<思いレコ>

2012年12月31日 (月)

<思いレコ 第19回>スタン・ゲッツのJazz at Storyville。

スタン・ゲッツ入魂のアドリブ・・・1951年の傑作ライブ!

ジャズを長く聴いていると、まだ馴染みのないミュージシャンであっても、なんとなくこの人は好きだな・・・と感じる場面がけっこうある。それからそのミュージシャンのレコードを色々と聴いていくと・・・その人の諸作の中でも分けても好きなアルバムというものが自(おの)ずと浮き上がってくる。ジャズを長いこと聴いてきても厭きないのは、そんな風に少しづつ自分にとって未知のミュージシャンを知り、その人を身近に感じていく・・・そんな過程が楽しいからかもしれない。

10_004 Stan Getz/Jazz at Storyville(Roost RLP-407)1952年
thou swell
the song is you
mosquito knees
parker 51

スタン・ゲッツ・・・この人をもう長いこと聴いている。特に50年代初期のゲッツに痺れている。何故か?何かを好きになるのに理屈はないのだろうけど、強いて言えば・・・僕はまずもってあのテナーの音色が好きなのである。
1949年~1953年頃のゲッツの音色は、音が小さく、か細い感じで、ごく素朴に言えば・・・あんまり力強くない(笑) 
僕の場合、テナーという楽器ではロリンズを先に好きになったので、この50年代ゲッツ聴きのごく当初には、若干の違和感を覚えた。ちょっと器楽的な話しをすれば、ゲッツの音色はサブ・トーンの割合が多い感じかと思う。サブトーンというのは・・・(私見では)吹き込んだ息の全てを音として「強く大きく鳴らそうとはしない状態」・・・というか、そんな吹き方のことだ。だからサブ・トーン気味の音は、まずは「柔らかい感じ」に聴こえる音色だと思う。判りやすい例を挙げるならば・・・<レスター・ヤングがサブトーン主体で、コールマン・ホウキンスがフルトーン主体>かな。
(実際の聴こえ方としては、サブトーンだから「小さい音量」、フルトーンだから「大きい音量」という単純なことではないとも思う)

様々なミュージシャンの現す音色(例えばテナーならテナーという楽器の)に対しての好みというものは・・・ヴォーカルものへの好みと同じように「その声(音色)」に対しての生理的な反応で左右されると思う。
「おっ、いい感じの声だな」と感じるのか・・・あるいは「あまり好きな声じゃないな」と感じるのか。そんな具合に、どういうものを好むかは良い・悪いじゃなくて、聴き手それぞれの感性の問題だろう。

楽器の音色としてゲッツのあの「ヒョロヒョロ~」がダメだという方も多いような気もするが、僕の場合は、その「ヒョロヒョロ音色」はすぐに気にならなくなり、というより、太くはなくても力強くはなくても・・・その逆に、柔らかくて肌理(きめ)の細かい肌触りのいいシルクのような・・・その「音色」を好きになった。 
そしてこのことは・・・ちょいと大げさに言えば、ジャズの魅力というのは、力強くゴツゴツした黒人的なハードバップだけにあるわけではなかった・・・という、僕のジャズ聴きへの新たな開眼ポイントになったのだ。

僕自身のジャズ聴きの変遷を思い起こしてみると、ゲッツについては、50年代ゲッツに踏み込む前に、60年代のボサノヴァでのゲッツはよく耳にしていて、そこでもうゲッツを好きになってはいたじゃないか。ジョアン・ジルベルトとの「イパネマの娘」・・・間奏部でのあのゲッツのソロ! なんと見事に歌うフレーズであることか!あれは譜面か?(アレンジされていたもの) と思わせるほどに、テーマメロディを生かしながらの、小粋な崩し。ソロの最後の辺りの3拍3拍2拍のフレーズ・・・これはもう「粋」としてか言いようのないジャズになっていると思う。
この辺りの「前ゲッツ体験」を、今、あえて分析してみると・・・たぶん僕は、ゲッツの自然なフレーズ展開の見事さに感心していたのだろう。元メロディを生かしながら自在に展開させてしまうセンスのよさ・・・そうなのだ、ゲッツという人は「音色」だけではなく、「フレーズ」の人でもあったのだ! そんなの、あたりまえの話じゃないか(笑)

スタン・ゲッツは閃きの人だと思う。「閃き」を生かす~という点では、ソニー・ロリンズと同じタイプ(音色やフレーズは全く対極だが)かと思う。そうして・・・いい「閃き」が湧いた時のゲッツは・・・本当に凄い。テーマの部分では元のメロディを崩したりもするが、しかしそれは元メロディのツボをちゃんと生かしたようなフレーズであって、そしてひとたびアドリブに入れば、ゲッツはもう吹くのが楽しくて仕方ない・・・という風情で、迷いのない、そして見事に歌っているフレーズを次々と繰り出してくる。スローバラードでの叙情溢れるフレーズももちろん素晴らしいのだが、急速調でのスピードに乗った淀(よど)みのないフレージングときたら・・・それはもう、本当に生き生きとした音楽がそこに立ち現われるのだ。

10_003 Stan Getz/Jazz at Storyville volume 2(Roost RLP-411)1952年
pennies from heaven
budo
jumpin' with symphony sid
yesterdays

さて・・・ゲッツの「音色」と「フレーズ」についていろいろ書いてきたが、僕が思うスタン・ゲッツという人の本当の凄さとは・・・実はその「音色」と「フレーズ」の見事な融合感にあるのだ。
ゲッツの吹くフレーズには理論で分析したような跡はまったくない。閃きによって生まれた自然なフレーズを、あたかも「そういう音しか出なかった」ように思える自然な音色で吹く・・・。これら2つの要素がまったく違和感なく、ごく自然に溶け合っていることに、僕は驚くのだ。
スタン・ゲッツという人は、自分の音色に合うフレーズを自ら生み出したのだ・・・いや、自分のフレーズに合う音色を創り出した・・・そういうことだと僕は思う。
そうして、ひとたび彼がテナーを吹けば、それがテーマであってもアドリブであっても・・・そこには本当に「自然な歌」が溢れ出るのだ!

もしあながたゲッツのそんな「自然な歌」に浸りたいのであれば・・・何を置いても、スタン・ゲッツのこの Jazz At Storyville を聴かねばなるまい。ようやくレコードの話しになった(笑)
Jazz At Storyville は「ストーリヴィル」というジャズクラブでの1951年10月28日のライブ録音である。1951年のしかもライブ録音だから、やはりそれほどいい音質とは言えない。まあしかし・・・このライブ盤に関しては・・・音質云々(ウンヌン)はもうなしにしよう。 音楽を聴こうではないか! 1951年のこの瞬間に、テナーという楽器を本当に生き生きと吹いた・・・そう、息を吸って吐いていた彼の生きた時間を、生きた音楽を聴こうではないか!

Roostレーベルにはゲッツの10インチ盤が7枚ある。その内の3枚が、Storyvilleのライブ盤である。番号は~407、411、420で、各4曲づつ収録の全12曲。後に2枚の12インチ盤で再発された時に、1曲(everything happens to me)が追加されている。
*12インチ盤の写真はこの記事の一番下にあります。

10_002 vol.1が1952年に発売された後、1954年に発売されたvol.3(420)の裏ジャケット。タイトルJAZZ AT STORYVILLE の下の、~not so long ago at the Storyville Club in Boston という文章が何やら言い訳がましい(笑) 2年も経ってしまったから「最近」とは言えずに「そんなに以前のことではない」みたいな意味合いだろう。

これらシリーズ3枚目の10インチ盤~3枚のライブ盤:全12曲・・・どのテイクも本当にいい。しかしあえて・・・ベストを(というより単に自分の好みだが)挙げれば・・・そうだな、やはり parker51ということになるかな。
parker51なる曲は「チェロキー」のコード進行をそのまま使っていて、そもそもチェロキーという曲は急速調で演奏されることが多く、スピードに挑戦する時に格好の曲なのだ。ゲッツはパーカーがそうしたように、2小節8拍を「3拍3拍2拍」で取るノリのフレーズを吹いたり、細かいアルペジオ風のフレーズの終わりを「タッタッタッ!」という歯切れのいいスタカートで締めるパターンを繰り返したり・・・いろんなアイディアを繰り出してくる。・・・parker51 は全員がスピードの限界辺りを果敢に突き進んでいて(220くらいのテンポか)そのリズムに乗って、スタン・ゲッツがアドリブの本領を発揮している名演だと思う。
ドラムのタイニー・カーンも凄い。特に急速調の曲でのタイニー・カーンは、柔らかいシンバリング(シンバルの叩き方)で、バンド全体をグイグイと乗せてくるような感じだ。バッキングを無難に流すだけのありきたりのドラマーではない。そして、vol.3に収録の move では終盤にドラムのソロ場面があるのだが、これが素晴らしい聴きものだ。リズムの割り方が面白くて、かなり変則的なことを演っているのだが、自分のソロを見事にコントロールしている。1951年としては相当に新しい感覚だと思う。カーンもまた閃きの人だったのだろう(笑) ゲッツは明らかに、このドラマーの凄まじいノリに刺激を受け・・・燃え上がったのだ!
ジャズは・・・凄い(笑)

10_001 Stan Getz/Jazz at Storyville volume 3 (Roost RLP-420)1954年
rubberneck
signal
hershey bar
move

ジャケットについて言えば・・・vol.3の写真ジャケが一番好きだ。vol.1とvol.2のジャケット・・・バート・ゴールドブラットのイラストは、もちろん悪くないが、何かしら全体のバランスがちょっと変な感じもあって、その点、vol.3のモノクロ写真はかっこいい。ゲッツのあの「白いマウスピース」が、ひと際、輝いている。そうしてよく見てみると・・・あれ?このゲッツの写真~(写真上)右向きでテナーを吹いているゲッツのアップ写真なのだが、これ・・・明らかにvol.1とvol.2のイラストと同じじゃないか。そうか、この写真を基にイラストにしたのだな。そしてvol.3のジャケット右隅にはメンバー4人の演奏中と思(おぼ)しき写真も写っている。う~ん・・・しかし小さい。この4人をもっとアップにした写真を裏ジャケットに載せればよかったのに。

余談だが、この「白いマウスピース」について少しだけ。この白いマウスピース(brilheart社のstreamline)・・・僕などは、あれこそがゲッツの代名詞みたいなイメージを持っているのだが、ゲッツも生涯、このマウスピースしか使わなかった・・・ということではないようだ。管楽器をやっている方には当たり前のことなのだが、管楽器というものは、マウスピースの種類によってその音色が相当に変わるのだ(リードの種類も大いに関係してくる)
スタン・ゲッツも、ある時期、マウスピースをあれこれ試していたらしい。ゲッツのテナーの音色(基本的にはサブトーン主体のソフトな音色だと認識している)が、年代によって微妙に違うようにも聴こえるのだが、それは当(まさ)にマウスピースの違いによるものだったのかもしれない。その辺りについてジャズ仲間のsige君がとても参考になる資料を紹介してくれた。
テナー奏者の西条孝之介が、ゲッツの使ったマウスピースについて詳しく語っているのだ。以下、ほんの一部を抜粋~
≪(細いメタルのマウスピースを使ってますね)これはベルグラーセンですね~ゲッツは若いとき、ビバップをやろうとした~サヴォイの「オパス・デ・バップ」の頃、僕としては許せない音なんですよ。下品な音。~~~~~~~~ウディ・ハーマン楽団の頃から変わってくる~白いマウスピースですね。ストリームラインと書いてあるけど~ブリルハート社製でね。プレスティッジもルーストも全部これ~≫ う~ん、興味深い・・・。ジャズ批評119号(p101~p103)をお持ちの方~ぜひご覧ください。

なんにしても・・・ジャズは本当に素晴らしい!

122 左の写真~2枚の12インチ盤。
左側が第1集(1956年)
右側が第2集(1957年)
追加1曲のeverything happens to meは、第2集のA面最後に収録されている。



下の写真~試みに第1集のジャケットを「反転」させてみると・・・なかなかいい写真が現われた! ベーシストにうんと近い位置で吹いている。ストーリーヴィルでの演奏中の写真なのだろうか?

Getz_roost_12inch_1_2

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2010年3月15日 (月)

<思いレコ 第17回>ミルト・ジャクソンのあの音色

ヴィブラフォンという楽器のこと。

僕がミルト・ジャクソンの魅力に目覚めたのは・・・「Milt Jackson」(prestige)というレコードからである。それまでにモンク絡みでも聴いてはいたが、ミルト・ジャクソンという人を決定的に好きになったのはこのOJC盤を聴いてからだ。
もともと、ヴィブラフォンの音~それ自体には、惹かれるものがあった。ジャズを聴き始めてすぐの高1の頃だったか、当時買ったばかりのFMラジオ(1972年頃~なぜか簡易トランシーバ付き。同じラジオが2台あれば離れていても会話ができる、というやつ:笑)から流れてきたヴィブラフォンの音に僕は反応した(笑)あれはたぶんMJQだったと思うが、その時、兄貴に『この「ヴィブラフォンの音」っていうのは・・・いいね』と言うと、フォーク好きの兄貴は「ふう~ん」とまったく興味なさそうだった(笑)そんな記憶がある。

ヴィブラフォン(vibraphone)というのは、実に独特な楽器である。おそらく誰もが小学校の頃に触れた「木琴」~あの鍵盤部分が金属製なので「鉄琴」と呼ばれるのだろう。そのヴィブラフォン・・・ピアノと同じ音列の鍵盤楽器であることは間違いないのだが、ピアノと違って、ヴィブラートを掛けられるのである。ヴィブラートというのは、簡単に言えば「音が揺れる」という意味合いだと思うが、ピアノ(もちろんアコースティックの)だと、どの鍵盤をどう押えても・・・もちろん音は揺れない。ヴァイオリンやチェロなどの弦楽器なら、左手である音程を押えたままその左手を揺らすことで・・・唄の場合ならノドの独特な使い方により、どの音程でも任意に「ヴィブラート」を掛けられる。
ヴィブラフォンというのは、そのヴィブラートを掛けられるように「細工」した楽器なのである。まあ、だからこそ・・・ヴィブラフォンという名前なんだろうけど(笑)
*注~vibraphone《ビブラートをかける装置つきの鉄琴。(略式)vibes》とある(ジーニアス英和辞典より)

ヴィブラフォン奏者で、僕がわりとよく聴く(聴いた)のは、ジョージ・シアリング、(シアリングはピアニストです。このとんでもない勘違いを、上不さんがコメントにて指摘してくれました) テリー・ギブス、ライオネル・ハンプトン、それからたまに聴くのがゲイリー・バートンくらいなのだが、ミルト・ジャクソンのヴィブラフォンは他のヴィブラフォン奏者とだいぶ違うようなのだ。もちろんどの楽器でも奏者によって音色は違う。特に管楽器ではその違いは判りやすいかと思う。鍵盤楽器の場合、音を直接に鳴らす部分がハンマーなので、音色自体の違いというのは他の楽器よりは出にくいかとも思う。もちろん、鍵盤を押す時のタッチの強弱やフレーズのくせ(アドリブのメロディやアクセントの位置の違い)で、演奏全体には大きな違いが出てくるわけだが。
そんなわけで、ある程度、ジャズを聴き込んだジャズ好きが、パッと流れたヴィブラフォンの音を聴いて、その演奏がすぐに「ミルト・ジャクソン」と判る・・・ということもそれほど珍しいことではないと思う。それはもちろん、ジャケット裏のクレジットを「見ると」判る・・・ということではなく(笑)その演奏のテーマの唄い口、アドリブのフレーズがどうにも独特なので「ミルト・ジャクソン」だと判るはずなのだ。そしてさらに言えば・・・そういう演奏上のクセだけでなく、ミルトの「音色そのもの」が、これまた実に独特だから「判る」こともあるように思う。
あれ・・・たった今、僕は『鍵盤楽器では音色自体の違いは出にくい』と言ったばかりなのに(笑)
それでは・・・その「独特な音色」は、どうやってできあがったのだろうか? 

