レッド・ガーランド

2020年12月31日 (木)

<ジャズ雑感 第42回> ハワードマギーの哀愁

聴きたいレコードが決まらないまま、あれこれとレコード棚を探っていると、さりげなくそこに在って、聴いてみるとこれが実によかったりする・・・そういうレコードがある。
ジャズ聴きも相当に長いが、まだ厭きない(笑)40数年、ブランクなしに聴いてきたので、レコードの枚数もかなりある。
僕の場合、ジャズ聴きの初期の頃から好みがはっきりしていたので、まずは好きになったミュージシャンを何十人か集中的に聴いていた(集めていた)時期があって、その後に興味の輪が広がるにつれ、他のいろんなミュージシャンのレコードも増えてきて・・・知らぬ間に数千枚ほどになってしまった。ほとんどが1950年~1960年代録音のハードバップ系ではあるが(笑)
こういう状態になると、あまり聴いてないレコードも数多(あまた)出てくる。僕はそれらを入手した折には一度は聴いたはずなのだが、特に好印象を得られずに、その後はあまり聴いてないという状態なわけで・・・これは実に不憫なことである(笑)
どのレコード達も、僕自身がその時点で何らかの理由をもって選んできたわけだから、レコード棚に並んでいるどのレコードとも初対面というわけではない(笑)そして何らかの理由とは・・・もちろんそのリーダー・ミュージシャンへの興味だけでなく、その頃に気になっていたミュージシャンがサイドメンに加わっていたり、またはその頃「いいな」と感じていたスタンダード曲が収録されていたり、あるいは気になるレーベルやエンジニアだったり(録音の音質への期待)・・・まあいろいろな要素が入手の理由になったはずなのだ。
だから、自分が選んできた「モノ」が、一部分とは言え、忘れ去られた状態になっているのは、やはり自分にとっても残念なことじゃないか。

そんなわけで、たまにはこの辺りを・・・と、普段、あまり手を伸ばさないコーナーをパタパタと探っていると、なんとなく手が止まったレコードがある。そこはベツレヘム・レーベルを並べたコーナーで・・・僕の「探り方」は~棚の適当な箇所からザクッと7~8枚を10cmほど左手で引き抜いて、それをジャケット側からパタパタと見ていく~というやり方なのだが、そこで何かが「引っ掛かる」と、手が止まる。なかなかの自動選別システムじゃないか(笑)
その時、引っ掛かったレコードが・・・これである。

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<Howard McGhee / Life is just a bowl of cherries「人生はサクランボの載ったお皿のようなもの」

(このタイトル~邦題では「チェリー味の人生」となっているようだ)
このジャケットは、もちろんバート・ゴールドブラットによるものだが・・・およそ「ジャズ的」とは言えまい(笑)>

このレコードが、僕にとってはまさに「あれ? このレコード・・・こんなによかったのか!」になったのである。
そして、この「あれ?」というのは、つまり・・・そのレコードの中の在ったはずの何らかの美点が(入手した頃には気づかなかった)今になって判った・・・ということだと思う。
そして、僕はそのことがなんというか、とても嬉しいのだ。

この「サクランボ」は・・・何年か前にあるレコードフェアで見つけて入手したのだが、その時はハワード・マギーのリーダーアルバムが欲しい~というよりも、その頃、僕のアタマを占めていた Bethlehem レーベルそのものへの興味から入手したはずだ。それと、Bethlehem のリーフラベルにしては安めの価格だったことも大きな理由ではある(笑)

ハワード・マギーは、トランペットを、強い音で鋭く突き刺さるような吹き方はあまりしない。(そういうのも実に快感なんですが・笑)どちらかというと甘いしっとりした音色で、わりと淡々と吹く・・・そういうスタイルだと思う。

強弱を付けたりデコボコしたフレーズ(それがモダンジャズにおけるトランペットの快感でもあるのだが)で、攻めまくる~という感じではなくて、その曲のメロディをあまり崩さずに丁寧に吹き進める感じだ。だけど・・・その淡泊な吹き方になんとも言えない品格のようなものが感じられて、聴いていて実に気持ちがいいのである。その曲のメロディ自体の美しさを引き立てるタイプと言えそうだ。私見では~いや、まあこの夢レコはすべて私見ではあるが(笑)~そうだな、クラーク・テリーとケニー・ドーハムを足して2で割ったような感じかな?

