ジミー・ギャリソン

2010年1月 2日 (土)

<ジャズ回想 第22回>コルトレーン~1963年のmy fevorite things

これは誰にとっても同じかと思うのだが・・・レコードを集め始めの頃はそんなに次々には買えないから、持っているレコードをそれはもう一生懸命に聴くのである。
1972年・・・僕のコルトレーン体験としては~
monk's music(abc Riverside茶色ラベル)
kind of blue(CBSソニー:1800円定価)
coltran(ビクター1100円盤:1972年)
two trumpets & two tenors(ビクター:1968年頃の1500円定価盤)
~と、こんな順でレコードを入手していった。そうして、これらの1枚1枚をたっぷりと聴いて、どうやらコルトレーンという人の音色を覚えたようなのだが・・・その頃、まだ my fevorite thingsを聴いてはいなかった。そして、どんなコルトレーン記事でも絶賛されていた<コルトレーンの my fevorite things>・・・それがどんな音(演奏)なのか気になって仕方ない。
そんなある日「それ」を聴くチャンスがやってきた。そう・・・FMラジオだ。当時はFMラジオの番組をカセットに録音するのが音楽ファンの習性だった。さっそく僕も録音した・・・<1963年のニューポートジャズフェスティヴァルのライブ演奏のmy fevorite things>を。そしてそれを何度も聴いた。Selflessness_2

《そのFMエアチェック音源を聴きまくった後~1976年頃に買った東芝盤》
マッコイの叩き出す和音の繰り返しに酔い、ロイ・へインズの「ガシャッ・ガシャッ」と聞こえるドラムス(スネア)に体を揺らし、そして・・・コルトレーンのソプラノサックスが捻り出してくるような叫びに畏(おそ)れ慄(おのの)きながら、吸い込まれていった。
impulse期のコルトレーンの音楽というのは・・・atlantic期までの端正さとは決定的に違う何かなのだ。それは、僕の解釈では「没入すること」で、その良さが判る音楽なのだ。その音楽(この場合、「音」と言ってもいいかな)だけを集中して聴いていくと・・・自ずと忘我の境地になる。つまり、それがこのLPのタイトルにもなっているSelflessnessということなんだろう。そして何よりもコルトレーン自身がその境地に至るまでアドリブを続けていくと、それは止むに止まれぬ「叫び」となり・・・そうなのだ!それこそが「コルトレーンの唄」なのだ!コルトレーンが叫び終えると・・・ようやく演奏は終る。
ついに聴いた1963年の my fevorite things は、やっぱり凄かった。圧倒的に凄かったのだ!

