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2006年12月21日 (木)

<思いレコ 第13回>Miles Davis/Someday My Prince Will Come(columbia)

「いつか王子様が」~ウイントン・ケリー、3拍子の切れ味。

Dscn1526_3 ふとした時にアタマの中に聞こえてくる「音」というものがある。いつだったか、この<夢レコ>でも書いたように、僕の場合はマイルスのものにそんな「音」が多い。マイルスのLPはどれも好きで何度も聴いたものだが、とりわけ好きなのが、このSomeday My Prince Will Comeだ。実際・・・僕はこの「Someday~」を、いったい何回くらい聴いてきたのだろうか。何度、聴いてもそのたびに「う~ん・・・いいなあ」という想いでいっぱいになってしまい、A面が終わると、1曲目のSomeday~だけもう1回聴いたりするのだった(笑)
そんな風だから、どうやら細胞のどこかにこの「音」が染み込んでいるらしく、ふとした時にアタマの中にあのベースの音~
bom,bom,bom/bom,bom,bom/bom,bom,bom/bom,bom,bom~が聞こえたりする。そうなると・・・もういけない(笑)その後のケリーのブロックコードやら、マイルスがテーマを吹く時のミュートの響き具合やらが、どんどんとアタマの中にあの曲が流れてきてしまうのだ。

bom,bom,bom/bom,bom,bom/bom,bom,bom/bom,bom,bom・・・最初、そんな風にチェンバースがウッドベースの1弦のF(ファ)の音だけを弾き始める。これはウッドベースではけっこう高い方の音程で、ギターのフレットで言うと3弦の10フレットの位置になる。この「ボン・ボン・ボン」(1小節に3回)を4小節(12回)続けると・・・ケリーのピアノが入ってくる。モダンな響きの感じのするコード(和音)だけでまず16小節。次にケリーは、右手のシングルトーンで軽くアドリブを入れてくる。アドリブといっても、まだ曲のテーマが出る前のイントロ部分なので、軽くいこうぜ、という予告編くらいの感じだ。しかし・・・この予告編でのケリーはいい。3拍子の「ノリ」が素晴らしいのだ!
チェンバースがきっちりと(どちらかというとやや無表情なくらい)3拍づつ刻むF音にのっかって、ケリーは、キレのいい右手で飛び跳ねる。アイディアに満ちたフレーズを、全く力まずに、軽く、そしてしなやかに弾き込んでいる。ワルツというリズムに独特の躍動感みたいなもの~まさに鮎が水面に飛び跳ねているような~そんな感じが、うまく現れているのだ。ケリーの3拍子は全く素晴らしい!
そんなわくわくさせるようなケリーのアドリブ予告編が16小節続くのだが・・・まだ「いつか王子さまが」のメロディは出てこない。これっぽちも出てこない。おそらく「出してはいけなかった」のだろう。この辺り・・・全てはマイルスの指示のはずだ。「絶対に主メロディは弾くなよ」と、あの声で言ったに違いない(笑) そう確信できるのは、やはりさきほどの「チェンバースのF音連打」なのである。チェンバースは、出足のベースだけの部分から1弦Fの音を続けている。マイルスが入ってくるまで、本当に同じ音だけを延々と弾き続けているのだ。試みにちょっと小節数をカウントしてみた。1小節に3回のF音を弾く計算だ。
ベースのみ部分4小節(12回)
ケリー/和音部分16小節(48回)
ケリー/アドリブ部分16小節(48回)・・・都合、108回のF音のみ連打である。ああ、そういえば、さっきチェンバースがF音を弾き続けるのは「マイルスが入るまで」と書いたが、実はもうちょっとオマケがあった。マイルスがテーマを吹き始めての8小節は・・・やはりF音を続けているのだ。だからそれも足すと・・・108回+24回=132回だ。ただでさえベースのランニング音をメロディックに変化させることを好むチェンバースが、自分のチョイスとしてこれだけ同じノート(音程)を続けられるだろうか? やはり・・・マイルスの指示だと思う。それにしてもいくらマイルスの指示でも、チェンバースもいい加減、厭きただろうなあ・・・(笑)
でも、ここでぐぐっとガマンするから・・・いよいよ入ってくる「いつか王子様が」のメロディが生きてくるのだと思う。こんな具合にさんざんじらしておいて・・・いよいよマイルスがテーマのメロディをミュートで吹き始める。
そりゃあ、マイルスは気持ちいいだろうなあ・・・そんなマイルスが小憎らしいけれど・・・聴いている方も、本当に気持ちよくなってしまうのだ。そういえば・・・小さい頃、TVの相撲中継を親父と見ていたのだが、千秋楽の大一番だというのに、なかなか始まらない。仕切り前の儀式めいた段取りがやけに長いので、僕が「早くやればいいのに」と言うと、親父は「バカッ!これがいいんだ!」と力むのであった。あれと同じ理屈かもしれない(笑)

