<ジャズ雑感 第27回>バド・シャンクのpacific盤
好きなバラード:アルト編(その2)
前回、パーカーのことを書いてみた。音楽から受ける印象というのは、もちろん人それぞれだと思うが、僕が感じているところのパーカーのアルトの質感・・・それは圧倒的な密度を感じさせるあの重い音色であり、そうしてその音色は微妙にピッチ(音程)がズレたようでもあり、しかしパーカーがその個性的な音色でもって迷いのないフレーズ吹くと・・・その「パーカーの音」は不思議に僕の心に食い込んでくるようでもある。そんな脳髄が麻痺するような感じを「白痴美」という言葉で表そうともした(笑)
そんな風に、僕にとってのパーカーをなんとか表現しようとしたつもりではあるが・・・やはり音の表現というのはなかなか難しい。
そりゃそうだ・・・音楽なのだから最後はその「音」を聴くしかないし、聴くことにこそ価値があるわけで、ただの言葉からその「音」の真実~その聴き手にどう感じられたかという真実~が判るはずもない。音楽は聴くものだ!聴いて何かを感じることだ!それでいいのだ!
・・・そんな「言葉は無力」的な気持ちにもなったこともあり・・・しばらくブログを更新できなくなってしまった(笑)
いずれにしても、この一時期にパーカーを色々と聴いてみて・・・パーカーの強烈な音を浴びてみて・・・僕は「パーカーという人の個性」を改めて感じずにはいられなかった。パーカーは、何をどう聴いてもパーカーなのだ。
「パーカーの音」を僕なりに整理すれば、あの「太い音色と微妙なピッチのずれ感」こそがパーカーの個性と言えるのかもしれない。そうして・・・ジャズはやはり個性の音楽なのだ!
そんな「パーカー毒」のせいで、いや、おかげで(笑)僕のアタマもいくらか麻痺してしまったようだが・・・この間もレコードだけはいろいろ聴いていて、そうして「ジャズの個性はひとつだけではない」という当たり前のことを思い出したりもした。アルト吹きは、もちろんパーカーとドルフィだけではない。ジャズ好きはそれぞれに自分の好きな個性を見つければいいのだ!
そういえば、だいぶ前に「好きなバラード~アルト編」(タイトルは「ペッパーのモダン・アート」)というのを書いた。
僕はジャズのスタンダードソングを好んで聴いているが、どうしてもいいバラード(スローなテンポで演奏されるスタンダードとでも言おうか)も聴きたい。だから、1枚のLPの中に1曲でも素敵なバラードが入っていると・・・そのレコードを好きになったりする。
そんな訳で、今回は「アルト編2」ということで、僕の心に留まったバラード演奏をいくつか紹介してみたい。とは言うものの、実は・・・僕はアルトにはそれほど詳しくはない。僕のジャズ聴き遍歴を大雑把に分けると、最初の15年が黒人ハードバップ系~次の15年で白人ウエストコースト系~ここ5年はバップ、スイング系~という具合にジャズ聴きの興味が拡がってきた。その間、楽器への好みとしては「アルトよりテナー」という感じでジャズ聴きをしてきたので、アルトという切り口ではそれほど深く入り込んでいないのだ。最初に好きになったハードバップは、もちろん今でも本線として聴いているが、ことアルトに関しては、ジャズ聴きの早い時期に好きになった、アーニー・ヘンリーとドルフィー、そしてパーカーの3人以外はそれほど深くはディグしていない。マクリーンもアダレイも、もちろん嫌いではないのだが・・・深く入れ込んだことはない。なぜだかあの3人から先に進まないのだ。そうして西海岸ものを聴くようになってから、特に「バラード」という観点からいくと、ペッパーを初めとして、チャーリー・マリアーノ、バド・シャンクといった白人系のアルト吹きに興味が湧いていったようだ。だから、今回「好きなバラード~アルト編」という括りになると・・・そんな白人アルト吹きの名前ばかりがアタマに浮かんできてしまうのだ。
バド・シャンク、ハーブ・ゲラー、チャーリー・マリアーノ、ハル・マクージック、ディック・ジョンソン、ロニー・ラング、ジーン・クイル、ジョン・ラポータ、ジョー・メイニ、そしてフィル・ウッズ・・・そんな感じか。ああ、それからもちろん、リー・コニッツやポール・デスモンド、それからペッパーにも登場してもらわねば(笑)
まずは、バド・シャンクからいこう。僕にとってバド・シャンクという人はちょっとばかり不思議な存在で・・・というのは、僕はアクの強い(個性の強い)タイプに惹かれることが多いのだが、シャンクはどちらかというと、そういった「アク」が一切ないとも言えそうなタイプだし、それまでの自分の好みから言っても、特に「シャンクのレコードを集めよう」とも思ってはいなかったのだが、知らぬ間にレコードが集まってきてしまった・・・というアルト吹きなのである。だから、もちろんシャンクを嫌いなはずはないのだが、彼のアルトを「~ だ」と表現するような巧い言葉が、僕には見つからない。とにかくもう・・・アルトの音色が美しいのである。あのアルトの音色には・・・例えば彫金の名工が造り上げたような、渋い輝きと品格を感じる。
そんなシャンクの60年代のレコードを以前の<夢レコ>で取り上げたことがある(plays ルグラン)が、今回はうんと初期のものからいくつか挙げてみたい。
