スタン・ゲッツ

2021年12月31日 (金)

<ジャケレコ  第5回>7インチEP盤には逆らえない

バート・ゴールドブラット装丁のEP盤たち

なんだか知らぬ内に日々が過ぎて、この1年も早くも終わろうとしている。本当に早い。毎年、年末になるとこのような感慨に耽るわけだが、この「夢見るレコード」・・・年に1回だけでも更新せねば、というわりと律儀な気持ちもあり(笑)しかしなかなかいい題材も見つからず、あれこれレコード棚をパラパラと見ながら、埃(ほこり)を払ったりしていたら、棚の前に飾ってあるEP盤がぱたりと落ちてきた。あ、そうだ、これでいこう!・・・という訳で、今回はEP盤である(笑)

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この何年かの内にジャケットを気に入ったものを少しづつ入手してきて、EP盤もけっこう集まってきている。
‌EP盤の魅力はやはり、まずはジャケットにある。そのジャケットから醸し出される雰囲気の魅力である。
さて、EP盤を入手するキッカケにはたぶん誰もがこんな具合かな、と思えるパターンがあって、それはつまり、12インチ盤、10インチ盤でとても好きなレコードがあって(それを持っていても、あるいは持っていなくても)そのレコードと同じデザインのジャケットのEP盤というものが数多く存在している・・・そしてひとたびその姿を目にしてしまうと、その7インチという小振りな姿、形がなんとも「チャーミング」なモノに見えてきて・・・いいなあ、これ!という気分になってしまう(笑)~そんなパターンかと思う。
またデザインは同じで色合いだけ違う場合もあるが(*写真上の方に映っている bethlehem のクリス・コナーなど)それはそれでチャーミングである。このクリス・コナーのEP盤については「夢レコ」過去記事「クリス・コナーの声」で取り上げている)
それから10インチのジャケット写真の、それを撮った時の別カット写真をEP盤の方に使う~というパターンもあるようだ(emarcyのヘレン・メリルなど)それも悪くない。それから、10インチの元盤と関係なくても、そのEP盤のオリジナルなデザインが実に魅力的なものも、当然のことながら、数(あまた)存在する。なんだ・・・これではEP盤というものを好きになってしまうのも無理のないことじゃないか!(笑)

図柄的魅力とは別な話しとして、じゃあ7インチEP盤の音ってのはどうなんだ?という興味もある。
僕の場合、EP盤は45回転だから音もいいはずだ~という素朴的期待感もあり、いろいろ入手してきたわけだが、初期の頃には Clef のゲッツやフリップ・フィリップスの幾つかのタイトルに「かなりいい」と思えるものを見つけたが、それらは例外的なもので、その後は「まあ・・・普通の音だな」と感じる場合がほとんどだった。特定のレーベルなら全て音がいい~なんてことはまったくない。こういうのはやはりタイトルごとの問題だろう。そして「いい場合」の確率はそれほど高くない・・・そんなことから(僕の場合)ある時期からEP盤というものは、あくまでジャケットの魅力に拘るべきだ、と考えるようになった。

さて、さきほどEP盤の棚を少し整理してみたら、なにかしらジャケットが同じ雰囲気のものがけっこう見つかった。それらは主役であるミュージシャンを個性的なイラストで描いているジャケットのもので、たまたまかもしれないが Savoyレーベルのものが多かった・・・そう、バート・ゴールドブラットである。ゴールドブラットはベツレヘムの格調高い写真ジャケットで有名だが、イラストものも凄く個性的で素晴らしいのだ。それらを並べてみたら・・・う~ん、実にいいなあ・・・好きだなあ・・・というわけで(笑)
まずは、バート・ゴールドブラット装丁ジャケットのEP盤をあれこれと紹介してみたい。

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《上写真~黄色と赤色の2枚~Stan Getz/Swedish All Stars(roost) 》赤い方が EP 302(vol.2と右下に表記)と 黄色いのが EP 304(vol.3と表記)である。これこそ同じデザインの色違いパターン。この写真だとジャケットの表面の紙が剥がれているように見えるかもしれないが、これはサックスの部分だけ「白い色」にしてある・・・そういうデザインなのだ(笑)

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《マリアン・マクパートランドの savoy のEP盤~vol.1(xp 8032) と vol.2(xp 8033) と vol.4(xp 8106) 》
これら3枚を集めたが、vol.3 は残念ながら未入手である。そしてこの3枚~表ジャケットは素晴らしいイラストだが、vol.1 と vol.2 の裏ジャケットはまっ白・・・何の表記もない。但し、vol.4 には裏ジャケットに解説と自社レコード広告が載っていたが、エロール・ガーナー、ジョージ・シアリングなどのEP盤紹介のみで、マクパートランドのEP盤 vol.3 情報は得られなかった。
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このイラスト・・・女性がけっこう太めの右腕をアタマの上の方からぐぐ~っと曲げ込んで鍵盤をタッチしている・・・そういう図なのだが、こんな風に肘を90度にしたらピアノなんか弾けないぞ(笑)でもいいのだ・・・写実ではなくイメージ表現なのだから。ゴールドブラットは・・・「線」がいいと思う。線のタッチにすごく強弱感(太い、細い)があって、スピードを感じる。僕はこのイラストレーションをとても好きなので、同じ図柄(色違い)の Marian McPartland MOODS(MG 15022)という10インチ盤~上写真~も手元にある(笑)
  
ゲッツ~他のルーストEP盤にもゴールドブラット装丁のものが在ったので掲げておきたい。ゴールドブラットの描く、どことなくヘナヘナッとしたゲッツの姿が悪くない。しかしながら・・・Roost レーベルの音質はどう弁護的に言っても良いとは言えない。録音の段階から(おそらく)なんというか音が遠いというか、こもったような鮮度感のない音である。これはオリジナルの10インチ盤、12インチ盤でも同じ傾向。残念ではある。

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上写真~Stan Getz/Stan Getz Plays の vol.1(roost EP 301) と vol.4 (roost EP 306)
さて、この2枚・・・同じ図柄で vol.1とvol.4となっているので、当然これらの「色違い」vol.2 と vol.3 が存在しているはず~と考えて、未入手なのを残念に思ったわけだが、その vol.2とvol.3・・・なんとしたことか、先ほど紹介した3つ上の写真~Stan Getz/Swedish All Stars の2枚そのものだったのである! なぜそれが判ったのか? EP 306 の裏ジャケット~そこに答えがあったのである。つまり・・・裏ジャケット右下に EP 301から EP 307までのタイトルがしっかりと表記されていたのだ(笑)こうある。
EP 301 Stan Getz Plays ーvol.1
EP 302 Stan Getz and His Swedish All Stars ーvol.2
EP 304 Stan Getz and His Swedish All Stars ーvol.3
EP 306 Stan Getz Plays ーvol.4
う~ん・・・Plays の方は 1 と 4、Swedish の方は 2 と 3 が手持ちで、なかなか巻(vol.)が揃わないなあ~と少しガッカリ気分もあったのだが、なんのことはない。たまたま持っていたゲッツの roost  EP盤4枚が、ちゃんと vol.1~vol.4 までの揃いになってるじゃないか!これは・・・ちょいと嬉しい(笑)

まあこんな風にバート・ゴールドブラットのカバーアートが大いに魅力的なEP盤ではあるが、たまには音源的な(音質ではない)興味から大いに惹かれてしまう・・・そういうEP盤もある。例えばこいつ。

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ゲッツだけ紹介して他のテナー奏者も出さないのも面白くない(笑)上の2枚のEP盤は、モーリス・レーン(xp 8089) と テッド・ナッシュ(xp 8090) TENOR SAX なるシリーズで文字通りテナー奏者を紹介するための企画のようだ。同じデザインの色違い・・・僕はこういうのにけっこう弱い。おそらくゴールドブラットは2枚を並べた時の効果を考えて、その色彩を決めている。だから・・・こちらも2枚、並べたくなる(笑)
この2枚~例によってジャケット裏に何の印刷も無いので(データが無いので)テッド・ナッシュについては調べた自分のメモが付けてあったことを失念していた(笑)そのメモによると、over the rainbow を含むこの4曲は1946年のSP音源のようだ。dsにマックスローチの名前がある。

さて、この時期のテナーと言えば・・・ブリュー・ムーアを忘れてはいけない~下写真の2枚。

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Brew Moore vol.1 (savoy xp 8066) と vol.2 (xp 8067)  である。これは、vol.1とvol.2の連続番号なので、savoyレーベルには売り出したかった意図があったはずだ。実際、この時代ではすごくモダンなフレージングが素晴らしい。なぜ人気が出なかったのか・・・判らない。
このEP盤2枚~各4曲づつ(計8曲)収録されているのだが、前述のマリアン・マクパートランドEP盤と同様に、裏ジャケットに何も印刷されてない。だからどこにもパーソネルも記されてないわけで・・・同時期(1953年と思しき)の10インチ盤~Brew Moore/Modern Tenor Sax(MG 9028) にはおそらく裏ジャケット情報は載っているだろう。だが僕はその10インチ盤は未入手なので、discogsで savoyレーベルを調べてみると、その10インチ盤には6曲しか収録されていないことが判った。その6曲とは~
EP8066の4曲と8067からの2曲(lestorian mode と mud bug) である。
つまりこの段階で8067から残りの2曲が抜け落ちてしまっているのである。後述するチャック・ウエイン/ブリュー・ムーア音源との関連もあり、なんとなく知ってるつもりだったブリュー・ムーアの savoy音源のことが、ほとんど判ってないことが判った(笑)う~ん・・・なんだかとても気になってきた(笑)そうなると厳しいことに、savoyというレーベルは、コンピレイションものが雑なのである(笑)データ表記もアバウト過ぎて・・・とにかく判りにくい。
だがしかし天は我を見放さなかった(笑)EP 8067に収録されている「レストリアン・モード lestorian mode」という特徴ある曲名が大きなヒントになって、いろいろ判ってきたのだ。

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上写真のEP盤8067に収録の lestorian modeという曲名にははっきりと覚えがあって、それはスタン・ゲッツ絡みで、savoyレーベルにこの名前の12インチLPが在ることを知っていたからだ。そこでゲッツの棚をチェックしたら・・・在った在った。
Lestorian Mode(MG 12105)だ。

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この Lestorian Mode には~ゲッツ、サージ・チャロフ、そしてムーアの3種のセッションから4曲づつが収録されていた。そして、件(くだん)のムーアの8曲の内、8067の4曲がB面3~6曲目に収録されており、そのパーソネルもきちんと表記されていた。よかった(笑)

Brew Moore(ts)
Gerry Mulligan(bs)
Kai Winding(tb)
George Wallington(p)
Jerry Floyd(tp)
Curley Russell(b)
Roy Haines(ds)

lestorian mode
gold rush
kai's kid
mud bug 
録音年は12インチ盤 Lestorian Mode にも表記されていないので、不明です。
*1/4追記~上記4曲の録音年月日が 1949年5月20日と判明しました。Arista/Savoy時代のボブ・ポーター監修の再発盤~
Brothers and Other Mosthers vol.2(SJL 2236)の詳細なデータによって判りました。ちなみにこの2枚組(1979年)には上記4曲が各2テイクづづ収録されています。

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 さて、もうひとつのムーアのEP盤(8066)4曲はどこに行ってるのか? 
こちらも案外すんなり見つかった。
In the Beginning BeBop!(savoy MG 12119) という12インチLPに4曲とも収まっていた。こちらも前述の「レストリアン~」と同じように3種のセッションから4曲づつ(全12曲)収録で、ムーア4曲はA面5,6,B面1,2に配置されている。このセッションはカルテット(4人編成)でパーソネルは以下。
録音年月は12インチ盤にも表記されておらず不明。

Brew Moore(ts)
Gene Dinovi(p)
Jimmy Johnson(b)
Stan Levey(ds)

blue brew
more brew
brew blew
no more brew

*1/4追記~録音年月日が 1948年10月22日 と判明しました。こちらも Arista/Savoy時代のボブ・ポーターによる再発盤~
Brothers and Mothers vol.1(sjl 2210)という2枚組(1976年)のデータに明記されていました。

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さて、ブリュー・ムーアのリーダー作品はと言うと・・・あまり思い当たらない。この savoyEP盤の他にはたしか fantasyに在ったかな?
というくらいだ。調べてみたら(discogs)やはり fantasy に以下の2作品を残していた。
Brew Moore Quintet(1956年)紫色の風神様みたいなジャケットのもの。
Brew Moore(1957年)ムーアがテナー持って笑ってるジャケットのもの。
あとは Brew Moore in Europe(1962年)~ラース・ガリンやサヒブ・シハブとの共演盤~という作品があるくらいで、これでムーアのリーダー作はうんと少ないことがはっきりした。だから、ブリュー・ムーアを聴くためには、他のミュージシャン作品への参加作~後述するチャック・ウエインを含めて~をチェックするしかないのだ。

このように貴重な音源をセッション単位で聴きたい時に、あるセッションがそのまま1枚のEP盤にまとめられているとありがたい。SP音源はA面・B面で2曲単位だから、SP2枚分4曲をEP1枚に収めるケースも多いようだ。それから10インチ盤の時代には、ひとつのセッションを3~4曲でまとめる場合が多いようで、つまりセッション2回で6~8曲分を仕上げて、それらで10インチ盤両面を構成しているケースが多いように思う。また12インチ盤に再収録する場合、先ほどの savoy のコンピレイションLPのように、3つのセッションから4曲づつで、1枚の12インチ盤を構成する場合もある。その際、元セッションの3~4曲が、A面・B面にバラバラにされたり、あるいは別のLPに振り分けられたりするケースも多いようなので、特に興味深いセッションの場合には、その3~4曲が1枚のEP盤にまとめられていると、それだけで嬉しいものなのだ。

次にこのEP盤。

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Here's that Mann vol.2 (dee gee EP 4013)

pooch mc gooch
all of me
back in your own backyard
it don't mean a thing

シェリー・マン名義のEP盤である。セプテット(6人)編成だが、なんと言っても魅力なのが、アート・ペッパーが入っていることだ
(it don't~以外の3曲)  
*写真右スミのEP赤盤は~ミルト・ジャクソンのカルテット(dee gee)これ、round midnight の演奏も音質もいい。

pooch~では「おおっ!」と叫びたくなるような切れ味鋭いソロを聴かせてくれる。all~とback~は歌入りではあるが、間奏やオブリガート(歌の合間に入れる短い合いの手)で見事なソロが聴かれる。歌伴・・・という感覚からはすっ飛んでる!(笑)
これら3曲は1951年11月のペッパー入りセッション4曲からの3曲。そうして嬉しいことに、このDee GeeのEP盤4013~1951年シカゴ録音とのことだが、音質もなかなかに良いようだ。
ペッパー入りのもう1曲は、the count on rush street という曲で、その count~は Dee Gee EP4006なるEP盤に収録。4013がvol.2と表記されているから、4006 はたぶん Here's that Mann vol.1 なるタイトルだろう。
count on rush street は急速調のインスト曲で、この曲でのペッパーのソロも他メンバーのソロも、皆ハリのある素晴らしい演奏だ。
ちなみにこれらの音源はSavoyの12インチ盤 Deep People に収録されている。
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Deep People (savoy MG 12405)のA面4,5,6,7に back~以外の3曲とcount~の4曲収録されている。
*back~は女性歌手 shelby Davisの歌伴曲なので、Singin' and Swingin'(savoy MG 12060)という女性歌手を集めたオムニバスLPに収録されている。

もうひとつ、音源・・・いや、演奏が素晴らしいEP盤を。
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Chuck Wayne Quintet(savoy xp 8119)1954年6月録音

while my lady sleeps
tasty pudding
prospecting
sidewalks of Cuba

このEP盤・・・ジャケットの淡いブルーな色合い、構図、イラストの全てが素晴らしい!好きなジャケットだ。オマケにこのEP盤・・・音源的にもとても魅力的でそれは、やはりズート・シムズのテナーが素晴らしいからである。
《このEP盤の裏解説(オジー・カデナ)によると4曲中3曲が Zoot Sims、1曲(sidewalks~)のみ Brew Moore、とされている。カデナは~"sidewalks of Cuba" which were recorded a week after the sides with BREW MOORE~とハッキリ書いている》
*1/2夜・訂正1~上記のオジー・カデナ解説部分~恥ずかしながら意味を完全に取り違えていました。 最初に、この "sidewalks of Cuba"という曲名が目に入って、次に recorded を見て、それを with Brew Moore につなげて意味を解釈してしまって「そうか、この1曲だけはブリュー・ムーアと録音されたのか」と思い込んでしまいました。しかし改めて裏解説をよく見たら・・・この "sidewalks of Cuba" の前に大事な文章が在ったのです。それをつなげると、以下のようになります。
ZOOT SIMS blows with CHUCK on "Butter Fingers", "While My Lady Sleeps", "Tasty Pudding", "Prospecting" and "Sidewalks of Cuba" which were recorded a week after the sides with BREW MOORE   
そうなんです。ズート・シムズは、これらの5曲を("Sidewalks~" を含む)チャック(ウエイン)と演奏(blows)して、それらが録音されたのはブリュー・ムーアとのセッションの1週間後だった~というのが正しい意味かと思います。
早とちりしての先入観を持ったまま、ズート・シムズとブリュー・ムーアの音色のことなど書いてしまい(後述部分)恥ずかしい限りです。
ここに謹んで訂正させていただきます。

これらの音源4曲は、12インチ盤 the Jazz Guitarist(savoy MG 12077)に4曲とも収録されている。そしてここからが問題なのだが、このLP裏解説では上記の sidewalks~はズート・シムズとされているのだ。つまりズート入り5曲(上記4曲+butter fingers)、ムーア入り3曲、あと4曲(ウエイン、ジョン・ミーガン(p)のカルテット)加えての全12曲とされているのだ。う~ん・・・。Dscn3146

