クリフォード・ブラウン

2009年3月22日 (日)

<思いレコ 第16回>クリフォード・ブラウン with ストリングス

クリフォード・ブラウンの音色そのものを味わいたい~

002_3 休みの日に好きなレコードを聴く・・・僕にとっての幸せというのは、ほとんどそんなことだ(笑) そうして「好きなレコード」はいくらでもある。聴きたいな・・・と思うレコードは、その日の気分によって変わってくる。
今日は朝から雨模様で薄暗い。僕の気分もなにやら仄かに暗いようでもある。そんな時・・・僕はなぜかWith Stringsを取り出すのだ。
クリフォード・ブラウンのトランペットのあの「鳴り」が流れてきた瞬間、「ああ・・・いいなあ」
その音色に触れるだけで・・・実際、沈んだ気持ちが癒されていくのである。
あのちょっと軽めにも聞こえるパリッとしたペットの鳴り・・・本当にスカッと抜けたようにキレイに鳴っている。そのトランペットの音色が気持ちいいのである。これは・・・理屈じゃない。それは僕にはほとんど条件反射だ(笑) そうじゃない人もいるかもしれないが・・・レコード盤から出てきた「音」に幸せを感じてしまう人間がいる~ということも真実なのだ(笑)

A面が終わると・・・僕は迷うことなくレコードをひっくり返す。そうしてB面も聴き通す。同じような曲が続くのだが、不思議とあっという間に40分が過ぎてしまう。その間、思っていることは・・・「ああ、いいなあ」だけなのである(笑)いい音楽、いいレコードというのはそうしたものだろう。今日の僕にとってはそれが、With Stringsだったわけである。

007このクリフォード・ブラウンの作品、僕は長いこと日本フォノグラムの廉価版で聴いてきた。もちろん最初から嫌いではなかったし、よく言われるような「アレンジが古臭い」とかもそれほど気にならなかった。だがしかし、折りにふれ聴きたい~と思うほど好きなわけでもなかった。

005_3そんな「ウイズ・ストリングス」に特別な愛着を覚えるようになったのは・・・ちょっと前に入手した米EP盤~その中のブルー・ムーンなど聴いた時だった。クリフォード・ブラウンが吹くトランペットの音色の張り具合、輝き、そして何よりもその音の抜け方みたいなものが、国内盤とはだいぶ違うように感じたのだ。006

《EP盤はたいてい4曲収録なので、この2種で計8曲。12インチ盤には12曲収録だから、あともう1種、EP盤があるはずで・・・やっぱりそれも欲しいな(笑)
7インチ盤~柄は小さくても「ブルー・バック」なのが、ちょっとうれしい(笑)》

たぶん僕は、EP盤で聴いた「音色」にそれまでには感じたことのない「ブラウンという人の存在感」みたいなものを感じ取ったのだろう。ただ・・・そのEP盤はオリジナル盤と聴き比べると、ややハイ上がりでふくゆかさに欠けており、さらに2枚ともカッティングレベルが低いようだった。EP盤好きの僕は少々がっかりしたものだが、「With Strings」への愛着はますます湧いてくるのだった。

004_2そうしてちょっと前に12インチ盤「With Strings」を入手した(一番上の写真参照) 残念ながら、これはemarcyの再発で、センターラベルがドラマーの付いてないemarcyの2ndか3rdラベルだ。もちろん裏ジャケットもブルーバックではない。
追記《センターラベルは、Mercuryです。ジャケ表記はemarcyなのに:笑》003

だがこの再発emarcy盤の音・・・これが意外によかったのだ。
鮮度感はあったがややハイ上がりのEP盤と比べると、このemarcy盤では中音域が厚くなったというか・・・トランペットの音色がふくゆかになり、音全体に艶やかさが増してきたのだ。そうしてクリフォード・ブラウンがその艶やかで瑞々しい音色で、例えばcan't help lovin' that manのメロディをじわじわと吹き込むと・・・比喩ではなく、その音が僕の体に沁み込んでくるのだった。

