〈思いレコ 第20回〉 モンク ランズ ディープ
retrospective 回想する/懐古的な~という言葉がある。毎年、年末になると僕はまさにこの言葉通りの気分になってしまう。そうして必ずモンクのあのピアノの音を想起する。1971年、中3の時からジャズを聴き出してもう50年以上経ったが、やっぱり僕の〈ジャズマインド〉の原点は…モンクなのである。
モンクのレコードで最初に(1972年7月) 入手したレコードは「モンクスミュージック」で、コルトレーンやホウキンス、ベースのウイルバーウェアらがモンク音楽と有機的に絡むエネルギーある音楽に痺れまくったわけだが、その少し前にFMラジオから録音したカセットで、モンクのソロピアノ《ラウンドアバウトミッドナイト》を本当に何度も何度も聴いて、もう心底、感動してセロニアスモンクという人を好きになっていた。その事について書いた過去記事があるので横着して抜粋します。
以下《 太字 》《その少し後・・・今度は「あの曲」の作曲者、セロニアス・モンク自身のソロピアノでの「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」(vogue/1954年)を再びFMから録音した。マイルスのミュートが演出したあの曲の持つ「独特なムード」に慣れていたせいか、このモンクのソロピアノにも違和感など全く感じることもなく、いやそれどころか・・・モンクのピアノは、不思議なくらいに、本当に真っ直ぐに僕の心に入り込んできてしまったのだ。マイルスのラウンドミッドナイトは、もちろん素晴らしい。でもモンクのこの演奏には・・・もうムードなんてものを通り越して、モンクという一人の人間が、自分のあらゆる感情を吐露しているような厳しさがあった。モンクの、いや、あらゆる人が、人生を生きていく上で味わう感情・・・<挫折><孤独><哀愁>そして<優しさ><希望>・・・みたいなものが、この演奏の中に封じこめられているかのようだった。(そういう風に聴こえた)このモンクのソロピアノのレコードは、なかなか見つからなかった。高1の夏に、東芝ブルーノートの国内プレス(ジニアス・モンク vol.1)を間違えて、買ったりしました。「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」という曲が入っている、という理由だけで買ったのだが、このLPに入っているバージョンは、モンクによる初演(1947年の3管入りのもの)だった。「なんか違うなあ・・・」とがっかりしたのだ。(笑)その年の秋だったか・・・ようやく vogue録音のソロピアノのLPが東宝から発売されたのだ。タイトルは・・・セロニアス・モンク/モンク・ランズ・ディープ(東宝) ようやく、あの「ラウンドアバウトミッドナイト」に出会えたのだ。すぐに手に入れて・・・・・このレコードは、本当に何度も何度も聴きました・・・・。 このLPには、ラウンド・アバウト・ミッドナイト以外にも、リフレクションズ(ポートレイト・オブ・アーマイト)、オフマイナー、ウエル・ユー・ニードントなどモンクの傑作曲が入っており、全てが気迫のこもった素晴らしい演奏ばかりです。。その中で、唯一のスタンダードの「煙が目にしみる」・・・これがまた素晴らしい!よく「モンクは変。判りにくい」とか言われるが・・・この「煙が目にしみる」みたいなスタンダードを弾くときのモンクは、一味違います。誰もがよく知っているあのメロディ、あの魅力的なメロディーをそれほど大きく崩したりはせず、謳い上げています。強いタッチなので、演奏全体にゴツゴツした「堅い岩」みたいな雰囲気を感じるかもしれませんが、それがモンクの「唄い口」です。そうしてこのモンク独特の無骨な唄い口が、却ってこの曲の持つ<哀感>みたいなものを、よく表わしているように思います。ちょっと気持ちが弱った時なんかに聴くと・・・「おい君・・・人生ってそんなに悪いもんじゃないよ」とモンクに優しく諭されているような気分になります》