さあ困った(笑)・・・どちらが正しいのだろうか? 
さっそくその sidewalks~を何度も聴いてみた。う~ん、判らない。ズート・シムズのようでもあり、ブリュー・ムーアのようでもある(笑)元々、この2人はまずソフトな音色がよく似ているし、ビートに軽やかに乗るスタイルとフレーズ展開も似ていると思う。しかし・・・気になる(笑)それで、ムーアのリーダーセッション(前述の1953年(推定)8曲)など、ムーア絡みをあれこれ聴いてみた。その上での自分なりの認識はこんな風だ。
<高音域フレーズの時~アルトっぽい艶々した音色になるのがズート・シムズ。やや掠(かす)れたような乾いた音色になるのがブリュー・ムーア>
<音色の全般として~ヴェールが掛かったようなソフトなマイルドな感じがズート・シムズ。
全体にサブトーンの度合いが強めで(シムズよりは)時に乾いた硬い感じ(シムズよりは)になるのがブリュー・ムーア>
そんな印象を持ちながら、改めてこの sidewalks~を聴いてみると・・・やっぱり判りません(笑)それでもちょいと無理やりに理屈を付けてみると・・・テナーのソロの時に高音域の繰り返しフレーズで僅かに引っ掛かるような場面があって・・・ズートはほとんどのフレーズに迷いが無いから・・・そうするとこの sidewalks~のテナーは、ブリュー・ムーアであるように僕は判断している。
*1/2夜・訂正2~すみません、完全に間違えました。sidewalks of Cuba のテナーは、12インチ盤解説の通り、ズート・シムズです(パーソネル表記の詳細については写真の上の青字「訂正1」をご覧ください)

いずれにしても、この2人がそれぞれの曲でチャック・ウエインのギターに絡んでテーマをユニゾンで吹く場面が多いのだが、ウエインのギターにフィットしたソフトなテナー音色が素晴らしい。どのトラックも味わい深いが、僕が特に好きなのが while my lady sleeps だ。この曲、なんとも慎み深いような雰囲気のあるメロディの曲で、僕が最初にこの曲を知ったのは、プレスティッジの「コルトレーン」というLPからである。1972年秋にビクターが、prestigeゴールデン50なるシリーズで1100円(当時、LP盤は大体1800円~2100円だったのこの1100円という価格は画期的に安価で、しかし良質なジャズLPだった)で発売した時の目玉がこの「コルトレーン」だった。このレコードは、だいぶ後になって、傑作バラード~<コートにすみれを>収録LPということで有名になったように記憶しているが、もうひとつのバラード曲がこの<while my lady sleeps>だったのである。コルトレーンはスローバラードで仕上げているが、こちらのウエイン/シムズは意外にも速めスイングだ。しかしそれも素晴らしい。

さて、このEP盤(XP 8119)にも vol.1という表記があり、裏解説をよく見ると続き番号の XP 8120 がvol.2 のようで、これは前述のシェリー・マン(dee gee EP 4013)と同じケースである。これは単にsavoy レーベルのやり方というだけかもしれないが、つまりこういうことではないだろうか・・・要はあるセッションが完了して、その音源がまず10インチ盤で発売されて、そのすぐ後に(あるいは同時に)2枚のEP盤に分けて発売された~というパターンだと考えられる。価格面でも10インチ、12インチよりは7インチEPの方が安かったので、好みの曲を収録している方のEP盤だけ購入する~という需要があったから、同じ音源でもいろんなフォーマットを用意したのだろう。
そうだ、考えてみれば日本でも、33回転コンパクト盤なるフォーマットがあったじゃないか。たいてい4曲入りで、要はアルバム(LP)を買うまではいかないけど、ヒットした曲を聴きたいな、という場合に、このコンパクト盤が重宝したのだ。そういえば・・・僕もサイモン&ガーファンクルの<明日に架ける橋>はコンパクト盤で我慢していたな(笑)
アメリカでEP盤というフォーマット(45回転)が盛んに発売された頃は、大体のところ、10インチ盤の同内容がEP盤2枚、12インチ盤同内容がEP盤3枚になるパターンが多いようだ。Clef や Victorレーベルの場合だと10インチ盤や12インチ1枚分をEP2枚組み、3枚組みとしたタイトルがけっこうある。あの「見開き組みセット」にしたEP盤もこれまたチャーミングではある。それらについてはまたの機会に。
う~ん、それにしても・・・レコードというものは、どうしたって楽しいものですね(笑)

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2012年12月31日 (月)

<思いレコ 第19回>スタン・ゲッツのJazz at Storyville。

スタン・ゲッツ入魂のアドリブ・・・1951年の傑作ライブ!

ジャズを長く聴いていると、まだ馴染みのないミュージシャンであっても、なんとなくこの人は好きだな・・・と感じる場面がけっこうある。それからそのミュージシャンのレコードを色々と聴いていくと・・・その人の諸作の中でも分けても好きなアルバムというものが自(おの)ずと浮き上がってくる。ジャズを長いこと聴いてきても厭きないのは、そんな風に少しづつ自分にとって未知のミュージシャンを知り、その人を身近に感じていく・・・そんな過程が楽しいからかもしれない。

10_004 Stan Getz/Jazz at Storyville(Roost RLP-407)1952年
thou swell
the song is you
mosquito knees
parker 51

スタン・ゲッツ・・・この人をもう長いこと聴いている。特に50年代初期のゲッツに痺れている。何故か?何かを好きになるのに理屈はないのだろうけど、強いて言えば・・・僕はまずもってあのテナーの音色が好きなのである。
1949年~1953年頃のゲッツの音色は、音が小さく、か細い感じで、ごく素朴に言えば・・・あんまり力強くない(笑) 
僕の場合、テナーという楽器ではロリンズを先に好きになったので、この50年代ゲッツ聴きのごく当初には、若干の違和感を覚えた。ちょっと器楽的な話しをすれば、ゲッツの音色はサブ・トーンの割合が多い感じかと思う。サブトーンというのは・・・(私見では)吹き込んだ息の全てを音として「強く大きく鳴らそうとはしない状態」・・・というか、そんな吹き方のことだ。だからサブ・トーン気味の音は、まずは「柔らかい感じ」に聴こえる音色だと思う。判りやすい例を挙げるならば・・・<レスター・ヤングがサブトーン主体で、コールマン・ホウキンスがフルトーン主体>かな。
(実際の聴こえ方としては、サブトーンだから「小さい音量」、フルトーンだから「大きい音量」という単純なことではないとも思う)

様々なミュージシャンの現す音色(例えばテナーならテナーという楽器の)に対しての好みというものは・・・ヴォーカルものへの好みと同じように「その声(音色)」に対しての生理的な反応で左右されると思う。
「おっ、いい感じの声だな」と感じるのか・・・あるいは「あまり好きな声じゃないな」と感じるのか。そんな具合に、どういうものを好むかは良い・悪いじゃなくて、聴き手それぞれの感性の問題だろう。

楽器の音色としてゲッツのあの「ヒョロヒョロ~」がダメだという方も多いような気もするが、僕の場合は、その「ヒョロヒョロ音色」はすぐに気にならなくなり、というより、太くはなくても力強くはなくても・・・その逆に、柔らかくて肌理(きめ)の細かい肌触りのいいシルクのような・・・その「音色」を好きになった。 
そしてこのことは・・・ちょいと大げさに言えば、ジャズの魅力というのは、力強くゴツゴツした黒人的なハードバップだけにあるわけではなかった・・・という、僕のジャズ聴きへの新たな開眼ポイントになったのだ。

僕自身のジャズ聴きの変遷を思い起こしてみると、ゲッツについては、50年代ゲッツに踏み込む前に、60年代のボサノヴァでのゲッツはよく耳にしていて、そこでもうゲッツを好きになってはいたじゃないか。ジョアン・ジルベルトとの「イパネマの娘」・・・間奏部でのあのゲッツのソロ! なんと見事に歌うフレーズであることか!あれは譜面か?(アレンジされていたもの) と思わせるほどに、テーマメロディを生かしながらの、小粋な崩し。ソロの最後の辺りの3拍3拍2拍のフレーズ・・・これはもう「粋」としてか言いようのないジャズになっていると思う。
この辺りの「前ゲッツ体験」を、今、あえて分析してみると・・・たぶん僕は、ゲッツの自然なフレーズ展開の見事さに感心していたのだろう。元メロディを生かしながら自在に展開させてしまうセンスのよさ・・・そうなのだ、ゲッツという人は「音色」だけではなく、「フレーズ」の人でもあったのだ! そんなの、あたりまえの話じゃないか(笑)

スタン・ゲッツは閃きの人だと思う。「閃き」を生かす~という点では、ソニー・ロリンズと同じタイプ(音色やフレーズは全く対極だが)かと思う。そうして・・・いい「閃き」が湧いた時のゲッツは・・・本当に凄い。テーマの部分では元のメロディを崩したりもするが、しかしそれは元メロディのツボをちゃんと生かしたようなフレーズであって、そしてひとたびアドリブに入れば、ゲッツはもう吹くのが楽しくて仕方ない・・・という風情で、迷いのない、そして見事に歌っているフレーズを次々と繰り出してくる。スローバラードでの叙情溢れるフレーズももちろん素晴らしいのだが、急速調でのスピードに乗った淀(よど)みのないフレージングときたら・・・それはもう、本当に生き生きとした音楽がそこに立ち現われるのだ。

10_003 Stan Getz/Jazz at Storyville volume 2(Roost RLP-411)1952年
pennies from heaven
budo
jumpin' with symphony sid
yesterdays

さて・・・ゲッツの「音色」と「フレーズ」についていろいろ書いてきたが、僕が思うスタン・ゲッツという人の本当の凄さとは・・・実はその「音色」と「フレーズ」の見事な融合感にあるのだ。
ゲッツの吹くフレーズには理論で分析したような跡はまったくない。閃きによって生まれた自然なフレーズを、あたかも「そういう音しか出なかった」ように思える自然な音色で吹く・・・。これら2つの要素がまったく違和感なく、ごく自然に溶け合っていることに、僕は驚くのだ。
スタン・ゲッツという人は、自分の音色に合うフレーズを自ら生み出したのだ・・・いや、自分のフレーズに合う音色を創り出した・・・そういうことだと僕は思う。
そうして、ひとたび彼がテナーを吹けば、それがテーマであってもアドリブであっても・・・そこには本当に「自然な歌」が溢れ出るのだ!

もしあながたゲッツのそんな「自然な歌」に浸りたいのであれば・・・何を置いても、スタン・ゲッツのこの Jazz At Storyville を聴かねばなるまい。ようやくレコードの話しになった(笑)
Jazz At Storyville は「ストーリヴィル」というジャズクラブでの1951年10月28日のライブ録音である。1951年のしかもライブ録音だから、やはりそれほどいい音質とは言えない。まあしかし・・・このライブ盤に関しては・・・音質云々(ウンヌン)はもうなしにしよう。 音楽を聴こうではないか! 1951年のこの瞬間に、テナーという楽器を本当に生き生きと吹いた・・・そう、息を吸って吐いていた彼の生きた時間を、生きた音楽を聴こうではないか!

Roostレーベルにはゲッツの10インチ盤が7枚ある。その内の3枚が、Storyvilleのライブ盤である。番号は~407、411、420で、各4曲づつ収録の全12曲。後に2枚の12インチ盤で再発された時に、1曲(everything happens to me)が追加されている。
*12インチ盤の写真はこの記事の一番下にあります。

10_002 vol.1が1952年に発売された後、1954年に発売されたvol.3(420)の裏ジャケット。タイトルJAZZ AT STORYVILLE の下の、~not so long ago at the Storyville Club in Boston という文章が何やら言い訳がましい(笑) 2年も経ってしまったから「最近」とは言えずに「そんなに以前のことではない」みたいな意味合いだろう。

これらシリーズ3枚目の10インチ盤~3枚のライブ盤:全12曲・・・どのテイクも本当にいい。しかしあえて・・・ベストを(というより単に自分の好みだが)挙げれば・・・そうだな、やはり parker51ということになるかな。
parker51なる曲は「チェロキー」のコード進行をそのまま使っていて、そもそもチェロキーという曲は急速調で演奏されることが多く、スピードに挑戦する時に格好の曲なのだ。ゲッツはパーカーがそうしたように、2小節8拍を「3拍3拍2拍」で取るノリのフレーズを吹いたり、細かいアルペジオ風のフレーズの終わりを「タッタッタッ!」という歯切れのいいスタカートで締めるパターンを繰り返したり・・・いろんなアイディアを繰り出してくる。・・・parker51 は全員がスピードの限界辺りを果敢に突き進んでいて(220くらいのテンポか)そのリズムに乗って、スタン・ゲッツがアドリブの本領を発揮している名演だと思う。
ドラムのタイニー・カーンも凄い。特に急速調の曲でのタイニー・カーンは、柔らかいシンバリング(シンバルの叩き方)で、バンド全体をグイグイと乗せてくるような感じだ。バッキングを無難に流すだけのありきたりのドラマーではない。そして、vol.3に収録の move では終盤にドラムのソロ場面があるのだが、これが素晴らしい聴きものだ。リズムの割り方が面白くて、かなり変則的なことを演っているのだが、自分のソロを見事にコントロールしている。1951年としては相当に新しい感覚だと思う。カーンもまた閃きの人だったのだろう(笑) ゲッツは明らかに、このドラマーの凄まじいノリに刺激を受け・・・燃え上がったのだ!
ジャズは・・・凄い(笑)

10_001 Stan Getz/Jazz at Storyville volume 3 (Roost RLP-420)1954年
rubberneck
signal
hershey bar
move

ジャケットについて言えば・・・vol.3の写真ジャケが一番好きだ。vol.1とvol.2のジャケット・・・バート・ゴールドブラットのイラストは、もちろん悪くないが、何かしら全体のバランスがちょっと変な感じもあって、その点、vol.3のモノクロ写真はかっこいい。ゲッツのあの「白いマウスピース」が、ひと際、輝いている。そうしてよく見てみると・・・あれ?このゲッツの写真~(写真上)右向きでテナーを吹いているゲッツのアップ写真なのだが、これ・・・明らかにvol.1とvol.2のイラストと同じじゃないか。そうか、この写真を基にイラストにしたのだな。そしてvol.3のジャケット右隅にはメンバー4人の演奏中と思(おぼ)しき写真も写っている。う~ん・・・しかし小さい。この4人をもっとアップにした写真を裏ジャケットに載せればよかったのに。

余談だが、この「白いマウスピース」について少しだけ。この白いマウスピース(brilheart社のstreamline)・・・僕などは、あれこそがゲッツの代名詞みたいなイメージを持っているのだが、ゲッツも生涯、このマウスピースしか使わなかった・・・ということではないようだ。管楽器をやっている方には当たり前のことなのだが、管楽器というものは、マウスピースの種類によってその音色が相当に変わるのだ(リードの種類も大いに関係してくる)
スタン・ゲッツも、ある時期、マウスピースをあれこれ試していたらしい。ゲッツのテナーの音色(基本的にはサブトーン主体のソフトな音色だと認識している)が、年代によって微妙に違うようにも聴こえるのだが、それは当(まさ)にマウスピースの違いによるものだったのかもしれない。その辺りについてジャズ仲間のsige君がとても参考になる資料を紹介してくれた。
テナー奏者の西条孝之介が、ゲッツの使ったマウスピースについて詳しく語っているのだ。以下、ほんの一部を抜粋~
≪(細いメタルのマウスピースを使ってますね)これはベルグラーセンですね~ゲッツは若いとき、ビバップをやろうとした~サヴォイの「オパス・デ・バップ」の頃、僕としては許せない音なんですよ。下品な音。~~~~~~~~ウディ・ハーマン楽団の頃から変わってくる~白いマウスピースですね。ストリームラインと書いてあるけど~ブリルハート社製でね。プレスティッジもルーストも全部これ~≫ う~ん、興味深い・・・。ジャズ批評119号(p101~p103)をお持ちの方~ぜひご覧ください。

なんにしても・・・ジャズは本当に素晴らしい!

122 左の写真~2枚の12インチ盤。
左側が第1集(1956年)
右側が第2集(1957年)
追加1曲のeverything happens to meは、第2集のA面最後に収録されている。



下の写真~試みに第1集のジャケットを「反転」させてみると・・・なかなかいい写真が現われた! ベーシストにうんと近い位置で吹いている。ストーリーヴィルでの演奏中の写真なのだろうか?