Laurindo Almeida Quartet(pacific PJLP-7)10インチ~艶ラベル
B面2曲目の noctambulism というバラード曲に参ったのである。アルメイダはブラジル出身ののガットギターの名手なので、このレコードはブラジルの伝統的なリズムを生かしたギターミュージックという色彩が濃いのだが、このnoctambulismだけはひと味違う。
ゆったりとしたテンポで、クラシック風のメロディが密やかに奏でられる淡々とした演奏なのだが・・・これがどうにも素晴らしい!とにかくもう、このアルトの音色が絶品なのである。艶やかで馥郁(ふくいく)とした、そして品のいい色気のあるアルトの音色なのだ。このアルトの音色・・・こういうのを聴くと、もう理屈ぬきである。たぶんそれは・・・(音色の質感は違っても)パーカーの場合と同じように、器楽的な快感を味わっている部分があるのかもしれないが、そうであっても僕としては一向に構わない。音楽なのだから、鳴った響きをそのまま感じて味わえたのなら、それは悪いことではないだろう・・・たとえそれが錯覚だとしても(笑)
アルトのテーマが終わった後、アルメイダのギター独りだけになるのだが、このギターの音色がこれまた素晴らしい。
ガットギター本来の弦が鳴り、胴が響く、そんな美しさを感じさせてくれるギターの音だ。録音engineerは、Phil Turetskyという人らしい。その裏ジャケットに録音風景の写真が載っているのだが、そうすると後方でヘッドフォンをしている人物が、エンジニアのPhilさんであろう。僕はいくつかのPacific盤の音の素晴らしさから、このPhilさんというエンジニアに密かに注目している。
この10インチ盤がとても気に入ったので、そのvol.2も手に入れた。
Laurindo Almeida Quartet vol.2(pacific PJLP-13)10インチ~艶ラベル 録音~1954年4月
ところが・・・7番から13番の間に何があったのか? このvol.2・・・こちらも悪い音質ではないのだが、微妙に違うのである。残念ながら良くない方に違うのだ(笑)多少、盤質が悪いこともあってか・・・シャンクの音色の輝きの輪郭がほんの少し鈍ってしまったような・・・そんな感じを受ける。これは、もちろんレコードの音質の微妙な味わいのことであって、バラードで演奏されるスタンダードのstairway to the stars はやはり素晴らしい。この10インチ盤2枚が、僕のお気に入りであることに変わりはない(笑)
なお、この2枚の10インチ盤の全14曲は、12インチ盤(pacifc1204)のA面・B面に全曲とも収録されているようだ。その12インチ盤は、フラメンコダンサーが踊っているジャケット(オレンジ色/白色の2種あるようだ)のやつである。
さて、リー・コニッツ・・・この人もちょっと難しい(笑)なんというか・・・あえて情緒を排したような音色に変化をつけないような吹き方で、宙に浮いたようなフレーズを延々と吹く。ある意味・・・パーカー以上に純粋的音響主義みたいな気配がある。うんと初期の頃から「クール」と言われたようだが、実際、いくつか聴いてみても、やはり「冷やかな」肌合いのアルト吹きであることには間違いない。その辺が好みの分かれるところだと思う。僕も熱心なコニッツマニアではないが、たまにあの透徹したような音色を浴びると、けっこう気持ちがいい(笑)
今回、気づいたのだが、初期のコニッツには意外と「バラード」が少ない。意外に急速調で(あるいはミディアムであっても)テーマの最初からベースに4つ打ちさせている演奏がほとんどなのだ。それでも初期のprestigeにスローなバラードと言えそうな演奏があった。
you go to my head(1950年4月)~「サブコンシャス・リー」収録
indian summer(1951年3月)~「エズ・ゼティック」収録
どうやら・・・初期のコニッツは、殊更(ことさら)に原曲のメロディをそのまま吹かないようにしているようで、単純にスタンダード好きの僕など「なぜだあ?」と思わないでもないが、まあそれがコニッツ流の美学だったのだろう。
この2曲・・・悪くないが、同じ曲で、もっと素晴らしいコニッツがいるのだ!それは、スエーデンでのライブ音源を集めた「サックス・オブ・ア・カインド」に入っている you go to my head(1951年11月)だ。ライブということもあって、いい感じにリラックスしたコニッツの音色はスタジオ録音の時よりも温かみがあり、同じように抽象的な(スタンダード曲の元メロディを具象とすれば)フレーズを吹いてはいても、あまり分解的な印象がなくて、リズム的にリラックスした感じでおおらかに吹いているようで・・・だから演奏に自然なグルーヴ感がある。この「サックス・オブ・ア・カインド」はなかなかの好盤だと思う。
エルヴィンとのmotion(verve)も快作だったが、どうやらコニッツは・・・「ライブ」の方がいい(笑)