my fevorite thingsという曲は、ミ・シ・シ/ファ♯・ミ・ミ/シ・ミ・ミ/ファ♯・ミ~/というシンプルなメロディーで始まる。その時のコード(伴奏の和音)はEマイナー(ホ短調)なのだが、曲の後半になると、その同じメロディに対し、コードがEメイジャー(ホ長調)に変わっている。そして、そのメイジャーの和音になった時、不思議な浮遊感が生じるようでもある。この曲・・・そんな具合にさりげなく凝った曲である。こういう曲を創ったリチャード・ロジャーズも偉いが、その曲の面白さを発見したコルトレーンも偉い!(笑)
そうしてコルトレーンは、この曲をジャズとして演奏する際、構成をシンプルにしたかったのだろう・・・テーマのメロディ提示が終った後、コーラス(元々のメロディどおりに小節が進行すること)を繰り返すのではなく、バックの伴奏には「Eマイナー/F♯マイナー」部分だけを延々と繰り返させる。そうしてその音パターンをバックに長いアドリブに入る。それを充分に続けると、一度、テーマの合わせをしてから、今度は「Eメイジャー/F♯マイナー」に移る。コルトレーンは、atlantic期の初演からこの構成を変えていない。同じコードを繰り返すモード的解釈の下、充分にアドリブを吹き尽くすことができるだけでなく、そのコードを短調から長調へ変えることで、サウンドに変化が付けられる。そうしてこの構成が見事だと僕は思うのだ。
さて、リチャード・ロジャーズ作の my fevorite things は、もちろんワルツ(3拍子)なのだが、この3拍子曲へのコルトレーンの解釈・・・これがまた独特なのである。
ピアノやベース、ドラムスの伴奏陣がワルツをごく普通に乗る場合、1小節3拍を『ダン・ダン・ダン』(ダン=1拍)と1拍づつ刻むのだが、(1拍目に4分休符を入れたとしても『(ウン)・ダン・ダン』) マッコイは決してそういう風には弾かない。コルトレーンがテーマのメロディを吹く場面のバックでは『(ン)・ダア~ダ(ン)/(ン)・ダア~ダ(ン)』と小気味良く和音を刻む。そして、先ほどのEマイナー部分で、マッコイがその付点4分音符を2回続けると・・・『ダ~ン・ダ~ン』と聞こえる。このパターンを基本として、後は休符を入れたりしてはいるが、もう頑固的に『ダ~ン・ダ~ン/(ウ)・ダア~~ン』(ダーン=1.5拍、(ウ)=半拍の休符、ダア~~ン=2拍半))の繰り返しなのである。
そうなのだ・・・コルトレーン(バンド)流の3拍子解釈は・・・「付点4分音符の連打」が基本なのである。(つまり 1.5X2=3 ということ)
そしてその独特の3拍子ノリが延々と繰り返される中、コルトレーンのアドリブ(ソプラノサックス)に集中していくと・・・なにやら催眠的効果も生じてくるようでもあり、さきほど言ったような「忘我」を味わうことになるのだ。

さあ・・・「Eメイジャー/F♯マイナー」に移る。それまでのマイナー調から一転して輝くような感じのメイジャー調の響きになると・・・コルトレーンは乗りに乗る。ソプラノサックスの音色とこのEメイジャーの響きが・・・不思議によく合うのだ。長いアドリブの最後の方・・・この辺りからがまったく凄い。ここからは「付点4分音符X2」の連続攻撃だ!
高い方から<シ~・ソ♯~/ミ~・ド♯/シ~・ソ♯~/ミ~・ド♯>と2オクターブかけて降りてくる『パア~・パア~/パア~・パア~』というフレーズを繰り返すコルトレーン!
そのフレーズにマッコイとギャリソンがここぞ!とばかり、その「付点4分音符X2リズム」に合わせてくる~『ダア~・ダア~/ダア~・ダア~』
う~ん・・・もうたまら~ん!これこそコルトレーンの唄なのだ!。歓喜の爆発なのだ!
しかしこの決定的場面で、ロイ・へインズは、そのダア~・ダア~(付点4分音符X2)を、なぜか合わせてこない。
エルヴィンならここは絶対にタメにタメた付点4分を乗っけてくるはずだ。僕の勝手な推測では・・・おそらくロイ・へインズは、敢えてそのエルヴィン風にしなかった・・・のだと思う。それは・・・ヘインズの意地かもしれない(笑)
しかし・・・その直後、コルトレーンがソプラノを打ち震わしたような歓喜フレーズの最後の段階に入ると、ここでロイ・へインズが必殺フレーズ(リズム)を繰り出してくるのだ~
『ダダ・ダダ・ダダ/ダダ・ダダ・ダダ』~3拍子3拍(4分音符3回)に対しての8分音符6回(スタカート気味)~これはもう、一瞬、テンポが加速してしまったかのようなノリなのだが、それはコルトレーンの唄いに感応したへインズの閃(ひらめ)き・・・そして、バンド全体の感じた歓喜への素晴らしいレスポンス(反応)なのだ・・・と僕は思う。ロイ・へインズもやはり凄い。

