<やったあレコ 第9回> Virgil Gonsalves(nocturne) と Jazz On The Bounce(bel canto)
カラー盤の磁力には、どうにも逆らえない。
Nocturne盤:Virgil Gonsalves Sextet・・・10インチ盤である。
この25cm四方のジャケット。
爽やかな青色のヴィニール。
銀色のセンターラベル。
このレコードを見て「いいなあ・・・」と思わない方がこの世に存在するとは思えない(笑)
もちろんこれは単に僕の思い込みからくる妄想なのだが、まあ「1枚のレコード」が手元に置いてあるだけで、
これくらいうれしくなってしまう人間もいる、ということを言いたいのだ。
レコードは・・・もちろん「音楽」を楽しむためのツールだ。だからそこから音さえ出るのであれば、それがCDだろうとカセットテープだろうと、それからFM放送であっても構わないはずだ・・・とアタマでは思う。「音楽を楽しむ」という観点だけに立てば、その方が正論だろうと思う。だがしかし・・・趣味の世界では、事が正論どおりに動くわけではない(笑)
「レコード好き」にとっては、音源だけが重要なのではなく・・・その盤がそこにあり、それを眺めたり触ったりできることも、これまた重要なのである。
ここで、大きく頷(うなず)くような方にとっては、やはり・・・「レコードは単なるツールではない」ということなのだ。「レコード盤」というものは、ヴィニール~その厚さや重さの按配、センターラベルやジャケット~その図柄や紙の質感、そして二オイ・・・そんなもの全てが合わさって完成するひとつのプロダクツなのである。どちらが欠けてもダメなのだ。レコード好きは、絵(ジャケット)も音(盤)も欲しいのだ。
「レコード好き」は、間違いなくあの「モノの感じ」そのものが好きなのである。そうして、そのモノからは「音も出る!」・・・凄いじゃないですか(笑)
もちろん、レコードにはcopyという表現も使われるくらいで、たくさんの同じものが世に出回るわけで、オリジナルが1枚だけの絵画や彫刻とは、とても比べられない。しかし、そんな数あるcopyであっても・・・年月が経てば、やはり痛んだり壊れたりして・・・その数が減っていく。だから・・・ある種のレコードというものは、大げさでなく文化遺産と呼べるのかもしれない。
この10インチ盤の裏ジャケットを見ると・・・左上の余白に”May 1st,1954”と書き込みがある。たぶん、このレコードを買った人が残した購入日のメモだろう。
1954年の5月1日。
1954年かあ・・・と思うと、いろんな想像が湧いてくる。50年以上も前に・・・ジャズ好き青年が・・・たぶん土曜の午後あたりに・・・西海岸のレコード店で・・・このレコード「ヴァージル・ゴンザルヴェス」を手にとり・・・この青いヴィニール盤にココロ奪われて・・・衝動的に買ってしまった・・・そうしてこのレコードを仲間達と聴きまくったのだろう・・・。
僕は、つい、そんなことを考えてしまう(笑) そうして・・・「その時のレコード盤」が、今、ここに・・・僕の手元にあるということが、うれしいというよりもなにかしら不思議な感じがする。
どうやら僕は、他の10インチ盤には感じない「何か」をこの盤には感じているようだ。それが・・・この青色ヴィニールと銀色ラベルとの絶妙なマッチングからなのか・・・あるいは、ノクターン(Nocturne:夜想曲)という名前から湧き出る魔力のせいなのか・・・よく判らない。
さて、演奏の方はというと・・・このヴァージル・ゴンザルヴェスという人、わりと淡々と吹き進むバリトン奏者のようで、だから・・・片面3曲、全6曲聴いても、「う~む・・・」と強く印象に残るということもなく、淡々と片面が終わってしまう・・・そんなレコードである。名前から想像するに、なにやらサージ・チャロフのような激情的なもの~急に大きな音で吹いたり高音をきしませたり・・・嫌いではないのです(笑)~を期待していたので、意外な淡白さにちょっと肩透かしを食ったような感じもある。そしてこのレコードでは、どの曲もわりと軽快なミディアムファースト(ちょっと速めのテンポ)なので、ちょっと単調な感じも受けるのだが・・・yesterdaysだけは、ややテンポ遅めのバラード調で演奏されているので、ゴンザルヴェスの「唄い」がじっくりと味わえる。
テナーのバディ・ワイズは、どの曲でも悪くない。タイプとしては、ソフトな音色で、無理なくスムースに吹く感じで、そうだな・・・ズート・シムズのようなタイプだと思う。bounce,too marvelous for wordsでのソロはとてもいい。
<このnocturneの10インチ盤~ブログ仲間のNOTさんも紹介している。NOTさん手持ち盤も「青盤」とのこと。そうは出てこないノクターンの10インチ盤、その2枚の個体が共に「青盤」となると・・・ひょっとして、このNLP-8番~Virgil Gonsalvezには青盤しか存在しないのでは?という乱暴な推測も成り立つ。どなたか「黒盤(あるいは他の色の盤)をお持ちの方・・・ぜひコメントにて情報をお寄せください>
10インチの次は7インチでいこうか。
Barney Kessel/Barney Kessel(contemporaryの7inch2枚組)である。
カラー盤というのは、もちろんfantasyには一番多いはずで、contemporaryにはそれほどカラー盤はない、と思っていたので、この7inch赤盤を見つけた時は、ちょっと新鮮だった。
バド・シャンクがフルートやアルトで参加している1953年(11月と12月に4曲づつ録音:全8曲~tenderly,just squeeze me,lullaby of birdland,what is there to say などを演っている)の作品である。
以前からこのブログ<夢見るレコード>では、いくつかの7インチ盤を取り上げてきたが、もちろん全ての7インチ盤の音がいいというわけもなく、たいていはカッティングレベルが低かったり、それよりもまず盤質自体が良くないことが多いのである。だから・・・7インチ収集にも辛いものがあるのだ(笑)
幸いにして、このcontemporaryの赤盤2枚組は、盤質もまずまずで、そして音の方も(もちろん演奏の方も)よかったのだ。ケッセルのいかにも張りのあるやや堅めの強い音がクリアに響く。ベース音やシンバルの鮮度感も充分だ。ギターが主役のセッションなので、ピアノ(アーノルド・ロス)はやや引っ込み気味に録られているようだが、音色もタッチ感も悪くない。そして、シャンクのアルトも骨太に鳴る(I let a song go out of my heart)
・・・と、まあいろいろと言ってますが・・・7インチのカラー盤というのは、パッと見た瞬間に、なにかしらキュートな感じがして・・・要するに・・・それが悪くないわけでして(笑)
追記~この記事をアップ後、下記コメント内のやりとりの中で、SP-EP-10inch-12inchという規格の話しに及んだ。それらがどんな変遷をしたのか、またその価格はどんな具合だったのか・・・早速、この疑問にお答えいただいたshaolinさんが、お持ちの貴重な資料を氏のブログにて公開してくれました。ぜひご覧ください。実に興味深い!