う~ん…まあ、モンクのことをどうにも好きになって、そんな僕の非常に個人的な気持ちを少しでも判ってほしいな…という、暑苦しい文章でしたね(笑) そんなわけで僕の生涯の愛聴盤になった〈モンク ランズ ディープ〉~不思議なタイトルだが〈モンクは自己の内面に深く潜航する〉という感じかな、と僕は理解している。
上写真~1972年秋に発売された東宝盤。
下写真~ジャケット裏面、全8曲収録の記載。このフランス1954年録音の盤だけ、なぜか曲名クレジットがいろいろ混乱していて大変判りにくい。例えばB-1に〈ポートレイト オブ アーマナイト〉とタイトルされテイクがあるのだが~このバラードには独特な哀愁みたいな感じが漂っていて大好きなのだが~この曲、一般的には〈リフレクションズ〉と認識されている曲である。
下の写真…左側にあるモンクのピンアップは、豊橋のジャズ喫茶「グロッタ」に長年、貼ってあったものだ。経年劣化で真っ黒に煤(スス)けている(笑) 実は、そのグロッタが1980年頃だったか…閉店する際、ジャズ研仲間と片付け手伝いに行って、テーブルやらソファを搬出したり、あれこれ廃棄したりした時に、僕はこのモンク写真をそのまま剥がし捨ててしまうのが何やら忍びなくて、丁寧に剥がして頂いてきた…というわけである。高校~大学時代に通いつめたジャズ喫茶「グロッタ」と、同じ時期に聴きまくったモンクへの想いがリンクした…僕の retrospective である。
上写真2点~1984年キング発売の〈ソロ オン ヴォーグ〉全9曲収録。
このレコード、もちろん〈モンク ランズ ディープ〉と同じ1954年音源なのだが、1曲だけ未発表テイクが入っている。それは〈ハッケンサック〉で、フランス録音時にはどうやら〈ウエルユーニードントtake2〉という理解で未発表とされていたようだ。その辺り、曲名クレジットの混乱のことが、このキング盤の、油井正一氏の解説で知ることができた。
上写真3点~《フランスVogue盤~12インチ盤と7インチ盤。The Prophet なるサブタイトルが付けられている。Discogs によると1961年発売》~これ、ピアノの音に鮮烈感があって素晴らしいのです!
だいぶ後年になって、僕はようやく、フランスVOGUE盤を入手しました。但しこれらは…いわゆるオリジナル盤でなく、12インチ盤と7インチ盤です。オリジナルはもちろん、フランスVOGUE10インチ盤のはずです。そしてそのフランス盤を受けて、日本盤(25㎝/12インチ)も発売されていたようです。たしか1972年東宝盤と似たようなジャケットだったように、思います。日本のレコード会社もなかなか素晴らしい選球眼を持っていたのですね。
《追記~下写真2点(Discogs から転用)~日本グラモフォン(ポリドール)の25cm(10インチ)盤。解説は油井正一氏。Discogs によれば、1960年発売》


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コメント
シュミットさん、反応コメント、ありがとうございます。いやあ…そのご友人との交流話し…面白いです。また、音楽的にも実に興味深い!
実は僕もクラシック入門入り口辺りで停滞しているわけですが、なぜかグールドには最初から拒否反応は無かったです。「ゴールドベルク」についてはColumbia盤は友人からのCD-R、再録音(Philipsだったか?)だけはアナログ盤で、あと2~3作品だけ聴いた程度ですが。実は、超私的
に「モンクとグールドはどこか似ている」と思ってます(笑)
もちろん、ジャズとクラシックで音楽的な手法は全く異なる訳ですが…なんという
か、その音楽的にもライフスタイル的に
も、周りとは隔絶した孤高なる姿勢・その佇(タタズ)まい…みたいな感じが実に似
ているような気がします。また…的外れか
もしれませんが、ピアノ弾き方において
も、あの突き放したようなタッチ、(おそ
らくは)ほとんどペダルを使わない、ドライ、クールな響き…そんな具合に、二人は
ある種の同質な感覚を持っていた…という
のが僕のモンクスドリームです(笑)
投稿: bassclef | 2025年1月 7日 (火) 13:07
bassclefさん、さっそくのコメントありがとうございます。
モンクの話をもう少し.....