このWith Strings~ブラウンはいわゆるアドリブをほとんど吹かない。どの曲もスローテンポのバラード調なのだが、ブラウンはそんないい曲のメロディを、慈(いつく)しむように・・・丁寧に吹く。ブラウンは本当にゆったりと吹く。パラパラとフレーズを細かく刻んだりはせず、自分自身が、ゆったり伸ばしたロングトーンの響きを楽しんでいるようにも思えてくる。トランペットという楽器の本当に美しい響きをひっそりと味わうだけでいい・・・そんな音楽なのかもしれない。
そうして、ブラウンが丁寧に吹くメロディを味わい尽くすためには・・・その音色全体のニュアンスがとても大事な要素になるのだと思う。

~追記《僕が気に入っているクリフォードの吹き方がある。この男、キレイにプワ~ッと伸ばしたその音の音圧と音量を保ったまま・・・どんな仕掛けか、その音を「むわわ~ん」と膨らましたような感じにするのだ。「膨らます」と言っても、音が拡散してしまうわけではなく、響きはあくまでクリアなままで、その音の輪郭だけを微妙に変化させる・・・シャボン玉を柔らかく膨らましているような・・・そんな感じかな。そんな風に聞こえる場面が確かにある。そしてそのクリフォードの「決め技」に・・・僕は参ってしまうのだ(笑)》

この頃の僕はなんとなく疲れ気味で、そのためか、このレコードを聴きたい・・・と思うことも多い。そうして、聴くたびに・・・気持ちよくなる(笑)
この「クリフォード・ブラウンのウイズ・ストリングス」は・・・僕にとっては、本当に大事な1枚である。
もちろん、1stのオリジナル盤はもっと凄いだろうな・・・と思わないわけでもないが、今の僕にはこれで充分だ。
当分は・・・1stオリジナルを耳にしない方がいいのかもしれない(笑)

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2008年4月17日 (木)

<ジャズ回想 第13回>半年ぶりにYoさん宅に集まった。その2

う~ん・・・と唸ってしまったパーカーの10インチ盤~

さて「Yoさん宅に集まった」の続きである。まず、前回に書けなかった2つの「聴き比べ」を簡単に紹介したい。その後にパーカーの10インチ盤(Dial)のことを少し書いてみる。

クリフォード・ブラウンのエマーシー盤はどれも人気が高い。その中では、With Stringsは人気が低い~などと僕は勘違いしていた。
というのは、30年ほど前のジャズ好きの間では、strings作品は「ヒモ付き」などと呼ばれて「ジャズっぽくない」軟派な作品という理由で、人気がなかったからだ。でもそれはあくまで1枚のLPとしての人気についてのことであり、オリジナル盤の世界での人気とは関係がなかったらしい。あるいは、日本のジャズ好きも、stringsものを充分に楽しめるようになって、その結果、人気が上がったということかもしれない。いずれにしても、僕もこのクリフォード・ブラウンの「ストリングス」・・・ある時期から大好きになった。もう長い間、安い国内盤で我慢しているのだが、ちょっと前に、このWith StringsのEP盤を2枚入手した。 Ep2_3
このところ、僕はEP盤というフォーム自体にも充分に魅力を感じているのだが、同じタイトルでもEP盤の方が音がいい場合もある~ということを過大に期待している部分もあったりする(笑)それから一 般的には、EP(7インチ)の方が、LP(12インチ)より価格が低いことも、うれしい。もちろんEP盤の方が収録曲数が少ないわけだが、このWith Stringsの場合、2枚のEP盤にそれぞれ4曲収録だから、2枚で8曲は聴けるわけだ。12インチ盤には12曲収録だから、EP盤がもう1枚は出ているはずなのだが、それがなかなか見つからない。  Ep_2
オリジナル12インチ盤を持っていない僕は、このEP盤を聴いてなかなかいい音だと感じていた(そう思いたかっただけかもしれない:笑)
ある時、Yoさんが12インチ盤をお持ちなのを知って、今回の集まりで、聴き比べをさせてもらうことにしていたのだ。

