<旅レコ 第2回> セロニアス・モンク/モンクス・ミュージック
~前回の続き・・・ネムジャズインは、毎年土曜日の夜、徹夜で敢行されていた。明け方近く、ラストのセットは「ナベサダのリハーサルバンド」ラストナンバーは・・・<トリステーザ/悲しみ>という曲だ。
《タクト/日本コロムビアのEP盤4曲入り。後に地元の古本屋~ミヤザワ書店だったかな~で購入。そしたら狙い通り、「あの曲が入っていた!それで、あのサンバ曲が<悲しみ>トリステーザと知ったのだ。ひょっとしたら、<トリステ>と呼ばれているかもしれない。》
・・・このトリステーザが、サンバのリズムで実にゴキゲンな演奏だったのだ。ナベサダやら峰厚介らのソロの後、エンディングはテーマの終わりでブレイク!しばし沈黙・・・バンドも聴衆もああ終わったのか・・・と思ったその瞬間、ナベサダがホイッスルを吹く!そしてそのホイッスルでカウントをとると、再びサンバのリズムが始まる・・・。楽しかったジャズの一夜が、まもなく終わる・・・終わってしまう。いや、まだ終わりたくないんだ! そんな気持ちがナベサダにもバンドにも聴衆にも満ち満ちており、~ブレイク~ホイッスル~カウント~サンバ。これを何度も何度も繰り返す。あの「悲しみ」の印象的なテーマ~楽しくて、明るくて、踊りだしたくなるような、それでいて、ちょっと哀しいようにも感じる、あの素晴らしいメロディが、すっかり、体中に沁みこんで しまったようだ。
そうして、ステージ左後方の空がすっかり白く明るくなった頃、ようやく最後のブレイク・・・ホイッスルは鳴らなかった・・・終わった。台風の風雨と、それを跳ね返すほどの美しい音楽の一夜が、とうとう終わってしまったのだ。《右の写真は雑誌からの切り抜き》
そのまま帰路。ネムの里から「鵜方」という駅までのバスが大混雑だったので、兄貴と僕は、「歩いていこう!」 そのまま徒歩で駅まで向ったのだ。海辺の丘からの長い坂道を下り、入り江沿いの道をトボトボと。1時間半は歩いたなあ・・・。鵜方から近鉄特急で名古屋まで戻るが、なぜかそのまま豊橋には帰らない(笑)それからちょっと、栄方面に寄ったのだ。徹夜の割りには、やけに元気だ。どうやら、ジャズの余韻が残っていて、やたらとハイになっていた高校生だったようです。(笑)
栄から納屋橋方面に5分ほど歩いたあたりに、朝日神社という小さい神社があり、そこを過ぎたあたりに「名曲堂」というレコード屋を見つけた。雑居ビルの1Fにある10坪ほどの小さな店だった。国内盤を置いてある店舗との仕切りガラスの外側~つまり他フロアに行くための通路のガラス寄り~なんと、そんな埃っぽい場所に、ジャズの輸入盤コーナーがあったのだ。
「秋吉敏子」の回に書いたように、当時は新品レコードが2000円~2200円くらいだったので、1500円前後で手に入るジャズの輸入盤には、かなりの魅力があったのだ。今思えば、その頃、手に入れた輸入盤は、60年台後半にアメリカで再発されたニセステ「モノ音源を擬似ステレオ化した盤」が多かったのだ。・・・でも当時(1972年)はそんなことは判らない。「安い」から外盤を買っていたのです(笑)
この名曲堂で、時間をかけて1枚だけ選んだのが~
Thelonious Monk/Monk’s Music(Riverside:RS-3004)
もちろんリバーサイドのオリジナル1stではなく、67~68年頃の米再発盤らしい。こげ茶の環っかラベルの 「abc Riverside」と呼ばれる盤だ。この盤も”electronically rechanneled for stereo” と表示されていた。擬似ステ盤の場合、「ステレオ」モードで聴くと、たいていは・・・
<低音と高音を強引に左右に振り分けてエコーをガンガンにかけたような>不自然な音質と音場感にになってしまう。そんな擬似ステ盤を聴くときには、しかたないので僕の場合は、「モノ」にして聴くことが多いのだ。
ところが不思議なことに、このabc Riverside盤からは、そういった不自然さを感じない。アンプのモードを「モノ」から「ステレオ」に変えても、ほとんど音質/音場感が変わらないのだ。僕の耳にはどう聴いても「モノラル盤」の音なのだ。
コルトレーンやホウキンスのテナーも生々しい。ウイルバー・ウエアのやけに重くて、バカでかいベース音。ブレイキーの少々やかましい(笑)しかしパワフルなハイハットもギシギシと鳴る。モンクのピアノも、強いタッチの力感が充分に感じられる。これらの楽器の音が、中央付近にギュッと詰まった
「大迫力のモノラル盤」の音と思う。特に<well,you needn’t>でのコルトレーンのもがくようなソロ、ウエアの超個性的なリズミックなソロ。もう最高!ジャズの醍醐味ここにあり!(*同一盤をお持ちの方、その音質など、ぜひコメント欄にて、お知らせください)
この「モンクス・ミュージック」は、すぐに僕の大愛聴盤になった。と言っても、まだジャズLPを5~6枚しか持ってない頃のことだけど(笑)
ネムジャズインの興奮の余韻の残る中、初めて寄った名古屋のレコード店で、こんなにもいい盤(僕にとって)を見つけてしまった! なんだろう、この引き合う力は?ひょっとしたら、僕がっともっとジャズの世界に踏み込んでしまうようにジャズの神様が、仕組んだ「罠」だったのかもしれない。うん、それも、素敵な tender trap だったのだ。
・・・あれから33年も経った。今でもジャズという音楽を好きでいられることに感謝したい。(誰にともなく・・・)
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