Getz_roost_12inch_1_2

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2011年6月 4日 (土)

<ジャズ回想 第24回>また、いいレコードをたくさん聴いた。

久々にYoさん宅・・・あっという間の7時間。

 

毎年、初夏の頃になるとYoさん宅に集まるのだが、今回はホストのYoさん、PaPaさん、denpouさん、recooyajiさん、konkenさん、bassclefの6人が、青い顔したウーレイ(スピーカー)の前に陣取った。皆、声こそ出さないが「ぐへへへ」という顔をしている(笑) さあ・・・お楽しみの始まりだ。

 

この日、若干の逡巡(しゅんじゅん)の後、Yoさんが選んだのは、ドルフィーのLive In Europe vol.1だった。ドルフィーから・・・というのはこうした音聴き回ではちょっと異例かもしれない。演奏会でもレコード聴きでも、たいてい最初の曲は、ちょい軽めというかリラックスした感じの曲・演奏から始めることが多いように思う。だから・・・初っ端(しょっぱな)からドルフィというのは、なんというか・・・若干、ハードかもしれない(笑) だけどこれには訳がある。
実は少し前に「この頃はドルフィーを聴いている」というYoさんからのメールがあって、じゃあ次回の音聴きで会は、「ぜひドルフィのバスクラ(バスクラリネット)のソロ~God Bless the Childを」とお願いしていたのだ。Pr7304_j_2
E.Dolphy/Live in Europe vol.1(prestige) 2nd紺ラベル
god bless the child 
この演奏・・・ドルフィのまったくの独り吹きである。このバスクラ独奏でのGod Bless the Child・・・僕は高校の時、FM放送から録音したカセットを聴きまくって、そうして大好きになったのだ。
僕はジャズという音楽を中学3年の頃から好きになり、そのうち聴くだけでは飽き足らなくなり、大学のジャズ研でウッドベースを触るようになった。ベースという楽器を選んだのはたぶん偶然だが、僕は「音」に対する感性の根っこがわりと単純らしく、音楽を聴く際、概(おおむ)ね、高い方の音より低い方の音を好むようだ。そんな単純脳の僕が苦手なのは・・・まず、ハードロックのエレキギターの音。あれがダメである。そしてロックのヴォーカルはたいてい甲高い声で叫ぶわけだから・・・これもけっこう辛(つら)い。
ジャズヴォーカルでも高めの声を張り上げるタイプ(例えば~ジュディガーランド)よりも、低めで落ち着いた声質(例えば~アン・バートン)を好む。
ジャズ聴きにおいての「管楽器の音色」についての好みで言えば・・・まずサックスが好きだ。そしてアルトよりテナーだ。
低い方がいいのなら、バリトンサックスが最も好きなはずなのだが、そうでもない(笑) バリサクの音も嫌いではないが、たまに聴くといいなあというくらいで、ハードでゴリゴリなタイプ(例えばペッパー・アダムス)よりも、ライトな音色タイプ(例えばジェリー・マリガン)の方が好みである。
金管のトランペットも、もちろん嫌いではないが、トランペットにおいても、強いアタックで高音域のフレーズを吹きまくるタイプより、ゆったりした音色で中音域のフレーズを吹く方が好みだ。
そうだ・・・トロンボーンも実にいい音色だ。時にはトランペット的なアタックも効くし、何よりもスタンダード曲をゆったりと歌う感じにはピッタリの音色じゃないか。ジャズ聴きも長いがこの15年ほどか・・・ボントロをますます好きになってきている。
クラリネットも・・・いい。実はクラリネットなんて・・・と長いこと思っていたのだが、アート・ペッパーの「家路」を聴いて、あの独特な表現力を醸し出すこの楽器の魅力に目覚めたのだ。あまり音源がないようだが、レスターヤングのクラリネットにも同じような魅力を覚える。ただクラリネットは、奏者によってかなり音色のクセが違い~これはクラリネットに限らないが~わりと甲高い感じの音でパラパラと吹くベニー・グッドマンはほとんど聴かない。好んで聴くのは、ゆったり音色のバディ・デフランコくらいか。ソニー・クラーク入りのバディ・デフランコの音色は、しっとりと暖かく、実にいい。うん、クラリネットまできたな。
そこで・・・・・バス・クラリネットなのである。
これが・・・いい! バスクラというのは、立ち姿が長くてその形だけでも絵になる楽器なのだが、もちろん「音」の方もチャーミングなのだ。くごもったように暗くて、しかし仄(ほの)かに暖かくもあるような、あの不思議な音色。そしてサックスに負けないくらいの音量と音圧感。実は最近、このバスクラという楽器に触る機会があって、ちょっと吹かせてもらったのだが・・・低い方を鳴らした時、体に伝わってくる楽器の胴鳴り振動に僕は痺れた。
そしてバスクラと言えば・・・これはもう、ドルフィーなのだ!Pr7304_l

ドルフィーは、この曲の原曲メロディを、おそらくは、わざと出してこない。始めのうち・・・ドルフィーは、なにやら音をまさぐるように、バスクラの低音域を使ったアルペジオっぽい音階をしつこく続けてくる。そうしてある時~たぶん曲のサビの部分か・・・ここでいよいよ、高い音を吹く。これが・・・とても印象的で、それまでの低い音域でのファットな音圧感豊かな音色とは違う質感の、ちょっと歪んだような、ノドをキュ~ッと絞ったような、そんな悲痛な音色なのだ。でも・・・それが効く。バスクラ独奏においての静と動。抽象と具象という感じがしないでもない。まあそんな解釈はどうでもいい。とにかく・・・このバスクラ独奏は、純粋に「ドルフィーという人間の音の世界」なのだ。僕らはその「音」に、ただ浸(ひた)ればいい。

 

Yoさんのシステムはバランスがいい。だから7時間、聴いていても音に疲れはしない。音の説明はまったく難しいことだが、あえてシンプルに言えば~
まず低音のエネルギー感が凄い。そのエネルギー感とは・・・量感だけでなくその演奏においての奏者が意図して発したであろう強弱の表現が~ピアニシモ(弱く)とフォルティシモ(強く)の楽器の鳴り具合。とりわけ「ここぞっ!」と強く吹いた・弾いた時に、ぐぐ~っとそこに現れるエネルギー・音圧感・存在感の体現~凄いのだ。これを「音楽的なリアリティ」と表現してもいいかもしれない。
以前から、このウーレイで聴かせてもらうロックのバスドラの音の強弱のニュアンスとそのリアリティ(存在感)に驚いてはいた。ウッドベースも同様である。そして・・・バスクラのような、なんというか低音域に溜めたような音圧感が発生する楽器にも、このウーレイは素晴らしい鳴り方・・・いや、表現をしてくれた。ドルフィー好きが聴いたら・・・これはもう「う~ん・・・」と唸るしかないだろう(笑)
「低音」の話しになったので、ここで、低音全般に拘るYoさんの低音観みたいなものを紹介してみたい。メールやりとりの中で、オーディオに疎い僕のために、Yoさんが判りやすく説明してくれたものだ。
*Yoさんの了承を得てここに転載します。
≪私は「音楽のファンダメンタルは中音だけど、音のファンダメンタルは低音だ」と考えています。私の言う中音とは音楽帯域の意味で楽譜で表される音の範囲のつもりです。SPのようなレンジの狭い(中音だけの音)でも音楽の感動を味わえますから音楽にとって大事なのは中音だという事は当然です。
しかしオーディオで再生音の音作りをするとき最も大事なのは低音と考えています。特に私のように等身大のエネルギー感を出そうとする場合に低音という音のの土台がしっかりしていないと楽器の実在感や本当の臨場感は得られません。
低音が大事な理由のもう一つは最も調整が難しいのが低音で、それが中音以上に影響する事です。
部屋の影響を最も受けやすいのも低音ですし、低音が原因する共振、共鳴の倍音成分が中音以上にかぶったり音全体に悪影響が出てしまったりもします。中、高音のうるさいところなどが結局低音が原因していたという経験は何度かあります≫

 

さて・・・会の最初のうちは、皆さん、柄にもなく(笑)けっこう遠慮しているので、手持ちのレコードをなかなか出さない。だから、ホストのYoさんがいくつかレコードを選んでいく。

 

Zoot Sims/Zoot Sims In Paris(UA サックス吹きラベル)
Uaj_14013_j
UAレーベルへの興味からモノラルとステレオの聴き比べもしてみた~Uajs_15013

 

ステレオではやや左からズート。わずかにエコーがかかったようなふっくらしたテナーの音色か。でもこのエコーは、明らかにこのライブ会場のの自然な響きエコーだから気にならない。 むしろ、いかにも「ライブ」という感じがよく出ていて、そんな音色がリラックスしたズートの芸風ともピタリと合致して、これはもう実にいい雰囲気なのだ。Yoさんも「ズートで一番好きかもしれない」とのこと。Uaj_14013_l_2この「サックス吹きラベル」は、ステレオとモノラルで質感に大きな違いがなく、どちらもいい音だった。「UAはステレオがいい」と思ってはいるがもちろん全てのタイトルにそれが当てはまるわけではないようだ。

 

 

 

Frank Strozier, B.Little, Geroge Coleman~/Down Home Reuion(UA)
Uas_5029_j ステレオ盤(青ラベル)
Uas_5029_l_4   うん、これはいいっ!最初の音が出た瞬間に僕はうれしくなってしまう。ソロの先陣を切るのはストロジャーのアルト。これが実に太っい音色なのだ。ストロジャーというと、vee jayレーベルのfantasticでよく知られているアルト吹きだと思う。
僕はこの人を、ジャズ聴きの初期からマッコイ・タイナーのtoday & tommorrow(impulse というレコードで耳にしていて、その後は、MJT+3というグループや jazzlandの作品を聴いてきたが・・・このUA盤を耳にすると・・・ストロジャーのアルトって、こんなに艶やかでしかも逞(たくま)しい音色だったのか!と驚くほど太い音色と、そしてもちろん気合の入ったいいソロじゃないか。素晴らしい!
それにしても、中央からアルトが押し出してくる、このリアルな音圧感はどうだ。こういう、いい録音の、もちろんいい演奏のレコードを掛けると・・・Yoさんのウーレイ(スピーカー)も、実に気持ちよさそうに鳴っている。
続くソロは、ブッカー・リトル。中央からやや左から鳴る。独特なちょっとクールな響きで、しかし、これも独特な内に秘めたような情熱・情感を感じさせるトランペットだ。リトルはさっきもドルフィのFive Spot vol.2で聴いたが、私見では、フレーズがどうのこうの言う前にあの「深く鳴る音色」を味わうべきタイプのペット吹きだと思う。音色そのものに説得力があるという感じだ。
  Dscn2827_2そして、ベースがジョージ・ジョイナー・・・これもミンガス張りの強いアタックで弦を引っ張り倒したような、ザクザクしたようなベースの音色が魅力的だ。やっぱり・・・United Artistsの青ラベル(ステレオ盤)はいいのだ(笑)
ちなみに僕の手持ち盤は、日本キングから発売された1500円盤(ステレオ盤)だけど、各楽器の音圧感・鮮度感も案外、悪くないので・・・この日本盤でガマンしようではないか(笑)

 

Prlp_7116_j_2 Four Altos(prestige) NYCラベル
Prjp_7116_l_2 「盤質は悪けど・・・」と前置きして、Yoさんが、PrestigeのNYCラベル盤を出してきた。音はさすがの鮮度感だが、それよりも、Yoさん、こんな風にみんなで聴くときに「楽しめる」レコードも好きなのだ。
このアルト4人・・・誰か、判る?ということで、さあ、皆、聴き始める(笑)
「これ、誰?」「う~ん・・・判らん」「聴いたことないアルトだね」
誰も~だと断言できない(笑) 誰もが、フィル・ウッズだけは判るが、残りの3人がなあ・・・だから・・・ソロが2人目、3人目と進むと、「あっ、これは、フィル・ウッズ?ウッズだね」という具合なのだ。だけどウッズとクイルもよく似ているぞ(笑)
僕の認識では・・・ウッズと似ているけど、もうちょっとだけ荒っぽいかな・・?というのが、たぶんジーン・クイルなのだ。
となると・・・残りの2人が、サヒブ・シハブとハル・スタインということになる。サヒブ・シハブというと、たいていはバリトンサックス吹きとしての認識だろうか。そのシハブのアルト? それにほとんど録音のないハル・スタインのアルトを「おっ、ハルだ!」とすぐに判るようなジャズ好きなんているのだろうか・・・いや、日本に5人くらいは居るんだろうな。スタインに興味ある方は、はとりあえず、あのprogressive盤(もちろん日本盤でも)を聴くしかないだろう。それにしても、この「4アルト」・・・ソロの繋ぎ部分で4人が間髪を入れずに次ぎの奏者が吹き始めるので、うっかりすると「あれ?今、替わった?いや、まだか?」てな具合で、下手したら、ソロ奏者が替わっても気が付かないこともあるかもしれない。こういう時、モノラル録音はちょっと辛い(笑) 
てなわけで・・・アイラ・ギトラー氏の裏解説に頼りましょう!というのが皆の結論だった(笑) ボブ・ワインストック氏も・・・まったく罪作りなレコードをこさえてくれたものだ。

 

さて、ここで、denpouさんが取り出してきたのは・・・
Original_lp3_002 Rita Rice/Cool Voice of ~ vol.1(オランダphillips) 

 

Original_lp3_001このレコード・・・CDを持ってはいたが、やはりLPが欲しくなったその頃、ヴォーカル好きのkonkenさんが同じタイトルの米columbia盤を2枚持っていたので、その内の1枚を交換してもらったのである。
そのジャケ違いの米columbia盤もなかなか人気があったようだが、リタ・ライスがオランダ出身でA面6曲がオランダ録音だから、やはりこの蘭Phillipsがオリジナルだろう。
konkenさんからのリクエストで、 I cried for you を聴く。このオランダ盤・・・音が良かった。
欧州盤独特のちょっとツンと澄ましたような感じの音質で、アメリカの黒人ハードバップのバンドがもう少し洗練された巧い白人バンドのようにも聞こえてくる。もちろん歌伴(ヴォーカルの伴奏)だから・・・ブレイキーもいつもより静かめに叩いたんだろうが、ブレイキーのシンバルがいつもより抑え目に聞こえる(笑) 
Dscn2826 同じシステムで聴き比べたわけではないので、あまり意味はないかもしれないが、米columbia盤(僕の手持ちは白プロモラベル)とはだいぶ音の質感が違うようでもある。このレコードA面6曲はブレイキーのジャズ・メッセンジャーズのB面6曲については、Recorded in the Unitied Statesと表記されているので、B面については、米Columbia盤もオリジナル・・・と言えなくもない。この米Columbia盤のThe Cool Voice を聴いてみると・・・Phillips盤に比べ、ベースの音が太めに大きく、そしてドラムスの音がザラついたような感じに聞こえて・・・やっぱりアメリカの黒人ジャズの音がするのである。いや、そういう気がする(笑)
その辺りの音の印象のことをヴォーカル好きのkonkenさんに尋ねてみると、彼はこんなコメントをくれた。
≪先入観があるのかもしれませんが、基本的にはアメリカ人は米盤、ヨーロッパ人は本国盤がいいと思います。リタ・ライスも全部聴いていませんが、バックがメッセンジャーズなんで米盤の方が好みかな?というカンジですが、歌はオランダ盤の方がいいかな? だから反対の地元バックのA面はオランダ盤の方がいいかもしれません。
聴き慣れてるせいかもしれませんがジャズには米盤の方が親近感があります。1980年代前後にECMが一時ブームになったことありましたが、ちょっと醒めたような質感はジャズ自体が醒めたような感じがして自分のジャズを聴こうという気持ちまで醒めさせたような印象をいまだにに引きずってるようです。ジャズは音程がズレていようと録音にクセがあろうと熱いモノが伝わった方に軍配を挙げたいです≫
もともとこのレコードのプロデュース意図は・・・たぶん、ヨーロッパの女性歌手がバリバリのハードバップバンドに挑戦する~みたいなことだったようにも推測できる。そういう気持ちもあって聴くと、ライスは意図的にねっとりとした歌いまわしをしているような感じもする。これまであまり意識して聴いたことのないリタ・ライスが、やはりとても巧い歌い手だということがよく判る1枚であった。もう1曲・・・と聴いたバラードの my one & only love は、ホレス・シルヴァー名義のstyling of Silver収録のmy one & only loveと同じアレンジだった。

denpouさんはEP盤もお好きなようだ。
Dscn0204Dscn0202metronomeのEP盤~S.Getzのストックホルム録音の内、4曲入り(school boy 、I have only eyes for youなど)録音自体がかなり古いけど、さすがに録音したその国のEP盤・・・独特の生々しさのある音だが、素晴らしい録音とは言えない。これらゲッツの音源はroostの10インチ盤、12インチ盤も聴いたが、どれも音質はイマイチなようだ。


PaPaさん、満を持してこの1枚を~
Charlie Parker/~(clef)MGC-157 10inch盤 「鍵穴のパーカー」だ!Cimg7398
垂涎(すいえん)盤が出た。クレフの10インチ盤・・・このcover artはもちろんストーン・マーチンだ。マーチンのイラストは・・・細部を見ても面白いがそれよりパッと見た全体の構図・色合い~その印象度が圧倒的に凄い。ビビッとくる。わりと多めに赤色系を使うマーチンだが、この10インチ盤のcoverは、全体に黒っぽい色合いの中に、くくっと効く明るい色を持ってくる・・・そんな色使いが絶妙だ。、それにしても、なぜ主役のアルト吹きを狭い鍵穴から覗かなくてはならないのか(笑)Cimg7400_2
confirmation~1953年録音だから、パーカーとしては後期の録音ではあるが、ドラムにマックス・ローチ、ピアノにアル・ヘイグという当時の新鋭をバックにしたワンホーンで、I remeber you、now's the time など、どの曲も、ぐぐっ と気合の入ったセッションだ。
この10インチ盤・・・アルトの音色がものすごく艶やかで、生々しい音圧感もあり、そしてやっぱり・・・パーカーのアルトは「重さ」を感じられる素晴らしい音質だった。録音そのものがしっかりしているようで、古い録音を聴き込んで出来上がってしまっているかもしれない「パーカーの音」のイメージが覆されるような、パーカーの音だった。これが50年も前のレコード盤の音とは・・・まったくレコードというものは凄いものである(笑)
そういえばいつものPaPaさんは、ちょいマイナーなサックス吹きやヨーロッパの管奏者をセレクトしてくるのだが、今回はあえて「ジャズ大物盤」を選んできてくれたようだ。パーカーの後は~
Cimg7404_2 A.Pepper/Meets the Rhythm Section(contemporary)モノ
M.Davis/kind Of Blue モノラル と Yoさん~Kind Of Blue ステレオ(プロモ白ラベル)
という流れになった。
どれも真に名盤で、音も演奏も素晴らしくて、「いやあ・・・やっぱりジャズはいいなあ」という幸せな気持ちになってしまった(笑)

