10インチ盤

2024年12月31日 (火)

〈思いレコ 第20回〉 モンク ランズ ディープ

retrospective 回想する/懐古的な~という言葉がある。毎年、年末になると僕はまさにこの言葉通りの気分になってしまう。そうして必ずモンクのあのピアノの音を想起する。1971年、中3の時からジャズを聴き出してもう50年以上経ったが、やっぱり僕の〈ジャズマインド〉の原点は…モンクなのである。

モンクのレコードで最初に(1972年7月) 入手したレコードは「モンクスミュージック」で、コルトレーンやホウキンス、ベースのウイルバーウェアらがモンク音楽と有機的に絡むエネルギーある音楽に痺れまくったわけだが、その少し前にFMラジオから録音したカセットで、モンクのソロピアノ《ラウンドアバウトミッドナイト》を本当に何度も何度も聴いて、もう心底、感動してセロニアスモンクという人を好きになっていた。その事について書いた過去記事があるので横着して抜粋します。

以下《 太字 》

《その少し後・・・今度は「あの曲」の作曲者、セロニアス・モンク自身のソロピアノでの「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」(vogue/1954年)を再びFMから録音した。マイルスのミュートが演出したあの曲の持つ「独特なムード」に慣れていたせいか、このモンクのソロピアノにも違和感など全く感じることもなく、いやそれどころか・・・モンクのピアノは、不思議なくらいに、本当に真っ直ぐに僕の心に入り込んできてしまったのだ。マイルスのラウンドミッドナイトは、もちろん素晴らしい。でもモンクのこの演奏には・・・もうムードなんてものを通り越して、モンクという一人の人間が、自分のあらゆる感情を吐露しているような厳しさがあった。モンクの、いや、あらゆる人が、人生を生きていく上で味わう感情・・・<挫折><孤独><哀愁>そして<優しさ><希望>・・・みたいなものが、この演奏の中に封じこめられているかのようだった。(そういう風に聴こえた)このモンクのソロピアノのレコードは、なかなか見つからなかった。高1の夏に、東芝ブルーノートの国内プレス(ジニアス・モンク vol.1)を間違えて、買ったりしました。「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」という曲が入っている、という理由だけで買ったのだが、このLPに入っているバージョンは、モンクによる初演(1947年の3管入りのもの)だった。「なんか違うなあ・・・」とがっかりしたのだ。(笑)その年の秋だったか・・・ようやく vogue録音のソロピアノのLPが東宝から発売されたのだ。タイトルは・・・セロニアス・モンク/モンク・ランズ・ディープ(東宝) ようやく、あの「ラウンドアバウトミッドナイト」に出会えたのだ。すぐに手に入れて・・・・・このレコードは、本当に何度も何度も聴きました・・・・。          このLPには、ラウンド・アバウト・ミッドナイト以外にも、リフレクションズ(ポートレイト・オブ・アーマイト)、オフマイナー、ウエル・ユー・ニードントなどモンクの傑作曲が入っており、全てが気迫のこもった素晴らしい演奏ばかりです。。その中で、唯一のスタンダードの「煙が目にしみる」・・・これがまた素晴らしい!よく「モンクは変。判りにくい」とか言われるが・・・この「煙が目にしみる」みたいなスタンダードを弾くときのモンクは、一味違います。誰もがよく知っているあのメロディ、あの魅力的なメロディーをそれほど大きく崩したりはせず、謳い上げています。強いタッチなので、演奏全体にゴツゴツした「堅い岩」みたいな雰囲気を感じるかもしれませんが、それがモンクの「唄い口」です。そうしてこのモンク独特の無骨な唄い口が、却ってこの曲の持つ<哀感>みたいなものを、よく表わしているように思います。ちょっと気持ちが弱った時なんかに聴くと・・・「おい君・・・人生ってそんなに悪いもんじゃないよ」とモンクに優しく諭されているような気分になります》

う~ん…まあ、モンクのことをどうにも好きになって、そんな僕の非常に個人的な気持ちを少しでも判ってほしいな…という、暑苦しい文章でしたね(笑)   そんなわけで僕の生涯の愛聴盤になった〈モンク ランズ ディープ〉~不思議なタイトルだが〈モンクは自己の内面に深く潜航する〉という感じかな、と僕は理解している。

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上写真~1972年秋に発売された東宝盤。

下写真~ジャケット裏面、全8曲収録の記載。このフランス1954年録音の盤だけ、なぜか曲名クレジットがいろいろ混乱していて大変判りにくい。例えばB-1に〈ポートレイト オブ アーマナイト〉とタイトルされテイクがあるのだが~このバラードには独特な哀愁みたいな感じが漂っていて大好きなのだが~この曲、一般的には〈リフレクションズ〉と認識されている曲である。

下の写真…左側にあるモンクのピンアップは、豊橋のジャズ喫茶「グロッタ」に長年、貼ってあったものだ。経年劣化で真っ黒に煤(スス)けている(笑) 実は、そのグロッタが1980年頃だったか…閉店する際、ジャズ研仲間と片付け手伝いに行って、テーブルやらソファを搬出したり、あれこれ廃棄したりした時に、僕はこのモンク写真をそのまま剥がし捨ててしまうのが何やら忍びなくて、丁寧に剥がして頂いてきた…というわけである。高校~大学時代に通いつめたジャズ喫茶「グロッタ」と、同じ時期に聴きまくったモンクへの想いがリンクした…僕の retrospective である。

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上写真2点~1984年キング発売の〈ソロ オン ヴォーグ〉全9曲収録。

このレコード、もちろん〈モンク ランズ ディープ〉と同じ1954年音源なのだが、1曲だけ未発表テイクが入っている。それは〈ハッケンサック〉で、フランス録音時にはどうやら〈ウエルユーニードントtake2〉という理解で未発表とされていたようだ。その辺り、曲名クレジットの混乱のことが、このキング盤の、油井正一氏の解説で知ることができた。

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上写真3点~《フランスVogue盤~12インチ盤と7インチ盤。The Prophet なるサブタイトルが付けられている。Discogs によると1961年発売》~これ、ピアノの音に鮮烈感があって素晴らしいのです!

だいぶ後年になって、僕はようやく、フランスVOGUE盤を入手しました。但しこれらは…いわゆるオリジナル盤でなく、12インチ盤と7インチ盤です。オリジナルはもちろん、フランスVOGUE10インチ盤のはずです。そしてそのフランス盤を受けて、日本盤(25㎝/12インチ)も発売されていたようです。たしか1972年東宝盤と似たようなジャケットだったように、思います。日本のレコード会社もなかなか素晴らしい選球眼を持っていたのですね。

《追記~下写真2点(Discogs から転用)~日本グラモフォン(ポリドール)の25cm(10インチ)盤。解説は油井正一氏。Discogs によれば、1960年発売》

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2014年2月15日 (土)

<ジャズ雑感 第37回>ベツレヘムの east coast jazz シリーズを巡る謎

つい最近、手に入れたレコードがある。それは・・・the compositions of Bobby Scott というベツレヘムの10インチ盤である。年末の「スタン・リーヴィー」記事から始まった皆さんとのやりとりを通して、このところの僕は軽い『ベツレヘム熱』に浮かされていたようでもあり・・・気が付いたら、これが手元にあったのだ(笑) 
もっとも・・・ベツレヘム10インチ盤の持つ魔力に抗(あらが)える者など、この世にいないだろう。以前から、僕も少しづつではあるが集めてきた。今回はそれらの10インチ盤も参考にしながら、もう少しだけ、ベツレヘム・レーベルのこと・・・特に、east coast jazz series のことを探ってみたい。East_coast_jazz_005
≪BCP 1009 Bobby Scott - East Coast Jazz #1~この10インチ盤が、栄えあるeast coast jazz series の #1 である。ベツレヘム社は、当時、新進気鋭の若手:ボビー・スコット(ピアニスト、作曲家~『蜜の味』1960年で有名)を大々的に売り出そうとしたようだ。この1009番より前に、1004番(ピアノトリオ)を発売していて、さらに1024番(1009番の続編~the compositions of Bobby Scott:2)も発売している。10インチ盤40点の内、3点がボビー・スコット作品だ≫

前回の<ミルト・ヒントン>記事のコメントにて、せんりくんとdenpouさんが、この east coast jazz series なるシリーズ名を提示してくれた。その折には軽いやりとりだけで終わったのだが、僕自身も、1020番という表記でありながら、なぜか12インチ盤の『ミルト・ヒントン』を持っていたことから、やはり east coast jazz series という名前がとても気になっていた。(1000番代は10インチ盤)
この『イースト・コースト・ジャズ・シリーズ』なる名前・・・それほど知られてはいないと思う。というのも・・・これ、「シリーズ」と呼ばれてはいるものの、わずかに9タイトルのみの発売で、しかも発売された時のレコード番号も飛び飛び。さらに、「シリーズ」の1~9が、10インチ時代から12インチ時代に跨(またが)って発売されているのである。そんな事情から、この  east coast jazz series  はシリーズ(連続したひとつの流れ)」としては、なかなか周知されにくかったであろう・・・と考えられる。
その辺の発売事情に絡むベツレヘム社のこのシリーズに対する思い入れと、その変化・・・みたいなものが、今回、手持ちのベツレヘム10インチ盤の「裏ジャケットのレコード宣伝番号」をチェックしている内に、浮かび上がってきたので、その辺りの経緯もまとめてみたい。

まずは、east coast jazz の1~9を、発売(されたとされる)タイトルの番号から括(くく)ってみた。

(10インチ盤)
BCP 1009 Bobby Scott - East Coast Jazz/1
BCP 1010 Vinnie Burke - East Coast Jazz/2
BCP 1012 Joe Puma - East Coast Jazz/3
BCP 1018 Herbie Mann - East Coast Jazz/4
(これ以降は12インチ盤)
BCP 1020 Milt Hinton - East Coast Jazz/5
BCP 10 Milt Hinton - East Coast Jazz/5
BCP 13 K&J- K + J.J. East Coast Jazz/7
BCP 14 Urbie Green - East Coast Jazz/6
BCP 16 Hal McKusick - East Coast Jazz/8
BCP 18 Sam Most - East Coast Jazz/9
BCP 6001 K&J- K + J.J. East Coast Jazz/7
(最初はBCP13番として発売されたが、短期間の内に BCP6001番に移行されたらしい)

これらの east coast jazz series ・・・僕は、12インチ盤の 10番(1020)、14番、18番、6001番(13番)の4枚は持っていたが、10インチ盤で持っているのは、この記事の冒頭に掲げた1009番(Bobby Scott)のみである。
だがしかし・・・そこは持つべきものはお仲間である。前回のコメントやりとりの後、denpouさんがお持ちの east coast jazz series 10インチ盤の写真を送ってくれていたのだ。denpouさんは3枚、お持ちだった。
*以下、写真6点~denpouさん提供。

Bcp1009_2 Bcp1009_3
≪BCP 1009 Bobby Scott - East Coast Jazz/1≫

Bcp1010 Bcp1010_2 
≪BCP 1010 Vinnie Burke - East Coast Jazz/2≫

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BCP 1012 Joe Puma - East Coast Jazz/3

これらの写真で判るように、この east coast jazz series なるシリーズ・・・表ジャケットには「小文字」で、裏ジャケットには上部に「大文字」で、EAST COAST JAZZ SERIES としっかりと表記されている。まずは、「裏ジャケット下部の宣伝レコード番号」にも注目してみよう。

East_coast_jazz_006_4   
1009番( east coast jazz seriesの#1)には~
1010(#2)、1012(#3)、1015、1016、1017、1018(これが#4なのだが、east coast jazz~#4の表記なし)まで。9番の裏ジャケットにわりと番号の離れた18番まで載せている・・・ということは、1ヶ月に4枚づつ発売したとしても、1~2ヶ月先の発売予定のタイトルまで載せていたのかもしれない。

1010番(#2)には~
1009(#1)、1012(#3)と、1015~1018(#4表記なし)まで。

12番には~
1009(#1)、1010(#2)、1018(#4)、1016、1017まで。

上記のことから、EAST COAST JAZZ SERIES シリーズ最初の#1(1009番:THE COMPOSITIONS OF BOBBYSCOTT)の発売時から、すでに1012番の#3(JOE PUMA)までをシリーズとして予定(あるいは同時に発売)していたことが判る。
しかしその反面、同シリーズ1009番・1010番の発売時には、1018(HERBIE MANN QUARTET)を、シリーズの#4としては決定していなかった・・・ことも覗える。そうして、1012番(JOE PUMA)を発売した時には、先発売予定の(あるいは同時に発売)1018番を#4として宣伝に載せているではないか。と、なると・・・この場合、せいぜい1~2ヶ月くらい前に「east coast jazzシリーズの次のタイトル」が決まったことになる。
ベツレヘム社は、このeast coast jazz なるシリーズを企画し、その発売を開始してみたものの、実はそれほど綿密な販売プランなどもなく、案外、「思いつき」のシリーズだったのかも?・・・僕はそんな風にも想像してしまう(笑) まあしかし、よく考えてみたら、ベツレヘムのというレーベルのコンセプト自体が(西海岸事務所を設立する前の)元々、「東海岸の白人ジャズ」みたいなイメージのものだったわけで、どの作品が east coast jazz シリーズであっても、そうでなくても、それほど違和感もないような気もする(笑)

さて・・・冒頭に書いたように、僕はベツレヘムというレーベルに興味を持ってから、10インチ盤も幾つか入手してきた。取り出してきてみると、思ったより枚数はあるじゃないか(笑)・・・まずは、並べてみよう。12title_2

上段 左から~1003、1004、1007、1016
中段 左から~1017、1019、1021、1024
下段 左から~1025、1029、1031、1040
≪僕の手元には、これら12枚のベツレヘム10インチ盤が在った。どのジャケットにも、ゴールドブラット表記がある。この頃のゴールドブラットは、「写真もの」だろうと「イラストもの」だろうと、そのどれをも抜群のセンスを持って、素晴らしいジャケットに仕上げている。この中で僕が特に好きなのは「イラストもの」~Charlie Shavers/Horn o'Plenty である。但しその内容は、DJの声が被(かぶ)るもので・・・ジャケットほど好きになれない(笑)≫

「ジャケット裏の宣伝レコードの番号」に、もう少し拘りたいので、僕の手持ちの中から、比較的、番号の近い10インチ盤の裏ジャケットをチェックしてみた。

1016番(sincerely, Conti)の裏ジャケットには~
1001と1002(ともにクリス・コナー)と、#1(1009)と#2(1010)の4タイトルが載っている。なぜか、1012と発売間近のはずの1018(HERBIE MANN QUARTET)が載っていない。
1017_levy_2 1017_2 ところが、次の1017番(Stan Levey plays the compotisions of ~)の裏ジャケットを見ると・・・ここでは、当(まさ)に、EAST COAST JAZZ SERIES #1~#4(1009、1010、1012、1018) と1016の5タイトルが載っているじゃないか。これは明らかにこのEAST COAST JAZZ SERIESに的を絞った宣伝である。

この調子で宣伝していくのか~と思いきや・・・次の1019番(Oscar Pettiford/Basically Duke)では、1001番~1020番まで18タイトルを載せている(1014番と1019番は不掲載) 
1019_baiscally_2 1019  EAST COAST JAZZ SERIESの扱いについては、1009、1010、1012、1018、1020 のそれぞれに EAST COAST JAZZ SERIES #1~#5を付けて、タイトルと参加ミュージシャンを載せている。この時点ではまだ「シリーズ」として売ろうとしている。
そして、(手持ち盤では)1025(Herbie Harper)の裏ジャケット宣伝では、こうなる・・・。
1025_herper1001~1026までのタイトルのみ載せているが、1010番、1012番、1018番、1020番を見ても、EAST COAST JAZZ SERIES #~なる表記はどこにも見当たらない! そしてこの「宣伝パターン」は、1031番でも同一。10インチ盤最後の1040番(Dick Garcia/Wigville)でも、裏ジャケ宣伝は1001~1028番までのタイトルしか載せていないのだ。
これが少しでも多くのタイトルを宣伝に載せようという、単にスペースの問題なのか・・・あるいはこの時点で、EAST COAST JAZZ SERIES #~というシリーズ概念に見切りを付けたのか・・・その辺りは判らないが、いずれにしても、10インチ盤時代のベツレヘム社は、この「シリーズ」をうまくまとめ切れなかったのでは・・・という印象を僕は拭いきれない。
ベツレヘム社は、自信を持って始めた EAST COAST JAZZ SERIES に相当な拘りを持ちながらも・・・しかし実際の売り方には大いに迷いながら(もちろん売れ行きが芳しくなかったからだろう)・・・それでも#1から#4まで製作販売してきた。しかしその頃、時代は10インチから12インチ時代へと移り始めていた。ベツレヘム社も「時代に乗り遅れてはならない」として、12インチ化に踏み切る。
ベツレヘム社は、12インチ盤の発売に当たって、まずDeluxeシリーズを計画した。このDeluxeシリーズ~ご存知のように、基本的には「2枚の10インチ盤のカップリング」企画である(10インチ盤2枚分そのままを1枚には収録できずに1~2曲をカットすることもあったようだが)
そのDeluxeシリーズの発売番号・・・BCPの1番から始めるのが普通のはずだが、ベツレヘムの場合、どうやら・・・BCP1~9番という番号は、12インチ化を始めた頃には使われなかったようだ・・・ということが判ってきた。
なぜか? なぜ普通に1番から発売しなかったのか? ここで・・・『ミルト・ヒントン』である。
その時、east coast jazz seriesの#5として用意してあったのは、10インチの1020番:Milt Hintonである。そしてひょっとしたら、この1020番がベツレヘム社としても最初の12インチ盤で、発売までの準備不足もあり、10インチとして用意した番号(1020番)はもちろん、カバー写真・レイアウトなど全てをそのまま使用して、12インチ化してしまったのかもしれない。これが1020番(その後、BCP10番に修正)のMilt Hinton(east coast jazz series #5)となる。
*(その後の「シール貼り」「マジック消し」の経緯は、夢レコ<ミルト・ヒントンというベース弾き>を参照のこと)

14_urbie 14_urbie_2 さて、12インチに移行した直後の、east coast jazz seriesの#6(Urbie)の裏ジャケットをチェックしたら、面白いことに気が付いた。
はっきりと「12インチ」レコードとして、1020番の「ミルト・ヒントン」と書いてあるじゃないか! そうして、左側の10インチ盤の宣伝には、1020番は載っていない。
つまり・・・ミルト・ヒントンの1020番は、最初から「12インチ盤」として正式に発売されたのだ!(単純なミスではなく意図的に) 
そして・・・ 『ミルト・ヒントン』の10インチ盤(1020)は、ひょっとしたら、発売されなかったのかもしれない。
だとすれば・・・これまで10インチ盤『ミルト・ヒントン』がネット写真でさえも確認できなかったことの説明も付く。Hinton4

その後、まもなく、ベツレヘム社は、その1020番を、BCP10番に修正した~ことは事実なのだが、そのことで、その後の発売番号割り当てプランに混乱が生じてしまったことはあるかと思う。
この辺りのことと、ベツレヘム社が拘りを持ってきたであろう、EAST COAST JAZZというシリーズへの扱い具合を考え合わせてみると・・・僕なりの答えが見えてきた。

前回の記事から幾度か ≪Deluxeシリーズが発売され始めた時、何らかの理由により、BCP 1~9番辺りが「欠番」として使われなかったのでは?≫ と書いてきたが、その「何らかの理由」として・・・以下のようなことを考えてみた・・・ベツレヘムについては、たぶんこれが最後の妄想である(笑)
その時、ぼんやりと僕のアタマに浮かんだのは・・・「BCP 1~9番辺り」という数(かず)と、east coast jazz seriesの #1~#9 という数(かず)のことだ。どちらも9個じゃないか。う~ん・・・これは何かあるぞ・・・と。 
つまり・・・ここには、east coast jazz series が深く関わっているのではないかな?・・・という想いがあったわけである。