ミルト・ジャクソンを好きになって、彼のレコードやCDを集めていた頃、あるジャズ記事を読んだ。(スイング・ジャーナルか何かの雑誌だったような記憶があるのだがはっきりしない)それは、ヴィブラフォンという楽器の「モーター」について触れた記事だった。
「モーター?」 当時は、ヴィブラフォンをなんとなく「生楽器」のように認識していたのだが、よく考えたら、エレキ・ギターと同じく「電気楽器」だったわけだ。
鍵盤楽器の運命として、ひと度(たび)、鍵盤を叩いて発生させてしまった「音」は、もう変えることはできないわけで・・・つまり、その音が発せられた後には、左手もノドもその音の発生源に触れてない状態なのだから、どうやったって、ヴィブラートを掛けられる道理はない。当たり前である(笑)
そこで「モーター」なのである。ヴィブラフォンの鍵盤の下には小さい扇風機が付いていて、「モーター」はその小さな扇風機を回して「風」を起こすために付けられている。マレットで鍵盤を叩いた後に鳴っている音に、その「風」を当てると・・・「音が揺れる」仕組みなのだ。つまり・・・ヴィブラフォンのヴィブラートとは、マレットで鍵盤を叩いた後の「人工的効果」だったのだ!
《*注~すみません。この楽器のメカニズムのこと、よく知らないまま書いてしまいました(笑)今、ちょっと気になって、ウィキペディアで調べたら・・・「ヴィブラートが人工的」に間違いはなかったのですが、モーターが回すのは、扇風機というより「小さな羽根」で、それは「音に風を当てる」ためではなく、その羽根を回転させることで鍵盤下の共鳴筒を開けたり閉めたりする~その動きによって、「音が揺れる」ようです》

しかし、好きになって聴いてきたミルト・ジャクソンの「音」(音色自体+演奏技法も含めたサウンド全体)に充分に馴染んでいたはずの僕は・・・一瞬、その「人工的」が信じられなかったのだ(笑)
つまり、それくらい・・・ミルトのプレイは、自然な唄い口だったのだ。歌い手さんがすう~っと軽くヴィブラートを掛けるように、チェロ奏者が思い入れたっぷりに左手を震わすように・・・ミルトの演奏には、充分すぎるほどの「自然なヴィブラート感」があったのだ。
これは実は凄いことで、つまり・・・ミルト・ジャクソンという人は「自分の唄い」を充分に表現するために・・・おそらくそれまでにその楽器にはなかった「音色」を創り上げてしまったのだ!

その「ヴィブラフォンのモーター」記事の詳細までは記憶にないのだが、ポイントは・・・ミルト・ジャクソンの場合、そのモーターの回転数が他の奏者とは違う~というようなことだったと思う。
「回転数」という言葉にちょっと説明が要るかと思うが、つまり・・・弦楽器でいうところの「左手の揺らし方の速さ・遅さ」に当たる。「揺らし」の波形の上下(山と谷)の間隔を短め(速め)にするか長め(遅め)にするか~という意味合いになるかと思う。
ミルトよりちょっと古い世代のヴィブラフォン奏者~例えばライオネル・ハンプトンの音は、もう少し細かく速く揺れてるように聞こえるので、比べた場合、ミルトのヴィブラートは、だいぶ「遅め」に聞こえる。
音を言葉に置き換えることなどできないが、その感じを強いて表わそうとすれば・・・速い揺らしを《ゥワン・ゥワン・ゥワン・ゥワン」とすれば、遅い揺らしだと「ゥワァァワァ~ン・ゥワァァワ~ン」という風に聞こえる。
そうして、ミルトという人は、その「揺れ方」まで自在にコントロールしているようなのだ。彼のスローバラード(例えばthe nearness of you)を聴くと・・・テーマのメロディの語尾の所を「ゥワァァワァ~ン・ゥワァァワ~ン」と遅くたっぷりと揺らす場合と、あまり揺らさない(ヴィブラートが速め・軽め)場合もあるのだ。たぶん、モーターのスピードを小まめに調整しているのだろう。
人工的な機能を人間的な表現力にまで高めてしまう・・・これこそ、僕がミルトに感じた「自然な唄い口」「自然なヴィブラート感」の秘密なのかもしれない。
そして、ミルト・ジャクソンの秘密は・・・たぶん「モーター」だけではない。
ミルトのあの独特の深い音色・・・僕は、鉄琴を叩く、あの2本の鉢(ばち)~マレットにも秘密がある・・・と推測している。
ハンプトンやテリー・ギブスの音は、もう少し堅くて打鍵がキツイいと言うか、ちょっと「キンキン」した音に聞こえる。ミルトの打鍵ももちろん強いのだけど・・・(私見では)たぶんマレットの布が分厚いので、だから強く叩いたそのタッチに若干のクッションが入って、ソフトに聞こえるのではないだろうか。ソフトと言っても打ち付けられた瞬間の音の感触として、ヒステリックな感じがしない・・・ということで、もちろん「やわ」という意味ではない。ミルトの打鍵にはしっかり「芯」があり、あの粘りながら脈々と続く長いフレーズの打鍵音ひとつひとつに充分な音圧感もある。しっかりとテヌートが掛かっているというか・・・前に叩いた音が残っている内に次の音が被(かぶ)さってくる・・・というか。ずっしりとした音圧感が、どうにも凄いのである。
つまり・・・ミルトは、重いマレット(布が分厚いので)でもって、適度に強く、適度に弱く、叩きつける時の「返し」を微妙に調整しながら、しかしもちろんマレットから鍵盤に充分な打鍵力を与えている・・・という感じかな。その絶妙な「タッチ感」に、さきほどの「遅めのモーター回転」を、巧いこと組み合わせて、そうして出来上がったのが、あの「ミルト・ジャクソンの音色」ということかもしれない。
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《4~5年前に入手したprestige のN.Y.C.ラベル~僕の数少ないNYCの一枚だ(笑)》

そんな「ミルト・ジャクソンの音」を、分厚く・太く・温かみのあるサウンドで録ったのが・・・ヴァン・ゲルダーなのだ。このレコードを聴いていると・・・ミルト・ジャクソンが自分の楽器から出したであろうその音・その鳴り・その音圧感を、ヴァン・ゲルダーがそのままレコード盤に閉じ込めたな・・・という気がしてくる。

019

《裏ジャケ写真~OJC盤では黒色が潰れていたが、オリジナル盤ではさすがに鮮明である。当たり前か(笑)》

さて、Milt Jackson(prestige)である。
ある時、僕はこの「Milt Jackson」・・・うんと安いOJC盤で買って、それほど期待せずに聴いてみた。当時、ミルト・ジャクソンといえばMJQのことばかりで、この地味な盤が紹介されることはあまり多くはなかったように思う。だからこの作品が「バラード集」なんてことは全く知らなかったのだが、スローバラードでのじっくりとじわじわと唄い込むミルト・ジャクソンのヴィブラフォンは、本当に素晴らしいものだったのだ。
収録曲も、the nearness of you, I should care,my funny valentine など、いい曲ばかり。片面が10分ほどと短くてすぐ終ってしまうので、僕はその度にレコードをひっくり返し・・・だから、どちらの面も本当によく聴いた。そうして、このレコードを心底、好きになってしまったのだ。
Photo
《このOJC盤を買ったのはいつ頃だったのか・・・今、僕のレコードリストで調べてみたら・・・1991年8月だった。それより以前に meets Wes や前回記事のOpus De Jazzなども入手していたから、この真の名盤に出会うのは、けっこう遅かったようだ》

たまたま買った「安いOJC盤」~僕には大当たりだった(笑)
余談だが、このMilt JacksonのOJC盤・・・ナンバーが001番で、どうやらあの膨大なOJCシリーズの第1号だったようだ。やっぱりオリン・キープニューズ氏にも「内容が良い」という自信があったのだろう。
バラード集だけど、ほんのりとブルースもあり、全6曲・・・まったく厭きない。どの曲でも脈々と湧き出るミルトのフレーズに、それはもう、deepなソウル感が全編に溢れ出ており(ソウルと言ってもR&Bのソウルではなく、深い情感・・・というような意味合い)本当に素晴らしい。特に the nearness of you は絶品!
これこそが、バラード好きでもあるミルト・ジャクソンの本領発揮・・・そして本音でやりたいジャズだったと思えてならない。
主役がミルトなので、おそらくいつもよりうんと抑えた感じのホレス・シルヴァーのピアノにも適度にブルースぽい感じがあって、ミルトの叙情といいブレンドを醸(かも)し出しているように思う。この作品・・・ピアノがホレス・シルヴァーで本当によかった・・・(笑)

そして、この「Milt Jackson」には、もうひとつ・・・素敵な偶然があった!
1980年頃だったか・・・ワイダやポランスキー、ベルイマンの映画を見るために、毎週、名古屋まで通ったことがある。「灰とダイヤモンド」「地下水道」や「水の中のナイフ」それから「ペルソナ:仮面」などを、実に面白く・・・というより、映画マニアを気取って、しかめっ面をしながら観ていたわけである(笑)そして、内容とは別のところで妙に印象に残った映画がひとつあった。
「夜行列車」である。この映画・・・列車の同部屋に乗り合わせた人々の物語で、「灰とダイヤモンド」や「地下水道」に比べれば、僕にはたいして面白くなかった。しかし印象に残っている・・・そのテーマ音楽がとてもいい曲だったのだ。
寂しい映画にピタリと合う、寂しいメロディ・・・独特に上下するような独特なメロディが、映画の間、何遍も流れてくる。映画が終わり・・・僕はその独特なメロディを忘れたくないがために、地下鉄までの帰り道でもハミングしたり口笛を吹いたりしていた(笑) その効果もあってか・・・何年か経っても、時にそのメロディが、アタマにちらついたりするのだった。
ただ、僕はその曲は映画のオリジナルだろうと思ったので、その曲の正体など知るべくもなく、そのメロディの記憶も徐々に薄れていった。
そうして・・・前述の「ミルト・ジャクソン」なのである。このレコード・・・A面最後の曲が流れてきた時、僕は思わず「おおっ!」と声を出した(笑)
これは・・・あの曲だ!あのメロディじゃないか!
クレジットを見ると・・・《moonray》とある。11年ぶりの再会である。こういう時・・・音(音楽)の持つ力ってなかなか凄いものがあって、いろんな感情・感覚がぐわ~っと甦ったりする。ジャケット裏の解説には~MOONRAY:an old Artie Shaw opus(アーティーショウの古い作品)との記述があった。ようやく僕は、あの「夜行列車」のテーマ曲が、moonrayという古いスタンダード曲であることを知ったのである。
その後、もう一枚、ジャズのレコードに入っている moonray を知った。それは、ローランド・カークの、いや、ロイ・へインズの「Out Of The Afternoon」(impulse)である。
お持ちの方、ぜひ聴いてみてください。うねるようなメロディが不思議な寂しさを湧き起こすような(僕には:笑)名曲だと思う。
このmoonray事件には後日談があって~2年ほど前だったか・・・ニーノニーノさんBBSのお仲間:M54さんが、やはり映画「夜行列車」を見て、何やら印象に残った曲がある。気になって仕方ない・・・というような書き込みをされたことがあるのだ。その書き込みを見た僕は、その気分が全く100%まで実感できたので・・・もったいぶりながら(笑)そのテーマ曲の正体をお教えしたわけである。
当時のヨーロッパ映画では、盛んにジャズの曲(演奏)を映画に使ったそうで、ということは・・・1960年頃のヨーロッパの映画人もジャズに何かを感じとって映画にジャズ音楽を使い、何十年も後にその映画を観た人間もその音楽から何かを感じ取って、ある感興(かんきょう)を抱く・・・まったくジャズというのは素晴らしい何かですね(笑)

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2009年3月22日 (日)

<思いレコ 第16回>クリフォード・ブラウン with ストリングス

クリフォード・ブラウンの音色そのものを味わいたい~

002_3 休みの日に好きなレコードを聴く・・・僕にとっての幸せというのは、ほとんどそんなことだ(笑) そうして「好きなレコード」はいくらでもある。聴きたいな・・・と思うレコードは、その日の気分によって変わってくる。
今日は朝から雨模様で薄暗い。僕の気分もなにやら仄かに暗いようでもある。そんな時・・・僕はなぜかWith Stringsを取り出すのだ。
クリフォード・ブラウンのトランペットのあの「鳴り」が流れてきた瞬間、「ああ・・・いいなあ」
その音色に触れるだけで・・・実際、沈んだ気持ちが癒されていくのである。
あのちょっと軽めにも聞こえるパリッとしたペットの鳴り・・・本当にスカッと抜けたようにキレイに鳴っている。そのトランペットの音色が気持ちいいのである。これは・・・理屈じゃない。それは僕にはほとんど条件反射だ(笑) そうじゃない人もいるかもしれないが・・・レコード盤から出てきた「音」に幸せを感じてしまう人間がいる~ということも真実なのだ(笑)

A面が終わると・・・僕は迷うことなくレコードをひっくり返す。そうしてB面も聴き通す。同じような曲が続くのだが、不思議とあっという間に40分が過ぎてしまう。その間、思っていることは・・・「ああ、いいなあ」だけなのである(笑)いい音楽、いいレコードというのはそうしたものだろう。今日の僕にとってはそれが、With Stringsだったわけである。

007このクリフォード・ブラウンの作品、僕は長いこと日本フォノグラムの廉価版で聴いてきた。もちろん最初から嫌いではなかったし、よく言われるような「アレンジが古臭い」とかもそれほど気にならなかった。だがしかし、折りにふれ聴きたい~と思うほど好きなわけでもなかった。

