エルヴィン・ジョーンズ

2010年7月 4日 (日)

<ジャズ回想 第23回>雨降りの1日は、レコード三昧だった。

~United Artistsというレーベルを巡って~

久しぶりに藤井寺のYoさん宅でのレコード聴きをすることになった。今回は4月白馬の集まりに参加できなかったリキさんと僕(bassclef)のために、Yoさんが声を掛けてくれたのだ。集まったのは、愛知からリキさん・konkenさん・僕。関西からdenpouさん、PaPaさん、Bowieさん。Yoさんを入れて7人となった。

午前中から夕方まで約8時間・・・皆であれこれと聴きまくったわけだが、今回はクラッシクから始まった。
Vx25_j_2 まずはYoさんから、シュタルケルのチェロ独奏。コダーイの曲を鋭く弾き込むシュタルケルのチェロ。その中低音が豊かに捉えれた、しかもエッジの効いた好録音。ジャケットを見るとこれがなんと1970年頃の日本でのレコーディング。つまりこの日本ビクター盤がオリジナルなのだ。Vx25_lシュタルケルのチェロをYoさんはディグ(探求)しているようで、そういえば2~3年前の白馬でも、シュタルケルの日本での実況録音盤~バッハだったか?~をセレクトしていた。この人のチェロは、強くて毅然としており、曖昧なところがない・・・そんな感じだ。 《シュタルケルの写真2点~Yoさん提供》
それから、ムターなる女流 ヴァイオリニスト~言わずもがなの「美人」~の2種(共にグラモフォン音源)に話題が。ムターについては、おそらく事前にリキさんとBowieさんが音源セレクトを相談したのかな。
カラヤン指揮(1988年)
~クラシック不慣れな僕らのためにお2人が気をつかってくれたのだろう(笑)・・・曲は「チャイコフスキーのヴィイオリン協奏曲」冒頭から少し経過すると飛び出てくる印象的なメロディ・・・ああ、この曲なら僕でも知っている(笑) 1988年のデジタル録音ということもあってか、ムターのヴァイオリンだけでなくバックのオーケストラまでクリアに聞こえる。
次に同じ曲の70年代もの(グラモフォン音源)Bowieさんのセレクト。こちらはアナログ録音だがバックのオケの音圧感がより豊かで肉厚な感じがする。これも良い録音だ。こちらのヴァイオリンはミルシュタインだったか。指揮はアヴァド。アヴァドという人・・・曲の終盤になると劇的に盛り上げる感じがいつもあって(たぶん)僕はなぜだか嫌いではない。そんなシンプルな躍動感みたいなものがカラヤン盤よりも濃厚に感じられて、この協奏曲は僕にも充分に楽しめました。
ムター繋がりでリキさんからもう1枚~
「これは・・・珍盤の一種かも」というリキさんが取り出したのは、立派の箱入りのLP2枚組。タイトルは「Carmen-Fantasie」(今、調べたら録音は1992年。正規品はもちろんCDであろう)ジャケット写真は・・・ヴィオリンを弾いているムターの立ち姿。正規CDと同じデザインだと思うが・・・このムター、ちょっと色っぽい。
掛けたのは「チゴイネルワイゼン」
曲の出だしからちょっと大げさな感じのするあのメロディ(好きな方、sorryです) これはグラモフォン音源のはずだが、センターラベルは白っぽくてデザインも違う。ラベルには小さい文字でmade in Japanと入ってはいるが、解説書の類(たぐい)は一切ない。聴いてみると・・・音からするとちゃんとした音源のようだとYoさんが言う。臨時に版権をとった記念のLPセットのようなものだろう・・・という意見も出たが、いずれにしても、所有者のリキさんでさえ、その出自を知らない「謎のムターLP2枚組」である。
ムター好きを隠さないYoさんが「欲しい・・・」とつぶやくと、ダジャレ好きなPaPaさんは「そんなごムターな・・・」などと言ってる(笑)

こういう音聴き会では、各人のお勧め盤を順番に聴いていくわけだが~そうすると、当然、各人の趣味嗜好が様々なので、厭きない流れになるというわけだ。実際の順番どおりではないが、ここで皆さんのお勧め盤をいくつか紹介したい。

Yoさん~今回は実は<UAレーベル>というのが隠れ主題になっていて(と勝手に解釈していた僕) それもあってか、そろそろ・・・という感じでYoさんが1枚のUA盤を取り出した。
Uas_5034_j_2 《リトルの写真4点~Yoさん提供》 Booker Little/~+4(united artists)ステレオ盤青ラベル 
この渋いUA盤からYoさんが選んだのは moonlight becomes you。スタンダード曲である。リトルはうんとスローなバラードで吹いている。
ラファロと共演のTime盤にもひとつスローものがあったと思うが、このUA盤(Booker Little +4)にもこんなに素敵なスローバラードmoonlight becomes you が入っていたのか。Uas_5034_lところが・・・僕はこの「ブッカーリトル・プラス4」~国内盤さえ持ってない。リトルがリーダーなのだから、ローチのことは気にせず聴くべきレコードだったのだな・・・などとモゴモゴ弁解する僕(笑)そういえば、Yoさんもマックスローチ苦手絡みということもあり、このUA盤の入手は他のUA盤に比べれば遅かったらしい。リトルという人・・・スパッと抜けのいい音色にも特徴があるが、丁寧にじっくりとメロディを吹くその誠実感・・・みたいなBcp_6061_j 味わいが実にいいのだ。 
Booker Little/~& Friends(bethlehem) if I should loes you
こういう音聴き会ではいつもちょっとした偶然がある。この日、konkenさん・リキさんとクルマで藤井寺へ来たわけだが、車中ではたいていiPODをシャッフルで掛けている。音源は konkenさんCDなのだが、ジャズ、ロック、ヴォーカルがごちゃ混ぜで入っているので、この3~4時間がけっこう厭きない。四日市の辺りで、トランペットが深々と吹く聴いたことのあるメロディが流れてきた。このメロディは・・・知っている。そうだ、if I should lose youだ。BGM的に流してはいても、気になる音(音楽)が掛かるとと、iPODの真ん中辺りを押してデータを表示したくなる。「ああ・・・ブッカーリトルかあ」と納得。
そんな場面があったことをYoさんに告げると、ちょっと嬉しそうなYoさんは続けてリトルのbethlehem盤を取り出して、if I should lose you をセレクトした。うん・・・いい。「やっぱりiPODで聴くよりいいな」と僕が言うとkonkenさん、ひと言「当たり前じゃん」Bcp_6061_l
どちらの演奏も、本当にスローなバラードである。一拍をカウントしてみると明らかに1秒より遅い。♪=60以下の超スローなテンポだ。
リトルはバック陣にきっちり淡々と伴奏させながら、悠々とじっくりとメロディを吹く。ほとんど崩さない。しかし不思議に味がある。リトルの音色・・・とても抜けのいい感じで、どちらかというジャズっぽくない音色とも言えそうだが・・・どこかしら、わずかな翳りがある・・・ようにも感じる。それは説明しづらい何かであって・・・妙な言い方になるが、黒人全般に一般的には似合うはずのブルース感覚とはちょっと違う感性のトランペッターであるような気がする。そしてその「翳り」とバラードはよく似合う。ブッカー・リトルという人、どうにもバラードがいいじゃないか。

Dscn2490bassclef~
Jimmy Woods/Conflict(contemporary)ステレオ盤。 conflict
右側からタッカーのザックリした切れ込み鋭い戦闘ベースが、たっぷりと鳴る。いつになくハードボイルドな感じの増したハロルド・ランドもいい。やや左側から鳴るカーメル・ジョーンズも覇気のある音色だ。そしてピアノは ・・・なんとアンドリュー・ヒル。ヒルが弾くストレーと なブルースも面白い。Dscn2492リーダーのウッズのアルトは、ちょっとクセのある粗野な感じだが、もちろん嫌いではない。ウネりながら巻き込むような吹き方は・・・ちょっとドルフィ的でもある。そしてもちろんエルヴィンもいい(笑)ドッカ~ンと響くドラムサウンドがこのレーベルの端正な感じの音で鳴るのも実に悪くない。

Miles Davis/Round Midnight(columbia CLモノラル6つ目) round midnight 
ここでいつもの聴き比べ病が出る(笑)Columbiaはスタンパー違いで音が違いが大きいと言われているが、そういえば実際に試したことはない。このRound Midnight・・・同じモノラル6つ目をYoさんもお持ちで、じゃあマトリクスを見てみよう・・・僕のはジャケはぼろぼろだが(笑)盤は1C。Yoさんのは1J。CとJなら違うと思うよ・・・と、Yoさん。
Dscn2493聴き比べの時は、僕はウッドベースの音(聞こえ方、バランス、音圧感)やシンバルの打音に注目するのだが、columbia録音のシンバルはいつもうんと控えめバランスなのでこの場合、フィリー・ジョーのシンバルであってもあまり参考にならない。そこでウッドベースだ。同じ音を出しているはずのチェンバースのベースでも、Columbia録音の場合、presitigeに比べると低音を厚めしたような感じがあり、僕の場合は、ややギスギスした感じのprestigeでのベース音よりも、ややソフトな感じのcolumbiaの方が好みではある。Dscn2489
さて、この2枚を続けて掛けてみると・・・・・・その雄大に鳴るチェンバースのベース音・・・その輪郭においてやはり1Cの方がよりくっきりした音圧感で鳴ったようだ。ベース以外には特に大きな違いは感じなかったが、全体をパッと聴いた印象として、1Cスタンパーの方が色艶が濃いというか鮮度感が高いように聞こえた。やはり・・・Columbiaレーベルではスタンパー違いによる音質の違い(鮮度感)というものがあるのかもしれない。むろんタイトルによってその差異は様々だろう。

Kenny Clarke/(Telefunken Bluesと同内容の12inch盤)から solor
アルトがFrank Morgan・・・ここでPaPaさんが鋭く反応。
PaPaさん~
僕がモーガンの名を出すと、PaPaさん、すかさず1枚のレコードを取り出す。おおっ、GNPのフランク・モーガンだ!盤を出すと鮮やかな赤。
Cimg5658_2Frank Morgan(GNP)赤盤 the nearness of you

《GNP盤写真2点~PaPaさん提供》
モーガンのアルトは・・・う~ん、これは好みが分かれるだろうな・・・ちょっと軽い音色でフレーズの語尾をミョ~!ミォ~!としゃくるような感じ。どこかの解説で「名古屋弁のアルト吹き」という表現があった。素晴らしい!(笑) ちょっと、ソニー・クリスにも似ているな・・・と思ったら、PaPaさん、次にソニー・クリスを出してきた(笑) Cimg5663さすが・・・パーカー以後のアルト吹き全般に精通しているPaPaさんだ。セレクトにテーマがある。
Sonny Criss/Up Up and Away(prestige) 紺イカリラベル から sunny

この「サニー」はもちろんあの有名ポピュラー曲。録音が1967年なので、当時のジャズロック調まっしぐら。何の衒(てら)いもなく、当時のヒット曲を料理しているようで、それは案外、クリスの持ち味であるちょっと軽いポップな感じと合っているのかもしれない。
そういえば、PaPaさんと僕が思わず微笑んでしまった場面もあった。フランク・モーガンだけでなく、もう一人、ディック・ジョンソンというアルト吹きをセレクトしてきたのだが、2人ともemarcyではなく、riversideのMost Likelyを持ってきたのだ(笑) この時、音はかけなかったが、なにか1曲となったら・・・たぶんPaPaさんも 静かにバラードで吹かれる the end of a love affair を選んだであろう。

denpouさん~
ちょっとマイナーなピアノトリオを本線とするdenpouさんではあるが、この日はピアノ主役ではない10インチ盤をいくつか持ってこられた。

Dscn0301 《写真~denpouさん提供》
Georgie Auld / (discovery:10inch) here's that rainy day
darn that dream
ジョージ・オールド・・・いや、古い日本盤ではこの人の名をりをちゃんと「ジョージイ・オウルド」と表記してあったぞ。GeorgeではなくGeorgieという綴(つづ)りに注目したのだろう。
スイング時代のビッグバンドっぽいサウンドをバックにゆったりと吹くこのテナー吹き。コーニイ(古くさい)な感じがまったく・・・悪くない(笑)
古いテナー吹きをけっこう好きな僕も、もちろんジョージイ・オールドを嫌いではない。Cimg5664_2そういえば何か10インチ盤を持ってたけど・・・などと言っていると、PaPaさんが自分のレコードバッグからすうっ~と見せてくれたのは・・・roostの10インチ盤。「おおっ、これだ!」
それにしても・・・PaPaさん、なんでも持っている(笑) Cimg5665_3 このroyal roost盤・・・面白いのは、裏ジャケットが無地・・・一文字も入ってない、無地の青一色であることだ。 さっぱりしていいじゃないか。そういえば、スタン・ゲッツの10インチも同じように裏ジャケットは無地だったかな。 当時のroyal roostさん・・・デザインとしての無地だったのか、単なる手抜きなのか(笑)
《royal roostのオウルド写真2点~PaPaさん提供》

さて・・・オウルドの10インチ盤から、here's that rainy dayという好きな曲がかかったので、僕はあのレコードを想い出した。あれ・・・エルヴィンとリチャード・デイヴィスのimpulse盤 Heavy Soundsだ。 As9160_jあれは・・・フランク・フォスターの堂々としたバラード吹奏がたまらなく魅力的なのだ。このレコード・・・拙ブログ夢レコでも小話題になったことがある。それは・・・録音のバランスとしてのリズムセクションの捉えられ方についてのコメントで、そのバランスがこのHeavy Soundsでは明らかにベース、ドラムスが大きすぎるというのがYoさん意見だった。今回、here's that rainy dayつながりだったが、Yoさんお持ちのそのimpulse盤(これは赤黒ラベルが初版)を聴いてみた。As9160_l右チャンネルからリチャード・デイヴィスの芯のある強いピチカット音が・・・かなり大きな音で鳴りまくる。 う~ん・・・これは・・・確かに大きい。フランク・フォスターのテナーが主役なのだが、音量バランス、それに弾き方そのものが管に負けないくらい「主張する音」となっている。僕はデイヴィスの音は強くて大きい~と認識しているので、僕としては「大きくても」問題ない(笑)ただ・・・一般的にみて、ジャズ録音における管とリズムセクションのバランスにおいては・・・少々、出すぎかな(笑)まあでもこのレコードはエルヴィンとリチャード・デイヴィスのリーダー作ということでもあるのだから・・・ヴァン・ゲルダーがあえてそういうバランスにしたとも考えられる。《Heavy Sounds写真2点~Yoさん提供》

Dscn0243_2《写真~ denpouさん提供》
Max Bennett~おおっ!あのシマウマだ!この10インチ盤・・・ただ、シマウマが2匹いるだけなのに、どうにもいいジャケットだ。denpouさんのこの手持ち盤はコンディションもいい。ジャケット表のコーティングもキレイでシマウマのオシリも艶々している(笑)
ベツレヘムというと名前が浮かんでくる女性ヴォーカルに、ヘレン・カーという人がいる。ヘレン・カーのリーダーアルバムとしては、10インチでは<ビルの一部屋に明かり>、12インチでは<浜辺に寝そべる2人>がよく知られているが、この「シマウマ」にも2曲だけヘレンの唄が入っている。konkenさんのリクエストもあり、この10インチ盤から ヘレンカーの歌入り(they say )を聴く。カーさん・・・声質にはやや低めで落ち着いた感じで、ビリーホリデイみたいに、しゃくったような歌い方もするが、わりと甘えたような唄う口でもある。そのカーの歌も悪くないのだが、ここはやはり間奏に出てくる、「おお、このアルトは?」くらいにハッとする鮮烈なアルトの音色に痺れる。そう、チャーリー・マリアーノである。マリアーノは唄伴でも遠慮しない。ここぞ・・・という感じで自分の唄を出しまくる。特に50年代の彼は激情マリアーノだ(笑)Dscn2504
ちなみにこの「シマウマ」(Max Bennett)は、それはそれは高価なのである(笑)でも同じ音源(8曲)をどうしても・・・という場合は、12インチではMax Bennett Plays(BCP-50)でも聴かれます。この辺りのbethlehem盤はどれもいいです。僕はマリアーノ目当てで集めました。

konkenさん~
Peggie Lee/Black Coffee(UK brunswick:10inch)
何年か前に杜のお仲間でも小話題になり何度か登場した10インチ盤。今回、ジャケット・盤ともコンディションのいいものをkonkenさんが入手。う~ん、やっぱりいい音だ。米Decca10インチと続けて聴いてみると・・・ペギーの声の鮮烈さ、バック伴奏陣のクリアさなど・・・やはりUK10インチに軍配が上がるようだ。ついでに米Deccaの12インチ盤も聴くとこちらの方がすっきりとしたいい感じなので、どうやら米Decca10インチ盤にはカッティングレベル(低い)も含めてプレス品質の問題があるかもしれない。