≪1020番と印刷された『ミルト・ヒントン』~どうせ修正するのなら、1番に修正することもできたはずなのに、なぜ、そうしなかったのか?≫
~この時点ですでに、10インチ盤音源を使っての12インチ化のプランもあったはずで、そうした時に、すでに発売済みの10インチ盤:EAST COAST JAZZ シリーズ #1~#4 も、どこかで再編したい~とベツレヘム社は考えていた。
そこで12インチ盤の新譜第1弾として用意した『ミルト・ヒントン』は、1020番(EAST COAST JAZZ SERIES #5)という番号が付いてしまっている。さあどうする、ここはシール&マジックで修正するとしても、ここでもし「1番」に修正すると~それもまずいなあ~EAST COAST JAZZ シリーズは、すでに #1~#4まで出ているし~#5が先の番号になってしまうのも按配が悪い~そうだ、#5の『ミルト・ヒントン』を、とりあえず、BCPの10番にしておけば、前に1~9の空き番号が出来る。それを使えば、10インチ発売済みのEAST COAST JAZZ シリーズ #1~#4 も例えばBCPの6番~9番に収められる。本当は『ミルト・ヒントン』1020番を5番に修正するのが一番いいのだけど、5番だとマジック消し作戦が使えないし(笑) まあ、いいや。この先も#6~#9と企画を続ければ、とりあえず、1~9番もうまく収まるだろう・・・というような思惑が在ったのでは・・・と、僕は想像する。
そうして実際、ベツレヘム社は、EAST COAST JAZZ SERIES の続編を #6~#9まで創ったのだが、それらには、せっかく用意したはずの「空き番号 1~9」を使わずに(これまた何らかの事情により:笑) それぞれ、BCPの13番『K+JJ』(すぐ後に6001番に移行)、14番『Urbie Green』、16番『Hal Mckusick』、18番『Sam Most』 として発売されたのである。 18_sam 18_sam_2
結局のところ・・・EAST COAST JAZZ SERIES なるネイミングが、はっきりとジャケットに表記されたのは、10インチ盤・12インチ盤を通して、これら全9タイトルだけだったことになる。
さて、EAST COAST JAZZ SERIES は、12インチに移行してからも、 #5~#9まで発売されたわけだが、それでは、10インチ盤で発売された EAST COAST JAZZ SERIES #1~#4 は、その後、どうなったのか?
先ほど≪Deluxeシリーズは、基本的には「2枚の10インチ盤のカップリング」企画である(10インチ盤2枚分そのままを1枚には収録できずに1~2曲をカットすることもあったようだが≫と書いたのだが・・・実は、EAST COAST JAZZ SERIES #1~#4 (10インチ盤)も、その「中身だけ」は、しっかりと、Deluxeシリーズ:12インチ盤の中に再編されていたのだ。(#3のみ確認できず) 以下、その移行先。

East_coast_jazz_002_2 East_coast_jazz_003_2 East_coast_jazz_004_2 East Coast Jazz #1(1009番 Bobby Scott)~全5曲が、BCP8番(The Compositions Of Bobby Scott)のA面に収録。
East Coast Jazz #2(1010番 Vinny Burk)~全8曲が、BCP6番(Bass By Pettiford/Burke)のB面に収録。
East Coast Jazz #3(1012番 Joe Puma)~12インチ化を確認できず。
East Coast Jazz #4(1018 番 Herbie Mann)~全7曲が、
BCP58番(Herbie Mann Plays)のA面に3曲、B面に4曲、収録。

上記のように、East Coast Jazz シリーズ #1~#4 (10インチ盤)の内、3点(#1と#2と#4)は、12インチ化されていたわけである。残念ながら、East Coast Jazz Series なる表記は、8番、6番、58番のジャケットのどこにも見当たらないが、3点とも「全曲」が再編されている。そして・・・#1と#2には、「空き番号」になっていた、BCP8番と6番が使われているじゃないか! やはり・・・ベツレヘム社は、新たに始めた12インチDeluxeシリーズの初期ナンバー(1~9)を使って、East Coast Jazz シリーズを「再編」しようとしていたのだ。僕はそう思えてならない。

こんな具合に、いろいろと妄想を書き連ねてきたが、もちろん真実は誰にも判らない。60年も前のジャズレコードの話しだ・・・判らなくて当たり前である(笑) それにしても、今回、興味を持った特にベツレヘムに関しては、まとまった「レーベル情報」もほとんど見当たらず、本当に判らないことだらけだった。
この記事の冒頭にも書いたが、僕の最大の疑問は~
≪Deluxeシリーズ1~9は当初は「空き番号」だったのでは? そして、だいぶ後になってから発売されたタイトルに、この1~9番が充てがわれたのでは?≫というものだった。
それについて、少々補足すると~
問題のBCP1~9番の<左NY、右CALIF>ジャケットのタイトルは、以下となる。
BCP 1   Bobby Scott - Terry Pollard
BCP 2   Oscar Pettiford/Red Mitchell - Jazz Mainstream
BCP 3   Eddie Shu/Bob Hardaway - Jazz Practitioners
BCP 4   Pete Brown/Jonah Jones - Jazz Kaleidoscope
BCP 5   A Ruby Braff Omnibus
BCP 6   Oscar Pettiford/Vinnie Burke - Bass By Pettiford/Burke
BCP 7   Hank D'Amico/Aaron Sachs - We Brought Our Axes
BCP 8   The Compositions Of Bobby Scott
BCP 9   Westcoasting With Conte Candoli And Stan Levey

僕が持っているのは 3、6、8、9である。これらの<左NY、右CALIF>ジャケットのものが(それしか存在しないと思われる)、Deluxeシリーズもだいぶ後になってからの発売されたものであることは間違いない。その根拠は、例によって(笑)それぞれのタイトルの裏ジャケットレコード宣伝の番号だ。
BCP3には[40~64まで]
BCP6には[38~64まで]
BCP8には[56~69まで]
BCP9には[40~65まで]
この番号並びを見ると、それぞれの発売時に多少は先の発売予定のタイトルまで載せたとしても、これらの3,6,8,9番がカタログ上ではBCPの若い番号であっても、実際に発売されたのは、BCP60番の前後であったことは明らかである。

さて、今回のベツレヘム・・・本当に判らないことだらけで、だから・・・現物(ジャケット・盤のデータ)のサンプルを集めて、その差異から、あれやこれや類推していったのだが、如何(いかん)せん、サンプルが足りない。ネットからの情報でもそれが信頼に足るものであれば、写真など使用させてもらうことも考えないとダメだな・・・そんなことを思いながら「ベツレヘム迷宮」に苦しんでいた時、ひとつの有力な資料を見つけた。見つけた~と言っても、実は、shaolinさんというレコード愛好家の方のブログ記事に「古い時代のレコードカタログの記事」があったことを思い出しただけなのだが(笑)
それは≪Old Record Catalogues, Pt.1≫という記事で、その中に、果たしてBETHLEHEMのレコードカタログも載っていたのだ!
そして、その1956年頃のBETHLEHEMレコードカタログの写真と共に、以下のようなキャプションが付いていた。
≪12インチLP ($4.95) は BCP-12 (Don Elliott) から BCP-35 (Bobby Troup Vol.II) まで (なぜか BCP-11 およびそれ以前は未掲載)、10インチLP ($3.85) は BCP-1001 (Chris Conner Sings Lullabys Of Birdland) から BCP-1040 (Russ Garcia) まで (BCP-1020 は未掲載)がリストアップされています≫
*bassclef註~1020番は、12インチ盤として、BCP22とBCP23の間に1020の番号のまま掲載されている。おそらく・・・このカタログ発行の後に、この12インチ盤1020(ミルト・ヒントン)を、「空いていた」(あるいは「空けておいた」)BCP10番に移行させたのだろう(「シール貼り&マジック消し」作業により)

~いやあ・・・やっぱりそうだったのか!という気持ちで、僕は嬉しくこの資料を眺めたわけである。
このカタログ資料は、本当に興味深いものですので、オリジナル・レコードに興味ある方・・・ぜひご覧ください。specail thanks to Mr. Shaolinさん!
これがそのshaolinさんのブログ記事のアドレスです~http://microgroove.jp/2007/06/old_record_catalogues_pt1/

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2014年1月26日 (日)

<ジャズ雑感 第36回> クリス・コナーの声

ジャズを長いこと聴いてきたが、実は・・・僕はヴォーカルものをあまり聴いてない。限られた何人かの女性歌手~アン・バートン、キャロル・スローン、アイリーン・クラール、アニタ・オディ、ジューン・クリスティ、それから、クリス・コナー、この辺りをたまに聴く・・・そんなヴォーカル初心者である。もちろん、美人歌手のゴージャスなジャケットを目にすると・・・そのオリジナル盤を欲しくなるが、人気の盤はどうしても「いい値段」になるので、僕の場合はその現実を見ると、すぐに諦める(笑) インストものに対しては、もう少しだけだが粘る(笑) そんな僕が、オリジナル盤に若干の拘りを持って、知らぬ間に初期の何枚かを集めさせられていた(笑)・・・それが、クリス・コナーなのである。

クリス・コナーと言えば・・・誰もが、バート・ゴールドブラットの傑作ジャケット~「うな垂れるコナー」と「マイク挟みコナー」・・・あれを思い出してしまうだろう。コナーのベツレヘム10インチ盤は、内容の良さと共にあのジャケットの素晴らしさもあって、やはり人気が高い。そして値段も高い(笑) ベツレヘムのコナー音源を僕は安物CDで聴いていて、「悪くないなあ・・・」」と感じていた。そしてその頃、あの10インチ盤1001番のジャケットと同じ写真のEP盤(7インチ)を見つけたのだ。

101ab_2 ≪BEP 101Aと101B~10インチ盤1001番と同内容。全8曲どれも素晴らしいが、僕は・・・what is there to say が特に好きだ≫

102ab ≪BEP 102Aと102B~10インチ盤1002番と同内容。cottage for sale がいい。アコーディオンの音色が印象的≫

首尾よく入手した、そのEP盤から流れてきた「クリス・コナーの声」・・・・これが僕には、なんとも凄かったのである。
ハスキーがかった太くて低めの声・・・張り上げている感じではないのに、凄い音圧感があって、とにかくよく「鳴って」いる(笑) 人の声を「鳴っている」というのも変な表現だが、実際、コナーのそれは・・・ググッと聴き手の心に迫ってくる・・・そんな存在感のある「声」だったのだ。

101のジャケット写真~コナーがマイクのスタンドを両手で挟み込むようにしながら、体をグッと後方に反らして(つまり、マイクから離れるようにして)、「大きな声」を出している。そういえば、クラシックの歌い手さんがマイクを使って大きな声で唄い込む時に、意図してマイクから後方に離れるような動作をしているじゃないか。あれは、もちろん「巧く見せるため」などではなく(笑)、やはり、歌い手さんがフォルテで発声した場面で、マイクを入力過多にさせないための(音を歪ませないための) 動作なのだろう。
それにしても、本当に口を大きく縦に開いている。そういえば、クリス・コナーの写真はたいてい「大きく口を開けている」場面が多い。後述する12インチ盤 6004番 の「大口」はもちろん、BCP20 も BCP56 も、かなりの「大口」である。やっぱり、大きな音声を発したい場合には、大きく口を開ける方が、より自然だろう。

1002_2  10インチ盤の2枚・・・1001番(マイク挟み)と1002番(うな垂れ)。僕は先にEP盤4枚を揃えたので、まあ音源(全16曲)は聴ける・・・ということで、10インチ盤は後回しとなっていた。それで今回「写真でも」と思ったのだが、両方持っている、と思い込んでいた10インチ盤は・・・実は、1002番しか持っていなかった(笑)
≪右写真~10インチの1002盤。「うな垂れ」もダークな色調に独特な雰囲気がある≫   

Bethlehem でのクリス・コナー作品~まず2枚の10インチ盤が1954年に発売され、その後、3枚の12インチ盤~BCP20、6004が1955年、BCP56が1957年の発売らしい。(オムニバスの6006番 も加えれば4枚だが、コナーの4曲は既発音源)
10インチ盤の1001番は、伴奏がピアノのエリス・ラーキンスのトリオで8曲、1002番の伴奏は、ヴィニー・バークのクインテットで8曲、この全16曲が、12インチ盤化の際に分散されてしまったので、12インチ盤にアルバムとしての統一感があるとは言い難い。

6004番「lullabys」には~1001番から5曲、1002番から6曲、そして別セッション(サイ・オリヴァー楽団)から3曲の全14曲収録。

ChrisBCP56番「Chris」には~1001番から残りの3曲、1002番から残りの2曲、そしてサイ・オリヴァー楽団から3曲、そして後の4曲がラルフ・シャロンのグループ(K&JJを含む)の全12曲収録。



BCP20番~全てラルフ・シャロンのグループで、全10曲収録。
A面1曲目の blame it on my youth が素晴らしい!This_is_2

さて、クリス・コナーを話題としたからには、ここでもう一度、整理しておきたいことがある。もちろん、6004盤~sings lullabys of birdland のジャケットのこと・・・「大口」と「半口」である(笑)前々回の「スタン・リーヴィー」記事のリストやコメントにおいて、すでに「大口」ジャケットが先の発売で、「半口」が後の発売らしい・・・というところまでは述べた。
その根拠は、「大口」ジャケットと「半口」ジャケットにおける表記の違い方にある。以下~下写真6点はdenpouさん提供。

Bcp6004_4 Bcp6004_5

≪左写真~「大口」の裏、右写真~「半口」の裏≫

1.裏ジャケット「レコード宣伝」番号の表記~
  「大口」では、BCP 6001番~6007番まで
          BCP ~64番まで。
   「半口」では BCP 6001番~6032番まで
          BCP ~79番まで

2.裏ジャケット アドレス表記の違い~
「大口」は*2種存在。
<左NY、右CALIF><左NY、右NY>
「小口」は <左NY、右NY>

上記の状況を常識的に考えれば、あるレコードに宣伝として載せるレコードのタイトルは、すでに発売されているタイトルのはずだから(もちろん、近日中に発売される予定のレコードが載る場合もあるようだが)、裏ジャケットに掲載された宣伝レコードの番号が「若い」方が、やはり発売が「先」と言えるだろう。
この6004番2種の場合は~denpouさんが指摘してくれたように、6032番まで載せている「小口」に対し、6007番までしか載ってない「大口」の方が「先」であることは、まず間違いないであろう。Bcp6004_6 Bcp6004_7
≪「大口」~<左NY、右NY>のジャケットと、「長方形ロゴ」のセンターラベル≫
Bcp6004_8 Bcp6004_9
≪「半口」~<左NY、右NY>のジャケットと、「長方形ロゴ」のセンターラベル。denpouさんが発見した「長方形ロゴ」左端の「十字マーク」。この「十字マーク」が「大口」センターラベルには無い。そして「ロゴ」自体のデザインも両者で微妙に異なる。
「半口」ラベルの方は、BETHLEHEM の下の「HIGH FIDELITY」文字が銀色ラインに囲まれているが、「大口」ラベルの方は「HIGH FIDELITY」の下に銀色ラインがない。
そして、中心穴(チュウシンケツ・・・という呼び名はないかと思うが:笑)の左右の「BCP-6004」と「Side A」文字が、両者で左右逆になっている。

そしてもうひとつ・・・先ほど、*印を付けて「大口」ジャケットにも2種が存在と書いた。実は最近、denpouさんがYoさん宅におじゃました際、Yoさん手持ちの6004番:クリス・コナーが、「大口」であること、そして・・・<左NY、右CALIF><センターラベルがリーフ>であることを「発見」してくれたのだ。それまでは、denpouさん手持ち「大口」「小口」が、ともに<左NY、右NY>だったので、アドレス表記違いによる発売時期の先・後の判断にもうひとつ、疑問が残っていたのである。
P1110448 P1110449 P1110450 Yoさんの「大口」は、アドレス<左NY、右CALIF>に加え、盤のセンターラベルも<リーフ>であった・・・これでもう間違いない!というわけで・・・クリス・コナー『sings lullabys of birdland』には、ジャケットだけでも、「大口」に2種、「小口」に1種~計3種の存在が確認できたわけである。

≪追記≫(2/3) Yoさんコメント(1/27付)で、<左NY、右CALIF>ジャケットで中身の盤が「十字マーク・長方形ロゴ」のものがあったとのこと。denpouさん「大口」のセンターラベル(長方形ロゴ)には無かった「十字マーク」が付いている。チャランさん「大口」の「十字マーク・長方ゴ」とも異なる。

Cad5vqop_2 Caaicfis_2 Cau6rs6g_2

上写真6点はYoさん提供~special thanks to Mr.Yoさん!

≪追記≫(1/27) チャランさんからの情報によると~
チャランさん手持ちの「大口」センターラベル(下写真2点)は、「十字マーク・長方形ロゴ」「フラットかなあ?」とのこと(denpouさんの「大口」は「長方型ロゴ」) チャランさんの仔細なチェックにより、もう1点の差異が見つかった~それはこのLPの目玉曲(lullaby of birdland)の表記下カッコ内の作曲者名クレジットだ。チャランさん手持ちのセンターラベルのものだけ、(Forster - Shearing)となっているのだ。他3点は全て(Shearing)である。これは・・・?

 Img_0852 Cha
ついでに自分の手持ち「半口」を見たら、なんと、僕:bassclefの「半口」センターラベルは十字マークなしの「長方形ロゴ」だったのだ。(denpouさんの「半口」は、「十字マーク・長方形ロゴ」)
う~ん・・・これはどうしたことか?(笑) これでは、ジャケットは、「大口」2種と「半口」1種~の3種。そして「盤」(センターラベルの仕様)は、「大口」2種、「半口」2種の計4種が存在することになる。いや・・・下記のYoさん<センターラベルがリーフ>も入れれば、5種となる。これは・・・まだまだ追跡調査が必要だぞ(笑)

≪追記≫2/2
このクリス・コナーの6004番『sings lullabys of Birdland』~何種類もの版が見つかったのだが、それでは発売された型としては、いったい幾つの種類があるのか? ちょっと整理してみたい。
≪夢レコ≫前々回の「スタン・リーヴィー」からのジャケット裏の≪アドレス表記の違い≫考察により、発売の順番の大筋としては~
<センターNY>⇒<左NY,右CALIF>⇒<左NY、右NY>で間違いないかと思う。
その「ジャケットありき」を基本に考えてみると、発売順は以下のようになる。

1.「大口」<左NY,右CALIF>リーフ
2.「大口」<左NY,右CALIF>長方形ロゴ・十字マーク
3.「大口」<左NY,右NY>長方形ロゴ・十字マーク/Forster表記
4.「大口」<左NY,右NY>長方形ロゴ
5.「半口」<左NY,右NY>長方形ロゴ・十字マーク
6.「半口」<左NY,右NY>長方形ロゴ

*「長方形ロゴ」の十字マーク有りと無し・・・これについての新旧は、判りません。(また「長方形ロゴ」ラベルだけでの「十字マークの有無」の分布状況を調べる必要がある:笑) ただ・・・アドレス<左NY,右CALIF>ジャケットの盤に「十字マーク」が在ったことから見ると・・・「十字マーク有り」が先なのかな?と考えられます。

チャランさんのコメントに≪YoさんのはCALIFで制作、私とdenpouさんのはNYで制作されたのだと思います≫~とありました。
僕も『スタン・リーヴィー(BCP37)の同一タイトル2種発見の時点では、そのように「アドレス表記」と「製作(プレス)」を直結して考えていたのですが、どうやらそう簡単にはいかないのかな・・・と見方が変化してきました。
その「ジャケットのアドレス」と「センターラベル仕様」について、以下・・・僕の妄想です(笑)

まず、<センターNY>アドレスの時代には、まだ西海岸事務所がなかった~ということから、全て東海岸製作(プレス)ということかなと思います。問題は、西海岸事務所設立以降の「ジャケット製作の状況」と「プレス工場の状況」の関連です。つまり・・・ジャケットは、<センターNY>の次に、<左NY,右CALIF>ジャケットを、次に<左NY、右NY>を、それぞれ、1種類だけを製作していった(仮にそのジャケットが東海岸の製作だろうと西海岸製作だろうと、種類は1種類)ではないかなと・・・考えるのが自然かと思います。つまり・・・ジャケット表記とプレスは連動していない場合もある~という考えです。