この作品・・・ベツレヘムの意図としても、リラックスしたムードミュージック的、BGM的な・・・つまりゴリゴリのジャズ好きではない人にも楽しめるような作品にしたかったのだと思う。というのもマギーの伴奏として5人のウッドウインド(管楽器群)を配してあって、この5人が品のいい出しゃばらないハーモニーの生地を造り出して(フランク・ハンターのアレンジ)そこにマギーがゆったり伸ばしたしっとり音色で、美しいメロディを乗せていく・・・という感じ。たまに少々のアドリブソロを差し入れてはいるが、どの曲も3分ほどであっさりと終わってしまう・・・全編がそんな感じなのだ。いわゆるジャズ的、ハードバップ的な音楽ではない。だがしかし・・・そこにはハワード・マギーという人の、品性が溢れている。そしてそこにゆったりした音楽が流れてくると、なんとなく幸せな気分になれるのだ。そういえば僕はマント・ヴァーニー楽団も嫌いじゃない(笑)

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<このレコード、録音が案外にいい。1956年の録音だが、どの楽器もパリッとした乾いた質感のクリアな音で録られている。録音エンジニアには、Johnny Cue と Frank Abbey の二人がクレジットされている>

タイトルにもなっている life is just a bowl of cherries という曲は、古く1931年の楽曲のようだが、ビング・クロスビー、J.Pモーガン、ジュディ・ガーランド、ドリス・デイ、それからキャロル・スローンらに歌われているようだ。ちょっと調べてみたら、a bowl of cherries という言葉は比喩的に<とてもたのしいこと>を意味していて、通常~life is [isn't] just a bowl of cherries の形で使う~ということらしい。歌詞のおよその意味は以下。
"Life is Just a Bowl of Cherries"
Life is just a bowl of cherries / Don't take it serious, it's too mysterious / You work, you save, you worry so / But you can't take it with you when you / go, go, go. / Oh, life is just a bowl of cherries / so live and laugh at it all
<人生はサクランボの乗ったお皿みたいなもの。あまりクヨクヨするなよ。何が起こるか判らないのだし。働いてお金を貯めてあれこれ心配したって、どうせ死んだらお金は持っていけないんだぜ。だから・・・人生、笑い倒して生きていけばいいのさ!> みたいなとっても楽天的な歌詞らしい(笑)
ちょっと興味を持ったので you tube で聴いてみると、まあ歌詞の内容からから言っても当然かもしれないが、どの歌手も、明るく楽しくポジティブな感じで歌っている。幾つかの歌を聴いた中では、ドリス・デイだけがスローテンポので歌っていて、しみじみした味わいがとても素敵だ。
楽曲の解釈というものは(歌詞のあるものは)その歌詞の内容に影響されやすいだろうが、人間の感情表現というのはそう単純ではなく、あれやこれやと混ぜこぜになるものだと思うし、ある事例についての反応が必ずしも10人が10人、同じでなければならない~というものでもないだろう。
楽しい内容だから「速めテンポで明るく楽しそうに」歌うとは限らない・・・逆にそれを「ゆっくりテンポでしみじみ暗く」歌ってもいいじゃないか! ドリス・デイの場合は、たぶんそういう発想だったかと思う。
そうして・・・ハワード・マギーもこの Life is just a bowl of cherries をやはりゆったりしたテンポの情緒感でもって演奏しているのだ。そしてそれがマギーという人の誠実な人間性みたいなものにうまく調和している・・・そんな風に僕は感じる。

