、聴き手が飽きてしまうということを。

前回の<夢レコ ピータースンとVerveレーベルのこと>で取り上げた「The Trio:Live From Chicago」でも2曲のバラードを演奏している。 
the night we call it a day (マット・デニス作曲です)と 
in the wee small hours of the morning である。
ただでさえ「ノリノリ」になっていたライブでの演奏・・・そんな曲にはさまれて、この2曲が実にいい味わいなのだ。「あれっ?ピータースンってこんな静かにも弾くのか」と。少々驚いたほどだ(僕はピータースン初心者なので、あまり多くのアルバムを聴いてなかった) 
そして、ライブの場でこういうチャーミングなメロディのバラードをあえて演った・・・そのことにピータースンのセンスの良さも見直した。

そういえば・・・wheat land というピータースンの自作曲もあった。この曲、「カナダ組曲」(limelight)が初出自だと思うが、ちょっと後のMPS盤「グレイト・コネクション」でも再演していた。「グレイト・コネクション」は、あまり話題にはならないが、たしかベースのペデルセンが最初に共演した盤だったと思う。こちらの盤に入っている wheat land がなかなかいい。軽いボッサ風の曲だ。ペデルセンが弾くウッドベースのそのたっぷりとした音量に支えられて、ピータースンがソフトなタッチで気持ち良さそうに、シンプルで気持ちのいいメロディを弾く。ラストのテーマで徐々にゆっくりになる辺りもチャーミングだ。

ピータースンは「ラテン風」も嫌いではなかったようだ。さきほど挙げた「背中シリーズ」の Plays Cole Porter ~この3枚の中ではこれが一番好きだ~のような古い録音の盤では、ラテンっぽいノリで何曲か演奏している。以下の曲がそれだ。Peterson_on_clef_etc_003
I've got you under my skin

I love you

so near and yet so far

in the still of the night

night and day

この辺の曲はギターのイントロところから~「ウチャーチャッ・ウチャッ・ウチャッ」という具合に聞こえる~やけに軽やかなのである。
ギターが生み出す「ラテンのノリ」というものには一種独特な「軽やかさ」があって、僕はそれを嫌いではない。このギターはバーニー・ケッセルなのだが、やはり名人芸である。そのスムースな気持ちのいいラテン風のリズムに乗って、ピータースンが、これまた全く力まない軽やかなタッチで、メロディを弾きだす・・・う~ん、気持ちいいっ!

4ビートにおいても、あまり粘らないピータースンの8分音符のノリは、ボサやラテンの8ビート系の曲には、自然と「合う」のかもしれない。
たいていは、「テーマだけラテン風」あるいは「ラテン風と4ビートが交互に出てくる」というパターンなのだが、全体に流れる「軽やかさ」が~ドラムレスというのも、その「軽やかさ」の秘密かもしれない~どうにも気持ちがいいのだ(笑) ピータースンの味わいどころは、「グイグイのノリ」だけではなかったのだ!

作曲家別ということで言えば、このコール・ポーターの曲想にはラテン風味が合う、ということかもしれない。
(2つ上の写真右側の)レモンイエローのジャケットの Irving Berlin 集では・・・あれっ、ラテン風がひとつもないぞ。ほとんどが4ビート、あとはバラードなのだ。その少しのバラード・・・これもなかなかいい味わいだ。

isn't this a lovely day~シンプルに繰り返すだけのようなメロディだけど・・・捨てがたい味がある。終始ソフトなサウンドで4拍づつ刻むケッセルのギターの伴奏が効いている。レイ・ブラウンが時々、得意なカウンター的フレーズを繰り出したりする。
say it isn't so ~これなどは相当に地味な曲だが・・・瑞々しいタッチと芯のある音色で端正にメロディを弾くピータースンは、(僕には)すごく新鮮だ。
how deep is the ocean~こういうマイナーな曲調は・・・ピータースンにはあまり似合わないようだ(笑)「暗いパッション」という雰囲気にはならないのだ。しかし、その「サラッ」とした感じもまたピータースンなのだろう。

Peterson_on_clef_etc_004_1 《plays Cole Porterの裏ジャケット。 アロハシャツを着た若々しいケッセルが写っている。嬉しそうにベースを弾くレイ・ブラウンも若い。ピータースンのネクタイもオシャレだ》

ところで、このclef盤の音質なのだが・・・残念ながら素晴らしいとは言えないのだ。ピアノの音が、高音がややキツメで線が細い(ように聞こえる)
その分、ピータースンのタッチの小気味よさはよく出ているのだが。それより残念なのは、レイ・ブラウンのベースの音である。たぶん、録音のマイクの性能のためだろうと推測するのだが、1952年くらいの録音だと、どうしても「ウッドベースの音」が弱い。弱いというか、遠いというか、はっきりしないというか・・・ウッドべースの「鳴り」や「音圧」が、あまりうまく録られていないことが多いように思う。同じレイ・ブラウンの演奏であっても、後の「ロンドン・ハウス」でのライブ録音のベース音の質感とはだいぶ違うので、せっかくのレイ・ブラウンの「音圧ベース」が、いまひとつ力強く聞こえてこない。まあ・・・こういう古い録音盤を聴くときには・・・そのミュージシャンの「録音のいい盤での音」をイメージしながら、「あんな感じ、あんな音圧でに弾いているんだろうなあ・・・」と想像しながら聴くしかない。
そういう聴き方~「イマジネイション補正聴き」~僕は案外・・・得意なのだ(笑)