005_3そんな「ウイズ・ストリングス」に特別な愛着を覚えるようになったのは・・・ちょっと前に入手した米EP盤~その中のブルー・ムーンなど聴いた時だった。クリフォード・ブラウンが吹くトランペットの音色の張り具合、輝き、そして何よりもその音の抜け方みたいなものが、国内盤とはだいぶ違うように感じたのだ。006

《EP盤はたいてい4曲収録なので、この2種で計8曲。12インチ盤には12曲収録だから、あともう1種、EP盤があるはずで・・・やっぱりそれも欲しいな(笑)
7インチ盤~柄は小さくても「ブルー・バック」なのが、ちょっとうれしい(笑)》

たぶん僕は、EP盤で聴いた「音色」にそれまでには感じたことのない「ブラウンという人の存在感」みたいなものを感じ取ったのだろう。ただ・・・そのEP盤はオリジナル盤と聴き比べると、ややハイ上がりでふくゆかさに欠けており、さらに2枚ともカッティングレベルが低いようだった。EP盤好きの僕は少々がっかりしたものだが、「With Strings」への愛着はますます湧いてくるのだった。

004_2そうしてちょっと前に12インチ盤「With Strings」を入手した(一番上の写真参照) 残念ながら、これはemarcyの再発で、センターラベルがドラマーの付いてないemarcyの2ndか3rdラベルだ。もちろん裏ジャケットもブルーバックではない。
追記《センターラベルは、Mercuryです。ジャケ表記はemarcyなのに:笑》003

だがこの再発emarcy盤の音・・・これが意外によかったのだ。
鮮度感はあったがややハイ上がりのEP盤と比べると、このemarcy盤では中音域が厚くなったというか・・・トランペットの音色がふくゆかになり、音全体に艶やかさが増してきたのだ。そうしてクリフォード・ブラウンがその艶やかで瑞々しい音色で、例えばcan't help lovin' that manのメロディをじわじわと吹き込むと・・・比喩ではなく、その音が僕の体に沁み込んでくるのだった。

このWith Strings~ブラウンはいわゆるアドリブをほとんど吹かない。どの曲もスローテンポのバラード調なのだが、ブラウンはそんないい曲のメロディを、慈(いつく)しむように・・・丁寧に吹く。ブラウンは本当にゆったりと吹く。パラパラとフレーズを細かく刻んだりはせず、自分自身が、ゆったり伸ばしたロングトーンの響きを楽しんでいるようにも思えてくる。トランペットという楽器の本当に美しい響きをひっそりと味わうだけでいい・・・そんな音楽なのかもしれない。
そうして、ブラウンが丁寧に吹くメロディを味わい尽くすためには・・・その音色全体のニュアンスがとても大事な要素になるのだと思う。

~追記《僕が気に入っているクリフォードの吹き方がある。この男、キレイにプワ~ッと伸ばしたその音の音圧と音量を保ったまま・・・どんな仕掛けか、その音を「むわわ~ん」と膨らましたような感じにするのだ。「膨らます」と言っても、音が拡散してしまうわけではなく、響きはあくまでクリアなままで、その音の輪郭だけを微妙に変化させる・・・シャボン玉を柔らかく膨らましているような・・・そんな感じかな。そんな風に聞こえる場面が確かにある。そしてそのクリフォードの「決め技」に・・・僕は参ってしまうのだ(笑)》

この頃の僕はなんとなく疲れ気味で、そのためか、このレコードを聴きたい・・・と思うことも多い。そうして、聴くたびに・・・気持ちよくなる(笑)
この「クリフォード・ブラウンのウイズ・ストリングス」は・・・僕にとっては、本当に大事な1枚である。
もちろん、1stのオリジナル盤はもっと凄いだろうな・・・と思わないわけでもないが、今の僕にはこれで充分だ。
当分は・・・1stオリジナルを耳にしない方がいいのかもしれない(笑)

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2008年5月19日 (月)

<思いレコ 第16回> レッド・ガーランドの唄心。

「ソニー・ボーイ」という曲のこと~

ジャズを好きになってしばらくの間、ピアノではモンクとエヴァンスばかり聴いていた。タイプは全く違うが、この2人は本当の意味での「スタイリスト」だったし、僕はある意味「判りやすい」この2人の個性をどうしようもなく好きだったのだ。その後、ランディ・ウエストンやダラー・ブランド、それからソニー・クラークを知り、今ではピーターソンやラムゼイ・ルイスまで楽しく聴いている(笑)

そこで・・・レッド・ガーランドである。こんな風にブログに取り上げる割りには、僕はガーランドのマニアというわけではない。ガーランドのピアノ自体は、マイルスの諸作でけっこう耳にはしていたはずだが、そのソロに特に惹かれるということもなく・・・だから、ガーランドのリーダーアルバムまではなかなか手が廻らなかった。
その頃、行きつけのジャズ喫茶「グロッタ」で、マスターがガーランドのレコードを何度か掛けてくれたことがある。Garland_of_red そしてその中の1曲が妙に印象に残ったのだ。

A Garland of Red(ビクター1978年)~A面2曲目がmy romanceだ。
その1曲とは・・・「マイ・ロマンス」だ。この名曲を、ガーランドは思いもかけないほど「ゆっくり」演奏した。

「マイ・ロマンス」は何と言っても、エヴァンスのレコードを聴き込んでいたので、僕のアタマの中には~エヴァンスの川の水が流れるようなピアノ・・・それからもちろんラファロの美しいベースソロ~そんなイメージがこびりついていた。「これしかない」と思えるくらいに、エヴァンスのあの曲に対しての解釈は素晴らしいものだったが、あれだけが「マイ・ロマンス」ではなかったのだ。
ガーランドの方が1956年と録音年がうんと古いわけで(エヴァンスが1961年)だからエヴァンス版とはだいぶん肌合いが違うのだが、この「ゆっくりマイ・ロマンス」にも、僕は徐々に惹かれていった。
実際、ガーランドは、本当にスローなテンポでこの曲を演奏している。もうちょっと何か仕掛ければいいのに・・・と思ってしまうほど、徹底して音数を少なくしたまま、最初から最後まで実に淡々と弾き進めるのだ。決して華麗な演奏ではない。しかしその・・・それが僕にはとても新鮮だった。こんな風に「淡々とした語り口」のガーランドのピアノの音が、じわ~っと体の中まで沁みてくるような感じなのだ。
演奏全体を通して「優しげな情感」みたいなものが漂ってくる「マイ・ロマンス」だと思う。

ジャズ本などをいろいろ読んでいると、ガーランドのリーダーアルバムでは、このGarland of Redとやはり At The Preludeが取り上げられることが多かった。そして・・・わりと見かけたのが、When There Are Grey Skies(prestige)というタイトルのレコードについての記事だった。やはり「ガーランド大好き」の方もかなりおられるようで、それらはみな例外なく、St.James Infirmary(セント・ジェームズ病院)を褒め上げていた。どれも「ガーランドの情念が溢れている」というような内容だったように思う。
僕は「どんな音だろう?」という興味は持ったが、どの記事も「セント・ジェームズ病院」への思い入れが、あまりに強かったためか・・・必要以上に「文学的」に聴かれてしまっているように見えないこともなく・・・僕など、逆にちょっと引いてしまう気持ちもあったかもしれない。
そんな訳で、長いこと、このレコード~When There Are Grey Skies(prestige)を耳にするチャンスがなかった。(というのは・・・全く僕の勘違いだったのだが、そのことは後述します) When_they_are

4月の初め頃だったか、僕は地元の中古レコード屋でこのレコードを見つけた。「おっ」と思ったが、ラベルは「fantasy黄緑」でジャケットも盤もペラペラである(笑)だから、あまり積極的に欲しいとは思わなかった。だけど「セントジェームズ病院」というのが、どんな音なのか、一度は聴いてはみたい・・・それになぜかこのレコードはあまり見かけないし、OJCでも出ていなかったのかもしれない・・・という訳で、ようやく僕はこの When There Are Grey Skies(ステレオ盤)を入手したのだった。
さっそく聴いてみると・・・録音自体は擬似ステレオではなく、ベースやドラムスも案外いい音である。だけど・・・ピアノの音が「コ~ン・キーン」とかなりと強めに鳴る音で、時には「強すぎる」タッチのピアノの音色だ。かなりの「オン・マイク録音」かもしれない。いずれにしても独特のピアノの音である。ジャケ裏を見ると・・・やはり、ヴァン・ゲルダーの録音だった(1962年)
そんなピアノの音色ではあったが・・・これがそれほど不快には感じなかったのだ。いや・・・普通ならこんなに「硬めで強め」のピアノ音は好みじゃないはずなんだが、なぜだか、何度も聴いてしまう・・・聴きたくなってしまう音だったのだ。When_they_are_4
何度も聴いたのには理由がある。それは、もちろんこのレコードでのガーランドの演奏を好きになったのだが、それはお目当ての「セント・ジェームズ病院」ではなかった。
A面1曲目の「Sonny Boy」に、やられたのである。
ガーランドは、この曲も、うんとスロウなテンポでじわりじわりと弾いている。「マイ・ロマンス」よりも遅いくらいだ。そしてパラパラとフレーズを弾くこともなく、うんと音数を減らして、その分、この曲に深い情感を込めようとしている・・・ように聴こえる。
ガーランドという人・・・改めて認識したのだが「タッチが強い」のである。手の全体で押し込むような強さではなくて、指先のばねを効かしたような強さ~のように感じる。
「マイ・ロマンス」と同じように・・・いや、あれ以上に淡々とした弾き方が続くのだが、ガーランドの「唄いあげ」として「ここぞ!」という場面に、そういう強いタッチが「ッカ~ン!」とくる。そのシングルトーンが、まさに「鐘」のように荘厳に響くのである。そして・・・これが効くのだ(笑)
この曲・・・Sonny Boyでガーランドが表現しようとした・・・なにか「祈り」のような「慈しみ」のような・・・そんな雰囲気と、このヴァン・ゲルダー録音のちょっと独特なピアノの音色とが、うまい具合にマッチしているように、僕には感じられるのだ。
「ソニー・ボーイ」・・・こんなに素晴らしいガーランドの演奏があったのか・・・僕はすっかり感動してしまった。そしてそのことを誰かに伝えたかった。

《When They Are Grey Skies(prestige:NJ黄色ラベル)~recooyajiさん提供》Grey_skies_mono
《モノラル・オリジナル盤では、ガーランドのピアノの重心が下がり、ちょっと太めの音になった。ステレオ盤の「強いタッチのキンキン音」より、うんと聴きやすい。その分、ドラムやベースがちょっとおとなしくなっているかもしれない》

さて、ここからが実に情けない僕の笑い話しである。
つい先日、recooyajiさん宅で音聴き会をした折に、その「ソニー・ボーイ」のことを話したのだが、recooyajiさん「いやあ・・・いいでしょう、あれ!」と、すぐにそのガーランド盤を取り出してきた。 recooyajiさん、しっかりオリジナルのモノラル盤(NJ黄色ラベル)を持っている(笑) モノクロにピンクが効いたジャケットが素敵だ。そのジャケットのピンク色を見た瞬間、僕は「あれ、これは前に聴かせてもらったような・・・」という気持ちになり、そういえば・・・昨年末だったか、やはりこのrecooyajiさん宅で、ガーランドのこのレコードのことが話題になっていたことを、ハタと思い出したのだ(笑)
recooyajiさんもこの「ソニー・ボーイ」をとても気に入ってるとのことで、あの時もたしか・・・「bassclefさん、このガーランド盤~どうしてこんなタイトルになったのか・・・判りますか?」という話しになり、そして教えてくれたのが・・・ペテュラ・クラークなのである。
クラークの英国EP盤(4曲入り)に、このsonny boyが入っていた。Ep《EP盤:You Are My Lucky Star~recooyajiさん提供》
recooyajiさん、意味ありげに、ニヤッと笑いながら、そのsonny boyの歌詞を見せてくれる。その歌詞・・・始まりの部分がこうなっていた。
when there are grey skies...
なるほどっ! この歌詞をそのままタイトルにもってきたのか! これは・・・ガーランドのWhen There Are Grey Skies という素晴らしいレコードについての、recooyajiさんならでは~ジャズだけでなく、ロックからガールポップまで幅広く音楽を楽しんでおられる~の素晴らしい発見だと思う。
そんなことを昨年12月に話したわけで・・・つまり、ガーランドの「ソニー・ボーイ」を、僕は昨年12月にすでに聴いていたのだ。そして、おそらくそれが無意識的にではあっても、音の記憶として僕の脳髄に残っており、そして4月にそのレコードを見つけ、そうして「感動」した。
ああ・・・なんてことだ・・・僕は「ソニー・ボーイ」を教えてくれた当のご本人に向かって「あれはいいよ」とのたまっていたのだ(笑)
だから「ソニー・ボーイ」の素晴らしさは、もちろん僕が「発見」したのではなく、すでにrecooyajiさんから僕に伝えられていたわけで、つまり・・・僕は「時限的催眠術」に掛けられていたのだ(笑)
《12インチ盤:You Are My Lucky Star~recooyajiさん提供》Nixa

そして、そのペテュラ・クラークのsonny boy・・・これまたしっとりしたいい味わいなのだ。
recooyajiさんはこのEP盤をとても気に入って、その後、オリジナルの12インチ盤(Nixa)も入手していた。EP盤のジャケットも素晴らしいと思うが、12インチの方もなかなか魅力的じゃないか。

《英Nixa盤~ディスコグラフィによると、1957年の発売らしい。下の写真はPYEの内袋。とても魅力的だ》

Pyeこの「ソニー・ボーイ」という曲、どうやらうんと古い曲で、もともとはアル・ジョルソンという「スワニー」を唄った人のヒット曲のようだ。残念ながら僕はそのヴァージョンを聴いたことがないのだが、おそらくは、明るく軽快な感じで唄っている・・・と推測している。というのは・・・歌詞の内容が「どんなに落ち込んでいても、いつもみんなを明るくしてくれるソニー・ボーイ」みたいな内容なので、普通に解釈すれば「明るく元気に」唄う歌だと思うからだ。そしていくつか聴いたインストでのsonny boyが、どれも「速いテンポ」だったことからも、そんな推測ができる。002
実際、ソニー・ロリンズのsonny boy(1956年:prestige)は、かなりの急速調で、全く明るい雰囲気なのである。あまりにあっけらかんとしているので、ちょっとがっかりしたくらいだ(笑) もっとも、ロリンズのこの1956年12月のセッション(sonny boy, Ee-Ah, B quick, B swift)では、マックス・ローチがドラムで、なぜか4曲とも、挑戦的にバカッ速いテンポの曲ばかり演っているので、一応はスタンダードソングのsonny boyであっても・・・その日のセッションの「ノリ」に飲み込まれてしまったとしても、仕方がないだろう(笑)001
もうひとつ・・・sonny boyを見つけた。ギターのオスカー・ムーアだ。Swing Guitars(norgran:1955年)に入っていた。こちらもやはり軽快なテンポで、からっとした演奏だった。

