<ジャズ回想 第2回> 1971年のバート・バカラック
A&M第1作~Reach Out(1967年)「アルフィー」~絶妙の隠し味
バカラック・・・単にそういう世代なのかもしれないが・・・けっこう好きなのだ。中3だった1971年~その頃、僕はたまに買うエルトン・ジョンやらサイモン&ガーファンクルのレコードに夢中だったが、バカラックのことも(カーペンターズの曲(Close To You)などから)「ちょっといいな」とは思っていた~バカラックが来日して、豊橋から1時間ほどの名古屋でコンサートがあった。そのバカラックを名古屋まで見に行った、という同級生がクラスに2人いた。男子生徒と女子生徒である。その2人は、それぞれの親と同伴でコンサートに行ったのだろうが、クラスの連中は「一緒に行ったのか?」と冷やかしたりしていた。僕はもちろん、来日ミュージシャンのコンサートなどに行ったこともなく、まぶしい想いで彼らを見ていたが、当時からギターを触り始めていた僕は、あくまで「音楽」に興味があるのだ、という風を装い、女子生徒の方にそのコンサートの様子をたずねてみた。
彼女は~映画「明日に向って撃て」でも使われていた<サウス・アメリカン・ゲッタ・ウエイ>が、すごくいい感じで演奏されて、それで<カム・タッチ・ザ・サン>が流れてきた時は、ジワ~っと感動しちゃった~などと「目をお星様」状態にして、熱心にコンサートの様子を説明してくれたのだ。作文がとても上手で、すごく明るい女の子だった。そんな訳で・・・今でも、バカラックを聴くと、どうしても彼女のことを思い出してしまう(笑)
《Burt Bacharach/Live In Japan(キング)GP-205》 豪華なゲートフォールド(見開きジャケ)である。録音もすごくいい感じだ。何でも録音の音質にうるさいバカラック自身が、この音を聞いて発売の許可を出したとのことだ。
このバカラックの来日コンサートの様子は、少し後でTVで放映された。家庭用ビデオなんか、もちろんない時代だ。TVで放映されるコンサートの「音源」は、とても貴重なものだったので、僕はTVのスピーカーの前にカセットデッキ(マイク付き)を置いて、その音源を録音した。あれは・・・ソニーの黒いラベルのカセットテープだったかな。そうして、それを何度も聴いた。この時のライブ盤は、キングから出たが・・・この盤を手に入れたのは、30年も経ってからである(笑)
バカラックが1967年に発表したA&M第1作の「リーチ・アウト」。これが一番好きなんだが、長いこと、CDで我慢していた。この外盤CD(Rebound Records 1995年)も意外なほど、いい音に仕上げられていた。そうなると・・・これはもう、ぜひともオリジナルのLP盤も聴いてみたくなる。先日ようやく、オリジナル盤~といっても60年代後半のものなんで、特に価値があるわけではないだろう~Reach Out(A&M SP-4131)を手に入れた。やはり・・・期待したとおりの音だった。どの楽器の音も厚く入っていて、なにか温かみのある感じを受ける。A&Mって、音楽自体にもソフトで柔らかい流れがあり、そのポリシーによくマッチした録音だと思う。いつ聴いても「いいなあ」と感じるのだ。どうやら、僕は70年前後のA&Mの録音が好きらしい。
A面2曲目の<Alfie>~これが素晴らしい。アルフィー・・・ロリンズのアルフィーとは違うバラード風の曲だ。5~6年前だったか、女性ヴォーカルのヴァネッサ・ウイリアムス(だったかな?)がカヴァーして、ヒットしたように記憶している。そういえば・・・20年近く前だったか・・・TVの歌番組に、阿川泰子が出たときに、なぜかベースのロン・カーターがゲストで登場、その時に唄った曲が、この「アルフィー」だった。特にロン・カーターのファンというわけではなかったが、普通の歌番組に出てきた本物のジャズミュージシャンというのは、さすがにかっこよかった。そういえば、ビル・エヴァンスもこの曲を何度か録音している。とにかく・・・いい曲なのである。さて、バカラック初演(だと思う)の<アルフィー>・・・これが「凄い」・・・「粋の極致」とでも言おうか。音の中身を説明するのは、もちろんなかなかに難しいのだけど・・・やってみよう。この<アルフィー>はバラードではない。まず、ガットギターの刻みが、遅いテンポの2拍子というか、ゆったりしたサンバ風のリズムで入ってくる。そうだなあ・・・「1拍・2拍」の連続を「1234・1234」と16分でノッているようなリズムに聞こえる。そこへ、トランペットが入ってきて、あのメロディーを吹く。メロディのノリ方は、1拍=1234(昔の音楽授業風に言うと・・・1拍にもオモテ・ウラがあるので、その1拍のオモテでイッ・トオ、ウラで二ットオと声に出してみると、うまくノレる)なので、ゆったりとノッているのだが・・・その時のバックのドラムスがすごい。ドラムスが、というより、そのリズムパターンが凄いのだ! ドラムス(ブラッシュ)の方は、なんと・・・1拍=12341234と、そのまた倍にして叩いているのだ。しかもブラッシュで!だから・・・「ああ、アルフィーかあ、いい曲だ」と思ったあなたは・・・すぐに、「あれ?なんかドラムがちょっと変だぞ?」と気付くことになる。そりゃあそうだ。バックで、ドラマーが「ザワザワ」と格闘しているのだ。ところどころで、ブラッシュで刻んでいるリズムが、よれそうになったりしている(笑) 必死に刻んでいるドラマーの姿が見えるようだ。文字通り「格闘」である。無理もない。もともとゆったりの1拍を4つに分けての「16分音符割り」を、その倍の8つに分けて「32分音符割り」にしているのだから。ドラマーにしてみれば・・・大きな1拍を8つに分けるというノリ自体が厳しいところへ、相当に早いテンポのサンバを「ブラッシュだけで刻め」と指示されたことになる。これは技術的にも相当に難しいことだと思う。
とにかく・・・こんなアレンジ、聴いたことない。これが、バカラックのオリジナルのアイディアかどうかは判らない。でも少なくとも・・・いかなるドラマーでも、自らこんな風に叩きたい、とは申し出ないだろう(笑) この<アルフィー>の凄いのは~ドラマーが大変だとかいうことではなく(笑)、そんな陰の労苦に関係なく(いや、それが「隠し味」になっているのに違いはないのだが)~とても「優雅」に「ゆったりと」「小粋」に聴けることなのだ。素晴らしいアレンジである。僕は、やはり・・・バカラックが好きだ。
*Reach Out の下は、A&M2作目~《Make It Easy On Yourself(SP-4188)》 1969年
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