・・・そんな具合に、僕はmy fevorite thingsを何度も聴き、そしてそのたびに感動した。
考えてみれば・・・あの頃は「オリジナル盤」も「鮮度感」も「録音の良し悪し」も関係ない(笑)ただただ・・・その「音楽」を聴いて、そうして感動していたのだ。
まあそれを単純に言えば・・・ワカゲノイタリということだろうけど(笑)
そうして、今、50才を過ぎた自分が冷静に言うのならば・・・「コルトレーン」という人の音楽は、そういう「没入的」な聴き方に適している・・・とも思う。だから「ジャズ」というものを好きになってきたのなら、たとえカセットで聴いても、その「唄い」に集中していけば、オーディオや録音の拙(まず)さをモノともせず、音楽的な感動に導いてくれる・・・そんなタイプの音楽といえるかもしれない。

ジャズ好きになったからには(いや、そうなっていく経過として・・・)ある時期、コルトレーン音楽(impulse期1961年以降の)に、のめり込むことは、たぶん・・・あってもいい(笑)
もちろんなくてもいいのだけど、コルトレーンを聴く場合の、あのなんというか・・・管楽器の音に集中していく時の~聴き手である自分がその吹いている奏者の気持ちに同化していくような(たとえそれが錯覚だとしても、いいじゃないですか:笑)そんな気持ちを味わう・・・というのも、音楽の聴き方のひとつだと思うのだ。
僕の場合、そういう「コルトレーン聴き」を経て、実はその後、同じテナー奏者なら、ソニー・ロリンズの方により惹かれるようになっていったわけだが、その辺のことはこの記事で。

もちろん僕はコルトレーンを好きだし、今でもたまに聴くと、やっぱり気持ちいい(笑)
ただ僕は最晩年の「アセンション」や「クル・セ・ママ」まで聴き込むほどの本当のコルトレーン好きではない。
わりと聴くレコードも、prestige後期とimpulse初期に片寄っていて・・・苦手なimpulse後期だけでなく、なぜか、atlantic 時代もあまり聴いてない。
私見では、コルトレーンのatlantic時代というのは、どれもが意欲に満ちていてグループとして新しいサウンドをしてはいるが・・・なにか雰囲気が堅いというか、ガチガチに練習したような感じで、どれもが「習作」(impulse初期の充実ぶりから見ると)という感じがするのだ。ただ、その新しいグループサウンドを目指す姿勢~それまでの和音とは別の響きのする、いわば実に「コルトレーン的」なモード曲を造り上げていこうとする~というかその過程自体を好む方がいるのも当然だと思う。事実、サックスを吹く僕の古い友人は「atlantic期のコルトレーンが好きだ」と明言している。
《追記~その古い友人sige君からのメールで、彼自身のコルトレーン体験に触れた一節があったので、その一部を紹介したい。(以下斜体)
~(中略)~若き日(中三)にコルトレーン教と言うか、あの呪術と法悦以外、ジャズはありえないと頑なになっていたこと~(中略)~最初聞いたのがアトランティックの「マイフェバリットシングズ」であり、ビレッジバンガードセッションの「ソフトリー」であり、最後のアルバム「エキスプレッション」でしたので、混沌と浄化と感動という、まあだれでもはまる信者の道一直線だったわけです。ですから、大学一年のとき君に出会い、「コートにスミレを」を紹介され、楽曲を消化し創造するミュージッシャンとしてのコルトレーンという視点を得たことは、オーバーな言い方になってしまいますが、その後のコルトレーンに対する、いやジャズそのものに対する見方が少しずつ変わっていったように思っています。( モンクやミンガスや他にもいろいろあった)
あれから何十年と経ち、コルトレーンミュージックも僕の中では相対化され絶対的なものでなくなり、今はちょっと聞こうかぐらいの存在になってしまったけれど、あのころ夢中で、それもしがみつくように何か救いを求めるように聞いた体験は、どっかに自分の中で生きているのだろうと思います