そんな「ソニー・ボーイ」ではあるが・・・ペテュラ・クラークは「しっとりしたソニー・ボーイ」を選んだ。ストリングスを控えめに絡ませるアレンジも趣味がいいし、間奏のトロンボーンも効いている。クラークはもともと声質が低めで落ち着いた唄い方の歌手で、初期の盤は、ジャズっぽい感じでどれも悪くない。もともと急速調であろうこの曲を、クラークはスロウーなバラード仕立てで唄うことで、明るいだけだったはずの曲の中に、なんとも言えない哀愁感を漂わせている。とてもいい味わいだ。

そしてこれは僕の勝手な思い込みかもしれないが・・・ガーランドはおそらくこのペテュラ・クラークの「ソニー・ボーイ」を愛聴していたに違いない。この「しっとり感」が、ガーランドの趣味にピタリときたはずなのだ(笑) 
そうしてガーランドは1962年に、もっとゆっくりなテンポで「ソニー・ボーイ」を演奏した。その演奏があまりに見事だったので・・・監修したオジー・カデナは、タイトルを when there are grey skies とした。というのが・・・僕の夢想したストーリーである(笑)

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2008年2月21日 (木)

<思いレコ 第15回>The Magnificent Trombone of Curtis Fuller(epic)

フラーが見た5分間の夢~優しくてブルージーな”dream”

Dream_005《一見、オリジナル盤に見えるかもしれないが・・・これはCBSソニー発売の国内盤ECPU-6です。CBSソニー・ジャズ1500・シリーズで全20タイトル出た中の1枚。その20タイトルの中には、あのWe Paid Our Dues!も含まれていた!そのECPU-9番は、痛恨の未入手盤である(笑)》

このレコードは、もう長いこと、僕の愛聴盤である。A面1曲目のI'll be aroundは、スインギーなギターのイントロ~見事なコード弾きで始まる。トニー・ベネットも唄ったこの曲、メロディが自然に展開していく感じで、それをフラーがまたウキウキするような気分で吹いているので(そうに違いない:笑)聴いているこちらも、実に気分がよくなってくる。そして次の曲が、dreamだ。
dream・・・この有名なスタンダードを、フラー達はものすごくゆっくりのテンポで演奏する。おそらく1分=60くらいのテンポだろうか。
メトロノームのカウントをベースが刻む4分音符とすると、その4分音符ひとつが、ちょうど1秒(くらい)ということになる。そして「1秒」というタイムは・・・案外に長い。
試みに、1(イチ)、2(ニイ)、3(サン)、4(シイ)と、ゆっくり4秒かけて、声に出してもらえれば、1分=60というテンポが、かなり遅いということを実感していただけるかもしれない。
ちなみに、ベースのウオーキングラインというのは(普通の場合)1小節に4分音符を4回刻むので、このテンポ(1分=60)だとすると、1小節を進めるに4秒かかることになる。そして、フラーはこの曲を2コーラス+カデンツァで終えている。
余談ではあるが、このdreamという曲は32小節なので、この曲を一周(1コーラス)するのに、4X32=128秒。2コーラスでは256秒(4分16秒)かかることになる。カデンツァの部分に、たっぷり30秒以上はかけているので、約5分という計算になる。
このレコードの解説書を見ると・・・dream 5:11秒と書いてあった。
「1分=60くらい」という、大ざっぱなカウント解釈だったが・・・それでもだいたい合っているじゃないか(笑)

さて、バラードを演奏する場合、べーシストは1小節に2分音符を2つ弾くのが普通だ。しかし、このdream は相当に遅いテンポ設定である。このテンポでの2分音符では・・・いかにスロー・バラードでも、さすがに間が空きすぎてしまう。だから・・・このべーシスト~バディ・カトレット(Buddy Cattlett) は、バラードではあっても、あえて「4つ打ち」を選んだのだと思う。テンポ設定と、このベースのウオーキングの感じは、一見すると「スロー・ブルース」と似ているかもしれない。しかし・・・ちょっと違う。これはやはり「バラードでの4つ打ち」なのだ。その証拠に、カトレットは、一音一音を、本当にきっちりした4分音符で(付点をほとんど使わずに~付点を使うとブルース的なフィーリングが出てくる)ウオーキングを進めてくるのだ。
そして、この「バラードでの4つ打ち」が、独特の「溜めたようなビート感」を生み出しているように思う。この「溜めた」ような感じを、どう説明したらいいのだろう。そうだなあ・・・例えて言えば・・・自転車をゆっくり漕いでいる感じに近いかもしれない。
中学校の時だったか・・・校庭にわりと小さめな円を描いて、その円周上を自転車で廻って走る~という遊びをしたことがあった。
ゆっくりと走らないと円周を飛び出してしまう。だから・・・ギアを重くして、ゆっくりとペダルを漕ぐのだが、ゆっくりすぎると自転車が倒れてしまう。その辺りの漕ぎ具合が難しい。
安定的かつ持続的な動力を与え続けないとうまく廻れないのだ。たぶん・・・持続的なトルク力がポイントなのだろう。

僕が思うウッドべースのウオーキングに必要な「トルク感のある粘り具合」みたいな感じ・・・カトレットが、まさにそんな具合にベースを弾くことで生まれた「スロウ・バラードでの持続的なビート感」(トルク的な力感と言ってもいい)」は、なかなか味わい深い。バラードであっても、なんとなくブルージーな味わい~微(かす)かにブルース的な感じ~が漂うのだ。そんな独特の効果を聴いてしまうと・・・ひょっとしたらこの「4つ打ち」は、その辺りまで計算したフラーの指示だったのかもしれないぞ・・・とも思えてくる。

そんな質感を持つべーシストのウオーキングに乗っかって、このdream は、繰り返すが「遅いテンポ」で演奏される。
うっかりすると今にも止まりそうなテンポだ(笑)
そして・・・フラーはこのテンポでも全く動じない。
というより・・・この「遅さ」を選んだのは間違いなくフラーであろうし、だからフラーは、この「遅さ」を充分にコントロールしている。そして・・・充分に「唄って」いる。

最初のコーラスで、フラーはこの曲のゆったりしたメロディを~ほとんど崩さずに~本当にゆったりと吹き、2回目のコーラスの前半をピアノに任せる。そして2コーラス目の後半から再びテーマを吹き~今度はほんの少し崩して~そしてエンディングでは、リット(それまでのリズムを止めてしまう状態)した後、フラーが短いカデンツァ(伴奏陣なしで独りだけで吹く)を入れて、そして、終わる・・・そんな2コーラスだけの演奏だ。
つまり・・・フラーのアドリブは全くないのだ。

フラーは、いろんなニュアンスのトーン(音色)や、フレーズの終わりの箇所でボントロ特有の(音程を下降させるような感じの)ベンドさせるような吹き方でもって、この曲のテーマを吹き進めていく。夢見るような「優しい感じ」が溢れ出る。
スロウなバラードをこんな風に深く吹く(吹こうとする)フラーには、たぶんアドリブなんて必要ないのかもしれない。テーマを吹けば・・・それが彼の「唄い」なのだ!
フラーという人は、本当にバラードが好きなんだなあ・・・と思えてくる。

そういえば、もうひとつ付け加えておきたいことがあった。このレコードで初めて聴いたレス・スパンという人のギターを、すごく好きになったのだ。このギター弾き・・・とにかく音が太いのである。太くて温かい感じのする甘い音色。そして時々繰り出すオクターブ奏法も~だからレス・スパンは、奏法的に言えばおそらくウエスに近い感じだとは思う~いい切れ味だ。
それから最も印象に残ったのは、特にスロー・バラードでのバッキングで、素晴らしく味わいのある弾き方をしていることなのだ。
先に書いたように、この dream は「テンポが遅い」ので、テーマを吹くフラーのメロディの合間合間に、どうしても「隙間」ができる。
そんな隙間に、スパンは見事なオブリガート的フレーズを、すす~っと差し入れてくれるのだ。そのタイミング、そのフレーズの素晴らしさ・・・この辺り、実に巧いギター弾きだと思う。
さらに、やはりバラードのバッキングで時に見せる独特な「アルペジオ的な音」にも、本当に驚かされてしまう(dreamのエンディング部分~リットする辺りで、その「音」が聴ける)
あれは、たぶん・・・ギターのうんと高い方のフレットでコードを押さえておいて、ピッキングしているような音なのだが~あるいは、各弦をかき鳴らすタイミングを微妙にずらしての指弾きかもしれない~なんというか・・・「ペキ・ペキ・キラリン・キラリン!」という感じのする、まさに輝くようなハーモニクス風アルペジオ的な音なのだ。そんな個性派ギタリスト~レス・スパンについては、また別の機会にまとめてみたい。

Dream_006 Curtis Fuller(tb)
Walter Bishop Jr.(p)
Buddy Cattlett(b)5曲
Jimmy Garrison(b)3曲
Les Spann(g)
Stu Martin(ds)

今回は、フラーと、ベースとギターにしか触れなかったが、ピアノのウオルター・ビショップもいいピアノを弾いている。
こんな具合に、なかなかの個性派が揃って造り上げた、このレコード~The Magnificent Trombone of Curtis Fuller(epic)は、フラーというボントロ吹きの「優し気な風情」が、見事に表われた地味ではあるが本当に味わい深いレコードだ。思い切って、フラー独りのワンホーンにしたところと、バラードをメインに持ってきたところが、ポイントだと思う。
ちょっと前にこの夢レコでも取り上げた、チャーリー・ラウズの傑作「Yeah!」にも、同じようなクオリティの高さを感じるのだが、どうやら・・・EPICというレーベルには、凄く趣味のいいプロデューサーと、優秀な録音エンジニアがいたようだ。
そしてさらに、ジャズ魂溢れる解説者も・・・というのも、このepic盤のジャケットの裏解説に、ちょっといい一節を発見したからなのだ。

<dream の最初のコーラスでは~彼がほとんど泣いているかのような~そんな瞬間がある>
(on Dream...there are times in the first chorus, when he almost seems to cry)
”almost seems to cry”とは、フラーの独特の「唄い廻し」・・・あの「感じ」を描こうとしたであろう、実に素晴らしい表現ではないか!
ちなみにこの解説者・・・あまり聞いたことがない名だが、Mike Bernikerという人である。

それにしても・・・世の中には素晴らしいレコードが一杯だあ!(笑)

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2007年12月20日 (木)

<思いレコ 第14回>ペッパーのGoing Home

クラシックの曲をジャズ風に演ったものをいくつか。

002_3《ソニー・ロリンズ・クインテット(everest)  これは日本コロンビア盤。最初(1972年)に出した1100円盤ではなく、1979年に発売した1500円盤。それでも、ラベルがperiod仕様になっているところが、なんとも意地らしいじゃないか(笑)》

いやあ・・・ロリンズのこのレコード、本当に久しぶりに聴いたなあ。なんとなく「原曲がクラシック曲のジャズ演奏」というようなテーマを思い付いて、最初に浮かんできたのがこのレコードだったのだ。このロリンズ・・・なんと、チャイコフスキーの「悲愴」のテーマを使ったバラード風の演奏(Theme from Pathetique Symphony)をしているのである。今、改めてレナード・フェザーの裏解説を読んでみたら・・・ちょっと面白いことが書いてあった。
<この「悲愴のテーマ」は”the story of a starry night”というタイトルで、ちょっと前にラジオでよくかかった曲で、ロリンズは、ヴィレッジ・ヴァンガード出演中に、たびたびこの曲のテーマを吹いていた>(Sonny featured prominetly during his booking at the Village Vanguard)ということなのだ。あのヴィレッジ・ヴァンガードで「悲愴のテーマ」かあ(笑)おそらく・・・ロリンズは、ハードな演奏の合間に、この曲のテーマだけを、独りで吹いていたのだろう・・・と、僕は勝手な想像をしてしまう(笑)
このeverest盤の録音日は、1957年11月4日であり・・・ということは、あのヴィレッジ・ヴァンガードの翌日なのである。さすがのロリンズも、前夜のあの素晴らしい「ノリ」に酔っていたのだろう・・・この3曲だけのセッションでも、イの一番に"Sonny Moon For Two"も演っている(笑)リズム・セクションが手堅すぎて、前夜のドラムス、ベースから成るサックス・トリオの豪快のグルーヴ感には及ばないが、ロリンズのアドリブでは、アイディアに溢れたフレーズが飛び出してきて、やはりこのSonny Moonも素晴らしい。
ああ・・・それより「悲愴のテーマ」のことだった。1拍待ってから始まるあの有名なメロディを、ロリンズはちょっと抑えたような音色~輪郭が拡がり過ぎないような感じ~と音量で、しかし充分にゆったりと吹き始める。繰り返しの2回目では、ジミー・クリーヴランドのボントロにちょっと対位的なメロディを吹かせている。
こうして聴いてみると・・・やっぱりこの曲のメロディがロリンズの好み~ちょっと古風なラプソディックな雰囲気もあり~だったんだろうなと思えてくる。ロリンズはスタンダード曲を吹くとき、たいていはその曲をあまり捻(ひね)らない。「捻らない」というのは、そのスタンダードの持つ「雰囲気」をそのまま唄うだけなのだが・・・しかしそれがロリンズ流の唄いになってしまうのである(笑)
この演奏でも、ロリンズは「テーマの唄い」に気持ちを集中させているようで、テーマ提示が終わった次のコーラス(いわゆるアドリブ部分)からは、ちょっと変化をつけるためだろうか・・・ベースとドラムスが4ビート(1小節に4分音符を4回打つ。テーマの部分では2ビート~1小節に2分音符を2回~だった)になる。それでも、ロリンズはあまり「アドリブ」という感じで吹いてはいないようだ。テーマからの軽い崩しを混ぜて、ロリンズ流のラプソディを演出している・・・という感じかもしれない。だから・・・この「悲愴」が特に素晴らしい・・・とは僕も思わない(笑)ただふとした時に「(ウン)・パー・パー・パー/パー・パー・パー・パー/パーパ・パー~~」と聴こえたりする妙に印象に残っているメロディである。さすがにチャイコフスキーだ(笑)それにしてもこの「悲愴のテーマ」をジャズ・バラード風で演ってしまおう・・・と考えるミュージシャンも、まあロリンズくらいだろうなあ(笑)003