 

Cimg7402 kind Of Blueは、同じCS六つ目ラベルでもステレオ盤の人気が異常に高いようだが、このモノラル盤も相当によかった。CBSレーベルは品質が安定していて、モノラルでもステレオでも音の質感がそれほど大きく変ってしまう・・・というようなことも案外少ないと思う。
そしてこのKind Of Blueのモノラル盤は~
Cimg7414 特に3人の管楽器の音量・音圧感が大きく聞こえて迫力がある。だからコルトレーン、キャノンボール、マイルスを強烈にたっぷり味わいたい方はモノラル盤の方が好みになるのかな、という気がする。この後、Yoさん手持ちのステレオ盤(プロモ:白ラベル)も掛けてみると・・・定位としては、コルトレーンとエヴァンスが左側に、キャノンボールがちょ右に、と変ったり、全体的に管楽器がちょっとおとなし目に聞こえたり、ベースが少し薄みになったりもしたが・・・僕はやはり(笑)Kind Of Blue については、ステレオ盤のややライトな(軽い)感じのサウンドの方が好みのようだ。

konkenさんは渋い1枚を出してきた~
Al Grey/The Last Of The Big Plungers(argo) ステレオ盤
Grey_1特にargoレーベルの音がいい、という認識はなかったのだが、このステレオ盤、 やけに音がいい。録音エンジニアはMalcolm Chisholmと記されている。 konkenさんはだいぶ前からトロンボーン好きのようで、こういうボントロの渋い盤までディグしているのだ。Argo_gold_4アル・グレイはベイシー楽団のボントロ吹きで「プランジャー」というのは、ゴムでできたお椀みたいなもので(ちょうどトイレが詰まった時の掃除道具みたいな)それをトロンボーンの音の出る開口部に当てたり外したりして、ボントロの音色を「ぅわわわ~・ムワワワ~」と変化させるのである。1920年代~1940年代のビッグバンド時代には、この「プランジャー奏法」がはやったらしく、だからこのLPのタイトルは、そういうプランジャー使いの最後の名手・・・というような意味合いだと思う。  
bluish greyという曲・・・出だしからCherles Fowlkesのバリサクが効いている。そして太っいベース音の主はエディ・ジョーンズだ。このベース弾きはとにかく音がでかそう。Grey_2ビッグバンドのスイング感を下からどっしりと支える感じのベース弾きだ。こういう地味だが太い音色と大音量でバンド全体を支えるタイプのベース弾きもやっぱりいいもんだなあ・・・という気持ちになる。というのも、Yoさんのシステムでこういう録音のいいレコードを聴くと、ウッドベースの存在感が本当に凄いので、いろんなベース弾きのベースラインはもちろん、音量・音圧感、そして音色の微妙な違い様までしっかりと感じられるので、そういうジャズにおける「低音サウンド」を浴びることは、ベース好きとしては、これはもう極楽なのである。

それにしても・・・いい演奏の詰まったいい録音のレコードをいい音で聴く・・・というのは、なんと気持ちのいいことだろうか。
ジャズはいよいよ・・・止められない(笑)

 

*ジャケット写真提供~
E.Dolphy/Live in Europe vol.1(prestige) 紺ラベル
Zoot Sims/Zoot Sims In Paris(UA) サックス吹きラベル
Frank Strozier, B.Little, G.Coleman~/Down Home Reuion(UA)青ラベル
P.Woods、G.Quil、S.Shihab~/Foru Altos(prestige)NYCラベル
はYoさん提供。

Rita Rice/Cool Voice of ~ vol.1(オランダphillips)
Stan Getz/metronomeのEP盤
はdenpouさん提供。

Charlie Parker/~(clef)MGC-157 10inch盤
A.Pepper/Meets the Rhythm Section(contemporary)
M.Davis/kind Of Blue モノラル盤
はPaPaさん提供。

Al Grey/The Last Of The Big Plungers(argo) ステレオ盤
はkonkenさん提供。

 

皆さん、ありがとうございました。bassclef


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2008年4月17日 (木)

<ジャズ回想 第13回>半年ぶりにYoさん宅に集まった。その2

う~ん・・・と唸ってしまったパーカーの10インチ盤~

さて「Yoさん宅に集まった」の続きである。まず、前回に書けなかった2つの「聴き比べ」を簡単に紹介したい。その後にパーカーの10インチ盤(Dial)のことを少し書いてみる。

クリフォード・ブラウンのエマーシー盤はどれも人気が高い。その中では、With Stringsは人気が低い~などと僕は勘違いしていた。
というのは、30年ほど前のジャズ好きの間では、strings作品は「ヒモ付き」などと呼ばれて「ジャズっぽくない」軟派な作品という理由で、人気がなかったからだ。でもそれはあくまで1枚のLPとしての人気についてのことであり、オリジナル盤の世界での人気とは関係がなかったらしい。あるいは、日本のジャズ好きも、stringsものを充分に楽しめるようになって、その結果、人気が上がったということかもしれない。いずれにしても、僕もこのクリフォード・ブラウンの「ストリングス」・・・ある時期から大好きになった。もう長い間、安い国内盤で我慢しているのだが、ちょっと前に、このWith StringsのEP盤を2枚入手した。 Ep2_3
このところ、僕はEP盤というフォーム自体にも充分に魅力を感じているのだが、同じタイトルでもEP盤の方が音がいい場合もある~ということを過大に期待している部分もあったりする(笑)それから一 般的には、EP(7インチ)の方が、LP(12インチ)より価格が低いことも、うれしい。もちろんEP盤の方が収録曲数が少ないわけだが、このWith Stringsの場合、2枚のEP盤にそれぞれ4曲収録だから、2枚で8曲は聴けるわけだ。12インチ盤には12曲収録だから、EP盤がもう1枚は出ているはずなのだが、それがなかなか見つからない。  Ep_2
オリジナル12インチ盤を持っていない僕は、このEP盤を聴いてなかなかいい音だと感じていた(そう思いたかっただけかもしれない:笑)
ある時、Yoさんが12インチ盤をお持ちなのを知って、今回の集まりで、聴き比べをさせてもらうことにしていたのだ。

このクリフォード・ブラウン・・・どの曲もとてもいいのだが、特に好きな曲~portrait of Jennieを聴くことにした。使ったカートリッジまでは覚えていないのだが、最初に僕のEP盤。次にスノッブS田さんの紙ジャケCD。最後に12インチ盤と聴いてみた。
結果は・・・EP盤の惨敗であった(笑)
《12インチ盤の写真~Yoさん提供》
With_strings
EP盤で聴いたクリフォードのトランペットには、それなりの鮮度感があって悪くないと思ったのだが、他の楽器、ストリングスなど全体に中低音が薄い。要はスカスカした感じなのだ。
2番目にかけた紙ジャケCD~一聴して先ほどよりストリングス全体の音が柔らかめだ。そこへ適度にマイルドなクリフォードのトランペットが入ってくる。とても聴きやすい見事なバランスであった。こりゃあ(EPより)CDの方がいいね、という声。このCDと比べると、先ほどのEP盤のトランペットは、だいぶ痩せた感じの音だったことが判った。鮮度はいいのだが、バランスが・・・と悔しがる僕(笑)
そして12インチ盤~う~ん・・・やっぱりいいな。全体的に楽器の音に厚みがあって、トランペットの音にもっとも鮮度感があるようだ。そして、柔らかな鳴り具合。う~ん・・・やっぱり違うなあ。いいものはいいのだ! そして・・・ちと高い(笑)


次にゲッツである。ある時期、「ゲッツのat storyville」をCD(東芝:1990年)で聴いて、ゲッツのシルクの手触りのようなあの音色と、それからどんなに急速調の曲でも全く淀みなく溢れ出てくる「本当のアドリブ」に、僕はもうすっかり参ってしまった。
Gets_roost_12inchこの4~5年、少しづつオリジナル盤に興味が湧いてきて、ようやくのこと、ゲッツのroost盤、12インチ2枚~The Sound(LP-2207) と、At Storyville vol.1(LP-2209) を手に入れた。しかし、このroost盤・・・あまり音がよくなかったのである。オリジナル盤というものを入手する場合、多少の盤質の悪さは我慢して、音の(楽器の)鮮度感を期待するわけだが、これらroostのオリジナル12インチ盤は・・・何か楽器の音が遠いような感じで、The Soundの方など、ヘタしたら日本コロムビア盤の方がいいくらいだったのだ(笑)
The Soundを先に聴いてダメ、ならばライブのStoryvilleならどうだ?・・・で、またダメ。さらにいくつかのroost:EP盤でも同じような音だった。共通して感じたのは「カッティングレベルの低さ」全体的にノイズっぽい。これはもう・・・roostというレーベルの性根(しょうね)だろうと推測する僕である(笑)

《下の10インチ盤写真:At StoryvilleはPaPaさん提供》
そこで・・・10インチ盤なのである。10_3 予想どおり、PaPaさんはこの辺りもしっかりと押えてあった(笑)
ゲッツのroost10インチ盤~2枚揃えて持ってきてくださった。同じタイトルの場合、普通、10インチの方が12インチより発売時期が早いと思う。ゲッツStan Getz Plays の場合~clef10インチが1953年、norgran12インチが1955年で、2年ほどの差があった。
今回のroost盤・・・12インチのAt Storyvilleは1956年、10インチのAt Storyville vol.1は、1952年のようである。この3年の差が、ひょっとして大きいのではないだろうか?
どのテイクも傑作なのだが、僕が選んだのはスピード感溢れるバップ曲~parker51である。
12インチからいってみる・・・さすがに「古い音」である。全体に楽器が遠いような感じで、シンバルも古い録音に特有なうんと篭 (こも)った音だ(笑) でもそれは仕方ない。なんと言っても1951年のライブ録音なのだから。

さあ・・・この「遠いような感じ」が、果たして10インチオリジナル盤ではどうだろうか? 同じ曲、parker51をかけてもらう・・・どうだろう?・・・「う~ん・・・同じかな」という皆さんの声。僕も同様の印象だった。ライブ録音ということで元々の録音が、やや荒っぽい感じでもあり、そのためにあまり差が出なかったのかもしれない。だから、あくまでこのAt Storyvilleというタイトルに限っては、1952年の10インチ盤と1956年の12インチ盤にそれほどの差はないと言えるかもしれない。
ゲッツの「ストーリヴィル」~音はあまりよくないが、演奏はもう最上級である。ゲッツが嫌いな方でも、好きになるかもしれない(笑) それくらい気持ちのいいアドリブである。バンド全体も乗りに乗っている。本当に素晴らしいライブ演奏である。まだ聴いたことがない方は、ぜひ!


チャーリー・パーカー・・・パーカーのことをどんな風に書こうか。いや、パーカーについて書きたい何か・・・それが僕の中に本当にあるのだろうか? パーカーというと・・・いつもそんな「迷い」が僕にはある。その「迷い」を、もうちょっと突き詰めると・・・パーカーは「語れない」、パーカーは「聴くしかない」という乱暴な気持ちもあるようだ(笑)
パーカーのことを、もちろん嫌いではない。1980年頃だったか・・・ある時期、パーカーの演奏に嵌(はま)り、その頃、入手できるレコードはほとんど買って聴きまくった。パーカーの演奏は凄い。どの曲でも聴いてみれば、たちまちパーカーのアルトの突き抜けた凄さに気づくだろう。パーカーの「凄さ」とは何か・・・僕にとってはそれは、あのフレーズのスピード感であり、あの音色の重さである。強引に倍テン~普通のアドリブは8分音符中心だが、パーカーは16分音符の割りでノッてしまった~にしたりする時のあのスリル。それもただ「速く」吹くだけではない。それをうんとタメの効いたリズム感と大きくて重い音色で吹き込んでいくのだ。そんなパーカーが捻(ひね)り出すサウンドそのものが・・・僕には快感でもある。だから、強いて言えば・・・情緒の人ではなく、メカニズムの人と言えるかもしれない(笑) しかし、ジャズ聴きには、ある意味、器楽的な快感という要素もあるはずだし、「パーカーの音」をそういう聴き方で捉えれば、これはもう・・・堪らないのだ(笑)

<夢レコ>前々回の「ドルフィ」の時に、僕はドルフィのアルトをこんな風に表現した。
《まるで、砲丸投げのあの重い鉄球をブンブン振り回しているようじゃないか》

実は、僕の中では、パーカーのサウンド(音色・リズム感など全て)に、質的に一番近いのが・・・ドルフィなのである。
だから今、僕がパーカーのあの吹き方を表現しようとすると・・・やはりこの「砲丸投げ」になってしまう。強いて言えば・・・パーカーの砲丸の方が、もう少しだけ重いかもしれない(笑)その「重さ」はこれはもう理屈ではないのだ。聴いて「それ」を感じてもらうしかない。
そんな風に、ある意味「器楽的鳴りの再現」が重要になってくるパーカーのはずなのに、残念ながらどのレコードもあまりいい音ではなかった。実際、「パーカーが判らない」という声をよく聞くが、その理由の90%は「レコードの音が悪かった」ことにあると、僕は思う。
やはり「レコードの音」というものも重要なのだ。

僕はいつも「レコード」を軸に話しを進めたい。好きなミュージシャンがたくさんいて、好きなレコードがたくさんある~これが僕の基本図式なのだ。例えば、モンクなら「ソロ・オン・ヴォーグ」、コルトレーンなら「ソウル・トレーン」、ロリンズなら「ニュークス・タイム」というように、それぞれに必ず大好きな作品(レコード)がある。
そこで、よくよく考えてみると・・・(僕の場合)パーカーには、特に「好きなレコード」(12インチ盤)というものがないのだ。もちろん、パーカーの時代のレコードが、SP盤,10インチ盤主流だったことで、日本で発売されたパーカー音源が、それらの古い音源をレーベルごとにまとめたBoxもの中心だったためかもしれない。パーカー音源で、12インチ盤がオリジナルだったのは、どうだろう・・・now's the time とかswedish schunapps など、ようやくVERVEの後期辺りからになるだろう。 
Parker_004_2 そんなわけで、1972年頃までは、パーカーの国内盤LP1枚ものは、VERVE音源以外は、ほとんど出ていなかったように思う。だから・・・その頃からジャズを聴き始めた身にとっては、まず「パーカーの音」に触れるチャンス自体があまりなかった。
特にダイアル音源は、権利関係があいまいだったのか・・・よく判らないようなレーベルから、いろんな音源がバラバラに復刻されていたようだ。だから、主にスイング・ジャーナルの輸入盤の広告ページなどから情報を得ていた僕達には、「パーカー=海賊盤=音がムチャクチャ悪い」というイメージが、徹底的に焼き付いてしまったのだ(笑)そして、値段が高いのに音が悪い海賊盤なんか、とても買えやしない(笑)
ちなみに、当時、ダイアル音源が聴けるという唯一の国内盤が、Charlie Parkerレーベルからの「バード・シンボルズ」(邦題/チャーリー・パーカーの真髄)だったように記憶している。「~の真髄」は、ダイアル音源からセレクションで、確かにいい曲が集められていたが、これも充分に音が悪かった(笑) charlie parkerというレーベルは、おそらくオリジナルの音源や盤質の拙(まず)さのせいもあってか、どれも怖ろしく音が悪かった。
そして、僕が最初に買ったパーカーが、長尺のライブ録音~scrapple from the appleが入ったThe Happy Bird(charlie parker)の輸入盤だったのだ(笑)それでも、あのレコード・・・ライブでのパーカーのソロが凄いので、酷い音質を我慢して、何度も聴いたものだ(笑)Parker_003

そんな時、ひときわ格調高いパーカーの写真~パーカーがアルトを吹く顔のアップ~がスイング・ジャーナルに載った。イギリスのspotliteというレーベルが発売したCharlie Parker on Dial というシリーズの広告だった。全6巻だったか8巻だったか・・・本格的なダイアル音源の復刻は、このspotliteが最初だった。あの頃のイギリスもの輸入盤は、高かった。国内盤の倍くらいしていたかもしれない。後に東芝が発売したいくつかの「オン・ダイアル」もの(LPでもCDでも)は、このspotlite経由だと思う。
《上の写真は東芝盤。発売後、だいぶ経ってから、vol.1~vol.3だけ入手した》
このspotlite音源のLPが、やはりそれほどいい音質とは言えなかった。録音が同時期のはずのsavoyの方は、割としっかりした音で復刻されていたので、ダイアルものは、録音段階からあまりよくなかったこともあるかもしれない。それにしても「オン・ダイアル」・・・いくつかのLPと東芝のCD4枚組を聴いたが、パーカーのアルトに今ひとつの切れ・太さが出てないようだし、全体的に薄っぺらい音質という感は拭えなかった。
1973年頃だったか~CBSソニーが「Parker on Savoy」(鳥のシルエットを基調にしたジャケット)を発売し始めた。だけど、パーカー音源はどれも「オン・ダイアル」「オン・サヴォイ」などレーベル単位/セッション単位にまとめられたもので、それもシリーズ全5枚~8枚とかになると、なかなか買えやしない(笑)
そんな訳で、パーカーを聴く時に「ひとつの作品としての好きな12インチLP」というものがあまりないことに変わりはなかった。Verve後期のLP作品をもうひとつ好きになれない僕には、今でも同じ状況かもしれない。
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《左の写真~Dial-201。PaPaさん提供》
そこで・・・パーカーの10インチ盤なのである。ダイアルの本当のオリジナルはSP盤ということになるのかもしれないが、普通のレコード好きにとっては、録音直後に発売された(であろう)dial 201,202,203,207などの10インチ盤を「オリジナル」と呼んでも構わないだろう。PaPaさんは相当のパーカーマニアらしく、これらのDial10インチ盤をほとんど持っているとのこと。
僕は写真でしか見たことのない、あの「ベレー帽のパーカー」のジャケットをじっくりと見る。あの「ベレー帽」・・・デザイン的には何だか変な具合である。鳥の頭にもベレー帽が乗っかっており、これら2つのベレー帽と木の葉っぱの色が、同じ色に合わせてある。ちなみに、201がピンク色、202だと緑色である。そんなパーカーのダイアル10インチ盤が、目の前にいくつも並ぶ。どれを聴こうか・・・PaPaさんから「やはり201でしょう」の声。僕は「ピンク色のベレー帽」をYoさんに手渡す。