そうして、その(僕の耳には)ちょっとばかり堅苦しいatlantic時代を経た、impulse初期(特に1961年~1963年までのライブ録音ものは)になると・・・これがいい!
なんというか、理論や構成を学ぶ時期を突き抜けて、演奏そのものが音楽的にも流れが自然でとても聴きやすいのだ。
つまり・・・フォーム(形式)だけに拘らない精神というか、その枠を打ち破ろうとする精神というか・・・とにかくそういうパワー、意気込み、情熱みたいなものを感じるのだ。コルトレーンの音楽の(僕が感じる)美点とはそういうものだと思う。いや、それが一番素晴らしいのは、そういうspirits(精神)が、ただ教条的、あるいは観念的なものに陥らずに、音楽的にもダイナミックな抑揚のあるジャズのビートを保った範囲内での葛藤がある、というか・・・やはりジャズのビート感というのは・・・定型リズム、定型テンポの中での、あの伸び・縮みの感じが素晴らしいのであって(エルヴィン・ジョーンズの良さもそこにある!)そういう観点から見ると、やはり何らかの「枠」は必要なのである。その「枠」に対してのチャレンジ(音楽的な)であるからこそ、そこにダイナミズムが生まれて、それが(音楽的な)快感にもなっていくはず・・・と僕は思うのだ。
なにやら回りくどい言い方になってしまったが、つまるところ、僕にとっての素晴らしいコルトレーンというのは・・・どうやら1963年くらいまでに限定されてしまうようだ。
そうして、1963年7月のニューポートジャズ祭での my fevorite things は・・・こんな小理屈など軽くすっ飛ばして・・・ただただ、素晴らしい。

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2006年7月22日 (土)

<ジャズ回想 第6回> またまたオフ回~藤井寺Yoさん宅:再訪記。

青い顔したウーレイ~3人で7時間の聴きまくり。

6月24日(土)ニーノニーノさんの「杜」のお仲間~藤井寺市のYoさん宅におじゃました。今回はリキさんと私bassclefが2人で乗り込んだ。2人はそれぞれ~僕は昨年9月、リキさんは今年の1月に~Yoさん宅の音を聴いており、その「音」を知っている。そして多分・・・その「音」を好きになっている。
Yoさんは、その後もいろいろな調整をしたようで、音がさらによくなっているらしい。そうなると・・・こちら2人は「また聴いてみたい」、
Yoさんは「また聴いてもらいたい」てな具合で・・・この3人の思惑が一致したようであった(笑)

11時前くらいに到着し、すぐ2階のあの「音聴き部屋」へ。部屋に入るなり「ここ、ここ・・・。この雰囲気がいいんだよなあ・・・」とリキさん。
白熱灯の温かみのある、ちょっと落とし気味の照明。これが・・・本当に落ち着く。お酒の好きな方が、ちょっと飲んで「いい音楽」を聴いたら・・・すぐに眠ってしまうだろうな(笑)

まずはこれから・・・とYoさんが、「東京銘曲堂ライブCD」を取り出す。
リキさんもこのCDがお気に入りで、自宅のsonusと「鳴り」の具合がどんな風に違うのか興味があるようだ。
my romance
but beatiful
昨年9月にこの同じ場所で同じCDを聴いた時は・・・元々たっぷりと豊かな音量で録音された(ように聞こえる)このCDのウッドベースの音が~このベースの音像というか音量がかなり大きく聞こえて、だから僕のベースの好みのバランスでいうと~ややふくらみすぎかな?という感じだった。
ところが今回は・・・だいぶん違ったのだ。そのベースの音像がグッと締まり、ベースの弦がビシビシと鳴るような感じがよく出るようになっていたのだ。こんなバランスであれば、「CD」全般に対する僕の不信感も~たいていのCDがベース中心に低音を強調しすぎか?~かなり和らいでくる。
端正にきれいに弾くギターの音色も、よりくっきりと聞こえる。テナーの音ももちろん素晴らしい。3人の音楽、その全体がより一層ツヤヤカになったように感じた。
何をどうしたのか・・・僕にはオーディオ的な細かいことはわからないのだが・・・スーパー・ツイーターの(クロスオーバーの)調整やら、スピーカーの角度やらを、いろいろ綿密にジリジリと微調整を繰り返したようだ。リキさんと僕に見せてくれた「調整メモ」(スピーカーを動かした位置を記録したのか、まるで何かの設計図のような・・・)には驚くやらあきれるやら・・・(笑)
いずれにしても、あの青い顔した幽霊・・・いやウーレイから飛び出てきた音は・・・「きめ細やかな上質な低音(ウッドベース、バスドラ)」「ふくゆかにしかもよく前にでてくる中音(テナーやチェロ、ヴォーカルなど)」という感じか。
だから・・・低音・中音・高音のバランスが、誠にいい具合になっている・・・ように感じた。このCDは3人~テナー、ギター、ベースというドラムレスの変則トリオである。ジャズの強烈にプッシュしてくるドラムのシンバル~例えばエルヴィン~がどんな風に鳴るのか・・・?
興味が湧いてきた僕は「あとはエルヴィンのドラムだね」と言ったような気がする。