「スタン・リーヴィー」記事で示したように、BCP37(Stan Levey)という一つのタイトルにおいて、<センターNY>と<左NY、右CALIF>の異なる2種が存在していたことから、それぞれのレコード(ジャケットと盤)が、東海岸と西海岸の2箇所で「製作されたのでは」と推測したわけですが、このBCP37以外には、その種のサンプルがあまり見つからない。そしてここに絶好のサンプルとして、クリス・コナーの6004番(sings lullbys of Birdland)が出現したわけです(笑) それについては上記のように、「発売された型」として、今のところ6種の版があったわけですが、それでは、どうして、あのクリス・コナー6004番は、6種(6回)も発売されたのか?・・・以下、また妄想です(笑)会社の運営という観点からみても、よほど「いっぱい売れた/まだまだ売れそう」というタイトルしか、追加プレス(発売)はされないはずである。あの頃、一般的なジャズのレコードというものが、全米中でどれくらい売れたものなのか・・・・判りませんが、仮に3000枚(初回)プレスとしたら、追加プレスは、せいぜい500~1000枚くらいではないでしょうか?  そうした「追加プレス」を決定した場合でも、市場での販売状況を見ながら、こまめに少しづつ、少しづつ(笑)という感じだったのでは・・・。逆に言えば・・・ほとんどのタイトルは、「初回プレス」だけだと考えられるわけです。
そうして初回プレスだけの場合で、わざわざ「東海岸プレス」と「西海岸プレス」と分けて製作するのかな・・・?(却ってコストが高く付く) というのが僕の疑問点なのです。
だから・・・西海岸事務所設立直後の一時期、BCP37やBCP6004など、一部のタイトルについては、両海岸で製作(プレス)したが、それ以降は、ほとんどのタイトルは「一箇所のプレス」だったのではないか。(それが東か西かは判らない) だから・・・(一箇所で一括製作してきたであろう)ジャケットのアドレスが<左NY、右CALIF>であっても、それはベツレヘム社としての規模をアピールする意味合いとしてのCALIF表記であって、だからそれがそのまま「西海岸製作(プレス)」とは限らない~と思う。
そして、その西海岸事務所を閉鎖した後の時期になると・・・誠実なるベツレヘム社は(笑)、ジャケット裏右下隅の[Hollywood, CALIF]表記を消して、そうすると・・・空いてしまったスペースがデザイン上、かっこ悪いというので(笑)・・・そこに[New York, NY] なる表記を入れた。それが・・・<左NY,右NY>になった・・・というストーリーです


*ベツレヘム・レーベルの変遷を判りにくくしている大きな要素として、2つのシリーズが複合・並行して発売されたことがあるかと思う。 そこで、自分の手持ちリストの番号並びとアドレス表記、に加えて「センターラベルがリーフ」情報も加えてみた。改めて、その番号並びとリーフの分布を俯瞰してみると、改めて確認できたことがある。

10インチ番時代が全て<センターNY>(1650 BROADWAY, NEW YORK 19表記を含む)そして<リーフラベル>だったことから、アドレスの変遷としては~
<センターNY>⇒<左NY、右CALIF>⇒<左NY、右NY>⇒<左NY、右OHIO>⇒<OHIO>の順。
そして盤センターラベルの変遷は~
<リーフ>⇒<長方形ロゴ>(長方形ロゴにも2種類あり~クリス・コナーの「大口」「小口」のラベル写真を参照のこと)の順で、間違いないと思う。
そして大筋として、以下のことが言えるかと思う。

ジャケット<センターNY>のものは、盤も<リーフラベル>である。
そして、BCP26番辺りから、ジャケットは<左NY、右CALIF>も現われるが、センターラベルは<リーフラベル>のものも多い。同様に6000番代の初期:6010番辺りまでのものにも、ジャケ<左NY、右CALIF>の<リーフラベル>が散見される。
おそらく・・・ジャケットは新規に制作された<左NY、右CALIF>を使っていったのだが、センターラベルは<リーフ>デザインの在庫が残っていてしばらくはそれを使っていた~そんな感じではないだろうか。
難しいのは、カタログの番号順と、<アドレス表記>や<センターラベル>の分布状況に「ズレ」があることだ DeluxeシリーズBCP1番~92番代と6000番代が並行して発売されていった状況で、まずは<センターNY>から<左NY、右CALF>へのアドレス表記移行(あるいは2種ジャケットの並行発売)が、いつ頃だったのか?・・・これがポイントだと思う。
以下、私見だが~
10インチ盤に続いて発売されてきた、Deluxeシリーズ:BCP1~92番の初期タイトルが、ほぼ<センターNY>であること。
BCP37番辺りから<左NY、右CALF>が現われていること。
その<左NY、右CALF>が6001番からは連続していること。
以上の点から、移行期は「BCP37番辺り」と推測している。
(実際に・・・BCP37番の『スタン・リーヴィー』には、<センターNY>と<左NY、CALIF>の2種が存在しているわけだから)

<スタン・リーヴィー>にも載せた「ベツレヘム12インチ盤手持ちリスト」をここに再掲するが、サンプル例を追加するとともに、より「版」の新・旧を探るために、<アドレス情報>の他にも以下の情報も追加した。

≪センターラベルについて~「リーフ」である場合は「リーフ」と表記した。この「リーフ」・・・同じ赤色のセンターラベルをlaurel(月桂樹)と呼ぶ場合もある。なお、表記ない場合のセンターラベルは、全て「長方形ロゴ」となる。
(長方形ロゴには「十字マーク」の有り/無しの2種類が存在するが、このリストではその有・無は表記しない)≫

≪盤が「フラット」である場合は、「フラット」と表記した。表記ない場合は、全てGG(グルーヴ・ガード)となる≫

◎印はYoさん、*印はdenpouさん、チャ印はチャランさん、無印がbassclefの手持ちから確認したもの。(このリストは、情報あれば、随時、追加記入していきます)

Bethlehem Deluxe series (12 inch LP)
 3  <左NY、右CALIF>リーフ フラット
 6  <左NY、右CALIF>
*7 <左NY、右NY>
  8  <左NY、右CALIF>
 9  <左NY、右CALIF>
  13 <左NY、右CALIF> (Ralph Sharon)
*13<センターNY>  リーフ フラット(K+JJ)
 14<センターNY 19> リーフ フラット
 15<センターNY 19> リーフ フラット
 17<センターNY>   リーフ フラット
 18<センターNY>   リーフ フラット
*19<センターNY>   リーフ フラット
20<センターNY>     リーフ フラット
*21<センターNY>  リーフ
  22<センターNY>   リーフ フラット
 24<センターNY>   リーフ フラット
◎25<センターNY>     リーフ  フラット 
 26<左NY、右CALIF>リーフ フラット
 27<センターNY>   リーフ フラット
 29<センターNY>   リーフ フラット
 30<センターNY>     リーフ フラット
 31<左NY、右CALIF>リーフ
 33<左NY、右CALIF>リーフ フラット
 34<センターNY>
*35<左NY、右CALIF> フラット
37<センターNY>リーフ フラット と 
   <左NY、右CALIF>リーフ の2種あり(Stan Levey)
  38<左NY、右CALIF>
 39<左NY、右CALIF>
 40<左NY、右CALIF> リーフ
 41<センターNY>   リーフ フラット
*42<左NY、右CALIF>リーフ フラット
*43<左NY、右CALIF>リーフ フラット
44<左NY、右CALIF>  リーフ フラット
 46<左NY、右CALIF>リーフ フラット
*47<左NY、右CALIF>リーフ フラット
  48<左NY、右CALIF>リーフ フラット
 50<左NY、右CALIF>リーフ
*52<左NY、右CALIF>リーフ
*53<左NY、右CALIF>リーフ フラット
*54<左NY、右CALIF>リーフ フラット
  55<左NY、右CALIF>リーフ フラット
 56<左NY、右CALIF>リーフ フラット
 58<左NY、右CALIF>リーフ フラット
*60<左NY、右CALIF>リーフ フラット
 61<左NY、右CALIF>リーフ フラット
*64<左NY、右CALIF>リーフ フラット
66<左NY、右CALIF>
*68<左NY、右CALIF>
◎69<左NY、右CALIF>
 71<左NY、右CALIF>
◎77<左NY、右NY>
 80<左NY、右NY>
*82<左NY、右NY>
*83<左NY、右NY>リーフ
*84<左NY、右NY>リーフ
*85<左NY、右NY>
*87<左NY、右NY>

Bethlehem 5000 series (12 inch LP)
5002 <左NY、右NY>
5006 <左NY、右NY>(Russ Garcia/Sounds in the night)

Bethlehem 6000 series (12 inch LP)
 6001<左NY、右CALIF>
◎6004<左NY、右CALIF> 「大口」リーフ(Yoさん) *写真
◎6004<左NY、右CALIF> 「大口」 十字ロゴ   
チャ6004<左NY、右NY> 「大口」(チャランさん) *写真 十字ロゴ 
[lullaby of birdland]作曲者が[Forster-Shearing]表記
*6004<左NY、右NY> 「大口」(denpouさん) *写真
*6004<左NY、右NY>  「半口」(denpouさん) 十字ロゴ*写真
  6004<左NY、右NY>   「半口」
◎6005<左NY、右CALIF>リーフ
 6006<左NY、右CALIF>
 6007<左NY、右CALIF>リーフ フラット 
 6008<左NY、右CALIF>リーフ
◎6010<左NY 、右CALIF>リーフ 
 6011<左NY、右CALIF>
*6014<左NY、右CALIF>
 6015<左NY、右CALIF>
 6016<左NY、右CALIF>
*6017<左NY、右CALIF>
*6018<左NY、右CALIF>
 6020<左NY、右NY>
◎6021<左NY、右NY>
 6025<左NY、右NY>
 6029<左NY、右NY>
 6030<左NY、右NY>
*6038<左NY、右NY>
◎6045<左NY、右NY>
 6049<左NY、右CALIF>
*6051<左NY、右CALIF>
*6055<左NY、右Ohio>
◎6061<左NY、右Ohio>
◎6064<OHIO>
*6063<OHIO>
 6069<OHIO>

EXLP-1(3LP 箱入り:アドレス表記なし)
EXLP-2<左NY、右CALIF>

そして・・・まだ大きな「謎」が残っている。それは、なぜ6000番代より発売の古いはずの、BCP1~92番Deluxeシリーズの中の若い番号~僕の手持ち盤では、3・6・8・9・13番が、なぜ<左NY、右CALIF>なのか? アドレス表記の変遷は、<センターNY>⇒<左NY、右CALIF>⇒<左NY、右NY>⇒<左NY、右OHIO>⇒<OHIO>のはずである。
ここがよく判らない。いや、もちろんこれらが、再発としての<左NY、右CALIF>であれば問題ない。つまり・・・これらの番号タイトルの<センターNY>1stの存在が確認できれば、<左NY、右CALIF>は後年発売された2ndである~と、誠にすっきりとした説明が付くのだから。
ところが、これが見つからない。ネットでいろいろチェックしてみても、今のところは見つかっていないのだ。どなたかお持ちであれば、ぜひ情報提供を(笑)
この謎については・・・例えば、こういうのはどうだろうか?
Deluxeシリーズが発売され始めた時、何らかの理由で、1~9番辺りが「欠番」として使われなかった。そして、Deluxeシリーズの30番辺りから、6000番代が並行して発売され始めた頃に~つまり<左NY、右CALIF>ジャケットに移行し始めた頃~発売されたいくつかのタイトルが、その「空き番号」であるBCP1~9番に充てがわれていった~というのが、今の僕の妄想なのだが(笑) 

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2014年1月18日 (土)

<ジャズ雑感 第35回>ミルト・ヒントンというベース弾き

002 ≪写真~Bethlehem bcp 1020≫
ミルト・ヒントン。なんというか・・・真に重厚なベーシストである。そして、ウッドベースにおける伝統的4ビートジャズの体現者である。僕の想う「伝統的」とは・・・まず「ベース音のでかさ」である(笑)。ミルト・ヒントンのベース音は間違いなく「大きい」。それは録音されたベース音であっても、その「鳴り」~弾かれた音がベースの胴から廻りの空間に拡がる感じ・・・辺りの空気が振動する感じ~で判る。アタッチメント(マイク)が普及するよりもうんと前の時代のベース弾きには要求されたであろう「音の大きさ」・・・ヒントンは、その「大きな音」を余裕でクリアしていて、さらにその大きい音を、「太くて、丸い、輪郭の拡がる感じの音」(これがおそらくガット弦の特徴)で鳴らしている。これが・・・ウッドベース好きにとっては、実に魅力的なんです(笑) 
さきほどから「大きい、大きい」と叫んでいるのだが、これは・・・ウッドベースを生音で(マイクを使わずに)弾いた状態でも充分に「大きい」という意味であって、単に出来上がったレコードで聴ける状態で「ベースの音量が大きい」状態とは、ややニュアンスが違う。レコードでは「大きく」聴こえても、それが「生音で大きい音」とは限らない。このことは、ウッドベースという楽器の使われ方(マイク、弦高の高さ加減)にも関係してくるので、以下に少々、ベース談義を(笑)

Hinton_playing_a_contrabass_4 Milthinton2
≪ミルト・ヒントンの写真2点~見よ、この太い弦!(ガット弦)、そして弦高の高さ!右の写真でお判りのように、右手の指の腹を弦に深く当てて、なおかつ、指板の一番下の辺りで弾いている。全てはウッドベースから大きな音を生みだすための作法だ≫

~ちょっと乱暴な言い方だが、70年代以降、ほとんどのベーシストがアタッチメント型マイク(ウッドベースの駒に直接、貼り付けたり、はめ込んだりして音を拾う型のマイク)を使うようになって、その結果、1970年~1985年くらいまでの15年間くらいだったか・・・ほとんどのジャズレコードで聴かれるウッドベースの音が、「フニャフニャ」になってしまった。当時の代表的ベーシスト~エディ・ゴメスもロン・カーターもリチャード・デイビスもペデルセンもジョージ・ムラーツも~誰も彼も、アタッチメントマイクを使うようになって、そうすると、音をよく拾ってくれるので、(その結果)弦高を低くセッティングしたのだろうか・・・その時期のレコードで聴かれるベース音は、音量は大きくて、低い音もよくサスティーンされ(伸び)、音程(の良し悪しも)も聴き取りやすくなったのだが・・・それは空気を振動させた音色ではなくて、限りなくエレベ(電気ベース)に近い、電気的な音色になってしまったわけで・・・それは伝統的なウッドベース好きにとっては・・・致命的に「良くない」ことだったのだ。
ただ、そんな時代でも、例えば、レイ・ブラウンは「大きな生音」を維持していた。エリントンとのデュエット(1972年:パブロ録音)を聴けば、そのベース音の馬力、粘り、ビート感の強靭さに驚かずにはいられない。そうして・・・こういう「グルーヴ感」は、(私見では)ある程度、弦高を高くしてベース本体から発される生音を『空気中に響かせる』状態にしないと、生まれないものだと思う。
・・・このようなことは「ウッドベース好き」にとって、どうにも「気になること」かと思います。ですので、1970年代~80年代中期頃のウッドベースの音質が、それほど気にならない方は無視してください(笑) また前述の『ベース音のフニャフニャ傾向』も、ある時期に目立ったもので、その後は(私見では1990年くらいから)、マイク機器そのものが改良されたこともあって、アタッチメントマイクを使っていても、それほど電気っぽくない自然な聴きやすい音質に改善されてきたように思う。加えて、弦高も高めのセッティングにして、ウッドベース本来の力強い「ベース音」を発しているベーシストも増えてきているようだ。たとえば、クリスチャン・マクブライドのベース音は『ベース本体がよく鳴っている』感じが充分にあって、本当に素晴らしい。
ちなみに「生音が大きな鳴り」のベース弾きはミルト・ヒントンの他にも、もちろんいっぱい居るわけで、私見ですが、例えば~
ジョージ・デュビュビエ
ウイルバー・ウエア
チャールス・ミンガス
ジョージ・タッカー
エディ・ジョーンズ
などをこのタイプとして挙げたい。そして、このタイプのベース弾きは、たぶん、ガット弦(ウッドベースで使う弦の種類)を使っている・・・と、睨(にら)んでます。

さて・・・ここらで、話しをレコードに戻しましょう(笑)
ミルト・ヒントンのベツレヘム盤『Milt Hinton』1955年1月録音。
005_3 このベツレヘム盤・・・僕の手持ちは bcp1020なる番号表記である。(左の写真とこの記事の一番上) いろんな資料で調べてみると、この『ミルト・ヒントン』~(ディスコグラフィでは)まずは10インチ盤 BCP-1020番として発売された後、12インチ盤 DeluxシリーズのBCP-10番として発売されたことになっている。しかるに・・・今、僕の目の前にある12インチ盤『ミルト・ヒントン』は、bcp1020番なのだ。
「さあ、これ、いかに?」というわけで・・・ちょうど前回の<夢レコ>(スタン・リーヴィー記事)の追記としてこの話題にも触れたところ・・・M54さんから決定的なコメント情報が寄せられた。その情報から、僕はいろんなことを妄想した(笑) 
以下、M54さんとのコメントやりとりの一部を再掲しながら、氏が提供してくれた写真も載せて、ベツレヘム盤『ミルト・ヒントン』の12インチ盤2種存在の謎に迫ってみたいと思う。

M54さん~
≪ミルト・ヒントンは持ってますので確認」してみました。ふ~む、面白いですね。 僕のはbcp10 ですが、表の右上の表示はシルバーのシール貼りです。 bassさんの記事から想像するにこの下にはbcp1020が隠れているのではないかと! 裏面ですが、これも左右の上部角のレコードnoはBCP-10ですがこの10の後に黒く塗りつぶしてあるのです。 この塗りつぶしの下は20が隠れていると思います≫
Dscn0848 Dscn0846

≪上記写真2点はM54さん提供。まさに「シール貼り」と「マジック消し」だ。ジャケット裏のミュージシャンのパーソネルの箇所:clarinetのA.J. SCIACCA なる人物にTONY SCOTTとメモ書きしてある。相当なジャズマニアの所有レコードだったのだろう(笑)≫

bassclef~
≪う~ん・・・そうですよ、M54さん、その推測で、まず間違いない、と思いますよ。つまり・・・ベツレヘム社は、10インチ盤1020番と(たぶん)同じジャケットをそのまま使って、まずは、12インチ盤を造った。当然「そのまま」だから、この12インチ盤は表ジャケ・裏ジャケ ~とも1020番が表記されていた~(これが単純ミスなのか、確信犯なのかは判らないけど:笑)後からシールでも貼っておけばいいだろう~てなことで「BCP 10」のシールを表ジャケ右上のbcp1020の上に貼った! そして、裏ジャケットはシール代が嵩(かさ)むので(笑)黒マジックで、「BCP-1020」の1020という数字4ケタの下2ケタの20を消した! 54さん・・・そういうことでしょうね。シールの下には間違いなく「bcp1020」という番号が表記されていることでしょう。そのシールを剥がしてみて~とは言いませんから(笑)
12インチ盤が出来上がってから・・・「あ、10インチ番(1020)と同じ番号じゃ、まずいね」ってことで修正を図ったんでしょうね。それにしても「シール貼り」はともかく、黒マジックで消す~というのはなかなか大胆な作戦ですね(笑)

M54さん~
≪ジャケ裏の住所表示ですが、センターのみで Bethlehem Records,1650 Broadway, New York 19, N. Y. です。盤はフラットです。bassさんのもフラットではないですか?≫

bassclef~
≪はい、住所表記もまったく同じです。盤もフラットです。ということは・・・(便宜上、こう呼ぶが)僕のbcp1020番も、M54さんのBCP-10番も、おそらく、全く同一の(製作段階でも)ものでしょうね。ジャケットも中身の盤もまったく同じ12インチ盤~ミルトヒントン」ということになります。僕の手持ちは「シールなし」「マジック消してない」状態ですが、シールは剥がれ落ちたものかもしれません(笑) まあごく常識的に考えれば、ベツレヘムさん~1020番が10インチと12インチと同じだあ!というミスに気付くまで・・・ある程度、出荷してしまって、その後、「シール&マジック」で修正したものを出荷した~ということになるのかな≫
004