リキさん~
ロスアンゼルス交響楽団/Candide(Decca) バーンステインOverture ミュージカル音楽を豪快に爽快に楽しく聴かせてくれる。それにしてもこういう壮大になるオーケストラはYoさん宅の大きなスピーカーで聴くと理屈ぬきに楽しめる。

こんな具合にあれこれと連想ゲームのように飛び出てくる皆さんのお勧め盤を楽しんでいると、いくら時間があっても足らないなあ・・・という気分になるわけである。そんな中、でもやはり「レーベル興味」の音比べも楽しみたい・・・というのが、Yoさんと僕の病気である(笑)
こういう音聴き会の前にYoさんとメールやりとりしていると、そんな「レーベル話題」に関して何かしらテーマらしきものが浮かび上がってくる。
今回は・・・United Artistsである。以前から僕らの集まりで「UAのステレオ盤とモノラル盤」の話題になることがけっこうあった。具体的には・・・UAのいくつかのタイトルにおいては~<どうやらステレオ盤の方がモノラル盤より音がいい>ということで、まあもっともそれは、Yoさんと僕がチラチラと主張していただけで(笑)検証タイトルがなかなか揃わないこともあって、実際の聴き比べまでは話しが進まなかった。(Yoさんはだいぶ前から同タイトルで両種揃えていたようだ:笑)
僕が最初に、そのUAのステレオ/モノラルの音質違いに気づいたのは、アイリーン・クラールのBand & Iの2種を聴き比べた時だ。アイリーン・クラールは僕にとっては数少ないヴォーカルもの集めたい人で、このUA盤は5年ほど前だったか、先にモノラル(赤ラベル)その半年ほど後にステレオ盤(青ラベル)と入手した。そうして後から手に入れたステレオ盤を聴いて・・・僕は驚いた。「音の抜けが全然違う!」
このBand & I はバックがビッグバンド風なので、まあ簡単に言うとたくさんの音がバックで鳴っている。その大きな響きの様が、赤ラベル(モノラル)では、詰まったような感じで、なにやら暑苦しい感じが濃厚だったのである。アイリーン・クラールの声そのものにそれほど差はないようだったが、パッと聴いた時に、クラール独特のあの爽やかさ、軽やかさみたいな感じがモノラル盤では味わえなかったとも言える。
ステレオ盤では、バックのバンドの音群がそれはもうパア~ッと抜けて・・・「抜け」というのは、僕の中ではけっこうキーワードなのだが・・・説明しづらいのだが、周波数的に高音が出ているとかいう意味合いだけでなく、その鳴り方の「空気間」というか、その場で(録音現場)鳴り響いた音響の「感じ」が、よりリアルに捉えられている・・・というような意味合いで「抜けがいい」と表わしているつもりではある。
Dscn2494 Yoさんは、3年ほど前だったか・・・konkenさんお勧めのMotor City Sceneのキング国内盤ステレオを聴いて、その演奏を気に入り即座にそのオリジナル盤(モノラル)を入手した。ところが・・・どうも「違うなあ」ということで、国内盤であってもあのステレオ盤の方が遥かにいい音だった・・・という冷静な判断を下したらしい。そうしていつの間にか・・・Motor City SceneのUAステレオ盤(青ラベル)を入手していたのである(笑)
僕もクラール盤で感じていたことなので、UAの赤/青についてはまったく同感だった。そんな経緯もあって、Yoさんとは何度か「UA~United Aritistsは青ラベルだよね」みたいな会話をしていたわけである。Dscn2495
僕もまたkonkenさんのキング盤「モーター・シティ・シーン」を何度か聴いて、実に欲しい1枚だったのだが、わりと最近、ステレオ盤を入手して、その良さに満足しているところだ。4曲どれも良いのだが、特にA面2曲目 minor on top で出てくるぶっとい音のベースソロが気に入っている。ベースはポール・チェンバース。彼のいかにも大きそうな音が・・・そうだな、プレスティッジほど硬くなく、コロムビアほど柔らかくなく、適度な芯と適度に豊かな拡がりを保ちながらしっかりと芯のある素晴らしい音色で捉えられている。UAの録音エンジニアはあまり話題にならないが、なかなか素晴らしい録音だと思う。そのA面2曲目~ minor on topを掛けてもらった。
う~ん・・・素晴らしい!艶のある音色で細かいことをやらずに余裕たっぷりに吹くサド・ジョーンズ、それからいつものことながら、小気味いいシングルートーンを適度なアクセントを付けながらサラッと弾くトミー・フラナガン、そしていつもよりちょっと抑えた感じの、つまり・・・全編ブラッシュでリズムを刻むエルヴィン・ジョーンズ、そしてさきほど言ったポール・チェンバースのでかい音像のベースがやや左チャンネル辺りから響き渡る。いやあ・・・素晴らしい!Yoさんのウーレイから鳴る「抜けのいいベース音」も快感である。
この1曲があまりに素晴らしくて・・・赤ラベル(モノラル盤)と聴き比べることなど忘れてしまった(笑)
Uajs_15003_j_2《UJASステレオ盤の写真2点~Yoさん提供》
その替わりにというわけでもないのだが、今回、意図して持ってきたレコードが、Undercurrent(UA)である。同じUAでも・・・この作品は「サックス吹きラベル」である。Uajs_15003_l
   これについては・・・Yoさんがステレオ盤(UJAS~、僕がモノラル盤(UJA~)を持っており、僕はわりと最近、このモノラル盤を聴いて・・・その音の感じにやや違和感を覚えていた。ひと言で言うと「強すぎる」という感じがあったのだ。Yoさんとはメールではある程度、音の様相までのやりとりをしたが、やはり・・・音は聴かねばダメだ(笑)
7人が集まった会ではあるが、同音源の聴き比べにはあまり興味のない方も多いと思われるので、僕はちょっと遠慮気味にではあるが「ちょっとこれを・・・」と言って、灰色一色の暗いジャケット~モノラル盤:Undercurrentを取り出した。「ああ、それ、やりまひょか:笑」微妙に関西弁のYoさんが応えた。このUndercurrent・・・1978年だったか国内盤を入手した以来、僕はもう大好きでそのキング盤(ステレオ)を聴きまくってきた。あまり良好とは思えない録音(ちょっと弱い感じ)の音ではあったが、しかし、それは繊細に絡み合う2人の音世界に合っている・・・とも思えた。

<UnderCurrent モノラル盤/ステレオ盤から my funny valentine を聴き比べした後、Yoさんとのメールやりとり>Dscn2497
basslcef~
UAモノの方は「優雅で繊細」とだけ思っていた二人のデュオに、相当な力強さを感じました。エヴァンスのピアノがかなり近い音で入っていて(音量レベルそのものも大きいような感じ)かなり強いタッチに聞こえます。ガッツあるデュオ・・・という感じにも聴けました。
(ステレオ盤を聴いてみての印象)
やっぱり、青のステレオ盤、ある種、柔らかさが気持ちよく、そしてギター、ピアノのタッチの強弱感もよく出ていてよかったですね。エヴァンス、ホールのデュオ音楽としては、モノ盤のピアノは強すぎで繊細さに欠けた感じがありますね。楽器が二つだけのためか、他のUA作品でのステレオ、モノラルほどの音の落差はなかったようですが。同じサックス吹きセンターラベルでも、違い(ステレオはグレイ、モノラルはやや黄色がかった感じ)があることが判りました

Yoさん~
エバンス&ホールの件、UA盤はステレオとUK盤のモノがあります。UKモノはbassclefさんのモノオリジと同じようにカッティングレベルも高く、力感がありますが、ちょっと厚ぼったい感じがします。ステレオはちょっとレベル低めですが、透明感と力感が上手くバランスして好きです。
(USモノ盤を聴いてみての印象)
Undercurrentモノ盤は音自体は悪く無いのですが、仰るとおり「強い」という感じがあのDuoには似合わないように感じました。私は元々「DuoなんだからStereoが良いに決まっている:笑」と言う事で買ったのです。同じところから2人出てくるのは嫌いなので・・・(笑)

《この「黄色がかったモノラルラベル」については・・・Yoさんからも「モノラルでも普通はステレオと同じグレイ(灰色)だと思います」との情報をいただいた。僕の手持ちモノラル盤のラベルは・・・どう見ても黄色っぽい。これはいったい・・・? ひょっとしたら非US盤かも?と心配になった僕は、ジャケット、ラベルを仔細にチェックしてみたが・・・カナダ盤、オーストラリア盤、アルゼンチン盤などという表記はどこにもなかった。よかった(笑)》

Dscn2499《追記》
「アンダーカレント」という作品~
ステレオとモノラルの音の質感のことばかり書いてしまったので、その音楽の中身についても少し触れたい。デュオという形態は・・・難しい。その2人の個性を好きなら、ある意味、その人の手癖・足癖までたっぷりと見られるわけで面白いとも言えるが、ジャズはやはりリズム(ビート感)だ!という気持ちで聴くと・・・確かにデュオというのはあまり面白くない場合もけっこうありそうだ。
さて、エヴァンスとホールのデュオ・・・これは・・・僕は本当に凄いと思う。もちろんその前に、本当に好きだ(笑) その「凄い」は突き詰めていくと・・・やはりこのレコードのA面1曲目~my funny valentine の凄さなのだ。ごく一般的に言うと・・・ピアノとギターというのは、本来(器楽的な面として)ジャズでは相性が悪い。ハーモニーを出し、メロディも出し・・・という機能面で似ているので、出した時のサウンドとして「カブル」(被る~音が重なってしまってハーモニーが引き立たないというか・・・そいういうニュアンスで相性が悪いと・・・いう面は確かにあると思う。
この「アンダーカレント」は、ある意味・・・そうした器楽上の困難さに、ビル・エヴァンスとジム・ホールという2人の名人(白人技巧派として)が挑戦した・・・そんなレコードだと僕は思う。そうしてそんな2人の何が凄いのか・・・というと、それは「鋭すぎるリズム感の交歓、いや、せめぎ合い」ということになるかと思う。 my funny valentineは、普通の場合・・・スローバラードで演奏される。しかし、このテイクは違う。1分=180~200ほどと思われる急速調である。いきなりエヴァンスの引くメロディからスタカートをバリバリと掛けてキビキビしたテキパキした硬質my funny valentineなのである。ドラムスとベースがいないので、たしかに・・・なにやら疲れる。というより、普通のジャズだったら、あるはずの「聞こえるビート」「聞こえるタイム」がないのだ!これは・・・困る(笑) 落ち着かない(笑)フワフワしちゃう(笑)
しかし・・・これは2人の音楽的チャレンジでもあるのだ。ビートとタイムは今、聴いている自分が発現すればいいのである。アタマの中でも、あるいは手を膝に叩いたスラッピングでも何でもいいので、カウントを取って聞こえてくるビートに合わせてみる・・・そうすると2人の演っている「音」というのが、いかに凄いか・・・判ってくる。
このmy funny valentine・・・聴いていてグッ、グッと突んのめっていくような感じを受けないだろうか。この音楽が好みでない方にしてみれば、セカセカした感じと言ってもいいかもしれない。それはおそらく・・・テンポが速いからだけでなく、2人のノリ方が当たり前に「乗る」4ビートではないからのだ。小節のアタマ(4拍の1拍目)を、あえて外したようなフレージング。2拍・4拍のノリをあえて外したようなリズムのコンピング(相手がソロを弾いている時にバックに差し入れる和音) 2人はそのコンピングをどうやら1拍半(1.5拍)
のタイミングで入れているようだが、それを意地になって連続してくる。そしてその「1.5拍」は強烈なシンコペーションにもなってくるのだ。
<2小節8拍を~2・2・2・2(2x4=8)と2拍づつ刻むのではなく、例えば、1.5・1.5・1.5・1.5+2(この最後の2拍を1.5+0.5の場合もある)と
刻む。いや・・・この考えを倍の4小節(16拍)まで引き伸ばして、その間、延々と1.5拍攻撃を続けている場面さえあるようだ>
う~ん・・・こりゃ、聴いててもホント、どこがどこやら判らなくなる(笑) しかし・・・この2人はこの曲のどこで何をどうやっても、コーラスの進行を寸分違(たが)えずに音楽を進めていく。確固たる信念を持って先鋭的なリズムのやりとりを進めていく2人の厳しい佇まいに、僕は思わず身を硬くしてしまう・・・それくらいこの my funny valentineは凄い・・・と思う。そんな2人の緊迫したやりとりが、ひと山越えると、今度は、ジム・ホールがその真骨頂を見せる。エヴァンスのピアノのソロの途中、ホールはギターで4ビートを演ってしまうのだ。いや、ジャズを4ビートで演るのは当たり前だが、そうじゃない。よくあるようにベースの替わりをギターの低音部シングルトーンで弾くのでもない。ギターのコード(和音)を弾きながらそのまま4ビートを表出してしまうのだ!「なんだ、これは!」最初にこのレコードを聴いた時、その「和音の4ビートカッティング」に僕はブッとンだ。これは・・・ちょっとギターを弾いたことのある人ならば・・・同様に感じるであろう、ある意味「ショッキングなサウンド」なのである。そしてもっと凄いと思うのは・・・ジム・ホールという人がその「和音の4ビートカッティング」の音量を、微妙に抑え加減にして、なんというか技巧的に凄いというだけでなく、その技術をちゃんと音楽的なものにしてしまっていることなのだ。このジム・ホールは・・・本当に凄い、いや、素晴らしい。なお、いつもの僕の妄想では(笑)この「4ビートカッティング」が鳴り始めた瞬間、ピアノのビル・エヴァンスは、グッと目を見開いた。そうしてほんの一瞬、間を取ったが、その素晴らしいアイディアとサウンドに嬉しくなり、「よしっ!それならばオレもグイグイいくぜ」と鋭いフレージングに切り込んでいったのだ・・・。
*この「アンダーカレント」については、コメントも頂いたyositakaさんがご自身のブログでも触れてくれた。「2人のデュオ」という観点で素晴らしい表現をされている。
http://blogs.yahoo.co.jp/izumibun/32543379.html
このアドレスでご覧ください。bassclefもコメントをしました。その補足として、この追記を載せました。

UA盤話題で何度となく言葉になった、その「抜けの良さ」は、アイリーン・クラール、Motor City Scean、Undercurrent以外のタイトルでも実感していた。それは、有名なアート・ファーマーのModern Art。2ヶ月ほど前だったか、いつも2人でレコード聴きをするrecooayajiさんのモノラル盤と僕のステレオ盤で聴き比べた際、モノラル盤では引っ込み気味だったベースとドラムスが、ステレオ盤では、スパ~ッと抜けたように、大きな響きになり、しかもそれはふやけた感じではなく、しっかりした音圧感を伴った鳴りに聞こえたのである。
通常の場合、モノラル盤志向のrecooyajiさんであっても、レーベルによってはステレオ盤の方がいいのかな?・・・という見識もお持ちだ。つまり・・・いい録音のステレオ盤には偏見はない(笑) 実際、同タイトル2種(Art)を聴き比べてみて、これだけ「ベースの出方、ドラムの鳴り方が違ってくると・・・これはやっぱりステレオ盤の方がいいね」という場面もあったりで近頃は、僕らの仲間でも「UAはステレオ」がちょっとしたキーワードともなっている(笑)

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2008年8月 8日 (金)

<ジャズ回想 第16回>暑い日にYoさん宅に集まった(その2)

やっぱりロリンズはいい!

