スタン・ケントン

2018年1月 1日 (月)

<ジャケレコ 第3回>エリオット・ローレンスのFantasy盤

≪グレイト・ビッグバンド~エリオット・ローレンス楽団のことを少し≫
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ずいぶん前の日本盤に<Study in Great Big band 20>(東芝)というシリーズがあった。ピンク色のオビが印象的で、そのオビ下の方にはJazz Right Nowという文言が表記されている。東芝はひと頃、ジャズレコードの宣伝にこのJazz Right Nowなる標語を謳(うた)っていて、それは1975~1978年頃だったように思う。Right Now! とは・・・何やらちょっとロックっぽい感じもするが、まあ「今こそジャズを!」みたいな意味合いだろう。
その頃、僕はすでにジャズのレコードを買い始めていたが、当時はモダンジャズの本線・・・マイルス、コルトレーン、ロリンズ、モンク、エヴァンス~彼らの諸作を集めるのに夢中だったので、「ビッグバンドもの」には興味もなく、そしてもちろん資金的余裕もなかったので、リアルタイムではこのシリーズのものを1枚も入手していない。
このピンク色のオビが付いた<Study in Great Big band 20>シリーズで初めて入手したタイトルは、あれは1990年頃だったか・・・中古レコード店で見つけた「フォンテーヌブロー(タッド・ダメロン)LPJ-40007」である。この作品・・・タッド・ダメロンの佳曲をジョニー・グリフィン ケニー・ドーハム、サヒブ・シハブ、ジョー・アレクサンダーらのソロイストを巧く使ってモダンに纏(まと)め上げた感じで、とてもいい内容だと思う。そうして僕はこのレコードをとても気に入った。

最初に買った『ピンクのオビのグレイト・ビッグバンドのシリーズ』が好印象だったので、その後、中古レコード店でこのシリーズ~スタン・ケントン<contemporary concepts>やビル・ホルマン、レス・ブラウンなどを見つけると、たいていは価格も安かったので、嬉しく入手してきた。どのレコードもいくつかの曲には、いいサックス吹き(例えばチャーリー・マリアーノ)の、いいソロが聴けたので(そうでない退屈なトラックもあったが)僕はだんだんと、この手のビッグバンドものを好きになっていったわけである。

≪追記≫2018年1月8日
このシリーズが気になってきた僕は、この20タイトルとはどんなものだろうか? と思い、ある時期(もちろんリアルタイムではない)発売タイトルを調べてみました。ところがこれが・・・なかなか判らない・・・情報がないのです。通常、この手のシリーズものだと、オビの裏とか中解説書に全シリーズのタイトルが載っていたりするのですが、このシリーズ・・・他タイトルの情報がまったく何も載ってないのです(笑) まあそれでも、中古店の在庫検索やネット検索で、だいたいのところが判ってきましたので、そのリストを以下に。

モダン・ベニー(ベニー・グッドマン)ECJ-40001                                 
ワイルド・アバウト(ハリー・ジェイムス)ECJ-40002
コンテンポラリー・コンセプト(スタン・ケントン)ECJ-40003
クラシック・イン・ジャズ(チャーリー・バーネット)ECJ-40004
グレン・グレイ / ビッグ・バンド・テーマ傑作集 ECJ-40005
アンド・テン(ギル・エヴァンス)LPJ-40006
フォンテーヌブロー(タッド・ダメロン)LPJ-40007
プレイズ・ジェリー・マリガン・アレンジメント(エリオット・ローレンス)LFJ-40008
ライヴ・アット・モンタレー(ドン・エリス)LLJ-40009
トゥゲザービリー・エクスタイン)ISJ-40010≫*dukeさん情報により追記 
スタンダード(デューク・エリントン)ECJ-40011
セカンド・ハード(ウディ・ハーマン)ECJ-40012
グレイト・ビッグ・バンド(ビル・ホールマン)ECJ-40013
ワイド・レンジ(ジョニー・リチャーズ)ECJ-40014
コンポーザーズ・ホリデイ (レス・ブラウン)ECJ-40015
ジャム・セッション・アット・ザ・タワー (レイ・アンソニー)ECJ-40016
アフロ・アメリカン・スケッチ (オリヴァー・ネルソン) LPJ-40017
スウィンギング・アット・ザ・スティール・ピア(エリオット・ローレンス)LFJ-40018
ポートレイト(ジェラルド・ウイルソン)LLJ-40019
ニュー・ボトル・オールド・ワイン(ギル・エヴァンス) LLJ-40020
ポートレイト・オン・スタンダーズ(スタン・ケントン) ECJ-40031

