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2007年8月23日 (木)

<やったあレコ 第10回>Tenor Saxes(Norgran:MGN-1034)

<1955年に発売されたちょっといいオムニバス盤>

Dscn1733ノーグランというレーベルに、Tenor Saxesというオムニバス盤がある。いろんなミュージシャンの演奏を集めたオムニバス盤というものは、一般的には、個々のミュージシャンのオリジナルアルバムより人気がないのかもしれない。しかし・・・このTenor Saxesは例外らしく、けっこうな人気があるのだ。ジャケットがストーン・マーチンであることは、もちろん大きな魅力なのだが、僕の知る限り、このレコードの音源的な価値は、まずは、スタン・ゲッツの2曲(後述)それから・・・ベン・ウエブスターのtenderly にあるように思う。
ウエブスターの「テンダリー」・・・その演奏と音の凄さに魅了された方は数知れずか(笑)
実際、僕自身も、Yoさん手持ちのこのTenor Saxesを何度か聴かせてもらって・・・tenderlyに心惹かれた一人である(笑)

そのtenderly が入ったオリジナルLP~The Consummate Artistry(norgran)・・・この貴重な盤を初めて目にしたのは、2年ほど前、2005年の春「第1回白馬 杜の会」の時だった。夜も更けてきた地下のJBLルーム・・・スピーカー間に置かれたイーゼルに、あるノーグラン盤が掲げられた。明かりを落とし気味にした部屋に、この渋い色調の~くすんだ感じのセピア・イエローとでもいうのか~ベン・ウエブスターの姿が、ぼお~っと浮かび上がった。
「おお・・・」静かなどよめき。音が出る前から・・・もの凄い存在感だ。
そして・・・思い入れたっぷりのtenderlyが流れ始めた。ジャケットも凄いが演奏も凄い。
僕はそれまであまりウエブスターを聴き込んではいなかったので、ウエブスターの強烈なヴィブラートとサブトーンのリアリティに驚いてしまった。「う~ん・・・」と唸った拍子にふと振り向くと、すぐ後ろの席にリキさんがいた。「こだわりの杜」(ニーノニーノさんのBBS)での書き込みから「クラシック好きのリキさん」・・・というイメージが強かったこともあり、僕はリキさんになんとはなしにこう言った。
「こういうの・・・苦手でしょう」
するとリキさん「いえ、好きですよ。このウエブスター・・・僕のですから(笑)」

Dscn1742 僕はそのレコードの神秘的な佇まいが忘れられなくなり・・・しばらくしてから、ウエブスターのEP(tenderlyを含む4曲入り)を入手した。もちろん・・・ジャケットはThe Consummate Artistryと同じである(笑)
さて・・・「絵」の方はEP盤を眺めてガマンするとしても(笑)音の方は、やはりあの鮮烈なtenderlyを聴きたい・・・という想いもあり、僕は少し前に、前述のオムニバス盤~Tenor Saxesも入手してしまった。
「う~ん、やっぱりいい音だぞ・・・」などとうれしく聴きこんでいたその頃に、ちょうどYoさん宅に集まる機会ができた。Yoさんがkonkenさんに依頼したラックの増設台の取り付けの後に、どうせならレコード三昧をしようよ~という計画で、今回は、リキさん、konkenさん、recooyajiさん、bassclefの4人で、早朝からおじゃますることになったのだ。

こんな風に皆で集まる時は、いつも「何を持っていこうかな・・・」と楽しく悩むのだが、今回は、僕の方は大体の線は決まっていた。
ClefやNorgranの米オリジナル盤とUK Columbia盤(スタンパーはClef、Norgranと同じ)の聴きくらべである。ネタは、Flip Phillips のClef盤とUK盤と(こちらについてはまたの機会に!) Alto Saxes のNorgran盤とUK盤を用意した。
それからもちろん・・・ウエブスターの「テンダリー」である。
この集まりの少し前から僕が聴いていたTenor Saxes・・・どのトラックもよかったが、やはり・・・ウエブスターのtenderlyが、演奏はもちろんその音の良さで、ひときわ光っていた。自分の機械でEP盤のtenderlyと比べてみたりもしたが、やはりここは、盤による微妙な違いまでしっかりと出してくれるYoさんの装置で、そのオムニバス盤とEP盤・・・そしてできれば、Consummate Artistryも交えて聴いてみたいものだと考えていた。
だから事前にリキさんに「ウエブスターのあれ、持ってきて」とお願いしようとも思ったのだが、つい忘れてしまっていたのだ。