それから古い時代のミュージシャンで「録音のいいレコード」がない場合でも、「補正聴き」は必要だと思う。イマジネイションでもって「実際に出ていたであろう楽器の音~鳴り方・響きの具合」を、想像しながら聴くのも楽しいものである。
たとえば、パーカーのライブ音源などの場合~たいてい(マイクの入力レベルの関係で)ドラムはバシャバシャと歪み気味でやかましいし、ベースは逆に遠くのほうで微かにボンボンと鳴ってるだけ~そんな音質もザラである。でも勘違いしてはいけない。その場の演奏においては、ドラマーが叩くドラムのサウンドが「歪んでいた」わけではないのだ!ベーシストも、いい加減な音を出してただ突っ立っていたわけではないのだ!ついでに言えば・・・「シュ~」というレコード盤のノイズも、ライブの場では絶対に存在していなかったのだ!そして、そんな「よくない音」が録音の状態によるものであることを考えに入れてから、じっくりとパーカーのアルトの「響き」を聴けば・・・それが相当に大きな音で鳴っており、豊かにそしてシャープに響いていたであろうことは充分に想像できる。聞こえにくいベースも丹念にそのベースラインを聴いていけば・・・(ボム・ボムという鳴りを感じていけば)カーリー・ラッセルやトミー・ポッターが、きっちりとひとつづつの音を進めているのが判るはずだ。

そういえば・・・むかしジャズ喫茶に通っていた頃~僕はモンクやエヴァンス、ロリンズなど強い個性・自我を主張するタイプに没頭していたので~「ピータースンなんか・・・」という僕に、そのジャズ喫茶のマスターは「ピータースン・・・バラードなんかは案外いいんだよなあ・・・」と独り言のようにつぶやいたものだ・・・。だけどあの頃の僕には、そんなことは全く判らなかった。あれから30年も経って・・・ようやくオスカー・ピータースンを聴き始めている(笑)

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2006年4月 6日 (木)

<ジャズ雑感 第16回> オスカー・ピータースンとVerveレーベルのこと。

僕にとっての少々の不幸、あるいは幸福。

ジャズが好きだ。ジャズのいい演奏が好きだ。だからレコードを聴く。そうして好きな演奏の入ったレコードは何回でも聴くことになる。しかし、そんな風に好きであるがゆえに「気になること」もある。レコードの音質である。好きなレコードはいい音質で(もちろん盤質も含めて)聴きたい。これは・・・特にアナログ盤に踏み込んでジャズを聴いている方には全く共通な気持ちだと思う。_003
                     《オスカー・ピータースンのclef盤。Nostalgic Memories(1951年)         
     とても好きなジャケットだ。見ているだけでちょっと幸せな気分になってくる》

ちょっと前まで・・・・ 「同じレコードを何種類も持つ」なんてことは全くばかげてる・・・と考えていた。~日本盤でも外盤でもいいじゃないか、とにかくその盤の中身を(その演奏)聴こうよ。その方が大事だよ~という気持ちだった。今も根本的には考えは変わってないのであるが・・・このところ、そんな信条とは大いに自己矛盾した行動をとっているようだ(笑)
内容が気に入ったタイトルについては、日本盤だけではあきたらず、そのオリジナル盤(2nd,3rdも含めて)を、隙さえあれば集めようとしているのだ。
「隙」というのは、つまり・・・「お買い得であれば」という意味である(笑) そうして、本当に「オリジナル盤」は、国内盤より「いい音」なのか・・・あるいはそれほどでもないのか・・・そんなことを意識し始めたのである。だから・・・このところ急激にオリジナル盤の数が増えつつある。「いい音質で聴きたい」という気持ちにウソはないのだが、一方では「比較検証自体」に楽しみも覚えている。国内盤とオリジナル盤の音質の違いは、どうやらレーベルによっても相当に違うようなのだ。全てのケースにはもちろんあてはまらないが・・・1965年くらいまでの録音音源の場合は、やはり、その時代のオリジナル盤の方が日本盤より「いい音」の場合が多いようである。
ここでいう「いい音」というのは、楽器の音色や鮮度や空気感みたいな部分に絞っての「いい音」ということだ。古い盤はどうしても盤質が悪いことも多い。(高いものだけ入手していればそうではないだろうけど) サーファスノイズに神経質な方だと、盤質がよくない段階~シャー、チリパチなど~でもうオリジナル盤にはそれほど魅力を感じないだろうとは思う。僕も、もちろんノイズを好きなわけではない。特にダメなのは「連続パチパチ」である(笑) これはscuff あるいはhair lineという表現されていることが多いのだが、要は「スリキズ」のことだろう。そのキズが短くてlight(浅い)なものなら大きなノイズにはならないが、deep(深い)な long scuffだと、もう致命的だ。一定のリズムで連続的に「パチッ!パチッ!」とくる。これはもう・・・拷問に等しい。僕がわりあい許容できるのは「単発のチリパチ」である。これならその一瞬さえガマンすれば、あとは大丈夫だ(笑) ネットのオークションなどでdescription(説明)を読むと、マメな業者だと~盤質VG+(但し B-2に3回ノイズが入る)~などと書いてくれている。その曲が大好きな曲でさえなければ、こういうごく部分的なノイズを、僕はわりとガマンできる(もちろん価格との折り合いをつけて、という意味だが) だからちょっと強がり的に言えば・・・「盤質は悪いが、音自体はいい」という表現も、充分にありうるのだ(笑) なぜガマンできるのか・・・楽器の音色が生々しいからである。管楽器やヴォーカルの音色が(元々の録音のいい悪いが一番重要だが)うんと良く感じられることが多いように思う。それにベースやドラムの鳴りが、よりクリアに聞こえることもあるかもしれない。まあそんな各論より~パッと聞いたときの「全体の鮮度・雰囲気」がより生々しくなったような印象を受ける~ということだと思う。そういう盤に当たった時はやはりうれしい。僕の場合は、かなり適当だが、日本盤の音質~ドラムやベースの具合、全体の楽器のバランスなど~から、元々の録音の良し悪しまで推測する。素性の良さそうな録音だと感じれば、そのオリジナル盤を狙うのだ。