タイトル右側の企画番号は ECJ が基本のはずだが、一部のものが JPJ、LLJ LFJだったりしていますが・・・これはあえて検索で拾った情報のまま載せたものです。よって完全に正しい情報とは言えませんので、その辺り、ご容赦ください。
40010タイトルが見つかっていません。ご存知の方、コメントにてお知らせください。
*追記の追加 .~この
40010・・・さっそく duke さんが ≪「ISJ-40010」は、ビリー・エクスタインの「トゥゲザー」です≫との情報を寄せてくれました。さらに企画番号の謎についても以下~
ECJ、JPJ、LLJ、LFJ、ISJ は真ん中の記号が原盤です。CはCapitol、PはPacific、LはLiberty、FはFantasy、SはSpotliteです≫ なるほど!納得です!
special thanks to Mr.dukeさん!
duke さんのジャズブログ~デューク・アドリブ帖 のアドレスはこれです。http://blog.goo.ne.jp/duke-adlib-note/ 


そんな頃、たまたま見つけたソウルの中古レコード店で(true records)、エリオット・ローレンスのfantasyオリジナル盤を入手したのだ。これはもうとにかく、オリジナル盤のコーティングジャケットの・・・その何とも抗し難い魅力にしっかりと参ってしまったわけで、ついでにジャケット内に入っていた、fantasyのレコードカタログも素敵なオマケになって・・・このエリオット・ローレンスの Big Band Sound はあのむちゃくちゃに暑かったソウルでの、素晴らしく好ましい思い出のレコードとなったのである。
http://bassclef.air-nifty.com/monk/cat3840160/index.html

その後、徐々にオリジナル盤というものを入手するようになり、自(おの)ずとエリオット・ローレンスのfantasy盤も集まってきた。
さて「エリオット・ローレンス楽団」というのは、いわゆるダンスバンド的な白人ビッグバンドで、エリントンやベイシーのようにその楽団自体に強烈な個性が有る・・・という感じではない。おそらくは、普段はボールルームなどでダンス伴奏の仕事を主にやっていて、時にFantasy緒作のようなレコード作品を録音する際には、腕利きソロイストのためにソロ場面を組み込んで作品を仕上げる・・・という風なやり方だったと思われる。どんなミュージシャンが参加しているかというと、ズート・シムズ、アル・コーン、ハル・マクージック、ニック・トラヴィス、バーニー・グロウ、アービー・グリーン、エディー・バート・・・作品に拠って多少の違いはあるが、概ねこういったメンバーである。
ローレンス本人はピアノ弾きで、時々、ギル・エヴァンス風にポロロ~ンとピアノを鳴らすくらいでどうということも無いので(笑)、だから、エリオット・ローレンス楽団を聴くということは、ほとんど彼らの優秀なソロを聴く~ということになる。
スタンダード曲を捻り過ぎない素直なアレンジの合間に、アル・コーン(テナー)、ハル・マクージック(アルト)や、エディー・バート(トロンボーン)、アービー・グリーン(トロンボーン)らが、キラリと光るソロを取る・・・どのレコードもそんな具合でけっこう楽しめる内容だと思う。

<2023年1月8日 追記>「ギル・エヴァンス風にポロロ~ンとピアノを鳴らす」と書いた、エリオット・ローレンスのピアノが聴けるレコードが在るのでここで紹介します。Jazz Goes Broadway(Vik)という作品~ズート・シムズ(テナー)、アービー・グリーン(トロンボーン)、アル・コーン(バリトンサックス)、ハル・マクージック(クラリネット)、ニック・トラヴィス(トランペット)の5管に、ローレンス(ピアノ)、チャビー・ジャクソン(ベース)、ドン・ラモンド(ドラム)のトリオの8人編成で6曲。残り4曲は、同じピアノトリオに、ジミー・クリーヴランド(トロンボーン、アート・ファーマー(トランペット)、ジーン・クイル(アルト)、ズート・シムズ(テナー)、アル・コーン(バリトンサックス)の5管。管の奏者が大勢いますが、ローレンスの穏やかで落ち着いたアレンジで、とても品のいいサウンドに仕上がってます。好きなレコードであります。Vikのオリジナル盤も欲しいところですが、このBMGビクターの国内盤も、ジャケット、盤質、音質・・・なかなか素晴らしいと思います。それから、内解説は吉岡祐介さんで、この方の解説が素晴らしいのです。特に「イーストコーストでの白人ジャズ」という観点からの的確な評論には強く共感します。