そんな風にして始まった今回の藤井寺ミニ杜。お昼とかの間も、軽いものでも聴きながら・・・ということで、Yoさんがソニー・クリスの72年頃の盤からちょっとロック調のものなどを流す。僕はロック調がいまいち苦手なのですぐに厭きてしまう(笑)「もうちょっと前のソニー・クリスを」という僕のリクエストで、67年録音のThe Portrait of Sonny Criss(prestige) からsmileをかけてもらう。このバラード、出だしの部分をクリス一人だけで吹く・・・ソニークリスって、こんなによかったかなあ(笑)と思えるくらに、これはよかった。
録音もいい、と思ったらRVGだった。ラベルは黄緑色だったが、67年頃の盤なので、その黄緑ラベルがオリジナルかもしれない。
「いいねえ・・・」とか言ってるうちに、なんのことはない・・・ちっとも「音」が止むことはない(笑) 結局・・・11時から6時までほぼ7時間ぶっとおし、という怖ろしくも楽しい会となったのだ(笑) 

以下、かけたレコード・曲と、僕の勝手な感想を少し。
*デジカメはやはり持っていかなかったので、Yoさん、リキさんのオリジナル垂涎盤の写真はありません。この日、かかったレコードで僕が持っているものは、ジャケット写真を載せました。国内盤がほとんどです(笑)Yo_008_2

《写真は、fantasy custom盤》

Johnny Griffin/Kelly Dancers(riverside)
オリジナル盤(モノラル) と WAVE盤(ステレオ) から black is the color of my true love's hair
オリジナル・モノラル盤~グリフィンのテナーの中・高音域がややきつすぎというか、堅く感じる。リキさんも「ちょっときついかな・・・」と一言。しかし、テナーやベースがぎゅ~っとつまった、そして入力レベルが高そうなモノラルならではの密度感は凄い。                   「迫力ある音」が好きな方なら、やはりモノラルを選ぶだろう。
続けてかけたWAVEステレオ盤~モノラル盤だと、ロン・カーターのベース音が大きすぎて僕には「迫力がありすぎ」て、なにか違うベーシストのように感じたが、このWAVEステレオ盤でのロン・カーターは、右チャンネルからのちょうどいいくらいの音像で、テナーもぐっとまろやかになった。音場全体がすっきりとして、とても聴きやすかった。僕はもともとリヴァーサイドのステレオ録音が好きなので、余計にそう感じたのかもしれない。
WAVE盤は・・・クセのないマスタリング(だと思う)が、ある種、うまく録音されたcontemporaryでの楽器バランスに近い味わいがあるようにも思う。そうしてこの「バランスのいい誇張のない楽器の音色」を、Yoさんのシステムで実際に鳴らされると・・・Yoさんが以前から、「WAVE盤の素晴らしさ」を力説していたことにも、充分に納得がいくのだった。