さて・・・この「サクランボ」は、片面6曲の全12曲収録なのだが、その内の11曲が、DySylva-Brown-Henderson なる作詞・作曲家チームによるものなのだ。実は僕はこの DySylva-Brown-Henderson なるチームのことをよく知らなかったのだが、どうやら Ray Henderson という作曲と Lew Brownという作詞家のチームらしい。収録11曲のタイトルを見てみると・・・幾つかの曲に「お、あの曲か」という発見があった。
the thrill is gone
the best things in life are free
I'm a dreamer aren't we all?
なるほど・・・地味だけど、なんとなく「いいな」と感じる渋い曲調の作曲家とも言えそうだ。まあ「いい/よくない」はもちろん個人の好みによるものだから・・・あまりピンと来ない場合もあるかもしれないので、これらの曲が割と知られている(と思える)ミュージシャンの名前も挙げておこう。

the thrill is gone は、寂しげなスローな曲調でチェット・ベイカーの素晴らしい演奏(Chet Baker Sings 1953年)が印象に残る。

the best things in life are free は、これはもうハンク・モブレイ(work out 1961年)で決まりだろう。

I'm a dreamer aren't we all?  これは・・・おおっ、コルトレーンの Bahia 1958年 に入っているアレじゃないか!

そしてちょいと面白いな、と思ったのは、この「サクランボ」~同じ作曲家チームで纏(まと)めるという企画作品にも関わらず、実は1曲だけ別作家のものが加えられていることだ。その1曲が・・・あの「ソニー・ボーイ」である。「あの」というのは「ソニー・ボーイ」という曲については、だいぶ以前にレッド・ガーランドの記事で、この曲を取り上げたことがあったからなのだが、その時もガーランドの情緒感溢れる演奏に感動して、夢レコ記事にしたのだった。
そういえばこの「サクランボ」の裏ジャケットを見た時「あっ、ソニー・ボーイ演ってるじゃないか」と嬉しく驚いたものだ。DySylva-Brown-Henderson 作品集とも言うべきアルバムの中に、あえて別の作曲家の「ソニー・ボーイ」を混ぜ入れたこと・・・それもA面1曲目に持ってきたこと・・・そんなマギーの何かしら粋なセンスにも、大いに共感を覚える僕である。
A面1曲目の「ソニー・ボーイ」の曲調と他の11曲の持つ雰囲気とは、何ら違和感もなく繋がっていて、アルバム全体としても実に品のいい哀愁感を醸し出しているのだから。

そうして「サクランボ」はやはり・・・マギーの哀愁トランペットを、しみじみと味わうべきレコードなのだ。
ちなみにこの「チェリー」は1956年録音で、ガーランドの1962年よりもうんと前の演奏なので、あるいはガーランドは、英国歌手のペテュラ・クラークだけでなく、このハワード・マギーのレコードも聴いたのかもしれない。

さてついでに、ハワード・マギーの他のレコードも幾つか紹介しよう。
僕の中でのマギーは、長いことバップ時代のちょいと古いトランぺッターというイメージだった。それは、パーカーのダイヤル・セッション(ラヴァー・マン)やファッツ・ナヴァロとの「ファビュラス」でのバップ期の印象が強かったためだ。
しかしマギーはこの後の幾つかのレコードでは、なんというかもう少しモダンなハードバップ的なペット吹きになっているようだ。
その「バップ」より後の作品で僕の手持ち盤は少ないが以下~残念ながら全て国内盤である。「ダスティ」に至っては痛恨のCDだ!(笑)

「リターン」ベツレヘム1955 サヒブ・シハブ、デューク・ジョーダン
「コネクション」フェルスッテド1960 ティナ・ブルックス、フレディ・レッド
「ダスティ・ブルー」ベツレヘム 1960 3管、トミー・フラナガン
「シャープ・エッジ」1961 ジョージ・コールマン、ジュニア・マンス 
<下写真は The Sharp Edge~トリオ発売のヒストリカル1800というシリーズからの1枚。ベースのジョージ・タッカーの音が凄い。
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マギーは、上記のように自分の作品には必ずテナー吹きを入れて、そこにソウルフルなピアノ弾きを加えている。そういう落ち着いた感じのサウンドが好みなんだろう。どの作品も悪くない。

