<やったあレコ 第8回>Bill Potts/The Jazz Soul Of Porgy and Bess(united artists)
いつかは、このアルバムを<夢レコ>に載せたいと思っていた。リーダーはビル・ポッツというあまり聞き慣れない名前ではあるが、もちろんビル・エヴァンス絡みの1枚としてである。
古い「ジャズ誌」を2冊だけ持っている。1975年10月号と1976年1月号なのだが、特集は「ジャズ・べースの深遠にディグする」と「ビル・エヴァンス物語」であった。1975年・・・ちょうどこの年に、僕はウッドベースを始めたのだった。それまで少しはギターには触っていたとはいえ、フレットに目印もないような楽器に、そんなに簡単に入り込めるはずもない。あのバカでかい楽器にしがみつきながら「ジャズ~っ!」と叫んでいるような毎日だった。聴く方でも日本ビクターから出始めていた多くのリヴァーサイド盤を通して、ビル・エヴァンスを、もう充分に好きになっていた。そしてもちろん・・・ラファロのことも。つまり・・・僕はジャズという世界に身も心も捧げていたのだ(笑)
そこへ、この「ジャズ・ベース特集号」・・・これは買わないわけにはいかない(笑)
どの記事もよかったが、特に白石誠という人の<スコット・ラファロ物語>は読み応えがあった。白石氏は相当なラファロ信者のようで、「ラファロの2拍3連」がいかに素晴らしいのか~を説明する場面では「チェンバースの貧弱な2拍3連」という過激な表現もあったりするが、僕はラファロのベースプレイに心酔していたので、そんな白石氏のラファロへの思い入れ溢れる文章には、素直に感動してしまったのだ。
そして白石氏作成のラファロのディスコグラフィーも大いに役立つものだった。3ヶ月後に出た1月号もいい内容だったのですぐに入手した。この号にも白石氏作成の「ビル・エヴァンス・ディスコグラフィ」が載っていた。特にエヴァンスの初期の参加レコードのデータが貴重だった。もっともそういう初期のものは、ほとんどが入手困難だったので、音源を聴けたのは、何年も後のことだったが。どうやら僕はこの頃からdiscography というものに弱かったようだ(笑)
《Victor音源はなんとか国内盤で入手できたが、carlton,seecoなどトニー・スコット絡みの音源は、もっと後になって freshsound からの復刻で、ようやく聴けたのだった。ちなみにこのトニー・スコットのセッション~ベースはヘンリー・グライムズだ。これらの復刻LPの音源をまとめた2CD(freshsound)がとても便利だ。
そのビル・エヴァンスのディスコグラフィで、このレコード~The Jazz Soul Of Porgy & Bessの存在を知ってはいた。それは「スカート女性の足ジャケット」(左写真の36番)だった。だいぶ後になってジャズ批評の「最後の珍盤を求めて」でも、このPorgy~が紹介されたのだが、その盤はジャズ誌に載っていた「スカート」とは違うジャケットだったのだ。対談の中身から、それが1stのオリジナル盤であること、しかもナンバー入りのlimited edition(限定盤)を知って・・・ますます欲しくなってしまったのだ。レコード好きは、limitedにも弱いようである(笑) ちなみに「珍盤コーナー」というと、捉えようによっては「コレクション自慢」にも見えるが・・・コレクションというのは、結果ではなくて「コレクトしていく」過程に価値がある~もちろんその人にとって~のだと思う。そうして、そんな風にコレクトされたレコード達とは・・・よくも悪くもその人の歴史なのだと。
だから・・・そのコレクションを知ることは「その人」を知ることでもあるのだ。人は誰かと知り合う時に・・・多少は見栄を張るものだ。だとしたら、自分の経歴の一部を見せる時に・・・少しくらい自慢気になってもいいじゃないか(笑)
そんな訳で・・・<やったあレコ>である。このレコードは7~8年前に入手した。その頃、バナナレコードという中古レコード店が「アメリカ仕入れ直売~コンバットツアー」とかいう名前で地方都市を3~4日間づつ巡業していくセールをよくやっていたのだ。僕は浜松でのセールで入手したのだ。この時のセールは、仕入れスタッフがよほどいいディーラーに当たったと見えて、他にもアンドレ・プレヴィンのcolumbia盤など状態のいいものがいっぱいあった。
最初、この薄めの黄色のジャケットを引き抜いた時・・・大げさではなく身体に電流が走った(笑)
写真では何度も見ていた、あのジャケットが目の前にあるのだ!ついに出会ったのだ!