《右写真:Tenor Madness~ラベルは青・イカリなので、2ndか3rd盤であろう》

そういえば、ロリンズにはもうひとつ、同じ趣向の曲があった。あの「テナー・マッドネス」に入っているmy reverieである。こちらはけっこう有名だと思うが、あれ、ドビュッシーの(何だったかな・・・? Reverie「夢」あるいは「夢想」と呼ばれる)曲が原曲なのである。<azuminoさん、Yoさんの情報により判明しました>
my reverieというタイトルとしては、1930年代にラリー・クリントンという人が「作曲」したということになっており、グレン・ミラー楽団でもヒットしたらしい。こちらの方は1956年5月録音で「悲愴」よりも1年半も前の録音なのだが、ロリンズはやはり「バラード風」に吹いており、この素敵なメロディから「優しさ」みたいな雰囲気が漂ってくる。ガーランドやチェンバースが巧いこともあり、バンド全体の演奏としては「悲愴」よりもだいぶんこなれているように思う。ドビュッシーの原曲そのものがジャズっぽいアレンジにも合う曲調だったのかもしれない。002
そのためかどうか、ジャズ・ヴァージョンもたくさんあるようで、ロリンズの他にも、ハンク・モブレイ(curtain call)、バーニー・ケッセル(music to listen to Burney Kessel by)、そしてトニー・ベネット(cloud 7)などがある。もともと僕はこの曲のメロディが好きなので、どれもいい感じに聴ける。特に若い頃のトニー・ベネットのやや高めの声には、なんとも言えない色気を感じる。
《上写真:ベネットのCloud 7~そのmy reverieは、なんとA面1曲である。当時のcolumbiaのこの曲に対する意気込みが窺(うかが)われる》

そしてもうひとり・・・アート・ペッパー絡み(がらみ)のレコードについても少し書いてみたい。
ペッパー絡みといっても、リーダーはショーティー・ロジャーズで、ペッパーはほんの少し(A面5曲目のsnowballで短いクラリネットのソロ?)出てくるだけだ(笑)001 あまり知られてないレコードかもしれない。

Shorty Rogers/The Swingin' Nutcracker(RCA Victor)
LSP-2110




《アル・シュミットのメリハリあるステレオ録音だ。ひょっとしたら僕がこのレコードを気に入ったのは・・・この素晴らしい録音のためだったかもしれない(笑)》

どうやら、チャイコフスキーの「くるみ割り人形」のメロディ素材を「スイングしている」ようにアレンジしたレコードのようである。僕はクラシックをほとんど聴かない。どの曲も長すぎてなかなか集中できないのだ(笑)
でも・・・名曲と言われるものは、やはり素晴らしい。クラシックの作曲家が、おそらくウンウンと唸りながら造りだしたメロディとハーモニーには、絶対的な魅力が溢れている。そうしてせっかちな僕は、そういう「魅力ある素晴らしいメロディ」の箇所だけ、聴きたいのである。「そこ」に至るまでの段取りが長いとガマンが効かないのだ。
そんなクラシック素人の僕は、どうやらチャイコフスキーが好きなようである。「くるみ割り人形」は、中学の頃、好きになった。当時、日本コロムビアが古い音源のものを「1000円LP」として発売した時、兄と小遣いを分け合い、何枚か入手したのだ。「アルルの女」とか「カルメン」とか・・・まあそんな「判りやすい」クラシック曲を、いくつか聴いていたのだ。そして今でも「判りやすい」クラシック曲だけ好きである(笑)001_3
《右写真は、ガラクタ屋で入手した古い25cm盤(日本コロムビア) 音は・・・よろしくない(笑)》

「くるみ割り人形」~「胡桃割り人形」と書いた方が感じが出る~は、組曲で、1曲1曲がわりと短めなのもよかったし、チャーミングなメロディの曲が多くて、すぐに気に入ってしまった。チェレスタを使った「こんぺいとうの踊り」や、フルートが奏でる「あし笛の踊り」、それから終曲の「花のワルツ」が特に好きだった。
そんな「馴染み」があったせいか、このショーティー・ロジャーズのLPを聴いた時・・・「あれ?このメロディ・・・聴いたことあるぞ」てな感じで、わりと抵抗なく、この「クラシック曲のジャズ化」音楽に入り込めたようだ。
それと、クラシックの曲を忠実に(「目玉のメロディ」の前後までそのまま)ジャズ(風)にしても、おそらく長々として堅苦しくなるだけだが、このロジャーズのアレンジでは、その辺りを思い切りよく「端折っって(はしょって)いるところが、僕は気に入っている。おいしいメロディの箇所だけを生かして、残りはそのアイディアをアレンジして巧いこと繋げているようなのだ。例えば「花のワルツ」をモチーフに使ったB面2曲目(Flowers For The Cats)は、なんと4拍子になっていたりする。タイトルが「スイングする胡桃割り人形」なので、仕方ない(笑)だから厳密に言うと、このレコードは「くるみ割り人形のジャズ化」ではないだろう。そういえばこのLP・・・ジャケットにわざわざ「Like Nutty」とも書いてあるのだが、それは「くるみが好き」というのと「くるみ割り人形的な」という意味合いも持たせたのかもしれない。002_5
《録音だけでなく、メンツもいい!ビル・パーキンス、コンテ・カンドリ、リーチー・カムーカ、フロンク・ロソリーノなどは、この手のセッションの常連だと思うが、ハロルド・ランドの名にちょっと驚く。短いがとてもいいランドのソロが随所に出てくる》

最後に、もう1枚。
僕はペッパーを大好きなのだが、よく聴くのは、ほとんどcontemporary期までのレコードで、彼の70年代以降のレコードを普段はあまり聴かない。ところが後期ものの中で1枚だけ愛聴しているレコードがある。それがGoin' Home(galaxy)である。004_2
《これも日本盤。近年録音のものだと、外盤と日本盤にそれほど音質の差はないように思う》

「家路」・・・ドヴォルザークの『新世界より』のいいところのメロディだけ抽出して「家路」と呼んでいるのだが、この曲のメロディ・・・知らない方はいないだろう。小学校の頃、放課後に校庭で遊んでいて、ふと気づくと辺りが薄暗くなっていて、友達の姿もぼんやりとした影のようになってくる。そんな時・・・この「家路」が鳴ったりする。
「ああ・・・みんな、もう家に帰らなくちゃ・・・」下校時間=「家路」という、実に短絡的な発想ではあるが(笑)僕は、このメロディを素朴な気持ちから「いいなあ」と思うのだった。
そういえば・・・中学の時、音楽の授業で(レコード鑑賞)いつもクールな女性の教師が「この本当に美しいメロディを聴いてください」と、やけに熱心にコメントしてから、この『新世界より』をかけたこともあった。
このレコードを、本当によく聴く。ジョージ・ケイブルスのピアノとのデュオなのだが、この形態によくある「丁々発止のフレーズやりとり」みたいな感じではなく、とても内省的な演奏になっている。ドラムスもベースもいない・・・だから、2人が2人だけの呼吸で、お互いの「間合い」を測りながら、寄り添ったり、あるいはちょっと突っ込んでみたり、しかし・・・全体に流れる空気には絶妙な「信頼」がある・・・そんな感じのデュオなのだ。
ペッパーが吹くクラリネットの音色・・・これがまたなんとも素晴らしい!
なにか「音」をストレートに出さずに、一度、口の中に含んで溜めたようなニュアンスが感じられる。ぺッパーは、その溜めた「息」を小出しに出しながら、実に抑えた感じの音色を~ベニー・グッドマンとは対極の音色だ~生み出しているのだ。そんな「押し殺した」ようなクラリネットの音色がなんとも言えず凄い。そして、その音色でドヴォルザークの「家路」のメロディを淡々と吹く。この曲、ペッパーはテーマを吹くだけである。いわゆるアドリブは全くない。ポピュラー風に言えば、最初のコーラスでは、ペッパーがテーマを吹き、サビの部分をピアノにまかせる。そして、2コーラス目はピアノがソロを弾き、ペッパーはサビから入り、そのまま最後のテーマを淡々と吹き進めて、この曲は終わってしまう。それでも、随所で情念の閃き(ひらめき)を見せるペッパー・・・僕はやはりペッパーが好きだ。それにしても、このデュオは、本当に素晴らしい。聴いているといつも・・・「原曲がクラシック」という外面的なことは全く忘れてしまう。ただただ、この2人が表出する音だけに集中してしまうのだ。ジャズを聴いている・・・という意識すら消えているかもしれない。
なにかしらちょっと滅入っている時などに聴くと・・・どうにも心に染み入ってくる。どこまでもしみじみとした、でも温かい気持ちにさせてくれる大好きなレコードだ。こういうレコードがあるから・・・ジャズはやめられない。

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2006年12月21日 (木)

<思いレコ 第13回>Miles Davis/Someday My Prince Will Come(columbia)

「いつか王子様が」~ウイントン・ケリー、3拍子の切れ味。

Dscn1526_3 ふとした時にアタマの中に聞こえてくる「音」というものがある。いつだったか、この<夢レコ>でも書いたように、僕の場合はマイルスのものにそんな「音」が多い。マイルスのLPはどれも好きで何度も聴いたものだが、とりわけ好きなのが、このSomeday My Prince Will Comeだ。実際・・・僕はこの「Someday~」を、いったい何回くらい聴いてきたのだろうか。何度、聴いてもそのたびに「う~ん・・・いいなあ」という想いでいっぱいになってしまい、A面が終わると、1曲目のSomeday~だけもう1回聴いたりするのだった(笑)
そんな風だから、どうやら細胞のどこかにこの「音」が染み込んでいるらしく、ふとした時にアタマの中にあのベースの音~
bom,bom,bom/bom,bom,bom/bom,bom,bom/bom,bom,bom~が聞こえたりする。そうなると・・・もういけない(笑)その後のケリーのブロックコードやら、マイルスがテーマを吹く時のミュートの響き具合やらが、どんどんとアタマの中にあの曲が流れてきてしまうのだ。

bom,bom,bom/bom,bom,bom/bom,bom,bom/bom,bom,bom・・・最初、そんな風にチェンバースがウッドベースの1弦のF(ファ)の音だけを弾き始める。これはウッドベースではけっこう高い方の音程で、ギターのフレットで言うと3弦の10フレットの位置になる。この「ボン・ボン・ボン」(1小節に3回)を4小節(12回)続けると・・・ケリーのピアノが入ってくる。モダンな響きの感じのするコード(和音)だけでまず16小節。次にケリーは、右手のシングルトーンで軽くアドリブを入れてくる。アドリブといっても、まだ曲のテーマが出る前のイントロ部分なので、軽くいこうぜ、という予告編くらいの感じだ。しかし・・・この予告編でのケリーはいい。3拍子の「ノリ」が素晴らしいのだ!
チェンバースがきっちりと(どちらかというとやや無表情なくらい)3拍づつ刻むF音にのっかって、ケリーは、キレのいい右手で飛び跳ねる。アイディアに満ちたフレーズを、全く力まずに、軽く、そしてしなやかに弾き込んでいる。ワルツというリズムに独特の躍動感みたいなもの~まさに鮎が水面に飛び跳ねているような~そんな感じが、うまく現れているのだ。ケリーの3拍子は全く素晴らしい!
そんなわくわくさせるようなケリーのアドリブ予告編が16小節続くのだが・・・まだ「いつか王子さまが」のメロディは出てこない。これっぽちも出てこない。おそらく「出してはいけなかった」のだろう。この辺り・・・全てはマイルスの指示のはずだ。「絶対に主メロディは弾くなよ」と、あの声で言ったに違いない(笑) そう確信できるのは、やはりさきほどの「チェンバースのF音連打」なのである。チェンバースは、出足のベースだけの部分から1弦Fの音を続けている。マイルスが入ってくるまで、本当に同じ音だけを延々と弾き続けているのだ。試みにちょっと小節数をカウントしてみた。1小節に3回のF音を弾く計算だ。
ベースのみ部分4小節(12回)
ケリー/和音部分16小節(48回)
ケリー/アドリブ部分16小節(48回)・・・都合、108回のF音のみ連打である。ああ、そういえば、さっきチェンバースがF音を弾き続けるのは「マイルスが入るまで」と書いたが、実はもうちょっとオマケがあった。マイルスがテーマを吹き始めての8小節は・・・やはりF音を続けているのだ。だからそれも足すと・・・108回+24回=132回だ。ただでさえベースのランニング音をメロディックに変化させることを好むチェンバースが、自分のチョイスとしてこれだけ同じノート(音程)を続けられるだろうか? やはり・・・マイルスの指示だと思う。それにしてもいくらマイルスの指示でも、チェンバースもいい加減、厭きただろうなあ・・・(笑)
でも、ここでぐぐっとガマンするから・・・いよいよ入ってくる「いつか王子様が」のメロディが生きてくるのだと思う。こんな具合にさんざんじらしておいて・・・いよいよマイルスがテーマのメロディをミュートで吹き始める。
そりゃあ、マイルスは気持ちいいだろうなあ・・・そんなマイルスが小憎らしいけれど・・・聴いている方も、本当に気持ちよくなってしまうのだ。そういえば・・・小さい頃、TVの相撲中継を親父と見ていたのだが、千秋楽の大一番だというのに、なかなか始まらない。仕切り前の儀式めいた段取りがやけに長いので、僕が「早くやればいいのに」と言うと、親父は「バカッ!これがいいんだ!」と力むのであった。あれと同じ理屈かもしれない(笑)

マイルスのこんなやり方は、たぶん当時1960年では珍しかったと思うのだが、今でいう「ペダル」(曲が進行してコードが変わっていっても低音部だけは同じ音程を維持していくような手法)とよく似ている。ただ「ペダル」というのは、たいていは低い音域でやるのに、この曲では高域F連打なので、言わば「逆ペダル」だ。
ちなみに、このチェンバースのF音連打のパターンは、ソロとソロの間つなぐブリッジの部分でも、それから曲のエンディングの部分でも出てくる。それらが実に効果的なのだ。そしてそれに乗っかるケリーのアドリブがまたかっこいい。それにしても・・・ディズニー映画のかわいらしいワルツ曲に、こんな演出を加えて、しかもそれがムチャクチャ効果的になっている~そんなマイルスの構成力というのは、本当に素晴らしい。Dscn1570_1

