<ジャズ回想 第20回>サウンド・オブ・ミュージック
ジャズという音楽を本当に好きだが、映画も嫌いではない。映画もジャズと同様にちょっと昔のものが好みなのだが、ひとつ・・・僕にとって特別なやつがある。ちょっと大げさに言えば、恩義を感じているくらいなのだ。それというのも、僕が音楽というもの自体に惹かれるようになったのは・・・間違いなくその映画「サウンド・オブ・ミュージック」を見たからなのだ。
あれは僕が小学4年の時~1967年2月だった。あの時代、地方都市の小学4年生がそんなにしょっちゅう映画館で洋画を見るはずもなく、映画と言えば、たまに「ガメラ」や「大魔神」を見るくらいだった。だからあの映画(洋画)鑑賞は、けっこう特別なことだったのだ。たぶん、母親が子供の情操教育に良いと考えたのだろう・・・中1の兄と小4の僕を街の映画館まで連れてきてくれたのだ。
そして・・・母親の思惑通りに、僕はその映画にすっかり感動した(笑) ストーリーの筋書きについては所々で母親に尋ねたりしながら、それでもあんなに長時間の映画でもまったく飽きなかっのは・・・それはやっぱり「歌」の力だったはずだ。マリアが子供たちと山へピクニックに出かけて行って、きれいな緑色の丘でみんなで歌う場面には、それはもうワクワクして本当に楽しい気分になってしまうのだった。
そんな「楽しい感じ」が、たぶん小4の僕の体のどこかに沁み込んでいたのだろう・・・というのも、それからしばらく経ったある日、家にあったポータブルプレーヤーから、なにやら楽しげな唄が聞こえてくる・・・うう、あれは?そうだ!あの時の「音楽」だ! アッという間にあの時の楽しい気分が甦ってきたのだ。
それは・・・兄貴が友達から借りてきたレコード~「サウンド・オブ・ミュージック」のサントラLP盤だったのだ。兄貴はレコードを聴きながら、熱心にそのジャケットを見ている。あの頃のLP盤というのは、本当に豪華で、見開きページには映画の中の写真も一杯載っていて、それはもう見てるだけでもうれしくなってしまう・・・そういうものだった。
そのサントラ盤を2~3週間は借りていただろうか・・・その間、兄貴と僕は本当に聴きまくった(笑) ポータブルプレーヤーのターンテーブルは小さくて、だから30cmLP盤は、丸い台からはみ出してしまうのだが・・・それでもちゃんと音はなっていた(笑)そこから「音楽」を聴いていたのだ、ちゃんと。
考えてみたら・・・レコードから「音楽」を聴く~という体験(その音楽を聴くのが楽しいということを意識した上での)を、僕は映画のサントラ盤から始めたことになる。思うに、あの頃には相当に貴重に思えたレコードを、それもLP盤をよく貸してくれたものだ。さすがにそろそろ・・・ということで、そのLP盤は、もちろん兄貴の友達に返したわけだが、その時、もうその音楽が聴けなくなってしまう・・・そんな寂しい気持ちになったのを覚えている。
それから2~3年後、我が家にステレオセットが来てすぐの頃~当時の子供にとっては、カラーテレビやステレオは・・・「家にやって来る」ものだったのだ(笑)~兄貴が1枚のコンパクト盤を買ってきた。
それは17cmサイズだが33回転のもので、「サウンド・オブ・ミュージック 第2集」というものだった。第2集なので、誰もが知っている「ドレミの歌」とかは入ってなくて、ちょっと地味めな5曲が入っていた。その中の1曲に僕は痺れた。その唄~「わたしのお気に入り」(my fevorite things) が流れてきた時・・・僕は、なにか懐かしい何かに再会したような、温かい何かに触れたような・・・そんな感触を味わったのだ。映画の中で見て聴いた「音」と、借りたLPで聴いていた「音」が体のどこかに残っていたのだろう。「ああ・・・これ、この音、このメロディ・・・聴いたことあるぞ・・・」てな感じで、なによりもその音を再び聴けることで、とてもうれしい気持ちになれたのだ!
そうして、そのまた 1年くらい後だったか、僕自身が自分の小遣いで買った初めてのLP盤が、もちろん「サウンド・オブ・ミュージック」サントラ盤ということになる(笑)
その頃、僕は中学1年で、ジョン・コルトレーンという名前など、もちろん知るはずもなかった(笑)
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