今回のYoさん集まりではいろんなジャズ、クラシックを聴いた。ペッパー、ゴードン、マリアーノ、フィル・ウッズの50年代ジャズの後、ちょっと「現代ジャズ」(チコ・フリーマンとアーサー・ブライス)。クラシック(プレヴィンとカラヤンの「惑星」、展覧会の絵、デュプレのチェロ、ラフマニノフの3番、チョン・キョンファのバッハ曲など)も聴いた。マイルスやフランクロソリーノ、MODEレーベルのミニ特集、「my one & only love」の聴き比べ、それから、ロック(ツェッペリンの何か)も少し。もちろん女性ヴォーカルもいくつか聴いた。エセル・エニスのChange of Scenery(capitol)、リタ・オビンク(オランダの歌手)、エリス・レジーナ。さらに、サラ・ヴォーンとクリフォード・ブラウンのemarcy盤~ブルーバック、ブラックバック、カナダ盤、日本盤BOXセット(デジタル・リマスター)~の聴き比べ。これはなかなか面白かった。
いつものことだが、こうした音聴き会を終えると、いろんな音楽の様相~そのイメージみたいなもの~がアタマの中を渦巻いて、たいていその日の夜はうまく寝付けない。翌日もなにやらぼお~ッとした感じなのだが、それは「心地よい疲れ」でもあり、なかなか悪くない。そうして、ちょっと落ち着いてから、会で聴いた曲を改めて自分の手持ち盤で聴いてみると、その曲を聴いた時の感触がリアルに甦ってくるのだ。そんな具合で、混沌としていた音たちのイメージが整理されてくると・・・その日の音盤たちを記録しておきたくなるのが僕の病気だ(笑) どのレコードもいいものばかりなので「全て」を書き残しておきたい気持ちもあるのだが、今回の(その2では)ジャズ盤で印象に残っているものをいくつか書いてみたい。

《以下の写真~「橋」以外は全てYoさん提供》
Prst_7677_j Yoさんが「じゃあ、エルヴィンを」と言って針を落とす。張りのあるテナーとバリトンの野太い音。この両者とエルヴィンのドラムスが絡みあうようなテーマの曲だ。たしかに聴いたことのあるサウンドだが、うう・・・これはエルヴィンのbluenote盤かな? いや、ちょっとbluenoteとは感じが違うようだ。それとこのバリトンは・・・bluenoteのエルヴィンにバリトン入りなんてあったかな? そうか、このバリトン・・・ペッパー・アダムスか。となると・・・あっ、そうだ・・・アダムスのプレスティッジ盤、ズート入りのあれだ!「これ、エンカウンター?」と聴くと、Yoさんが「うん」と、ジャケットを見せてくれた。このレコード・・・僕は何かの再発盤で持っているのだが、ズート目当てに聴いたわりには、そのズートがいつもの柔らかい感じとは違っているような印象を持っていた。たしかにこのズート・・・いつもよりバリバリと吹いているみたいで、ちょっと新しい世代のテナーみたいに聞こえなくもない。エルヴィンと演っているためか、1968年の演奏なので、ズートのスタイルもちょっと変わってきているのか。聴いた曲は in and out。ブルースっぽい曲だが、バリトン、テナー、それからピアノ(トミー・フラナガン)が1コーラス(12小節)づつソロを取るのだが、どのコーラスでもエルヴィンがブレイクを取る。その4小節の間、ソロ奏者は「バッキングのリズムなし」でアドリブしなくてはならない。このブレイクがあまりにも頻繁なので、最初は新鮮に感じたその「ストップ感」がちょっとくどい感じもしないではない(笑)Prst_7677
それにしても、エルヴィンのシンバルの・・・いや、スネアやらバスドラ、それら全体から湧き上がってくるような「鳴り」は・・・凄い。ただ、もともと「ドカ~ン!」と鳴るエルヴィンの「響きの全体」に、ちょっと「エコー」が掛かり過ぎていて、量感は凄いがややタイトさに欠けるようにも感じる。1968年12月の録音。そんな「エコー感」からも、engineerは・・・ヴァン・ゲルダーだと思い込んでいたのだが・・・今、手元にある米fantasy再発盤(日本ビクタートレーディング)の裏ジャケットには、Tommy Nolaと表記されていた。

もう1枚、エルヴィン絡みで聴いたのは~As9160_j
Heavy Sounds(impulse) このimpulse盤は1967年発売なので、センターラベルは「赤・黒」がオリジナルとのことだ。これは好きなレコードだ。テナーがフランク・フォスター・・・特にフォスターという人を聴き込んではいないのだが、このレコードを聴くたびに「いいテナ ーだなあ」と思ってしまう。そしてこのimpulse盤、何がいいかって・・・ベースのリチャード・デイビスがいいのである。まずギュッと締まったベースの音色が心地いい。それから、デイビスのグイグイッと引っ張るようなビート感も、そして、ソロを取るときのガッツ溢れる「唄おうとするマインド」も素晴らしい。
そういえば、リチャード・デイビスを一度だけ見た。新宿ピットインで森山威夫のライブが終わった後に、翌日行われる<リチャード・デイビスmeets 森山威夫、板橋文夫>の公開リハーサルなるものを1時間ほど見ることができたのだ。あれは・・・たしか翌日にソニー・ロリンズを渋谷公会堂で見た時なので・・・1981年だったように記憶している。As9160_2
椅子とかは片付けられてしまい、それでも残った熱心なファンが注目する中、そのリハーサルが始まる。ところが、リチャード・デイビスのベースの音は・・・細くてペンペンだった(笑) レコードで聴くあの強靭さがほとんど感じられないその貧弱な音色に、僕はもう本当にがっかりしてしまった。ところが、デイビスが10分、20分と弾き込むにつれ・・・ベースの音が徐々に「深く」なってきたようなのだ。弾き込むことでベース自体が鳴るようになってきたのか、あるいはアンプの調整をうまく合わせてきたのか、とにかく「いい音」になってきた。リハーサルなので、テーマとエンディングの合わせくらいで、ベースもソロなどほとんど取らないのだが・・・なんというか、マグマの地熱のように吹き出てきて、演奏が「徐々に熱くなってくる」ような感じだった。あの独特なグルーブ感は・・・デイビス自身の持つ底の知れないジャズマインド~そのマインドの深さが生み出す凄さだったのかもしれない。リハーサルであの具合なら・・・これは本番では、さぞや・・・と思わせてくれるリチャード・デイビスであった。
ちなみに、私見では、この日、いくつか聴いたチコ・フリーマンとの名コンビのべーシスト~セシル・マクビーとよく似たタイプだと思う。音色の質、ビート感、マインド・・・好きなタイプのべーシストである。
さて、このHeavy SoundsからYoさんが選んだのは~shiny stockings。これは文句なく、いい曲だあ!(笑)この有名曲・・・実はフランク・フォスター自身の作曲である。
Heavy Sounds(impulse)は、先ほどのEncounter(presitge)とほぼ同時代の録音なのだが、「録音」という観点で比べると、僕はこのHeavy Soundsの方が、うんと好きだ。フォスターの(たぶん)しっとりした音色も自然な味わいだし、デイビスのベースのタイト感もよく録れている。そして何よりもエルヴィンのドラムス・・・その全体の鳴りが~もちろん「でっかい鳴り」ではあるが、過剰な強調感がない(ように感じる) こちらもimpulseなので、録音はVan Gelderかと思いきや・・・今、僕の手持ち盤(再発のグリーンラベル)でチェックすると、Bob Simpsonだった。この人、オスカー・ピーターソンの「リクエスト」の名エンジニアである。

Lps_2 ロリンズの「橋」をかけてもらった。このレコード・・・僕は長い間、日本盤で聴いていたのだが、ようやくRCA VictorのLSP盤(ステレオ)を入手した。自分の荒っぽい装置で聴いても「かなりの鮮度感」と思ったので、ぜひYoさん宅のいい装置で聴いてみたかったのだ。
where are you?を聴く。ロリンズのテナーの音が、その音の輪郭がググ~ッと余韻を持って拡がる。「エコー」で拡がるのではなく、ロリンズ自身がおそらくテナーを揺らして音色の音場を拡げている・・・そんなソノリティ(「音の響き具合」というような意味合いか)を感じる。時に、ロリンズが音をベンド(音程を微妙に上げ下げするような感じ)させる辺りの表現力・・・これには参ってしまう。あの上げ下げは・・・おそらく、マウスピースに通す息をわざと詰まるようにしてベンドさせているのだろう。そんな「小技」だけでなく、とにかく全編がロリンズ独特の音色によるロリンズの「唄」になっている。う~ん・・・これは気持ちいい!このwhere are you? は、ロリンズのバラードでは最高かもしれない。(笑)ジム・ホールの控えめな音量だが、キュッと芯のあるギターもいい音で鳴っている。以前からRCAのステレオ録音は好きだったが、この「橋」は、自然な質感の、しかし充分に音圧感を持った本当にいい録音だと思う。
次に、Yoさん手持ちのモノラル盤も聴いてみる。モノラル盤もやはりいい音だ。つまったような感じもなく、テナーの音も伸びやかに拡がるし、ウッドベースの厚み・音圧感は、やはりモノラル盤の方に分がありそうだ。
私見では、RCA Victorは、モノラル盤でもステレオ盤でも、音質の感じに大きな違いはないように思う。音質の傾向としては、過剰な色づけが少なくて、どの楽器の音もしっかり録られている感じがして、実に聴きやすい音だと思う。録音エンジニアは、Ray Hallだ。RCA Victorステレオ盤のいいところは・・・モノラル盤に比べても各楽器の音圧感がほとんど落ちないまま、ピシッと各楽器が定位されることで、僕はロリンズのテナーが右寄りから振りかぶってくるようなステレオ盤が好みである。

もうひとつ、Yoさん手持ちのロリンズのVictor盤を聴いた。Lsp_3355_j
The Standard(LSP:ステレオ盤~こちらもengineerはRay Hall) である。my one & only loveをかける。実はこの前に、ちょっとした「my one & only love」特集があり、チコ・フリーマン(Beyond The Rain)、リッチー・カムーカ(mode盤)のmy one & only loveを聴いていたのだ。そしてロリンズのこの曲~意外な感じがするが、ピアノがハンコックなのである。
僕は「このmy one、いいんだけれど、ハンコックのピアノがなあ・・・」と隣にいたkonkenさんに言うと・・・「合わないだけじゃないですか?」とクールな反応であった。ロリンズとハンコック・・・確かに「合わない」(笑)たぶん、他ではない取り合わせである。久しぶりに聴いたこのmy one & only love~ ゆったりと音をいつくしむように吹くロリンズはやっぱり素晴らしいじゃないか。良くない印象だったハンコックのピアノも、左手のハーモニーがちょっと「新しい感じ」で僕の好みとはちょっと違うが・・・切れのいいタッチがいい音で録られており、案外に悪くなかった(笑)Lsp_3355
このStandard~これも実にいい音だった! これではRCAのロリンズは全てステレオ盤で揃えたくなってしまう。そういえば、ブログ仲間のbsさん<Blue Spirits>で、うんと以前から「RCA期のロリンズは凄い。ぜひステレオ盤で聴いてほしい」という内容の記事を書かれていた。今回、「橋」と「スタンダーズ」のステレオ盤を続けて聴いてみて、bsさんの得たであろう感触を実感できた。
そして、もっと実感したのは・・・僕はやっぱり、ソニー・ロリンズを大好きなんだ!ということかもしれない(笑) 

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2007年4月20日 (金)

<ジャズ回想 第10回> ああ・・・この音だ。Yoさん宅、再・再訪記(その1)

いくつかの聴き比べを交えて「音楽」に浸った9時間。

推測だが・・・ジャズ好きという人種は「偏屈」である。もちろん、僕も例外ではなく、どちらかといえば狭い人間関係の下で生きている(笑) ところが、この3年ほどか・・・九州の新納さんの田園の中のレコード店~Ninonyno(ニーノニーノ)さんのBBS「こだわりの杜」に顔を出すようになって、そこでのやりとりを通じて、ジャズのお仲間が増えてきた。その後、このブログ<夢見るレコード>も始めて、さらに多くのジャズ好きの方と知り合うことができた。このごろでは、「杜」のお仲間と「ミニ杜」と称してオフ会的に集まったりもする。持ち寄ったレコードを聴いたり、しゃべったりしていると、本当に楽しい・・・そうして、判ったことがひとつある。「ジャズ好きはジャズ好きと語りたい」のである(笑) そして「オン/オフ」に係わらず、「語り合えるお仲間」がいるということは、素晴らしいことだ。
そんなお仲間のYoさんとは、たびたびジャズ話しのメールやり取りをしている。たいていは、最近入手して気に入ったレコードとか、逆にそうでもなかったもの、あるいは再発ものなどでも、やけに録音がいいと感じたものとか・・・そんなレコード話題である。レコードやミュージシャンに対する好み、あるいは録音に対する好み・評価などは、合ったり合わなかったりなのだが、そんなやり取りをしていると、「聴き比べてみたくなる盤」が、次々に浮上してくる(笑)
例えばこんな具合である。ある時、ラウズ~モンクのことから話しがグリフィン(リヴァーサイドの「ミステリオーソ」(nutty)に及んだ。
Yoさん~「モンクとやっているグリフィンは、緊張しているせいか大人しい」
bassclef~「いや、そんなこともない。いい感じでノッてるのでは」
お互いに「そうかなあ?」そして再聴してみるのだが、やはり意見は変わらない。それも伝える。またまた「う~ん・・・変だなあ」
その「ミステリオーソ」・・・双方の手持ちの盤は何なのかな?
う~ん・・・それじゃあ、ひょっとしたら録音の感じが違うかもしれんぞ(特にリヴァーサイドだから:笑)じゃあ、ぜひ聴き比べてみよう!・・・てな感じなのである。
Yoさん~Misterioso(riverside)黒・ステレオ《下の写真2点はYoさん提供》MisteriosoMisterioso_l

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《左写真:bassclef~Misterioso(riverside)青・小・モノラル》

この「ミステリオーソ」の聴き比べについては、すでにニーノニーノさんのBBS「こだわりの杜」に書き込みレポートをしたので、その書き込みを以下に再掲させていただきます。

モンク/ミステリオーソ(riverside)~
これは「モンクとのグリフィンはおとなしい感じ」というYoさんの印象~[ミステリオーソでは頼りなげに聴こえるんです。録音の所為かもしれません。モンクのピアノが強く明確に録られているので余計に音の小さなグリフィンがそのように聞こえるのかもしれません。ステレオだと左隅で小さくなって吹いているように聴こえます。(モノとステレオの違いも有るのかも?)]というYoさんと「いつものグリフィンだと思う」というbassclefのメールやりとりから、Yoさん手持ちの<黒・小・ステレオ>とbassclefの<青・小・モノラル>を、ぜひ比べてみよう!という経緯があったわけです。
曲はlet's cool one にした。この曲、途中でモンクらがバッキングを止めてしまい、完全にグリフィンのテナーだけになる辺りがスリリングだ。メロディがチャーミングで、モンク曲の中でも特に好きなのだ。
先に[黒・小・ステレオ]から~
聴き馴染んだあのメロディが始まる・・・ところが、グリフィンが左の方、それもかなり遠い。確かにYoさんの印象どおりで・・・・他の楽器とのバランスからいっても、かなり小さめだ。これは・・・「おとなしいグリフィン」になってしまっている(笑)これを聴いたのなら・・・たしかに「モンクに遠慮でもしているのか?」と感じてしまうだろう(笑)Yoさんに「う~ん・・・(なぜグリフィンが大人しい・緊張?と感じたのか)これで判った」と言う僕。Yoさん、ちょっとホッとしたような表情。
続いて[青・小・モノラル]~いきなりのピアノのイントロから音が元気だ。カッティングレベル自体もモノラルが高めにしてあるようだ。
そして・・・グリフィン。中央から太く、そして大きな音量バランスでテナーが鳴り始める。Yoさん「全然、違う!」さきほどホッとしたYoさん、今度は、モノラル盤の「粋のよさ」に、少々、悔しそう(笑)
どちらかというとステレオ派(特にライブ録音では)の僕でも、こうして続けて聴くと・・・この「ミステリオーソ」に関しては、モノラル盤の方が「音楽」が
楽しめる。う~ん・・・モノラルも悪くないなあ(笑)
それにしても解せないのが、この黒・ステレオ盤は、裏ジャケにray fowlerもクレジットされており、例の「変なステレオ3D図面」もある。
そして僕が聴いてきたステレオ盤(昔のポリドールの2枚組monk's world)でも、こんなに「遠いグリフィン」ではなかった。戻ってから聴いたファイブスポット未発表テイクでのグリフフィンも、中央やや左から、もっと大きなバランスで元気に鳴っていたのに・・・。この「黒・小・ステレオ盤」では、フォウラーが、意図的に、テナーを抑えたバランスでのミキシングをしたのかなあ・・・?当時のriversideは、ちょっと変則で、あるセッションなりライブの際、モノラル用の録音とステレオ用の録音を「同時に」やってしまったらしい。ミキシングで各楽器の位置、音量を「変えて」しまったのかもしれないし、録音の際の「マイクの位置取り」において・・・モノラル用の方にアドヴァンテージがあったのかもしれない(笑)
いずれにしても・・・モンクのファイブスポットは、本当にいいライブです。僕はもう大好きなレコードで、これでベースがアブダリマリクでなく(もちろん悪くないのですが)ウイルバー・ウエアだったらなあ(笑)と隣のkonkenさんに洩らした僕でした。