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<上写真~Connection(felsted/ノーマ・1996年>
この作品は実質、フレディ・レッドのリーダーアルバム。ジャケットのコーティングが嬉しい。音質も悪くない。
「コネクション」は、フレディ・レッド作の各曲のほの暗い感じと、テナーのティナ・ブルックスのくすんだような音色が相俟(あいま)って、とても味わい深い作品となっている。


「リターン」はベツレヘムの第1作で(「サクランボ」が2作目)正統派ハードバップ的の快作。サイドメンが皆、いい演奏していて楽しめる。サヒブ・シハブという人は、バリトンやアルト、なんでも吹くが、どれも「あれ?」と思うほど巧い。僕はこの人・・・モンクの1947年のブルーノート録音で名前を覚えた。
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<上写真~The Return of Haward McGhee(bethlehem/日本コロムビア・1984年)
この「リターン」で、ひとつ、印象に残ることがあった。それはドラムスにフィリー・ジョー・ジョーンズが居ることだ。1955年のフィリー・ジョーというと・・・もちろんマイルスバンドより以前になるし、フィリー・ジョーにとっても、トニー・スコットのDecca録音と並んで相当に初期の録音になるかと思う。そしてそのフィリーのドラム音・・・これがやけにいい感じなのである。演奏そのものも溌剌としててもちろん良いのだが、ドラム全体の録音の音が、これが「あれれ?」とびっくりするくらいいい音なのだ。もう少し後の時代のコンテンポラリーの録音のように、タイトですっきりした響きのいい音に聞こえるのだ。このレコードを久しぶりに聴いた時、僕にはこのドラムがとてもフィリージョーには聞こえなかった(笑)だれか西海岸の巧いドラマーかな?と思ったくらいに、いい感じに端正なドラムの音であり演奏だったのだ。
このフィリーの音を録ったエンジニアは「サクランボ」と同じくFrank Abbey氏。どうやらまた気になるエンジニアを見つけてしまったようだ(笑)

「ダスティ・ブルー」~3管編成でちょっと新しい感じのサウンドになっている。マギー独特の選曲は健在で(笑)sound of music とか新鮮な驚きである。そしてこの「ダスティ・ブルー」で僕が最も印象に残っているのは、たぶんマギーがすごく好きなんだろうな、と思える作曲家~Tom Macintosh の with malice towards none である。暗くてウネウネしたような曲調で、しかしなんとなく心に残るメロディ(とハーモニー)である。マギーという人は、たぶんこういう内省的な雰囲気をその根底に持っている人なんだろうな、と思えてくる。
ちなみにマギーは「シャープ・エッジ」でも Tom Macintosh 作品を1曲(the day after)を録音している。

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2008年5月19日 (月)

<思いレコ 第16回> レッド・ガーランドの唄心。

「ソニー・ボーイ」という曲のこと~

ジャズを好きになってしばらくの間、ピアノではモンクとエヴァンスばかり聴いていた。タイプは全く違うが、この2人は本当の意味での「スタイリスト」だったし、僕はある意味「判りやすい」この2人の個性をどうしようもなく好きだったのだ。その後、ランディ・ウエストンやダラー・ブランド、それからソニー・クラークを知り、今ではピーターソンやラムゼイ・ルイスまで楽しく聴いている(笑)

そこで・・・レッド・ガーランドである。こんな風にブログに取り上げる割りには、僕はガーランドのマニアというわけではない。ガーランドのピアノ自体は、マイルスの諸作でけっこう耳にはしていたはずだが、そのソロに特に惹かれるということもなく・・・だから、ガーランドのリーダーアルバムまではなかなか手が廻らなかった。
その頃、行きつけのジャズ喫茶「グロッタ」で、マスターがガーランドのレコードを何度か掛けてくれたことがある。Garland_of_red そしてその中の1曲が妙に印象に残ったのだ。

