<ジャズ雑感 第23回>エリック・ドルフィーという人。
僕の好きなドルフィー~
「カッ・カッ・ッカ・ッカ・カッ・カカ・ッカ・ッカ」
いきなりロイ・へインズの甲高いスネアのリム・ショット打音で始まるこの曲。
そう・・・ドルフィーのG.W.である。ドルフィーとハバードのテーマが終わると、すぐにドルフィーのアルトが飛び出してくる。
う~ん・・・気持ちいい!(笑)
いやあ・・・今日は久しぶりにドルフィーをたっぷりと聴いた。そういえば、しばらくドルフィーを聴いてなかったのだ。
ちょっと前に、4438milesさんのブログ「Fのブルース」でオリバー・ネルソンの「ブルースの真実」が記事になり、そこでドルフィーの話題になった。 その記事を読んでいるうちに・・・俄かに、ドルフィーが聴きたくなってきたのだ(笑)
朝からどんなのを聴いたかというと・・・
「惑星」(outward bound)~A面(G.W.,on green dolphin street,les)
B面(245,glad to be unhappy,miss toni)
「アウト・ゼアー」~B面(eclipse, 17west, sketch of Melba, feathers)
「ファイブ・スポットvol.1」~A面(fire waltz, bee vamp)
B面(the prophet)
「ヒア&ゼアー」~A面(status seeking, god bless the child)
「メモリアル・アルバム」~A面(number eight)
「ダッシュ・ワン」~A面(G.W., 245) B面(bee vamp, serene)
こんなにもたくさんのドルフィーの音を浴び続けると・・・さすがにちょっと疲れる(笑) でもまあ心地よい疲れというか・・・やっぱりジャズの一番、濃いところを、しっかりと身体に沁み込ませたような気分でもある。
エリック・ドルフィー・・・もちろん、僕もドルフィーが嫌いではない。中3の時からジャズを聴き始め、モンクやミンガスの次に好きになったのが、ドルフィーだったように記憶している。
最初にドルフィーを聴いたのは・・・高1の時に買ったミンガスの「ミンガス・プレゼンツ・ミンガス」だったはずだ。このレコードは素晴らしかった。ミンガス、ドルフィー、テッド・カーソン、ダニー・リッチモンドという4人のバンド全体に凄い気合が入っていて、ミンガスによって自在にコントロールされたバンドのサウンドには、強力でありながら柔軟~というジャズの素晴らしいダイナミズムが溢れていた。このレコードは本当に何度も聴いた。そしてドルフィーという人を好きになった。
《写真は、CBSソニー盤:SOPC-57001》
この「プレゼンツ」~今、聴くと・・・やはりこの「プレゼンツ」はミンガスのアルバムであり、演出家(兼役者)としてのミンガスが「こんな風に演出したい」という場面に、ドルフィーという巧い役者が「演出家の要求以上に素晴らしい演技をした」~そんな印象も受ける。(このレコードについては、ミンガス絡みでいつかまた記事にしたい)
《写真は「惑星」(outward bound)と「アウト・ゼアー」をカップリングした2LP(PR-24008)milestoneのtwofersシリーズ》
記事の冒頭に書いたように、ロイ・へインズの「カッ・カッ・ッカ・ッカ・カッ・カカ・ッカ・ッカ」で始まる、この「惑星」というLP~ドルフィーのプレイはもちろんのこと、他にもいろいろと聴きどころがある。
一つは、フレディ・ハバードである。この頃の迷いのないハバードのフレーズ、そして何よりあの鋭いトーン・・・これを聴くだけで、実に気持ちいい(笑)
思うに・・・ハバードには、こういう曲というかフォーム~適度にモード的とでも言おうか・・・サウンドとしては、ちょっと前衛的で、しかし熱いスピリットも充分にある(出したい)感じ~そんなフォームが、最も似合っているような気がする。
ハバードのフレーズは、古いスタンダードをオーソドクスなコード(和音)で演るハードバップというスタイルでは、ちょっと浮いてしまうかもしれないし、逆に得意のモード手法を洗練しすぎてしまうと、吹き方がパターン化してつまらなくなってしまうような部分があるかと思う。
そしてもう一つ、ジョージ・タッカー・・・このベース弾きがまた尋常ではない。
この強靭な音色! 以前に記事にしたヘンリー・グライムスと似ているタイプだと思うが、とにかく一音一音が凄くアタックの強い音だ。これは・・・指をしっかりと弦に引っ掛けて相当に強い力で引っ張った音色だと思う。
その「ブチッ・バチッ!」という音色が、これまた快感である。但し・・・好みに合う・合わない、ということもあるかと思う。
なにしろ、タッカーのベースときたら、最初から最後まで怒ったような音をしているのだから(笑)
このtwofersなるシリーズ・・・初期のものには、センターラベルに<van gelder>刻印があるようだ。
これもちょっと意外だったのだが、ジャケットのクレジットを見ると・・・ちゃんとremastering:Rudy Van Gelderと書いてあるじゃないか。そんな事情を知ってから聴くと・・・音質の方も案外にしっかりとしているように聞こえてくる(笑)
このtwofersシリーズの2枚組みは当時から安い価格で出回っていたし、たぶん今でも人気薄だろうと思う。見かけたら、センター・ラベルのvan gelder刻印の有無をチェックするのも楽しいかもしれない。音質は、twofers以前の「黄緑ラベル盤」よりは、いいだろう。