レコードというのは、普通は~普通でない場合ももちろんあるでしょうね(笑)~なかなか同じタイトルのものを何種類も集めない。しかし、そのレコードに「ラベル違い」があることが判っていて、しかもお互いの手持ちの中でそれらが揃ったとなると・・・これはやはりその「ラベル違い」で、どんな具合に音質が違うのか、あるいは違わないのか?  そんなことを知りたい気持ちになるのも、レコード好きとしては無理からぬことだろう(笑)
さきほどの「グリフィン」と同じ経緯で浮上してきたここ最近の「聴き比べ候補盤」あるいは「お勧めの好録音盤」(ほんの一部)を以下に挙げてみる。

Lorindo Almeida/~Quartet(pacific:PJLP-7) 10インチ盤~[ラベルの艶:有り/無し]
Stan Getz/~Plays(clef:10インチ盤)と ~Plays(norgran:12インチ盤)と 同音源のEP盤(EP-755)
Oscar Peterson/We Get Requests(verve)~このレコードは、MGM-VERVEのT字ラベルなのだが・・・「モノラル溝あり」と「ステレオ溝あり」と「ステレオ溝なし」の3種あることが判ったので、それもぜひ聴き比べてみよう!とあいなった(笑)
(以下は、bassclefの思う好録音盤として)
Frank Rosolino/Free For All~[米specialty盤とセンチュリー国内盤]
Thelonious Monk/Blues Five Spot(milestone/ビクター)
Bill Evans/Time Remembered(milestone/ビクター)この2タイトルは共に
1982年頃発売されたriversideの未発表音源だ。

こんな具合に「聴きたい盤」が増えてくると、どうしても集まりたくなる(笑) そんなわけで半年振りにYoさん宅におじゃますることになり、今回はkonkenさんと2人で藤井寺に向かった。早めに出たのだが、関~伊賀辺りが事故渋滞で、そこを抜けるのに1時間以上もかかってしまった。トンネルの途中で止まってる時など~まだこの先、何時間待たされるかも判らないので~せっかちな僕は「チャンスは今日だけじゃない・・・」と、あきらめかけたりしたのだが、konkenさん「ここまできたら絶対に行く!」と力強い一言。じゃあ、ってんで、覚悟決めて、あれこれとジャズ話しなどして渋滞の苦痛を耐え忍ぶ二人。いいかげんイヤになってきた頃・・・天は我々を見捨てなかった(笑) 伊賀の「加太(かぶと)トンネル」を出ると、とたんに渋滞が消えたのだ。二人とも「やったあ!」 後はもう、飛ばすに飛ばす(笑)
そうして 11:30頃にはYoさん宅に到着できたのである。よしっ、これでまた「あの音」が聴けるぞ!

左側に手すりのついた、ちょっと急なこの階段を上り始めると・・・そういえば昨年の秋、この部屋に14人も集まったのだなあ・・・と懐かしいような気持ちになる。あの時は先に到着していたパラゴンさんが「ヴォーカル特集」を展開しており、階段の途中で漏れ聞こえてきたのは・・・キャロル・スローンだった。スローンのOut Of The Blue(columbia)からの・・・deep purple~イントロ部分での、弦を使ったちょっと不協和音のようなアレンジが特徴的なあの曲~が流れていたように記憶している。もっともこういう記憶は、後から自分の中で勝手に脳髄インプットされたりもするので、アテにはなりません(笑)
*10月の「大阪・神戸・秋の陣」会の模様は、拙ブログ記事に長々と書いてあります。こちらからどうぞ。

さて・・・今回の3人会は、ラウズ3連発から始まった。ラウズから始まり、そのまま「テナー特集」と化し、次に「聴き比べ」をやり、インストばかりではちょっと厭きるので、「ヴォーカル」や「ピアノトリオ」を混ぜ、再び「聴き比べ」。その後、ちょっとだけクラシック。それからアルトで、またヴォーカル・・・そんな感じで、実にいい按配に、次々と「音楽」が流れていった。ひとつの曲が終わると、短くその感想を言い合い、そして次にかけるレコードを取り出す・・・時間がどんどん経っているようでもあったが、3人とも休む素振りを見せない。そして・・・全く疲れない。まるで名手の吹く自然なアドリブのようではないか(笑)

YeahYoさんが最初にかけたのは、チャーリー・ラウズの Yeah!(epic) からyou don't know what love is。普通はバラードで演奏されることの多いyou don't know だが、ラウズは、あえて最初からベースがゆったりテンポの4ビートを刻むリズムを選んだようだ。そして、ペック・モリソンの強くギザギザしたような音色が、目の前のスピーカーから弾んだ瞬間・・・「ううっ。これは凄い!」と僕:bassclefは、 唸ってしまった。右隣に座ったkonkenさんも、やはり「うう・・」とスピーカーの方を見つめたままだ。

《上下の写真2点ともYoさん提供》
Yeah_l前回、レコードによっては響きが膨らみすぎる場合のあった、ウッドベースの音が見事に締まっているのだ。いや、充分に存在感を感じさせながら、わずかに引き締まった感じになっているようなのだ。ペック・モリソンという人の参加レコードはそれほど多くないと思うが、そのいくつかのレコードで、音の大きそうなガッツあるタイプのべーシストだとは感じていたが、正直に言うと、ここまでペックモリソンが「凄い」と感じたことはなかった。
「凄い」というのは・・・なんというか、ペック・モリソンというべーシストの「音が大きい」ことが判るだけでなく、その一音一音に込める気合やら、ベースで紡(つむ)ぐライン全体の迫力・・・そんなものまで「判って」しまったという意味なのだ。
いかにも音が大きそうで太くて重くて、ちょっとギザギザしたような独特なモリソンの音色。心持ち、弾むようなビート感が心地よい。彼の刻む4ビートが見事にゆったりと、しかし決して鈍重にはならずに「音楽」を支えている。それに乗っかって、ラウズのテナーが深く沈みこむような音色でもって、自分の唄を吹き進んでいく。それから、デイブ・ベイリーの重心の低いドラムス。
それらがしっくりと溶け合った実に感じのセッションではないか。たぶん「音色」の相性までもがよかったのだろう。Yeah!という作品は・・・本当に傑作と呼んでもいいだろう。

そういえば、ラウズのテナーも、このEpic盤:Yeah!では、実に魅力的な音で録られているように思う。前々回の<夢レコ>では、ラウズの音色を「深い」と表現したが、Yeah!でもやはり・・・深い。その深さにさらに落ち着きが増して、どっしりした重さも加わっているような感じなのだ。
そのラウズのテナーの音色が、面白いことに、同じ時期の2枚のEpic盤~[Yeah]と[We Paid Our Dues]とでは、微妙に違っていたのだ。レーベルが同じでも「同じ音」と決め付けてはいけないようだ(笑)
以下、その比較の印象を少しだけ。(jazzlandのTakin' Care~も参考として聴いてみた)

Yeahの方~深みと重み、それに渋みがブレンドされたような音色。豊かに響く。ラウズは元々、わりとサブトーンを使うので、音色の輪郭自体も丸みのある方だが、やや膨らみ気味かもしれない。だがしかし、僕はラウズに関しても、Yeahでの音色の方が好みのような気がする。

We Paidの方~(Yeahに比べると)音色自体もちょっと締まり気味で、サブトーンなどの響きの余韻を程よく抑えたような感じ。だから・・・ラウズが少しだけ知性的になったような感じがする(笑)

Takin' Care(jazzland) からpretty strange ~この盤では、再び「膨らみ気配」のテナーになった。サブトーンの余韻もやや強調気味か。もちろん悪い録音ではないのだが・・・2枚のEpic盤の~両者共にどうにも魅力的なテナーの音色だった~直後に聴いたこともあり、「あれ?」という感じがするくらい「普通」のテナーの音に聞こえてしまったことも事実だが、まあそれくらいYeah!の録音が素晴らしいということだろう(笑)

・・・・・ラウズ3連発を聴き終えると・・・このYeah!を初めて耳にしたらしいkonkenさんも「ラウズも、いいねえ」と嬉しそうだ。
ハロルド・ランドやテディ・エドワーズ、それからこのラウズ・・・独りでじっくりと吹かせると実にいい味を出すタイプだと思う。その手のテナーのちょっといいレコードも、この後でかかることになる。

さて・・・今回は、いきなりの「驚愕のベースサウンド」で始まったので、その後かけたいろんなレコードのそれぞれのべーシスト達の「音の印象」を少しまとめてみたい。

《We Paid Our Dues(epic)黄・モノラル。写真2点ともYoさん提供》
We_paid_lWe_paid









ラウズ2枚目のレコード~We Paid Our Dues(epic) からは、バラード:when sunny gets blueを聴いた。 

~ラウズとセルダン・パウエルが3曲づつ分け合っての1枚。交互に1曲づつ配置されているとのこと。ラウズの3曲は以下。
When Sunny Gets Blues
Quarter Moon
I Should Care
2曲のスタンダードなど、とても趣味のいい選曲だと思う。気になるペック・モリソンの名が、なぜかパウエルの方のセッションに載っている(笑)

この曲でのべーシストはレジー・ワークマンであった。(このレコードでの)ワークマンは・・・ベースの音色がもうちょっと下の方に伸びたような感じ。音色の説明はとても難しい(笑)そうだな・・・ビル・エヴァンスのExplorations(riverside)でのラファロのベース音に近い感じかな。ワークマンもラファロと同じく一音一音をグウ~ンと伸ばすビート感を持つ弾き手だ。このレコードでも「巧いべーシスト」の音色だったが・・・その音量はたぶんペックモリソンよりも小さい。そして、ラウズのテナーのもっさり感には・・・ペック・モリソンの方が「相性」がいいように感じた。
いずれにしても、さきほどのペック・モリソンとはおもしろいように「音」が違う。いや・・・「音が違うことが判る」のだ。そしてそれは、それぞれの奏者にそれぞれの「個性」がある~そんな当たり前のことを、もう理屈ではなく目の前の音から確認できるということなのだ。
2人のベース奏者を比べただけでも、こんな風に「個性の違い」が見えてくる・・・これは面白いですよ(笑)
もちろん演奏の良し悪しや録音の具合によって、その「表われ方」に微妙な差はあるかもしれないが、音量・音圧、そして音色、そんなその奏者の「真実」を、そこにあるスピーカー(の間の空間)から感じとることができるのだ。聴く方には面白いが、演奏者には「怖い」ことだろうなあ(笑)
ちなみに、サックスやピアノは違いが判るが、ベースやドラムだと判りにくい・・・とよく言われるかと思う。管楽器やピアノの場合だと、その主役の吹くテーマやアドリブを聴き込めば(そして身体で覚えてしまえば)音色やら(特徴的な)フレーズなどから、各奏者の違いを聴き分けやすいのかもしれない。その点、たしかにベースが主役のソロイストとして、メロディーを弾いたり、アドリブを弾きまくることは少ない。しかし・・・僕は、ベースやドラムスの場合でも全く同じだと思う。ベースならその(好きになった)べーシストの演奏(ライン)を意識して、ある程度まで聴き続ければ、終いには「その奏者」のクセを身体が覚えてしまいます。そうなれば何かのレコードをメンバーを知らずに聴いたとしても「あれ?この弾き方は・・・」てな感じで「その奏者」だと、判るようになったりします。(もちろん判りやすい奏者と、そうでない奏者がいますが)
そうして、そんな「耳」(意識)になってくると・・・オーディオの「素晴らしさ」そして「怖さ」は、よりいっそう増すのかもしれない。

ベースの音がいいねえ・・・という感想をkonkenさんと言い合っていると、Yoさんが次なるレコードを繰り出してきた。
ソニー・ロリンズ/A Night At The Village Vanguard(bluenote)~UAラベルだったかな?~から softly as in a morning sunrise をかける。
*訂正~このbluenote盤は<RVG刻印ありのリバティー・モノ盤>でした(Yoさんコメント参照)

強烈な引っ張り力でウッドベースという楽器を雄大に鳴らしているであろうウイルバー・ウエア。
そのベース音は、ガット弦の特徴でもある、音色のエッジが丸く膨らみながら低い方に伸びるような音色だと思う。そのウエアの大きな音像が、充分な膨らみを持ちつつ、切れ味ある鳴りっぷりだ。
この曲でのエルヴィンはブラシで通すが、時にアタックを効かせたエルヴィンのバスドラが、コンパクトにドシッ!ドシッ! とすっとんでくる。乾いたいいドラムスの音だ。この頃のエルヴィンは、まだまだ端正な感じだ(笑)
僕は、もちろんこの「ヴィレッジ・ヴァンガード」は大好きなレコードで、以前にも記事にしたのだが、実は、このライブ盤の音については、ちょっとひずみっぽい雑な録音だと思っていた。しかし、このリバティ・ラベル盤は、ドラムもべースも、そしてもちろんロリンズのテナーも、いい具合にすっきりした、そして実にいい音だった。
以前からYoさんの装置では、ベースがよく鳴る。充分すぎるほどの音量・音圧がベース好きの僕にはうれしくなるようなサウンドだった。ただそれがゆえにレコード(その録音バランス)によっては、どうしてもベースが出すぎ・膨らみすぎの感じもあって、Yoさんももちろんそれを自覚されており、今回は、その辺りも調整をしてきたらしい。どこをどうしたとかは、例によって尋ねもしなかったが・・・出てくる音~その低い方から中音・高音のバランスは~さらに「いい方」へ(少なくとも僕の耳には)変わっていたのだ。
「ベースの音色」で言うと・・・低い方での響きの輪郭の広がり具合が2割くらい締まってきて、そのことで、ベースのライン(弾いている音程)が、より鮮明になってきた。「ベースの抜け」がぐんとよくなったのだ。特にウイルバー・ウエアとかジョージ・デュビュビエらの「大きく太く鳴らす」タイプのベースラインが、見事に「抜けた」ように感じる。今、思うに・・・どうやらYoさんは、「ベース音像膨らみの絞り気味調整」~その仕上がり具合を、ベースにうるさい僕に聴いて(聴きとって)もらいたかったのかもしれない(笑)