~というような事情です。
つまり・・・ここに実例として挙げた12インチ盤『Milt Hinton』は、異なる2種ではなく、製作段階では「まったく同じもの」だったと考えて間違いないと思います。その同じものを、比較的短い期間の内に、「シール貼り・黒マジック消し」で、「違う番号のもの」に見せかけただけであって、「もの」としてはまったく同一な商品であろうかというのが僕の結論です。
そして、この12インチ盤・・・実はもう1種、別のエディション(版)が存在しているかもしれません。これは以前にネットで見かけた記憶の話しなので確証はありません。それは・・・表ジャケットの色合いもセピア調とは違う感じだし(モノクロのように見えた)、何よりも表ジャケットの右上に「長方形ロゴ」が見えたのだ(そう記憶している) そしてその「長方形ロゴ」にはBCP-10と印刷されているように見えた。現物で確認できてないので、断定はできませんが、おそらく・・・「シール貼り」処理したbcp 1020ジャケットの在庫がなくなったので、新しく「長方形ロゴ&BCP-10」ジャケットを製作したのではないかなと推測できます。
*『ミルト・ヒントン』の「長方形ロゴ・BCP 10」をお持ちの方、ぜひコメント情報をお寄せください。

Bethlehem盤 『Milt Hinton』なるレコードの内容についても、少々、触れておきたい。
この初リーダー作はカルテット~ピアノにディック・カッツ、ドラムにオシー・ジョンソン、そしてクラリネットには、A.J.Sciacca なる聞き慣れない名前だが、このSciacca(ショッカと読むらしい)なる人・・・どうやらトニー・スコットの本名らしい。
ベース弾きのリーダー作ということで、ミルト・ヒントンは over the rainbow と these foolish things で、お得意の「ヒントン節」を披露しながら、全編、ベースでメロディを弾いている。トニー・スコットが抑えた感じでヒントンのベースに絡む these foolish things はなかなか聴き応えがある。

Photo_2 ああ・・・そういえば僕がミルト・ヒントンという人をいいなあ・・・と最初に感じたのは、あれは、ハル・マクージックのcoral盤『Jazz at the Academy』というレコードからであった。そのレコードでも、やはり over the rainbow を、ヒントンがベースでメロディを弾いているのだ。ギターのバリー・ガルブレイスとドラムのオシー・ジョンソンがごく控えめに伴奏している。これがとってもいいのだ! ヒントンという人が自分の好きな曲を、そのメロディを奏でるのが嬉しくて仕方ない・・・という感じがあって、サビ辺りからテンポがどんどん速くなったりする(笑) それでもその生き生きしたヒントンの「唄い」が本当に素晴らしい! 聴衆も固唾(かたず)を飲んで、このベース弾きの唄を聴き入っている様子なのだ。サビで盛り上がってきた辺りで誰かが「ぅおお~」と短い歓声を上げる・・・おおっ、この演奏、ライブ録音だったのか!そうしてメロディを唄い終えると・・・聴衆は一気に拍手・・・という over the rainbow なのである。
ちなみに、このcoral盤は、アルトのハル・マクージックの音色も素晴らしくて、もちろん、僕のマクージック愛聴盤である。ちなみに、at the Academy というタイトルではあるが、どうも拍手や歓声の入り方がワザとらしいトラックが多くて、どうやら全編がリアルなライブ録音ではないようだ。しかし・・・ヒントンが弾くover the rainbow だけは、何度聴いても、そこにリアルなライブ空気感が感じられるので、僕としては、これこそ、「ミルト・ヒントンの畢生(ひっせい)の傑作ライブ演奏」として記憶していたい(笑)

ミルト・ヒントンは2000年に亡くなっているが、1989年(ブランフォード・マルサリスのTrio Jeepy(2枚組)でも、生き生きしたビート感で、まったく衰えていないベース音を聴かせてくれる。この時、ミルト・ヒントンは79歳のはずで ある・・・まったく凄いベーシストがいたものだ。
ジャズは・・・ますます止められない(笑)

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2012年12月31日 (月)

<思いレコ 第19回>スタン・ゲッツのJazz at Storyville。

スタン・ゲッツ入魂のアドリブ・・・1951年の傑作ライブ!

ジャズを長く聴いていると、まだ馴染みのないミュージシャンであっても、なんとなくこの人は好きだな・・・と感じる場面がけっこうある。それからそのミュージシャンのレコードを色々と聴いていくと・・・その人の諸作の中でも分けても好きなアルバムというものが自(おの)ずと浮き上がってくる。ジャズを長いこと聴いてきても厭きないのは、そんな風に少しづつ自分にとって未知のミュージシャンを知り、その人を身近に感じていく・・・そんな過程が楽しいからかもしれない。

10_004 Stan Getz/Jazz at Storyville(Roost RLP-407)1952年
thou swell
the song is you
mosquito knees
parker 51

スタン・ゲッツ・・・この人をもう長いこと聴いている。特に50年代初期のゲッツに痺れている。何故か?何かを好きになるのに理屈はないのだろうけど、強いて言えば・・・僕はまずもってあのテナーの音色が好きなのである。
1949年~1953年頃のゲッツの音色は、音が小さく、か細い感じで、ごく素朴に言えば・・・あんまり力強くない(笑) 
僕の場合、テナーという楽器ではロリンズを先に好きになったので、この50年代ゲッツ聴きのごく当初には、若干の違和感を覚えた。ちょっと器楽的な話しをすれば、ゲッツの音色はサブ・トーンの割合が多い感じかと思う。サブトーンというのは・・・(私見では)吹き込んだ息の全てを音として「強く大きく鳴らそうとはしない状態」・・・というか、そんな吹き方のことだ。だからサブ・トーン気味の音は、まずは「柔らかい感じ」に聴こえる音色だと思う。判りやすい例を挙げるならば・・・<レスター・ヤングがサブトーン主体で、コールマン・ホウキンスがフルトーン主体>かな。
(実際の聴こえ方としては、サブトーンだから「小さい音量」、フルトーンだから「大きい音量」という単純なことではないとも思う)

様々なミュージシャンの現す音色(例えばテナーならテナーという楽器の)に対しての好みというものは・・・ヴォーカルものへの好みと同じように「その声(音色)」に対しての生理的な反応で左右されると思う。
「おっ、いい感じの声だな」と感じるのか・・・あるいは「あまり好きな声じゃないな」と感じるのか。そんな具合に、どういうものを好むかは良い・悪いじゃなくて、聴き手それぞれの感性の問題だろう。

楽器の音色としてゲッツのあの「ヒョロヒョロ~」がダメだという方も多いような気もするが、僕の場合は、その「ヒョロヒョロ音色」はすぐに気にならなくなり、というより、太くはなくても力強くはなくても・・・その逆に、柔らかくて肌理(きめ)の細かい肌触りのいいシルクのような・・・その「音色」を好きになった。 
そしてこのことは・・・ちょいと大げさに言えば、ジャズの魅力というのは、力強くゴツゴツした黒人的なハードバップだけにあるわけではなかった・・・という、僕のジャズ聴きへの新たな開眼ポイントになったのだ。

僕自身のジャズ聴きの変遷を思い起こしてみると、ゲッツについては、50年代ゲッツに踏み込む前に、60年代のボサノヴァでのゲッツはよく耳にしていて、そこでもうゲッツを好きになってはいたじゃないか。ジョアン・ジルベルトとの「イパネマの娘」・・・間奏部でのあのゲッツのソロ! なんと見事に歌うフレーズであることか!あれは譜面か?(アレンジされていたもの) と思わせるほどに、テーマメロディを生かしながらの、小粋な崩し。ソロの最後の辺りの3拍3拍2拍のフレーズ・・・これはもう「粋」としてか言いようのないジャズになっていると思う。
この辺りの「前ゲッツ体験」を、今、あえて分析してみると・・・たぶん僕は、ゲッツの自然なフレーズ展開の見事さに感心していたのだろう。元メロディを生かしながら自在に展開させてしまうセンスのよさ・・・そうなのだ、ゲッツという人は「音色」だけではなく、「フレーズ」の人でもあったのだ! そんなの、あたりまえの話じゃないか(笑)

スタン・ゲッツは閃きの人だと思う。「閃き」を生かす~という点では、ソニー・ロリンズと同じタイプ(音色やフレーズは全く対極だが)かと思う。そうして・・・いい「閃き」が湧いた時のゲッツは・・・本当に凄い。テーマの部分では元のメロディを崩したりもするが、しかしそれは元メロディのツボをちゃんと生かしたようなフレーズであって、そしてひとたびアドリブに入れば、ゲッツはもう吹くのが楽しくて仕方ない・・・という風情で、迷いのない、そして見事に歌っているフレーズを次々と繰り出してくる。スローバラードでの叙情溢れるフレーズももちろん素晴らしいのだが、急速調でのスピードに乗った淀(よど)みのないフレージングときたら・・・それはもう、本当に生き生きとした音楽がそこに立ち現われるのだ。

10_003 Stan Getz/Jazz at Storyville volume 2(Roost RLP-411)1952年
pennies from heaven
budo
jumpin' with symphony sid
yesterdays

さて・・・ゲッツの「音色」と「フレーズ」についていろいろ書いてきたが、僕が思うスタン・ゲッツという人の本当の凄さとは・・・実はその「音色」と「フレーズ」の見事な融合感にあるのだ。
ゲッツの吹くフレーズには理論で分析したような跡はまったくない。閃きによって生まれた自然なフレーズを、あたかも「そういう音しか出なかった」ように思える自然な音色で吹く・・・。これら2つの要素がまったく違和感なく、ごく自然に溶け合っていることに、僕は驚くのだ。
スタン・ゲッツという人は、自分の音色に合うフレーズを自ら生み出したのだ・・・いや、自分のフレーズに合う音色を創り出した・・・そういうことだと僕は思う。
そうして、ひとたび彼がテナーを吹けば、それがテーマであってもアドリブであっても・・・そこには本当に「自然な歌」が溢れ出るのだ!

もしあながたゲッツのそんな「自然な歌」に浸りたいのであれば・・・何を置いても、スタン・ゲッツのこの Jazz At Storyville を聴かねばなるまい。ようやくレコードの話しになった(笑)
Jazz At Storyville は「ストーリヴィル」というジャズクラブでの1951年10月28日のライブ録音である。1951年のしかもライブ録音だから、やはりそれほどいい音質とは言えない。まあしかし・・・このライブ盤に関しては・・・音質云々(ウンヌン)はもうなしにしよう。 音楽を聴こうではないか! 1951年のこの瞬間に、テナーという楽器を本当に生き生きと吹いた・・・そう、息を吸って吐いていた彼の生きた時間を、生きた音楽を聴こうではないか!

Roostレーベルにはゲッツの10インチ盤が7枚ある。その内の3枚が、Storyvilleのライブ盤である。番号は~407、411、420で、各4曲づつ収録の全12曲。後に2枚の12インチ盤で再発された時に、1曲(everything happens to me)が追加されている。
*12インチ盤の写真はこの記事の一番下にあります。

10_002 vol.1が1952年に発売された後、1954年に発売されたvol.3(420)の裏ジャケット。タイトルJAZZ AT STORYVILLE の下の、~not so long ago at the Storyville Club in Boston という文章が何やら言い訳がましい(笑) 2年も経ってしまったから「最近」とは言えずに「そんなに以前のことではない」みたいな意味合いだろう。

これらシリーズ3枚目の10インチ盤~3枚のライブ盤:全12曲・・・どのテイクも本当にいい。しかしあえて・・・ベストを(というより単に自分の好みだが)挙げれば・・・そうだな、やはり parker51ということになるかな。
parker51なる曲は「チェロキー」のコード進行をそのまま使っていて、そもそもチェロキーという曲は急速調で演奏されることが多く、スピードに挑戦する時に格好の曲なのだ。ゲッツはパーカーがそうしたように、2小節8拍を「3拍3拍2拍」で取るノリのフレーズを吹いたり、細かいアルペジオ風のフレーズの終わりを「タッタッタッ!」という歯切れのいいスタカートで締めるパターンを繰り返したり・・・いろんなアイディアを繰り出してくる。・・・parker51 は全員がスピードの限界辺りを果敢に突き進んでいて(220くらいのテンポか)そのリズムに乗って、スタン・ゲッツがアドリブの本領を発揮している名演だと思う。
ドラムのタイニー・カーンも凄い。特に急速調の曲でのタイニー・カーンは、柔らかいシンバリング(シンバルの叩き方)で、バンド全体をグイグイと乗せてくるような感じだ。バッキングを無難に流すだけのありきたりのドラマーではない。そして、vol.3に収録の move では終盤にドラムのソロ場面があるのだが、これが素晴らしい聴きものだ。リズムの割り方が面白くて、かなり変則的なことを演っているのだが、自分のソロを見事にコントロールしている。1951年としては相当に新しい感覚だと思う。カーンもまた閃きの人だったのだろう(笑) ゲッツは明らかに、このドラマーの凄まじいノリに刺激を受け・・・燃え上がったのだ!
ジャズは・・・凄い(笑)

10_001 Stan Getz/Jazz at Storyville volume 3 (Roost RLP-420)1954年
rubberneck
signal
hershey bar
move

ジャケットについて言えば・・・vol.3の写真ジャケが一番好きだ。vol.1とvol.2のジャケット・・・バート・ゴールドブラットのイラストは、もちろん悪くないが、何かしら全体のバランスがちょっと変な感じもあって、その点、vol.3のモノクロ写真はかっこいい。ゲッツのあの「白いマウスピース」が、ひと際、輝いている。そうしてよく見てみると・・・あれ?このゲッツの写真~(写真上)右向きでテナーを吹いているゲッツのアップ写真なのだが、これ・・・明らかにvol.1とvol.2のイラストと同じじゃないか。そうか、この写真を基にイラストにしたのだな。そしてvol.3のジャケット右隅にはメンバー4人の演奏中と思(おぼ)しき写真も写っている。う~ん・・・しかし小さい。この4人をもっとアップにした写真を裏ジャケットに載せればよかったのに。

余談だが、この「白いマウスピース」について少しだけ。この白いマウスピース(brilheart社のstreamline)・・・僕などは、あれこそがゲッツの代名詞みたいなイメージを持っているのだが、ゲッツも生涯、このマウスピースしか使わなかった・・・ということではないようだ。管楽器をやっている方には当たり前のことなのだが、管楽器というものは、マウスピースの種類によってその音色が相当に変わるのだ(リードの種類も大いに関係してくる)
スタン・ゲッツも、ある時期、マウスピースをあれこれ試していたらしい。ゲッツのテナーの音色(基本的にはサブトーン主体のソフトな音色だと認識している)が、年代によって微妙に違うようにも聴こえるのだが、それは当(まさ)にマウスピースの違いによるものだったのかもしれない。その辺りについてジャズ仲間のsige君がとても参考になる資料を紹介してくれた。
テナー奏者の西条孝之介が、ゲッツの使ったマウスピースについて詳しく語っているのだ。以下、ほんの一部を抜粋~
≪(細いメタルのマウスピースを使ってますね)これはベルグラーセンですね~ゲッツは若いとき、ビバップをやろうとした~サヴォイの「オパス・デ・バップ」の頃、僕としては許せない音なんですよ。下品な音。~~~~~~~~ウディ・ハーマン楽団の頃から変わってくる~白いマウスピースですね。ストリームラインと書いてあるけど~ブリルハート社製でね。プレスティッジもルーストも全部これ~≫ う~ん、興味深い・・・。ジャズ批評119号(p101~p103)をお持ちの方~ぜひご覧ください。

なんにしても・・・ジャズは本当に素晴らしい!

122 左の写真~2枚の12インチ盤。
左側が第1集(1956年)
右側が第2集(1957年)
追加1曲のeverything happens to meは、第2集のA面最後に収録されている。



下の写真~試みに第1集のジャケットを「反転」させてみると・・・なかなかいい写真が現われた! ベーシストにうんと近い位置で吹いている。ストーリーヴィルでの演奏中の写真なのだろうか?

Getz_roost_12inch_1_2

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2010年11月23日 (火)

<思いレコ 第18回>チェット・ベイカーのPacifc盤

チェット・ベイカー・・・抑制の美学

Dscn2508_10 チェット・ベイカー・・・この人のトランペットには独特な何かがある。その「何か」をどんな風に表現したらいいのか・・・音や音色のことを言葉で表わすのは、なかなか難しい。
例えば・・・あなたがある歌手なりミュージシャンを好きに(嫌いに)なったとする。音程がどうとかフレーズがどうとか言ったりもするが、聴き手にとっての好みというのは・・・突き詰めていけば「歌手の声質」であり「楽器の音色」に対する感覚的なものかと思う。では・・・演奏者にとっての好みというのはどんな風に現れるものだろうか・・・。

ジャズという音楽を色々と聴いてくると、トランペットという楽器からも実に色んな「音色」が発せられきたことが判ってくる。マイルス・デイヴィスの音色とクリフォード・ブラウンの音色は、やはり相当にその質感が違う。
ミュージシャンの発する「音色」というものは・・・やはりその人の感性や美学から生まれてくるものだと思う。
アドリブのフレーズとかタンギングとかの技術上・奏法上のことはある程度、分析的・後天的に造られていくものかもしれないが、その人が発する「音色」というものは、歌手の声と同じように先天的なもので、それは「その人であること」を決定づける根本だと思う。もちろんどの楽器の奏者の場合でも、その楽器を持った端(はな)からその「先天的音色」が出るはずもないが、その修練過程において、無意識にでも「あんな音、こんな音がいいなあ」と感じながら、その「音色」が創られていくものではないだろうか。そうして、チェットという人は・・・心底、己(おのれ)の感性、いや、もっと本能的・肉体的な意味での生理感覚だけで、トランペットという楽器をまったく自分の好きなように鳴らしている・・・そんな風に思えてならない。

チェットはトランペットを溌剌(はつらつ)とした感じでは吹かない。
チェットのトランペットは、いわゆる金管楽器に特有の輝かしいものではなく、くぐもった様に暗く低く、しかし妙に乾いた感触のある・・・そんな不思議な音色で鳴る。
チェットは音色だけでなくその語り口も独特だ。
フレーズはたいてい、のそ~っと始まり、戸惑ったように口を噤(つぐ)んだり、そうしてまた訥々(とつとつ)と語り始める・・・そんな風情だ。
スローものでは、いや、速めの曲でさえも、いつもどこか一歩引いた視点で吹いているように見える。
そうなのだ・・・この人は明らかにいつも「抑えて」吹いているのだ。
人が何かを訴えたい時に、声高(こわだか)に叫ぶよりも、逆に抑えた方がうんと説得力が増す・・・ということもあるように、チェット・ベイカーという人は、そんな「抑えた語り口の凄み」というものを、本能的に身に付けている稀なミュージシャンなのかもしれない。
そんな独特な音色と語り口でもって、チェットという人は己(おのれ)を語るわけだが、その音(サウンド全体)から醸し出される情感の漂い方が、これまた尋常ではない。あの「寂しさ」や「けだるさ」・・・あんな風に直截に鋭く深く「ある情感」を感じさせる「音」というものもめったにないだろう。
そしてその「音」は、フィーリングの合う聴き手には、どうしようもないほど素晴らしい。

僕はチェットのスローバラードをどれも好きなのだが、特にこれは・・・と思うものをいくつか挙げてみたい。後期のものはあまり聴いてないので、どうしても初期の作品からのセレクトになってしまう。Dscn2507_2
《チェットの最初のリーダーアルバムとなった10インチ盤/Pacific PJLP-3。チェットのトランペットの斜め下向き、なぜか切り取ってしまった背中の真っ直ぐライン、それらが水色と黒の中に見事にデザインされていて・・・実に素晴らしい。この写真では判別しづらいがセンターラベルは<艶あり>で、裏ジャケ下の住所はSANTA MONICAとなっている。この10インチ盤では imagination というスローバラードが秀逸だ》