このクリフォード・ブラウン・・・どの曲もとてもいいのだが、特に好きな曲~portrait of Jennieを聴くことにした。使ったカートリッジまでは覚えていないのだが、最初に僕のEP盤。次にスノッブS田さんの紙ジャケCD。最後に12インチ盤と聴いてみた。
結果は・・・EP盤の惨敗であった(笑)
《12インチ盤の写真~Yoさん提供》
With_strings
EP盤で聴いたクリフォードのトランペットには、それなりの鮮度感があって悪くないと思ったのだが、他の楽器、ストリングスなど全体に中低音が薄い。要はスカスカした感じなのだ。
2番目にかけた紙ジャケCD~一聴して先ほどよりストリングス全体の音が柔らかめだ。そこへ適度にマイルドなクリフォードのトランペットが入ってくる。とても聴きやすい見事なバランスであった。こりゃあ(EPより)CDの方がいいね、という声。このCDと比べると、先ほどのEP盤のトランペットは、だいぶ痩せた感じの音だったことが判った。鮮度はいいのだが、バランスが・・・と悔しがる僕(笑)
そして12インチ盤~う~ん・・・やっぱりいいな。全体的に楽器の音に厚みがあって、トランペットの音にもっとも鮮度感があるようだ。そして、柔らかな鳴り具合。う~ん・・・やっぱり違うなあ。いいものはいいのだ! そして・・・ちと高い(笑)


次にゲッツである。ある時期、「ゲッツのat storyville」をCD(東芝:1990年)で聴いて、ゲッツのシルクの手触りのようなあの音色と、それからどんなに急速調の曲でも全く淀みなく溢れ出てくる「本当のアドリブ」に、僕はもうすっかり参ってしまった。
Gets_roost_12inchこの4~5年、少しづつオリジナル盤に興味が湧いてきて、ようやくのこと、ゲッツのroost盤、12インチ2枚~The Sound(LP-2207) と、At Storyville vol.1(LP-2209) を手に入れた。しかし、このroost盤・・・あまり音がよくなかったのである。オリジナル盤というものを入手する場合、多少の盤質の悪さは我慢して、音の(楽器の)鮮度感を期待するわけだが、これらroostのオリジナル12インチ盤は・・・何か楽器の音が遠いような感じで、The Soundの方など、ヘタしたら日本コロムビア盤の方がいいくらいだったのだ(笑)
The Soundを先に聴いてダメ、ならばライブのStoryvilleならどうだ?・・・で、またダメ。さらにいくつかのroost:EP盤でも同じような音だった。共通して感じたのは「カッティングレベルの低さ」全体的にノイズっぽい。これはもう・・・roostというレーベルの性根(しょうね)だろうと推測する僕である(笑)

《下の10インチ盤写真:At StoryvilleはPaPaさん提供》
そこで・・・10インチ盤なのである。10_3 予想どおり、PaPaさんはこの辺りもしっかりと押えてあった(笑)
ゲッツのroost10インチ盤~2枚揃えて持ってきてくださった。同じタイトルの場合、普通、10インチの方が12インチより発売時期が早いと思う。ゲッツStan Getz Plays の場合~clef10インチが1953年、norgran12インチが1955年で、2年ほどの差があった。
今回のroost盤・・・12インチのAt Storyvilleは1956年、10インチのAt Storyville vol.1は、1952年のようである。この3年の差が、ひょっとして大きいのではないだろうか?
どのテイクも傑作なのだが、僕が選んだのはスピード感溢れるバップ曲~parker51である。
12インチからいってみる・・・さすがに「古い音」である。全体に楽器が遠いような感じで、シンバルも古い録音に特有なうんと篭 (こも)った音だ(笑) でもそれは仕方ない。なんと言っても1951年のライブ録音なのだから。

さあ・・・この「遠いような感じ」が、果たして10インチオリジナル盤ではどうだろうか? 同じ曲、parker51をかけてもらう・・・どうだろう?・・・「う~ん・・・同じかな」という皆さんの声。僕も同様の印象だった。ライブ録音ということで元々の録音が、やや荒っぽい感じでもあり、そのためにあまり差が出なかったのかもしれない。だから、あくまでこのAt Storyvilleというタイトルに限っては、1952年の10インチ盤と1956年の12インチ盤にそれほどの差はないと言えるかもしれない。
ゲッツの「ストーリヴィル」~音はあまりよくないが、演奏はもう最上級である。ゲッツが嫌いな方でも、好きになるかもしれない(笑) それくらい気持ちのいいアドリブである。バンド全体も乗りに乗っている。本当に素晴らしいライブ演奏である。まだ聴いたことがない方は、ぜひ!