そして、ベースの音色の輪郭がややスリムになったことで、さらによくなった(と僕が感じた)のは・・・ドラムスなのである。実はベースの低い方とドラムスのバスドラ(右足で踏む大きい太鼓。直径が一番大きいので「ドン!」と低く鳴る)は、実際の演奏においても、わりと「かぶり」やすいらしく、バスドラがドン、ドンと大きめな音量で鳴ると、その瞬間(バスドラの響きの余韻が残っている間)自分で弾いているベースの低音が聞き取りにくくなることがあるのだ。そのバスドラが、以前よりすっきりしてきたようだ。バスドラ、ベースの中低音~その辺りの景色が、霞(かすみ)が晴れたように、クリアに浮かび上がってきたのだ。
そしてなぜか、ハイハット(左足で踏む~シンバル横向きに上下2枚に合わさったやつ。「ッシャ!ッシャ!」と鳴る)の音も、前よりくっきりと感知できたのだ。いや、以前ももちろん聞こえてはいたが、今回聞いたハイハット・・・シンバルの厚みというか・・・重みのある「ッシャ!」になっているのだ。特に冒頭でかけた、Yeah!(ドラマー:デイブ・ベイリー)とこの辺りは僕の錯覚かもしれないが・・・低音域のややかぶり的な要素が取り払われたことで、もともと鳴っていた中高音辺りのハイハットも、より実在感のある「鳴り」として浮かび上がってきたのかもしれない。あるいは、この「ハイハット」については「弦の艶が出てきた」ことと~ちょっと前の「杜」に、そんなコメントがあった~関係があるのかもしれない。
いずれにしても・・・ベースが豊かな響きはそのままに、よりタイトに少しスリムに(このことで、僕などはベースの音色により色気みたいなものを感じた)、しかもドラムスの方もぐっと見晴らしがよくなり、バスドラ、ハイハットもくっきりと浮かび上がる! これは・・・リズムセクションの動き・具合までじっくりと聴きたいジャズ好きには・・・もうたまらなく魅力のある音だったのだ。

~「じゃあ次はちょっと新しいエルヴィンだあ!」とkonkenさんが取り出したのは・・・
Elvin Jones/ Polly Currents (bluenote)liberty から Mr. Jones。
《写真2点はkonkenさん提供

Polly_currents_2 これは1968年だったかの録音で、だいぶエルヴィンの音が荒々しくなっている。テナーが凄い。このレコードには2人のテナー奏者がクレジットされていた。ジョー・ファレルとジョージ・コールマンだ。僕はジョー・ファレルはけっこう好きなので、初期のメイナード・ファーガソン時代のルーレット盤なども聴いていているが、なかなかワイルドな凄いテナー吹きだと感じている。長いソロを取るテナーがジョー・ファレルだろう。どうやらこの曲ではファレルだけがソロをとっているようだ。Polly_currents_label

エルヴィンのドラムス・・・この頃の録音になると、先ほどの1957年録音のコンパクトに締まった音とは、だいぶん違う。まず全体にドラムス(正に複数形のドラムスでないと感じが出ない)の響き全体がバカでかい!(笑)
スネアやらバスドラが、いちいち「ドカン!」「ドカン!」と鳴り響いている。いいんだもう・・・何でも。エルヴィンなら・・・許す(笑)
3人で豪快な鳴りのエルヴィンを堪能しました。しかしこの時代のエルヴィン・バンドのべーシスト~ウイルバー・リトル~は大変だったろうな・・・。さすがにエルヴィンが大きく鳴らしている時には、その響きに隠れがちだったが、それでもあのうねり・あの響きの中で、きっちりと芯のある強い音色が強力にビートを刻んでいるウイルバー・リトルもいいべーシストだ。
ああ・・・今日はベースばかりに耳がいく(笑)いや、耳がいかなくても・・・勝手に身体にベースの音が入り込んでくるのだ(笑)もともとベース好きの僕には、このYoさんの装置は、もう実に極楽なのであった(笑)


さて・・・そろそろ「聴き比べ」をやらねばならんね(笑)とYoさんと僕はゲッツの盤を取り出した。
同じ音源で4種の盤が揃った。
Yoさん~ Stan Getz/Plays(clef:MGC-137) 10inch
Yoさん~ Stan Getz/The Artistry(clef:MGC-143) 10inch
bassclef~Stan Getz/Plays(norgran:MGN-1042) 12inch
bassclef~Stan Getz/~Quintet(clef:EP-155) 7inch

ちなみに「子供キス」のジャケットで有名なStan Getz Playsだが、もちろん10インチ盤の方が古い。
Plays(137)とartistry(143)~こちらの方が元々の「子供キス」ジャケなのだ~の2枚の10インチ盤が発売された何年か後になって、12インチ盤のStan Getz Plays(1042)が出たのだろう。10インチ盤には各8曲。12インチ盤には12曲(137の8曲+143のA面4曲) 収録してある。

このスタン・ゲッツの聴き比べは、少し前に、ニーノニーノさんのBBS「こだわりの杜」の書き込みから浮上してきた話題だった。以下にちょっとその模様を転載します。

No.15098
ハンドルネーム:Yo   (2007.3.8,14:58:03)     
皆さん、ご無沙汰です。
ひょいと見たら10インチと12インチの話ですね。大概は10インチが先かなと思うのですが、Dukeさん、ひとつ下記の3枚の順序を教えて欲しいのです。(乱入すみません。)
Stan Getz Plays (Clef MGC137):Dec.12'52
Artistry of Stan Getz (ClefMGC143):Dec.29'52&Apr.16'53
Stan Getz Plays (Norgran MGN1042):Dec12&29 '52
Norgran12インチ盤が10インチのClef盤2枚をカップリングしてある感じですが、52年12月のセッションだけでまとめてあるので、オリジナルがどうなのか知りたいのです。特にあの有名なジャケがNorgran盤とClef143と同じなのでどちらが先か知りたいです。よろしくお願いします。 

No.15099
ハンドルネーム:Duke   (2007.3.8,16:06:44)     
Yoさん、お久しぶりです。Goldmine Jazz Album Price Guideとw. Bruynicckx著Modern Jazzz Discographyの両方で調べた結果、Clef MGC 137とMGC 143は1953年、Norgran MGN 1042は1955年となっています。NorgranのほうにはApr.16'53のセッションは入っていないようです。Yoさんのおっしゃるように「Norgran12インチ盤が10インチのClef盤2枚をカップリングしてある」ということになります。ご参考になれば。

No.15100
ハンドルネーム:Yo   (2007.3.8,16:49:02)     
Dukeさん、ありがとうございます。
あのゲッツがサックスを抱いて子供のキスを受けているジャケがどちらが先か気になったんです。そうですか Norgran1042は2年も後ですか?12月の早い2つのセッションをまとめてあるので、ひょっとしたらClef143が最後かなと思っていました。・・・良かった。Clef盤大事にします。(笑)・・・でもClef盤のゲッツの音が特別すごいとは思わないので、Norgran1042も聴いてみたいですね。

No.15101
ハンドルネーム:bassclef   (2007.3.8,19:24:31)     
Dukeさん、みなさん、こんばんわ。
10インチと12インチ・・・なにやら面白そうな気配が(笑)Yoさんが挙げられたゲッツの3種、やはり10インチ2枚が先ですか。「子供にキス」のジャケットは、10インチだと[plays]ではなくて、artistryの方なんですね。
>Norgran1042も聴いてみたいですね~
Yoさん、偶然にもそのNogran1042(12インチ)なら持ってました(笑)
以前「関西・杜の会」(Yoさん宅)でもちらっとかけてもらったゲッツのclef・EP盤(time on my handsやらbody & soulなど4曲入り)の音もかなりいいぞ、と思ってるのですが、Norgranの12インチ盤の方も、ゲッツのテナーの音は・・・かなりいいように感じました。もっとも僕の好みのゲッツが、52年頃なので、何を聴いても「よく」感じてしまうのかもしれませんが(笑)
またぜひ10インチと12インチとそれと7インチでbody & soulなど聞き比べてみたいですね。

~こんな具合で、この「ゲッツ・聴き比べ」は、僕自身もものすごく楽しみにしていたのである。1952年のゲッツ・・・僕はこの頃のゲッツがどうにも好きなのだ。どの曲においても、ゲッツがあのマイルドなテナーの音色で吹き始めると、フレーズがどうだとかなど考える間もなく・・・その曲は「ゲッツの唄」になってしまう。もう何をどう吹いても・・・ゲッツなのだ(笑)言わば・・・too marvelous for words(笑)  とにかく素晴らしい。

さあ、その1952年のStan Getz Plays・・・かける順番をちょっと相談した。
やはり時代の新しい方からということで、僕の12インチ盤Playsからにした。どの曲も素晴らしいのだが、どうせならEP盤(4曲収録)にも入っている曲にしよう、ということで、time on my hands を選んだ。 

Dscn1688_11  Norgran盤~ミディアムテンポにノッたピアノのイントロが流れてくる・・・すぐにテーマを吹き始めるテナー。盤質がそれほどいいとは言えないので、多少チリパチが入るが、ゲッツのテナーの音色は・・・くっきりとして充分に鮮度感のある悪くない音だ。ただ、中高音をわずかに強めにしたような感じもあり・・・だから、この12インチ盤でのゲッツのテナーは、ちょっとだけ硬質な感じに聞こえなくもない。というのも、僕はこのtime on my handsを、12インチ盤よりも先にEP盤で聴き込んでいたので、そのEP盤に比べての話しである。

Getz_plays10inch Clef盤~これが「Plays」だよ、と言われると、一瞬、たじろぐが(笑)・・・このイラストのジャケットも、さすがにデビッド・ストーン・・・実にいい味わいだ。なかなかお目にかかれない一枚でもある。裏を見て嬉しくなる。というのは・・・この10インチの裏ジャケットの写真(黄色のゲッツ)が、僕のEP盤と同じ写真だったのだ!

Getz_plays_bGetz_plays_l_2









《10インチ盤3点の写真はYoさん提供》

さあ・・・と同じ曲、time on my handsをかけてもらう。イントロでは、それほど大きな差は感じなかったが、 ゲッツのテナーが入ってくると・・・う~ん、やはりだいぶ違うぞ・・・先ほどの12インチの方がすっきり感のあるちょっと新しめの音とすると、10インチの方は落ち着いた感じで、ややこもった感じもあるが・・・その「こもり感」が心地いいのだ。 ゲッツのテナーが、よりソフトにマイルドに聞こえるのだ。  「ソフト」と言っても、音色がふやけたわけではない。テナーの音色の肌触りが「より木目細やか」になったと言えばいいのか。 そうしてその「マイルド」さは、僕が以前から知っているEP盤でのゲッツの音と同質なものだったのだ。音全体のイメージとしては「温かみと品がある」ということかもしれない。

7inch Clef盤~このEP-15 5は以前にも<夢レコ>に登場させたことがある。ここ、Yoさん宅の10月の集まりの時、第1部の最後にかけてもらった。その時、たしかDukeさんがこう言った・・・「いつものゲッツと違う!」僕の推測では、その「違う」は、よりソフトにキメ細やかに聞こえる、という意味だったのだと、今は思う。7インチ盤は一般に盤質が良くないことが多い。扱い方の問題なのか盤の材質の問題なのかは判らないが、僕のいくつかのEP盤にも盤質のいいものはほとんどない(笑)そして・・・ゲッツのこのEP-155は、うれしいことに、盤質が最高なのである。
Dscn1689このEP盤からの time on my hands は・・・音色の質感はやはり10インチ盤と同じ感じである。そして、もう少しだけテナーの音色に潤(うるお)いが増したようで、そのテナーの音色が、軽く「フワ~ッ」と浮かび上がってくるような感じでもある。う~ん・・・Dscn1690やっぱりこの45回転はいいなあ(笑)

《EP盤~EP-149とEP-155。10インチ盤:Playsの8曲が、この2枚のEPに、4曲づつ収録されている。同じセッションからの音源で型番も近いのに・・・なぜか155の方が音がいい。ゲッツのテナーが、滑らかでクリアなのだ。コンディションの差だけではないように思うのだが・・・不思議である》

もう1枚の10インチ盤~artistryの方からも何か聴こう、ということになり、かけた曲は、A面のthese foolish things。さきほどのPlaysの8曲は、52年12月12日の録音で、こちらのartistyのA面4曲は、12月29日である。録音日はとても近い・・・なのに録音の感じはちょっと違うようだ。Yoさんも僕も、この点については同じような印象を持ったようだ。つまり・・・artistryも、もちろん悪くないのだが、ゲッツのテナーの生々しさ~そんな「気配」のレベルでは、どうも12日の8曲の方が「いい録音」のようだね・・・というような話しをした。 Artistry_1《写真3点:Yoさん提供~この10インチ盤のartistryが、「子供キス」の初出自ジャケットである》 Artistry_b

・・・と、まあ、こんな 具合で会は進んでいくのだった。まだほんの少ししかお伝えしていないが、このままではあまりに長くなりすぎるArtistry_l(笑) だから、とりあえずここまでを「その1」として、ひときりつけよう。いったい「その~いくつ」までいくのだろう(笑)
まだまだお伝えしたいレコードのことや、聴き比べの話しもある。 
次回をお待ちください・・・。

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2006年9月10日 (日)

<思いレコ 第11回> ソニーロリンズ/ヴィレッジヴァンガードの夜

ウイルバー・ウエアのこと(その1)

_004_9だいぶ前の<夢見るレコード>(ヘンリー・グライムス編)で、「こだわりのベーシスト」という内容でシリーズにしていくつもりだ・・・と書いた。<夢見るレコード>は、ジャズそのものの内容についてはもちろんだが、やはりそのミュージシャンなり曲に関わるようなオリジナル盤も交えながら、いろんなジャズ話しをしたい~そんな造りでやってきた。好きなミュージシャンや好きな曲は、それこそいっぱいあるのだが、いつも都合よく関わりのオリジナル盤が手元にあるわけではない(笑) 想うばかりでなかなか記事にできなかったりもする(笑) だから・・・これからは「オリジナル盤」に拘りすぎるのは、やめようと思う。拘りすぎはしないが、記事の内容につながりがあって、ちょっと思いついた盤があれば気楽にとりあげたいし、そしてそれがオリジナル盤であれば、なお都合がいいと思う(笑)
そんな訳で・・・いろいろとこだわりの多い僕としては、このベーシストについて、そろそろ書かねばなるまい。
ウイルバー・ウエアである。

僕が最初にウイルバー・ウエアを聴いたのは「モンクス・ミュージック」だ。1972年の「ネムジャズイン」の帰り名古屋で買ったABC riversideの茶色ラベルの盤だ。すぐに好きになった。思わず「ニヤッ」としてしまうようなユーモラスなソロ。普通でないバッキングでのランニング(4ビートの時の音選び)。そして、その太っい鳴りのサウンドにも痺れた。聴いていて・・・とにかくおもしろかったのである。

ウエアはリヴァーサイドの専属みたいだったらしく、ケニー・ドリュー、アーニーヘンリーらと相当な枚数を録音している。そしてそのほとんどは、OJCのLPでも発売されたと思う。僕もウエアのリヴァーサイドのものは、ほとんどはOJCで聴くことができた。OJC以前では、1972年にビクターがriversideの復刻シリーズが重宝した。第1回発売の何枚かにアーニー・ヘンリーのPresenting が含まれていたし、ウエアのリーダーアルバムの「シカゴ・サウンド」が発売された時は、嬉しくてすぐに入手した。

_005_4《写真の盤は、ビクター盤。緑色のマイルストーンレーベルが哀しい:笑》

リヴァーサイドでのウエア参加作はかなり多いので、次回に「リヴァーサイド編」としてまとめたい。
今回「その1」では、他レーベルでのウエア参加作からとりあげてみたい。

ウイルバー・ウエア。まず連想するのは、やはりあの盤だろう。ソニーロリンズがサングラスをしているジャケットのA Night At The Village Vanguard だ。僕はこの有名な盤をジャズ喫茶で何度も聴いてはいたが、買ったのはかなり遅く、1980年くらいだった。うんと安いオール青の音符ラベルだ。その前にマイケル・カスクーナ監修の未発表2枚組は入手して聴いていたが、この2枚組には、ジャズ喫茶で何度も聴いて気に入っていた sonny moon for two や I can’t get started が入ってなかったのだ。_003_3

前回の<夢レコ>  (1975年の日比谷屋音)では、渋谷のヤマハ楽器でパーカーの The Happy Bird を買ったことも書いたが、あの時・・・迷ったのが、このロリンズのVillage Vanguard である。紫色のジャケットがカッコよかった。時期的におそらくブルーノートの「直輸入盤」だったはずで、たしか2200円もした。あの頃、普通の輸入盤なら1500円前後で買えたので、ブルーノートはかなり高かった。だから渋谷ヤマハではパーカーのライブ盤にしたのだろう。