私はジャズを聴きはじめたころ、モンクという人には関心がなく、スルー状態でした。
学生のころ、近所に幼馴染みの友人がいまして、かなりのクラシックファンです。私はジャズのレコードを何枚か、彼はクラシックのレコードを何枚か貸し借りして、数日後に会って感想大会です。私が貸してあげたのは、「bill evans at town hall」「bags'groove」ほか何枚か。借りたのはグールドの「ゴールドベルク変奏曲」ほか数枚(内容は忘れました)。
私の予想では多分bill evansがいいというだろう、と思ってたのですが、感想は「ドビッシーやね」の一言でした。で、なにがよかったのか、と聞くとbags'grooveのモンクのソロ、しかもtake2のソロを絶賛するのです。ミルトとマイルスのソロしかまともに聴いてない私の立場はありません(笑)。彼は「こんな空間を感じさせるピアノは聴いたことない」とか「ほかにモンクのレコードはもってないのか」とかいってました。それからですね、モンクをチャンと聴いてみようと思ったのは。持つべきはジャズ友です。
彼はそれから自分でもジャズのレコードも集めだして、いまもクラシック、ジャズ両方の大ファンなんです。
私のほうは、クラシックファンとはならなかったのですが、上記のグールド「ゴールドベルク変奏曲」はなぜか3枚も持っているんです(笑)。
投稿: シュミット | 2025年1月 6日 (月) 18:04
シュミットさん、明けましておめでとうございます。年に一度の拙ブログに変わらずコメントいただき嬉しい限りです。わあっ!《日本グラモフォンの25㎝盤(10インチ)》をお持ちですか…そしてジャケットは仏Vogue盤と同デザインとのこと…やっぱり持つべき方の所にはちゃんと在る~ということですね。発売は1950年代末頃としても、そんなに早い時期から、セロニアスモンクのソロピアノ作品を日本発売していたとは…改めて感心してしまいます。日本人のジャズ理解は1960年頃の「モーニン→ファンキージャズ」だけでなく、それ以前からこんな渋い(しかし純粋音楽的な)作品にまで届いていたのだ…というある意味、誇らしい気持ちになりますよ。ちょい大げさかな(笑)
《ラウンドアバウトミッドナイト》という楽曲についてのシュミットさん観察…僕もほぼ同感です。カヴァ-演奏については、またこのテーマだけで新たな夢レコ記事が必要な感じですが、モンク以後のピアノ弾き(取り上げるだけでも勇気あるとも思う)たくさん在るはずですが、確かに…「これはいい!」と思えるテイクはすぐには思い当たらないです。ちょっとだけ…自分の好みで言うと、ビルエヴァンス、チックコリアという精鋭をもってしても、この楽曲の持つ奥深い所から滲み出てくるような「何か」は、引き出せていない…と僕も思ってます。(エヴァンスは大好きですよ(笑) でもこのモンク曲についてはそうなんです) この曲では、シュミットさん仰るように「表面的な美しさ」に捉われてるだけの演奏だと、なんとなく面白くないぞ…という感じは案外、皆さんも感じているはずです。解釈…という観点でひとつヒントになるかな、と思えるのは、ダラーブランドのround about midnight (南アフリカのある村の分析~収録)です。決してピアニスティックな演奏ではありませんが、全体に流れる混沌とした雰囲気は独特なものでキライではないです。あとは…ドルフィ-ですね。それについてはまた別の機会に(笑)
投稿: bassclef | 2025年1月 6日 (月) 14:35
denpouさん、レスポンス、ありがとうございます。ホント、またレコード聴き集まり…やりたいですね。
投稿: bassclef | 2025年1月 6日 (月) 11:54
あけましておめでとうございます。シュミットです。
私はこのアルバムは日本グラモフォンの10インチ(lpp1065)で持ってまして、ジャケはbassclefさんがお持ちのフランス盤と同じ写真が使われています。ライナーは油井正一さんです。
このモンクはパリでの録音ということもあってか、少し表情も柔らかな感じがしますね。ソロピアノっていうのはあまり聴かないのですが、モンクは別でこのアルバムとコロンビアの「solo monk」なんかはわりとよく聴きます。
「round about midnight」も後の「himself」の同曲とくらべても、少しアッサリ気味で、聴くのに緊張を強いられるようなことはありません。「himself」は聴く気でないと聴けないアルバムですが、とくにこの曲は聴くたびに強い印象を与えてくれます。
「round about midnight」という曲は名曲中の名曲だと思いますが、また難曲中の難曲だとも思っています。私はモンク本人とマイルス以外でこの曲の名演、名唱に出会ったことがありません。この曲の持つ表面的な美しさだけに騙されてるようなポンコツがあふれているような気がします。この曲のもつ本質的な何かが欠けている気がするんですが、その何かが何かというのを話しているとあと一時間くらいパソコンを打ち続ける必要があるので、このへんにしておきます(笑)。
bassclefさんのモンクの話はもう少し読みたいものです。
投稿: シュミット | 2025年1月 5日 (日) 21:19
bassclefさん 返信コメント有り難うございます。