さて・・・Yoさん宅でいろんなレコードを聴いたあと、ウエブスターを聴いてみることになった。僕はEP盤、YoさんはTenor Saxes を出した。「Consummate があるといいんだけど・・・」と何気なく僕が言うと・・・Yoさん「あるよ」と一言。奥の部屋からすす~っと、あのセピア・イエローの盤を取り出してきた。ああ、なんとしたことか・・・Yoさんもいつのまにか、この貴重なノーグラン盤を入手していたのだ。いつものことだが・・・Yoさんは、いいレコードには本当に素早い(笑) 

そんなわけで・・・tenderlyの3つの音源を、Yoさんの装置で聴き比べできることになった。オリジナルLPとオムニバスLPとEP盤というわけだ。

EP盤から聴いてみることにした。
Consummate~(norgran)EP4曲入り~EPN-16
一聴して、音にあまり元気がない。どうやら・・・カッティングレベルもだいぶ低いようだ。そのためかどうか・・・テナーの音も力感に乏しくて、12インチには感じられた「瑞々しさ」も、抜け落ちてしまったようだ。リキさんが一言「あまり魅力のない音ですね」  実は僕も自宅で聴いていてそれほどいいとは思ってなかったのだが、ちょっとは45回転の威力に期待していただけに、少々残念であった。 まあいいか・・・EP盤はジャケットさえあれば(笑)

Ben Webster/The Consummate Artistry(norgran)~
スロウなテンポで、しっとりとしたピアノのイントロが流れてくる。このピアノ、意外にもオスカー・ピーターソンである。「意外にも」と感じたのは・・・ピーターソンにはあまり「しっとり感」ないのかな、と思っていたからだ(笑) その安定したスロウなテンポに乗って、ウエブスターが最初の4音を吹くと・・・もうそこはウエブスターの世界である(笑)
程よい粘り具合で(ウエブスターとしてはややあっさり加減の)この曲の優雅な、そしてちょっと澄ましたような感じを、うまく描き出しているのだ。テーマを2回繰り返すだけの短い演奏だが、このtenderlyは傑作だと思う。
ウエブスターのテナーがくっきりした感じでいい音だ。さて、このtenderly収録のオリジナルLPは、おそらくこのCunsummate~のはずで、だから、最も鮮度感があるのが、このLPと考えるのが自然だと思う。しかし・・・そうでもないようなのだ(笑)

Tenor Saxes(norgran)~出足のピアノからして違う!ピアノの音自体がさらに瑞々しいのだ。指を残したようなタッチ感もよく出ている。そして、ウエブスターのテナーも、輪郭のよりはっきりしたキリッとした音色だ。
サブトーンの響きが広がりすぎてないのも、僕には好ましい音色に聞こえる。本当にこの音は素晴らしい! 
「切れのよさ」という点で、オリジナルLP(Consummate)より勝っているように思う。ひょっとして・・・このオムニバス盤の方が発売が早かったのだろうか?

さて、今回はThe Consummate Artistryからもう1曲聴かせていただくことにした。
recooyajiさんと僕がリクエストした1曲~Danny Boyだ。僕はこの演奏、まだ聴いたことがない。さっそくかけてもらう・・・「あれ?」・・・テナーの音色がtenderlyとはちょっと違うぞ。
tenderlyのよりテナーの音の輪郭が拡がった感じがあり、その分、だいぶソフトな音色になっているようだ。この「ゆるさ感」の方に、よりベン・ウエブスターらしさを感じる方もいるかもしれない。
しかし、僕にはやはりさきほどのtederlyのテナー音色の方がうんと魅力的だ。このソフトな感じは・・・どうやらテナーにエコーをかけてあるような感じだ。あるいは録音時のセッティング~例えばテナーのベルとマイクの距離、角度などが違うためか・・・とにかく同じLPの収録曲なのに、なぜこんなに違うのか?
そんな疑問から裏ジャケットを仔細に見てみると、やはりtenderly は、1953年12月のセッション、danny boyは1953年4月のセッションだったのだ。ひょっとしたら、録音技師が変わったためかもしれないが、同じLPを創るための吹き込みなのに、曲によってこれだけ音色の様相が違ってしまうとは・・・。
tenderlyセッションの音が素晴らしいだけに、ちょっと残念ではある。
それにしても、こうしたマイクのセッティングやらミキシングの具合によって変わってくるであろう微妙な音色の違い・・・そんなものをより鮮明に浮き彫りにしてしまうYoさんの装置もとことん怖ろしい(笑)Dscn1734_2