キング発売の「チェット・ベイカー・カルテット」第1集・第2集(キング18P~の1800円定価のもの)を、発売当時に入手し損ねた僕は、その後もあの水色のジャケットが欲しくて仕方なかった。Dscn2519_2
たまに中古盤屋で見つけても、そのキング盤は5000円以上の値段で我慢せざるを得なかった(笑)
だいぶ後になってから東芝が発売した「コレクターズLPシリーズ from オリジナル10インチ」なるシリーズで、ようやくその音を聴くことができた。このシリーズは元々の10インチ盤のジャケットをそのまま12インチに引き伸ばしたものだが、それでも、オリジナル10インチ盤の素晴らしいデザインと「同じもの」が見られるだけで、僕は充分にうれしかった。
そうしてようやく、その「本物の水色ジャケット」の10インチ盤を手に入れることができた。東芝12インチ盤と並べてみると・・・やっぱりこのジャケットは10インチの方が収まりがいいようだ(笑)

その「カルテット第2集:featuring ラス・フリーマン」にmoon loveという曲が収められている。ラベルのクレジットには kern-grossmith-wodehouse とクレジットされており、東芝盤解説では『ジェローム・カーンが作曲したもので~』という岩波洋三氏の解説もあるが、これ、元々はクラシックの曲で、それはどうやらチャイコフスキーの交響曲第5番第2楽章からの引用らしい。
というのも・・・先日、サックス吹きの友人sige君とグロッタ(ジャズ喫茶)にてジャズ話しなどしていると、ちょうどこのチェットのmoon loveが掛かったのだが・・・「このチェット、いいだろう」と僕が言うと「あれ?・・・何でチャイコフスキーが・・・」とsige君。そういえば彼はクラシックにも詳しいのだ。
そうか・・・この曲の元メロディは、チャイコフスキーだったのか。それにしても、本当にいいメロディじゃないか・・・。
このメロディがチェットのあの音色でもって流れてくると・・・なんとも内省的な思いに沈み込んでいくような風情がある。それは・・・寂しさだけでなく、仄(ほの)かに希望を感じさせるような・・・そう、哀しいのだけど微(かす)かに微笑んでしまう・・・そんな雰囲気だ。それを「ペイソス」と呼んでもいいのかもしれない。う~ん・・・やっぱり、チェットはいいなあ・・・(笑)

moon loveという曲は、うんと初期のpacific録音。
《ついに手にいれたオリジナル10インチ盤 Pacific PJLP-6》Dscn2505_2

この10インチ盤にもジャケット違いが存在する。カラーとモノクロだ。Dscn2517 そして・・・そのカラー盤にも2種類あるかも。
この10インチ盤写真の「黄土色っぽいもの」と「セピア色っぽいもの」の2種があるようだ。
(東芝12インチ再発盤は、そのセピア色盤が出自かも)
僕もオリジナル10インチ盤の現物2種を並べて確認したことはなく、ネット上での写真による比較なので、絶対とは言えない。  

《PJLP-6の裏ジャケット》

Dscn2506_2 この10インチ盤の収録8曲は、もちろん全てインストなのに、なぜかsings~の時の写真が使われている。それともこのセッションの合間に歌の練習でもしていたのだろうか(笑)


 

 

そういえばリチャード・ツアージックというピアノ弾きが気になっている。だいぶ前にこのブログでチラッと触れたPianists Galore!(world pacifc) に入っていた1曲(Bess,you is my woman)~あの普通ではない暗さがどうにも気になったのである。
そしてその頃、ちょっと珍しい日本盤2枚組みを入手した。
《チェット・ベイカー・イン・パリ》         

Dscn2513_4 この2枚組は日本ポリドール発売。ラベルが白いテスト盤のようだが、この2枚組の何曲かがチェットとツワージックの共演セッション。僕はこのLPで 初めて sad walk という曲を聴いたのだが、これがまたそのタイトルそのままに、なんとも寂しい・・・どうにも寂しい雰囲気なのだ。たぶん・・・ツアージックがチェットのために書いた曲なんだろう。というより・・・いつも耳にしているチェットのトランペットのサウンドがツアージックの耳に、身体に沁み込んでしまって、そうして,じわじわとこの寂しいメロディが湧きだしてきた・・・そんな気になってしまうほど、この曲はチェットに合っている。
この2枚組LPを聴いて、しばらくの後、香港でCD(仏polydor)を見つけた。そのCDには、チェット~ツアージックのセッション全9曲が収録されていた。ホントは・・・CDなんかじゃなく、仏Barcleyのオリジナル盤が欲しい・・・(笑)

チェットのPacifc10インチ盤は、PJLP-3、PJLP-6の他にもいくつか出てます。その辺りはまたの機会に。

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2009年1月 2日 (金)

<ジャズ回想 第18回>ジャズ好きのささやかな幸せ(笑)~Pacific10インチ盤を巡って

大晦日~recooyajiさんとああだこうだのレコード聴き。

毎年、暮れの31日のお昼過ぎになると、僕は何を置いても出かけていく。すぐ近所のレコードのお仲間~recooyajiさんと「暮れのレコード聴き」をやるのである。何も暮れも押し迫った31日に集まらなくても・・・とも思うのだが、二人とも前日まで仕事のことが多くて、それに大晦日に家の掃除などするのも面倒なので、こうやって集まればその3~4時間は掃除免除となるのもいい(笑) そんな訳で、この2人集まりは恒例行事になってしまったようである。001

「何からいきましょう?」と問われた僕は、いくつか持ってきた10インチ盤の中からintroducing Joe Gordon(emarcy:10インチ)を取り出す。

《上の写真~モノクロ写真に濃い目の緑色が効いている。左後方のベース弾きがソフトフォーカスになってるのもいい。好きなジャケットだ》

これ、長いことCDで我慢していたが、ようやくこのオリジナル盤を入手できたので、最近、よく聴いているのだ。
A面1曲目~toll bridge から始めた。これを聴くといつも「あれ?このテーマ・・・どこかで聴いたことあるぞ」と思うのだが、そういえば、これ・・・モンクの「ハッケンサック」という曲と同じようなテーマじゃないかな。
002このジョー・ゴードン盤~emarcyにはなんとなく似合わないようなゴリゴリのバップ、いや、ハードバップになりかけ・・・かな。そんな黒っぽいジャズになったのは、やはりテナーで登場するチャーリー・ラウズのおかげだろう。ラウズのソロが思いの他、良いのである。どの曲でもゴツゴツした音色(後年よりも)でガッツあるソロを取っている。ちょっと残念なのは、このemarcy盤・・・録音が1955年と古いこともあってか、音質はあまり良くないように思う。
ちなみにEP盤よりも10インチ盤の方が鮮度感があるようだ。
そういえば、ジョー・ゴードンってリーダーアルバムが少ないよね・・・なんていう話しになると、recooyajiさん、すかさず、Joe Gordon/Looking Good(contemporay)を取り出してきた。emarcyとは、明らかに音の質感が違う。さきほどのクリアではないがグンと重みのある東海岸の音と比べると、うんとカラッと、全体にとてもすっきりして、聞こえる。emarcy盤は1955年、こちらは1961年の録音なので、録音機材も良くなってはいるだろうが、そのためだけではなく、やはり東海岸と西海岸の音は~録音された音~その質感・肌合いにおいて、根本的に違うよなあ・・・と思う。おそらくそれは、録音マイク~ダイナミック型とコンデンサー型の違いによるものだろう。
16 そのLooking Goodを掛けると、二人とも、ゴードンよりも、アルトのジミー・ウッズの方が気になってしまった。このウッズという人、独特のちょっと暗い音色をしている。contemporaryには、たしかエルヴィンと共演している、conflictというレコードがあったはずだ。あれも気になるレコードだ。
《recooyajiさんのオリジナル・モノラル盤を聴いたのだが、上の写真は、僕の手持ち~哀しきOJC盤です》

フレディ・ハバードが亡くなった、ということもあり「ハバード・・・何か聴きましょう」と、recooyajiさんが出してきたのは、Maiden Voyage(bluenote)。
「実はこれ、午前中にも聴いたんですよ」と僕が言うと、recooyajiさんも「「いやあ・・・僕も聴きましたよ(笑)」
ジャズ好きは、同じようなことをするものである(笑)
Maiden Voyageのを途中まで聴いて、僕はB面2曲目のハンコックの傑作曲~dolphin dance をリクエストする。ハンコックのピアノをあまり好きではない僕だが、この曲は好きなのだ。ハバードのソロも新鮮だ。あともう1曲、ハバードを・・・ということで、Buhaina's Delight(blue note)からmoon river。テーマの途中でテンポを変えるようなショーターらしい捻ったアレンジだが、こういうムーンリヴァーも悪くない。

2_001 Dexter Gordon/Go(blue noet)モノラル~
recooyajiさんとは、ああだこうだとジャズ話しをしながら、いろんなレコードを聴いていくわけだが、話しが「シンバルの鳴り」になった時、recooyajiさんが「あのカーンが好きなんですよ」と取り出した1枚・・・それがDexter GordonのGoだった。
《上写真~オリジナル・モノラル盤:NYラベル》

A面1曲目~cheese cake・・・ベースが短いイントロを弾くと、すぐにドラムスのビリー・ヒギンズがシンバルを「カーン・カーン~」と鳴らす。このオリジナル・モノラル盤で聞くシンバルは、確かに強烈だった。シンバルの音量が入力オーバー気味と言ってもいいほど大きいのだ。recooyajiさんは、この「カーン」がいいのだ!と嬉しそうである。僕の好みでは・・・ちょっとキツイ感じがした。このGoは、ソニー・クラーク絡みで割と聴いたレコードなのだが、どうもその強烈な「カーン」の印象はないのだ。
《追記~1/4(日)に再度、recooyajiさん宅で、Go(オリジナル・モノ)を聴いてみました。結論~ベースのイントロの直後に入るシンバルは・・・「カーン」と表現するほどキツクはなかったです(笑) ステレオ盤(仏・再発)での同じ場面のシンバルは、右チャンネルからわりと大人めに「シャーン」と鳴るので、それに比べると「強め・厚め」であることは間違いないですが、「カーン」という表現では、なにかシンバルを叩き倒しているような・・・そんな雰囲気にもなってしまい・・・そこまで強くは鳴ってないように聞こえました。
ただ、テナーが入ってきた辺りから、ドラムスの音量が上がってきて、その際、シンバルも先ほどの冒頭場面よりもかなり大きめになってくるので、その箇所では、ややキツイという印象はありました。いずれにしても、ちょっと誤解を招く「カーン」でした。当事者のrecooyajiさん始め、皆さんに余分なご心配を掛けました。今後もいろんな音のニュアンスを、できるだけうまく表現できるように努力する所存であります(笑)》

「ステレオ盤だと、また違うんだろうね」と2人で話したのだが、さきほど「仏・再発のステレオ盤」を聴いてみると・・・これが全然「カーン」ではないのだ!やや右よりの方から「シャーン、シャーン」とごく普通のシンバル・レガートに聞こえてくる。僕自身の好みとして、やかましいシンバルは苦手なので、僕にはこのステレオ盤のバランスがちょうどいいようだ。
果たして・・・オリジナルのステレオ盤では、cheese cakeの出だしのシンバルはどんな具合に鳴るのだろうか?011
(右写真~僕の手持ちは、もちろん非オリジナルで、通称、DMM(Direct Metal Mastering)blue noteだ。このDMM・・・1984年頃のフランス再発盤だ。一頃、わりと安価で出回ったので、持ってないタイトルをいくつか入手した。中にオマケの円形ポスターが入っている。表がblue noteのラベル、裏がへたくそなイラストの、まあどうでもいいようなポスターである(笑)

003Gerry Mulligan/~Qurtet(pacific)
pjlp-5
~これ、ようやく手にいれた10インチ盤なのだが、残念ながら、ラベルが黒の「艶なし」だった。残念というのは、「艶ありラベル」の方が1stだという認識があるからだ。この5番・・・裏ジャケット下の住所も7614 Melrose Avenueとなっている。
僕が持っている他のpacific盤をチェックしてみると・・・PJ-10(マリガン/コニッツ)、PJ-13(ローリンド・アルメイダvol.2)、PJ-14(3トロンボーン)など番号の進んだ方の盤はどれも住所はSanta Monica Blvd となっていた。  Pj52_3
《追記》~このpj-5について NOTさんから貴重な追加情報をいただいた。ちょっと下、青い字の《追記》にあるように、Santa Monicaが1st→Melroseが2ndであることが判明したのだが、このpj-5・・・1stと2ndのジャケットにかなりの相違点があったのだ。詳しくはNOTさん下のコメント(1/4 22:52の方)をどうぞ。
《上写真~1stのジャケット》*ネットから借りました(笑)

004 PJ-2番(これもマリガン/コニッツ)とPJ-7番(ローリンド・アルメイダvol.1)の2枚には住所表記がなかった。ちなみに、以上の5枚は全て「艶ありラベル」である。
*追記~PJ-7、PJ-13、PJ-10の3枚の
写真は前記事<バド・シャンクのPacific盤>をご覧ください。

《上の写真ではよく判らないが、右側~7番:ローリンド・アルメイダが「艶あり」、左側~5番が「艶なし」です》

だから、僕の手持ちPacific 10インチ盤の中では、5番のマリガン・カルテットだけがMelrose住所なのだ。そしてちょっと気になるのが、この5番だけ「pjlp-5」という風に「小文字」表記(表ジャケットの右上)なのだ。
普通に考えれば、5番より後の番号は、どれも(僕の手持ちの中では)Santa Monicaなので、「Melroseが先でSanta Monicaが後」とも言えそうなのだが・・・ここで困ってしまうのである。実は、もう1枚の僕の手持ちのPJ-1番「ジェリー・マリガン・カルテット」~これが、Santa Monicaの住所なのである。005

《左の写真~重ねたジャケットの下のやつが問題のPJ-1番。他のSanta Monica表記盤と比べると、この1番だけは、Santa Monica文字のサイズが小さい》

そうしてその「マリガンPJ-1番」のラベルは「艶なしラベル」なのである。推理としては~(艶なしラベルが2ndという前提ならば)まず「PJ-1番の1stはMerlose住所で艶ありラベル」だったが、この1番は良く売れたので、何年か後のSanta Monica住所の時期に、再発した。それが僕の「マリガン(PJ-1番)/艶なしラベル」ということなら・・・一応の理屈は合う。
《追記》~アドレス表記に関する上記の僕の推理は間違っていたようです(笑) 瀬谷さんの貴重な情報からも明らかなように、アドレスについては《Santa Monicaが先で、Melroseが後》が正しいようです。詳しくはこの記事の一番下のコメント~瀬谷さん情報をお読みください。

006 さて、アドレス表記のことよりも強調したいことがあるのだった。この5番~<MerloseアドレスのGerry Mulligan Qurtet>・・・やけに音がいいのである。西海岸録音に特有な「カラッ」とした良さはそのままに、マリガンのバリトン、チェットベイカーのトランペットの音色に、もう少しの生々しさが加わった感じか。実際、これまで聴いたpacificの10インチ盤では、最も生気感・鮮度感のある音に思える。パッと聴いたら、とても1952年の録音とは思えないだろう。艶なしラベル(2ndと思われる)でこれなら・・・1stならどうなるの・・・などと想像してしまう僕である(笑)
《追記~レコードを再生する場合の「音質」に大きく関係してくるであろうRIAAとそれ以前のAESカーブの問題。これについては、以前からNOTさんが具体的に突っ込んだ考察をされており、特にPacific10インチ盤についての詳しい記事がありますので、ぜひこちらをご覧ください

《追記~NOTさんブログにて、コメント欄で話題になった、マリガン/コニッツのPJLP-2番「銀色ジャケット」の詳細が判ります。併せて、PJLP-5番の1stと2nd、裏ジャケットの写真も載ってます。ぜひご覧下さい》

追記~
このPacificの10インチ盤の<アドレス表記、ラベル艶の有無>は、実に興味深い事象なので、コメントを頂いたYoさん、67camperさん、三式さん、NOTさん、bassclefの手持ち盤から、実際に確認できたものをリストにしてみました。(NOTさんは全部揃いだと思いますが、他の方の情報とダブらない盤のみお知らせいただきました)
*今後も、何らかの情報ありましたら、ぜひコメントにてお寄せください。

PJLP 1 - Gerry Mulligan Quartet
        <Santa Monica  艶あり> Yoさん、
                <Santa Monica   艶なし>  bassclef *盤の入替か?

PJLP 2 - Gerry Mulligan Quartet With Lee Konitz   
      <表記なし 艶あり> bassclef

PJLP 3 - Chet Baker Quartet 
     <Santa Monica 艶あり> Yoさん、三式さん

PJLP 4 - Sweets at the Haig - Harry Edison Quartet  
      <表記なし   艶あり> 67camperさん

PJLP 5 - Gerry Mulligan Quartet
            <表記なし 艶あり>  NOTさん
            <Melrose   艶なし> bassclef

PJLP 6 - Chet Baker Featuring Russ Freeman
       <表記なし 艶あり> 三式さん
       <Melrose  艶なし> NOTさん

PJLP 7 - Laurindo Almeida Quartet                                                <表記なし 艶あり/艶なし> bassclef,  Yoさん

PJLP 8 - Russ Freeman Trio
          <Santa Monica   艶あり> Yoさん

PJLP 9 - Chet Baker Ensemble
     <Santa Monica  艶なし> NOTさん *盤の入替か?

PJLP 10 - Lee Konitz And The Gerry Mulligan Quintet                               <Santa Monica   艶あり> bassclef

PJLP 11 - Chet Baker Sings
              <Melrose      艶あり> Yoさん *盤の入替か?
     <Melrose          艶なし>mono-monoさん
     <Santa Monica 艶あり> 三式さん、NOTさん

PJLP 12 - Meet Mr. Gordon
             <Santa Monica  艶あり>Yoさん、67camperさん
             <Melrose  艶あり>        NOTさん

PJLP 13 -LaurindAlmeida Quintet vol. 2                                    
      <Santa Monica  艶あり> bassclef

PJLP 14 - Bud Shank And Three Trombones   
             <Santa Monica    艶あり> bassclef

PJLP 15 - Chet Baker Sextet
       <Santa Monica    艶あり> NOTさん

PJLP 16 - Bob Brookmeyer Quartet
       <Santa Monica    艶あり> NOTさん

PJLP 17 - Chico Hamilton Trio
       <Melrose  艶あり> NOTさん  *盤の入替か?