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そんなエリオット・ローレンス楽団のfantasy盤には、名手のアドリブソロがたっぷり楽しめるジャズ度の高い作品がいくつかある。
まずはこれ。エリオット・ローレンス楽団と言えば、おそらく最も知られているであろう、fantasy第1作目である。
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≪Elliot Lawrence plays Gerry Mulligan Arrangements≫(fantasy 3206)

これ、タイトルだけ見ると、ジェリー・マリガンが参加していると思ってしまうが、マリガンはまったく入っていない(笑) マリガンがアレンジした曲を、エリオット・ローレンス楽団が録音した・・・ということで、plays Mulligan Arrangements というタイトルなのである。
この頃の白人ビッグバンドのレコードって、基本的にはリラックスした聴きやすい路線なので、うっかりすると片面15分くらいを、す~っと聴き流してしまうこともあるのだが、エリオット・ローレンス楽団はさすがに一味違う。聴いてると・・・テーマの後に「おっ、このアルト(テナー、ボントロ)のソロ、いいな!」と思える場面が必ず出てくる・・・そうしてクレジットを見ると・・・うん、ハル・マクージックかあ・・・やっぱりなあ・・・みたいなことを何度も味わえるのだ。これがなかなか楽しい(笑)
この plays Mulligan Arrangements でのソロイストは、アル・コーン、エディー・バート、ハル・マクージック、ニック・トラヴィス、ディック・シャーマン とクレジットされている。僕の好きなハル・マクージックは bye bye blackbird,  but not for me, my silent love などでフューチャーされている。マクージックのアルトの音色は、なんというか・・・丸みのある温かい音色で、まったく気負わずにさらりといいフレーズを吹く。随所にソロ場面のある、テナーのアル・コーンも、実にいいテナーだ。ゆったりと膨らむ、わずかに擦(かす)れたような温かみのある音色がとても魅力的なのだ。ちなみにアル・コーンはどうやら実質的にはどうやらこのエリオット・ローレンス楽団の音楽監督のようで、どのfantasy作品にも参加しており、アレンジ・ソロに大活躍している。

こういうのもある。
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≪Elliot Lawrence plays Tiny Kahn & Johnny Mandel≫(fantasy 3219)
このレコード・・・タイトルにTiny Kahn、Johnny Mandel とものすごく地味な人の名前を謳っているためか、あまり知られてないようだ。ちなみに タイニー・カーンはドラマーで、スタン・ゲッツのストーリーヴィルのライブ盤で素晴しいドラムを叩いていた人だ。ジョニー・マンデルは「いそしぎ」や「マッシュ」の作曲家。
この作品、全体に地味めではあるが、アップテンポのスインギーな曲が多く、ジャズ度はなかなか高い。なんと言ってもテナーのズート・シムズが参加しており、ズートのソロ場面もけっこうあるので、モダンジャズ好きも充分に楽しめるはずだ。ただ・・・ジャケットが例外的にあまりよろしくない(笑)

次に紹介するのは、ジャケットが印象的なこれ。

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≪Swinging at the Steel Pier≫(fanatsy 3236)
この作品~<東芝のグレイト・ビッグバンド20>として発売されたわけだが、どうやら、エリオット・ローレンス楽団の国内発売盤としては、この<スティール・ピアー>が初めてだったようだ。この作品・・・スティール・ピアー内に在る Marine Ballroomでのライブ録音のようだが、案外、音質も悪くない(国内盤解説によると、1956年6月録音)
スタンダード曲としては~tenderly, alone together, between the devil and the deep blue sea など。トランペットのニック・トラヴィスをフューチャーしたtenderly と alone together でのアル・コーンのソロがなかなか素晴しい。