_001さて僕が経験した中で、国内盤とオリジナル盤の音質の違いを最も大きく感じたレーベルは・・・Verveである。
Verveの国内盤は、ここ何十年ほとんど「日本ポリドール」だったはずだ。Verveというと・・・僕はオスカー・ピータースンという人を、ほとんで聴いてこなかった。いや、どちらかというと・・・無視していた(笑) 何枚かの有名盤は聴くには聴いたが、それほど愛着が湧いてこなかった。彼のピアノ・スタイル自体があまり好みでなかったとも言えるが、加えて・・・日本ポリドール盤のピーターソンやエヴァンス・・・何を聴いてもあまりいい音に感じなかった。ピータースンはともかく、大好きなビル・エヴァンスの場合でも、Verveのピアノ音には魅力を感じなかった。音圧が低いというか、線が細いというか、vividでないというか・・・もちろん僕の使っているステレオ装置も悪かったのだろうが、他レーベルで聞かれるピアノ音よりも「良くないなあ・・・」と感じることが、特にポリドールのVerve盤に多かったように思う。
ところが・・・たまたま入手した THE TRIO:Live From Chicago(Verve Stereophonic)を聴いた時、どうにも日本盤と比べると 「鮮度」「その場の生気感」みたいなものの違いに驚いてしまったのだ。さて Live From Chicago を一聴して一番に驚いたのは・・・ピアノよりもベースのレイ・ブラウンの音が、それまで耳にしていた音とは、もう全然違ったことである。ベースの音色が一枚ヴェールを脱いだように生々しく響いたのだ。そしてレイ・ブラウンが意識して弾いていたであろう、一音一音の「音圧」が、よりvividに伝わってきたのだ。同じ日のロンドンハウスでのライブ録音「サムシング・ウオーム」の日本ポリドール盤と比べても明らかに、音場全体の「鮮度」「音圧感」が違う。そんなわけで、このLive From Chicago はすぐに僕の愛聴盤になった。オレがあのピータースンを聴いている!不思議だが本当にしょっちゅう聴くようになったのだ。これには~オリジナル盤自体の凄さを発見したことだけでなく~もうひとつの理由があったのかもしれない。ちょうどその頃、アンプを真空管のものに、そしてスピーカーをちょっといいやつ(共にアメリカの60年代のもの)に換えたのだ。そしたら・・・楽器の音色に、より厚み・深みが出てきたようだし、特にベースの音圧感がよく出るようになったのだ。そのこともあって、だから余計に、レコードに入っている(録音された)楽器の音色の鮮度や厚み、音圧みたいな部分にに拘るようになったのかもしれない。いずれにしても・・・その頃からピータースンをかけることが多くなってきてしまったのだ。ピアノ弾きとしてのスタイル(「精神性の部分」といってもいいかもしれない)が好みでない、という理由で聴くことを拒否していたはずのピータースン。しかしこのLive From Chicagoから飛び出てくる、なんというか・・・ピアノのダイナミズム(すごく小さな音で弾いている部分とグワ~ンと弾きこんでくる部分の落差!それから、レイ・ブラウンのベースの音圧・・・要は「出てくるサウンド自体の快感」みたいなものに、初めて気が付いたのかもしれない。オーディオ好きの方ならそんなことはあたりまえの感覚なのだろう、と推測する僕である。
ただ、正直に言うと・・・このことは僕にはちょっとした不幸の始まりかもしれない。そんないわゆるオーディオ的な部分とは関係なく、ひたすらにジャズを聴いてきたはずの僕が、「サウンドの快感」を知ってしまったのだ!ちょっと大げさだが、そんな気持ちになった。今でも少しそう思っている。不幸というのは自分への皮肉も込めてそう言うのだが、自分の興味を~いわゆるオーディオへ向かわせたくない~という妙に意固地な部分もあるし、何より限られた時間と可処分所得を、ただひたすら「レコード盤」に使いたいのだ(笑) 今のところ、自分としては・・・この真空管アンプと古い米スピーカーに換えたことで「もう充分」という区切りをつけているので(ちょっと無理やりかも:笑))現実に「不幸」になっているわけではないのですが(笑) _002