さきほどシャンクの音色を激賞したついでに、もう1枚コニッツ絡みのpacific盤を挙げたい。僕が愛聴しているのは、Lee Konitz and the Gerry Mulligan Quartet(pacific PJLP-10)という10インチ盤~1953年にコニッツがマリガン/ベイカーのバンドに客演した時の録音だ。A面1曲目のthese foolish things がゆったりテンポのバラード風だ。ゆらゆらとたなびくような独特なフレーズで原曲のメロディを崩しにかかるコニッツ・・・相変わらずである(笑)でもこのバラードはなかなかいい。
もう1曲だけ同じpacific盤から紹介しよう。これはバラードというよりミディアムくらいのテンポかもしれないが、too marvelous for words である。
これは・・・どうにも素晴らしい! 自分のリーダー作でないのでリラックスしていたのかもしれない。これ、先ほどのバド・シャンクと同じように、やけに生々しい録音も素晴らしいのだが、なによりコニッツの閃きフレーズが、本当に素晴らしいのだ。ひょっとしたら、いつも気難しそうなコニッツが、ベイカーとマリガンをバックに従えて、いいところ見せてやろう~てな感じで気分が乗っていたのかもしれない(笑)残念ながらコニッツのワンホーンではないが、マリガンとベイカーはバックで静かにハーモニーを付けているだけなので、実質、コニッツのアルトをフューチャーしたスタンダード曲と言える。
それにつけても、こういうコニッツのアルトのサウンドをもっと聴きたい!と僕は思ってしまう。さきほど「その透徹したような音色を浴びると気持ちがいい」と書いたが、それは・・・「肌理(きめ)の細かい大理石に触れた時の冷やかさ」・・・そんな感触かもしれない。
この1曲~too marvelous for wordsを聴いて、やっぱりコニッツは凄い!と実感した僕である。
このコニッツ+マリガン/ベイカーのセッションは、12インチ盤だと「リー・コニッツ・ミーツ・ジェリー・マリガン」(東芝EMI)になるはずだ。
《追記》コニッツについては、<Storyvilleの10インチ盤:Live At Storyvilleではピッチ(音程)が半音ほど高め>話題がコメント欄にて大いに盛り上がりました。ぜひお読み下さい。その後、NOTさんが実際にそれらの音源を聴き比べた印象などをご自身のブログでまとめてくれました。そちらもぜひお読み下さい。
チャーリー・マリアーノも本当にいいアルト吹きだ。僕はジャズ聴きの初め頃に秋吉敏子の「黄色い長い道」(candid)収録のdeep riverを聴いて、ごく素直にマリアーノを好きになった。そこから遡(さかのぼ)って初期のマリアーノを好んで聴くようになった。
彼の初期の音源はprestige、fantasy、imperial、それからbethlehemなどにあるのだが、この辺りのオリジナル盤はどれも高価でとても手が届かないので、再発もので我慢している(笑)
マリアーノという人・・・どうやらバラードが好きなようで、初期のレコードにおいても必ずいつくかのバラードを取り上げている。
prestigeには「ニューヨークの秋」、imperialには「it's magic」そしてbethlehemには「darn that dream」などがあり、どれもテーマを吹くだけで短めに終わるのだが、独特の情感が漂うバラードの名演だと思う。
fantasy音源のCharilie Mariano Sextet(8曲)は、OJC盤[Nat Pierce-Dick Collins Nonet]のB面に8曲とも収録されている。
タイトルのクレジットがNat Pierceになるので、マリアーノ参加ということが、案外、知られてないかもしれない。
このfantasy音源では、come rain or come shine、それからthe thrill is gone が素晴らしい。マリアーノのアルト・・・これはもう判りやすい。どちらかというと淡々としていない(笑)そうして自分の好きなスタンダードソングのメロディをストレートに唄い上げる・・・というより唄い上げようとする。そのアタックの強い音色は気迫に満ちているが、ピッチも良いし、なによりも濡れたようなしっとり感がある。ゆったりメロディを吹いたかと思うと、その合間にも激情的なフレーズを差し込んでくる。この辺の気迫・・・好きだなあ(笑)
マリアーノについても、もう1曲紹介したい。マリアーノは(たぶん)譜面にも強いので、いろんなオーケストラ企画ものに参加していたようで、スタン・ケントン楽団の[Contemporary Concepts](1955年7月)というレコードがある。
A面2曲目~stella by starlightでは、マリアーノがフューチャーソロイストだ。控えめなバックに乗ってマリアーノが「星影のステラ」のメロディをじっくりと吹く。ちょっといつもの激情を抑えたような感じもあり、それがまたいい(笑)
《だいぶ以前に東芝から国内盤を聴いて気に入ったので、capitolのターコイズ・ラベル(青緑)を入手した。音もいいです》
ああ、まだ3人挙げただけなのに・・・このままでは長くなりすぎる。残りのアルト吹きについては、いずれまた。
それにしても、ジャズの世界にはいろんなアルト吹きがいるものだ・・・ジャズはまだまだ面白い(笑)
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