チャーリー・パーカー・・・パーカーのことをどんな風に書こうか。いや、パーカーについて書きたい何か・・・それが僕の中に本当にあるのだろうか? パーカーというと・・・いつもそんな「迷い」が僕にはある。その「迷い」を、もうちょっと突き詰めると・・・パーカーは「語れない」、パーカーは「聴くしかない」という乱暴な気持ちもあるようだ(笑)
パーカーのことを、もちろん嫌いではない。1980年頃だったか・・・ある時期、パーカーの演奏に嵌(はま)り、その頃、入手できるレコードはほとんど買って聴きまくった。パーカーの演奏は凄い。どの曲でも聴いてみれば、たちまちパーカーのアルトの突き抜けた凄さに気づくだろう。パーカーの「凄さ」とは何か・・・僕にとってはそれは、あのフレーズのスピード感であり、あの音色の重さである。強引に倍テン~普通のアドリブは8分音符中心だが、パーカーは16分音符の割りでノッてしまった~にしたりする時のあのスリル。それもただ「速く」吹くだけではない。それをうんとタメの効いたリズム感と大きくて重い音色で吹き込んでいくのだ。そんなパーカーが捻(ひね)り出すサウンドそのものが・・・僕には快感でもある。だから、強いて言えば・・・情緒の人ではなく、メカニズムの人と言えるかもしれない(笑) しかし、ジャズ聴きには、ある意味、器楽的な快感という要素もあるはずだし、「パーカーの音」をそういう聴き方で捉えれば、これはもう・・・堪らないのだ(笑)

<夢レコ>前々回の「ドルフィ」の時に、僕はドルフィのアルトをこんな風に表現した。
《まるで、砲丸投げのあの重い鉄球をブンブン振り回しているようじゃないか》

実は、僕の中では、パーカーのサウンド(音色・リズム感など全て)に、質的に一番近いのが・・・ドルフィなのである。
だから今、僕がパーカーのあの吹き方を表現しようとすると・・・やはりこの「砲丸投げ」になってしまう。強いて言えば・・・パーカーの砲丸の方が、もう少しだけ重いかもしれない(笑)その「重さ」はこれはもう理屈ではないのだ。聴いて「それ」を感じてもらうしかない。
そんな風に、ある意味「器楽的鳴りの再現」が重要になってくるパーカーのはずなのに、残念ながらどのレコードもあまりいい音ではなかった。実際、「パーカーが判らない」という声をよく聞くが、その理由の90%は「レコードの音が悪かった」ことにあると、僕は思う。
やはり「レコードの音」というものも重要なのだ。

僕はいつも「レコード」を軸に話しを進めたい。好きなミュージシャンがたくさんいて、好きなレコードがたくさんある~これが僕の基本図式なのだ。例えば、モンクなら「ソロ・オン・ヴォーグ」、コルトレーンなら「ソウル・トレーン」、ロリンズなら「ニュークス・タイム」というように、それぞれに必ず大好きな作品(レコード)がある。
そこで、よくよく考えてみると・・・(僕の場合)パーカーには、特に「好きなレコード」(12インチ盤)というものがないのだ。もちろん、パーカーの時代のレコードが、SP盤,10インチ盤主流だったことで、日本で発売されたパーカー音源が、それらの古い音源をレーベルごとにまとめたBoxもの中心だったためかもしれない。パーカー音源で、12インチ盤がオリジナルだったのは、どうだろう・・・now's the time とかswedish schunapps など、ようやくVERVEの後期辺りからになるだろう。 
Parker_004_2 そんなわけで、1972年頃までは、パーカーの国内盤LP1枚ものは、VERVE音源以外は、ほとんど出ていなかったように思う。だから・・・その頃からジャズを聴き始めた身にとっては、まず「パーカーの音」に触れるチャンス自体があまりなかった。
特にダイアル音源は、権利関係があいまいだったのか・・・よく判らないようなレーベルから、いろんな音源がバラバラに復刻されていたようだ。だから、主にスイング・ジャーナルの輸入盤の広告ページなどから情報を得ていた僕達には、「パーカー=海賊盤=音がムチャクチャ悪い」というイメージが、徹底的に焼き付いてしまったのだ(笑)そして、値段が高いのに音が悪い海賊盤なんか、とても買えやしない(笑)
ちなみに、当時、ダイアル音源が聴けるという唯一の国内盤が、Charlie Parkerレーベルからの「バード・シンボルズ」(邦題/チャーリー・パーカーの真髄)だったように記憶している。「~の真髄」は、ダイアル音源からセレクションで、確かにいい曲が集められていたが、これも充分に音が悪かった(笑) charlie parkerというレーベルは、おそらくオリジナルの音源や盤質の拙(まず)さのせいもあってか、どれも怖ろしく音が悪かった。
そして、僕が最初に買ったパーカーが、長尺のライブ録音~scrapple from the appleが入ったThe Happy Bird(charlie parker)の輸入盤だったのだ(笑)それでも、あのレコード・・・ライブでのパーカーのソロが凄いので、酷い音質を我慢して、何度も聴いたものだ(笑)Parker_003