PJLP 18 - Al Haig Trio~発売されず 

PJLP 19 - Clifford Brown Ensemble
       <Melrose   艶あり> 三式さん 

PJLP 20 - Bud Shank And Bob Brookmeyer
               <Melrose     艶あり>  Yoさん

007 Ray Bryant/Live At Basin Street East(Sue) これ、ブライアントのライブ盤だが、録音がとてもいい感じだ。ピアノだけでなくベースやドラムスも音圧感豊かに捉えていて、加えて店内のザワザワした感じも窺(うかが)えるので、僕は好きな録音なのだ。もちろん演奏も最高だ。聴衆を楽しませるマインドたっぷりのブライアントらしくスタンダード曲に適度なアレンジを施し、でもやり過ぎずに、キッチリしたトリオのサウンドで楽しませてくれる。 A面とB面の1曲目~what is this things called loveとblowin' in the windを聴く。ブライアントはこの有名なデュラン曲を、ちょっとカリプソ風のリズムにして、実におおらかで、そしてモダンなサウンドに仕立て上げている。
008すると・・・recooyajiさん、『う~ん・・・この「風に吹かれて」、いいなあ。そうだ、あれも聴いてみよう!』と、Junior ManceのTuba盤を取り出してきた。2_002
《右写真~Junior ManceのTuba盤》
こちらの「風に吹かれて」は、わりとストレートな8ビート風。ラムゼイ・ルイスが得意そうな感じだ。このTuba盤もなかなかいい録音だった。マンスのジャズロックも悪くなかったが、A面のthe good life・・・これがしっとりしたバラードで最高!マンスは、案外、バラードがいい》

ここから俄かにマイナーレーベルのピアノトリオ盤に話しが移った。Tuba、Herald、Salemというあまり聞かないレーベル名が飛び交う。この辺になると、recooyajiさん、異常に詳しい(笑)相当なジャズ好きしか名前も知らない(だろうと推測している)Bill Will Davis(p)、Johnny Pate(ベース弾き)やAaron Bell(こちらもベース弾き)のピアノ・トリオ盤を引っ張り出してきた。

2_003Tubaというレーベルだけは、ヴィブラフォンのJohnny LittleのLPを持っているので、辛(かろ)うじて知ってはいたが、Aaron(b)のレコードは、Three Swinging Bells(Herald)なるタイトルで、見たことも聞いたこともないレコードだった。う~ん・・・参りました(笑)
《上写真~Sue繋がりで出てきたWill Davisの1枚》

 
2_004_62_005_2


《左~Johnny Pate At The Blue Note:この盤はStephanyなるレーベルだがオリジナルはSalemとのこと。右~アーロン・ベルHerald盤》
Johnny Pate(b)という人は、ピアノのロンネル・ブライト絡みで2枚ほど復刻盤を入手したが、recooyajiさんが見せてくれたレコードは知らなかった。
そんな類をいくつか聴いたのだが、どれもなかなかいい音だった。マイナーレーベルの録音を侮ってはいけないのだ(笑)

キャロル・キングのtapestry(ode)~このオリジナル盤は、70odeと呼ばれているとのこと。it's too late~いやあ・・・僕はこの名曲、何度も日本盤シングルで聴いていたので、それに比べるともう・・・10倍くらいは音がいい!
《recooyajiさんのオリジナル米盤》
2_006 乾いた感じのバスドラの抜けがよくて、ギターもカッティングも生々しい。そしてもちろんヴォーカルも瑞々しい。
やっぱりキャロル・キングはいいねえ・・・と2人で言いながら、will you love me tomorrow?,so far away も聴いてしまったのだった(笑)2_007
そういえば、このLPでは、it's too lateで、ちょっとヘナヘナとしたソプラノサックスが聞こえてくる。僕はそのソプラノサックス奏者が誰なのか・・・日本盤シングルの解説により知っていた。「そういえば、どうでもいいような話しですけど、「このサックス、誰か知ってます?」と僕が尋ねると、recooyajiさん、即座に「カーティス・アーミー」と答える。「いやあ・・・さすがですね(笑)」
カーティス・アーミーは、Pacificに2~3枚、リーダーアルバムがあったはずで、東芝が復刻した時にいくつか入手した記憶があるが、サックス奏者としてはあまり印象に残っていない(笑)

recooyajiさん宅をちょっと早めにお暇(いとま)した後、ちょっと時間があったので、地元の中古レコード屋さんを覗くことにする。たしか今日まで20%オフなのだ。あまり期待せずにチェックしていくと・・・「おっ?」という1枚があった。

17Jimmy Forrest/Most Much(prestige)である。フォレストは、エルヴィンと共演しているデルマーク盤(再発)を聴いていてけっこう好きなテナー吹きである。そのフォレストのprestigeものはOJC盤でいくつか持っていたが、このMost Muchはちょうど未入手だったのだ。1180円という値付けだったので、もちろんOJCだと思ったのだが、ジャケットの裏右上にOJCの文字はない。よく見るとジャケットの3辺に白いテープが貼り込んであったりする。う~ん・・・ジャケ不良だから安いのか・・・じゃあ「黄緑ラベルだろうな」と思いながら、中身を取り出してみると・・・鮮やかな銀色が目に飛び込んできた。銀・黒ラベルのステレオ盤(擬似ステレオではないもの)は嫌いではないので、もう嬉しくなってしまった僕である(笑)

午前中はレコード棚の収納再編成~そのためにあれやこれやとCDやレコードをいじり、午後はジャズ好きとたっぷりレコード聴き、その後、ちょっといいジャズのレコードを買ったり・・・これもなかなか優雅な大晦日じゃないですか(笑)
いやあ・・・それにしても、やっぱり音楽はいい! 好みはそれぞれ違えど・・・それだけは間違いない!

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2008年11月18日 (火)

<ジャズ雑感 第27回>バド・シャンクのpacific盤

好きなバラード:アルト編(その2)

前回、パーカーのことを書いてみた。音楽から受ける印象というのは、もちろん人それぞれだと思うが、僕が感じているところのパーカーのアルトの質感・・・それは圧倒的な密度を感じさせるあの重い音色であり、そうしてその音色は微妙にピッチ(音程)がズレたようでもあり、しかしパーカーがその個性的な音色でもって迷いのないフレーズ吹くと・・・その「パーカーの音」は不思議に僕の心に食い込んでくるようでもある。そんな脳髄が麻痺するような感じを「白痴美」という言葉で表そうともした(笑)
そんな風に、僕にとってのパーカーをなんとか表現しようとしたつもりではあるが・・・やはり音の表現というのはなかなか難しい。
そりゃそうだ・・・音楽なのだから最後はその「音」を聴くしかないし、聴くことにこそ価値があるわけで、ただの言葉からその「音」の真実~その聴き手にどう感じられたかという真実~が判るはずもない。音楽は聴くものだ!聴いて何かを感じることだ!それでいいのだ!
・・・そんな「言葉は無力」的な気持ちにもなったこともあり・・・しばらくブログを更新できなくなってしまった(笑)

いずれにしても、この一時期にパーカーを色々と聴いてみて・・・パーカーの強烈な音を浴びてみて・・・僕は「パーカーという人の個性」を改めて感じずにはいられなかった。パーカーは、何をどう聴いてもパーカーなのだ。
「パーカーの音」を僕なりに整理すれば、あの「太い音色と微妙なピッチのずれ感」こそがパーカーの個性と言えるのかもしれない。そうして・・・ジャズはやはり個性の音楽なのだ!
そんな「パーカー毒」のせいで、いや、おかげで(笑)僕のアタマもいくらか麻痺してしまったようだが・・・この間もレコードだけはいろいろ聴いていて、そうして「ジャズの個性はひとつだけではない」という当たり前のことを思い出したりもした。アルト吹きは、もちろんパーカーとドルフィだけではない。ジャズ好きはそれぞれに自分の好きな個性を見つければいいのだ!

そういえば、だいぶ前に「好きなバラード~アルト編」(タイトルは「ペッパーのモダン・アート」)というのを書いた。
僕はジャズのスタンダードソングを好んで聴いているが、どうしてもいいバラード(スローなテンポで演奏されるスタンダードとでも言おうか)も聴きたい。だから、1枚のLPの中に1曲でも素敵なバラードが入っていると・・・そのレコードを好きになったりする。
そんな訳で、今回は「アルト編2」ということで、僕の心に留まったバラード演奏をいくつか紹介してみたい。とは言うものの、実は・・・僕はアルトにはそれほど詳しくはない。僕のジャズ聴き遍歴を大雑把に分けると、最初の15年が黒人ハードバップ系~次の15年で白人ウエストコースト系~ここ5年はバップ、スイング系~という具合にジャズ聴きの興味が拡がってきた。その間、楽器への好みとしては「アルトよりテナー」という感じでジャズ聴きをしてきたので、アルトという切り口ではそれほど深く入り込んでいないのだ。最初に好きになったハードバップは、もちろん今でも本線として聴いているが、ことアルトに関しては、ジャズ聴きの早い時期に好きになった、アーニー・ヘンリーとドルフィー、そしてパーカーの3人以外はそれほど深くはディグしていない。マクリーンもアダレイも、もちろん嫌いではないのだが・・・深く入れ込んだことはない。なぜだかあの3人から先に進まないのだ。そうして西海岸ものを聴くようになってから、特に「バラード」という観点からいくと、ペッパーを初めとして、チャーリー・マリアーノ、バド・シャンクといった白人系のアルト吹きに興味が湧いていったようだ。だから、今回「好きなバラード~アルト編」という括りになると・・・そんな白人アルト吹きの名前ばかりがアタマに浮かんできてしまうのだ。
バド・シャンク、ハーブ・ゲラー、チャーリー・マリアーノ、ハル・マクージック、ディック・ジョンソン、ロニー・ラング、ジーン・クイル、ジョン・ラポータ、ジョー・メイニ、そしてフィル・ウッズ・・・そんな感じか。ああ、それからもちろん、リー・コニッツやポール・デスモンド、それからペッパーにも登場してもらわねば(笑) 

まずは、バド・シャンクからいこう。僕にとってバド・シャンクという人はちょっとばかり不思議な存在で・・・というのは、僕はアクの強い(個性の強い)タイプに惹かれることが多いのだが、シャンクはどちらかというと、そういった「アク」が一切ないとも言えそうなタイプだし、それまでの自分の好みから言っても、特に「シャンクのレコードを集めよう」とも思ってはいなかったのだが、知らぬ間にレコードが集まってきてしまった・・・というアルト吹きなのである。だから、もちろんシャンクを嫌いなはずはないのだが、彼のアルトを「~ だ」と表現するような巧い言葉が、僕には見つからない。とにかくもう・・・アルトの音色が美しいのである。あのアルトの音色には・・・例えば彫金の名工が造り上げたような、渋い輝きと品格を感じる。
そんなシャンクの60年代のレコードを以前の<夢レコ>で取り上げたことがある(plays ルグラン)が、今回はうんと初期のものからいくつか挙げてみたい。Dscn2207
Laurindo Almeida Quartet(pacific PJLP-7)10インチ~艶ラベル
B面2曲目の noctambulism というバラード曲に参ったのである。アルメイダはブラジル出身ののガットギターの名手なので、このレコードはブラジルの伝統的なリズムを生かしたギターミュージックという色彩が濃いのだが、このnoctambulismだけはひと味違う。
ゆったりとしたテンポで、クラシック風のメロディが密やかに奏でられる淡々とした演奏なのだが・・・これがどうにも素晴らしい!とにかくもう、このアルトの音色が絶品なのである。艶やかで馥郁(ふくいく)とした、そして品のいい色気のあるアルトの音色なのだ。このアルトの音色・・・こういうのを聴くと、もう理屈ぬきである。たぶんそれは・・・(音色の質感は違っても)パーカーの場合と同じように、器楽的な快感を味わっている部分があるのかもしれないが、そうであっても僕としては一向に構わない。音楽なのだから、鳴った響きをそのまま感じて味わえたのなら、それは悪いことではないだろう・・・たとえそれが錯覚だとしても(笑)Dscn2208
アルトのテーマが終わった後、アルメイダのギター独りだけになるのだが、このギターの音色がこれまた素晴らしい。
ガットギター本来の弦が鳴り、胴が響く、そんな美しさを感じさせてくれるギターの音だ。録音engineerは、Phil Turetskyという人らしい。その裏ジャケットに録音風景の写真が載っているのだが、そうすると後方でヘッドフォンをしている人物が、エンジニアのPhilさんであろう。僕はいくつかのPacific盤の音の素晴らしさから、このPhilさんというエンジニアに密かに注目している。
この10インチ盤がとても気に入ったので、そのvol.2も手に入れた。

Dscn2209Laurindo Almeida Quartet vol.2(pacific PJLP-13)10インチ~艶ラベル 録音~1954年4月
ところが・・・7番から13番の間に何があったのか? このvol.2・・・こちらも悪い音質ではないのだが、微妙に違うのである。残念ながら良くない方に違うのだ(笑)多少、盤質が悪いこともあってか・・・シャンクの音色の輝きの輪郭がほんの少し鈍ってしまったようDscn2210な・・・そんな感じを受ける。これは、もちろんレコードの音質の微妙な味わいのことであって、バラードで演奏されるスタンダードのstairway to the stars はやはり素晴らしい。この10インチ盤2枚が、僕のお気に入りであることに変わりはない(笑)
なお、この2枚の10インチ盤の全14曲は、12インチ盤(pacifc1204)のA面・B面に全曲とも収録されているようだ。その12インチ盤は、フラメンコダンサーが踊っているジャケット(オレンジ色/白色の2種あるようだ)のやつである。

さて、リー・コニッツ・・・この人もちょっと難しい(笑)なんというか・・・あえて情緒を排したような音色に変化をつけないような吹き方で、宙に浮いたようなフレーズを延々と吹く。ある意味・・・パーカー以上に純粋的音響主義みたいな気配がある。うんと初期の頃から「クール」と言われたようだが、実際、いくつか聴いてみても、やはり「冷やかな」肌合いのアルト吹きであることには間違いない。その辺が好みの分かれるところだと思う。僕も熱心なコニッツマニアではないが、たまにあの透徹したような音色を浴びると、けっこう気持ちがいい(笑)
今回、気づいたのだが、初期のコニッツには意外と「バラード」が少ない。意外に急速調で(あるいはミディアムであっても)テーマの最初からベースに4つ打ちさせている演奏がほとんどなのだ。それでも初期のprestigeにスローなバラードと言えそうな演奏があった。
you go to my head(1950年4月)~「サブコンシャス・リー」収録
indian summer(1951年3月)~「エズ・ゼティック」収録 
どうやら・・・初期のコニッツは、殊更(ことさら)に原曲のメロディをそのまま吹かないようにしているようで、単純にスタンダード好きの僕など「なぜだあ?」と思わないでもないが、まあそれがコニッツ流の美学だったのだろう。
001この2曲・・・悪くないが、同じ曲で、もっと素晴らしいコニッツがいるのだ!それは、スエーデンでのライブ音源を集めた「サックス・オブ・ア・カインド」に入っている you go to my head(1951年11月)だ。ライブということもあって、いい感じにリラックスしたコニッツの音色はスタジオ録音の時よりも温かみがあり、同じように抽象的な(スタンダード曲の元メロディを具象とすれば)フレーズを吹いてはいても、あまり分解的な印象がなくて、リズム的にリラックスした感じでおおらかに吹いているようで・・・だから演奏に自然なグルーヴ感がある。この「サックス・オブ・ア・カインド」はなかなかの好盤だと思う。
エルヴィンとのmotion(verve)も快作だったが、どうやらコニッツは・・・「ライブ」の方がいい(笑)
002さきほどシャンクの音色を激賞したついでに、もう1枚コニッツ絡みのpacific盤を挙げたい。僕が愛聴しているのは、Lee Konitz and the Gerry Mulligan  Quartet(pacific PJLP-10)という10インチ盤~1953年にコニッツがマリガン/ベイカーのバンドに客演した時の録音だ。A面1曲目のthese foolish things がゆったりテンポのバラード風だ。ゆらゆらとたなびくような独特なフレーズで原曲のメロディを崩しにかかるコニッツ・・・相変わらずである(笑)でもこのバラードはなかなかいい。
もう1曲だけ同じpacific盤から紹介しよう。これはバラードというよりミディアムくらいのテンポかもしれないが、too marvelous for words である。
これは・・・どうにも素晴らしい! 自分のリーダー作でないのでリラックスしていたのかもしれない。これ、先ほどのバド・シャンクと同じように、やけに生々しい録音も素晴らしいのだが、なによりコニッツの閃きフレーズが、本当に素晴らしいのだ。ひょっとしたら、いつも気難しそうなコニッツが、ベイカーとマリガンをバックに従えて、いいところ見せてやろう~てな感じで気分が乗っていたのかもしれない(笑)残念ながらコニッツのワンホーンではないが、マリガンとベイカーはバックで静かにハーモニーを付けているだけなので、実質、コニッツのアルトをフューチャーしたスタンダード曲と言える。
それにつけても、こういうコニッツのアルトのサウンドをもっと聴きたい!と僕は思ってしまう。さきほど「その透徹したような音色を浴びると気持ちがいい」と書いたが、それは・・・「肌理(きめ)の細かい大理石に触れた時の冷やかさ」・・・そんな感触かもしれない。 003
この1曲~too marvelous for wordsを聴いて、やっぱりコニッツは凄い!と実感した僕である。
このコニッツ+マリガン/ベイカーのセッションは、12インチ盤だと「リー・コニッツ・ミーツ・ジェリー・マリガン」(東芝EMI)になるはずだ。

《追記》コニッツについては、<Storyvilleの10インチ盤:Live At Storyvilleではピッチ(音程)が半音ほど高め>話題がコメント欄にて大いに盛り上がりました。ぜひお読み下さい。その後、NOTさんが実際にそれらの音源を聴き比べた印象などをご自身のブログでまとめてくれました。そちらもぜひお読み下さい。

チャーリー・マリアーノも本当にいいアルト吹きだ。僕はジャズ聴きの初め頃に秋吉敏子の「黄色い長い道」(candid)収録のdeep riverを聴いて、ごく素直にマリアーノを好きになった。そこから遡(さかのぼ)って初期のマリアーノを好んで聴くようになった。
彼の初期の音源はprestige、fantasy、imperial、それからbethlehemなどにあるのだが、この辺りのオリジナル盤はどれも高価でとても手が届かないので、再発もので我慢している(笑) 002_3
マリアーノという人・・・どうやらバラードが好きなようで、初期のレコードにおいても必ずいつくかのバラードを取り上げている。
prestigeには「ニューヨークの秋」、imperialには「it's magic」そしてbethlehemには「darn that dream」などがあり、どれもテーマを吹くだけで短めに終わるのだが、独特の情感が漂うバラードの名演だと思う。
001_3 fantasy音源のCharilie Mariano Sextet(8曲)は、OJC盤[Nat Pierce-Dick Collins Nonet]のB面に8曲とも収録されている。
タイトルのクレジットがNat Pierceになるので、マリアーノ参加ということが、案外、知られてないかもしれない。
このfantasy音源では、come rain or come shine、それからthe thrill is gone が素晴らしい。マリアーノのアルト・・・これはもう判りやすい。どちらかというと淡々としていない(笑)そうして自分の好きなスタンダードソングのメロディをストレートに唄い上げる・・・というより唄い上げようとする。そのアタックの強い音色は気迫に満ちているが、ピッチも良いし、なによりも濡れたようなしっとり感がある。ゆったりメロディを吹いたかと思うと、その合間にも激情的なフレーズを差し込んでくる。Dscn2222この辺の気迫・・・好きだなあ(笑)
マリアーノについても、もう1曲紹介したい。マリアーノは(たぶん)譜面にも強いので、いろんなオーケストラ企画ものに参加していたようで、スタン・ケントン楽団の[Contemporary Concepts](1955年7月)というレコードがある。
A面2曲目~stella by starlightでは、マリアーノがフューチャーソロイストだ。控えめなバックに乗ってマリアーノが「星影のステラ」のメロディをじっくりと吹く。ちょっといつもの激情を抑えたような感じもあり、それがまたいい(笑)

《だいぶ以前に東芝から国内盤を聴いて気に入ったので、capitolのターコイズ・ラベル(青緑)を入手した。音もいいです》

ああ、まだ3人挙げただけなのに・・・このままでは長くなりすぎる。残りのアルト吹きについては、いずれまた。
それにしても、ジャズの世界にはいろんなアルト吹きがいるものだ・・・ジャズはまだまだ面白い(笑)

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2008年4月17日 (木)

<ジャズ回想 第13回>半年ぶりにYoさん宅に集まった。その2

う~ん・・・と唸ってしまったパーカーの10インチ盤~

さて「Yoさん宅に集まった」の続きである。まず、前回に書けなかった2つの「聴き比べ」を簡単に紹介したい。その後にパーカーの10インチ盤(Dial)のことを少し書いてみる。

クリフォード・ブラウンのエマーシー盤はどれも人気が高い。その中では、With Stringsは人気が低い~などと僕は勘違いしていた。
というのは、30年ほど前のジャズ好きの間では、strings作品は「ヒモ付き」などと呼ばれて「ジャズっぽくない」軟派な作品という理由で、人気がなかったからだ。でもそれはあくまで1枚のLPとしての人気についてのことであり、オリジナル盤の世界での人気とは関係がなかったらしい。あるいは、日本のジャズ好きも、stringsものを充分に楽しめるようになって、その結果、人気が上がったということかもしれない。いずれにしても、僕もこのクリフォード・ブラウンの「ストリングス」・・・ある時期から大好きになった。もう長い間、安い国内盤で我慢しているのだが、ちょっと前に、このWith StringsのEP盤を2枚入手した。 Ep2_3
このところ、僕はEP盤というフォーム自体にも充分に魅力を感じているのだが、同じタイトルでもEP盤の方が音がいい場合もある~ということを過大に期待している部分もあったりする(笑)それから一 般的には、EP(7インチ)の方が、LP(12インチ)より価格が低いことも、うれしい。もちろんEP盤の方が収録曲数が少ないわけだが、このWith Stringsの場合、2枚のEP盤にそれぞれ4曲収録だから、2枚で8曲は聴けるわけだ。12インチ盤には12曲収録だから、EP盤がもう1枚は出ているはずなのだが、それがなかなか見つからない。  Ep_2
オリジナル12インチ盤を持っていない僕は、このEP盤を聴いてなかなかいい音だと感じていた(そう思いたかっただけかもしれない:笑)
ある時、Yoさんが12インチ盤をお持ちなのを知って、今回の集まりで、聴き比べをさせてもらうことにしていたのだ。