Heren Merrill/Merill at Midnight(emarcy)から black is the color of my true love's hair(グリフィン盤と同じ曲です)と lazy afternoon
裏ジャケットに、若くてかわいい感じのメリルが写っている。たまに聴くメリルは実にいい。
続けて、ティナ・ルイス(concert hall)から1曲(曲名失念)
あの色っぽいジャケットから想像されるとおりの色っぽい唄い方・・・そして案外、どの唄もしっかりと唄っている。
モンローの唄~あのコケティッシュなキャラクターを演出している唄い方(嫌いじゃないのですが:笑)の色気の部分を半分くらいにして、あとの部分を
しっかりと唄いこんでいる感じ・・・女優さんとのことだが、唄は巧いのである。ちなみに、ティナ・ルイスは、例えば普通のポピュラー風オーケストラLPのジャケットに、モデルとしてその姿が登場しているだけでもかなりの価値があるらしい。ティナ・ルイスかあ・・・。

お昼前くらいに、少し軽いものを・・・ということでベニー・ゴルソンとフレディ・ハバードの「スター・ダスト」(82年だったかの録音)をかけた時、トランペットのピッチやら音程の話しになった。その流れでベーシストとしてはあまりピッチのよくない(であろう)ジミー・ギャリソンのベース音がが大きく捉えられているあのピアノトリオ盤~
Yo_004 ウオルター・ビショップJr/~トリオ(キングが出した時の国内盤)からsometimes I'm happy を聴く。このレコード、録音自体はあまりよくない。
ベースの音も大きいことは大きいが、「響き」の成分が少ない、右手で弦を引っ張った「近くで録られた」感じの音だ。ピアノの音も同様でもあまりいい音とは言えない。Yoさんに指摘されるまでは、この盤・・・それほど ピッチの事を気にしたことがなかった(笑)   《上の写真~左はキング盤。右は西独の1989年の再発盤》

だいたいがギャリソンを好きなので、多少ピッチが悪かろうが、ただ「ギャリソンが弾いている」という認識でしか聴いてこなかったようだ(笑) それからベースの音程もたしかによくないのだが、この盤では、ピアノ自体の調律がだいぶんおかしいようにも聞こえる。高音域の方がちょっとフラットして、なにか全体に「ホンキートンクっぽい」ピアノサウンドではある。
ピッチのズレうんぬんはともかく、人間が何かを聞く時、「あばたもえくぼ」的なことや「意識してない部分は、鳴っていても聞こえない」的なことと、それから、その「気になる部分」はこれまた各人で様々な局面があるのだなあ・・・というようなことを、再確認したことではある。

Tenor Saxes(norgran)
The Consummate  of  Ben Webster(norgran) から同じ曲:Tenderly
これは前回のミニ杜(マントさん)でも味わったが、全く素晴らしい音質の盤。同じNogranの貴重盤なのだが、なぜかオリジナルのはずの
Consummate よりもTenor Saxes の方が、はっきりといい音なのだ。テナーはもちろんピアノやらべースも明らかに鮮度が高い。不思議な盤である。

この後、Yoさんセレクトによる「ロリンズ特集」
Sonny Rollins/Saxophone Collosus(オランダ盤)から you don't know what love is
Way Out West (in stereo 盤)(緑ラベルステレオ盤)からway out west
Contemporary Leaders から how high the moon と the song is you
The Standard(RCA Victor) から my one & only love
Sonny Meets Hawk(RCA Victor)  から summer time
milestone all stars から in a sentimental mood

そして Harold Land/in the land of jazz(contemporary) から you don't know what love is
これはハロルド・ランドというテナー吹きの快演!あまり知られてないレコードだが(僕も未聴だった) このバラードは、品格がある端正ないいバラードだった。Yoさんいわく・・・「ロリンズのyou don't know よりいい」 この意見に僕も異論はなかった。ハロルドランドというテナー吹きも実にいい。Harold_land_fox

<補足>そういえば・・・Yoさんと最初にジャズの話題で盛り上がったのも、このハロルド・ランド話題であった。同じcontemporaryにはランドのいい盤がいくつもある。Carl's Blues~ランドが「言い出しかねて」をじっくりと吹き上げる~というのもいい盤だ。それから The Fox もいい。これは僕が、ランドの良さに開眼したレコードだ。   《写真上がFox。録音もいい》