もう1枚だけ、僕が大事にしている「カラー盤」を紹介しよう。
Jazz On The Bounce(bel canto) というレコードだ。これも「青盤」である。
<Bel Cantoというレーベルについては・・・少し前にブログ仲間:67camperさんが、ヴォーカルのフラン・ウオーレンを紹介した時、一部でちょっと盛り上がった(笑)
bel cantoというレーベル~ジャズというよりポピュラー寄りのレーベルだったらしいが、どうやらカラー盤を特色としていたようで、青色だけでなく緑色やら黄色など、いろんな色ののカラー盤があったらしい。
このSR1004は、僕の持っている唯一のbel canto盤である>
このジャケットは・・・少々、濃いかな(笑)
アクの強い美女がとろ~んとした目をしてこちらを見ている。胸元もセクシーである。アメリカのレコード好きは、こういうセクシーな感じのジャケットのことをcheesecakeと呼んでいるようで、人気もけっこうあるらしい。
ソフトな方では、例えばcapitolのジョージ・シアリング辺りの美女カヴァー辺りでも、cheesecakeと呼ばれたりすることもあるようだ。だとしたら・・・僕も、cheesecakeジャケットは、もちろん嫌いではない(笑)
しかしながら、このbel canto盤、ジャケットだけに見とれていてはいけない。
内容の方も相当にいいのである。
A面~Curtis Counce Quintet 3曲
B面~Buddy Collette Quintet 3曲
という構成なのだが、このbel canto盤には、メンバーのクレジットがない。
A面のカーティス・カウンスの方・・・テナーがハロルド・ランドであることは間違いないと思うのだが、
トランペットがよく判らない。ジャック・シェルダンか、あるいはステュ・ウイリアムソンなのか?
レコード・コレクターズ1985年7月号の「エルモ・ホープ」記事(佐藤秀樹氏)によれば、このA面3曲は、どうやらExploring The Future(doote)の別テイクらしい。だとすれば、これらは、1958年4月録音で、テナーはハロルド・ランド、ドラムスはフランク・バトラー、そしてピアノはもちろんエルモ・ホープ。そしてトランペットは・・・ロルフ・エリクソンなのである。
このレコードを聴いてみて、ちょっと驚いたのは・・・録音が1958年ではあるが、ステレオ録音だったことだ。
そして、楽器の定位こそ~ピアノとテナーは左側、ベースとドラムスとペットは右側(テーマの時だけはなぜか左側)で、中央には誰もいない感じ(笑)~という初期ステレオにありがちな、ちょっと片寄ったバランスではあるが、全体の音質や各楽器の音色が実にいいものだったことだ。
ドラムスのシンバルやらスネアもクリアに抜けているし、サックスもソフトで艶やか、そしてピアノのタッチにも充分な力感があるので、エルモ・ホープが気合を込めて強く叩いたような高音のタッチも気持ちがいい。
ベースも、右チャンネルから豊かなサウンドでたっぷりと鳴っている。ただ、このベース音はちょっと低音を強調したような感じもあり、やや膨らみすぎかもしれない。いずれにしても、この頃のカーティス・カウンスは・・・というより、ハロルド・ランドは実にいいのだ(笑)この人、イメージはソフトだが、テナーの音色自体は案外にシャープだと思う。そのシャープな音色でもって、どんな曲においても、決してゴツゴツしないスムースなノリで吹き進めてくる。8分音符のフレーズが滑らかで柔らかというか・・・聴いていてアドリブがとても自然なのだ。
やはり・・・凄く巧いテナー吹きなのだと思う。そうして、この人がじっくりと吹くバラードは、本当に素晴らしいのだ。time after time(Land Slide)や I can't get started(Carl's Blues)は、バラードの好演だと思う。
<このCarl's Blues については、ワガママおやじさんのブログ<ヴィニール・ジャンキー>でも話題になったばかりである。渋いけど本当にいいレコードだと思う>
まったく・・・世の中には、素晴らしいジャズレコードが、まだまだいっぱいだあ!(笑)
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