あのlover man からだ。ゆったりめのテンポでピアノのイントロが始まる。そのイントロの4小節が終わり、「さあ、ここから」と誰もが思うその瞬間・・・パーカーは吹かない・・・伴奏は続く・・・まだ吹かない・・・。「レー・ミレ・ソソー」と吹くはずのアタマの1小節目、パーカーは全くの無音なのだ。2小節目からようやくわざとメロディをはずしたような音を吹き始める~あのlover manだ。
初めて聴いたDialのオリジナル10インチ盤は・・・やはり「いい音」だった。これまで耳にしてきたどのダイアル音源よりも鮮度感があり、パーカーのアルトの音も太くくっきりと聞こえたように思う。10インチであろうと12インチであろうと、録音直後にカッティングされたオリジナル盤の持つ「鮮度感」みたいなものは、絶対にあると思う。ただこの10インチ盤に対する僕の感想は、あまり当てにはならないかもしれない。というのも、今回はこの10インチ盤と他のパーカー音源を聴き比べたわけでもなく、自分の記憶の中にある「ダイアル盤のパーカー」の音との相対的な印象レベルの話しなのだから。
それに・・・あれだけ魅力的な「10インチ盤」のジャケットを手に取って聴く音と、例えばCDのプラスティックケースを手に持って聴く音では、心理的な部分からも、「聞こえ方」に差が出てしまうだろう(笑)
ただ、そんなことも含めての10インチ盤の魔力があったとしても・・・そのことに否定的な気持ちなど全くない(笑)
そんな「相対」としてではなく、あの「10インチ盤というひとつの作品」から受けた印象は・・・やはり「ダイアルのパーカー」は凄い!ということになる。
この時のセッションでのパーカーは、麻薬か何かでフラフラだったとの証言もあり、もちろん好調なパーカーではなかったのだが、lover man で、パーカーのアルトが流れてきた瞬間に感じたのは、やはり「何かを表現しよう」とするパーカーの凄みみたいなものだし、続けて聴いたバラード調の gypsyでも、パーカーは、この哀愁漂うメロディを、ちょっとヨタヨタしたようなフレーズで吹き進める。それは決してスマートなバラードではないのだが・・・パーカーのアルトの音色には、怖ろしいほどの「重さ」と「切れ」がある。
だから・・・このlover man セッションは、パーカーという人の「凄み」を感じさせるような演奏になったのだと思う。
一番好きなパーカーの演奏は?と問われたチャーリー・ミンガスが、たしか、このlover man を挙げていたはずだ。

《これがadlib盤の黒猫マクリーンだ。写真はPaPaさん提供》Photo

PaPaさんのこの日の手持ち盤は、10インチだけではなかった。 「黒猫のマクリーン」Jackie Mclean Quintet(jubileeではなくて、adlibの方)も登場した!このマクリーンのレコード・・・もちろん聴いたことはある。もちろんオリジナルではなく、日本コロムビアから出たラベルがjubilee仕様の盤と、テイチクから出た盤だ。どちらもジャケットは「フクロウ猫」だ(笑)今、ちょっと確かめてみたら、テイチク盤はうんとこもった音で鮮度にも乏しい。それに比べれば、日本コロムビア盤の方はかなりいい感じだが、やはりどちらも詰まったような音だった。
僕は特にマクリーン信者ではないのだが、このadlib盤の持つ佇(たたず)まいには、もちろん圧倒された。そして驚いたのは、このadlib盤の音の良さだ。音がいいとい言っても、西海岸的な切れのいいすっきりした音ではなく、アルトやベースにぐんと力のこもった、いかにも50年代のジャズという感じの音だったのだ。録音engineerは・・・van gelder! 
adlibオリジナル盤の音は・・・日本盤で感じていた「詰まり」が、すこっと抜けて各楽器の鮮度感がうんと増したような感じなのだ。さすがは・・・黒猫のマクリーン! 
こんなレコードには滅多にお目にかかれないだろう・・・ということでもう1曲聴かせていただく。B面ラストのlover manだ。「ああ・・・今日はラバーマン特集だね」とスノッブS田さん。そういえば、lover manは、さっきパーカーのdial201でも聴いたのだった。マクリーンのlover man・・・マル・ウオルドロンのピアノのイントロが流れると、皆さん「あれれ?」という顔。そうなのだ・・・このイントロ、あの有名な「レフト・アローン」とよく似ているのだ。いや、ほとんど同じかもしれない。ベースがボウイング(弓弾き)しているのが違うと言えば違うくらいか。ピアニストって、けっこう同じパターンのイントロを使うんだな(笑)
この曲でのマクリーンは、いつも以上に気合が入っている。力みかえってバランスを崩しそうになっているようなところもあるのだが、ジャズにはこういう「熱さ」も欲しいじゃないか。ラストの短いカデンツァなんか、もう最高である。思うにこの時、マクリーンは・・・パーカーのlover manを相当に意識していたに違いない。彼もやはり、あのパーカーの「凄み」に魅入られた一人なのであろう。

やっぱり・・・ジャズはおもしろい。

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2007年8月23日 (木)

<やったあレコ 第10回>Tenor Saxes(Norgran:MGN-1034)

<1955年に発売されたちょっといいオムニバス盤>

Dscn1733ノーグランというレーベルに、Tenor Saxesというオムニバス盤がある。いろんなミュージシャンの演奏を集めたオムニバス盤というものは、一般的には、個々のミュージシャンのオリジナルアルバムより人気がないのかもしれない。しかし・・・このTenor Saxesは例外らしく、けっこうな人気があるのだ。ジャケットがストーン・マーチンであることは、もちろん大きな魅力なのだが、僕の知る限り、このレコードの音源的な価値は、まずは、スタン・ゲッツの2曲(後述)それから・・・ベン・ウエブスターのtenderly にあるように思う。
ウエブスターの「テンダリー」・・・その演奏と音の凄さに魅了された方は数知れずか(笑)
実際、僕自身も、Yoさん手持ちのこのTenor Saxesを何度か聴かせてもらって・・・tenderlyに心惹かれた一人である(笑)

そのtenderly が入ったオリジナルLP~The Consummate Artistry(norgran)・・・この貴重な盤を初めて目にしたのは、2年ほど前、2005年の春「第1回白馬 杜の会」の時だった。夜も更けてきた地下のJBLルーム・・・スピーカー間に置かれたイーゼルに、あるノーグラン盤が掲げられた。明かりを落とし気味にした部屋に、この渋い色調の~くすんだ感じのセピア・イエローとでもいうのか~ベン・ウエブスターの姿が、ぼお~っと浮かび上がった。
「おお・・・」静かなどよめき。音が出る前から・・・もの凄い存在感だ。
そして・・・思い入れたっぷりのtenderlyが流れ始めた。ジャケットも凄いが演奏も凄い。
僕はそれまであまりウエブスターを聴き込んではいなかったので、ウエブスターの強烈なヴィブラートとサブトーンのリアリティに驚いてしまった。「う~ん・・・」と唸った拍子にふと振り向くと、すぐ後ろの席にリキさんがいた。「こだわりの杜」(ニーノニーノさんのBBS)での書き込みから「クラシック好きのリキさん」・・・というイメージが強かったこともあり、僕はリキさんになんとはなしにこう言った。
「こういうの・・・苦手でしょう」
するとリキさん「いえ、好きですよ。このウエブスター・・・僕のですから(笑)」

Dscn1742 僕はそのレコードの神秘的な佇まいが忘れられなくなり・・・しばらくしてから、ウエブスターのEP(tenderlyを含む4曲入り)を入手した。もちろん・・・ジャケットはThe Consummate Artistryと同じである(笑)
さて・・・「絵」の方はEP盤を眺めてガマンするとしても(笑)音の方は、やはりあの鮮烈なtenderlyを聴きたい・・・という想いもあり、僕は少し前に、前述のオムニバス盤~Tenor Saxesも入手してしまった。
「う~ん、やっぱりいい音だぞ・・・」などとうれしく聴きこんでいたその頃に、ちょうどYoさん宅に集まる機会ができた。Yoさんがkonkenさんに依頼したラックの増設台の取り付けの後に、どうせならレコード三昧をしようよ~という計画で、今回は、リキさん、konkenさん、recooyajiさん、bassclefの4人で、早朝からおじゃますることになったのだ。

こんな風に皆で集まる時は、いつも「何を持っていこうかな・・・」と楽しく悩むのだが、今回は、僕の方は大体の線は決まっていた。
ClefやNorgranの米オリジナル盤とUK Columbia盤(スタンパーはClef、Norgranと同じ)の聴きくらべである。ネタは、Flip Phillips のClef盤とUK盤と(こちらについてはまたの機会に!) Alto Saxes のNorgran盤とUK盤を用意した。
それからもちろん・・・ウエブスターの「テンダリー」である。
この集まりの少し前から僕が聴いていたTenor Saxes・・・どのトラックもよかったが、やはり・・・ウエブスターのtenderlyが、演奏はもちろんその音の良さで、ひときわ光っていた。自分の機械でEP盤のtenderlyと比べてみたりもしたが、やはりここは、盤による微妙な違いまでしっかりと出してくれるYoさんの装置で、そのオムニバス盤とEP盤・・・そしてできれば、Consummate Artistryも交えて聴いてみたいものだと考えていた。
だから事前にリキさんに「ウエブスターのあれ、持ってきて」とお願いしようとも思ったのだが、つい忘れてしまっていたのだ。

さて・・・Yoさん宅でいろんなレコードを聴いたあと、ウエブスターを聴いてみることになった。僕はEP盤、YoさんはTenor Saxes を出した。「Consummate があるといいんだけど・・・」と何気なく僕が言うと・・・Yoさん「あるよ」と一言。奥の部屋からすす~っと、あのセピア・イエローの盤を取り出してきた。ああ、なんとしたことか・・・Yoさんもいつのまにか、この貴重なノーグラン盤を入手していたのだ。いつものことだが・・・Yoさんは、いいレコードには本当に素早い(笑) 

そんなわけで・・・tenderlyの3つの音源を、Yoさんの装置で聴き比べできることになった。オリジナルLPとオムニバスLPとEP盤というわけだ。

EP盤から聴いてみることにした。
Consummate~(norgran)EP4曲入り~EPN-16
一聴して、音にあまり元気がない。どうやら・・・カッティングレベルもだいぶ低いようだ。そのためかどうか・・・テナーの音も力感に乏しくて、12インチには感じられた「瑞々しさ」も、抜け落ちてしまったようだ。リキさんが一言「あまり魅力のない音ですね」  実は僕も自宅で聴いていてそれほどいいとは思ってなかったのだが、ちょっとは45回転の威力に期待していただけに、少々残念であった。 まあいいか・・・EP盤はジャケットさえあれば(笑)

Ben Webster/The Consummate Artistry(norgran)~
スロウなテンポで、しっとりとしたピアノのイントロが流れてくる。このピアノ、意外にもオスカー・ピーターソンである。「意外にも」と感じたのは・・・ピーターソンにはあまり「しっとり感」ないのかな、と思っていたからだ(笑) その安定したスロウなテンポに乗って、ウエブスターが最初の4音を吹くと・・・もうそこはウエブスターの世界である(笑)
程よい粘り具合で(ウエブスターとしてはややあっさり加減の)この曲の優雅な、そしてちょっと澄ましたような感じを、うまく描き出しているのだ。テーマを2回繰り返すだけの短い演奏だが、このtenderlyは傑作だと思う。
ウエブスターのテナーがくっきりした感じでいい音だ。さて、このtenderly収録のオリジナルLPは、おそらくこのCunsummate~のはずで、だから、最も鮮度感があるのが、このLPと考えるのが自然だと思う。しかし・・・そうでもないようなのだ(笑)

Tenor Saxes(norgran)~出足のピアノからして違う!ピアノの音自体がさらに瑞々しいのだ。指を残したようなタッチ感もよく出ている。そして、ウエブスターのテナーも、輪郭のよりはっきりしたキリッとした音色だ。
サブトーンの響きが広がりすぎてないのも、僕には好ましい音色に聞こえる。本当にこの音は素晴らしい! 
「切れのよさ」という点で、オリジナルLP(Consummate)より勝っているように思う。ひょっとして・・・このオムニバス盤の方が発売が早かったのだろうか?

さて、今回はThe Consummate Artistryからもう1曲聴かせていただくことにした。
recooyajiさんと僕がリクエストした1曲~Danny Boyだ。僕はこの演奏、まだ聴いたことがない。さっそくかけてもらう・・・「あれ?」・・・テナーの音色がtenderlyとはちょっと違うぞ。
tenderlyのよりテナーの音の輪郭が拡がった感じがあり、その分、だいぶソフトな音色になっているようだ。この「ゆるさ感」の方に、よりベン・ウエブスターらしさを感じる方もいるかもしれない。
しかし、僕にはやはりさきほどのtederlyのテナー音色の方がうんと魅力的だ。このソフトな感じは・・・どうやらテナーにエコーをかけてあるような感じだ。あるいは録音時のセッティング~例えばテナーのベルとマイクの距離、角度などが違うためか・・・とにかく同じLPの収録曲なのに、なぜこんなに違うのか?
そんな疑問から裏ジャケットを仔細に見てみると、やはりtenderly は、1953年12月のセッション、danny boyは1953年4月のセッションだったのだ。ひょっとしたら、録音技師が変わったためかもしれないが、同じLPを創るための吹き込みなのに、曲によってこれだけ音色の様相が違ってしまうとは・・・。
tenderlyセッションの音が素晴らしいだけに、ちょっと残念ではある。
それにしても、こうしたマイクのセッティングやらミキシングの具合によって変わってくるであろう微妙な音色の違い・・・そんなものをより鮮明に浮き彫りにしてしまうYoさんの装置もとことん怖ろしい(笑)Dscn1734_2

さて、このTenor Saxes(norgran)には、7人のテナー吹きから一人2曲づつセレクトした全14曲が収録されている。
僕が気に入っているのは、これらのセレクト曲が全てスタンダードソングということだ。もちろんベン・ウエブスターだけが目玉ではない。
フリップ・フィリップスの2曲~
I didn't know what time it was,  
take the A train 
スタン・ゲッツの2曲~1954年1月録音。
I hadn't anyone 'till you(A面1曲目),
with the wind and the rain in you hair(B面7曲目)もなかなか素晴らしい。
フィリップスについては、そのうちに他の盤も併せて書いてみたいので、ここではゲッツの2曲について少し。

この2曲は、録音当時はゲッツのオリジナルアルバムには収録されなかったので、長いこと、Tenor Saxesでしか聴けなかったようだ。僕の知る限り、The VERVE COLLECTOR'S ITEM(日本ポリドール)という4枚組BOXで、ようやく陽の目を見たと思う。このThe VERVE COLLECTOR'S ITEMに米の元ネタがあったのか・・・それとも日本オリジナルかどうかは判らない。ちなみに、この2曲と同じセッション(1954年1月)でもう2曲 (nobody but else but me とdown by the sycamore tree) が録音されているのだが、こちらはCool Sounds(MGV-8200) というアルバムに収録されている。美女が鉢植えから溢れ出た水を浴びているcoolなジャケットのやつである。(写真は残念ながら、紙ジャケのCDです)

Dscn1752 このセッションの4曲を、僕はたまたまCDで聴いていた。だいぶ前に入手したStan Getz PlaysのCD(独polygram)に、これら4曲がボーナス・トラックとして付いていたのだ。ピアノがジミー・ロウルズ、ドラムがマックス・ローチ、ベースがボブ・ウイットロックとなっているので、たぶんゲッツが西海岸に来た時に録音したのだろう。
この4曲はどれもいい。この頃のゲッツのテナーは・・・肌触りのいいシルクのような音色をしていて、僕にはすごく魅力的だ。それから、短いピアノソロを取るロウルズのピアノもいい。僕はなぜだかロウルズのピアノが好きなのだ。彼のピアノに絶妙なしなやかさを感じるからかもしれない。そしてその「しなやかさ」は、ゲッツのシルキーな音色にすごく合っているように思う。ドラムスの録音はややオフ気味だが、ローチはピシッと背筋が伸びたような、クリアなシンバル・レガートを叩いている。この時代としては、かなり新しい感じのビート感だろう。そういえば、1954~1955年くらいの前ハードバップ時代のレコードを聴いて「あれっ? シンバルだけ、やけにモダンだな?」と思ってクレジットをみると・・・ローチだった!ということが何度かある。あのシンバルの切れのよさはさすがだ。ただ、ローチのきっちりとしたシンバル・レガートは、ゲッツのバップ的ではない(細かく分解したようなフレーズではない)唄うようなフレージングには、あまり合わないような気もする。そういえば、スタン・ゲッツとマックス・ローチの組み合わせというのは・・・案外、少ないように思う。