《columbia:PC8456》1977年頃の米再発。センターラベルは・・・うんと安っぽいので、あまりお見せしたくない(笑) 60年代に入った頃のcolumbiaのステレオ録音は、ベースやピアノ、そして管の音も、意外に厚めの音で、しっとりとした味わいがある。好きなステレオ録音だ。6つ目のステレオ盤(CS8456)が欲しいなあ(笑)~先日、このレコードの1961年のオリジナル盤で「いつか王子様が」を聴き比べる機会があった。想像していたとおり・・・モノラル盤(recooyajiさん)、ステレオ盤(konkenさん)ともに、やはり素晴らしい音だった。「モノラル」での各楽器の厚みや豊かさも凄い。ステレオだと、もう少し全体に軽みがでてきて優しい味わいになってくる。いつもおとなしめにシンバルを鳴らすジミー・コブのシンバルのライトな味わいには「ステレオ」の方が似合うように感じた。もともと僕は、ベースやドラムスがちょっと離れて聞こえた方が好みなので~もちろんリアルステレオでそれぞれの楽器の音圧(実体感みたいなものという意味合い)がしっかりと録られていることが前提だが~「ステレオ録音」の方がより好みだった。そういえば、ニイノニーノの新納さんは、以前からHPでも「VictorやColumbiaなど大手はステレオ録音の方が優れている」と書いておられたが、僕なども、ヘンリー・マンシーニのあのゴージャスなサウンド(「ハタリ」や「ピンク・パンサーなど)をステレオ盤で味わうと、その意見には大きく頷いてしまうのである。
【追記】NOT(ブログ~These Music Suit Me Well)さんが、さっそくこのSomeday My Prince Will Comeの1961年オリジナルの6つ目:ステレオ盤/モノラル盤のセンターラベルの詳しい記事をアップしてくれました。う~ん・・・ラベルの世界も深い(笑)

ジャケット話しでひとつ。カヴァーの女性はフランさんという当時のマイルスの奥さんだったとのことだが、ステレオ盤とモノラル盤には、些細な(いや、しかしけっこう大きなとも言える)違いがある。ジャケットの一番下の方~フランさんの胸元の「青い布切れ」の見える分量がだいぶん違うのである。ステレオ盤だとほんの少し。モノラル盤だと1cm以上は見える。この辺りの「ステレオ盤/モノラル盤についてのジャケットの謎」については、拙ブログにリンクしてあるmono-monoさんの記事に詳しい。おもしろいですよ。

さて・・・もうひとつ、ケリーのピアノのことを。
マイルスがテーマの出足、8小節を吹いている時~チェンバースはまだ高音F音を続けているのだが~この時、どうにも印象的なケリーのバッキングがある。ケリーがとても切れ味の鋭いコンピング(バッキングの時、主にコード(和音)を弾くこと・・・かな?)を、ワルツの3拍子の普通には入れないようなどうにも微妙な位置に、すごく短く「スッ!」「スッ!」と・・・そう、まるで豆腐に包丁を沈めるような感じで、差し入れてくるのだ。この曲を何度も聴いてきたが、特に分析的に聴いたわけでもなく、だから僕には、なかなかその「スッ!」のリズム~タイミングが判らなかった。ただ「かっこいい!」と感じていたのだ(笑)
3拍子でのアクセントの付け方というものに絶対の決まりがあるわけではないと思うが、例えばドラムスのハイハットについて言えば・・・1956年頃からマックス・ローチがやったのは・・・少なくともテーマの部分のバッキングでは「1、2、3」の2拍目と3拍目にハイ・ハットを踏むやり方だったと思う。あるいは2拍目だけにハイハットという場合もあったかもしれない。1、2、3とノル場合、普通に考えても、これなら自然にノレる。だから・・・その後も、このローチ方式がたぶん一般的になっていったように思う。
余談だが、初期の3拍子ジャズを聴いたなかで、どうにも違和感を覚えたプレイがあった。もちろんローチのではなく、誰のレコードだったか忘れてしまったが、そのドラマーは、3拍子の曲にも関わらず、全く普通に4拍子の場合と同じように、ウラ打ち(2拍目と4拍目にハイハットを踏むこと)をしていたのである。たしか最後までそのやり方で踏み続けていたので、確信犯だったとは思う(笑)
そういう踏み方をすると・・・どういう風に聞こえるのか?文字ではなかなか説明しづらいのだが・・・3拍子が2小節で「1、2、3/4、5、6」と6拍分のカウントとなる。この6拍をひとつの単位として捉えた場合、ハイハットの2拍・4拍打ちをそのまま機械的にあてはめれば「1、、3/、5、」の最初の小節の2拍目(2番)と、2小節目の1拍目(4番)と3拍目(6番)の位置にアクセントがくることになる。口で言うと・・・「ウ・チャ・ウ/チャ・ン・チャ」(チャがアクセント部分)てな感じか。3拍子を2小節単位でくくれば、こういうアクセントの入れ方も全くOKなわけで、ちょっと聴くのに慣れさえすれば・・・自然なノリに聴けると思う。ただ、僕が聞いたレコードでのその「3拍子ウラ打ち死守」違和感を覚えたのは・・・聴いていて、どうにも「ノッて」なかったからである。おそろしく不自然な感じがした。
おおまかに言えばアクセントの位置自体は、この2、4、6の位置でも合っているとは言えるのだが、それは・・・6拍単位のウラ打ちでも数字上の辻褄は合う~というだけのことのように思う。音楽は「辻褄合わせ」だけでは面白くないのだ。

そうしてこの間、なにげなく「いつか王子様が」を聴いていたら・・・「ぽっ」とアタマの中に電気が点いた(笑)  そうだっ!ケリーは、正にこの6拍単位での2、4、6の位置にあの「スッ!」「スッ!」を入れていたのである。ただし・・・先ほど「面白くない例」として挙げた機械的な6拍のウラ打ちではなく・・・「スッ!」が、実に微妙なタイミングで差し込まれているのだ。
3拍子でノッている以上、やはり1、2、3、1、2、3というカウントの中での生き生きしたノリが必要なのだと思う。その「ノリ」とは・・・微妙なシンコペーションであると考えている。この6拍ウラ打ちで3拍子特有の揺れるような感じを出すには・・・2小節目の1拍目・3拍目(つまり4番目と6番目)の位置に、わずかに「突っ込むような感じ」が必要なように思う。そうして、ケリーは・・・このサジ加減が実に絶妙で、一瞬、大丈夫かな?と感じてしまうほど突っ込み具合が「切れて」いるのだ。素晴らしいセンスだと思う。
この辺りのことは、本当に微妙なタイミングのことなので、とても文字では言い表せない。興味がある方は・・・ぜひ、このマイルスの「いつか王子様が」を、マイルスがテーマを吹き始めた際のケリーのバッキングを、ぜひ聴いてみてください。

みなさんもたぶん大好きであろうこの曲~マイルスが練りに練って構成したであろう「いつか王子様が」。
マイルス、モブレイ、コルトレーンの素晴らしいソロが聴き所であることはもちろんだが・・・ケリーならではのムチャクチャに鋭いセンスがあったからこそ、あのチャーミングなテーマを持つ3拍子が、本当に生き生きとしたものになったように思う。Dscn1569

さあ・・・マイルスがテーマを吹き終わった後に、再び始まるチェンバースのF音連打・・・そして再びケリーの見せ場。ケリーのピアノがぐうんと冴えてくる。このままいつまでも続けていけそうないいアドリブだ。
だがしかし・・・マイルスの鋭い構成力がそれを許さない。ケリーがシングルトーンを弾いている途中で、全体の音量を少し下げさせた後に、今度はクレシェンドをかけさせる~この辺り、チェンバースに向かって手のひらを上に向けて「上げろ」と指示しているマイルスが見えるようだ~チェンバースの音量が俄かに上がってくる。そのクレシェンドに反応したケリーがブロックコードのバッキングに戻してくる。ああ・・・これで終わるのだなあ・・・誰もがそう思ったそのとおりに・・・ケリーの終止感の薄い不思議な和音で「すう~っ」と、この曲は終わるのだ。見事なエンディング!
そうしてそのケリーの最後の音が伸び切ったその時「ッポン!」という音が聞こえる。あの「ポン!」の意味するものは・・・マイルスの会心の「OK!」のように、僕には思えてしまうのだ。
それにしても・・・あれはいったい何の音なんだろう?(笑)

【追記】 bsさん、貴HPの戯言日記にて当記事を話題のこと、ありがとうございます。リンクしてあるbsさんのHP(blue spirits)には、もうだいぶ前からこのマイルスのSomeday記事が載っております。僕の記憶の中では「恐るべき傑作」というようなbsさんのコメントが印象に残っていた。拙ブログをアップしてから再読しました(先に読むと影響されてしまいそうで:笑) マイルスの曲順に至るまで練りに練ったやり口を「悪魔の仕業」とまで激賞されております。全く異論ございません(笑) 

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2006年9月26日 (火)

<思いレコ 第12回> Ernie Henry/Presenting(riverside)

ウイルバー・ウエアのこと(その2)Wilbur Ware の discography

_002_3 昨年8月頃~夢見るレコード<やったあレコ 第3回> After Hours Jazz(Epic) ああ、エルヴィン!~の記事中に、エルヴィン・ジョーンズ参加作品のディスコグラフィ(1959年くらいまでの)みたいなものを載せたことがある。あのリストは、主に(コルトレーンとの共演以外の)「ハードバップのエルヴィン」という興味から、1959年くらいまでの参加作品をまとめたものだった。

僕は一人のミュージシャンを好きになると、しばらくの間、そこに集中してしまう(笑)前回の<夢レコ>でフューチャーしたウイルバー・ウエアについても、一時期あれこれと調べてみたことがある。ちょうどその頃、発売され始めたリヴァーサイドのビクター盤裏ジャケットに載っているウエアの参加作品紹介などを参考にして、ウエアのディスコグラフィを作ったりしていた。
しかし、そのビクターの国内盤発売がひと段落してしまうと・・・ウエア参加盤は、なかなか見つからなくなった。もうないのかな・・・と思ってる頃に、米ファンタジー社からOJCシリーズが発売されるようになって、それまで全く知らなかったリヴァーサイド盤やプレスティッジ盤が次々と発売されるようになった。そしてそれらの中に、ウイルバー・ウエアの参加作品がけっこうあったのである。それらも含めて、とりあえず僕が知っているウエアのレコードをまとめてみた。

そんなわけで、今回は、ウイルバー・ウエアのディスコグラフィを載せたい。もちろん未完なのだが、とりあえず録音年と月の順番で並べてみる。
その後で、思いつくままにいくつかの盤について、あれこれと書いてみたいと思う。

*もちろんウイルバー・ウエアの参加作品は、他にもまだあるはずである。ご存知の方は、ぜひコメント欄にてお知らせください。

  1. Johnny Griffin/J.G.(cadet) 1956年
  2. Art Blakey & Jazz Messengers/The Cool Voice Of Rita Rey
   (phillips) 1956年6月(2曲のみ)
  3. Art Blakey & Jazz Messengers/Originally(columbia) 1956年
  (2曲のみ)
  4. Ernie Henry/Presenting(riverside) 1956年 8月
  5. Matthew Gee/Jazz By Gee!(riverside) 1956年 8月(A面5曲)
  6. J.R.Monterose/~(bluenote) 1956年10月
  7. Zoot Sims/Zoot(riverside) 1956年10月
  8. Lee Morgan/Indeed(bluenote) 1956年10月
  9. Kenny Drew/This Is New(riverside) 1957年 3月
10. Hank Mobley/Hank(bluenote) 1957年 4月
11. Herbie Manne/The Jazz We Heard Last Summer(savoy)
  1957年 5月(B面2曲)
12. Thelonious Monk/Monk's Music(riverside) 1957年 6月
13. (various artisits) /Blues For Tommorrow(riverside) 1957年 6月
  (1曲のみ)
14. Thelonious Monk/Monk With Coltrane(riverside) 1957年春
  (とされているが、どうやら1957年夏の録音のようだ)
15. Sonny Clark/Dial S For Sonny(bluenote) 1957年 7月
16. Jenkins, Jordan & Timmons(new jazz) 1957年7月
17. Thelonious Monk/Monk Meets Mulligan(riverside) 1957年 8月
  (オルタネイト・テイク集のLPも出た)
18. Ernie Henry/Seven Standars and Blues(riversied) 1957年 9月
19. Kenny Drew/Pal Joey(riverside) 1957年10月
20. Kenny Drew/I Love Jerome Kern(riverside) 1957年
21. Kenny Drew/Harry Warren Show Case(judson) 1957年
22. Kenny Drew/Harold Aren Show Case(judson) 1957年
23. Dick Johnson/Most Likely(riverside) 1957年10月
24. Wilbur Ware/Chicago Sound(riverside) 1957年10月・11月
25. Sonny Rollins/A Night At The Village Vanguard(bluenote)
  1957年11月
26. Sonny Rollins/More From The Village Vanguard(bluenote)
    1957年11月
27. Kenny Dorham/2 Horns, 2 Rhythm(riverside) 1957年12月
28. Toots Thielmans/Man Bites Harmonica(riverside)  1957年12月
29. Toots Thielmans/Time Out For Toots(decca) 1958年 1月
*上記のデッカ盤~ベースはダグ・ワトキンスでした。
30. Johnny Griffin/Way Out(riverside) 1958年 2月
31. Johnny Griffin/~ Sextet(riverside) 1958年2月
32. Blue Mitchell/Big Six (riverside) 1958年7月
33. Tina Brooks/The Waiting Game(bluenote) 1961年 3月
  (モザイクのティナ・ブルックスboxセットが初出自。その後CDで発売)
34. Clifford Jordan/Starting Time(jazzland) 1961年 6月
35. Grant Green/Remembering(bluenote) 1961年 8月
36. Charles Moffett/The Gift (savoy) 1969年
37. Paul Jeffrey/Family (mainstream) 1969年
38. Clifford Jordan/In The World (strata east) 1969年
39. Cecil Payne/Zodiac (strata east) 1969年・1970年
40. Walt Dickerson/Tell Us Only Beatiful Things(whynot) 1975年
《以下、追加》
41. Music Minus One:Alto Sax,Jazz Rhythm Records(MMO)
42. RAVE/LPS 502/SAVINA/SAVINA AND ALL THAT GENTLE JAZZ
     (未確認)
このリストの中で持ってないのは、34.36.38.である。
34のRememberingは、1980年頃にキングの世界初登場シリーズだったかで出たことがあるのだが、つい買いそびれた。
たぶん・・・グラント・グリーンの米capitolのCD(タイトル不明)この音源が入っているかと思う。

・・・さて、ウイルバー・ウエア。
1956年のargoのジョニー・グリフィン。このJ.G.のオリジナル盤は・・・ジャケットが「カンガルー・スピリット方式」で有名なのである。
このJ.G.については、リンクしてある NOTさんのブログ these music suit me well に詳しい。
僕の手持ちは、1975年のビクター盤で、もちろん、ジャケットは左右に分かれない(笑) ウエアの(僕が知っている限り)初録音らしいが、リーダーがジョニー・グリフィンなので、さすがのウエアもちょっと遠慮しているのか・・・1年後のもう本当に自由自在に飛び跳ねているかのような感じに比べると、案外におとなしく弾いているように聞こえる。ソロ場面もほとんどない。
それと、どの曲も3分程度と短く、あっさりと1曲が終わってしまうので、「ゴリゴリのハードバップ」を期待すると、ちょっと違うようだ。いつもはもっと豪快に演っているシカゴ一派が、今日はちょっとヨソイキの演奏をしました・・・という感じだったのかもしれない。しかしながら、A面4曲目に riff-raff というウエアのオリジナル曲が1曲だけ配置されており、この曲ではウエアの「ウエア節」がたっぷりと聴ける。グリフィンのテナーは、どの曲においても、もうすでに・・・「グリフィン」である(笑) 