A Garland of Red(ビクター1978年)~A面2曲目がmy romanceだ。
その1曲とは・・・「マイ・ロマンス」だ。この名曲を、ガーランドは思いもかけないほど「ゆっくり」演奏した。

「マイ・ロマンス」は何と言っても、エヴァンスのレコードを聴き込んでいたので、僕のアタマの中には~エヴァンスの川の水が流れるようなピアノ・・・それからもちろんラファロの美しいベースソロ~そんなイメージがこびりついていた。「これしかない」と思えるくらいに、エヴァンスのあの曲に対しての解釈は素晴らしいものだったが、あれだけが「マイ・ロマンス」ではなかったのだ。
ガーランドの方が1956年と録音年がうんと古いわけで(エヴァンスが1961年)だからエヴァンス版とはだいぶん肌合いが違うのだが、この「ゆっくりマイ・ロマンス」にも、僕は徐々に惹かれていった。
実際、ガーランドは、本当にスローなテンポでこの曲を演奏している。もうちょっと何か仕掛ければいいのに・・・と思ってしまうほど、徹底して音数を少なくしたまま、最初から最後まで実に淡々と弾き進めるのだ。決して華麗な演奏ではない。しかしその・・・それが僕にはとても新鮮だった。こんな風に「淡々とした語り口」のガーランドのピアノの音が、じわ~っと体の中まで沁みてくるような感じなのだ。
演奏全体を通して「優しげな情感」みたいなものが漂ってくる「マイ・ロマンス」だと思う。

ジャズ本などをいろいろ読んでいると、ガーランドのリーダーアルバムでは、このGarland of Redとやはり At The Preludeが取り上げられることが多かった。そして・・・わりと見かけたのが、When There Are Grey Skies(prestige)というタイトルのレコードについての記事だった。やはり「ガーランド大好き」の方もかなりおられるようで、それらはみな例外なく、St.James Infirmary(セント・ジェームズ病院)を褒め上げていた。どれも「ガーランドの情念が溢れている」というような内容だったように思う。
僕は「どんな音だろう?」という興味は持ったが、どの記事も「セント・ジェームズ病院」への思い入れが、あまりに強かったためか・・・必要以上に「文学的」に聴かれてしまっているように見えないこともなく・・・僕など、逆にちょっと引いてしまう気持ちもあったかもしれない。
そんな訳で、長いこと、このレコード~When There Are Grey Skies(prestige)を耳にするチャンスがなかった。(というのは・・・全く僕の勘違いだったのだが、そのことは後述します) When_they_are