このクリフォード・ブラウン・・・どの曲もとてもいいのだが、特に好きな曲~portrait of Jennieを聴くことにした。使ったカートリッジまでは覚えていないのだが、最初に僕のEP盤。次にスノッブS田さんの紙ジャケCD。最後に12インチ盤と聴いてみた。
結果は・・・EP盤の惨敗であった(笑)
《12インチ盤の写真~Yoさん提供》
With_strings
EP盤で聴いたクリフォードのトランペットには、それなりの鮮度感があって悪くないと思ったのだが、他の楽器、ストリングスなど全体に中低音が薄い。要はスカスカした感じなのだ。
2番目にかけた紙ジャケCD~一聴して先ほどよりストリングス全体の音が柔らかめだ。そこへ適度にマイルドなクリフォードのトランペットが入ってくる。とても聴きやすい見事なバランスであった。こりゃあ(EPより)CDの方がいいね、という声。このCDと比べると、先ほどのEP盤のトランペットは、だいぶ痩せた感じの音だったことが判った。鮮度はいいのだが、バランスが・・・と悔しがる僕(笑)
そして12インチ盤~う~ん・・・やっぱりいいな。全体的に楽器の音に厚みがあって、トランペットの音にもっとも鮮度感があるようだ。そして、柔らかな鳴り具合。う~ん・・・やっぱり違うなあ。いいものはいいのだ! そして・・・ちと高い(笑)


次にゲッツである。ある時期、「ゲッツのat storyville」をCD(東芝:1990年)で聴いて、ゲッツのシルクの手触りのようなあの音色と、それからどんなに急速調の曲でも全く淀みなく溢れ出てくる「本当のアドリブ」に、僕はもうすっかり参ってしまった。
Gets_roost_12inchこの4~5年、少しづつオリジナル盤に興味が湧いてきて、ようやくのこと、ゲッツのroost盤、12インチ2枚~The Sound(LP-2207) と、At Storyville vol.1(LP-2209) を手に入れた。しかし、このroost盤・・・あまり音がよくなかったのである。オリジナル盤というものを入手する場合、多少の盤質の悪さは我慢して、音の(楽器の)鮮度感を期待するわけだが、これらroostのオリジナル12インチ盤は・・・何か楽器の音が遠いような感じで、The Soundの方など、ヘタしたら日本コロムビア盤の方がいいくらいだったのだ(笑)
The Soundを先に聴いてダメ、ならばライブのStoryvilleならどうだ?・・・で、またダメ。さらにいくつかのroost:EP盤でも同じような音だった。共通して感じたのは「カッティングレベルの低さ」全体的にノイズっぽい。これはもう・・・roostというレーベルの性根(しょうね)だろうと推測する僕である(笑)

《下の10インチ盤写真:At StoryvilleはPaPaさん提供》
そこで・・・10インチ盤なのである。10_3 予想どおり、PaPaさんはこの辺りもしっかりと押えてあった(笑)
ゲッツのroost10インチ盤~2枚揃えて持ってきてくださった。同じタイトルの場合、普通、10インチの方が12インチより発売時期が早いと思う。ゲッツStan Getz Plays の場合~clef10インチが1953年、norgran12インチが1955年で、2年ほどの差があった。
今回のroost盤・・・12インチのAt Storyvilleは1956年、10インチのAt Storyville vol.1は、1952年のようである。この3年の差が、ひょっとして大きいのではないだろうか?
どのテイクも傑作なのだが、僕が選んだのはスピード感溢れるバップ曲~parker51である。
12インチからいってみる・・・さすがに「古い音」である。全体に楽器が遠いような感じで、シンバルも古い録音に特有なうんと篭 (こも)った音だ(笑) でもそれは仕方ない。なんと言っても1951年のライブ録音なのだから。

さあ・・・この「遠いような感じ」が、果たして10インチオリジナル盤ではどうだろうか? 同じ曲、parker51をかけてもらう・・・どうだろう?・・・「う~ん・・・同じかな」という皆さんの声。僕も同様の印象だった。ライブ録音ということで元々の録音が、やや荒っぽい感じでもあり、そのためにあまり差が出なかったのかもしれない。だから、あくまでこのAt Storyvilleというタイトルに限っては、1952年の10インチ盤と1956年の12インチ盤にそれほどの差はないと言えるかもしれない。
ゲッツの「ストーリヴィル」~音はあまりよくないが、演奏はもう最上級である。ゲッツが嫌いな方でも、好きになるかもしれない(笑) それくらい気持ちのいいアドリブである。バンド全体も乗りに乗っている。本当に素晴らしいライブ演奏である。まだ聴いたことがない方は、ぜひ!


チャーリー・パーカー・・・パーカーのことをどんな風に書こうか。いや、パーカーについて書きたい何か・・・それが僕の中に本当にあるのだろうか? パーカーというと・・・いつもそんな「迷い」が僕にはある。その「迷い」を、もうちょっと突き詰めると・・・パーカーは「語れない」、パーカーは「聴くしかない」という乱暴な気持ちもあるようだ(笑)
パーカーのことを、もちろん嫌いではない。1980年頃だったか・・・ある時期、パーカーの演奏に嵌(はま)り、その頃、入手できるレコードはほとんど買って聴きまくった。パーカーの演奏は凄い。どの曲でも聴いてみれば、たちまちパーカーのアルトの突き抜けた凄さに気づくだろう。パーカーの「凄さ」とは何か・・・僕にとってはそれは、あのフレーズのスピード感であり、あの音色の重さである。強引に倍テン~普通のアドリブは8分音符中心だが、パーカーは16分音符の割りでノッてしまった~にしたりする時のあのスリル。それもただ「速く」吹くだけではない。それをうんとタメの効いたリズム感と大きくて重い音色で吹き込んでいくのだ。そんなパーカーが捻(ひね)り出すサウンドそのものが・・・僕には快感でもある。だから、強いて言えば・・・情緒の人ではなく、メカニズムの人と言えるかもしれない(笑) しかし、ジャズ聴きには、ある意味、器楽的な快感という要素もあるはずだし、「パーカーの音」をそういう聴き方で捉えれば、これはもう・・・堪らないのだ(笑)

<夢レコ>前々回の「ドルフィ」の時に、僕はドルフィのアルトをこんな風に表現した。
《まるで、砲丸投げのあの重い鉄球をブンブン振り回しているようじゃないか》

実は、僕の中では、パーカーのサウンド(音色・リズム感など全て)に、質的に一番近いのが・・・ドルフィなのである。
だから今、僕がパーカーのあの吹き方を表現しようとすると・・・やはりこの「砲丸投げ」になってしまう。強いて言えば・・・パーカーの砲丸の方が、もう少しだけ重いかもしれない(笑)その「重さ」はこれはもう理屈ではないのだ。聴いて「それ」を感じてもらうしかない。
そんな風に、ある意味「器楽的鳴りの再現」が重要になってくるパーカーのはずなのに、残念ながらどのレコードもあまりいい音ではなかった。実際、「パーカーが判らない」という声をよく聞くが、その理由の90%は「レコードの音が悪かった」ことにあると、僕は思う。
やはり「レコードの音」というものも重要なのだ。

僕はいつも「レコード」を軸に話しを進めたい。好きなミュージシャンがたくさんいて、好きなレコードがたくさんある~これが僕の基本図式なのだ。例えば、モンクなら「ソロ・オン・ヴォーグ」、コルトレーンなら「ソウル・トレーン」、ロリンズなら「ニュークス・タイム」というように、それぞれに必ず大好きな作品(レコード)がある。
そこで、よくよく考えてみると・・・(僕の場合)パーカーには、特に「好きなレコード」(12インチ盤)というものがないのだ。もちろん、パーカーの時代のレコードが、SP盤,10インチ盤主流だったことで、日本で発売されたパーカー音源が、それらの古い音源をレーベルごとにまとめたBoxもの中心だったためかもしれない。パーカー音源で、12インチ盤がオリジナルだったのは、どうだろう・・・now's the time とかswedish schunapps など、ようやくVERVEの後期辺りからになるだろう。 
Parker_004_2 そんなわけで、1972年頃までは、パーカーの国内盤LP1枚ものは、VERVE音源以外は、ほとんど出ていなかったように思う。だから・・・その頃からジャズを聴き始めた身にとっては、まず「パーカーの音」に触れるチャンス自体があまりなかった。
特にダイアル音源は、権利関係があいまいだったのか・・・よく判らないようなレーベルから、いろんな音源がバラバラに復刻されていたようだ。だから、主にスイング・ジャーナルの輸入盤の広告ページなどから情報を得ていた僕達には、「パーカー=海賊盤=音がムチャクチャ悪い」というイメージが、徹底的に焼き付いてしまったのだ(笑)そして、値段が高いのに音が悪い海賊盤なんか、とても買えやしない(笑)
ちなみに、当時、ダイアル音源が聴けるという唯一の国内盤が、Charlie Parkerレーベルからの「バード・シンボルズ」(邦題/チャーリー・パーカーの真髄)だったように記憶している。「~の真髄」は、ダイアル音源からセレクションで、確かにいい曲が集められていたが、これも充分に音が悪かった(笑) charlie parkerというレーベルは、おそらくオリジナルの音源や盤質の拙(まず)さのせいもあってか、どれも怖ろしく音が悪かった。
そして、僕が最初に買ったパーカーが、長尺のライブ録音~scrapple from the appleが入ったThe Happy Bird(charlie parker)の輸入盤だったのだ(笑)それでも、あのレコード・・・ライブでのパーカーのソロが凄いので、酷い音質を我慢して、何度も聴いたものだ(笑)Parker_003

そんな時、ひときわ格調高いパーカーの写真~パーカーがアルトを吹く顔のアップ~がスイング・ジャーナルに載った。イギリスのspotliteというレーベルが発売したCharlie Parker on Dial というシリーズの広告だった。全6巻だったか8巻だったか・・・本格的なダイアル音源の復刻は、このspotliteが最初だった。あの頃のイギリスもの輸入盤は、高かった。国内盤の倍くらいしていたかもしれない。後に東芝が発売したいくつかの「オン・ダイアル」もの(LPでもCDでも)は、このspotlite経由だと思う。
《上の写真は東芝盤。発売後、だいぶ経ってから、vol.1~vol.3だけ入手した》
このspotlite音源のLPが、やはりそれほどいい音質とは言えなかった。録音が同時期のはずのsavoyの方は、割としっかりした音で復刻されていたので、ダイアルものは、録音段階からあまりよくなかったこともあるかもしれない。それにしても「オン・ダイアル」・・・いくつかのLPと東芝のCD4枚組を聴いたが、パーカーのアルトに今ひとつの切れ・太さが出てないようだし、全体的に薄っぺらい音質という感は拭えなかった。
1973年頃だったか~CBSソニーが「Parker on Savoy」(鳥のシルエットを基調にしたジャケット)を発売し始めた。だけど、パーカー音源はどれも「オン・ダイアル」「オン・サヴォイ」などレーベル単位/セッション単位にまとめられたもので、それもシリーズ全5枚~8枚とかになると、なかなか買えやしない(笑)
そんな訳で、パーカーを聴く時に「ひとつの作品としての好きな12インチLP」というものがあまりないことに変わりはなかった。Verve後期のLP作品をもうひとつ好きになれない僕には、今でも同じ状況かもしれない。
10_4

《左の写真~Dial-201。PaPaさん提供》
そこで・・・パーカーの10インチ盤なのである。ダイアルの本当のオリジナルはSP盤ということになるのかもしれないが、普通のレコード好きにとっては、録音直後に発売された(であろう)dial 201,202,203,207などの10インチ盤を「オリジナル」と呼んでも構わないだろう。PaPaさんは相当のパーカーマニアらしく、これらのDial10インチ盤をほとんど持っているとのこと。
僕は写真でしか見たことのない、あの「ベレー帽のパーカー」のジャケットをじっくりと見る。あの「ベレー帽」・・・デザイン的には何だか変な具合である。鳥の頭にもベレー帽が乗っかっており、これら2つのベレー帽と木の葉っぱの色が、同じ色に合わせてある。ちなみに、201がピンク色、202だと緑色である。そんなパーカーのダイアル10インチ盤が、目の前にいくつも並ぶ。どれを聴こうか・・・PaPaさんから「やはり201でしょう」の声。僕は「ピンク色のベレー帽」をYoさんに手渡す。

あのlover man からだ。ゆったりめのテンポでピアノのイントロが始まる。そのイントロの4小節が終わり、「さあ、ここから」と誰もが思うその瞬間・・・パーカーは吹かない・・・伴奏は続く・・・まだ吹かない・・・。「レー・ミレ・ソソー」と吹くはずのアタマの1小節目、パーカーは全くの無音なのだ。2小節目からようやくわざとメロディをはずしたような音を吹き始める~あのlover manだ。
初めて聴いたDialのオリジナル10インチ盤は・・・やはり「いい音」だった。これまで耳にしてきたどのダイアル音源よりも鮮度感があり、パーカーのアルトの音も太くくっきりと聞こえたように思う。10インチであろうと12インチであろうと、録音直後にカッティングされたオリジナル盤の持つ「鮮度感」みたいなものは、絶対にあると思う。ただこの10インチ盤に対する僕の感想は、あまり当てにはならないかもしれない。というのも、今回はこの10インチ盤と他のパーカー音源を聴き比べたわけでもなく、自分の記憶の中にある「ダイアル盤のパーカー」の音との相対的な印象レベルの話しなのだから。
それに・・・あれだけ魅力的な「10インチ盤」のジャケットを手に取って聴く音と、例えばCDのプラスティックケースを手に持って聴く音では、心理的な部分からも、「聞こえ方」に差が出てしまうだろう(笑)
ただ、そんなことも含めての10インチ盤の魔力があったとしても・・・そのことに否定的な気持ちなど全くない(笑)
そんな「相対」としてではなく、あの「10インチ盤というひとつの作品」から受けた印象は・・・やはり「ダイアルのパーカー」は凄い!ということになる。
この時のセッションでのパーカーは、麻薬か何かでフラフラだったとの証言もあり、もちろん好調なパーカーではなかったのだが、lover man で、パーカーのアルトが流れてきた瞬間に感じたのは、やはり「何かを表現しよう」とするパーカーの凄みみたいなものだし、続けて聴いたバラード調の gypsyでも、パーカーは、この哀愁漂うメロディを、ちょっとヨタヨタしたようなフレーズで吹き進める。それは決してスマートなバラードではないのだが・・・パーカーのアルトの音色には、怖ろしいほどの「重さ」と「切れ」がある。
だから・・・このlover man セッションは、パーカーという人の「凄み」を感じさせるような演奏になったのだと思う。
一番好きなパーカーの演奏は?と問われたチャーリー・ミンガスが、たしか、このlover man を挙げていたはずだ。

《これがadlib盤の黒猫マクリーンだ。写真はPaPaさん提供》Photo

PaPaさんのこの日の手持ち盤は、10インチだけではなかった。 「黒猫のマクリーン」Jackie Mclean Quintet(jubileeではなくて、adlibの方)も登場した!このマクリーンのレコード・・・もちろん聴いたことはある。もちろんオリジナルではなく、日本コロムビアから出たラベルがjubilee仕様の盤と、テイチクから出た盤だ。どちらもジャケットは「フクロウ猫」だ(笑)今、ちょっと確かめてみたら、テイチク盤はうんとこもった音で鮮度にも乏しい。それに比べれば、日本コロムビア盤の方はかなりいい感じだが、やはりどちらも詰まったような音だった。
僕は特にマクリーン信者ではないのだが、このadlib盤の持つ佇(たたず)まいには、もちろん圧倒された。そして驚いたのは、このadlib盤の音の良さだ。音がいいとい言っても、西海岸的な切れのいいすっきりした音ではなく、アルトやベースにぐんと力のこもった、いかにも50年代のジャズという感じの音だったのだ。録音engineerは・・・van gelder! 
adlibオリジナル盤の音は・・・日本盤で感じていた「詰まり」が、すこっと抜けて各楽器の鮮度感がうんと増したような感じなのだ。さすがは・・・黒猫のマクリーン! 
こんなレコードには滅多にお目にかかれないだろう・・・ということでもう1曲聴かせていただく。B面ラストのlover manだ。「ああ・・・今日はラバーマン特集だね」とスノッブS田さん。そういえば、lover manは、さっきパーカーのdial201でも聴いたのだった。マクリーンのlover man・・・マル・ウオルドロンのピアノのイントロが流れると、皆さん「あれれ?」という顔。そうなのだ・・・このイントロ、あの有名な「レフト・アローン」とよく似ているのだ。いや、ほとんど同じかもしれない。ベースがボウイング(弓弾き)しているのが違うと言えば違うくらいか。ピアニストって、けっこう同じパターンのイントロを使うんだな(笑)
この曲でのマクリーンは、いつも以上に気合が入っている。力みかえってバランスを崩しそうになっているようなところもあるのだが、ジャズにはこういう「熱さ」も欲しいじゃないか。ラストの短いカデンツァなんか、もう最高である。思うにこの時、マクリーンは・・・パーカーのlover manを相当に意識していたに違いない。彼もやはり、あのパーカーの「凄み」に魅入られた一人なのであろう。

やっぱり・・・ジャズはおもしろい。

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2007年11月25日 (日)

<ジャズ雑感 第22回>フリップ・フィリップスのこと(その2)

フィリップスのいろんなセッションを聴いてみた。

さて、フリップ・フィリップスの2回目だが・・・これが困った(笑)フィリップスのテナーの独特な味わいについては<ジャズ雑感 第20回>フリップ・フィリップスのこと(その1)で、あらかた書いてしまった。そうそう同じようなことばかりは書けない(笑)
それでも彼の古い音源をいろいろ聴いていると、やはりキラリと光る演奏がいくつか見つかるし、まだまだ紹介したいレコードも出てきてしまう。
そんなわけで、今回はフリップ・フィリップスの10インチ盤とEP盤をを中心に話しをすすめてみたい。

僕はフィリップス好きではあるが、もちろん彼のレコード全てを持っているわけではない。まずClef期の12インチ盤~Swinging With Flip Phillips And His Orchestra(ダンスしている女性のスカートがフワ~ッとなったイラストのジャケット)を持ってない。それから、”Flip”と ”The Flip Phillips-Buddy Rich Trio”(オムニバス盤Tenor Saxesに2曲が収録されていたセッションの元LP)も未入手だ。10インチ盤の残り1枚~Collates #1(ストーン・マーチンとしては、珍しく「写真」のクルマにフィリップスが乗っているジャケット)・・・これもなかなか手に入らない。
なんだ・・・これじゃあ、ほとんど持ってないじゃないか(笑) 

僕が持っているのは・・・いくつかの10インチ盤とEP盤、それから<フリップ・フィリップスのこと(その1)>で紹介した12インチ盤~Flip Phillips Quintet(MGC-637)と、もう1枚、「大仏ジャケ」のFlip Wails(MGC-691)。
あとは、JATPの諸作くらいである。
まあでも、いろいろと調べてみると・・・Flip Phillips Quintet以外の12インチ盤は、いろんなセッションからのテイクからのコンピレイションのようでもあり、僕の手持ちの10インチ盤・EP盤の収録曲ともけっこう重なっているのだ。だから、全部ではないにしても、だいたいのセッションの音源を耳にはしていることになる。
こんな風に、あるセッションの曲が複数の12インチ盤に散らばってしまった場合、「元セッションの4曲」を1枚にまとめたEP盤というのは、なかなか重宝なもので、そんなEP盤音源(この記事の最後の方で紹介)のことも含めていくと、今回は、かなりディスコグラフィ的な内容になってしまうかもしれない。もともと僕は、データ・資料の整理は苦手なので、ゴチャゴチャと判りにくい展開になりそうではある(笑)
<なお、データについてはshaolinさんも関わっておられるJazz Discography Projectを参考にさせていただきました。
special thanks to "shaolin"さん&"Jazz Discography Project"さん>