さて・・・Fantasy盤には中身のジャズ的なサウンド以外にも大事なことがある。それは・・・ジャケットがとても魅力的なことだ。写真が良いのはもちろんだが、艶のあるコーティング仕様も実に効いているかと思う。
Big Band Soul は、<海辺に立った笑顔のエリオット・ローレンス氏が指揮をしているポーズを取っている>だけの写真なのだが、これが実に悪くない(笑)
The Steel Pier(すぐ上の写真) ・・・これもいい。海辺に突き出たスティール・ピアー(ダンスホール、レストランやゲームセンターなどが合体した巨大な娯楽施設のようだ)の単なる風景写真なのだが、微妙に赤っぽいソフトな色調と相俟(あいま)って、なにやら豊かなアメリカの50年代・・・という感じが漂ってきて、とてもいい感じのジャケットになっている。

そして、Fantasy緒作の中でも、ひときわ素晴らしいジャケットだと思えるのが、記事の冒頭にも写真を載せたこのレコードだ。
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≪Dream with Elliot Lawrence orchestra≫(fantasy 3226)
心地よい暖かさを感じさせるベージュの色合い、床に置かれた観葉植物の緑色、ソファいっぱいに横たわる女性のポーズ、そしてその女性の知的な佇(たたず)まい・・・うん、これは実に素晴らしい!
このレコード・・・ジャケットだけでなく、中身の音も僕としてはとても気に入っている。全編、スローテンポな曲で統一されており、音楽はあくまでも、ゆったりと、ふんわりと、そしてなんというか・・・密(ひそ)やかに流れていく。僕などは、例えば more than you know のテーマメロディを聴くと、トロンボーンの蕩(とろ)けるような甘い音色にうっとりしてしまう。ジャケット裏のクレジットを見れば、うん、アービー・グリーンか・・・と判るが、そんなことはどうでもいいのかもしれない。
このレコードのタイトルはDream・・・甘美でソフトな質感の心地よい音楽が部屋中にすうっ~と流れてくる・・・どうにも眠くなってくる・・・そうしてあなたは、すうっ~と眠りに落ちてしまう。
何かとセチガライこの世の中・・・こんなレコードが在ってもいいじゃないか(笑)

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2008年11月18日 (火)

<ジャズ雑感 第27回>バド・シャンクのpacific盤

好きなバラード:アルト編(その2)

前回、パーカーのことを書いてみた。音楽から受ける印象というのは、もちろん人それぞれだと思うが、僕が感じているところのパーカーのアルトの質感・・・それは圧倒的な密度を感じさせるあの重い音色であり、そうしてその音色は微妙にピッチ(音程)がズレたようでもあり、しかしパーカーがその個性的な音色でもって迷いのないフレーズ吹くと・・・その「パーカーの音」は不思議に僕の心に食い込んでくるようでもある。そんな脳髄が麻痺するような感じを「白痴美」という言葉で表そうともした(笑)
そんな風に、僕にとってのパーカーをなんとか表現しようとしたつもりではあるが・・・やはり音の表現というのはなかなか難しい。
そりゃそうだ・・・音楽なのだから最後はその「音」を聴くしかないし、聴くことにこそ価値があるわけで、ただの言葉からその「音」の真実~その聴き手にどう感じられたかという真実~が判るはずもない。音楽は聴くものだ!聴いて何かを感じることだ!それでいいのだ!
・・・そんな「言葉は無力」的な気持ちにもなったこともあり・・・しばらくブログを更新できなくなってしまった(笑)

いずれにしても、この一時期にパーカーを色々と聴いてみて・・・パーカーの強烈な音を浴びてみて・・・僕は「パーカーという人の個性」を改めて感じずにはいられなかった。パーカーは、何をどう聴いてもパーカーなのだ。
「パーカーの音」を僕なりに整理すれば、あの「太い音色と微妙なピッチのずれ感」こそがパーカーの個性と言えるのかもしれない。そうして・・・ジャズはやはり個性の音楽なのだ!
そんな「パーカー毒」のせいで、いや、おかげで(笑)僕のアタマもいくらか麻痺してしまったようだが・・・この間もレコードだけはいろいろ聴いていて、そうして「ジャズの個性はひとつだけではない」という当たり前のことを思い出したりもした。アルト吹きは、もちろんパーカーとドルフィだけではない。ジャズ好きはそれぞれに自分の好きな個性を見つければいいのだ!