4月の初め頃だったか、僕は地元の中古レコード屋でこのレコードを見つけた。「おっ」と思ったが、ラベルは「fantasy黄緑」でジャケットも盤もペラペラである(笑)だから、あまり積極的に欲しいとは思わなかった。だけど「セントジェームズ病院」というのが、どんな音なのか、一度は聴いてはみたい・・・それになぜかこのレコードはあまり見かけないし、OJCでも出ていなかったのかもしれない・・・という訳で、ようやく僕はこの When There Are Grey Skies(ステレオ盤)を入手したのだった。
さっそく聴いてみると・・・録音自体は擬似ステレオではなく、ベースやドラムスも案外いい音である。だけど・・・ピアノの音が「コ~ン・キーン」とかなりと強めに鳴る音で、時には「強すぎる」タッチのピアノの音色だ。かなりの「オン・マイク録音」かもしれない。いずれにしても独特のピアノの音である。ジャケ裏を見ると・・・やはり、ヴァン・ゲルダーの録音だった(1962年)
そんなピアノの音色ではあったが・・・これがそれほど不快には感じなかったのだ。いや・・・普通ならこんなに「硬めで強め」のピアノ音は好みじゃないはずなんだが、なぜだか、何度も聴いてしまう・・・聴きたくなってしまう音だったのだ。When_they_are_4
何度も聴いたのには理由がある。それは、もちろんこのレコードでのガーランドの演奏を好きになったのだが、それはお目当ての「セント・ジェームズ病院」ではなかった。
A面1曲目の「Sonny Boy」に、やられたのである。
ガーランドは、この曲も、うんとスロウなテンポでじわりじわりと弾いている。「マイ・ロマンス」よりも遅いくらいだ。そしてパラパラとフレーズを弾くこともなく、うんと音数を減らして、その分、この曲に深い情感を込めようとしている・・・ように聴こえる。
ガーランドという人・・・改めて認識したのだが「タッチが強い」のである。手の全体で押し込むような強さではなくて、指先のばねを効かしたような強さ~のように感じる。
「マイ・ロマンス」と同じように・・・いや、あれ以上に淡々とした弾き方が続くのだが、ガーランドの「唄いあげ」として「ここぞ!」という場面に、そういう強いタッチが「ッカ~ン!」とくる。そのシングルトーンが、まさに「鐘」のように荘厳に響くのである。そして・・・これが効くのだ(笑)
この曲・・・Sonny Boyでガーランドが表現しようとした・・・なにか「祈り」のような「慈しみ」のような・・・そんな雰囲気と、このヴァン・ゲルダー録音のちょっと独特なピアノの音色とが、うまい具合にマッチしているように、僕には感じられるのだ。
「ソニー・ボーイ」・・・こんなに素晴らしいガーランドの演奏があったのか・・・僕はすっかり感動してしまった。そしてそのことを誰かに伝えたかった。

《When They Are Grey Skies(prestige:NJ黄色ラベル)~recooyajiさん提供》Grey_skies_mono
《モノラル・オリジナル盤では、ガーランドのピアノの重心が下がり、ちょっと太めの音になった。ステレオ盤の「強いタッチのキンキン音」より、うんと聴きやすい。その分、ドラムやベースがちょっとおとなしくなっているかもしれない》

さて、ここからが実に情けない僕の笑い話しである。
つい先日、recooyajiさん宅で音聴き会をした折に、その「ソニー・ボーイ」のことを話したのだが、recooyajiさん「いやあ・・・いいでしょう、あれ!」と、すぐにそのガーランド盤を取り出してきた。 recooyajiさん、しっかりオリジナルのモノラル盤(NJ黄色ラベル)を持っている(笑) モノクロにピンクが効いたジャケットが素敵だ。そのジャケットのピンク色を見た瞬間、僕は「あれ、これは前に聴かせてもらったような・・・」という気持ちになり、そういえば・・・昨年末だったか、やはりこのrecooyajiさん宅で、ガーランドのこのレコードのことが話題になっていたことを、ハタと思い出したのだ(笑)
recooyajiさんもこの「ソニー・ボーイ」をとても気に入ってるとのことで、あの時もたしか・・・「bassclefさん、このガーランド盤~どうしてこんなタイトルになったのか・・・判りますか?」という話しになり、そして教えてくれたのが・・・ペテュラ・クラークなのである。
クラークの英国EP盤(4曲入り)に、このsonny boyが入っていた。Ep《EP盤:You Are My Lucky Star~recooyajiさん提供》
recooyajiさん、意味ありげに、ニヤッと笑いながら、そのsonny boyの歌詞を見せてくれる。その歌詞・・・始まりの部分がこうなっていた。
when there are grey skies...
なるほどっ! この歌詞をそのままタイトルにもってきたのか! これは・・・ガーランドのWhen There Are Grey Skies という素晴らしいレコードについての、recooyajiさんならでは~ジャズだけでなく、ロックからガールポップまで幅広く音楽を楽しんでおられる~の素晴らしい発見だと思う。
そんなことを昨年12月に話したわけで・・・つまり、ガーランドの「ソニー・ボーイ」を、僕は昨年12月にすでに聴いていたのだ。そして、おそらくそれが無意識的にではあっても、音の記憶として僕の脳髄に残っており、そして4月にそのレコードを見つけ、そうして「感動」した。
ああ・・・なんてことだ・・・僕は「ソニー・ボーイ」を教えてくれた当のご本人に向かって「あれはいいよ」とのたまっていたのだ(笑)
だから「ソニー・ボーイ」の素晴らしさは、もちろん僕が「発見」したのではなく、すでにrecooyajiさんから僕に伝えられていたわけで、つまり・・・僕は「時限的催眠術」に掛けられていたのだ(笑)
《12インチ盤:You Are My Lucky Star~recooyajiさん提供》Nixa