さて・・・Tenor Saxesに収録の2曲・・・これもなかなかいい音だと僕は思う。さきほど「肌触りのいい」と書いたが、ゲッツ好きには堪らないあの音色・・・冷たいようでほんのり温かい~ソフトでありながら芯のしっかりした~か細いようで実は太い鳴り・・・そんな不思議なゲッツの音色がきっちりと大きめに中央から飛び出てくる。CD収録の2曲もそれほど悪くなかったが、やはりゲッツのテナーの音色の生々しさ、それからローチのシンバルの鮮度感など、ノーグラン盤の方が素晴らしいようだ。考えてみれば、1954年録音のネタを1955年に封じ込めたヴィニールの方に、より鮮度感があるのは当たり前の話しかもしれない(笑)
こうなってくると・・・僕などこの4曲の残り2曲~ゲッツの Cool Sounds(MGV-8200)のオリジナル盤も聴きたくなってきてしまう(笑)こちらの1957年発売となっている。こちらの2曲は、ノーグラン盤の2曲と比べてどうなのか・・全く同質のものなのか・・・音源は同じであっても、2年の発売年の差が多少なりとも音質に影響しているかもしれない? そんなことをつらつらと考えてしまう僕である。Dscn1735_2
ああ・・・ジャズには全く・・・興味が尽きない(笑)

《写真はAlto Saxes。ちょっとゲッツの10インチ盤 Stan Getz Playsに似ているかな》

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2007年4月20日 (金)

<ジャズ回想 第10回> ああ・・・この音だ。Yoさん宅、再・再訪記(その1)

いくつかの聴き比べを交えて「音楽」に浸った9時間。

推測だが・・・ジャズ好きという人種は「偏屈」である。もちろん、僕も例外ではなく、どちらかといえば狭い人間関係の下で生きている(笑) ところが、この3年ほどか・・・九州の新納さんの田園の中のレコード店~Ninonyno(ニーノニーノ)さんのBBS「こだわりの杜」に顔を出すようになって、そこでのやりとりを通じて、ジャズのお仲間が増えてきた。その後、このブログ<夢見るレコード>も始めて、さらに多くのジャズ好きの方と知り合うことができた。このごろでは、「杜」のお仲間と「ミニ杜」と称してオフ会的に集まったりもする。持ち寄ったレコードを聴いたり、しゃべったりしていると、本当に楽しい・・・そうして、判ったことがひとつある。「ジャズ好きはジャズ好きと語りたい」のである(笑) そして「オン/オフ」に係わらず、「語り合えるお仲間」がいるということは、素晴らしいことだ。
そんなお仲間のYoさんとは、たびたびジャズ話しのメールやり取りをしている。たいていは、最近入手して気に入ったレコードとか、逆にそうでもなかったもの、あるいは再発ものなどでも、やけに録音がいいと感じたものとか・・・そんなレコード話題である。レコードやミュージシャンに対する好み、あるいは録音に対する好み・評価などは、合ったり合わなかったりなのだが、そんなやり取りをしていると、「聴き比べてみたくなる盤」が、次々に浮上してくる(笑)
例えばこんな具合である。ある時、ラウズ~モンクのことから話しがグリフィン(リヴァーサイドの「ミステリオーソ」(nutty)に及んだ。
Yoさん~「モンクとやっているグリフィンは、緊張しているせいか大人しい」
bassclef~「いや、そんなこともない。いい感じでノッてるのでは」
お互いに「そうかなあ?」そして再聴してみるのだが、やはり意見は変わらない。それも伝える。またまた「う~ん・・・変だなあ」
その「ミステリオーソ」・・・双方の手持ちの盤は何なのかな?
う~ん・・・それじゃあ、ひょっとしたら録音の感じが違うかもしれんぞ(特にリヴァーサイドだから:笑)じゃあ、ぜひ聴き比べてみよう!・・・てな感じなのである。
Yoさん~Misterioso(riverside)黒・ステレオ《下の写真2点はYoさん提供》MisteriosoMisterioso_l

Dscn1691

《左写真:bassclef~Misterioso(riverside)青・小・モノラル》

この「ミステリオーソ」の聴き比べについては、すでにニーノニーノさんのBBS「こだわりの杜」に書き込みレポートをしたので、その書き込みを以下に再掲させていただきます。

モンク/ミステリオーソ(riverside)~
これは「モンクとのグリフィンはおとなしい感じ」というYoさんの印象~[ミステリオーソでは頼りなげに聴こえるんです。録音の所為かもしれません。モンクのピアノが強く明確に録られているので余計に音の小さなグリフィンがそのように聞こえるのかもしれません。ステレオだと左隅で小さくなって吹いているように聴こえます。(モノとステレオの違いも有るのかも?)]というYoさんと「いつものグリフィンだと思う」というbassclefのメールやりとりから、Yoさん手持ちの<黒・小・ステレオ>とbassclefの<青・小・モノラル>を、ぜひ比べてみよう!という経緯があったわけです。
曲はlet's cool one にした。この曲、途中でモンクらがバッキングを止めてしまい、完全にグリフィンのテナーだけになる辺りがスリリングだ。メロディがチャーミングで、モンク曲の中でも特に好きなのだ。
先に[黒・小・ステレオ]から~
聴き馴染んだあのメロディが始まる・・・ところが、グリフィンが左の方、それもかなり遠い。確かにYoさんの印象どおりで・・・・他の楽器とのバランスからいっても、かなり小さめだ。これは・・・「おとなしいグリフィン」になってしまっている(笑)これを聴いたのなら・・・たしかに「モンクに遠慮でもしているのか?」と感じてしまうだろう(笑)Yoさんに「う~ん・・・(なぜグリフィンが大人しい・緊張?と感じたのか)これで判った」と言う僕。Yoさん、ちょっとホッとしたような表情。
続いて[青・小・モノラル]~いきなりのピアノのイントロから音が元気だ。カッティングレベル自体もモノラルが高めにしてあるようだ。
そして・・・グリフィン。中央から太く、そして大きな音量バランスでテナーが鳴り始める。Yoさん「全然、違う!」さきほどホッとしたYoさん、今度は、モノラル盤の「粋のよさ」に、少々、悔しそう(笑)
どちらかというとステレオ派(特にライブ録音では)の僕でも、こうして続けて聴くと・・・この「ミステリオーソ」に関しては、モノラル盤の方が「音楽」が
楽しめる。う~ん・・・モノラルも悪くないなあ(笑)
それにしても解せないのが、この黒・ステレオ盤は、裏ジャケにray fowlerもクレジットされており、例の「変なステレオ3D図面」もある。
そして僕が聴いてきたステレオ盤(昔のポリドールの2枚組monk's world)でも、こんなに「遠いグリフィン」ではなかった。戻ってから聴いたファイブスポット未発表テイクでのグリフフィンも、中央やや左から、もっと大きなバランスで元気に鳴っていたのに・・・。この「黒・小・ステレオ盤」では、フォウラーが、意図的に、テナーを抑えたバランスでのミキシングをしたのかなあ・・・?当時のriversideは、ちょっと変則で、あるセッションなりライブの際、モノラル用の録音とステレオ用の録音を「同時に」やってしまったらしい。ミキシングで各楽器の位置、音量を「変えて」しまったのかもしれないし、録音の際の「マイクの位置取り」において・・・モノラル用の方にアドヴァンテージがあったのかもしれない(笑)
いずれにしても・・・モンクのファイブスポットは、本当にいいライブです。僕はもう大好きなレコードで、これでベースがアブダリマリクでなく(もちろん悪くないのですが)ウイルバー・ウエアだったらなあ(笑)と隣のkonkenさんに洩らした僕でした。



レコードというのは、普通は~普通でない場合ももちろんあるでしょうね(笑)~なかなか同じタイトルのものを何種類も集めない。しかし、そのレコードに「ラベル違い」があることが判っていて、しかもお互いの手持ちの中でそれらが揃ったとなると・・・これはやはりその「ラベル違い」で、どんな具合に音質が違うのか、あるいは違わないのか?  そんなことを知りたい気持ちになるのも、レコード好きとしては無理からぬことだろう(笑)
さきほどの「グリフィン」と同じ経緯で浮上してきたここ最近の「聴き比べ候補盤」あるいは「お勧めの好録音盤」(ほんの一部)を以下に挙げてみる。

Lorindo Almeida/~Quartet(pacific:PJLP-7) 10インチ盤~[ラベルの艶:有り/無し]
Stan Getz/~Plays(clef:10インチ盤)と ~Plays(norgran:12インチ盤)と 同音源のEP盤(EP-755)
Oscar Peterson/We Get Requests(verve)~このレコードは、MGM-VERVEのT字ラベルなのだが・・・「モノラル溝あり」と「ステレオ溝あり」と「ステレオ溝なし」の3種あることが判ったので、それもぜひ聴き比べてみよう!とあいなった(笑)
(以下は、bassclefの思う好録音盤として)
Frank Rosolino/Free For All~[米specialty盤とセンチュリー国内盤]
Thelonious Monk/Blues Five Spot(milestone/ビクター)
Bill Evans/Time Remembered(milestone/ビクター)この2タイトルは共に
1982年頃発売されたriversideの未発表音源だ。

こんな具合に「聴きたい盤」が増えてくると、どうしても集まりたくなる(笑) そんなわけで半年振りにYoさん宅におじゃますることになり、今回はkonkenさんと2人で藤井寺に向かった。早めに出たのだが、関~伊賀辺りが事故渋滞で、そこを抜けるのに1時間以上もかかってしまった。トンネルの途中で止まってる時など~まだこの先、何時間待たされるかも判らないので~せっかちな僕は「チャンスは今日だけじゃない・・・」と、あきらめかけたりしたのだが、konkenさん「ここまできたら絶対に行く!」と力強い一言。じゃあ、ってんで、覚悟決めて、あれこれとジャズ話しなどして渋滞の苦痛を耐え忍ぶ二人。いいかげんイヤになってきた頃・・・天は我々を見捨てなかった(笑) 伊賀の「加太(かぶと)トンネル」を出ると、とたんに渋滞が消えたのだ。二人とも「やったあ!」 後はもう、飛ばすに飛ばす(笑)
そうして 11:30頃にはYoさん宅に到着できたのである。よしっ、これでまた「あの音」が聴けるぞ!

左側に手すりのついた、ちょっと急なこの階段を上り始めると・・・そういえば昨年の秋、この部屋に14人も集まったのだなあ・・・と懐かしいような気持ちになる。あの時は先に到着していたパラゴンさんが「ヴォーカル特集」を展開しており、階段の途中で漏れ聞こえてきたのは・・・キャロル・スローンだった。スローンのOut Of The Blue(columbia)からの・・・deep purple~イントロ部分での、弦を使ったちょっと不協和音のようなアレンジが特徴的なあの曲~が流れていたように記憶している。もっともこういう記憶は、後から自分の中で勝手に脳髄インプットされたりもするので、アテにはなりません(笑)
*10月の「大阪・神戸・秋の陣」会の模様は、拙ブログ記事に長々と書いてあります。こちらからどうぞ。

さて・・・今回の3人会は、ラウズ3連発から始まった。ラウズから始まり、そのまま「テナー特集」と化し、次に「聴き比べ」をやり、インストばかりではちょっと厭きるので、「ヴォーカル」や「ピアノトリオ」を混ぜ、再び「聴き比べ」。その後、ちょっとだけクラシック。それからアルトで、またヴォーカル・・・そんな感じで、実にいい按配に、次々と「音楽」が流れていった。ひとつの曲が終わると、短くその感想を言い合い、そして次にかけるレコードを取り出す・・・時間がどんどん経っているようでもあったが、3人とも休む素振りを見せない。そして・・・全く疲れない。まるで名手の吹く自然なアドリブのようではないか(笑)

YeahYoさんが最初にかけたのは、チャーリー・ラウズの Yeah!(epic) からyou don't know what love is。普通はバラードで演奏されることの多いyou don't know だが、ラウズは、あえて最初からベースがゆったりテンポの4ビートを刻むリズムを選んだようだ。そして、ペック・モリソンの強くギザギザしたような音色が、目の前のスピーカーから弾んだ瞬間・・・「ううっ。これは凄い!」と僕:bassclefは、 唸ってしまった。右隣に座ったkonkenさんも、やはり「うう・・」とスピーカーの方を見つめたままだ。

《上下の写真2点ともYoさん提供》
Yeah_l前回、レコードによっては響きが膨らみすぎる場合のあった、ウッドベースの音が見事に締まっているのだ。いや、充分に存在感を感じさせながら、わずかに引き締まった感じになっているようなのだ。ペック・モリソンという人の参加レコードはそれほど多くないと思うが、そのいくつかのレコードで、音の大きそうなガッツあるタイプのべーシストだとは感じていたが、正直に言うと、ここまでペックモリソンが「凄い」と感じたことはなかった。
「凄い」というのは・・・なんというか、ペック・モリソンというべーシストの「音が大きい」ことが判るだけでなく、その一音一音に込める気合やら、ベースで紡(つむ)ぐライン全体の迫力・・・そんなものまで「判って」しまったという意味なのだ。
いかにも音が大きそうで太くて重くて、ちょっとギザギザしたような独特なモリソンの音色。心持ち、弾むようなビート感が心地よい。彼の刻む4ビートが見事にゆったりと、しかし決して鈍重にはならずに「音楽」を支えている。それに乗っかって、ラウズのテナーが深く沈みこむような音色でもって、自分の唄を吹き進んでいく。それから、デイブ・ベイリーの重心の低いドラムス。
それらがしっくりと溶け合った実に感じのセッションではないか。たぶん「音色」の相性までもがよかったのだろう。Yeah!という作品は・・・本当に傑作と呼んでもいいだろう。

そういえば、ラウズのテナーも、このEpic盤:Yeah!では、実に魅力的な音で録られているように思う。前々回の<夢レコ>では、ラウズの音色を「深い」と表現したが、Yeah!でもやはり・・・深い。その深さにさらに落ち着きが増して、どっしりした重さも加わっているような感じなのだ。
そのラウズのテナーの音色が、面白いことに、同じ時期の2枚のEpic盤~[Yeah]と[We Paid Our Dues]とでは、微妙に違っていたのだ。レーベルが同じでも「同じ音」と決め付けてはいけないようだ(笑)
以下、その比較の印象を少しだけ。(jazzlandのTakin' Care~も参考として聴いてみた)

Yeahの方~深みと重み、それに渋みがブレンドされたような音色。豊かに響く。ラウズは元々、わりとサブトーンを使うので、音色の輪郭自体も丸みのある方だが、やや膨らみ気味かもしれない。だがしかし、僕はラウズに関しても、Yeahでの音色の方が好みのような気がする。

We Paidの方~(Yeahに比べると)音色自体もちょっと締まり気味で、サブトーンなどの響きの余韻を程よく抑えたような感じ。だから・・・ラウズが少しだけ知性的になったような感じがする(笑)

Takin' Care(jazzland) からpretty strange ~この盤では、再び「膨らみ気配」のテナーになった。サブトーンの余韻もやや強調気味か。もちろん悪い録音ではないのだが・・・2枚のEpic盤の~両者共にどうにも魅力的なテナーの音色だった~直後に聴いたこともあり、「あれ?」という感じがするくらい「普通」のテナーの音に聞こえてしまったことも事実だが、まあそれくらいYeah!の録音が素晴らしいということだろう(笑)

・・・・・ラウズ3連発を聴き終えると・・・このYeah!を初めて耳にしたらしいkonkenさんも「ラウズも、いいねえ」と嬉しそうだ。
ハロルド・ランドやテディ・エドワーズ、それからこのラウズ・・・独りでじっくりと吹かせると実にいい味を出すタイプだと思う。その手のテナーのちょっといいレコードも、この後でかかることになる。

さて・・・今回は、いきなりの「驚愕のベースサウンド」で始まったので、その後かけたいろんなレコードのそれぞれのべーシスト達の「音の印象」を少しまとめてみたい。

《We Paid Our Dues(epic)黄・モノラル。写真2点ともYoさん提供》
We_paid_lWe_paid









ラウズ2枚目のレコード~We Paid Our Dues(epic) からは、バラード:when sunny gets blueを聴いた。 

~ラウズとセルダン・パウエルが3曲づつ分け合っての1枚。交互に1曲づつ配置されているとのこと。ラウズの3曲は以下。
When Sunny Gets Blues
Quarter Moon
I Should Care
2曲のスタンダードなど、とても趣味のいい選曲だと思う。気になるペック・モリソンの名が、なぜかパウエルの方のセッションに載っている(笑)

