<思いレコ 第1回> 秋吉敏子/トシコ マリアーノ・カルテット ジャズLP買い始めの頃~1972年。
高校に入ってから、ジャズのLPを少しづつ買い始めました。それまではS&G、エルトン・ジョンなどを聴いていたんですが、FMからエアチェックしたマイルスやモンクの「音」がどうにも心に沁み込んできて、「よし。オレはもうジャズを聴くしかないんだ」などと、悲壮な覚悟をして、僕はジャズ宇宙に踏み込んでいったのです。当時(1972年)新品レコードは2000円ほどで、そんなにたくさんは買えやしない。僕の記念すべきジャズLP購入第1号は・・・
秋吉敏子/トシコ・マリアーノ・カルテット(candid/CBSソニー)だ。これもエアチェックして聴いた<黄色い長い道>がどうにも気に入り、ちょうどその頃、CBSソニーがキャンディドの復刻シリーズを発売していたので、タイミングよく地元のレコードショップ(名豊ミュージック)で買ったのです。 その店でたまたま音楽好きの同級生に会った。彼は、僕が手に持つLP袋を見て「おっ。何買ったの?」 僕は「・・・秋吉敏子」とだけ答えたのだった。ロック好きのその同級生に変な対抗心があったのか「オレはジャズ聴いてんだよ」というような妙な「カッコつけ心」がミエミエだったなあ(笑) 今振り返れば・・・ちと恥ずかしい。まあ blame it on my youth ということにして(笑)
お目当ての「黄色い長い道」は、やっぱりよかった。あの独特なメロディーは秋吉敏子自身が「大連の夕日の風景~」とかなんとか回想していたように記憶してるが、悪くない哀感のあるメロディーです。後になって聴くと、LP全体の曲調が、当時はやりだったはずの「モード」風になっているようで、敏子のピアノ自体も、「ちょっと堅いノリ」に感じて、高1の頃ほどは楽しめません。 だけど、このLPで一番、気に入ったのは・・・<deep river>です。この曲はtraditionalとクレジットされており、「黒人霊歌」らしいです。ここでのチャーリー・マリアーノ(as)、見事な謳い上げで、すごく好きになりました。でもその頃は、ジャズは黒人だ!の雰囲気横溢で、「マリアーノがいい」というようなジャズ記事では見かけたことなかったです。マリアーノは、その後も少しづつ初期のものも聴いてますが、やっぱり「バラード」がいいように感じます。 アルトっていう楽器は・・・なぜだか「バラードを情熱的に謳い上げる」のに ピッタリくるようです。アルトのバラード名手、ペッパーも同様に素晴らしい。
その年の9月だか10月にビクターから廉価盤1100円シリーズ(prestige)というのが発売されることになり、これには興奮しました。とにかくジャズの「新品LP」が当時2000円標準の半額ほどで買えるのですから。でも、まだそんなにジャズを聴き込んでいたわけでもない高校生には、そのシリーズは「かなり地味」なラインアップだったようです。今、リストを見ても相当に渋い音源ばかりです。その中から、真っ先に「コルトレーン」を買い、続けて「モンク・トリオ」「モンクとロリンズ」「ニューヨーク・シーン」「カッティン」などを購入しました。当時はジャズの本なんかで、もうコルトレーン神様!という雰囲気が充満しており、ジャズ聴き始め高1としては、とにかく<コルトレーン>を一枚でもたくさん聴かねば・・・という感じもあったのです。コルトレーンのリーダーアルバムは、この「コルトレーン」だけで、サイドメン参加のLPもたくさん出ましたが、そこまではとても手が出せませんでした。それでもすで「カインド・オブ・ブルー」(すでに聴いていた)での、あのコルトレーンが、廉価盤で聴ける!と素直に喜んだものでした。しかし、あのレコードの洗練された雰囲気に比べると、このprestige音源は、たいてい1957頃の録音だったわけで、ゴリゴリなハードバップジャズだったのです。(当時はそんなジャズの録音時期と音楽スタイルの違いみたいな知識は全くなかったの)だから・・・正直、すぐにはピンと来なかった。ロリンズなどは、あの「ぶお~っ」というテナーサウンドを「ふやけた音だなあ・・・」と感じて「・・・やっぱりテナーはコルトレーンだよな」などと思ったりもした。今ではもちろん、ロリンズ好きなんですが(笑)
そんな1100円盤の中で解説だけを読んで良さそうに感じ購入したのが 「アート・ファーマー・クインテット」(PJ-7117-4)です。このLPはすぐに 気に入りました。テーマのかっこいい覚えやすい曲が多かったのです。<evening in Casablanca>など、いいな、と思った曲のcomposerはジジ・グライスでした。ジジ・グライスの名は・・・知ってました。「モンクス・ミュージック」というLPにコルトレーン、ホウキンスなどと共にソロを吹いてました。その頃、立花実という人の「ジャズ評論集/ジャズへの愛着」という本を激読しておりました。その中で、コルトレーン信奉者の著者が、コルトレーンらのソロを激賞しつつも、このジジ・グライスのソロを「パーカー・イディオムでお茶を濁すようなソロ」と批判的に描写していたことを鮮烈に記憶していたのです。モンクス・ミュージックも好きでよく聴いてましたので、「ああ、あのグライス・・・でもこの人、いい曲つくるじゃん」という弁護的な心情を覚えました。 そのモンクス・ミュージック!この盤にも、いろんな思い出があります。次回に。
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