参考にさせていただきます、
今年もあちこちでライブでの活躍されると思います いっぱい楽しんでください、 機会が有れば昔の仲間と会いたいですね。
投稿: denpou | 2025年1月 5日 (日) 18:11
denpoUさん、明けましておめでとうございます。コメントご挨拶、ありがとうございます。
モンクのピアノトリオ…そうですね、 Prestige, Riverside 、比較的初期に幾つか録音ありますが、モンク的表現としては、その良さ・個性が充分には発揮されてないように感じます。モンク好きの僕でもあまり楽しめません。
もし、denpouさんが「ソロピアノは絶対に聴かない」というポリシーでなけ
れば、モンクがよく知られたスタンダード曲を弾く、「煙が眼にしみる」(ソロオンヴォーグに収録)や「アイサレンダーディア」(ブリリアントコーナーズ
に収録)「エヴリシングハプンズトゥミ
ー」(インサンフランシスコ)、「アイシ
ュッドケア」(ヒムセルフ)、などをYouTubeか何かで、できたら(モンクと思わずに)聴いてみていただけたら…と思います。
投稿: bassclef | 2025年1月 5日 (日) 17:07
bassclefさん明けましておめでとうございます。
恒例の思いレコ 楽しみにしておりましたが 私はピアノトリオのアルバムが好きなんで沢山聴いていますが 何度か聴きましたが モンクは 駄目ですね 御挨拶だけにしときます。
投稿: denpou | 2025年1月 4日 (土) 21:03
D35さん、明けましておめでとうございます。年1回更新の僕のスローペースブログに、今年もまたコメント頂き感謝です。昨年は5月だったか…名古屋南区の珈琲焙煎店ライヴに、寄って頂き、D35さんとお会いできて、たいへん懐かしい気持ちでした。
D35さんの、ジャズ開眼的レコードは…「ミンガス/直立猿人」でしたか。うーん、なかなか渋い1枚ですね。特に…ウッドベースを触る人間にとっては、ミンガスのかきむしるような歪んだ音
色を耳にすると、〈ベースでこんなことやっていいの? てな気分になりますよね(笑) そういえば僕はこの頃、ドルフィー~ミンガス、わりと聴いてますよ。熱い気分がじわじわ甦る感じもあり、まだまだジャズ聴き…楽しいですね(笑)
投稿: bassclef | 2025年1月 3日 (金) 21:15
明けましておめでとうございます。
一年ぶりの書き込み、しみじみと読みました。
モンクは聴いてませんが、お二人の文章を読んでいると自分に置き換えて思う事いっぱいです。
ちなみに私のジャズの最初の一枚はミンガスの直立猿人、衝撃でした(笑)。
名古屋のライブ、また行きますね!
今年も宜しくお願いいたします。
投稿: D35 | 2025年1月 3日 (金) 09:34
senriyanさん、明けましておめでとうございます。かなり個人的な心情吐露の記事だったのに、大きな包容力・親和力あるコメントを頂いてホント嬉しいです。
senriyan さんがいみじくも「ジャズ初
心」と表現したその言葉…自分ではそれと意識してなかったのですが、今回、あれこれ記事を書きながら、このレコードを何度か聴き直してみて、そうする内に…モンクのピアノ音が全く
素直に自分の心に沁みてくる感じがあって…改めて「初心…原点…」を意識したわけです。
そんな具合に僕の場合はモンクだった
わけですが、どなたにもジャズ聴き原点みたいなものがあると思います。
senriyanさん…ジャズ聴きはいいものですね(笑) まだまだ聴きますよ。
投稿: bassclef | 2025年1月 2日 (木) 17:24
bassclefさん明けましておめでとうございます。恒例の投稿、何かジャズ初心の頃に戻ったようなそんな感慨を漂わせた内容こちらもその頃を思い出し楽しまさせて頂きました。ありがとうございます。
私も同じ年頃でジャズを聴き始めたのですが、そういえば今頃親戚のお年玉でレコードを買いました。しかし、bassclefさん、モンク「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」から挫折、孤独、哀愁、そして、優しさ、希望を感じとった。これは、もちろん、何度も何度も聴いてその感じがじわじわくるという体験も含めて実に素晴らしいことだと感じ入りました。
私も、そうした体験があったことをふと思い出した次第です。
さらには、青年期のbassclefさんが、ジャズ喫茶「グロッタ」の片づけをしている姿が、壁に貼られたモンクのピンアップとともに浮かんできました。
私も日本版「ソロ・オン・ヴォーグ」を聴いております。
1954年「パリ協定」が行われた年の録音。モンクを最初に評価したのはフランス人だったそんな話しを聞いたことがありますが。それはやはりこの作品があるからでしょうか。
やはりジャズ聴きはいいですね。「モンクランズディープ」bassclefさんもモンクの世界に深く深く潜航したということになるのかなと。
「おい君、人生ってそんな悪いもんじゃないよ」1972年東宝盤ジヤケットのモンクはまさにそう語りかけているように思います。
bassclefさん、よいお年しをお迎え下さいませ。
投稿: senriyan | 2025年1月 2日 (木) 10:49