さて、このTenor Saxes(norgran)には、7人のテナー吹きから一人2曲づつセレクトした全14曲が収録されている。
僕が気に入っているのは、これらのセレクト曲が全てスタンダードソングということだ。もちろんベン・ウエブスターだけが目玉ではない。
フリップ・フィリップスの2曲~
I didn't know what time it was,  
take the A train 
スタン・ゲッツの2曲~1954年1月録音。
I hadn't anyone 'till you(A面1曲目),
with the wind and the rain in you hair(B面7曲目)もなかなか素晴らしい。
フィリップスについては、そのうちに他の盤も併せて書いてみたいので、ここではゲッツの2曲について少し。

この2曲は、録音当時はゲッツのオリジナルアルバムには収録されなかったので、長いこと、Tenor Saxesでしか聴けなかったようだ。僕の知る限り、The VERVE COLLECTOR'S ITEM(日本ポリドール)という4枚組BOXで、ようやく陽の目を見たと思う。このThe VERVE COLLECTOR'S ITEMに米の元ネタがあったのか・・・それとも日本オリジナルかどうかは判らない。ちなみに、この2曲と同じセッション(1954年1月)でもう2曲 (nobody but else but me とdown by the sycamore tree) が録音されているのだが、こちらはCool Sounds(MGV-8200) というアルバムに収録されている。美女が鉢植えから溢れ出た水を浴びているcoolなジャケットのやつである。(写真は残念ながら、紙ジャケのCDです)

Dscn1752 このセッションの4曲を、僕はたまたまCDで聴いていた。だいぶ前に入手したStan Getz PlaysのCD(独polygram)に、これら4曲がボーナス・トラックとして付いていたのだ。ピアノがジミー・ロウルズ、ドラムがマックス・ローチ、ベースがボブ・ウイットロックとなっているので、たぶんゲッツが西海岸に来た時に録音したのだろう。
この4曲はどれもいい。この頃のゲッツのテナーは・・・肌触りのいいシルクのような音色をしていて、僕にはすごく魅力的だ。それから、短いピアノソロを取るロウルズのピアノもいい。僕はなぜだかロウルズのピアノが好きなのだ。彼のピアノに絶妙なしなやかさを感じるからかもしれない。そしてその「しなやかさ」は、ゲッツのシルキーな音色にすごく合っているように思う。ドラムスの録音はややオフ気味だが、ローチはピシッと背筋が伸びたような、クリアなシンバル・レガートを叩いている。この時代としては、かなり新しい感じのビート感だろう。そういえば、1954~1955年くらいの前ハードバップ時代のレコードを聴いて「あれっ? シンバルだけ、やけにモダンだな?」と思ってクレジットをみると・・・ローチだった!ということが何度かある。あのシンバルの切れのよさはさすがだ。ただ、ローチのきっちりとしたシンバル・レガートは、ゲッツのバップ的ではない(細かく分解したようなフレーズではない)唄うようなフレージングには、あまり合わないような気もする。そういえば、スタン・ゲッツとマックス・ローチの組み合わせというのは・・・案外、少ないように思う。

さて・・・Tenor Saxesに収録の2曲・・・これもなかなかいい音だと僕は思う。さきほど「肌触りのいい」と書いたが、ゲッツ好きには堪らないあの音色・・・冷たいようでほんのり温かい~ソフトでありながら芯のしっかりした~か細いようで実は太い鳴り・・・そんな不思議なゲッツの音色がきっちりと大きめに中央から飛び出てくる。CD収録の2曲もそれほど悪くなかったが、やはりゲッツのテナーの音色の生々しさ、それからローチのシンバルの鮮度感など、ノーグラン盤の方が素晴らしいようだ。考えてみれば、1954年録音のネタを1955年に封じ込めたヴィニールの方に、より鮮度感があるのは当たり前の話しかもしれない(笑)
こうなってくると・・・僕などこの4曲の残り2曲~ゲッツの Cool Sounds(MGV-8200)のオリジナル盤も聴きたくなってきてしまう(笑)こちらの1957年発売となっている。こちらの2曲は、ノーグラン盤の2曲と比べてどうなのか・・全く同質のものなのか・・・音源は同じであっても、2年の発売年の差が多少なりとも音質に影響しているかもしれない? そんなことをつらつらと考えてしまう僕である。Dscn1735_2
ああ・・・ジャズには全く・・・興味が尽きない(笑)

《写真はAlto Saxes。ちょっとゲッツの10インチ盤 Stan Getz Playsに似ているかな》

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