Yoさんのシステムではもともと「よく鳴る」contemporary盤が続く。Yo_005_1
《右の盤は残念ながら国内盤・・・キングGXC3159。それでも充分に音がいい・・・と強がりを:笑》

Hampton Hawes/For Real から hip
どの楽器も素晴らしい音を発しているのだが・・・それでもやはり・・・ラファロのベース音!音圧・強さ・しなやかさ、そしてテーマ部分で、「ぐう~ん」とベースの音程を高い方にスライドさせる驚異の技!(右手で弾いた直後に左手で2つの弦を押さえている(ダブルストップという)その力を、ある程度残したままスライドさせているのだと思う) それからホウズのピアノタッチの躍動感、さらにハロルド・ランドの端正で案外にハードボイルドなテナーの音色、そうしてフランク・バトラーの切れの良さ・・・全てが素晴らしい。
最高の演奏と最高の録音を、まさに眼前で実感できたような気持ちのいい瞬間だった。
「演奏」の快感と「音」の快感が同時に味わえる~そんな感じだった。
それにしても・・・この盤はcontemporaryの中でも最高峰の録音だと思う。

JR.monterose/The Massage(jaro) ~この希少レーベルの青白のラベル、初めて現物を見ました。
Violets for your Furs~モンテローズは、やはり素晴らしい。好きなテナー奏者だ。なんというか「唄いっぷり」の
スケールがとてつもなく雄大なのだ。
じゃあ同じ曲を別のテナーで聴こうか・・・てな訳で、

Yo_006_1 Jutta Hipp/緑色のジャケのやつ(bluenote:liberty ラベル)から Violets for your Furs 
~liberty ラベルでも充分にいい音だった。このモノラル録音でのベース音(アブダリマリク)も、とても大きく弾むような豊かな音で入っていた。
《写真上は東芝国内盤》   こちらの「音像のでかさ」は、先ほどのロン・カーターの場合とは違って、僕にはそれほど気にならない。なぜかというと・・・
(もちろん推測だが)ウイルバー・ウエアやマリク、それからミルト・ヒントン、トミー・ポッターというタイプの場合は、もともと彼らがウッドベースから引き出す音が、「輪郭の大きな響きの音」のように思うからだ。使っているウッドベース自体が大きめのサイズだったり、弦の種類が羊弦(現在ではスチール弦が多い)だったり、右手の弾き方(はじきかた)などで、たぶん出てくる音像は違ってくるものだと考えられる。
これらのタイプと対照的なのは、もちろんスコット・ラファロ、リチャード・デイヴィス、ゲイリー・ピーコックやペデルセン(初期の)などである。
ウイルバー・ウエアの「音像の拡がった大きく響く音」と、ラファロやピーコックの「シャープにしまった音」とは・・・どうです?あきらかにタイプが違うでしょう。もちろん、どちらがいいとか悪いとかの問題ではないのだが・・・困ったことに僕は、どちらのタイプのベーシストも・・・大好きなんです(笑)

Zoot Sims with Bucky Pizzarelli(classic jazz)1976から what is this things called love
~ピザレリのように、ギター一丁で、バッキングの和音から、しっかりしたしかもノリのいいリズムまで出してくる名手がいたのです!
ギターソロでもコード(和音)中心のソロで、そのコードのパターンを、微妙に変えながら厭きさせない。そして、それまでのビート感を決して崩さない。
インテンポ死守!である。というより、さらにビートをなめらかな流れにしているようでもある。サックスとギターだけのデュオなので・・・ギターソロといってもギター独りだけになるわけで、その「ギター1台キリ」でのこの名人芸・・・ため息が出てしまう。