まずはチェックだ。ゲートフォールドの分厚いジャケット。僕は丁寧に外袋をはずし、丁寧に中を開いた。おおっ・・・開いたページ左側にやはり「限定NO.~」が印字されている。実に誇らしいではないか! そして何より素晴らしいのは、その4pほどのブックレットだった。
録音中と思しき場面のミュージシャンの写真が、それもいい場面の写真が満載されていたのだ。
そして盤の方は・・・これもほぼミント状態である。この貴重盤がこのコンディション、もちろん値段の方もなかなかのものだった。しばし考える僕。「スカート」の国内盤は持っているのだ(当時の僕はダブり盤は買わない主義だった)だがしかし、本当はもう僕の心は決まっていたのだ。だってそうだろう・・・この先、どう考えても、このレコードにそうそう出会えるわけはない。だから・・・買うしかないのだ(笑)だから、この「考える」は、自分の中で「もったいぶる」ポーズだったかもしれない(笑)
このPorgy & Bess・・・実は音源だけは聴いていたのだ。ジャズ誌のビル・エヴァンス特集のディスコに載っていた方の「スカート」ジャケットの方を、キング国内盤を見つけていた。しかしその盤、とんでもない音だったのだ。というのは・・・音質もまあまあ悪くない普通のステレオ盤だったのだが、B面1曲目it ain't necessary so では、なんとテナーサックス(アル・コーン)の音が左右に動き回るのだ(笑)どういうことだあ、これはっ! 曲が変われば(セッションごとに)楽器の位置が変わることはたまにはある。しかし、同一曲のしかも今、まさにソロをとっている主役が左右にぶれまくる・・・こんなミキシングってあるだろうか? このレコードは大編成で、テナーにもズート、アル・コーンの2名がクレジットされてはいる。そうなると・・・その2人が左右で代わる代わる吹いているのかも・・・という可能性もあるが・・・いや、どう聴いてもそれはない。間違いなく独りのテナーが連続して吹いている語り口、トーンなのだ。それなのに途中でフラフラ~と右に左に這い回ってしまうのである。聴いていてとにかくもう気持ちが悪い。酔いそうだ(笑)だから・・・この国内盤「ポギーとベス」を聴くときは、いつもアンプをモノラルモードにして聴いていた。それでかなり救われたのだが、こういう大編成のジャズを聴くときのステレオ音場の楽しさもなくなってしまうので、それが残念であった。それにしても・・・あの「サックス左右の舞」、あれがマスターテープ不良による国内盤全部での現象だったのか、あるいは、僕の手持ち盤のみの固体的不良だったのか・・・今もって判らない。《補筆》この記事をアップ後、リンクをしていただいているmono-monoさんからコメントをいただいきました。いやあ・・・驚きました。mono-monoさんも、すでにご自身のブログMONOmonologueの中で、アメリカ盤「Porgy & Bess」のことを載せていたのです。このキング国内盤と同じジャケットの盤にも、やはり「サックス左右の舞」があるとのこと。とても興味深い情報です。special thanks to Mr.mono-monoさん!
そしてもう1件、67camperさんからもこの限定盤をお持ちとの情報が入った。さらにもう1枚の「Porgy & Bess]情報も。ともにモノラル盤とのこと。こちらもぜひご覧下さい。special thanks to Mr.67camperさん!
その後に入手した米capitolのCD(CDP-7-95132-2)では、もちろんその「舞」はなかった。そんなちょっとしたことにも一喜一憂するのが、レコード好きなのである(笑) ちなみに、オリジナル盤とCDには全13曲が収録されているのだが、このキングの国内盤には全10曲しか収録されていない。つまり3曲がカットされているのだが、その中の1曲:it takes a long pull to get thereには、短いがビル・エヴァンスのソロスペースもある。だから・・・エヴァンスのマニアの方は、なんとしても米united artists の1stか2nd を手に入れたくなるはずだ。
《補筆》この米CDは商品化する際、音源確保に苦労したらしく、裏パッケージにこんな言い訳がしてある~note:the master tapes to this exquisite session have been lost. to produce this CD, Bill have been lost. to produce this CD, Bill Potts and Jack Towers gathered as many mint copies of this collector's item as they could find and poinstakingly transferred the best pressing of each selection to tape~つまるところ・・・マスターテープがもうなくなってしまったので、いい状態のレコードを探してそれぞれ状態のいい曲から音源をtransferした・・・ということだろう。だからいずれにしても・・・この米CDの「音質」は、それほどいいとは言えない状態です。