他にもピータースンの米Verve盤をいくつか持っている。有名なNight Train(1962年) West Side Story (1962年) ~Trio Plays(1964年)
それから We Get Requests(1964年) (共にT字MGMーVerve)などである。 これらを今、聴いてみると・・・もちろん日本盤よりは相当にいいのだろうが、Live From~に比べると、どうしても「鮮度感」「生気のある感じ」という点でやや落ちるようだ。あれほどの「凄い音」ではないように感じる。
僕は「ライブ録音好き」だ。だから、あるいは・・・これらのスタジオ録音からはライブでの臨場感を得られないために、それほど「いい録音」と感じないだけかもしれない。但し・・・We Get ~と West Side ~の2枚は、レイ・ブラウンのベースに関しては、かなりいいように思う。右チャンネルから、レイ・ブラウン特有のあの重いビートのベース音が聞こえてくる。同じVerveというレーベルの中のピータースンに限っても、こんな具合に違いがあるのだ。そんなわけで・・・ピータースンのVerve盤で、僕が本当に「凄い音」(ピアノだけでなくベースやドラムスも含めた録音として)と感じたオリジナル盤は、まだこの「Live From Chicago」1枚きりなのである(笑)こうなると・・・ピータースンもVerve盤は、全てStereophonic ラベルで揃えたくなってくるのだ(笑) ただどのタイトルにStereophonic ラベルが存在するのかもはっきりとは判らない。Stereophonic ならどれもこれも素晴らしいのか?それもはっきりしない。僕はそう確信しているが・・・いろいろなお仲間からの情報では・・・どうやらことはそう単純ではないらしい(笑) Stereophonicでも、古いモノラル録音を加工したものはダメなんだろうし、また逆にT字Verveでも、エラの「クラップ~」のように凄い録音(という定評あり)の盤もあるのだ。一般的には・・・いわゆるVerveのT字ラベルでも、MGM-Verveと、それ以前のVerve Inc.と比べると、どうやらMGMが付かない方(古い)が、音はいいらしい、ということも判ってきた。それから、録音年代が1963年くらいからのタイトルは、おそらく「MGM-Verveラベルがオリジナル」のはずなのだが、 1962年くらいまでの録音のもののオリジナルプレスがどのラベルなのかも、よく判らない。
いずれにしても・・・タイトルごとでの「音質の出来・不出来」は、レーベルと年代で全て決定されるわけではなく、その時々の「録音のいい悪い」によって・・・全然違うものになってしまう、ということかもしれない。そのタイトル毎での違いと、プレス時期の違いと、さらに個体差(盤質コンディションなど)も大いに出てくるわけで・・・こりゃあ全くキリのない世界ではある。

今は、少なくともピータースンのVerve盤に関しては・・・間違いなく国内盤より米盤の古いプレスの方がいい、と確信している。そしてVerve以前のClef,Norgranは、録音年代が古いものでも、アート・テイタムやピータースンのピアノの音色も~独特の鋭さ・温かさのあるいい音なのだ~それから特に、サックスなどの管楽器の音色が別格の音~これはもう音色の鮮やかさ、音圧、厚みなど素晴らしいのだ・・・管楽器から出てきた空気の塊りが、実体の「気配」を持ってそこに飛び出てきたかのような音~であることも~数少ない手持ち盤を聴きながら~だんだんと判ってきた。音だけでなくジャケットも含めての「時代の雰囲気」・・・これには抗しがたい魅力を感じる。

 《ピータースンのclef盤3タイトル~「背中シリーズ」1枚だけ、[Harold Arlen]を入手。左の盤は[Plays Count Basie]、下にちょっと見えるのは[Recital by Oscar Peterson]  盤はどれも重く、それがうれしい》
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この辺りの「気配」や「雰囲気」にマイッた方は皆、数少ないオリジナル盤を狙う。だから・・・Clef,Norgranは、世界中、どこでも値段も別格のようだ(笑) 仕方ない。それだけの魅力があるのだから・・・。
いずれにしても・・・僕はこれからも大いなる自己矛盾を抱えながら、それでもレコードを集めていくのだろうなあ・・・(笑)

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2005年10月30日 (日)

<発掘レコ 第3回> ヘンリー・マンシーニ/マンシーニ ’67(日本ビクター)SHP-5594

ジャズのマインドで練り上げられた役どころに、しかるべき役者を配する。マンシーニは、見事な演出家なのだ。
   
マンシーニが好きだ。マンシーニがよく使うあのコーラスが「ほわわ~ん」と流れてくると・・・僕は、そこはとなくシアワセな気分になる。そうして、そのいい気分がしばらく心に残る。映画音楽としてマンシーニが作った曲は、どれもシンプルで覚えやすいメロディを持ち、知らぬ間にハミングしてしまいそうな、素敵な曲ばかりだ。本当にいい曲が多い。

しみじみとした情緒のあるタイプの曲・・・例えば<ムーン・リヴァー>~この曲はオードリー・ヘップバーンでも唄えるように、狭い音域の中で作ったメロディだそうだ~あんな風に・・・本当にシンプルで、唄いやすくて、しかも、しみじみとした情緒がある・・・こんなにいいメロディってめったにない。<ムーン・リヴァー>というと・・・1970年頃だったかに、NHKで放送していた「アンディ・ウイリアムス・ショウ」を想いだしてしまう。あの番組のテーマで、いつもこの曲が流れていたのだ。日曜日だったかなあ・・・毎週、この番組を楽しみにしていた。僕の家のTVはまだ白黒だったが、音楽好きの友人が「アンディウイリアムスの目は青いんだぞ!」とうれしそうに教えてくれたりした。

マンシーニのもうひとつの面、キャッチーなメロディを持つユーモラスなタイプな曲・・・例えば<ピンク・パンサー>~これは、あの「泥棒が抜き足差し足・・・」という感じのメロディが、すぐ印象に残ってしまう曲だ。ちなみにあの中のテナーサックスのソロは・・・プラス・ジョンソンという人だ。マンシーニという人は、「曲の演出」がとても巧い人だと思う。それぞれの曲に合ったアレンジ~どんな風にスポットを当てるか?どの場面でどんな楽器を使おうか?~そんなことを巧みに考えているのだと思う。<ピンクパンサー>のテナーは、やはり・・・あのプラス・ジョンソンの、ちょっとアクの強いちょっとお下品なな感じ(笑)の音色で吹かれるべき曲だったのだ。ピタッとはまった演出、という感じがする。仮に・・・この<ピンク・パンサー>のテナーがコルトレーンだったとしたら・・・ほらっ、どうにも違和感があるでしょう(笑)