ここで、僕が持ってきたヴォーカル盤を2枚。Yo_001

Irene kral /better than anything(ava) から it's a blue world と this is always
この盤は大好きなのだ。アイリーン・クラールは、アン・バートンの次に好きになった「声」なのだ。フレイジングがちょっと個性的だがリズム感がすごく伸びやかで何を聴いても心地よい。好きだ。

tony bennette/cloud 7(columbia) からI fall in love too easily Yo_003

この盤には初期のベネットのジャズ魂が溢れている。チャック・ウエインのコージーなアレンジ、小粋なビート感、そしてベネットの若々しいあの「声」~僕がベネットを好きなのは、ベネットがあの「声」だからかもしれない(笑)この「クラウド7」は、ジャケットもなかなかいい雰囲気ではある。リキさんもジャケットは気に入ったようだ。

次に僕のリクエストでモンクのソロピアノを。thelonious monk/Alone in San Francisco から remember と everything happens to me        続けて brilliant corners。ここで・・・リキさんはやや苦しそう(笑)

そこで、次にリキさんセレクトのクラシックをしばらく続けた。
グルダ/バッハ:Goldberg Variations(columbia)
キャサリーン・バトル 歌曲
ミュウシャ・マイスキー(グラモフォン3LP)からバッハ/無伴奏チェロ1番
ベルリオーズ:幻想交響曲
モーツアルト:39番
モーツアルト:ハイドンのために創ったという弦楽四重奏~こういう四重奏は、(僕は)ステレオ録音が楽しい。右からちょっと内よりにチェロが聞こえるなあ・・・と思ってたら、リキさんがジャケットを見せてくれた。
そのジャケットに4人の奏者の演奏風景が写っており、チェロ奏者が右から2番目だ。その立ち位置・・・いや、座って弾いてるから「座り位置」か)とおりの定位で聞こえる。リキさんとしては、左右への広がり具合がありすぎるらsく、「もうちょっと4人が内側に近づいてほしい」とのこと。そういえばジャケットの4人はかなり近づいて、こちらを向いて座っている。その4人の中央辺りに、やけに長い「マイクの塔」みたいなのが鎮座している。
僕はまだクラシック自体にほとんど馴染みがないので、「弦楽四重奏」というものもそれほど聞いた経験はないのだが、「チェロ」が入っているとすごく聞きやすい。自分でも気がつくと「チェロを主体」に聞いているのだ。ジャズでも「ウッドベース」から聞いていく。ベースという楽器に相当に馴染んでしまっているので、どんな音楽を聴いても・・・底辺の組み立て、みたいな部分にどうしても興味がいってしまうのかもしれない。

Marty Paich/The Broadway Bit (warner brothers:ステレオ金色ラベル) から I've grown accustomed to your face と I've never in love before
ラファロのベース音は~このワーナー盤では録音自体がややエコー強めのためか~For Realと比べると、やや輪郭が甘く聞こえるが、
ビート感、音圧、ソロ、全てが素晴らしい。

Al Cohn/Cohn On The Saxphone(dawn)
dawnのオリジナル盤は、乾いた感じのやや固めのテナーの音。 バラード曲が多く、コーンがじわじわと吹きこむ地味だけどこれはいい盤だ。

Bill Evans/you must believe in spring からthe peacocks。続けて同じ曲、
Yo_007

Jimmy Rawles/The Peacocks(columbia) から the peacocks
最後に聴いたこのジミーロウルズの盤は、1971年の録音で僕はCD(ソニーのマスターコレクション)で聴いていて、中でもこのthe peacocksが、凄く好きになってしまった。ロウルズとスタン・ゲッツのデュオ演奏だ。全編にしみじみした情緒が流れているのだが、最高に「詩的」な場面が最後にやってくる。ゲッツが最後のテーマを終えるところで・・・(もう吹く息は、切れているのに)サックスのキーを「パタパタパタ・・・」としばらく鳴らしているのだ。どう聴いても・・・孔雀が飛び立つイメージにつながる。僕は、この粋なアイディアが事前に準備されていたとは思わない、いや思いたくない。ゲッツが息をきらす、まさにその瞬間に、「パッ!」と閃いたのではないだろうか? ジャズは素晴らしい・・・だからまだ止められない。

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