まあそんなちょっとした因縁を経ての、このオリジナル盤との遭遇だったわけだ。この盤の限定ナンバーは、326番である。当時のlimitedというのは、何枚くらいプレスしたのだろうか? たぶん・・・2000枚くらいだろうか。 そう思って改めてジャケットを見ると・・・この絵もなかなか味わいがある。暗い雰囲気の漂う「家族の肖像」という感じの絵である。裏ジャケットの一番下に、cover painting~robert andrew parker とちゃんとクレジットされている。
造りのいいゲートフォールドのジャケット、格調高いカヴァー・アートと併せて、この限定盤の価値は、なんといってもブックレットの写真にあると思う。
そのブックレットの雰囲気を味わってもらえるように、いくつかのページを撮ってみた。 それから、参加しているミュージシャンが実に豪華なので、そのクレジットも記しておこう。
trumpet ~art farmer, harry edison, ernie glow, markie markowitz, charlie shavers
trombones ~bob brookmeyer, frank rehak, jimmy cleveland, earl swope, rod levitt
tenor sax ~zoot sims, al cohn
alto sax ~phil woods, gene quil
bariton sax~sol schlinger
guitar ~herbie powell
drums ~charley persip
piano ~bill evans
bass ~george duvivier
conductor ~bill potts 録音:1959年1月
さて・・・このPORGY & BESS、ビル・エヴァンス絡みでついに手にいれた1枚ではあるが、それほどエヴァンスが活躍するわけではない。どちらかというと管楽器奏者たちのソロを楽しむレコードだろう。それでも1曲、エヴァンスのピアノが印象に残る曲があった。I love you, Porgy である。この曲は・・・そう、エヴァンスが1961年6月の village vanguard でのライブでも演った曲だ。たしかこの曲は、オリジナルの2枚(waltz for Debbyとsunday at the viallge vanguard)には収録されずに、うんと後になって発売されたmilestoneの2LPで、未発表曲として世に出てきたはずである。
エヴァンスは、うんとスロウなテンポで、シンプルなメロディをいつくしむように弾いている。しみじみとした情感みたいなものがよく出ていて、とても好きな演奏だった。
あの・・・I love you, Porgy である。しかしこの59年のテイクでは・・・ある意味、全くエヴァンスらしくない弾き方なのだ。ビル・ポッツがきっちりとアレンジした大編成のオーケストレイションものなので、このエヴァンスをフューチャーしたこの曲においても「足かせ」があったようだ。それというのも・・・この曲、エヴァンスが右手でしか弾かないのである。それでもってメロディをポツン・・・ポツン・・・と弾く。左手の和音はおろか、右手も全くのシングルトーンのみ!これではまるでジョンルイスではないか(笑) しかも、導入部と中間部は管部隊の出番なので、エヴァンスは、ただでさえシンプルなメロディのこの曲の出足のメロディと最後の方のメロディだけを弾くのだ。エヴァンスは右手で弾くそのメロディにも全くフェイクを入れずに「ベタ~っ」と弾く。なんというか唄用の楽譜のままの音符で・・・という感じなのだ。伸ばす箇所ではそのままシングルトーンを伸ばしている。ポツン~・・・ポツン~・・・間が空いてしょうがない(笑)
ハーモニーをあれやこれや研究することでなんとも絶妙な左手と右手のコンビネイションを創りあげる、そしてそれが持ち味のエヴァンスから「左手」を奪い去る・・・なんて過酷な指示(アレンジ)だろう。いや、これはエヴァンスへのイジメだったのかもしれない(笑)
しかしながら・・・その指示がなんとも不思議な効果を生むのだ。エヴァンスの伸ばした単音が、所在なげに響く。録音にエコーがかけられているようでもあるし、エヴァンスがペダルを踏んで伸ばしたようにも聞こえる、その不思議な単音・・・まだ管楽器は入ってこない・・・スカスカの音空間・・・そんな間の空き具合が、Porgyのメロディと伴に、どうにも印象に残ってしまうのだ。ある種「寂しさ」みたいな感じを演出しようとしたポッツのアレンジだったのかもしれない。
いずれにしても・・・この時のエヴァンスには相当な音楽的ストレスがあったように思う。だから・・・今度は自分が納得のいく左手のハーモニーを付けて、そうして1961年にもう一度、この I love you, Porgyを演奏したのではないだろうか。そうして、その渾身の I love you,Porgy もなぜか・・・あの2枚のライブ盤には収録されなかったのだ。エヴァンスの気持ちはどんなだったろう。・・・この I love you, Porgy というガーシュインの名曲は、エヴァンスにとっては因縁の1曲だったのかもしれない。
僕はいつもこんな風にいろいろ想像してしまう(笑) ほとんど妄想かもしれないが、ほんの少しでもそんな感じがあったとしたなら・・・エヴァンスがいつもあんな風にニヒルな顔つきをしているのも無理のないことかもしれない(笑)
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