そのVillage Vanguard でのウエア。これはもう全くユニイクなプレイで、誰が聴いても「おもしろいベースだなあ」と思うだろう。その「おもしろい」を好意的に捉えるかそうでないかが、分かれ目である(笑)

softly as in a morning sunrise という曲がある。この曲・・・最初に聴いたのは、多分、コルトレーンのLive At The Village Vanguard だった。コルトレーンヴァージョンでは、マッコイの正統派モード風の長いソロが印象的なsoftlyであったが、このロリンズヴァージョンでは、ユーモラスでたくましい感じのSoftlyに仕上がっている。

Wilbur Ware on bass, we'd like to feature Wilbur, right now というロリンズの紹介の後、ウエアが短いイントロを弾き始める。このイントロ~ベースでイントロというと、4ビート(1小節に4分音符4回)でランニングするか、あるいは2ビート(1小節に2分音符2回)でテンポをキープすることが多いのだが~ウエアは、いきなり8分音符多用してのベースソロみたいな感じで始め、ビートの裏を強調した「ッタ・ッタ・ッタ・ッタ」というフレーズを交えながら、強力なリズム感でテンポはがっちりキープしてくる。ビート感も最高だ。おもしろい!もうここからウエア節炸裂である(笑)
そのイントロの後、テーマをロリンズが吹き始めるのだが、その吹き方もおもしろい。この曲のアタマのメロディは「ドー・ソー」(キーがCmの場合)で、普通は最初のドの音を2分音符で伸ばすのだが、ロリンズは、4分音符(8分音符+8分休符)を2回吹くのだ。「ドッ・ドッ・ソー」・・・これで、このSoftlyの運命は決まったのだ。ユーモラスでたくましいsoftlyになるように。
思うにロリンズも・・・イントロでこんなにもユニイクな個性のベースを聴いて、ジャズ魂が湧き上がってしまったのかもしれない。ロリンズのテーマの吹き方にも、何かワクワクするようなうれしそうな気配を感じる(笑) そのうれしそうなロリンズのソロが終わり・・・ウエアのベースソロが始まる。ウエアも、ロリンズのアイディアを弾き継ぎ、やはり最初のメロディを「ドッ・ドッ・ソー」と弾く。それもやたらブッチギリのアクセントをつけて(笑)普通は(コルトレーンヴァージョンも)ドの前に休符を入れたり、あるいは次のソをシンコペにしたりするのだが、この曲でのこの部分のウエアの弾き方は・・・もう思い切りのオンビートなのだ。すごく泥臭いのである(笑) 
しかしそれは、「あえて演出した泥臭さ」でもある。ベースがメロディを弾く・・・その特殊な状態を逆手にとって自分の個性を生かすための「オン・ビート」なのだ。ウエアの場合は、もちろんただ「オン・ビート」な訳ではない。ウイルバー・ウエアという人は、弦を引っ張る右手の「引っ張り力」が
相当に強いような感じがする。ウエアはその強い「引っ張り力」で、一音一音を圧倒的に「太っい鳴り」で強烈に弾き込んでおり、そしてあの弦の独特な響き方~輪郭の丸い大きな響きたぶんガット弦を使っている~そんなものが一体となったユニイクな個性があるからこそ・・・この曲でのウエアの「ドッ・ドッ・ソ~」は、説得力があるのだ。ウエアという人の「唄い」がもう直接に「ブウ~ン・ブウ~ン」と響いてくるのだ。こんなにたくましい個性のベーシストはめったにいないぞ。
ちなみにウエアのソロ、エルヴィンのソロが終わった後、最後のテーマをロリンズが吹くのだが、ここではロリンズは「ドッ・ドッ・ソ~」と吹かない(笑)
たぶん・・・あえて同じようには吹かなかったのだ。ロリンズらしい「捻り」じゃないですか(笑)
になみに「未発表2枚組」にもsoftly が入っている。こちらのテイクでもロリンズは「ドッ・ドッ・ソ~」と吹いてない。裏解説に during the evening performance on Sunday,November 3, 1957 と明記してあるので、つまり「未発表」のsoftly の方が先(夕方)で、「サングラス」の方が後(夜)の演奏ということになる。そうして夕方の softly は、もちろん悪くはないが、あの夜の出足から気合の入りまくった演奏に比べると、かなり生気に乏しい。推測するに・・・昼間の演奏の時にはまだ湧いてなかったインスピレイションが、夜のセットで3人がノッてきて、ロリンズならではの「ひらめき」が一気に湧いてきたのではないだろうか。あるいはあの曲でのウエアの跳ねるような感じのベースソロに、ロリンズがヒントを得ていたのかもしれない。

《写真は、キングの特別復刻盤。音は、案外にいい》

_002_2ちなみに、このレコードには、もうひとつ凄い演奏がある。B面1曲目の sonny moon for tow である。
このブルースは12小節で、アタマ(4小節)・オナカ(4小節)・オシリ(4小節)でできているのだが、それぞれの4小節に、全く同じメロディを3回繰り返すブルースだ。超シンプルだが、ロリンズらしさが横溢したこのブルースを、僕は昔から大好きだった。そういえば、ジャズ研(学生時代のバンド)では、何かというとすぐこの曲をやり、一度始めるとなかなか止まらない・・・それでも「気分」だけはいつもノッていた(笑)

このロリンズ/ウエア/エルヴィンのsonny moon for two 全編素晴らしいのはもちろんだが、僕が特に印象に残っている場面がある。
ロリンズ、ウエアとソロが終わると、エルヴィンとロリンズとで、4bars change(4小節交換)というのをやる。

ブルース(1コーラス=12小節)での4bars change は、アタマ(4小節)、オナカ(4小節)、オシリ(4小節)という感じで
順番にソロを回していく。このsonny moon は1コーラスが12小節なので~まずロリンズ・エルヴィン・ロリンズで1コーラス、次のコーラスは、
エルヴィン・ロリンズ・エルヴィンという順番になるわけだ。
だから2コーラス単位でいかないと、ロリンズがアタマ(最後のテーマを吹くときの)に戻らない。

僕が聴くたびに唸ってしまう場面は・・・最後の2コーラスでの4bars changeの所で飛び出てくる。
前のコーラスのオシリをエルヴィンが長いロールで締めくくった後~普通ならここでテーマに戻りそうな感じだが、ロリンズはあえて(たぶん:笑)戻らない。そのアタマの4小節のロリンズが凄い!
3連の連続から崩していくような「雪崩れフレーズ」を吹き始めると、その自分のアイディアに乗ってきたロリンズが(たぶん:笑)・・・
次の4小節(エルヴィンの番)に入っても・・・止まらないのだ(笑) エルヴィンも自分の順番なのでソロを取り始めようと思ったら・・・
ロリンズがまだ吹いている。そこでエルヴィンは、あまりオカズを入れずにバスドラを4拍アタマで踏み続ける。しかしまだロリンズは止まらない(笑)オナカの部分をすでに2小節くらい割り込んでいる(笑) エルヴィンのバスドラが「ドン・ドン・ドン・ドン」・・・するとロリンズは、そのエルヴィンの4拍アタマ打ちに合わせるかのように、「フゥ~・フゥ~・フゥ・フッ」とサックスを鳴らすのだ。いや、最後の方は息が切れて「鳴ってない」かもしれない。だがしかし・・・そのサックスの「圧力」を、確かにその場から感じるのだ!エルヴィンは「ここぞっ!」とばかりに、バスドラをクレシェンドで強く踏み始める。ウエアもすかさずクレシェンドに合わせて弦を弾く!(はじく) 音楽の圧力が一気に高まる!もうたまら~ん!これがジャズだあ!・・・このsonny moon for two も本当に素晴らしい・・・。

ロリンズ、ウエア、そしてエルヴィン・・・この3人の個性がぶつかりあい、絡み合い、そして溶け合い・・・これこそがジャズだあ!と叫びたくなる(笑)
すごくおおらかでジャズの図太さが溢れる、真の意味での「ジャズっぽい」演奏だと僕は思う。・・・どうやら僕は、このロリンズの A Night At The Village Vanguard をムチャクチャに好きなようだ(笑) そうして、こんな素晴らしい瞬間を生み出したジャズという音楽に・・・僕は感謝したい。

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2006年3月26日 (日)

<思いレコ 第9回> マッコイ・タイナー/today & tomorrow(impulse)

初めてのオリジナル盤はインパルスだった。

分厚いコーティングのジャケット。それから、なんだか変な匂い。これが「輸入盤」というものに対する、僕の最初の印象だ。当時はあくまで「輸入盤」と呼んでおり、「オリジナル盤」というような認識は全くなかった。
いずれにしても、このやけに重いインパルス盤が、僕にとっての最初の「オリジナル盤」だったわけだ。だいぶ後から判ってきたことだが、当時(1972年頃までか?) は、日本のレコード会社が代理店となっていくつかの海外レーベルを「直輸入盤」として販売していたようだ。guramophone
riverside(時期的にABC Riverside)~日本グラモフォン(ところで、日本グラモフォン=日本ポリドールなんでしょうか?ご存知の方、ご教示を。)
atlantic~日本グラモフォン?(アトランティックのオリジナル盤を入手したところ、裏ジャケに「逆文字の刻印スタンプ」~imported by Nippon Gramophone と読める~のある盤を持っている。右の写真がそのスタンプだ。)
それに、bluenote~東芝。あとは impulse~キング くらいだろうか。King_impulse

このキング扱いのimpulse盤は、扱いタイトルの小冊子を持っている。輸入盤なのに、全て「カタカナ」で表記してあるところがおもしろい。
AS1番(great Kai&JJ)からAS100番までとAS 9101番からAS9213番までの200以上のタイトルが載っている。その内、いくつかのものは SR~という型番で日本盤が出ていたようだ。  _002

AS-63番のマッコイ・タイナーのToday & Tomorrow はそんな「直輸入盤」の1枚だった。4つ上の兄貴が大学の生協のレコード売り場で買ってきたものだ。兄貴が言うには・・・その時、有名なコルトレーンの「至上の愛」を買おうとしたら、ジャズ好きの友人が「まだおまえにはコルトレーンは早い。この辺にしておけ」とマッコイを勧めてくれたそうだ。兄貴はちょっと「ジャズ」に興味を覚えた程度だったので、素直に友人の助言に従って、それで今、このマッコイ・タイナーの盤が、僕の手元にあるわけです(笑) それにしても、当時は大学の生協にこんな渋いジャズのレコードまで品揃えしてあったということにも驚かされる。時代的に、大学生が盛んにジャズを聴いていたのだろうか? 
《写真下~1972年に手にしたToday&Tomorrow (impulse AS-63) ステレオ盤 オレンジ黒~盤が異様に厚い》

 

Mccoy_tyner_today

 

   最初、このToday & Tomorrow を触った時・・・とにかく変なニオイがした。ジャケットはインパルス特有のゲイトフォールド、そして分厚いコーティング。ジャケットに使うダンボール自体も厚めなんだろう・・・ジャケットだけでも相当に重い。そして・・・vinyl(盤)がこれまた重い!特に、センターラベルが「オレンジ・黒」の比較的初期の盤は、vinyl 自体もこれまた厚いようで、横から見ても2mmくらいはありそうだ。そうしてその厚さが、けっこう不均等なのである(笑)

「変なニオイ」を嗅ぎながら、それでも何度もこのレコードを聴きました。
A面1曲目は・・・contemporary focus というモードの曲だ。たぶん1963年頃は、なんでもかんでもモードという時代だったのだろう。
モードというと・・・僕がちょっと苦手ないわゆる「新主流派」(bluenoteのハンコックやショーターの流れからのモード手法)のサウンドを想起する方が多いと思う。しかし・・・このマッコイのモードは、新主流派のサウンドとは、なんとなく肌合いが違うのだ。やっぱりエルヴィン、マッコイ、という「コルトレーン的熱いソウル一派」のモード曲は・・・まず「熱い!」それに「くどい!」(笑) 曲のテーマの展開もなんとなく強引というか混沌というか・・・あまりスマートではないのだが、そこら辺りが僕には心地よいのだ(笑)

この曲は、ジョン・ギルモア(ts)~そういえば、ジョン・ギルモアというテナー吹きの「ギザギザしたような・・・乾いた風が吹き始めたかのような」独特のサウンドにも魅かれるものがあった~やフランク・ストロジャー(as)、それにサド・ジョーンズ(tp)が加わった6人編成のセッションの中の1曲だ。そしてその6人セッションのドラムスがエルヴィン・ジョーンズなのだ!

中央やや右の方からエルヴィンの「でっかい鳴り」が響き渡る。シンコペを効かせた4音のイントロ~「ダッ・ダッ・ダッ・ダア~ン」という合わせのところなんかもう・・・エルヴィンの強烈なこと!シンバルの中央付近を叩く「カコ~ン」というような音も混ぜて、そして「グワ~ン」とシンバルを押し(文字通り、押しているのではないだろうか)バンド全体を煽るようにドラムセット全部を鳴らしてくる。この辺りの「合わせ」・・・エルヴィンはたぶん、譜面なんか見てない。出来あがった曲をマッコイがピアノで弾いて、それを即座に身体で吸収してしまったのだと思う。そうして理屈でなく野生の勘で、合間にロールを入れながら、その合わせるポイントよりもほんのわずかに遅らしたような感じで「ドッカ~ン」とくる。これが気持ちいいのだ(笑) きれいにピタっと合わせるだけの後年のフュージョンの「合わせ」なんかとは、もう全く次元が違う。重みが違う。キレが違う。そうしてライド感が違う。エルヴィンが叩けば、そこには必ず・・・ジャズ魂が炸裂しているのだ。_002
ちなみにラストのテーマに戻る前に、短いベース・ソロがある。ブッチー・ウオーレンだ。この人もいい。ベースの音が本当に重いのだ。ハードボイルドな感じで凄みのあるソロをとる。そしてそのウオーレンがダブルストップ(左手を2箇所押さえて、ベースでも和音を出すこと)でもって「ダッ・ダッ・ダッ・ダア~ン」のフレーズを出してくる。すると・・・即座にエルヴィンが応えるのだ。パッと手が動いてしまったかのような、短いロールから「ドッカ~ン」とシンバルを鳴らし・・・爆発するようなこれも短いソロをとる。そうしてイントロと同じあのリズムパターンを繰り返すと・・・もう管奏者たちはテーマに入るしかない(笑)

高1の時に聴いた時は「ああ・・・これがジャズかあ」という感じに、この曲~contemporary focusからは、それこそ現代的(comtemporary)な感触を得ただけだった。しかし今聴けば・・・エルヴィンの凄さを味わうと共に、いいテーマを持つそしてしっかりと構成されたマッコイの傑作オリジナル曲だと思う。

Today & Tomorrow~A面~B面何度か聴きなおしてみたが~3管6人編成での他の曲もどれもよかった。それにトリオセッションでは、ベースがジミー・ギャリスンなので、「チュニジアの夜」「枯葉」もハードボイルドで悪くない。それとバラードでは「when sunny gets blue」というチャーミングな曲も演っており、一気に聴き通してしまった。マッコイのピアノのプレイだけをとっても、僕はこの頃のマッコイが一番好きだ。マッコイのピアノは、特に高音部でのフレーズに独自の輝きがある。右手のタッチが小気味よいほど鮮やかで、しかも一音一音をしっかりと弾き込んでいるようだ。だから・・・高音での「鳴り」が鐘のように響く。インパルスの録音もそれをよく捉えているように思う。マッコイには同時期に、ピアノトリオ(inception、ballads & blues、 plays Elligton、reaching fourth など)も何枚かあるが、やはり管も入ったこの盤がトリオものとのバランスもよく、一番聴き応えがあるようだ。
ジャズ聴きの最初期に何度も何度も聴いたこの盤なので、思い入れがあるのかもしれないが、その分を差し引いても~マッコイの大傑作だと思う。
ちなみに、このオリジナル盤・・・ジャケットのコーティングは隅の方から剥れ始めているが・・・あの「変な二オイ」はまだ微かにジャケットに残っている。

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2005年11月13日 (日)