そして、そのペテュラ・クラークのsonny boy・・・これまたしっとりしたいい味わいなのだ。
recooyajiさんはこのEP盤をとても気に入って、その後、オリジナルの12インチ盤(Nixa)も入手していた。EP盤のジャケットも素晴らしいと思うが、12インチの方もなかなか魅力的じゃないか。

《英Nixa盤~ディスコグラフィによると、1957年の発売らしい。下の写真はPYEの内袋。とても魅力的だ》

Pyeこの「ソニー・ボーイ」という曲、どうやらうんと古い曲で、もともとはアル・ジョルソンという「スワニー」を唄った人のヒット曲のようだ。残念ながら僕はそのヴァージョンを聴いたことがないのだが、おそらくは、明るく軽快な感じで唄っている・・・と推測している。というのは・・・歌詞の内容が「どんなに落ち込んでいても、いつもみんなを明るくしてくれるソニー・ボーイ」みたいな内容なので、普通に解釈すれば「明るく元気に」唄う歌だと思うからだ。そしていくつか聴いたインストでのsonny boyが、どれも「速いテンポ」だったことからも、そんな推測ができる。002
実際、ソニー・ロリンズのsonny boy(1956年:prestige)は、かなりの急速調で、全く明るい雰囲気なのである。あまりにあっけらかんとしているので、ちょっとがっかりしたくらいだ(笑) もっとも、ロリンズのこの1956年12月のセッション(sonny boy, Ee-Ah, B quick, B swift)では、マックス・ローチがドラムで、なぜか4曲とも、挑戦的にバカッ速いテンポの曲ばかり演っているので、一応はスタンダードソングのsonny boyであっても・・・その日のセッションの「ノリ」に飲み込まれてしまったとしても、仕方がないだろう(笑)001
もうひとつ・・・sonny boyを見つけた。ギターのオスカー・ムーアだ。Swing Guitars(norgran:1955年)に入っていた。こちらもやはり軽快なテンポで、からっとした演奏だった。

そんな「ソニー・ボーイ」ではあるが・・・ペテュラ・クラークは「しっとりしたソニー・ボーイ」を選んだ。ストリングスを控えめに絡ませるアレンジも趣味がいいし、間奏のトロンボーンも効いている。クラークはもともと声質が低めで落ち着いた唄い方の歌手で、初期の盤は、ジャズっぽい感じでどれも悪くない。もともと急速調であろうこの曲を、クラークはスロウーなバラード仕立てで唄うことで、明るいだけだったはずの曲の中に、なんとも言えない哀愁感を漂わせている。とてもいい味わいだ。

そしてこれは僕の勝手な思い込みかもしれないが・・・ガーランドはおそらくこのペテュラ・クラークの「ソニー・ボーイ」を愛聴していたに違いない。この「しっとり感」が、ガーランドの趣味にピタリときたはずなのだ(笑) 
そうしてガーランドは1962年に、もっとゆっくりなテンポで「ソニー・ボーイ」を演奏した。その演奏があまりに見事だったので・・・監修したオジー・カデナは、タイトルを when there are grey skies とした。というのが・・・僕の夢想したストーリーである(笑)

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