僕は長い間、こんな風に映画音楽の作曲家としてのマンシーニしか知らなかった。映画音楽だけでも、もう充分に素晴らしいマンシーニなのだが、実は、彼には深いジャズ・マインドがあるようで、「ジャズのテイストあふれる」レコードをたくさん創っているのだ。有名なところでは、アート・ペッパーも参加している「Combo!」というのもあるが、今回は~もう少しポピュラー風だが「ジャズ」を感じさせる~そんな盤を何枚かを紹介したい。mancini_2cut_001

マンシーニ’67(日本ビクター) この盤は、95年3月、普通の中古盤屋さんで入手しているので、特に「発掘レコ」とも言えないのだが、価格が1100円という微妙な?値付けだったので、いわゆる「ラウンジ系のレア盤」みたいな扱いではなかったはずだ。ペラペラのジャケットと細身のオビに惹かれるものがあったし、「サテン・ドール」「いそしぎ」「ラウンド・ミッドナイト」などジャズの曲も多めに入っているので、ちょっと迷ったが入手したのだ。裏解説には・・・「ジェリー・マリガンを思わせるバリトンサックス」とか「有名なスタジミュージシャンが起用されている」とか書いてあるが、はっきりとしたミュージシャンのクレジットは一切なかった。さて、聴いてみると・・・どうにもジャズっぽい。「サテン・ドール」のエンディングの部分では、どう聴いても・・・レイ・ブラウンじゃあないか!というウッドベースも飛び出てくる。それから「いそしぎ」でテーマを吹くトロンボーンはディック・ナッシュだろう。後に、マンシーニのRCA盤がまとめて復刻された際、この「マンシーニ’67」も出たはずだが、その詳しいクレジットによると・・・ベースはやはりレイ・ブラウン。「ジェリー・マリガンを思わせるバリトンサックス」の正体は・・・バド・シャンクであったように記憶している。

もちろん、他にもいい盤がある。
Uniquely Mancini(RCA Victor:LSP-2692)1963年。この盤は、地元「ラビットフットレコード」のラウンジ系コーナーで入手した。Victor犬ラベルのステレオ盤で、キッチリしてとてもいい音質だ。サブタイトルが、The Big Band Sound of Henry Manciniとなっており、<Lullaby of  Birdland><C jam blues><Stairway to The Stars>などジャズっぽい曲も多い。ソロイストには、プラス・ジョンソン(ts)、テッド・ナッシュ(as)、ロニー・ラング(fl)、コンテ・カンドリ(tp)、ディック・ナッシュ(tb)、ヴィンセント・デ・ローズ(french horn)などが、うまいこと配置されている。 好きな1枚だ。mancini_2cut_002

The Mancini Touch(RCA Victor:LSP-2101)1959年録音。   この盤もなぜか地元の「こんぱく堂」で入手。こんな地味なオリジナル盤が、どうして地元トヨハシにあったのだろうか? 余談だが、あるレコードがたどる軌跡というものには・・・ほんとに興味深いものがある。

この盤は、ストリングス入りではあるが、ナッシュ兄弟、ロニー・ラング、ヴィクター・フェルドマン(vib)、ジョニー・ウイリアムス(p)、それからシェリーマンなどがクレジットされている。おもしろいのは、そのクレジットが「ソロイスト」ではなく、「Featured Performers」とされていることだ。純粋なジャズではありませんよ、という意味合いだろうか。まあ、呼び名はなんであっても、少しでも「その人」の演奏が聴ければいいのだ。バラードで演奏される<my one&only love>がいい。イントロや間奏にボブ・ベインのギターが少し入るが、主メロディは・・・これまたディック・ナッシュではないか(笑) 
思うに・・・マンシーニは、トロンボーンという楽器を、すごく好きなんだろう。スロウなしみじみ曲では、たいてい、トロンボーンがメロディを吹く。

Our Man In HollyWood(RCA Victor:LSP-2604)にも、いい曲が入っている。<two little time>だ。センチメンタルな感じに溢れたメロディを吹くのは、やはり・・・ディック・ナッシュ。とろけるようなボントロの音色が素晴らしい。しみじみとしたこの曲の味わいが、この音色でより一層、映えるようだ。

きりきりとしたジャズではないが、しゃれた演出(アレンジ)で、腕利きのジャズメンが気の効いた短いソロをとる~こんなゆったりとした味わいのヘンリー・マンシーニの音楽を、僕は大好きだ。 
それにしても・・・世の中には「いい音楽」がいっぱいだ。これだから、レコードは止められん。

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2005年9月27日 (火)

<ジャズ雑感 第8回> ミニ杜の会~大阪:Yoさん宅でジャズ10時間聴きまくり!

Verveというレーベル・・・Contemporaryというレーベル・・・。

先日、大阪のYoさん宅におじゃまし、いろんなレコード、CDを聴きまくりました。翌日のお昼すぎまで、計10時間強!ランダムに選びながら、多くのレコードを聴いたのだが、事前に決めていたことがある。Yoさん手持ち盤と僕(bassclef)の手持ち盤の中に<同一タイトル/センターラベル違いの盤>のものがいくつかあったので、それらを聴き比べてみることだった。その辺りに絞って話しを進めてみます。なお、デジカメ持ってくのを忘れたので、Yoさん手持ちのレコードの写真はありません。いや、持っていても・・・聴くのと話すのに夢中で、多分、写真撮れなかったでしょう(笑)

050907_001 マリガンの「The Concert Jazz Band」~
<Stereophonic>(写真なしです。残念!)
<T字MGM Verve>
<黒トランペット(モノラル)>