そんな時、ひときわ格調高いパーカーの写真~パーカーがアルトを吹く顔のアップ~がスイング・ジャーナルに載った。イギリスのspotliteというレーベルが発売したCharlie Parker on Dial というシリーズの広告だった。全6巻だったか8巻だったか・・・本格的なダイアル音源の復刻は、このspotliteが最初だった。あの頃のイギリスもの輸入盤は、高かった。国内盤の倍くらいしていたかもしれない。後に東芝が発売したいくつかの「オン・ダイアル」もの(LPでもCDでも)は、このspotlite経由だと思う。
《上の写真は東芝盤。発売後、だいぶ経ってから、vol.1~vol.3だけ入手した》
このspotlite音源のLPが、やはりそれほどいい音質とは言えなかった。録音が同時期のはずのsavoyの方は、割としっかりした音で復刻されていたので、ダイアルものは、録音段階からあまりよくなかったこともあるかもしれない。それにしても「オン・ダイアル」・・・いくつかのLPと東芝のCD4枚組を聴いたが、パーカーのアルトに今ひとつの切れ・太さが出てないようだし、全体的に薄っぺらい音質という感は拭えなかった。
1973年頃だったか~CBSソニーが「Parker on Savoy」(鳥のシルエットを基調にしたジャケット)を発売し始めた。だけど、パーカー音源はどれも「オン・ダイアル」「オン・サヴォイ」などレーベル単位/セッション単位にまとめられたもので、それもシリーズ全5枚~8枚とかになると、なかなか買えやしない(笑)
そんな訳で、パーカーを聴く時に「ひとつの作品としての好きな12インチLP」というものがあまりないことに変わりはなかった。Verve後期のLP作品をもうひとつ好きになれない僕には、今でも同じ状況かもしれない。
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《左の写真~Dial-201。PaPaさん提供》
そこで・・・パーカーの10インチ盤なのである。ダイアルの本当のオリジナルはSP盤ということになるのかもしれないが、普通のレコード好きにとっては、録音直後に発売された(であろう)dial 201,202,203,207などの10インチ盤を「オリジナル」と呼んでも構わないだろう。PaPaさんは相当のパーカーマニアらしく、これらのDial10インチ盤をほとんど持っているとのこと。
僕は写真でしか見たことのない、あの「ベレー帽のパーカー」のジャケットをじっくりと見る。あの「ベレー帽」・・・デザイン的には何だか変な具合である。鳥の頭にもベレー帽が乗っかっており、これら2つのベレー帽と木の葉っぱの色が、同じ色に合わせてある。ちなみに、201がピンク色、202だと緑色である。そんなパーカーのダイアル10インチ盤が、目の前にいくつも並ぶ。どれを聴こうか・・・PaPaさんから「やはり201でしょう」の声。僕は「ピンク色のベレー帽」をYoさんに手渡す。