<ジャズ雑感 第11回> ジャズの廉価盤シリーズとその発売小史:A面

1972年秋、ジャズの廉価盤~宣伝用の小冊子・チラシの楽しみ。

1971年、中3の時からジャズを聴き始めた。LPレコードの当時の2000円というのは、今なら5000~6000円くらいの感覚だろう。だから、そうそうLPレコードなんて買えやしない。だから、最初の頃は、とにかくFMラジオのジャズ番組がたよりだ。カセットテープにどんどん録音して、何度も聴き返した。それでも72年春頃から、テープで聴いてすごく気に入ったモンクやマイルスのLPを、少しづつ買い始めたのだ。そんな72年の秋に、「ジャズ廉価盤」が発売された。僕はこの「廉価」を「レンカ」と読めずに、長い間、間違って「ケンカ」と呼んでいた(笑) そうして・・・1972年は・・ジャズの「ケンカ盤」ブームの年だった。このビクターがキッカケとなって、各社から続々とジャズの名盤が発売され始めたのだ。たいていは、1回の発売で10~20タイトルで、それを何回か続けていったように記憶している。2~3年の間に、1200円、1300円、1500円と、じわじわと値上げしつつ、それでも各社から相当なタイトルが発売されたように記憶している。
9月からの年内に発売されたシリーズは以下。たぶん、全てが限定盤だったはずだ。(  )内がシリーズ名で~以下が宣伝文句だ。

1.日本ビクター 1100円盤シリーズ(prestige jazz golden 50)
~50年代ハードバップの”幻の名盤”20枚~
72年9月5日発売。コルトレーン/コルトレーンなど20タイトル。コルトレーンやロリンズ、モンクの主要盤以外にも、ジジ・グライス/セイング・サムシング や ベニー・ゴルソン/グルーヴィング・ウイズ・ゴルソン など渋いタイトルも出ている。

僕は、自転車で「街」(豊橋の駅周辺のことを「街」と呼んでいた:笑)まで出かけ、レコード店から、こういう「廉価盤シリーズ」の小冊子やパンフをもらってきて、解説を読んでは、「次は何を買おうかな」とかの作戦を巡らしていた。ビクターのプレスティッジ/1100円廉価シリーズは、「オリジナル通りの復刻」というのが「売り」だったので、裏解説もオリジナルの写しで英語のままだった。それまでの国内盤はジャケ裏が「日本語の解説」という仕様が多かったのだが、そうじゃない場合には、中に「解説書」がつくのが普通だったのだが、この「ビクター1100円シリーズ」では、中の解説書も一切付いていなかった。「オリジナル通り」というより、コストを抑えるためだったかもしれない。その替わりに、発売タイトルを特集したような「小冊子」をサービス品として、レコード店に配布していたようなのだ。1枚買えば、この「小冊子」を付けてくれた。同じ小冊子がスイング・ジャーナルにも付録として付いていたはずだ。その小冊子がこれだ。

jazz_catalogue_001(左の写真の右下:コルトレーンの表紙のもの)

この小冊子には、20枚の発売タイトルの紹介だけでなく、プレスティッジレーベルに関する、ちょっとしたこぼれ話しや、幻の名盤的な情報などおもしろい記事も多くて、それから7000番台、8000番台のリストも付いていた。 jazz_catalogue_003

この prestige jazz golden 50シリーズは、50と銘打ってあるので2~3回に分けて発売する予定だったのだろうが、初回20タイトルが思ったより売れなかったためか、あるいは、途中で版権が東芝に移ってしまったためか、いずれにしても、この20タイトルで終わってしまった。しかしビクターはなかなか良心的だった。というのは・・・76年か77年頃に、版権が再びビクターに戻った際に、普通の価格ではあったが、相当数のタイトルの復刻を再開したのだ。その際の「小冊子」がこれだ。jazz_catalogue_002

(写真右:右下の横長のもの)65ページも
ある、なかなかの豪華版カタログである。
スティーブ・レイシーの「エヴィデンス」やら
ウオルト・ディッカーソンの「トゥー・マイ・クイーン」など、気になるタイトルが復刻された
ようだ。

2.日本コロムビア 1100円盤シリーズ(jazz historical recordings)~輝かしいジャズの歴史の1頁がここにある。クリスチャンが! ロリンズが!~ 
72年11月発売。ロリンズ/ソニー・ロリンズ・プレイズ など。これは、periodやeverest という当時は全く珍しいレーベル原盤の復刻シリーズだった。コロムビアも小冊子を作った。廉価シリーズだけでなく、ルーレットやルースト、MPSなどの所有レーベルの発売タイトルを紹介した総合カタログ(72ページ)のようなものだった。(一番上の写真:左のもの)
僕はロリンズやモンク入り?のチャーリー・クリスチャン、ジャンゴ・ラインハルトなどを入手したが、サド・ジョーンズ/マッド・サド ジョン・ラポータ/モスト・マイナーなど渋い盤も発売されている。この2枚は、一時期、国内盤の廃盤人気が高かった頃に、かなりの値段まで上がったように記憶している。
「ロリンズ・プレイズ」は、ヴィレッジヴァンガードのライブの翌日の録音ということで、A面3曲のみだが、どれも素晴らしい。<sonny moon for two>では、アイディアに満ちたアドリブで、余裕のロリンズが聴ける。 ちなみに、サド・ジョーンズ/マッド・サド~この中にエルヴィン参加セッション、3曲が入っている。

3.日本フォノグラム 72年12月5日発売。
1100円盤シリーズ(フォノグラム1100コレクション)~ジャズレコードのイメージを変えた全く良心的企画!~
 キャノンボール・アダレイ/イン・シカゴ や ジェリー・マリガン/ナイト・ライツ など10タイトル。

”全く良心的”という表現がおかしいが、要するに、中の解説書も付いてますよ、ということだったらしい(笑)

73年になると、CBSソニー/1100円盤、テイチク/メトロノーム1200円シリーズなども出たと思う。キングのコンテンポラリー復刻は、もう少し後だったように記憶している。

少し経った75年にビクターが「リバーサイド・オリジナル・シリーズ」を開始した。これは廉価の限定発売ではなく、2200円の通常シリーズだった。この2~3年前からモンクやエヴァンスを好きになっていた僕は、その頃、出回っていた abc Riversideの茶色の環っかラベル盤や日本ポリドールからの数少ないリヴァーサイド盤を何枚か入手していたので、リヴァーサイドというレーベルには、もう興味深々だったのだ。
ビクターは、このリヴァーサイド発売時にも、お得意の小冊子を配布した。これも入手している。(右上の写真:右上のもの)
この「リヴァーサイド小冊子」が、「Riverside best selection 100」 と題した32ページもある素晴らしいものだった。
jazz_catalogue_004モンクやエヴァンスの主要盤だけでなく、他にも地味だが内容のいい(あとになって、それがわかってきた)それまで日本盤未発売タイトルの写真と、詳しい解説が載っており、リヴァーサイドの資料としての実用性もあり、とてもありがたかった。オリン・キープニューズという名前を知ったのもこの小冊子からだ。

CBSソニーも、発売タイトルのカタログを兼ねたような小冊子を1年ごとに作っていたようだ。(一番上の写真:真ん中)

これらの小冊子は、コストがかかるので、どのシリーズでも作られた訳ではない。フォノグラムとかテイチクとかは「チラシ」だった(笑) スイングジャーナルとかをチェックすると、たいてい翌月に発売される「~シリーズ」とかの宣伝が載ってる。それそ覚えておいて、発売ちょっと前にレコード店に行くと、たいていは、こういうチラシがタナの上とかカウンターの下とかに置いてあるのだ。ジャズファンなんて、日本中集めても、ほんとに少ないのだろう。どのチラシも、なかなか減らないようで、発売後にもダラダラと残っていた(笑) 

こんなチラシの類も集めた。もちろんレーベルの資料としても欲しかったのだが、どちらかというと・・・とても全部のタイトルは買えないので、せめて「チラシ」のジャケット写真でも眺めていたかったのだ。(笑)

これら「チラシ」にも、眺めているだけで、なかなかおもしろいものが多い。チラシについては・・・ビクターやコロムビア、それから、CBSソニー/1100円盤、テイチク/メトロノーム1200円シリーズ、フォノグラム/マーキュリージャズ1300円シリーズなどを、この「ジャズ廉価盤シリーズとその発売小史:B面」として、いずれ紹介するつもりだ。
ジャズレコード・・・まだまだ未知の盤がいっぱいだ! 

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2005年8月28日 (日)

<ジャズ雑感 第5回>熱いベース奏者たち(A面) ヘンリー・グライムス

音圧を聴く・・・いや、音圧を感じるウッドベース。

ジャズを聴くとき、たいていの場合、ウッドベースの動きに意識が向いてしまう。ウッドと言ったのは・・・エレベ(エレクトリック・ベース)の入ったジャズを、ほとんど聴かないからだ(笑) ジャズ聴きの最初から、そんな聴き方をしていたわけではないのだが、ウッドベースという楽器に魅せられてからは、まず「ベースを聴く」というのが、僕にとっては自然なことになってしまったようだ。ジャズを聴いていて、普通に「耳に入る」楽器は、やはり・・・その曲のテーマ(メロディー)を奏でるサックスやペット、それにピアノだろう。まず、彼らのテーマを聴き、それからアドリブを聴く。もちろん僕も、サックス奏者やピアノ弾き~彼らのテーマやアドリブを聴く。その「唄いっぷり」を聴きとろうとうする。いいアドリブには、う~ん、と唸る。でも、そういう「メロディー聴き」と同時に・・・その後ろで「なにやらうごめいている」ベーシストやドラムスの動きを聴きとりたい~彼らの「唄」も感じとりたい~と強く思うのだ。ウッドベースもドラムスも、主役を支えるリズム陣ではあるが・・・主役の背後で、ただ「さしさわりのない音」を出しているだけではなく、一個の人間(ミュージシャン)が、「何らかの意図を持って音を出している」はずなのだ。特にジャズでは!

音楽というのは・・・やはり、一種の「音響」でもあるわけで、特にウッドベースの低音の音圧やら、ドラムスのバスドラやハイハットの音というもの・・・ある意味、刺激的な「音響」というものは・・・少々でも「それを聴こう」と意識さえすれば~主メロディを聴きながらも「背後の音を聴こう」というような意識の持ち方に慣れてくれば~聴こうとしなくても「聞えてくる」ものだと思う。
ウッドベースの場合だと・・・弾き手によっての「音圧の強さ・弱さ」「ビート感の違い」「ベースラインの動き方」それからもちろん「音色の違い」などを、楽しめるようになってくる。こうして、いろんなベーシストの個性を知ってくると・・・例えば、知らないリーダー名義のレコードに遭遇した時でも、そこに知った名前のベーシストを見つければ~そのベーシストが自分の好みかどうかも加味して・・・そのレコードを購入するかどうかの判断ポイントとすることもできるのだ。ジャズのベーシスト像というと、一般的には・・・「バックに徹する」「目立たない(目立ってはいけない)」みたいなイメージが強いように思う。たしかにそういうタイプも多い。しかし、ジャズの世界には、いろんなベーシストがいる。それに、ベーシストというのは・・・案外に偏屈な人種である(笑) 一見おとなしく、バッキングをこなしているように見えても、実はその陰で~勝手に2拍3連でノリをためてみたり、ドラマーと示し合わせて2拍目に「ド~ン」と入れてみたり、ベースラインを低音域のあたりだけでさまよってみたり、高音域で遊んだり、さらに、ぐいッと音圧を上げたり、またはぐっと下げたり~などと、けっこういろんなことをやっていたりするのです(笑)
だから、ことさらベースを聞こう、などと思わなくても、そんな風なベース奏者の「主張」を、いやおうなしに「聴かされてしまう」ことも、けっこうあるものなのだ。そうして僕は、そんな個性の強い、いやアクの強いベーシストが好きだ。例えば・・・050801_003

ウイルバー・ウエア
ミンガス 
ダグ・ワトキンス  
ジョージ・ジョイナー
ジョージ・タッカー
ベン・タッカー
ヘンリー・グライムス
ジミー・ギャリスン
スコット・ラファロ
それから・・・アクが強い、という表現はちょっとあたらないかもしれないのだが・・・本当の意味で、これほど個性の強いガンコなベーシストはいないんじゃないか、と思えるこの人・・・レイ・ブラウン。

そんな僕の好みのベーシスト達。まだまだいるのだが、キリがない。これらのベーシスト、それぞれの「いい盤」を一挙にコメントしたい気もするのだが、やはりベースについては、僕の拘りの根っこなので、A面~?面として、ミュージシャンを絞って、その分ちょっと詳しく紹介していきたい。いつもクドくてすみません(笑)
今回は・・・ヘンリー・グライムスに絞って、話しを進めていきたい。

ヘンリー・グライムス。まず、その「音色」がすごい。きれいに弦が響く「ボムン・ボムン」というようないわゆるウッドベースの音色ではなく、「ベキン・べキン」と聞こえたりする。左手をガシッと押さえた上で、右手のひとさし指(あるいは中指も加えて)で、強靭に引っ張ったような音だ。おそらく強く引っかけすぎて、それでも強引に弦を弾ききってしまうから、こういう「ベキン」というような音色になるのだろう。多分、グライムスが最も影響を受けたであろう、ミンガスもおなじように「歪む音色」を出す人だ。私見だが・・・ミンガスは多分に意図的にそういう「サウンド」を出しているように思う。とにかくベースから引き出すパワーの量、というものが圧倒的に多い。さすがのグライムスも師匠のミンガスには、ちょっと負けてるかもしれない(笑) いずれにしても・・・ミンガスもグライムスも、普通にきれいに鳴らすタイプのベーシストとは、受ける感じがおそろしく違う。主張が強い。一音一音のピチカート音に「強さ」があり「アク」がある。そうしてこの人のベースソロには・・・深いソウルを感じる。

Gerry Mulligan/Reunion with Chet Baker(pacific)1958年 reuion1  

このレコードは、友人のkonken氏が、パシフィックのオリジナル盤を持っており、何度か聴かせてもらったが、やはり「凄い音」だった。管楽器もよかったが・・・とにかく、グライムスの、あの「ベキン・ベキン」のベース音が、リアルな感じで鳴ってました。(写真は konken氏提供。2ndかもしれない、との本人談あり)

僕の手持ち盤は・・・いや、盤じゃあないな(笑)・・・CD(米EMI)です。まあ、強いて言えば・・・元LPには8曲収録だが、このCDには、別テイクが大量に入っており、その分、グライムスのベースソロがふんだんに聴けるのが、まあ、ちょっとはうれしい(笑)

このレコードは、マリガン/ベイカー組み合わせの再開セッションだが、それにしても、このグループにグライムスとは・・・。かなりの違和感を覚える。音の方は・・・全体にあっさり流れるノリの中で、グライムスは、ハードにブンブンとベースをうならせて、すごくスイングしている。ソロもゴリゴリと強引に弾いている。マリガンとベイカーの「軽い音色」(好きなんですが)。その音色がスムースに流れるジャズには、普通は「差しさわりのない」タイプのベースを使うはずなんだが・・・。例えばモンティ・バドウイッグとか~それだと音楽が平板なものになる~とまで考えて、ちょっとアヴァンギャルドなヘンリー・グライムスという人を起用したのであれば・・・マリガンという人も、やはり凄い人だ。 それとも・・・このレコードの録音時に、たまたまグライムスしか空いてなかったのかもしれない(笑)  reunion2