この曲でのべーシストはレジー・ワークマンであった。(このレコードでの)ワークマンは・・・ベースの音色がもうちょっと下の方に伸びたような感じ。音色の説明はとても難しい(笑)そうだな・・・ビル・エヴァンスのExplorations(riverside)でのラファロのベース音に近い感じかな。ワークマンもラファロと同じく一音一音をグウ~ンと伸ばすビート感を持つ弾き手だ。このレコードでも「巧いべーシスト」の音色だったが・・・その音量はたぶんペックモリソンよりも小さい。そして、ラウズのテナーのもっさり感には・・・ペック・モリソンの方が「相性」がいいように感じた。
いずれにしても、さきほどのペック・モリソンとはおもしろいように「音」が違う。いや・・・「音が違うことが判る」のだ。そしてそれは、それぞれの奏者にそれぞれの「個性」がある~そんな当たり前のことを、もう理屈ではなく目の前の音から確認できるということなのだ。
2人のベース奏者を比べただけでも、こんな風に「個性の違い」が見えてくる・・・これは面白いですよ(笑)
もちろん演奏の良し悪しや録音の具合によって、その「表われ方」に微妙な差はあるかもしれないが、音量・音圧、そして音色、そんなその奏者の「真実」を、そこにあるスピーカー(の間の空間)から感じとることができるのだ。聴く方には面白いが、演奏者には「怖い」ことだろうなあ(笑)
ちなみに、サックスやピアノは違いが判るが、ベースやドラムだと判りにくい・・・とよく言われるかと思う。管楽器やピアノの場合だと、その主役の吹くテーマやアドリブを聴き込めば(そして身体で覚えてしまえば)音色やら(特徴的な)フレーズなどから、各奏者の違いを聴き分けやすいのかもしれない。その点、たしかにベースが主役のソロイストとして、メロディーを弾いたり、アドリブを弾きまくることは少ない。しかし・・・僕は、ベースやドラムスの場合でも全く同じだと思う。ベースならその(好きになった)べーシストの演奏(ライン)を意識して、ある程度まで聴き続ければ、終いには「その奏者」のクセを身体が覚えてしまいます。そうなれば何かのレコードをメンバーを知らずに聴いたとしても「あれ?この弾き方は・・・」てな感じで「その奏者」だと、判るようになったりします。(もちろん判りやすい奏者と、そうでない奏者がいますが)
そうして、そんな「耳」(意識)になってくると・・・オーディオの「素晴らしさ」そして「怖さ」は、よりいっそう増すのかもしれない。

ベースの音がいいねえ・・・という感想をkonkenさんと言い合っていると、Yoさんが次なるレコードを繰り出してきた。
ソニー・ロリンズ/A Night At The Village Vanguard(bluenote)~UAラベルだったかな?~から softly as in a morning sunrise をかける。
*訂正~このbluenote盤は<RVG刻印ありのリバティー・モノ盤>でした(Yoさんコメント参照)

強烈な引っ張り力でウッドベースという楽器を雄大に鳴らしているであろうウイルバー・ウエア。
そのベース音は、ガット弦の特徴でもある、音色のエッジが丸く膨らみながら低い方に伸びるような音色だと思う。そのウエアの大きな音像が、充分な膨らみを持ちつつ、切れ味ある鳴りっぷりだ。
この曲でのエルヴィンはブラシで通すが、時にアタックを効かせたエルヴィンのバスドラが、コンパクトにドシッ!ドシッ! とすっとんでくる。乾いたいいドラムスの音だ。この頃のエルヴィンは、まだまだ端正な感じだ(笑)
僕は、もちろんこの「ヴィレッジ・ヴァンガード」は大好きなレコードで、以前にも記事にしたのだが、実は、このライブ盤の音については、ちょっとひずみっぽい雑な録音だと思っていた。しかし、このリバティ・ラベル盤は、ドラムもべースも、そしてもちろんロリンズのテナーも、いい具合にすっきりした、そして実にいい音だった。
以前からYoさんの装置では、ベースがよく鳴る。充分すぎるほどの音量・音圧がベース好きの僕にはうれしくなるようなサウンドだった。ただそれがゆえにレコード(その録音バランス)によっては、どうしてもベースが出すぎ・膨らみすぎの感じもあって、Yoさんももちろんそれを自覚されており、今回は、その辺りも調整をしてきたらしい。どこをどうしたとかは、例によって尋ねもしなかったが・・・出てくる音~その低い方から中音・高音のバランスは~さらに「いい方」へ(少なくとも僕の耳には)変わっていたのだ。
「ベースの音色」で言うと・・・低い方での響きの輪郭の広がり具合が2割くらい締まってきて、そのことで、ベースのライン(弾いている音程)が、より鮮明になってきた。「ベースの抜け」がぐんとよくなったのだ。特にウイルバー・ウエアとかジョージ・デュビュビエらの「大きく太く鳴らす」タイプのベースラインが、見事に「抜けた」ように感じる。今、思うに・・・どうやらYoさんは、「ベース音像膨らみの絞り気味調整」~その仕上がり具合を、ベースにうるさい僕に聴いて(聴きとって)もらいたかったのかもしれない(笑)

そして、ベースの音色の輪郭がややスリムになったことで、さらによくなった(と僕が感じた)のは・・・ドラムスなのである。実はベースの低い方とドラムスのバスドラ(右足で踏む大きい太鼓。直径が一番大きいので「ドン!」と低く鳴る)は、実際の演奏においても、わりと「かぶり」やすいらしく、バスドラがドン、ドンと大きめな音量で鳴ると、その瞬間(バスドラの響きの余韻が残っている間)自分で弾いているベースの低音が聞き取りにくくなることがあるのだ。そのバスドラが、以前よりすっきりしてきたようだ。バスドラ、ベースの中低音~その辺りの景色が、霞(かすみ)が晴れたように、クリアに浮かび上がってきたのだ。
そしてなぜか、ハイハット(左足で踏む~シンバル横向きに上下2枚に合わさったやつ。「ッシャ!ッシャ!」と鳴る)の音も、前よりくっきりと感知できたのだ。いや、以前ももちろん聞こえてはいたが、今回聞いたハイハット・・・シンバルの厚みというか・・・重みのある「ッシャ!」になっているのだ。特に冒頭でかけた、Yeah!(ドラマー:デイブ・ベイリー)とこの辺りは僕の錯覚かもしれないが・・・低音域のややかぶり的な要素が取り払われたことで、もともと鳴っていた中高音辺りのハイハットも、より実在感のある「鳴り」として浮かび上がってきたのかもしれない。あるいは、この「ハイハット」については「弦の艶が出てきた」ことと~ちょっと前の「杜」に、そんなコメントがあった~関係があるのかもしれない。
いずれにしても・・・ベースが豊かな響きはそのままに、よりタイトに少しスリムに(このことで、僕などはベースの音色により色気みたいなものを感じた)、しかもドラムスの方もぐっと見晴らしがよくなり、バスドラ、ハイハットもくっきりと浮かび上がる! これは・・・リズムセクションの動き・具合までじっくりと聴きたいジャズ好きには・・・もうたまらなく魅力のある音だったのだ。

~「じゃあ次はちょっと新しいエルヴィンだあ!」とkonkenさんが取り出したのは・・・
Elvin Jones/ Polly Currents (bluenote)liberty から Mr. Jones。
《写真2点はkonkenさん提供

Polly_currents_2 これは1968年だったかの録音で、だいぶエルヴィンの音が荒々しくなっている。テナーが凄い。このレコードには2人のテナー奏者がクレジットされていた。ジョー・ファレルとジョージ・コールマンだ。僕はジョー・ファレルはけっこう好きなので、初期のメイナード・ファーガソン時代のルーレット盤なども聴いていているが、なかなかワイルドな凄いテナー吹きだと感じている。長いソロを取るテナーがジョー・ファレルだろう。どうやらこの曲ではファレルだけがソロをとっているようだ。Polly_currents_label

エルヴィンのドラムス・・・この頃の録音になると、先ほどの1957年録音のコンパクトに締まった音とは、だいぶん違う。まず全体にドラムス(正に複数形のドラムスでないと感じが出ない)の響き全体がバカでかい!(笑)
スネアやらバスドラが、いちいち「ドカン!」「ドカン!」と鳴り響いている。いいんだもう・・・何でも。エルヴィンなら・・・許す(笑)
3人で豪快な鳴りのエルヴィンを堪能しました。しかしこの時代のエルヴィン・バンドのべーシスト~ウイルバー・リトル~は大変だったろうな・・・。さすがにエルヴィンが大きく鳴らしている時には、その響きに隠れがちだったが、それでもあのうねり・あの響きの中で、きっちりと芯のある強い音色が強力にビートを刻んでいるウイルバー・リトルもいいべーシストだ。
ああ・・・今日はベースばかりに耳がいく(笑)いや、耳がいかなくても・・・勝手に身体にベースの音が入り込んでくるのだ(笑)もともとベース好きの僕には、このYoさんの装置は、もう実に極楽なのであった(笑)


さて・・・そろそろ「聴き比べ」をやらねばならんね(笑)とYoさんと僕はゲッツの盤を取り出した。
同じ音源で4種の盤が揃った。
Yoさん~ Stan Getz/Plays(clef:MGC-137) 10inch
Yoさん~ Stan Getz/The Artistry(clef:MGC-143) 10inch
bassclef~Stan Getz/Plays(norgran:MGN-1042) 12inch
bassclef~Stan Getz/~Quintet(clef:EP-155) 7inch

ちなみに「子供キス」のジャケットで有名なStan Getz Playsだが、もちろん10インチ盤の方が古い。
Plays(137)とartistry(143)~こちらの方が元々の「子供キス」ジャケなのだ~の2枚の10インチ盤が発売された何年か後になって、12インチ盤のStan Getz Plays(1042)が出たのだろう。10インチ盤には各8曲。12インチ盤には12曲(137の8曲+143のA面4曲) 収録してある。

このスタン・ゲッツの聴き比べは、少し前に、ニーノニーノさんのBBS「こだわりの杜」の書き込みから浮上してきた話題だった。以下にちょっとその模様を転載します。

No.15098
ハンドルネーム:Yo   (2007.3.8,14:58:03)     
皆さん、ご無沙汰です。
ひょいと見たら10インチと12インチの話ですね。大概は10インチが先かなと思うのですが、Dukeさん、ひとつ下記の3枚の順序を教えて欲しいのです。(乱入すみません。)
Stan Getz Plays (Clef MGC137):Dec.12'52
Artistry of Stan Getz (ClefMGC143):Dec.29'52&Apr.16'53
Stan Getz Plays (Norgran MGN1042):Dec12&29 '52
Norgran12インチ盤が10インチのClef盤2枚をカップリングしてある感じですが、52年12月のセッションだけでまとめてあるので、オリジナルがどうなのか知りたいのです。特にあの有名なジャケがNorgran盤とClef143と同じなのでどちらが先か知りたいです。よろしくお願いします。 

No.15099
ハンドルネーム:Duke   (2007.3.8,16:06:44)     
Yoさん、お久しぶりです。Goldmine Jazz Album Price Guideとw. Bruynicckx著Modern Jazzz Discographyの両方で調べた結果、Clef MGC 137とMGC 143は1953年、Norgran MGN 1042は1955年となっています。NorgranのほうにはApr.16'53のセッションは入っていないようです。Yoさんのおっしゃるように「Norgran12インチ盤が10インチのClef盤2枚をカップリングしてある」ということになります。ご参考になれば。

No.15100
ハンドルネーム:Yo   (2007.3.8,16:49:02)     
Dukeさん、ありがとうございます。
あのゲッツがサックスを抱いて子供のキスを受けているジャケがどちらが先か気になったんです。そうですか Norgran1042は2年も後ですか?12月の早い2つのセッションをまとめてあるので、ひょっとしたらClef143が最後かなと思っていました。・・・良かった。Clef盤大事にします。(笑)・・・でもClef盤のゲッツの音が特別すごいとは思わないので、Norgran1042も聴いてみたいですね。

No.15101
ハンドルネーム:bassclef   (2007.3.8,19:24:31)     
Dukeさん、みなさん、こんばんわ。
10インチと12インチ・・・なにやら面白そうな気配が(笑)Yoさんが挙げられたゲッツの3種、やはり10インチ2枚が先ですか。「子供にキス」のジャケットは、10インチだと[plays]ではなくて、artistryの方なんですね。
>Norgran1042も聴いてみたいですね~
Yoさん、偶然にもそのNogran1042(12インチ)なら持ってました(笑)
以前「関西・杜の会」(Yoさん宅)でもちらっとかけてもらったゲッツのclef・EP盤(time on my handsやらbody & soulなど4曲入り)の音もかなりいいぞ、と思ってるのですが、Norgranの12インチ盤の方も、ゲッツのテナーの音は・・・かなりいいように感じました。もっとも僕の好みのゲッツが、52年頃なので、何を聴いても「よく」感じてしまうのかもしれませんが(笑)
またぜひ10インチと12インチとそれと7インチでbody & soulなど聞き比べてみたいですね。

~こんな具合で、この「ゲッツ・聴き比べ」は、僕自身もものすごく楽しみにしていたのである。1952年のゲッツ・・・僕はこの頃のゲッツがどうにも好きなのだ。どの曲においても、ゲッツがあのマイルドなテナーの音色で吹き始めると、フレーズがどうだとかなど考える間もなく・・・その曲は「ゲッツの唄」になってしまう。もう何をどう吹いても・・・ゲッツなのだ(笑)言わば・・・too marvelous for words(笑)  とにかく素晴らしい。

さあ、その1952年のStan Getz Plays・・・かける順番をちょっと相談した。
やはり時代の新しい方からということで、僕の12インチ盤Playsからにした。どの曲も素晴らしいのだが、どうせならEP盤(4曲収録)にも入っている曲にしよう、ということで、time on my hands を選んだ。 

Dscn1688_11  Norgran盤~ミディアムテンポにノッたピアノのイントロが流れてくる・・・すぐにテーマを吹き始めるテナー。盤質がそれほどいいとは言えないので、多少チリパチが入るが、ゲッツのテナーの音色は・・・くっきりとして充分に鮮度感のある悪くない音だ。ただ、中高音をわずかに強めにしたような感じもあり・・・だから、この12インチ盤でのゲッツのテナーは、ちょっとだけ硬質な感じに聞こえなくもない。というのも、僕はこのtime on my handsを、12インチ盤よりも先にEP盤で聴き込んでいたので、そのEP盤に比べての話しである。

Getz_plays10inch Clef盤~これが「Plays」だよ、と言われると、一瞬、たじろぐが(笑)・・・このイラストのジャケットも、さすがにデビッド・ストーン・・・実にいい味わいだ。なかなかお目にかかれない一枚でもある。裏を見て嬉しくなる。というのは・・・この10インチの裏ジャケットの写真(黄色のゲッツ)が、僕のEP盤と同じ写真だったのだ!

Getz_plays_bGetz_plays_l_2









《10インチ盤3点の写真はYoさん提供》

さあ・・・と同じ曲、time on my handsをかけてもらう。イントロでは、それほど大きな差は感じなかったが、 ゲッツのテナーが入ってくると・・・う~ん、やはりだいぶ違うぞ・・・先ほどの12インチの方がすっきり感のあるちょっと新しめの音とすると、10インチの方は落ち着いた感じで、ややこもった感じもあるが・・・その「こもり感」が心地いいのだ。 ゲッツのテナーが、よりソフトにマイルドに聞こえるのだ。  「ソフト」と言っても、音色がふやけたわけではない。テナーの音色の肌触りが「より木目細やか」になったと言えばいいのか。 そうしてその「マイルド」さは、僕が以前から知っているEP盤でのゲッツの音と同質なものだったのだ。音全体のイメージとしては「温かみと品がある」ということかもしれない。

7inch Clef盤~このEP-15 5は以前にも<夢レコ>に登場させたことがある。ここ、Yoさん宅の10月の集まりの時、第1部の最後にかけてもらった。その時、たしかDukeさんがこう言った・・・「いつものゲッツと違う!」僕の推測では、その「違う」は、よりソフトにキメ細やかに聞こえる、という意味だったのだと、今は思う。7インチ盤は一般に盤質が良くないことが多い。扱い方の問題なのか盤の材質の問題なのかは判らないが、僕のいくつかのEP盤にも盤質のいいものはほとんどない(笑)そして・・・ゲッツのこのEP-155は、うれしいことに、盤質が最高なのである。
Dscn1689このEP盤からの time on my hands は・・・音色の質感はやはり10インチ盤と同じ感じである。そして、もう少しだけテナーの音色に潤(うるお)いが増したようで、そのテナーの音色が、軽く「フワ~ッ」と浮かび上がってくるような感じでもある。う~ん・・・Dscn1690やっぱりこの45回転はいいなあ(笑)

《EP盤~EP-149とEP-155。10インチ盤:Playsの8曲が、この2枚のEPに、4曲づつ収録されている。同じセッションからの音源で型番も近いのに・・・なぜか155の方が音がいい。ゲッツのテナーが、滑らかでクリアなのだ。コンディションの差だけではないように思うのだが・・・不思議である》

もう1枚の10インチ盤~artistryの方からも何か聴こう、ということになり、かけた曲は、A面のthese foolish things。さきほどのPlaysの8曲は、52年12月12日の録音で、こちらのartistyのA面4曲は、12月29日である。録音日はとても近い・・・なのに録音の感じはちょっと違うようだ。Yoさんも僕も、この点については同じような印象を持ったようだ。つまり・・・artistryも、もちろん悪くないのだが、ゲッツのテナーの生々しさ~そんな「気配」のレベルでは、どうも12日の8曲の方が「いい録音」のようだね・・・というような話しをした。 Artistry_1《写真3点:Yoさん提供~この10インチ盤のartistryが、「子供キス」の初出自ジャケットである》 Artistry_b

・・・と、まあ、こんな 具合で会は進んでいくのだった。まだほんの少ししかお伝えしていないが、このままではあまりに長くなりすぎるArtistry_l(笑) だから、とりあえずここまでを「その1」として、ひときりつけよう。いったい「その~いくつ」までいくのだろう(笑)
まだまだお伝えしたいレコードのことや、聴き比べの話しもある。 
次回をお待ちください・・・。

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2006年7月22日 (土)