YoさんのStereophonic、こちらが残りの2枚、計3種の Concert Jazz Band がソファの上に並んでいる。Stereophonic盤は、どうも普通のT字Verveより、音がいいらしいぞ・・・とは思っていた。オスカー・ピータースンのライブ・フロム・シカゴ(verve:stereophonic)を愛聴しているのだが、ピータースンの他のVerve盤諸作より、格段に「音が生き生き」しているのだ。ピアノの音色につやがあり、レイ・ブラウンの音色も「よく締まったそれでいてブウンと伸びるいい音」で入っているように感じていた。これは、たまたま「ライブ・イン・シカゴ」の録音(ロンドンハウスというライブハウスでの実況録音)が素晴らしかったのかもしれないが、もう1枚持っていたエラの「シングス・ガーシュイン」これも、盤質は悪かったが、同質の良さを感じていたことから類推して・・・やはりStereophonicというラベルの盤は、「一味違うぞ」とほぼ確信していたのだ。そんな時、Yoさんがサンディエゴの廃盤店で入手したマリガンの「白」(Concert Jazz Band)が、そのStereophonicラベルだったことを知った。僕は・・・う~んと唸りました。この「白」のStereophonicラベルの存在は知っていても・・・なかなか手に入らなかったのです。そんな訳で・・・この3種の聞き比べをしよう、ということになり・・・よく考えたらこのことが、Yoさん宅へオジャマするキッカケになったような気もする(笑)

さて・・・3枚の同じジャケットを並べて2人でニンマリ。こういう風景は、見るだけでも楽しい。B面2曲の<My Funny Valentine>という同じ曲を連続して聴き比べてみた。T字Verve、Stereophonic、黒トランペット(これだけがモノラル)の順で聴くことにする。
まずT字~マリガンの吹くテーマのバックに拡がる中編成のハーモニーが、軽くふわ~っと拡がり、いい感じだ。Yoさん、「悪くないよ、これも」。ちょっとうれしい僕。 そして、Stereophonic・・・出だしではそれほど差を感じない。しかし・・・マリガンのソロが始まると・・・やはりバリトンの音色に、より一層のつやが出ているようだ。より生き生きした感じがする。Stereophonicラベルの盤は、全体に「明るく華やいだ雰囲気」が出てくるようだ。
最後にモノラルの黒トランペット~モノラルなので、ステレオの2枚に比べると、やや重く詰まった感じのサウンドだ。これも案外に悪くない。個人的には・・・マリガンのライトなサウンドにはステレオの方が似合うような気はした。しかし、「黒トランペット」ラベルも、やはり侮れない。ちなみにこの「黒トランペット」は、3年ほどまえに、大阪・梅田のLPコーナー本店で手に入れたものだった。

「ノーマングランツジャムセッション#8」~050907_003
<Clef>
<verve 黒トランペット>(Verve clef-sereis)
8月の「ニーノニーノ杜の会」で、Yoさんが持ちこんだこの盤を聴いてBoseさんが「煩悩に火達磨」になってしまった、という話し~
僕もたまたまこの盤の Verve Clef-Sereies(ジャケは同じデザイン)を愛聴していたものだから~大いに納得してしまいました(笑) それじゃあそのClef盤もぜひ聴いてみたい、ついでにVerve clef-sereies 盤との聞き比べもしようじゃないか、ということになりました。普通に考えると、Clefとして#8が出ていたものを何年か後に、Verve clef-sereies として再発したのだと思う。Clef盤の音の良さは(特にサックス)2~3枚だけ持ってるClef盤(10インチ音源を12インチ化したシリーズ)で、もう充分に知っているので、これは、相当に差があるだろう・・・との予測はついてはいた。最初にかけたのは「Verve 黒トランペット」。普段から案外にいい音と思ってたが、Yoさんのシステムでも、きゅっと締まった聴きやすくいいモノラルの音質だった。ちょっとうれいしい僕。しかし次にかけたClef盤のサックスの音が鳴った瞬間・・・やはり「違う」。何が違うか、というと・・・サックスの音色に、もっと「こく」が出てきて、より「生き生きと」した音色になった。(ように感じた) さきのマリガンのバリトンの音色と同様、違いというのはそれほど大げさには出ないが、楽器の音色に、より「つや」が出てくるようだ。そうして、その「音色を味わう」という次元での差というのは・・・そのレコードの演奏を好きになればなるほど、ものすごく大きな差に感じてしまうのだ。Boseさんの「火達磨」・・・よく判ります(笑) その後、その「火達磨」は、見事に治まった由。この盤が見つかってよかったですね、Boseさん。こちらもいつかあのClef盤、欲しいものです。

ロリンズの「Brass & Trio」(Stereophonic)~ 
これは、僕の手持ちがT字Verve。今回持参しなかったので、僕の記憶との比較。僕は、ポリドールの国内盤と T字Verve MGMを聴いているが・・・どちらの盤でも、あんまりいい録音とは言えないように思う。ロリンズのサックスにエコーがかかりすぎ、ブラス陣が入った関係からか、全体のサウンドが、どうもすっきりしないような印象がある。そこで、このStereophonic盤の登場だ。聴いてみると・・・全体のサウンドの様相に変わりはないが、やはり・・・ロリンズのテナー、グライムスのベース、そして全体のサウンドが、T字Verveよりは、鮮度が高いように聞こえた。もっとも・・・このBrass & Trioは、元々「メトロ」原盤とのこと。だから本当のオリジナルは「メトロ盤」(スタジオらしきところで吹いているロリンズとブラス陣のジャケのやつ)ということになる。一度、それも聴いてみたいものだ。どなたかお持ちでしょうか? できれば、その盤の音の「雰囲気」だけでもお知らせください。