「ダッシュ・ワン」A面(G.W., 245)とB面(bee vamp, serene)~
「ダッシュ・ワン」は、1982年に発売された未発表テイク集だ。これ以上できない、と思えるほど最悪なジャケットだが(笑)《一番下の写真:右側》
内容は悪くない。なんと言っても、1961年7月「ファイブ・スポット」での別テイク(bee vamp)が素晴らしい。
そして「惑星」(ourward bound)からの別テイク(G.W.と245)もうれしい。マスターテープの管理状態がよかったのか、音質もかなりいいように思う。
G.W.でのロイ・へインズのドラムのイントロ~このパターンが、本テイクとは微妙に違うところがおもしろい。やはり、別テイクの方が、やや切れが悪く、ちょっと判りにくいリズムパターンになっているような気がする。
「アウト・ゼアー」~B面(eclipse, 17west, sketch of Melba, feathers)
この「アウト・ゼアー」・・・昔から、僕にはあまりおもしろくない。というのも、ジョージ・デュブビエのベースにロン・カーターのチェロが加わっており、端(はな)からクラシックの現代音楽風なサウンドを意図したようで、バンド全体のサウンドがこじんまりとしてしまっているからだ。「惑星」に溢れているようなジャズ的なビート感の盛り上がり・・・そんなものが僕にはあまり感じられない。そして、意図したであろう、この現代音楽風なサウンドとしては・・・チェロの音程があまりよくないのも、ちょっと白ける。
B面3曲目のsketch of Melba~このsketch of Melbaは、ランディ・ウエストン絡みで好きな曲だったので、このメロディが流れてきた時に「あれっ?この曲・・・」てな驚きもあり、ドルフィーがこの曲を演っていたということがちょっとうれしかった。
さて、ミンガスの「プレゼンツ」の圧倒的な影響もあり、しばらくの間、僕はミンガス絡みでのドルフィーだけ聴いていたのだが、高2の時だったか、FMのジャズ番組「アスペクト・イン・ジャズ」のドルフィ特集で聴いたfire waltz~これには、本当にぶっ飛んでしまった。
ドルフィー、ブッカー・リトル、マル・ウオルドロン、リチャード・デイビス、エド・ブラックエル。この5人が生み出す全ての音に気迫が満ち満ちている。
fire waltzとはよく名付けたもので・・・この5人、本当に燃えているのだ!しばらくは、テープに録ったその演奏を聴くたびに「これこそがジャズだあ!」と興奮していた。調べてみると、そのfire waltzは「ファイブ・スポット第1集」に収録されており、この日の演奏は、どうやらいろんなLPに分かれて収録されていることも判ってきた。そんな訳で、その後「第2集」「メモリアル・アルバム」「here & there」と、順番に集めたりもした。
ただ、僕の「ドルフィー好き」は、ちょっとばかり片寄っていて、僕はもうひたすら彼のアルトサックスが好きなのである。とにもかくにも、ドルフィーがアルトを吹く時の圧倒的な音圧感やドライブ感に惹かれるのだ。
吹いている楽器がぶっ壊れてしまうんじゃないかと思わせるほどにビリビリと鳴りまくる、あのアルトサックスの音色。そのいかにも大きな音でもって、うねるように、巻き込むように繰り出してくるドライブ感に溢れるフレーズ。
そういえば、ドルフィーがノッてくると、必ず繰り出してくるパターンがある。それは・・・「パッ・パラ・パーラ・パーラ」というデコボコした起伏を持つフレーズで、ドルフィーは、この1小節4拍のフレーズを、それはもう重い音色でもって、何かが弾け飛ぶような感じで、吹き倒すのである(笑)
そしてこのフレーズが出ると・・・その瞬間、ビートが一気に「解き放たれる」ような感じがするのだ。バンド全体の感じているビート感も一気に爆発するとでも言うのか。そうだ・・・まるで、砲丸投げのあの重い鉄球をブンブン振り回しているみたいじゃないか。それも、砲丸の軌道や速度を自在に変化させながら。そうしてそれが、ムチャクチャ気持ちいいのである(笑)
だから、ファイブ・スポットのライブでは、fire waltz, the prophet, number eight, status seeking をよく聴く。同じファイブ・スポットでの演奏であっても、like someone in love, booker's waltzなどのフルートにはそれほど惹かれなかった。
もうひとつのドルフィーの楽器~彼の吹くバス・クラは、アルトほど好きではないが、あのバスクラの音色には独特の暗さがあって、もちろん悪くない。
here & there に収録されているgod bless the child は、ドルフィー独りだけのバス・クラによるソロ演奏だが、なんというか・・・地底の底から緩い地熱がじわじわと伝わってくるような・・・そんな独特の気配を感じさせてくれる。5分ほどの小品(他のライブがほとんど10分以上なので:笑)だが、なんとも愛着の湧く1曲である。
それにしても、ドルフィーという人。聴けば聴くほど、ただ一言・・・「凄い」
まったく・・・とんでもないアルト吹きがいるものだ。
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