そういえば、だいぶ前に「好きなバラード~アルト編」(タイトルは「ペッパーのモダン・アート」)というのを書いた。
僕はジャズのスタンダードソングを好んで聴いているが、どうしてもいいバラード(スローなテンポで演奏されるスタンダードとでも言おうか)も聴きたい。だから、1枚のLPの中に1曲でも素敵なバラードが入っていると・・・そのレコードを好きになったりする。
そんな訳で、今回は「アルト編2」ということで、僕の心に留まったバラード演奏をいくつか紹介してみたい。とは言うものの、実は・・・僕はアルトにはそれほど詳しくはない。僕のジャズ聴き遍歴を大雑把に分けると、最初の15年が黒人ハードバップ系~次の15年で白人ウエストコースト系~ここ5年はバップ、スイング系~という具合にジャズ聴きの興味が拡がってきた。その間、楽器への好みとしては「アルトよりテナー」という感じでジャズ聴きをしてきたので、アルトという切り口ではそれほど深く入り込んでいないのだ。最初に好きになったハードバップは、もちろん今でも本線として聴いているが、ことアルトに関しては、ジャズ聴きの早い時期に好きになった、アーニー・ヘンリーとドルフィー、そしてパーカーの3人以外はそれほど深くはディグしていない。マクリーンもアダレイも、もちろん嫌いではないのだが・・・深く入れ込んだことはない。なぜだかあの3人から先に進まないのだ。そうして西海岸ものを聴くようになってから、特に「バラード」という観点からいくと、ペッパーを初めとして、チャーリー・マリアーノ、バド・シャンクといった白人系のアルト吹きに興味が湧いていったようだ。だから、今回「好きなバラード~アルト編」という括りになると・・・そんな白人アルト吹きの名前ばかりがアタマに浮かんできてしまうのだ。
バド・シャンク、ハーブ・ゲラー、チャーリー・マリアーノ、ハル・マクージック、ディック・ジョンソン、ロニー・ラング、ジーン・クイル、ジョン・ラポータ、ジョー・メイニ、そしてフィル・ウッズ・・・そんな感じか。ああ、それからもちろん、リー・コニッツやポール・デスモンド、それからペッパーにも登場してもらわねば(笑) 

まずは、バド・シャンクからいこう。僕にとってバド・シャンクという人はちょっとばかり不思議な存在で・・・というのは、僕はアクの強い(個性の強い)タイプに惹かれることが多いのだが、シャンクはどちらかというと、そういった「アク」が一切ないとも言えそうなタイプだし、それまでの自分の好みから言っても、特に「シャンクのレコードを集めよう」とも思ってはいなかったのだが、知らぬ間にレコードが集まってきてしまった・・・というアルト吹きなのである。だから、もちろんシャンクを嫌いなはずはないのだが、彼のアルトを「~ だ」と表現するような巧い言葉が、僕には見つからない。とにかくもう・・・アルトの音色が美しいのである。あのアルトの音色には・・・例えば彫金の名工が造り上げたような、渋い輝きと品格を感じる。
そんなシャンクの60年代のレコードを以前の<夢レコ>で取り上げたことがある(plays ルグラン)が、今回はうんと初期のものからいくつか挙げてみたい。Dscn2207
Laurindo Almeida Quartet(pacific PJLP-7)10インチ~艶ラベル
B面2曲目の noctambulism というバラード曲に参ったのである。アルメイダはブラジル出身ののガットギターの名手なので、このレコードはブラジルの伝統的なリズムを生かしたギターミュージックという色彩が濃いのだが、このnoctambulismだけはひと味違う。
ゆったりとしたテンポで、クラシック風のメロディが密やかに奏でられる淡々とした演奏なのだが・・・これがどうにも素晴らしい!とにかくもう、このアルトの音色が絶品なのである。艶やかで馥郁(ふくいく)とした、そして品のいい色気のあるアルトの音色なのだ。このアルトの音色・・・こういうのを聴くと、もう理屈ぬきである。たぶんそれは・・・(音色の質感は違っても)パーカーの場合と同じように、器楽的な快感を味わっている部分があるのかもしれないが、そうであっても僕としては一向に構わない。音楽なのだから、鳴った響きをそのまま感じて味わえたのなら、それは悪いことではないだろう・・・たとえそれが錯覚だとしても(笑)Dscn2208
アルトのテーマが終わった後、アルメイダのギター独りだけになるのだが、このギターの音色がこれまた素晴らしい。
ガットギター本来の弦が鳴り、胴が響く、そんな美しさを感じさせてくれるギターの音だ。録音engineerは、Phil Turetskyという人らしい。その裏ジャケットに録音風景の写真が載っているのだが、そうすると後方でヘッドフォンをしている人物が、エンジニアのPhilさんであろう。僕はいくつかのPacific盤の音の素晴らしさから、このPhilさんというエンジニアに密かに注目している。
この10インチ盤がとても気に入ったので、そのvol.2も手に入れた。