それにしても、こうやって並べてみると・・・ウイルバー・ウエアの参加レコードは、やはりリバーサイドに圧倒的に多いようだ。
ケニー・ドリューとのjudson2枚も含めると、20枚もある。そのriverside音源のほとんどはOJC盤で入手したが、なぜだかOJCでは発売されなかったタイトルもいくつかあった。ケニー・ドリューとの諸作(19~22番)である。
19番については、ビクター国内盤CDでガマンしたが、他の3タイトルは、長い間どこからも出なかったはずだ。

_003_4うれしかったのは・・・20番の I love Jerome Kernである。これはWAVEシリーズの第1回発売タイトルに含まれていて、僕は雑誌の広告で見たような記憶があった。しかし、WAVEの復刻シリーズもこの頃はあまり認知されていなかったようで、地方都市では販売されていなかった(笑)
そうこうしているうちに・・・浜松の中古レコード店で、この I Love Jerome Kern を発見したのだった。

ついでに言うと・・・前述のJudsonの2枚も、OJCではついに出ずじまいで、このWAVEシリーズのだいぶ後の方の回で~しかも一度、発売延期になった後にようやく~復刻されたのだった。この2枚は3000円もしたが、ウエア聴きたさに・・・いや、もちろんジャケットの魅力もあり(笑)すぐに入手した。ドリューとのデュオ演奏ということで、ウエアのベースが張り切ってピアノに絡んでくるような展開を大いに期待したのだが・・・ベースの録音自体も「遠い音」だし、演奏としてもウエアは全くピアノに「絡まない」ことが判り、ちょっとがっかりした(笑) もっともそんなことは、judsonというレーベルがムードミュージック系のコンセプトらしいことを考えれば~それはジャケットのムード路線を見れば判ることだ~大いに想像がつくことだったのかもしれない。それでも・・・裏ジャケには Kenny Drew at the piano の下に小さい字で accompanied by Wilbur Ware とクレジットされている。_003_5 _004_10

   

《この写真の2枚は、judsonのオリジナル盤。どうしても欲しくて2年ほど前に入手した。ずしりとくる盤の重さが・・・うれしい。
しかしながら、内容に期待してはいけない:笑》

僕にとっては「やったあレコ」と呼べそうな珍盤がある。
それが40番にリストした Jazz Rhythm Records:Music Minus One/Alto Sax である。
特殊なものなのであえて40番目とした。何が特殊かというと・・・このレコードは、通称、MMO(ミュージック・マイナス・ワン)と呼ばれる(たぶん)ジャズ演奏の練習用のレコードなのだ。この盤は「アルト編」で、いくつかのスタンダード曲を、アルトで吹きやすいキーでやっている。
ただ・・・あくまで「練習用」なので、最初のテーマ部分でも~当然ここでメロディが出てくるはずの箇所でも~ピアノ、ベース、ドラムは、バッキングだけやっていて、テーマ部分は誰も吹いていないのである。その空白のメロディを「あなたが吹きなさい」という趣向のレコードなのだ(笑)
だから、もしMMOということを知らずに、このレコードを聴いていると・・・かなりお間抜けな感じを受けるだろう(笑)
ちなみに Don Abney(p)、Mundell Lowe(g)、Bobby Donaldson(ds)、それからWilbur Ware(b)という
カルテットではある。推定だが録音は1961年頃か? M1_1

おもしろいのは・・・いくつかの曲ではベースにソロスペースが与えられており、ウエアは、普通にべースソロをとっているのだ。
このレコードは、なかなかの珍盤だろう。裏ジャケットを見ると、他にも「テナー編」や「トロンボーン編」、それに「トランペット」、「ギター」に「ピアノ」、それから「ドラム」や「ヴィブラフォン」の写真まである。僕はアルト編しか持ってないが、おそらく他の盤のいくつかには、共通のリズムセクションが使われていたはずだ。ウエアが参加しているのなら、ぜひ聴いてみたいものだ(笑)

このリストでのriverside盤、僕の手持ち盤はほとんどOJCなのだが、数少ないオリジナル盤が、4番のアーニー・ヘンリー/Presentingである。この盤には、ちょっとした歴史がある(笑)
・・・というのは、この盤は、僕がちょっと、いや・・・かなりの無理を言って、大阪のYoさんから譲っていただいたものなのだ。
2005年9月~最初にYoさん宅におじゃました時、Yoさんとレコード店(冗談伯爵)で待ち合わせた。2人で20分ばかりレコードを探していたのだが、斜め向かいでエサ箱をチェックしていたYoさんがこの盤を取り上げた。それを見た僕は~それまでのYoさんとのメールのやりとりで、ウイルバー・ウエアの話しが出ていたこともあり~「ああ・・・それはいい盤ですよ。アーニー・ヘンリーにちょっとクセがありますけど」などと言ったはずだ。riverside青ラベル:モノラル盤としては、良心的な価格だったように思う。Yoさんは、「よしっ!」と一声。即、購入決定だ。
Yoさんは、モンク作品では「ブリリアント・コーナーズ」が好きだとのことだったので、もちろんアーニー・ヘンリーというアルト吹きの「人となり」は知っているはずだ。あのアルトに拒否反応ということはないだろう・・・でも僕も薦めた手前、ちょっと心配ではあった。「あんまりよくなかったら、申し訳ないなあ(笑)」と僕。

2006年6月~Yoさん宅再訪の折、僕は2枚の「日本盤」を持っていった。ビル・エヴァンスの「コンセクレイションズ」(2LP:アルファ)と「コンセクレイションズ2」(1LP:アルファ)である。
やはり、そのちょっと前のメールやりとりで・・・僕の方は晩年のエヴァンスにそれほど強くは惹かれていないのだが、Yoさんは逆にあの「鬼気迫るような」エヴァンスの音楽にすごく魅力を感じている~ということが判っていた。そしてYoさんは、オランダ盤のエヴァンスのライブ盤(日本盤と同じ内容のキーストンコーナーでのライブ)を入手したので、僕の持っている日本盤2LP~発売時点ではこれがオリジナルということにはなる~と聴きくらべてみたい、ということであった。こんなやりとりの間からも、Yoさんがこの2LPにも強い興味を持っていることが伝わってきたのだ。このエヴァンスの日本盤2LPはヤフーなどでも案外に人気がある、とのことだった。

僕も「エヴァンス好き」ということでは相当なものだと思っているが、最晩年のエヴァンスは・・・「息せき切って、ただただ自分の音楽を発露している」という感じがして、聴いていて何かこう・・・辛い(つらい)のだ。ベースのマーク・ジョンソンも好演しているので、何度か聴いたのだが「辛くなるような感覚」をどうしても拭(ぬぐ)えないのだ。そんな僕の事情と、この日本盤に対するYoさんの思い入れが、ちょうどうまい具合に重なって、何かの盤と交換することになったのだ。その時、僕のアタマに浮かんだのが・・・・あのアーニー・ヘンリーだったのである。エヴァンス日本盤に多少の人気があろうとも、この申し出は自分でも、ずうずうしいにも程がある!思ったのだがなんとしたことか・・・Yoさんは即座にOKしてくれたのである!「この盤はbassclefさんが持っていた方が幸せでしょう」と。_005_6

《Presenting(RLP 12-222:モノラル青ラベル)~純正オリジナルは「白ラベル」で「青ラベルは2ndで」とのことだが、この「青ラベル」も充分に音はいいのだ》

内容は・・・これはもうアーニー・ヘンリーの、あの「重い音色とためたノリ」での独特のねちっこいフレーズ~そうとうに暑苦しい(笑)~
が満喫できる素晴らしいものだ。ヘンリーの一音一音に「気合」を感じるのだ。その気合に応え、これも怖ろしいほど「重い音」をぶちまけてくるウイルバー・ウエア。それから、キレのいいトランペットも聞こえてくる。「あれ、このトランペット、誰?」と思うと・・・これがなんとケニー・ドーハムなのだ。ドーハムではあるのだが・・・こちらが勝手にイメージしていたような弱々しい音色のドーハムではないのだ。キレがあって味がある・・・そんなトランペットだ。ピアノのケニー・ドリュー、アート・テイラーも、みんなが張り切っていいソロを繰り出してくる。特に、B面3曲目のcleo's chant はマイナー調の曲で、この盤の全体に流れる重々しいムードによく合っており、好きな演奏だ。そしてこの曲でのウエアのベースソロ!音がとにかくでかい。そして重い。それから・・・あの独特なノリ!<4ビート2小節(8拍)に「1、2、3、4、1、2、3、4」と素直に乗らずに・・・「1、2、3、1、2、3、1、2」という感じに乗ってくる> 1956年のこの時点で、もう完全に「ウエア節」である。全く one & only なベース世界だ。僕はウエアのソロが始まると・・・嬉しくてなっていつもゲハゲハと笑ってしまう。

・・・そんなわけで、冗談伯爵でYoさんが見つけたあのriverside盤~コーティングが厚くて、深い緑色の背景にヘンリーの白いシャツがよく映える~Presentig は今、僕の手元にある。
ウイルバー・ウエアの入ったこの盤は・・・Yoさんと僕の、いわば友情の証しのような盤かもしれない。
そういえば・・・「コンセクレイションズ」を購入した折、中のハガキを送ると「もれなく」未発表音源のシングルCDをプレゼント!ということで
そのシングルCDも持っているのだった。この3曲は、どれもフェイドアウトしてしまうし、それに何年か後に「コンセクレイションズ2」で世に出た音源なので、大した価値もないが・・・エヴァンスの「コンセクレイションズ:記念のセット」として、ぜひともYoさんに持っていてもらわなくてはいけない(笑) 

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2006年9月10日 (日)

<思いレコ 第11回> ソニーロリンズ/ヴィレッジヴァンガードの夜

ウイルバー・ウエアのこと(その1)

_004_9だいぶ前の<夢見るレコード>(ヘンリー・グライムス編)で、「こだわりのベーシスト」という内容でシリーズにしていくつもりだ・・・と書いた。<夢見るレコード>は、ジャズそのものの内容についてはもちろんだが、やはりそのミュージシャンなり曲に関わるようなオリジナル盤も交えながら、いろんなジャズ話しをしたい~そんな造りでやってきた。好きなミュージシャンや好きな曲は、それこそいっぱいあるのだが、いつも都合よく関わりのオリジナル盤が手元にあるわけではない(笑) 想うばかりでなかなか記事にできなかったりもする(笑) だから・・・これからは「オリジナル盤」に拘りすぎるのは、やめようと思う。拘りすぎはしないが、記事の内容につながりがあって、ちょっと思いついた盤があれば気楽にとりあげたいし、そしてそれがオリジナル盤であれば、なお都合がいいと思う(笑)
そんな訳で・・・いろいろとこだわりの多い僕としては、このベーシストについて、そろそろ書かねばなるまい。
ウイルバー・ウエアである。

僕が最初にウイルバー・ウエアを聴いたのは「モンクス・ミュージック」だ。1972年の「ネムジャズイン」の帰り名古屋で買ったABC riversideの茶色ラベルの盤だ。すぐに好きになった。思わず「ニヤッ」としてしまうようなユーモラスなソロ。普通でないバッキングでのランニング(4ビートの時の音選び)。そして、その太っい鳴りのサウンドにも痺れた。聴いていて・・・とにかくおもしろかったのである。

ウエアはリヴァーサイドの専属みたいだったらしく、ケニー・ドリュー、アーニーヘンリーらと相当な枚数を録音している。そしてそのほとんどは、OJCのLPでも発売されたと思う。僕もウエアのリヴァーサイドのものは、ほとんどはOJCで聴くことができた。OJC以前では、1972年にビクターがriversideの復刻シリーズが重宝した。第1回発売の何枚かにアーニー・ヘンリーのPresenting が含まれていたし、ウエアのリーダーアルバムの「シカゴ・サウンド」が発売された時は、嬉しくてすぐに入手した。

_005_4《写真の盤は、ビクター盤。緑色のマイルストーンレーベルが哀しい:笑》

リヴァーサイドでのウエア参加作はかなり多いので、次回に「リヴァーサイド編」としてまとめたい。
今回「その1」では、他レーベルでのウエア参加作からとりあげてみたい。

ウイルバー・ウエア。まず連想するのは、やはりあの盤だろう。ソニーロリンズがサングラスをしているジャケットのA Night At The Village Vanguard だ。僕はこの有名な盤をジャズ喫茶で何度も聴いてはいたが、買ったのはかなり遅く、1980年くらいだった。うんと安いオール青の音符ラベルだ。その前にマイケル・カスクーナ監修の未発表2枚組は入手して聴いていたが、この2枚組には、ジャズ喫茶で何度も聴いて気に入っていた sonny moon for two や I can’t get started が入ってなかったのだ。_003_3

前回の<夢レコ>  (1975年の日比谷屋音)では、渋谷のヤマハ楽器でパーカーの The Happy Bird を買ったことも書いたが、あの時・・・迷ったのが、このロリンズのVillage Vanguard である。紫色のジャケットがカッコよかった。時期的におそらくブルーノートの「直輸入盤」だったはずで、たしか2200円もした。あの頃、普通の輸入盤なら1500円前後で買えたので、ブルーノートはかなり高かった。だから渋谷ヤマハではパーカーのライブ盤にしたのだろう。

そのVillage Vanguard でのウエア。これはもう全くユニイクなプレイで、誰が聴いても「おもしろいベースだなあ」と思うだろう。その「おもしろい」を好意的に捉えるかそうでないかが、分かれ目である(笑)

softly as in a morning sunrise という曲がある。この曲・・・最初に聴いたのは、多分、コルトレーンのLive At The Village Vanguard だった。コルトレーンヴァージョンでは、マッコイの正統派モード風の長いソロが印象的なsoftlyであったが、このロリンズヴァージョンでは、ユーモラスでたくましい感じのSoftlyに仕上がっている。