あのlover man からだ。ゆったりめのテンポでピアノのイントロが始まる。そのイントロの4小節が終わり、「さあ、ここから」と誰もが思うその瞬間・・・パーカーは吹かない・・・伴奏は続く・・・まだ吹かない・・・。「レー・ミレ・ソソー」と吹くはずのアタマの1小節目、パーカーは全くの無音なのだ。2小節目からようやくわざとメロディをはずしたような音を吹き始める~あのlover manだ。
初めて聴いたDialのオリジナル10インチ盤は・・・やはり「いい音」だった。これまで耳にしてきたどのダイアル音源よりも鮮度感があり、パーカーのアルトの音も太くくっきりと聞こえたように思う。10インチであろうと12インチであろうと、録音直後にカッティングされたオリジナル盤の持つ「鮮度感」みたいなものは、絶対にあると思う。ただこの10インチ盤に対する僕の感想は、あまり当てにはならないかもしれない。というのも、今回はこの10インチ盤と他のパーカー音源を聴き比べたわけでもなく、自分の記憶の中にある「ダイアル盤のパーカー」の音との相対的な印象レベルの話しなのだから。
それに・・・あれだけ魅力的な「10インチ盤」のジャケットを手に取って聴く音と、例えばCDのプラスティックケースを手に持って聴く音では、心理的な部分からも、「聞こえ方」に差が出てしまうだろう(笑)
ただ、そんなことも含めての10インチ盤の魔力があったとしても・・・そのことに否定的な気持ちなど全くない(笑)
そんな「相対」としてではなく、あの「10インチ盤というひとつの作品」から受けた印象は・・・やはり「ダイアルのパーカー」は凄い!ということになる。
この時のセッションでのパーカーは、麻薬か何かでフラフラだったとの証言もあり、もちろん好調なパーカーではなかったのだが、lover man で、パーカーのアルトが流れてきた瞬間に感じたのは、やはり「何かを表現しよう」とするパーカーの凄みみたいなものだし、続けて聴いたバラード調の gypsyでも、パーカーは、この哀愁漂うメロディを、ちょっとヨタヨタしたようなフレーズで吹き進める。それは決してスマートなバラードではないのだが・・・パーカーのアルトの音色には、怖ろしいほどの「重さ」と「切れ」がある。
だから・・・このlover man セッションは、パーカーという人の「凄み」を感じさせるような演奏になったのだと思う。
一番好きなパーカーの演奏は?と問われたチャーリー・ミンガスが、たしか、このlover man を挙げていたはずだ。

《これがadlib盤の黒猫マクリーンだ。写真はPaPaさん提供》Photo

PaPaさんのこの日の手持ち盤は、10インチだけではなかった。 「黒猫のマクリーン」Jackie Mclean Quintet(jubileeではなくて、adlibの方)も登場した!このマクリーンのレコード・・・もちろん聴いたことはある。もちろんオリジナルではなく、日本コロムビアから出たラベルがjubilee仕様の盤と、テイチクから出た盤だ。どちらもジャケットは「フクロウ猫」だ(笑)今、ちょっと確かめてみたら、テイチク盤はうんとこもった音で鮮度にも乏しい。それに比べれば、日本コロムビア盤の方はかなりいい感じだが、やはりどちらも詰まったような音だった。
僕は特にマクリーン信者ではないのだが、このadlib盤の持つ佇(たたず)まいには、もちろん圧倒された。そして驚いたのは、このadlib盤の音の良さだ。音がいいとい言っても、西海岸的な切れのいいすっきりした音ではなく、アルトやベースにぐんと力のこもった、いかにも50年代のジャズという感じの音だったのだ。録音engineerは・・・van gelder! 
adlibオリジナル盤の音は・・・日本盤で感じていた「詰まり」が、すこっと抜けて各楽器の鮮度感がうんと増したような感じなのだ。さすがは・・・黒猫のマクリーン! 
こんなレコードには滅多にお目にかかれないだろう・・・ということでもう1曲聴かせていただく。B面ラストのlover manだ。「ああ・・・今日はラバーマン特集だね」とスノッブS田さん。そういえば、lover manは、さっきパーカーのdial201でも聴いたのだった。マクリーンのlover man・・・マル・ウオルドロンのピアノのイントロが流れると、皆さん「あれれ?」という顔。そうなのだ・・・このイントロ、あの有名な「レフト・アローン」とよく似ているのだ。いや、ほとんど同じかもしれない。ベースがボウイング(弓弾き)しているのが違うと言えば違うくらいか。ピアニストって、けっこう同じパターンのイントロを使うんだな(笑)
この曲でのマクリーンは、いつも以上に気合が入っている。力みかえってバランスを崩しそうになっているようなところもあるのだが、ジャズにはこういう「熱さ」も欲しいじゃないか。ラストの短いカデンツァなんか、もう最高である。思うにこの時、マクリーンは・・・パーカーのlover manを相当に意識していたに違いない。彼もやはり、あのパーカーの「凄み」に魅入られた一人なのであろう。

やっぱり・・・ジャズはおもしろい。

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