Dscn2209Laurindo Almeida Quartet vol.2(pacific PJLP-13)10インチ~艶ラベル 録音~1954年4月
ところが・・・7番から13番の間に何があったのか? このvol.2・・・こちらも悪い音質ではないのだが、微妙に違うのである。残念ながら良くない方に違うのだ(笑)多少、盤質が悪いこともあってか・・・シャンクの音色の輝きの輪郭がほんの少し鈍ってしまったようDscn2210な・・・そんな感じを受ける。これは、もちろんレコードの音質の微妙な味わいのことであって、バラードで演奏されるスタンダードのstairway to the stars はやはり素晴らしい。この10インチ盤2枚が、僕のお気に入りであることに変わりはない(笑)
なお、この2枚の10インチ盤の全14曲は、12インチ盤(pacifc1204)のA面・B面に全曲とも収録されているようだ。その12インチ盤は、フラメンコダンサーが踊っているジャケット(オレンジ色/白色の2種あるようだ)のやつである。

さて、リー・コニッツ・・・この人もちょっと難しい(笑)なんというか・・・あえて情緒を排したような音色に変化をつけないような吹き方で、宙に浮いたようなフレーズを延々と吹く。ある意味・・・パーカー以上に純粋的音響主義みたいな気配がある。うんと初期の頃から「クール」と言われたようだが、実際、いくつか聴いてみても、やはり「冷やかな」肌合いのアルト吹きであることには間違いない。その辺が好みの分かれるところだと思う。僕も熱心なコニッツマニアではないが、たまにあの透徹したような音色を浴びると、けっこう気持ちがいい(笑)
今回、気づいたのだが、初期のコニッツには意外と「バラード」が少ない。意外に急速調で(あるいはミディアムであっても)テーマの最初からベースに4つ打ちさせている演奏がほとんどなのだ。それでも初期のprestigeにスローなバラードと言えそうな演奏があった。
you go to my head(1950年4月)~「サブコンシャス・リー」収録
indian summer(1951年3月)~「エズ・ゼティック」収録 
どうやら・・・初期のコニッツは、殊更(ことさら)に原曲のメロディをそのまま吹かないようにしているようで、単純にスタンダード好きの僕など「なぜだあ?」と思わないでもないが、まあそれがコニッツ流の美学だったのだろう。
001この2曲・・・悪くないが、同じ曲で、もっと素晴らしいコニッツがいるのだ!それは、スエーデンでのライブ音源を集めた「サックス・オブ・ア・カインド」に入っている you go to my head(1951年11月)だ。ライブということもあって、いい感じにリラックスしたコニッツの音色はスタジオ録音の時よりも温かみがあり、同じように抽象的な(スタンダード曲の元メロディを具象とすれば)フレーズを吹いてはいても、あまり分解的な印象がなくて、リズム的にリラックスした感じでおおらかに吹いているようで・・・だから演奏に自然なグルーヴ感がある。この「サックス・オブ・ア・カインド」はなかなかの好盤だと思う。
エルヴィンとのmotion(verve)も快作だったが、どうやらコニッツは・・・「ライブ」の方がいい(笑)
002さきほどシャンクの音色を激賞したついでに、もう1枚コニッツ絡みのpacific盤を挙げたい。僕が愛聴しているのは、Lee Konitz and the Gerry Mulligan  Quartet(pacific PJLP-10)という10インチ盤~1953年にコニッツがマリガン/ベイカーのバンドに客演した時の録音だ。A面1曲目のthese foolish things がゆったりテンポのバラード風だ。ゆらゆらとたなびくような独特なフレーズで原曲のメロディを崩しにかかるコニッツ・・・相変わらずである(笑)でもこのバラードはなかなかいい。
もう1曲だけ同じpacific盤から紹介しよう。これはバラードというよりミディアムくらいのテンポかもしれないが、too marvelous for words である。
これは・・・どうにも素晴らしい! 自分のリーダー作でないのでリラックスしていたのかもしれない。これ、先ほどのバド・シャンクと同じように、やけに生々しい録音も素晴らしいのだが、なによりコニッツの閃きフレーズが、本当に素晴らしいのだ。ひょっとしたら、いつも気難しそうなコニッツが、ベイカーとマリガンをバックに従えて、いいところ見せてやろう~てな感じで気分が乗っていたのかもしれない(笑)残念ながらコニッツのワンホーンではないが、マリガンとベイカーはバックで静かにハーモニーを付けているだけなので、実質、コニッツのアルトをフューチャーしたスタンダード曲と言える。
それにつけても、こういうコニッツのアルトのサウンドをもっと聴きたい!と僕は思ってしまう。さきほど「その透徹したような音色を浴びると気持ちがいい」と書いたが、それは・・・「肌理(きめ)の細かい大理石に触れた時の冷やかさ」・・・そんな感触かもしれない。 003
この1曲~too marvelous for wordsを聴いて、やっぱりコニッツは凄い!と実感した僕である。
このコニッツ+マリガン/ベイカーのセッションは、12インチ盤だと「リー・コニッツ・ミーツ・ジェリー・マリガン」(東芝EMI)になるはずだ。