<ジャズ回想 第6回> またまたオフ回~藤井寺Yoさん宅:再訪記。

青い顔したウーレイ~3人で7時間の聴きまくり。

6月24日(土)ニーノニーノさんの「杜」のお仲間~藤井寺市のYoさん宅におじゃました。今回はリキさんと私bassclefが2人で乗り込んだ。2人はそれぞれ~僕は昨年9月、リキさんは今年の1月に~Yoさん宅の音を聴いており、その「音」を知っている。そして多分・・・その「音」を好きになっている。
Yoさんは、その後もいろいろな調整をしたようで、音がさらによくなっているらしい。そうなると・・・こちら2人は「また聴いてみたい」、
Yoさんは「また聴いてもらいたい」てな具合で・・・この3人の思惑が一致したようであった(笑)

11時前くらいに到着し、すぐ2階のあの「音聴き部屋」へ。部屋に入るなり「ここ、ここ・・・。この雰囲気がいいんだよなあ・・・」とリキさん。
白熱灯の温かみのある、ちょっと落とし気味の照明。これが・・・本当に落ち着く。お酒の好きな方が、ちょっと飲んで「いい音楽」を聴いたら・・・すぐに眠ってしまうだろうな(笑)

まずはこれから・・・とYoさんが、「東京銘曲堂ライブCD」を取り出す。
リキさんもこのCDがお気に入りで、自宅のsonusと「鳴り」の具合がどんな風に違うのか興味があるようだ。
my romance
but beatiful
昨年9月にこの同じ場所で同じCDを聴いた時は・・・元々たっぷりと豊かな音量で録音された(ように聞こえる)このCDのウッドベースの音が~このベースの音像というか音量がかなり大きく聞こえて、だから僕のベースの好みのバランスでいうと~ややふくらみすぎかな?という感じだった。
ところが今回は・・・だいぶん違ったのだ。そのベースの音像がグッと締まり、ベースの弦がビシビシと鳴るような感じがよく出るようになっていたのだ。こんなバランスであれば、「CD」全般に対する僕の不信感も~たいていのCDがベース中心に低音を強調しすぎか?~かなり和らいでくる。
端正にきれいに弾くギターの音色も、よりくっきりと聞こえる。テナーの音ももちろん素晴らしい。3人の音楽、その全体がより一層ツヤヤカになったように感じた。
何をどうしたのか・・・僕にはオーディオ的な細かいことはわからないのだが・・・スーパー・ツイーターの(クロスオーバーの)調整やら、スピーカーの角度やらを、いろいろ綿密にジリジリと微調整を繰り返したようだ。リキさんと僕に見せてくれた「調整メモ」(スピーカーを動かした位置を記録したのか、まるで何かの設計図のような・・・)には驚くやらあきれるやら・・・(笑)
いずれにしても、あの青い顔した幽霊・・・いやウーレイから飛び出てきた音は・・・「きめ細やかな上質な低音(ウッドベース、バスドラ)」「ふくゆかにしかもよく前にでてくる中音(テナーやチェロ、ヴォーカルなど)」という感じか。
だから・・・低音・中音・高音のバランスが、誠にいい具合になっている・・・ように感じた。このCDは3人~テナー、ギター、ベースというドラムレスの変則トリオである。ジャズの強烈にプッシュしてくるドラムのシンバル~例えばエルヴィン~がどんな風に鳴るのか・・・?
興味が湧いてきた僕は「あとはエルヴィンのドラムだね」と言ったような気がする。

そんな風にして始まった今回の藤井寺ミニ杜。お昼とかの間も、軽いものでも聴きながら・・・ということで、Yoさんがソニー・クリスの72年頃の盤からちょっとロック調のものなどを流す。僕はロック調がいまいち苦手なのですぐに厭きてしまう(笑)「もうちょっと前のソニー・クリスを」という僕のリクエストで、67年録音のThe Portrait of Sonny Criss(prestige) からsmileをかけてもらう。このバラード、出だしの部分をクリス一人だけで吹く・・・ソニークリスって、こんなによかったかなあ(笑)と思えるくらに、これはよかった。
録音もいい、と思ったらRVGだった。ラベルは黄緑色だったが、67年頃の盤なので、その黄緑ラベルがオリジナルかもしれない。
「いいねえ・・・」とか言ってるうちに、なんのことはない・・・ちっとも「音」が止むことはない(笑) 結局・・・11時から6時までほぼ7時間ぶっとおし、という怖ろしくも楽しい会となったのだ(笑) 

以下、かけたレコード・曲と、僕の勝手な感想を少し。
*デジカメはやはり持っていかなかったので、Yoさん、リキさんのオリジナル垂涎盤の写真はありません。この日、かかったレコードで僕が持っているものは、ジャケット写真を載せました。国内盤がほとんどです(笑)Yo_008_2

《写真は、fantasy custom盤》

Johnny Griffin/Kelly Dancers(riverside)
オリジナル盤(モノラル) と WAVE盤(ステレオ) から black is the color of my true love's hair
オリジナル・モノラル盤~グリフィンのテナーの中・高音域がややきつすぎというか、堅く感じる。リキさんも「ちょっときついかな・・・」と一言。しかし、テナーやベースがぎゅ~っとつまった、そして入力レベルが高そうなモノラルならではの密度感は凄い。                   「迫力ある音」が好きな方なら、やはりモノラルを選ぶだろう。
続けてかけたWAVEステレオ盤~モノラル盤だと、ロン・カーターのベース音が大きすぎて僕には「迫力がありすぎ」て、なにか違うベーシストのように感じたが、このWAVEステレオ盤でのロン・カーターは、右チャンネルからのちょうどいいくらいの音像で、テナーもぐっとまろやかになった。音場全体がすっきりとして、とても聴きやすかった。僕はもともとリヴァーサイドのステレオ録音が好きなので、余計にそう感じたのかもしれない。
WAVE盤は・・・クセのないマスタリング(だと思う)が、ある種、うまく録音されたcontemporaryでの楽器バランスに近い味わいがあるようにも思う。そうしてこの「バランスのいい誇張のない楽器の音色」を、Yoさんのシステムで実際に鳴らされると・・・Yoさんが以前から、「WAVE盤の素晴らしさ」を力説していたことにも、充分に納得がいくのだった。

Heren Merrill/Merill at Midnight(emarcy)から black is the color of my true love's hair(グリフィン盤と同じ曲です)と lazy afternoon
裏ジャケットに、若くてかわいい感じのメリルが写っている。たまに聴くメリルは実にいい。
続けて、ティナ・ルイス(concert hall)から1曲(曲名失念)
あの色っぽいジャケットから想像されるとおりの色っぽい唄い方・・・そして案外、どの唄もしっかりと唄っている。
モンローの唄~あのコケティッシュなキャラクターを演出している唄い方(嫌いじゃないのですが:笑)の色気の部分を半分くらいにして、あとの部分を
しっかりと唄いこんでいる感じ・・・女優さんとのことだが、唄は巧いのである。ちなみに、ティナ・ルイスは、例えば普通のポピュラー風オーケストラLPのジャケットに、モデルとしてその姿が登場しているだけでもかなりの価値があるらしい。ティナ・ルイスかあ・・・。

お昼前くらいに、少し軽いものを・・・ということでベニー・ゴルソンとフレディ・ハバードの「スター・ダスト」(82年だったかの録音)をかけた時、トランペットのピッチやら音程の話しになった。その流れでベーシストとしてはあまりピッチのよくない(であろう)ジミー・ギャリソンのベース音がが大きく捉えられているあのピアノトリオ盤~
Yo_004 ウオルター・ビショップJr/~トリオ(キングが出した時の国内盤)からsometimes I'm happy を聴く。このレコード、録音自体はあまりよくない。
ベースの音も大きいことは大きいが、「響き」の成分が少ない、右手で弦を引っ張った「近くで録られた」感じの音だ。ピアノの音も同様でもあまりいい音とは言えない。Yoさんに指摘されるまでは、この盤・・・それほど ピッチの事を気にしたことがなかった(笑)   《上の写真~左はキング盤。右は西独の1989年の再発盤》

だいたいがギャリソンを好きなので、多少ピッチが悪かろうが、ただ「ギャリソンが弾いている」という認識でしか聴いてこなかったようだ(笑) それからベースの音程もたしかによくないのだが、この盤では、ピアノ自体の調律がだいぶんおかしいようにも聞こえる。高音域の方がちょっとフラットして、なにか全体に「ホンキートンクっぽい」ピアノサウンドではある。
ピッチのズレうんぬんはともかく、人間が何かを聞く時、「あばたもえくぼ」的なことや「意識してない部分は、鳴っていても聞こえない」的なことと、それから、その「気になる部分」はこれまた各人で様々な局面があるのだなあ・・・というようなことを、再確認したことではある。

Tenor Saxes(norgran)
The Consummate  of  Ben Webster(norgran) から同じ曲:Tenderly
これは前回のミニ杜(マントさん)でも味わったが、全く素晴らしい音質の盤。同じNogranの貴重盤なのだが、なぜかオリジナルのはずの
Consummate よりもTenor Saxes の方が、はっきりといい音なのだ。テナーはもちろんピアノやらべースも明らかに鮮度が高い。不思議な盤である。

この後、Yoさんセレクトによる「ロリンズ特集」
Sonny Rollins/Saxophone Collosus(オランダ盤)から you don't know what love is
Way Out West (in stereo 盤)(緑ラベルステレオ盤)からway out west
Contemporary Leaders から how high the moon と the song is you
The Standard(RCA Victor) から my one & only love
Sonny Meets Hawk(RCA Victor)  から summer time
milestone all stars から in a sentimental mood

そして Harold Land/in the land of jazz(contemporary) から you don't know what love is
これはハロルド・ランドというテナー吹きの快演!あまり知られてないレコードだが(僕も未聴だった) このバラードは、品格がある端正ないいバラードだった。Yoさんいわく・・・「ロリンズのyou don't know よりいい」 この意見に僕も異論はなかった。ハロルドランドというテナー吹きも実にいい。Harold_land_fox

<補足>そういえば・・・Yoさんと最初にジャズの話題で盛り上がったのも、このハロルド・ランド話題であった。同じcontemporaryにはランドのいい盤がいくつもある。Carl's Blues~ランドが「言い出しかねて」をじっくりと吹き上げる~というのもいい盤だ。それから The Fox もいい。これは僕が、ランドの良さに開眼したレコードだ。   《写真上がFox。録音もいい》

Yoさんのシステムではもともと「よく鳴る」contemporary盤が続く。Yo_005_1
《右の盤は残念ながら国内盤・・・キングGXC3159。それでも充分に音がいい・・・と強がりを:笑》

Hampton Hawes/For Real から hip
どの楽器も素晴らしい音を発しているのだが・・・それでもやはり・・・ラファロのベース音!音圧・強さ・しなやかさ、そしてテーマ部分で、「ぐう~ん」とベースの音程を高い方にスライドさせる驚異の技!(右手で弾いた直後に左手で2つの弦を押さえている(ダブルストップという)その力を、ある程度残したままスライドさせているのだと思う) それからホウズのピアノタッチの躍動感、さらにハロルド・ランドの端正で案外にハードボイルドなテナーの音色、そうしてフランク・バトラーの切れの良さ・・・全てが素晴らしい。
最高の演奏と最高の録音を、まさに眼前で実感できたような気持ちのいい瞬間だった。
「演奏」の快感と「音」の快感が同時に味わえる~そんな感じだった。
それにしても・・・この盤はcontemporaryの中でも最高峰の録音だと思う。

JR.monterose/The Massage(jaro) ~この希少レーベルの青白のラベル、初めて現物を見ました。
Violets for your Furs~モンテローズは、やはり素晴らしい。好きなテナー奏者だ。なんというか「唄いっぷり」の
スケールがとてつもなく雄大なのだ。
じゃあ同じ曲を別のテナーで聴こうか・・・てな訳で、

Yo_006_1 Jutta Hipp/緑色のジャケのやつ(bluenote:liberty ラベル)から Violets for your Furs 
~liberty ラベルでも充分にいい音だった。このモノラル録音でのベース音(アブダリマリク)も、とても大きく弾むような豊かな音で入っていた。
《写真上は東芝国内盤》   こちらの「音像のでかさ」は、先ほどのロン・カーターの場合とは違って、僕にはそれほど気にならない。なぜかというと・・・
(もちろん推測だが)ウイルバー・ウエアやマリク、それからミルト・ヒントン、トミー・ポッターというタイプの場合は、もともと彼らがウッドベースから引き出す音が、「輪郭の大きな響きの音」のように思うからだ。使っているウッドベース自体が大きめのサイズだったり、弦の種類が羊弦(現在ではスチール弦が多い)だったり、右手の弾き方(はじきかた)などで、たぶん出てくる音像は違ってくるものだと考えられる。
これらのタイプと対照的なのは、もちろんスコット・ラファロ、リチャード・デイヴィス、ゲイリー・ピーコックやペデルセン(初期の)などである。
ウイルバー・ウエアの「音像の拡がった大きく響く音」と、ラファロやピーコックの「シャープにしまった音」とは・・・どうです?あきらかにタイプが違うでしょう。もちろん、どちらがいいとか悪いとかの問題ではないのだが・・・困ったことに僕は、どちらのタイプのベーシストも・・・大好きなんです(笑)

Zoot Sims with Bucky Pizzarelli(classic jazz)1976から what is this things called love
~ピザレリのように、ギター一丁で、バッキングの和音から、しっかりしたしかもノリのいいリズムまで出してくる名手がいたのです!
ギターソロでもコード(和音)中心のソロで、そのコードのパターンを、微妙に変えながら厭きさせない。そして、それまでのビート感を決して崩さない。
インテンポ死守!である。というより、さらにビートをなめらかな流れにしているようでもある。サックスとギターだけのデュオなので・・・ギターソロといってもギター独りだけになるわけで、その「ギター1台キリ」でのこの名人芸・・・ため息が出てしまう。

ここで、僕が持ってきたヴォーカル盤を2枚。Yo_001

Irene kral /better than anything(ava) から it's a blue world と this is always
この盤は大好きなのだ。アイリーン・クラールは、アン・バートンの次に好きになった「声」なのだ。フレイジングがちょっと個性的だがリズム感がすごく伸びやかで何を聴いても心地よい。好きだ。

tony bennette/cloud 7(columbia) からI fall in love too easily Yo_003

この盤には初期のベネットのジャズ魂が溢れている。チャック・ウエインのコージーなアレンジ、小粋なビート感、そしてベネットの若々しいあの「声」~僕がベネットを好きなのは、ベネットがあの「声」だからかもしれない(笑)この「クラウド7」は、ジャケットもなかなかいい雰囲気ではある。リキさんもジャケットは気に入ったようだ。

次に僕のリクエストでモンクのソロピアノを。thelonious monk/Alone in San Francisco から remember と everything happens to me        続けて brilliant corners。ここで・・・リキさんはやや苦しそう(笑)

そこで、次にリキさんセレクトのクラシックをしばらく続けた。
グルダ/バッハ:Goldberg Variations(columbia)
キャサリーン・バトル 歌曲
ミュウシャ・マイスキー(グラモフォン3LP)からバッハ/無伴奏チェロ1番
ベルリオーズ:幻想交響曲
モーツアルト:39番
モーツアルト:ハイドンのために創ったという弦楽四重奏~こういう四重奏は、(僕は)ステレオ録音が楽しい。右からちょっと内よりにチェロが聞こえるなあ・・・と思ってたら、リキさんがジャケットを見せてくれた。
そのジャケットに4人の奏者の演奏風景が写っており、チェロ奏者が右から2番目だ。その立ち位置・・・いや、座って弾いてるから「座り位置」か)とおりの定位で聞こえる。リキさんとしては、左右への広がり具合がありすぎるらsく、「もうちょっと4人が内側に近づいてほしい」とのこと。そういえばジャケットの4人はかなり近づいて、こちらを向いて座っている。その4人の中央辺りに、やけに長い「マイクの塔」みたいなのが鎮座している。
僕はまだクラシック自体にほとんど馴染みがないので、「弦楽四重奏」というものもそれほど聞いた経験はないのだが、「チェロ」が入っているとすごく聞きやすい。自分でも気がつくと「チェロを主体」に聞いているのだ。ジャズでも「ウッドベース」から聞いていく。ベースという楽器に相当に馴染んでしまっているので、どんな音楽を聴いても・・・底辺の組み立て、みたいな部分にどうしても興味がいってしまうのかもしれない。

Marty Paich/The Broadway Bit (warner brothers:ステレオ金色ラベル) から I've grown accustomed to your face と I've never in love before
ラファロのベース音は~このワーナー盤では録音自体がややエコー強めのためか~For Realと比べると、やや輪郭が甘く聞こえるが、
ビート感、音圧、ソロ、全てが素晴らしい。

Al Cohn/Cohn On The Saxphone(dawn)
dawnのオリジナル盤は、乾いた感じのやや固めのテナーの音。 バラード曲が多く、コーンがじわじわと吹きこむ地味だけどこれはいい盤だ。

Bill Evans/you must believe in spring からthe peacocks。続けて同じ曲、
Yo_007

Jimmy Rawles/The Peacocks(columbia) から the peacocks
最後に聴いたこのジミーロウルズの盤は、1971年の録音で僕はCD(ソニーのマスターコレクション)で聴いていて、中でもこのthe peacocksが、凄く好きになってしまった。ロウルズとスタン・ゲッツのデュオ演奏だ。全編にしみじみした情緒が流れているのだが、最高に「詩的」な場面が最後にやってくる。ゲッツが最後のテーマを終えるところで・・・(もう吹く息は、切れているのに)サックスのキーを「パタパタパタ・・・」としばらく鳴らしているのだ。どう聴いても・・・孔雀が飛び立つイメージにつながる。僕は、この粋なアイディアが事前に準備されていたとは思わない、いや思いたくない。ゲッツが息をきらす、まさにその瞬間に、「パッ!」と閃いたのではないだろうか? ジャズは素晴らしい・・・だからまだ止められない。

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