さて、T字Verve と Stereophonic~もちろん個々のタイトルによって、状況は違うだろうが、たいていの場合なら、Stereophonic盤の方が、T字Verve よりも「いい音」だと言えそうな気がする。少なくとも僕はそう感じている。さらに・・・T字Verveでも、MGMと入るものと、それ以前のVerve Inc.というのもある。ニーノニーノのDuke氏によると、Verve Inc.は MGM Verveよりも上質とのこと。これは、同一盤でのサンプルが揃わなかったので、比較はしていない。とにかくVerveというレーベルは、難しい。mercury,Norgran,Clef,そしてVerve。Verve の中でも 黒・黄のトランペット、黒・青・赤・黄(プロモ)のT字Verve、Stereophonic、その後、ようやく MGM T字Verve・・・。これらの各タイトルが、オリジナルと再発も微妙にクロスして発売されてるようでもある。僕がマークしている<Stereophonic>ラベルにしても、どのタイトルで何枚くらい出ているのかも、全く判らないのだ。肝心の「音」にしても、「古いほど音がいい」のであれば、話しは簡単なんだが、そんなこともないようだ。そういえば、Yoさん宅で音質優秀で有名な?エラの「クラップ・ハンズ」(MGM-Verve)をちょっとだけ聞かせていただいた。何の曲かは失念したが・・・イントロのピアノの後から入ってくるウッドベースの音の生々しいこと!輝くようなベースの音色だ。びっくりしてジャケ裏を読むが・・・普通のビッグバンドの普通のベーシストらしく、バックミュージシャンのクレジットなど全くない(笑) ベースというのは(いや、どの楽器でもだろうが)あれだけ「いい音」でレコードに入ることが珍しいので、もうその音だけで、凄いベーシストに聞こえてしまうようだ(笑) だからこそ・・・ラファロやレイ・ブラウンみたいに、どのレコードでも、だいたい同じように「素晴らしい音」で聞けるベーシストというのは・・・逆説的に言えば、それこそが超一流のベーシストである証し、とも言えるのかもしれない。

今回、Yoさんとはいろんなレコードを聴きながら、いろんな話し(レーベル、録音、マイク、コンデンサーマイク、ダイナミックマイク・・・)をしたのだが、両者共に大きく納得したことは・・・<レコードやCDに入っている「音質」というのは、個々のタイトル~そのレコード・CDの録音状態によって、大きく異なっている>ということである。もちろんレーベル(録音技師)で、ある程度は、そのレーベルの傾向みたいなものはあるが、絶対ではない。よく考えてみれば・・・録音スタジオ、録音技師が同じであっても、「ミュージシャン」が違うのだ。楽器も違う。いや、同じミュージシャンでさえ、録音日が違えば、その日の気分(ノリ)、体調、技術の進歩(低下)という要素だってあるはずだ。
レコードはもともとが、一枚一枚、全く違う音なのだ。それを再生する時、だから・・・全てのタイトルが、そのまま同じように鳴るわけがない。こんなようなある種の割り切り、これには僕も全く同感だ。この後、つまり「違う」ということを認識した上での「対処」は、人それぞれだと思う。「レコードにもともと入っているバランスでいい」と思う方なら、そのまま聞くのがベストだろう。この点で、Yoさんの考え方は明快であった。まず「自分が出したい音」をしっかりと自覚している。それから<タイトルごとで音が違う。レーベルごとで音が違うのだ>ということをしっかりと認識し、そうしてそれらのタイトルを、自分の好みバランスに近づけるために「プリ前段階」で調整する、という考え方のようである。「プリ前で」と表現したということは・・・トーン・コントロールは最後の手段ということだったかもしれない。(この辺り、全く僕が勘違いしているかもしれません・・・遠慮なしに、「訂正」「追加」のコメントもお願いします・・・。
具体的には・・・その調整を<LPなら2種のステレオ・カートリッジ/「CDなら2台のプレーヤー>で実践しているのだ。タイトルごとに音が違うとは言っても、やはりレーベルには、基本的なサウンドカラー、サウンドバランスというものもある。Yoさんの中では、レーベルとカートリッジの相性で、ある程度の「棲み分け」が確立しているようだった。

以下Yoさんメール談~
~《カートリッジ2種は どちらもオルトフォンの Jubillie とSPU-SilverMisterです。CDはトランスポート2種で上にあったのがオラクルCD2000で、下にあったのがWadia3200で、DACは共通でWadia-Proです~
~私の常用のSPUは最近の機種でオリジナルに近い元のタイプではないです。ですが、やはり最新の「ジュビリー」と比べると、レンジが狭く重心が低いです。ジャズで言うと、BN,プレスティッジは完全にSPUがいいです。ジュビリーだと妙にやかましくなったり、中域が薄く聴こえたりします。コンポラ、CBS,RCAはジュビリーです。SPUだと低音が重く感じます。それ以外はレコードによってと言う感じです。同じバンゲルダーでもインパルスはジュビリーの方が良い場合が多いです》~

こんな説明も聞きながら、いくつかの同じレコードを、2種のカートリッジで聞き比べてみた。たしかにかなり違う。これはYoさんからも指摘されたが、僕の好みでは、SPUの方がいい、と思えることが多かった。いずれにしても、2種のステレオカートリッジでの変化、レーベルとの相性みたいなものを体感できたことは、とても興味深いことだった。そして、2機種のCDプレイヤーについては・・・(カートリッジでの使い分けと同じ意味合いで) ワディア=SPU、オラクル=ジュビリーとして機能させている、ということで、これには充分に納得がいく。Yoさんは、物事(オーディオ)を非常にシンプルに、しかしロジカルに考えているのだろう。そして背景として「自分の出したいサウンド(バランス)を出したい」という目的がはっきりしてるから、いろんな機器選択・調整が「ぶれてない」ように思えた。というのは・・・いい音(録音)のLPと、いいリマスタリングのCDとを「パッと聴き」した時、そのサウンドカラーにほとんど差がなかったのだ。これこそ、その機器調整が「うまくできている」(Yoさんにとって)ということなのだと思う。余談だが、CDプレイヤーにおいても、僕には、ワディアの方が魅力的な音に聞こえた。「芯のある丸みのある音」に聞こえた。あれなら、古い音源の復刻CDでも(そのCDがある程度のバランスとれていれば)すごく「アナログライクないい感じ」で聞けるだろう。