《追記》コニッツについては、<Storyvilleの10インチ盤:Live At Storyvilleではピッチ(音程)が半音ほど高め>話題がコメント欄にて大いに盛り上がりました。ぜひお読み下さい。その後、NOTさんが実際にそれらの音源を聴き比べた印象などをご自身のブログでまとめてくれました。そちらもぜひお読み下さい。

チャーリー・マリアーノも本当にいいアルト吹きだ。僕はジャズ聴きの初め頃に秋吉敏子の「黄色い長い道」(candid)収録のdeep riverを聴いて、ごく素直にマリアーノを好きになった。そこから遡(さかのぼ)って初期のマリアーノを好んで聴くようになった。
彼の初期の音源はprestige、fantasy、imperial、それからbethlehemなどにあるのだが、この辺りのオリジナル盤はどれも高価でとても手が届かないので、再発もので我慢している(笑) 002_3
マリアーノという人・・・どうやらバラードが好きなようで、初期のレコードにおいても必ずいつくかのバラードを取り上げている。
prestigeには「ニューヨークの秋」、imperialには「it's magic」そしてbethlehemには「darn that dream」などがあり、どれもテーマを吹くだけで短めに終わるのだが、独特の情感が漂うバラードの名演だと思う。
001_3 fantasy音源のCharilie Mariano Sextet(8曲)は、OJC盤[Nat Pierce-Dick Collins Nonet]のB面に8曲とも収録されている。
タイトルのクレジットがNat Pierceになるので、マリアーノ参加ということが、案外、知られてないかもしれない。
このfantasy音源では、come rain or come shine、それからthe thrill is gone が素晴らしい。マリアーノのアルト・・・これはもう判りやすい。どちらかというと淡々としていない(笑)そうして自分の好きなスタンダードソングのメロディをストレートに唄い上げる・・・というより唄い上げようとする。そのアタックの強い音色は気迫に満ちているが、ピッチも良いし、なによりも濡れたようなしっとり感がある。ゆったりメロディを吹いたかと思うと、その合間にも激情的なフレーズを差し込んでくる。Dscn2222この辺の気迫・・・好きだなあ(笑)
マリアーノについても、もう1曲紹介したい。マリアーノは(たぶん)譜面にも強いので、いろんなオーケストラ企画ものに参加していたようで、スタン・ケントン楽団の[Contemporary Concepts](1955年7月)というレコードがある。
A面2曲目~stella by starlightでは、マリアーノがフューチャーソロイストだ。控えめなバックに乗ってマリアーノが「星影のステラ」のメロディをじっくりと吹く。ちょっといつもの激情を抑えたような感じもあり、それがまたいい(笑)

《だいぶ以前に東芝から国内盤を聴いて気に入ったので、capitolのターコイズ・ラベル(青緑)を入手した。音もいいです》

ああ、まだ3人挙げただけなのに・・・このままでは長くなりすぎる。残りのアルト吹きについては、いずれまた。
それにしても、ジャズの世界にはいろんなアルト吹きがいるものだ・・・ジャズはまだまだ面白い(笑)

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