Wilbur Ware on bass, we'd like to feature Wilbur, right now というロリンズの紹介の後、ウエアが短いイントロを弾き始める。このイントロ~ベースでイントロというと、4ビート(1小節に4分音符4回)でランニングするか、あるいは2ビート(1小節に2分音符2回)でテンポをキープすることが多いのだが~ウエアは、いきなり8分音符多用してのベースソロみたいな感じで始め、ビートの裏を強調した「ッタ・ッタ・ッタ・ッタ」というフレーズを交えながら、強力なリズム感でテンポはがっちりキープしてくる。ビート感も最高だ。おもしろい!もうここからウエア節炸裂である(笑)
そのイントロの後、テーマをロリンズが吹き始めるのだが、その吹き方もおもしろい。この曲のアタマのメロディは「ドー・ソー」(キーがCmの場合)で、普通は最初のドの音を2分音符で伸ばすのだが、ロリンズは、4分音符(8分音符+8分休符)を2回吹くのだ。「ドッ・ドッ・ソー」・・・これで、このSoftlyの運命は決まったのだ。ユーモラスでたくましいsoftlyになるように。
思うにロリンズも・・・イントロでこんなにもユニイクな個性のベースを聴いて、ジャズ魂が湧き上がってしまったのかもしれない。ロリンズのテーマの吹き方にも、何かワクワクするようなうれしそうな気配を感じる(笑) そのうれしそうなロリンズのソロが終わり・・・ウエアのベースソロが始まる。ウエアも、ロリンズのアイディアを弾き継ぎ、やはり最初のメロディを「ドッ・ドッ・ソー」と弾く。それもやたらブッチギリのアクセントをつけて(笑)普通は(コルトレーンヴァージョンも)ドの前に休符を入れたり、あるいは次のソをシンコペにしたりするのだが、この曲でのこの部分のウエアの弾き方は・・・もう思い切りのオンビートなのだ。すごく泥臭いのである(笑) 
しかしそれは、「あえて演出した泥臭さ」でもある。ベースがメロディを弾く・・・その特殊な状態を逆手にとって自分の個性を生かすための「オン・ビート」なのだ。ウエアの場合は、もちろんただ「オン・ビート」な訳ではない。ウイルバー・ウエアという人は、弦を引っ張る右手の「引っ張り力」が
相当に強いような感じがする。ウエアはその強い「引っ張り力」で、一音一音を圧倒的に「太っい鳴り」で強烈に弾き込んでおり、そしてあの弦の独特な響き方~輪郭の丸い大きな響きたぶんガット弦を使っている~そんなものが一体となったユニイクな個性があるからこそ・・・この曲でのウエアの「ドッ・ドッ・ソ~」は、説得力があるのだ。ウエアという人の「唄い」がもう直接に「ブウ~ン・ブウ~ン」と響いてくるのだ。こんなにたくましい個性のベーシストはめったにいないぞ。
ちなみにウエアのソロ、エルヴィンのソロが終わった後、最後のテーマをロリンズが吹くのだが、ここではロリンズは「ドッ・ドッ・ソ~」と吹かない(笑)
たぶん・・・あえて同じようには吹かなかったのだ。ロリンズらしい「捻り」じゃないですか(笑)
になみに「未発表2枚組」にもsoftly が入っている。こちらのテイクでもロリンズは「ドッ・ドッ・ソ~」と吹いてない。裏解説に during the evening performance on Sunday,November 3, 1957 と明記してあるので、つまり「未発表」のsoftly の方が先(夕方)で、「サングラス」の方が後(夜)の演奏ということになる。そうして夕方の softly は、もちろん悪くはないが、あの夜の出足から気合の入りまくった演奏に比べると、かなり生気に乏しい。推測するに・・・昼間の演奏の時にはまだ湧いてなかったインスピレイションが、夜のセットで3人がノッてきて、ロリンズならではの「ひらめき」が一気に湧いてきたのではないだろうか。あるいはあの曲でのウエアの跳ねるような感じのベースソロに、ロリンズがヒントを得ていたのかもしれない。

《写真は、キングの特別復刻盤。音は、案外にいい》

_002_2ちなみに、このレコードには、もうひとつ凄い演奏がある。B面1曲目の sonny moon for tow である。
このブルースは12小節で、アタマ(4小節)・オナカ(4小節)・オシリ(4小節)でできているのだが、それぞれの4小節に、全く同じメロディを3回繰り返すブルースだ。超シンプルだが、ロリンズらしさが横溢したこのブルースを、僕は昔から大好きだった。そういえば、ジャズ研(学生時代のバンド)では、何かというとすぐこの曲をやり、一度始めるとなかなか止まらない・・・それでも「気分」だけはいつもノッていた(笑)

このロリンズ/ウエア/エルヴィンのsonny moon for two 全編素晴らしいのはもちろんだが、僕が特に印象に残っている場面がある。
ロリンズ、ウエアとソロが終わると、エルヴィンとロリンズとで、4bars change(4小節交換)というのをやる。

ブルース(1コーラス=12小節)での4bars change は、アタマ(4小節)、オナカ(4小節)、オシリ(4小節)という感じで
順番にソロを回していく。このsonny moon は1コーラスが12小節なので~まずロリンズ・エルヴィン・ロリンズで1コーラス、次のコーラスは、
エルヴィン・ロリンズ・エルヴィンという順番になるわけだ。
だから2コーラス単位でいかないと、ロリンズがアタマ(最後のテーマを吹くときの)に戻らない。

僕が聴くたびに唸ってしまう場面は・・・最後の2コーラスでの4bars changeの所で飛び出てくる。
前のコーラスのオシリをエルヴィンが長いロールで締めくくった後~普通ならここでテーマに戻りそうな感じだが、ロリンズはあえて(たぶん:笑)戻らない。そのアタマの4小節のロリンズが凄い!
3連の連続から崩していくような「雪崩れフレーズ」を吹き始めると、その自分のアイディアに乗ってきたロリンズが(たぶん:笑)・・・
次の4小節(エルヴィンの番)に入っても・・・止まらないのだ(笑) エルヴィンも自分の順番なのでソロを取り始めようと思ったら・・・
ロリンズがまだ吹いている。そこでエルヴィンは、あまりオカズを入れずにバスドラを4拍アタマで踏み続ける。しかしまだロリンズは止まらない(笑)オナカの部分をすでに2小節くらい割り込んでいる(笑) エルヴィンのバスドラが「ドン・ドン・ドン・ドン」・・・するとロリンズは、そのエルヴィンの4拍アタマ打ちに合わせるかのように、「フゥ~・フゥ~・フゥ・フッ」とサックスを鳴らすのだ。いや、最後の方は息が切れて「鳴ってない」かもしれない。だがしかし・・・そのサックスの「圧力」を、確かにその場から感じるのだ!エルヴィンは「ここぞっ!」とばかりに、バスドラをクレシェンドで強く踏み始める。ウエアもすかさずクレシェンドに合わせて弦を弾く!(はじく) 音楽の圧力が一気に高まる!もうたまら~ん!これがジャズだあ!・・・このsonny moon for two も本当に素晴らしい・・・。

ロリンズ、ウエア、そしてエルヴィン・・・この3人の個性がぶつかりあい、絡み合い、そして溶け合い・・・これこそがジャズだあ!と叫びたくなる(笑)
すごくおおらかでジャズの図太さが溢れる、真の意味での「ジャズっぽい」演奏だと僕は思う。・・・どうやら僕は、このロリンズの A Night At The Village Vanguard をムチャクチャに好きなようだ(笑) そうして、こんな素晴らしい瞬間を生み出したジャズという音楽に・・・僕は感謝したい。

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2006年3月26日 (日)

<思いレコ 第9回> マッコイ・タイナー/today & tomorrow(impulse)

初めてのオリジナル盤はインパルスだった。

分厚いコーティングのジャケット。それから、なんだか変な匂い。これが「輸入盤」というものに対する、僕の最初の印象だ。当時はあくまで「輸入盤」と呼んでおり、「オリジナル盤」というような認識は全くなかった。
いずれにしても、このやけに重いインパルス盤が、僕にとっての最初の「オリジナル盤」だったわけだ。だいぶ後から判ってきたことだが、当時(1972年頃までか?) は、日本のレコード会社が代理店となっていくつかの海外レーベルを「直輸入盤」として販売していたようだ。guramophone
riverside(時期的にABC Riverside)~日本グラモフォン(ところで、日本グラモフォン=日本ポリドールなんでしょうか?ご存知の方、ご教示を。)
atlantic~日本グラモフォン?(アトランティックのオリジナル盤を入手したところ、裏ジャケに「逆文字の刻印スタンプ」~imported by Nippon Gramophone と読める~のある盤を持っている。右の写真がそのスタンプだ。)
それに、bluenote~東芝。あとは impulse~キング くらいだろうか。King_impulse

このキング扱いのimpulse盤は、扱いタイトルの小冊子を持っている。輸入盤なのに、全て「カタカナ」で表記してあるところがおもしろい。
AS1番(great Kai&JJ)からAS100番までとAS 9101番からAS9213番までの200以上のタイトルが載っている。その内、いくつかのものは SR~という型番で日本盤が出ていたようだ。  _002

AS-63番のマッコイ・タイナーのToday & Tomorrow はそんな「直輸入盤」の1枚だった。4つ上の兄貴が大学の生協のレコード売り場で買ってきたものだ。兄貴が言うには・・・その時、有名なコルトレーンの「至上の愛」を買おうとしたら、ジャズ好きの友人が「まだおまえにはコルトレーンは早い。この辺にしておけ」とマッコイを勧めてくれたそうだ。兄貴はちょっと「ジャズ」に興味を覚えた程度だったので、素直に友人の助言に従って、それで今、このマッコイ・タイナーの盤が、僕の手元にあるわけです(笑) それにしても、当時は大学の生協にこんな渋いジャズのレコードまで品揃えしてあったということにも驚かされる。時代的に、大学生が盛んにジャズを聴いていたのだろうか? 
《写真下~1972年に手にしたToday&Tomorrow (impulse AS-63) ステレオ盤 オレンジ黒~盤が異様に厚い》

 

Mccoy_tyner_today

 

   最初、このToday & Tomorrow を触った時・・・とにかく変なニオイがした。ジャケットはインパルス特有のゲイトフォールド、そして分厚いコーティング。ジャケットに使うダンボール自体も厚めなんだろう・・・ジャケットだけでも相当に重い。そして・・・vinyl(盤)がこれまた重い!特に、センターラベルが「オレンジ・黒」の比較的初期の盤は、vinyl 自体もこれまた厚いようで、横から見ても2mmくらいはありそうだ。そうしてその厚さが、けっこう不均等なのである(笑)

「変なニオイ」を嗅ぎながら、それでも何度もこのレコードを聴きました。
A面1曲目は・・・contemporary focus というモードの曲だ。たぶん1963年頃は、なんでもかんでもモードという時代だったのだろう。
モードというと・・・僕がちょっと苦手ないわゆる「新主流派」(bluenoteのハンコックやショーターの流れからのモード手法)のサウンドを想起する方が多いと思う。しかし・・・このマッコイのモードは、新主流派のサウンドとは、なんとなく肌合いが違うのだ。やっぱりエルヴィン、マッコイ、という「コルトレーン的熱いソウル一派」のモード曲は・・・まず「熱い!」それに「くどい!」(笑) 曲のテーマの展開もなんとなく強引というか混沌というか・・・あまりスマートではないのだが、そこら辺りが僕には心地よいのだ(笑)

この曲は、ジョン・ギルモア(ts)~そういえば、ジョン・ギルモアというテナー吹きの「ギザギザしたような・・・乾いた風が吹き始めたかのような」独特のサウンドにも魅かれるものがあった~やフランク・ストロジャー(as)、それにサド・ジョーンズ(tp)が加わった6人編成のセッションの中の1曲だ。そしてその6人セッションのドラムスがエルヴィン・ジョーンズなのだ!

中央やや右の方からエルヴィンの「でっかい鳴り」が響き渡る。シンコペを効かせた4音のイントロ~「ダッ・ダッ・ダッ・ダア~ン」という合わせのところなんかもう・・・エルヴィンの強烈なこと!シンバルの中央付近を叩く「カコ~ン」というような音も混ぜて、そして「グワ~ン」とシンバルを押し(文字通り、押しているのではないだろうか)バンド全体を煽るようにドラムセット全部を鳴らしてくる。この辺りの「合わせ」・・・エルヴィンはたぶん、譜面なんか見てない。出来あがった曲をマッコイがピアノで弾いて、それを即座に身体で吸収してしまったのだと思う。そうして理屈でなく野生の勘で、合間にロールを入れながら、その合わせるポイントよりもほんのわずかに遅らしたような感じで「ドッカ~ン」とくる。これが気持ちいいのだ(笑) きれいにピタっと合わせるだけの後年のフュージョンの「合わせ」なんかとは、もう全く次元が違う。重みが違う。キレが違う。そうしてライド感が違う。エルヴィンが叩けば、そこには必ず・・・ジャズ魂が炸裂しているのだ。_002
ちなみにラストのテーマに戻る前に、短いベース・ソロがある。ブッチー・ウオーレンだ。この人もいい。ベースの音が本当に重いのだ。ハードボイルドな感じで凄みのあるソロをとる。そしてそのウオーレンがダブルストップ(左手を2箇所押さえて、ベースでも和音を出すこと)でもって「ダッ・ダッ・ダッ・ダア~ン」のフレーズを出してくる。すると・・・即座にエルヴィンが応えるのだ。パッと手が動いてしまったかのような、短いロールから「ドッカ~ン」とシンバルを鳴らし・・・爆発するようなこれも短いソロをとる。そうしてイントロと同じあのリズムパターンを繰り返すと・・・もう管奏者たちはテーマに入るしかない(笑)

高1の時に聴いた時は「ああ・・・これがジャズかあ」という感じに、この曲~contemporary focusからは、それこそ現代的(comtemporary)な感触を得ただけだった。しかし今聴けば・・・エルヴィンの凄さを味わうと共に、いいテーマを持つそしてしっかりと構成されたマッコイの傑作オリジナル曲だと思う。

Today & Tomorrow~A面~B面何度か聴きなおしてみたが~3管6人編成での他の曲もどれもよかった。それにトリオセッションでは、ベースがジミー・ギャリスンなので、「チュニジアの夜」「枯葉」もハードボイルドで悪くない。それとバラードでは「when sunny gets blue」というチャーミングな曲も演っており、一気に聴き通してしまった。マッコイのピアノのプレイだけをとっても、僕はこの頃のマッコイが一番好きだ。マッコイのピアノは、特に高音部でのフレーズに独自の輝きがある。右手のタッチが小気味よいほど鮮やかで、しかも一音一音をしっかりと弾き込んでいるようだ。だから・・・高音での「鳴り」が鐘のように響く。インパルスの録音もそれをよく捉えているように思う。マッコイには同時期に、ピアノトリオ(inception、ballads & blues、 plays Elligton、reaching fourth など)も何枚かあるが、やはり管も入ったこの盤がトリオものとのバランスもよく、一番聴き応えがあるようだ。
ジャズ聴きの最初期に何度も何度も聴いたこの盤なので、思い入れがあるのかもしれないが、その分を差し引いても~マッコイの大傑作だと思う。
ちなみに、このオリジナル盤・・・ジャケットのコーティングは隅の方から剥れ始めているが・・・あの「変な二オイ」はまだ微かにジャケットに残っている。

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