ちなみに僕は、アンプのトーン・コントロールをけっこういじる(笑) 全く使わないという「原音主義」の方が多いようだが、僕にはそのカタクナさが判らない。端的に言えば・・・レコードに入った状態が、すでにして「原音」じゃあないのだ。そうして、レコードに入っている楽器の音量バランスが、常に適正とは言えないのだ。ベース音が「大きすぎたり」「小さすぎたり」、またはドラムスのシンバル音が「うるさすぎたり」「小さすぎたり」、ピアノの高音が強すぎたり・・・そんなレコードがけっこう多いのだ。僕は、その状態を「原音」としては許容できない(笑) だから・・・そんな時、「トーン・コントロール」を積極的に使って、少しでも聞きやすい楽器バランスに(もちろん自分にとっての)調整する。そうして(僕の装置で聞く場合の)理想のベース音量バランスのレコードが、前述したオスカーピータースン/ライブインシカゴ(Verve:stereophonicラベル)なのである。このレコードでのレイ・ブラウンのウッド・ベースは・・・A・B面とも、「ややオフ気味」に聞こえるかもしれない。ややベースが小さめなバランスに聞こえる。もう少しふくらんだ響きがほしいかな?と思うくらいタイトな音色だ。しかし・・・演奏が進むにつれ、徐々にレイ・ブラウンのウッドベースの音圧・音量が上がってくる。そういう風に聞こえる。このレコードで聞こえるベース・ドラムス・ピアノの音量バランスが、自分にとっての座標と言えるのかもしれない。

Yoさん宅では、この他に Contemporaryの<Stereo>レーベル(ジャケに楕円マーク)と普通のContemporary stereo盤~
これの1st黒ラベルと2nd緑ラベル~の聴き比べもした。まずは、ロリンズの「ウエイ・アウト・ウエスト」~この盤では・・・「Stereoレーベル盤」(ジャケに楕円ステレオマークではなく「Way Out West」の下に大きく「In Stereo」と表記されているやつ)/「ステレオ黒ラベル盤」、/「アナログ・プロダクション盤」・・・以上の3種(全てYoさん)を聞き比べた。曲は<Solitude> どの盤でもレイ・ブラウンの「いいベース音」をたっぷり味わいました。
これについては・・・ニーノニーノさんのHP「こだわりの杜」(9月23日)にも書き込んだので、そこからちょっと抜粋します~
~《それでは、例えば・・・レイ・ブラウンのベース音はどうだったのか。
ソニー・ロリンズ/ウエイ・アウト・ウエスト~ステレオレーベル盤。<ソリチュード>を聴く。この盤でのレイ・ブラウンのベース音。これはもう素晴らしいの一言!全く、タイトにきりりっと締まった、しかしグウン~」とよく伸びるウッドベースの音なのだ。生のウッドベース(アンプ通さずに)聞くとこんな感じだろう、というリアルなベース音であった。真っ直ぐ聴き手の脳髄に食い込むベース音だった。続けて、同じ「ウエイ~」の「普通のステレオ盤」と「アナログプロダクション?」を聞いたところ・・・レイ・ブラウンのベースは、もう少し「ふくらみ気配」(いや、それでも抜群のレイ・ブラウンのベース音なのだが)にしてあるようだ。普通に言えば、こちらのベース音の方が聞きやすいんだろうとは思う。しかし・・・あの「ステレオ・レーベル」のレイ・ブラウンには驚いた。パブロの「エリントン&レイ・ブラウン/ブラントンに捧ぐ」も、「やや硬質でアンプで増幅していない感じの、本当のウッドベース生音」が飛び出てきました。ほんとうに凄いベーシストですね・・・レイ・ブラウンは。》~

ロリンズ/コンテンポラリー・リーダーズ(Contemporary)これは2種のみ。

黒ラベル:ステレオ(Yoさん)
緑ラベル:ステレオ(bassclef)
<How High The Moon>を続けて聴いたが・・・この黒と緑、ベースの響き、、サックスの鳴り、ケッセルのギター、バランスも音質も、ほとんど差が感じられなかった。1stの「黒」の方が圧倒的に良いのでは?と想像していた僕は、2ndの「緑」もまずまずだったので、ちょっとうれしい。Contemporaryの盤をいろいろ幅広く集め、聴きこんでいるYoさんが言うには、「Contemporaryというレーベルは、(おそらく)録音されたオリジナルテープの管理やらが優秀なので、1st,2nd,3rd どれも安定した質で、案外、大きな差がないよ」とのこと。
それにしてもよく判らないのが・・・<Stereo>レーベルである。なんだか、このレーベルにはまっていきそうな感じである(笑)
ああ・・・ジャズは底なしだあ・・・。

追伸:「聴き比べ」以外にも、素晴らしいレコードを聴きました。例えば・・・Bill Evans/Everybody Digs Bill Evans(riverside)ステレオ・黒ラベル  Wes Montgomery/Wes Montgomery Trio(riverside)モノラル・青ラベル  Erney Henry/Presenting Erney Henry(riverside)モノラル・青ラベル   Verve や Contemporary だけでなく、これらの Riverside盤も、「しっとりした」実にいい音でした。この辺りは、また別の機会に・・・。

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