ジャズの4ビートでのノリのポイントは、1、2、3、4拍の、2拍目と4拍目にアクセントをもってくることだ。ドラムスのハイハットも、この2拍目と4拍目に(1)、「キュッ!」、(3)、「キュッ!」とハイハットの「小気味いい音」を入れるのだ。ちなみに、この2拍目・4拍目のアクセントのことをアフタービートと呼ぶ。
さて、このグライムス。この人のベースの弾き方は、異常に2拍目・4拍目が「強い」。そこまでやらなくても・・・と思うほど、2拍目・4拍目にアクセントを強調した4ビートの弾き方なのだ。
オーディオの世界で、「音の高低」(周波数)を測定するオシロスコープというのがあるらしいが、もしも「音圧」を計る測定器があったとして、ベースのランニングの「音圧」を測れたら・・・これはおもしろいだろうなあ。僕の言う「音圧」とは、「音量」とはちょっと違う。もちろん、音圧が上がれば(上げれば)おのずと音量も上がるだろうが・・・ここでの「音圧」というのは、ベースを弾く時の右手のピチカートする時の、「指のひっかけ具合とか引っぱり具合のパワーの強さ・弱さ」みたいなものを表現しようとした「音圧」のことです。
冒頭に、「ジャズの世界には・・・本当にいろんなベーシストがいる」と書いたが、これは~ランニングの音(選び取る音階)とかソロの唄い口(フレーズ)が違うというだけでなく~この平均的なピチカートの「音圧」が<低いタイプ>、<高いタイプ>のベーシストがいて、また、その基礎パワーの中で<安定音圧のタイプ>、<強弱が大きいタイプ>がある、というような意味なんです。

それにしても・・・ヘンリー・グライムス。この人の1拍目と2拍目(3拍目と4拍目)の「音圧の差」は、相当に凄いだろうなあ(笑) まあ「ダイナミックレンジが広い」とも言える(笑)
さて、そんな「ガンコ的アフタービート死守」派のベースソロは、だから時々4ビートのランニングだけ、というのもある。ランニングだけのソロ、一見、退屈に見えるかもしれないが・・・グライムスに限っては、このアクセントの強調やら音色のハード風味のおかげで、全く退屈などすることはない。まったく・・・世の中には、本当にいろんな人間がいるものだ(笑)だから・・・おもしろい。

あと何枚か、グライムスの参加しているレコードも紹介しておきます。

ロイ・へインズ/アウト・オブ・ジ・アフタヌーン(impulse) ローランド・カークも参加しており、どの曲も快演ぞろいだが、特に<Fly Me To The Moon>でのベースソロは・・・素晴らしい!
一応、トミフラのピアノも伴奏をつけてて、いわゆるフリーではないのだが・・・グライムスという人は、ベースのソロ部分では、あまり「イン・テンポのタイム感」を重視してないようで、精神はまさにフリーだ!なんというか・・・普通のFly Me To The Moonではない(笑) この曲の持つ「ほのかな哀愁」みたいなイメージを、思い切りダークにして、ぐちゃぐちゃにかき混ぜてしまったような・・・そうしてそれをベースという楽器から「搾り出したような音」なのだ。「黒い」イメージのある、インパクトの強いソロだと思う。

Henry Grimes/Henry Grimes Trio (ESP 1026)1965年 
やはりグライムスは、地がフリーのミュージシャンなのだろう。グライムスに興味を持ち始めた頃、がんばって手に入れたのだが・・・ あんまり聴いてない(笑) ベースという楽器は・・・ある制約(例えば、4ビートというリズム)の下で、基本のバッキングをこなしながら、そのバッキングの中にどれだけおもしろいアイディアや主張をちりばめるか、あるいはベースソロにおいてどれだけ「フリーな感覚」を持ちこめられるか、というような部分に、聴いていてのおもしろさがあったりするのだ。だから、ベーシストのリーダーアルバムでベースソロが延々と続いたり、またはフリーイディオムで、ベースのモノローグ(独白)が始まると・・・たとえ器楽的には興味深くても・・・聴いていてあんまりおもしろくないのだ。(少なくとも僕には。だから、チェンバースのベース・オン・トップもあまり好みではない。同じブルーノートでも
「ポール・チェンバース・クインテット」の方が、ドナルド・バードやクリフォード・ジョーダン、それにエルヴィン!も入っており、聴いてても、うんと楽しい。ベースがテーマを弾く<ソフトリー~>にもチェンバースの気合が感じられる。やはり・・・これもエルヴィン効果なのか。)

マッコイ・タイナー/リーチング・フォース(impulse) 1963年            私見では、マッコイはこの頃が一番輝いていた。スタンダードのちょっと新らしめのモード的解釈やらオリジナルのモード曲と、マッコイ自身のピアノプレイが、うまくかみ合っており、聴いていてとにかく気持ちがいい。ドラムスもロイ・へインズで、あの乾いたスネア音とマッコイのクリアなタッチは、よく合っている。そして、ベースがグライムスである。58年の「リユニオン」の頃ほど、2拍目・4拍目のアクセントは強調されておらず、その分、全体に安定した「重い音」で鳴らしている。重い音と重いビート感のおかげで、「ひと味違う」ピアノトリオに仕上がっている。A面3曲目<Thema For Ernie>でのベースソロは~ガッツある音色をフルに鳴らして、ビート感を維持したまま、ちょっとだけハードボイルドな唄い口で弾き切っている~まったく素晴らしい。本当にいいベーシストである。

ソニー・ロリンズ/ロリンズ・ミーツ・ホウキンス(RCA Victor)
<Summer Time>のソロが好きだ。ハードな中に唄心を感じる。

050801_002ソニー・ロリンズの海賊盤~59年のストックホルムやら63年のドイツでのコンサートのライブ盤として何枚か出た~ロリンズとのトリオ編成の演奏は、どれもなかなかすごい。確信を持って4ビートを弾きこむグライムスのベースがトリオを引っ張っていく。ロリンズの大きなノリを、グライムスが支えたり、煽ったり、拮抗したりしている。これらの海賊盤の中では、1984年頃、正式?に dragonレーベルから出た Sonny Rollins Trio/St.Thomas in Stockholm(dragon)は、音質もまずまず。これは・・・1959年のライブだが、ロリンズのものすごくワイルドな面が出ている凄い演奏です。この盤は、少し後にDIW(ディスクユニオンのレーベル)からも出たように記憶している。
63年ライブ(unique盤)は、どの盤も音は相当に悪い。よほどのロリンズ好きかグライムスのマニア(そんな人おるんかいな?)
以外には、お勧めできません(笑)

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2005年8月 9日 (火)

<やったあレコ 第3回> After Hours Jazz(Epic) ああ、エルヴィン!

ハードバップ・エルヴィン~素晴らしいあのビート感!

何年か前に「ハードバップ・エルヴィン!」と題して、エルヴィンのレコード・リストを作っていたことがある。ハードバップ・エルヴィン!などと勝手にタイトルしたが、要は、コルトレーンとの共演以外ののエルヴィン参加アルバムのリストなのだ。コルトレーンとのエルヴィンは、もちろん凄いのだが、普通の4ビートでのエルヴィンも、これまた凄い(笑) 4ビートの場合、右手に持ったスティックで右側にセットしたトップシンバルを叩く~基本は「チーン・チーキ・チーン・チーキ」だが、それはあくまで基本であって、バリエーションは自由~のだが、この「シンバル・レガート」の鳴り方、いや、鳴らせ方が、エルヴィンだと、もう全然違うのだ。何が違うって・・・なかなかうまくは言えないが・・・手首を柔らかく使ってなめらかに、しかも豪快に鳴らしている。そうして、どんなテンポでも「速度」を感じさせる。といっても、テンポが軽はずみに走ったりするわけではない。「速度」というのは、「速度感」のことであり、テンポが速いとか、遅いとかいう問題ではない。この「速度感」というのは、おそらく・・・一定のテンポに対し、微妙に「突っ込み気味」だったりするシンバルワークや、ちょっと「もたれ気味」だったりするバスドラ、これに、時々繰り出す「爆風のようなロールと、そのロールの響きを巻き込むように、強烈なシンコペでドカーンとくるバスドラとシンバルの強打」・・・そんなもの全体から浮き出てくるfeelingなのかもしれない。一定のテンポを、とにかく律儀にキープするだけのドラマー~例えば、コニー・ケイ。(もちろんMJQの音楽には、あのスタイルが合っているのだろう)彼と比べてみれば、いかに全体のドラミングの表情が違うものか、お判りいただけるかと思う。
とにかく・・・エルヴィンの、あのシンバルレガートからは、凄いビート感が生まれてくるのだ。そうして、「ジャズ」という音楽の中で、どこに一番「ジャズらしさ」を感じるか、というと・・・それが、このこの「ビート感」なのだ。
同じように、凄いビートを感じさせるトニーのシンバルレガート。しかし・・・トニーとエルヴィンでは、ビートの質感が違う。トニーのレガートは、「爽快」だが、エルヴィンのレガートには、もう少し「重さ」がある。トニーのスピード感というのは、例えば・・・50kmの速度を、125ccのバイクでキビキビと走る感じか。
そうして、エルヴィンは・・・速度は同じだとしても、トルクに余裕を感じさせる400ccでゆったりと、しかもキレを保ったまま走る、というような感じか。もっともエルヴィンの場合、バイクというよりも、「野生の馬」で、自由自在に草原を駆け巡るようなイメージの方が似合ってる。何かに「乗る」というのを「ライド:ride」というが、「リズムに乗る」という状態も「ride」表現しているようだ。エルヴィンのシンバルレガートからは、文字通り、この「ライド感」がたっぷりと感じられる。そうだ、それにトップシンバルのことを「ライド・シンバル」ともいうじゃないか。エルヴィンのレガートは・・・聴いていてとにかく、気持ちがいいのだ!ひょっとしたら、ジャズを聴く上での「快感No.1」じゃないだろうか。
そして、そんなエルヴィンの「快感」を味わうには、コルトレーンとの諸作よりも、素直な「ハードバップ・エルヴィン」の方が最適なのだ。思いつくレコードを何枚か挙げてみる。

050801_001After Hours Jazz (Epic ) LNー3339
この盤は、いろんなセッションからのオムニバスだ。例の「Jazz Data Bank」(拙ブログ~月~日の記事)の「トミー・フラナガン」の項に、このレコードのジャケ写真が載っていた。その記憶を頼りに、トミ・フラ目当てで入手したのだ。だから、この盤を聴いた時、エルヴィンが入っていることを失念していた。そしてB面1曲目~サヒブ・シハブ(bs)のリーダーセッションだろうか~<Hum-Bug>を聴いて、僕は驚いてしまった。おおっ!このシンバル・レガートは!このキレ、このノリは・・・エルヴィンしかあり得ない! とすぐさまジャケ裏をチェックすると・・・やはり、エルヴィンだった。うれしい~(笑)
シハブとのセッションは、2曲のみで、もう1曲は<Southern Exposure>で、トミフラやケニーバレル、エディ・バート(tb)も参加している。 

ベニー・グリーン/ソウル・スターリン(bluenote)東芝盤
 ブルーノートにエルヴィンは珍しい。エルヴィンのライド・シンバルにのって吹きまくる太っい(ぶっとい)音色のトロンボーン。無骨いテナーのジーン・アモンズも負けてはいない。2人ともディープなソウルに溢れている。
そんな重量感のある管奏者たちにキリリと絡むソニー・クラークのピアノがチャーミングに映える。バラードの「That’s All」は、思い切ったスロウなテンポだ。情感あふれるソニー・クラークのソロも絶品。これは、本当に好きな1枚だ。

クリフォード・ジョーダン/ストーリー・テイル(jazzland)Wave盤
ジョーダン(ts)とソニー・レッド(as)の2管にロニー・マシューズ(p)かトミー・フラナガン(p)が入る。61年録音なので、(私的には)
僕の思っているハードバップより少し新しい感じかもしれない。新しい・・・というのは、要するに「モードっぽい曲」が多い、ということだ。
割と急速調の曲が多いが、2管でモード、ということで、なにか後のエルヴィンのコンボのサウンドの原型のような感じも受ける。
ソニーレッドも好きなアルトだ。マクリーンほどではないが、音色が、充分に「濃くてドロドロ」している(笑) うれしくなってしまう。050801_003 

ところで・・・エルヴィンのドラム音というのは、レコードでは、どうも「抑え目」に録音されていることが多いように思えてならない。
JJ ジョンソンと演ってるColumbiaの録音では、特にそう感じる。おそらく、録音ディレクターが、エルヴィンの「音のあまりの大きさ」に驚いて、思わず(録音技術上)入力レベルを下げてしまったのでは? と邪推したくなるほど、ドラム音が「遠い」。遠くて小さい。残念である。このジャズランド盤でも、若干、その傾向を感じる。その点、インパルスは偉い!エルヴィンのヴォリュームを基準として、他のレベルを合わせてる感じで、ドラムスが主役といってもよさそうだ。

最後に、オマケとして・・・僕がリストアップした「ハードバップ・エルヴィン!」の古い方から、1958年くらいまでの分を、ちょっと書き出してみる。もちろん完全じゃあない。録音年月もいい加減なものだ。追加情報も、ぜひコメントにて、お知らせ下さい。

1948年(と解説にあるが、そんな古いはずはないだろう)
?   variousu aritists/Swing,Not Spring (savoy) 4曲

1955年 
 7月  Miles Davis/Blue Moods (debut)  4曲

1956年
 5月  variousu aritists/After Hours (epic)    2曲
 7月  J.J.Johnson/Jis For Jazz (columbia) 4曲
11月  Bobby Jasper/~ Quartet (仏columbia)  8曲
12月  Art Farmer/Farmer’s Market (new jazz) 4曲

1957年
 1月  Sonny Rollins/~ Plays (period)      1曲のみ
 1月  Thad Jones/Mad Thad (period)       3曲
 1月  J.J.Johnson/Dial For J.J.(columbia)10曲
      Jay & Kai/ Jay & Kai (columbia)  1曲のみ(I should care)
 2月  Kenny Burrell/Blue Moods (prestige)   6曲
 2月  Thad Jones/The Magnificent vol.3 (bluenote) 4曲
 2月  Thad Jones/Olio (prestige)   6曲
 5月  Paul Chambers/~ Quintet (bluenote)  6曲
 5月  Bobby Jasper/with George Wallington(riverside)6曲
 8月  Tommy Flanagan/Overseas (   )  9曲+3曲
10月  various artists/Roots (prestige)  2曲
11月  Sonny Rollins/A Night At The Village Vanguard            vol.1~vol.3(bluenote)
11月  Sonny Red,Pepper Adams,Wynton Kelly etc./Two Altos(savoy) 2曲
11月  同じ/Jazz Is Busting Out All Over (savoy)                  1曲
11月  Red Rodney/Fiery (savoy)  3曲
11月  Pepper Adams/The Cool Sound Of ~(regent) 4曲

1958年
 1月  Mal Waldron/Mal 3 (new jazz) 5曲
 3月  Pepper Adams,Jimmy Knepper (metro) 7曲
 4月  Bennie Green/Soul Stiring (bluenote) 6曲
 4月  Jones Brothers/Keeping Up With The Jones          (metro) 7曲
 ?   Hank Jones/Porgy & Bess (capitol) 10曲 
 4月  Pepper Adams/10 to 4 At The Five Spot       (riverside) 5曲
10月  Lambert,Hendriks&Ross/The Swingers (pacific)      1曲のみ(jackie)
10月  Steve Lacy/Reflections (new jazz) 7曲

1959年

 6月  Herb Geller/Gypsy (atco) 8曲
10月  Thad Jones/Motor City Scene (united artists) 
(追加)1959年~
 2月  Gil Evans/Great Jazz Standards (world pacific)
  3月  Tommy Flanagan/Lonely Town (日キング)
 3月  Crutis Fuller/Sliding Easy (united artists)                       
 5月  Randy Weston/Destry Rides Again(united artists)
 5月  Art Farmer/Brass Shout (united artists)

・・・・ああ、キリがない。この辺りでやめとこう(笑)

いつまでも現役でドラムを叩いてくれるのでは、と思ってたエルヴィンが昨年(2004年)亡くなった。エルヴィンの本当の凄さはテクニックなんかじゃない。今、演ってるその演奏を「もっとビートを出すぞ。もっともっと熱くしようぜ!」という気合いを、どの時代にも持ち続けたことなんだと思う。昨年、エルヴィンが亡くなる直前、たまたま、米オークションでエルヴィンのブルーノート盤(Liberty)に友人の代理でビッドしていた。運良く落札できたのだが、その少し後、エルヴィンの永眠を知った。僕はそのfeedback欄(オークションの取引後に短いコメントをアップするコーナー)に、こう書いた・・・<We Love Elvin Jones!We Love Jazz!>

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