さて、彼の初期のレコードを聴いてみると・・・(時代的には当然のことなのだが)けっこう「スイングっぽい」演奏が多いように思う。
例えば、「大仏ジャケ」(67camperさん命名)12インチ盤:Flip WailsのA面1~4曲目。
cheek to cheek
Funky Blues 
I've Got My Love To Keep Me Warm 
Indiana
Dscn1747_4 この4曲は、Bill Harris (tb) Flip Phillips (ts) Dick Hyman (p) Gene Ramey (b) Jo Jones (d) による1951年3月の演奏なのだが、サイドメンの演奏も、ややセカセカした感じのノリに聴こえる。これらの曲でもフィリップスはアドリブの端々(はしばし)に、いいアイディアのフレーズを出してくるが、それは(僕にとっては)わりと普通のスイング~バップの演奏なのだ。こんな風に「スイング調」の曲が多いのは・・・「JATPで大人気のフリップ・フィリップス」というイメージからくる販売戦略上の要請があったのかもしれないし、やはり、レコード創りの上でも「スローもの」ばかりでは、うんと地味になってしまうためだろう。それからフィリップスが大活躍するJATPでの諸作~イリノイ・ジャケーとのブロウ合戦:perdid 1947年~なども悪いわけではないが、聴衆ウケを狙ったような(ブロウ合戦自体がそういうものなんだろうが)感じもあり、長丁場の演奏だとちょっと厭きる。それにフィリップスという人はブロウ合戦の相手にペースに合わせてしまうのか、音色まで「グロウル」するような、いつもと違った感じになったりすることもあるようだ。
(グロウル:growlというのはテナーやアルトなどの管楽器で「歪んだような濁ったような音色」(テキサス派のテナーがよくやりますね:笑)で吹くこと。元々は(動物が)うなったりする声」とか「(雷などが)ゴロゴロと鳴る」というような意味らしい)004
《写真はJATP-vol.8(EP2枚組)4面の内、3面をperdid part1~part3が占める。残りの1面は、bell boy blues》

そんな具合に、わりとお人よしの感じがするフィリップスではあるが、「スローもの」においては、これが一変・・・全く独自の個性を発揮するのだ。そうして僕がフィリップスを聴いていて「いいなあ・・・」と思うのは、やはり「スローもの」なのだ。スローテンポの曲というと、スタンダード曲のバラードが主になるのだが、これが・・・案外に少ない。そして、曲数は少くても、彼のレコードには必ず1曲か2曲はそんな「スローバラード」が入っていて、だから、それらが余計に「いい味わい」になってしまうのだ(笑)
スロー・バラードでのフィリップスは、ゆったりとした太い音色を長く伸ばし・・・あるいは音程を大きく上下するような独特のフレーズを駆使して~「パ・パ~、パ・パ~」という風に高い音から低い音へ飛ぶ。「パ」が高い方の音(半拍)で、「パパ~」が低い方の音(1拍半)にするフレーズである~その曲のメロディを悠々と、そして魅力的に歌い上げていくのだ。
そうしてたぶん・・・フィリップス自身も、そんな自分の持ち味を、うんと早くから自覚していたのだと思う。002 彼のごく初期の10インチ盤には、すでに持ち味を発揮したと思われる曲がある。

《写真は、Tenor Stylings of Joe Flip Phillips(brunswick) 全8曲収録。1944年10月、12月、1945年の録音》

a melody from the sky・・・これなど実にメロディックないい曲だと思う。ゆったりしたテンポで彼が淡々と吹くメロディからは・・・なんとはなしにアンニュイな雰囲気~けだるいような感じ~が漂ってくる。あの「屋上の日陰」のイメージにつながる感覚と言ってもいいだろう。
10インチ盤:Tenor Sax Stylings(brunswick:BL-58032)の裏解説はボブ・シールだが、この1曲については以下のように絶賛している。「A Melody From The Sky という曲は、広く賞賛に値するメロディだ。ここには素晴らしい解釈があり、忘れられなくなるような演奏だ」
そして、sweet and lovely がまさにスロー・バラードである。メロディを少しづつ崩しながら吹くのだが、その崩し方に、もうフィリップスの個性が溢れている。そしてこのバラード解釈も1944年としては、なにかしら新しい感じを受ける。いや・・・「新しい」というより、フィリップスという人の独特の唄い口がそれだけ個性的・・・ということだろう。
このbrunswickの10インチ盤・・・音源的には、たぶんフリップ・フィリップスの初リーダー・アルバムだと思うが、聴くたびに彼の「個性」を改めて感じさせてくれる、なかなか素晴らしいレコードだと思う。

《これも好きな1枚だ。Collates#2(MGC-133)》Dscn1745_5

この10インチ盤に収録のB面の3曲は1949年のセッションだが、どれも素晴らしい。そして、このジャケットもなかなかユニークだ。ヒラメキのストーン・マーチンとしては、この「お化け」(NOTさん命名)・・・楽器を吹く”精”のようなイメージだったかもしれない。
Flip Phillips (ts) Mickey Crane (p) Ray Brown (b) Jo Jones (d) というカルテット。
Drowsy 
Vortex 
But Beautiful
(このセッションでは、もう1曲~Milanoという曲も吹き込んでいるが、なぜかこのMilanoは、Collates#2には入っておらず、12インチ盤:Flipに収録されている。う~ん・・・それじゃあ、やっぱりそのFlip(MGV 8077)も入手するしかないようだ(笑))Dscn1746
but beatiful~フィリップスという人は、メロディをす~っと吹くだけで、なんとも言えない「情感」を感じさせてくれる。たぶん彼は、こんな風にメロディがキレイで「儚さ」(はかなさ)みたいなものを感じさせる曲を、心底、好きなんだろう。このバラードなどは、とても1949年ものとは思えないほど、モダンな感覚の演奏だと思う。
drowsy~これはバラードというよりブルージーな雰囲気の曲なのだが、テンポはうんとスローでもって、テナーの音色がゆったりと溢れ出て・・・実に素晴らしい出来だ。バラードもいいが、こういう風に「もたれる感じ」の曲調は、フィリップスにぴったりだと思う。この「音色」を聴いているだけで気分がいい(笑)

さて、もう1枚。前回のフリップ・フィリップス(その1)では、「気持ちのいい屋上の日陰」としてEP盤のジャケットを紹介したが、その後、やっとのことで、10インチ盤を入手した。

《Jumping Moods by Flip Phillips(MGC-158)》003

どちらかというと、A面の4曲が気に入っている。
If I Had You 
Cottontail 
Blues For The Midgets 
What Is This Thing Called Love?
<Charlie Shavers (tp) Flip Phillips (ts) Oscar Peterson (p) Barney Kessel (g) Ray Brown (b) Alvin Stoller(d)

この4曲は、録音が1952年3月:ロス録音とのことなので、それまでの音源よりだいぶいい音になっているようだ。
if I had you~これは・・・すごくモダンな感覚である。まずギターのソロ演奏・・・このケッセルが巧い。柔らかくていい感じのギターだ。あれ?・・・フィリップスがなかなか吹き始めないぞ。テーマに入ってもギターのみだ・・・ようやくサビから、フィリップスが吹き始める。それもマイナー調のサビのメロディを崩しながら・・・この崩し方は、まるでゲッツのようである。そういえば、この if I had you は、ゲッツとジミー・レイニーのサンドと(特にStan Getz Plays:1952年12月録音)よく似ているようにも感じる。

実を言うと・・・だいぶ前から「フィリップスという人は、レスター・ヤングとスタン・ゲッツの中間くらいの存在(個性の持ち主)」と考えていた。だからこのif I had youを聴いた時も「やはり、ゲッツはフィリップスに影響されているぞ」と思ったものだ。このフィリップスの4曲は1952年3月録音なので、12月までに「レコード」になって発売されている可能性は充分にある。
このif I had you・・・何が「新しい」のか?まず、ギターだけのイントロからメロディ、それがサビまで続く。サビからようやくサックスが入ってくるのだが、そんな構成自体も新鮮で、しかもわざとメロディをはっきりと出さずに、崩しながら吹いていく・・・この感じ・・・僕は、どうもゲッツが「この感じ」を、レイニー入りのバンドのサウンドの参考にしたような・・・そんなことを夢想してしまうのだ(笑)
ただ、ゲッツも早くから独自の個性を発揮し始めており、例えば、同じレイニー入りのAt Storyville(roost)は、1951年10月に録音されており、このフィリップスのセッション(1952年)より早いのだ。ただ、あのStoryvilleには、急速調の曲が多く、バラードはほとんどなかったように記憶している(少なくともレコード収録上は)だから・・・テナー奏者のキャリアとしては、おそらく先輩のフィリップスのセンスのいい軽やかなフレーズ廻しに、ゲッツが影響されたとしても、不思議ではないだろう。あるいは・・・もともと似通った資質のある2人が(僕にはそう思える)この時期においては、相互に影響しあっていたのかもしれない。なお、singing in the rainなどB面の4曲は、9重奏団(5管編成+p,g,b,ds)で、僕の思うフィリップスの良さは、あまり出てないように思う。《その4曲は、上写真の右側のEP盤:EP-210にも収録》

もう1枚の10インチ盤にも触れておこう。Dscn1748_3
Flip Phillips(MGC-105)だ。ジャケットにはどこにもQuartetと表記されてないが、後の12インチ盤:Flip Phillips Quintet(MGC-637)との比較上、Flip Phillips Quartetと呼ばれているようだ。Dscn1751

Flip Phillips (ts) Hank Jones (p) Ray Brown (b) Buddy Rich (d) 1950年の録音。
Lover 
Don't Take Your Love From Me 
Flip's Boogie 
Feelin' The Blues 
Lover Come Back To Me 
Blue Room 

このレコード、ジャケットは素晴らしい(笑)カーネギー・ホールみたいな会場でテナーを吹く男・・・なぜだか裸足だ(笑)左側に緞帳とランプ。左側に反った上半身と傾いだ(かしいだ)テナーが平行になって・・・実際の寸法よりうんと長く見える。
この10インチ、僕の手持ちは珍しくも mercury盤である。ジャケットは素晴らしい。メンバーもいい。しかし内容については・・・いまひとつ好印象がなかった。手持ちのmercury10インチ盤の盤質があまりよくなかったことに加えて、肝心の音質の方があまりよくなかったからかもしれない。このタイトルの場合だけかもしれないが、mercury盤のカッティングレベルは、(僕が感じているclef盤のレベルより)かなり低めで、ちょっと痩せた感じのする音だったのだ。
001_2 《同じ図柄の10インチと7インチを並べるのも、なかなか楽しいじゃないか(笑)》

ここでちょっと告白すると・・・僕は、常々「それがいい演奏なら、録音の良し悪しなどと関係なく、ちゃんと聴ける(味わえる)」という信条を持ってきたのが、どうやら・・・それも怪しくなってきたようだ(笑) その証拠に・・・同じジャケットの4曲入りEP盤から、Don't Take Your Love From Meとblue roomを聴いてみると~EP盤の方が10インチ盤よりはるかにいい音質だったこともあり~今度は、うんと「良く」感じたのだ。フィリップスの「ゆったり感」や「唄い廻し」に、より説得力を感じてしまったわけである。
レコードの音というものは・・・やっぱり、ある程度は「いい音質」であるに越したことはない(笑) なお、このスタンダード:Don't Take Your Love From Meは、あまりよく聞くタイトルではないが、バラードの名人:フィリップスの唄を充分に味わえる。Norman Granz氏も裏解説で [showing his love of the ballad~このバラードへの愛着を示している] とコメントしている。Dscn1744_2

《左の写真~一番左側がEP-173 Jumping Moods by Flip Phillips(MGC-158)のA面4曲を収録。この7インチ盤は盤質もよく、僕の手持ち10インチ盤Jumping~(盤質が悪いので)よりも音がいい。
一番右側:EP-171~この7インチ盤には、be be,  dream a little dream of me, bright blues, but beatiful の4曲を収録》

フィリップスのイメージとは、ちょっと合わないようなセッションもある。
ハワード・マギーとのバンド~Flip Phillips-Howard McGhee Boptetでの4曲である。《上写真の中央、薄い水色の7インチ盤:EP-112》
この4曲は1947年だから、フィリップスのmercury~clef期としては、最初期のセッションだ。
cake
cool
znarg blues
my old flame
この4曲は、未入手のCollates#1に入っているのだが、たまたま僕の持っているEP盤の内のひとつがこの4曲入りだった。
ハワード・マギーというと・・・ブルーノートのNavaro=Magheeとかでのイメージもあり、僕などは「バップの代名詞」みたいに思っている。スイングよりちょっと新しい感覚でギザギザしたフレーズを吹く感じだ。いかにもバップという感じの「抽象的」なテーマが3曲続くが、唯一のスタンダードは、my old flameである。バラードという感じのスロウものではなく、ミディアム・スロウのテンポをレイ・ブラウンが4つ打ちしているので、ブルージーな雰囲気に仕上がっている。

こんな具合に、僕はフリップ・フィリップスという人をいろいろ聴いてはきたが・・・実を言うとベテランになってからの彼のレコード(1960年以降のもの)をほとんど聴いていない。フィリプスは2001年8月に86歳で亡くなったようだが、かなりの年齢まで現役で吹いていたとのことなので、「新しい」録音のレコードが choice, concord, progressive,そしてchiaroscuro などからたくさん出ている。今はまだそこまで手が廻らないが、もう少し「古い」フィリップスを味わい尽くしたら・・・徐々に、近年のフィリップスの音色も耳にしてみようか・・・と思ってはいる。

《追記》10インチ盤と12インチ盤の収録曲を整理してみた。

記事中に触れたように、フィリップスのレコードは、SP音源からの編集ものが多いようです。特に12インチ盤では、複数のセッションからのテイクが入り乱れており、その結果、10インチ盤やEP盤の収録曲との重複具合が、まことに判りにくくなっている。この点、67camperさんからもご指摘がありました。僕自身もよく判ってなかったので、ここで「LP単位」と「セッション単位」のデータを少し挙げて整理してみようと思う。

発売の順からいけば・・・おそらく、SP盤(片面1曲づつ)~EP盤(4曲入り)と10インチ盤(collatesの#1と#2)~12インチ盤という流れでしょうか。2枚の10インチ盤:Collatesも、その時点での「拾遺集」(しゅういしゅう)みたいな性格のだったようです。そして1949年頃のセッション単位のデータを見ると、「ひとつのセッションが4曲」のことが多く、その4曲が10インチ盤では2曲か3曲収録、そしてEP盤にはその4曲がちょうど収まっている~ということが判ります。
そして押さえとしては・・・ひとつのセッション(録音日の近いものも含み)だけで一枚のLP単位でまとまったものは、案外少なくて、どうやら以下の3枚だけが「まとまったセッションのLP」のようです。
10インチ盤~
Flip Phillips Quartet(MGC-105) 1950年3月 6曲
Jumping Moods With Flip Phillips(MGC158) 1952年3月 8曲(2つのセッションで4曲づつ)
12インチ盤~
Flip Phillips Quintet(MGC-637) 1954年9月 8曲

それでは以下に、フィリップスのClef期の10インチ盤(4枚)の収録曲(青色で表示)と、それらの<行き先>を書いておきます。
<なお、データについてはshaolinさんも関わっておられるJazz Discography Projectを参考にさせていただきました。
special thanks to "shaolin"さん&"Jazz Discography Project"さん>

MGC 109  Flip Phillips - Collates

Howard McGhee (tp) Flip Phillips (ts) Hank Jones (p) Ray Brown (b) J.C. Heard (d)
NYC, circa September-October, 1947
Cake 
Znarg Blues 
My Old Flame 
Cool

<以上4曲~12インチ盤[Flip]に収録>  <EP盤[EP-112]に収録>

John D'Agostino, Buddy Morrow, Tommy Turk, Kai Winding (tb) Sonny Criss (as) Flip Phillips (ts) Mickey Crane(p) Ray Brown (b) Shelly Manne (d)
NYC or Los Angeles, CA, February 11 or September 26, 1949
By The Lazy River
<以上1曲と(同セッションのもう1曲)Swingin' For Julie And Brownie~12インチ盤[Flip]に収録>

Billy Butterfield (tp) Bennie Green (tb) Pete Mondello (as) Flip Phillips (ts) Mickey Crane (p) Sam Bruno (b)

Max Roach (d)
NYC, August 29, 1949
This Can't Be Love 
Cookie
 
<以上2曲~12インチ盤[Flip]に収録>

Bill Harris (tb) Flip Phillips (ts) Dick Hyman (p) Gene Ramey (b) Jo Jones (d)
NYC, March 8, 1951
Cheek To Cheek
<12インチ盤[Flip Wails]に収録> 

MGC 133  Flip Phillips - Collates, #2

Flip Phillips (ts) Mickey Crane (p) Ray Brown (b) Jo Jones (d)
NYC, December 5, 1949
Drowsy 
Vortex 
But Beautiful

<以上3曲+Milano~12インチ盤[Flip]に収録>

Harry "Sweets" Edison (tp) Bill Harris (tb) Flip Phillips (ts) Hank Jones (p) Billy Bauer (g) Ray Brown (b)

Buddy Rich (d)
NYC, July 1, 1950
Be Be 
Dream A Little Dream Of Me

<以上2曲+Bright Blues~12インチ盤[Flip Wails]に収録>
<上記3曲+but beautiful~EP盤[EP-171]に収録> 

Bill Harris (tb) Flip Phillips (ts) Dick Hyman (p) Gene Ramey (b) Jo Jones (d)
NYC, March 8, 1951
I've Got My Love To Keep Me Warm
<12インチ盤[Flip Wails]に収録>

Bill Harris (tb) Flip Phillips (ts) Lou Levy (p) Jimmy Woode (b, vo) Joe McDonald (d)
Los Angeles, CA, August 9, 1951
Broadway 
Apple Honey

<以上2曲+Sojoro, Wrap Your Troubles In Dreams, Long Island Boogie, Stardust~
12インチ盤[Flip Wails]に収録>

MGC 158  Jumping Moods With Flip Phillips

Al Porcino (tp) Bill Harris (tb) Charlie Kennedy (as) Flip Phillips (ts) Cecil Payne (bars) Mickey Crane (p)

Freddie Green (g) Clyde Lombardi (b) Max Roach (d)
NYC, March 21, 1952
Someone To Watch Over Me 
I'm Puttin' All My Eggs In One Basket 
Singin' In The Rain 
Gina

<以上4曲~12インチ盤[Swinging With Flip Phillips And His Orchestra]に収録> <以上4曲~EP盤[EP-210]に収録>

Charlie Shavers (tp) Flip Phillips (ts) Oscar Peterson (p) Barney Kessel (g) Ray Brown (b) Alvin Stoller (d)
Los Angeles, CA, March, 1952
If I Had You 
Cottontail 
Blues For The Midgets 
What Is This Thing Called Love?
 
<以上4曲~12インチ盤[Swinging With Flip Phillips And His Orchestra]に収録>
<以上4曲~EP盤[EP-173]に収録>

MGC 105  The Flip Phillips Quartet

Flip Phillips (ts) Hank Jones (p) Ray Brown (b) Buddy Rich (d)
NYC, March, 1950
Lover 
Don't Take Your Love From Me 
Flip's Boogie 
Feelin' The Blues 
Lover Come Back To Me 
Blue Room
 
<以上6曲~12インチには未収録> 
<Lover, Don't Take Your Love From Me,  Lover Come Back To Me, Blue Roomの4曲~EP盤[EP-120]に収録>

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