マイルスのこんなやり方は、たぶん当時1960年では珍しかったと思うのだが、今でいう「ペダル」(曲が進行してコードが変わっていっても低音部だけは同じ音程を維持していくような手法)とよく似ている。ただ「ペダル」というのは、たいていは低い音域でやるのに、この曲では高域F連打なので、言わば「逆ペダル」だ。
ちなみに、このチェンバースのF音連打のパターンは、ソロとソロの間つなぐブリッジの部分でも、それから曲のエンディングの部分でも出てくる。それらが実に効果的なのだ。そしてそれに乗っかるケリーのアドリブがまたかっこいい。それにしても・・・ディズニー映画のかわいらしいワルツ曲に、こんな演出を加えて、しかもそれがムチャクチャ効果的になっている~そんなマイルスの構成力というのは、本当に素晴らしい。Dscn1570_1

《columbia:PC8456》1977年頃の米再発。センターラベルは・・・うんと安っぽいので、あまりお見せしたくない(笑) 60年代に入った頃のcolumbiaのステレオ録音は、ベースやピアノ、そして管の音も、意外に厚めの音で、しっとりとした味わいがある。好きなステレオ録音だ。6つ目のステレオ盤(CS8456)が欲しいなあ(笑)~先日、このレコードの1961年のオリジナル盤で「いつか王子様が」を聴き比べる機会があった。想像していたとおり・・・モノラル盤(recooyajiさん)、ステレオ盤(konkenさん)ともに、やはり素晴らしい音だった。「モノラル」での各楽器の厚みや豊かさも凄い。ステレオだと、もう少し全体に軽みがでてきて優しい味わいになってくる。いつもおとなしめにシンバルを鳴らすジミー・コブのシンバルのライトな味わいには「ステレオ」の方が似合うように感じた。もともと僕は、ベースやドラムスがちょっと離れて聞こえた方が好みなので~もちろんリアルステレオでそれぞれの楽器の音圧(実体感みたいなものという意味合い)がしっかりと録られていることが前提だが~「ステレオ録音」の方がより好みだった。そういえば、ニイノニーノの新納さんは、以前からHPでも「VictorやColumbiaなど大手はステレオ録音の方が優れている」と書いておられたが、僕なども、ヘンリー・マンシーニのあのゴージャスなサウンド(「ハタリ」や「ピンク・パンサーなど)をステレオ盤で味わうと、その意見には大きく頷いてしまうのである。
【追記】NOT(ブログ~These Music Suit Me Well)さんが、さっそくこのSomeday My Prince Will Comeの1961年オリジナルの6つ目:ステレオ盤/モノラル盤のセンターラベルの詳しい記事をアップしてくれました。う~ん・・・ラベルの世界も深い(笑)

ジャケット話しでひとつ。カヴァーの女性はフランさんという当時のマイルスの奥さんだったとのことだが、ステレオ盤とモノラル盤には、些細な(いや、しかしけっこう大きなとも言える)違いがある。ジャケットの一番下の方~フランさんの胸元の「青い布切れ」の見える分量がだいぶん違うのである。ステレオ盤だとほんの少し。モノラル盤だと1cm以上は見える。この辺りの「ステレオ盤/モノラル盤についてのジャケットの謎」については、拙ブログにリンクしてあるmono-monoさんの記事に詳しい。おもしろいですよ。

さて・・・もうひとつ、ケリーのピアノのことを。
マイルスがテーマの出足、8小節を吹いている時~チェンバースはまだ高音F音を続けているのだが~この時、どうにも印象的なケリーのバッキングがある。ケリーがとても切れ味の鋭いコンピング(バッキングの時、主にコード(和音)を弾くこと・・・かな?)を、ワルツの3拍子の普通には入れないようなどうにも微妙な位置に、すごく短く「スッ!」「スッ!」と・・・そう、まるで豆腐に包丁を沈めるような感じで、差し入れてくるのだ。この曲を何度も聴いてきたが、特に分析的に聴いたわけでもなく、だから僕には、なかなかその「スッ!」のリズム~タイミングが判らなかった。ただ「かっこいい!」と感じていたのだ(笑)
3拍子でのアクセントの付け方というものに絶対の決まりがあるわけではないと思うが、例えばドラムスのハイハットについて言えば・・・1956年頃からマックス・ローチがやったのは・・・少なくともテーマの部分のバッキングでは「1、2、3」の2拍目と3拍目にハイ・ハットを踏むやり方だったと思う。あるいは2拍目だけにハイハットという場合もあったかもしれない。1、2、3とノル場合、普通に考えても、これなら自然にノレる。だから・・・その後も、このローチ方式がたぶん一般的になっていったように思う。
余談だが、初期の3拍子ジャズを聴いたなかで、どうにも違和感を覚えたプレイがあった。もちろんローチのではなく、誰のレコードだったか忘れてしまったが、そのドラマーは、3拍子の曲にも関わらず、全く普通に4拍子の場合と同じように、ウラ打ち(2拍目と4拍目にハイハットを踏むこと)をしていたのである。たしか最後までそのやり方で踏み続けていたので、確信犯だったとは思う(笑)
そういう踏み方をすると・・・どういう風に聞こえるのか?文字ではなかなか説明しづらいのだが・・・3拍子が2小節で「1、2、3/4、5、6」と6拍分のカウントとなる。この6拍をひとつの単位として捉えた場合、ハイハットの2拍・4拍打ちをそのまま機械的にあてはめれば「1、、3/、5、」の最初の小節の2拍目(2番)と、2小節目の1拍目(4番)と3拍目(6番)の位置にアクセントがくることになる。口で言うと・・・「ウ・チャ・ウ/チャ・ン・チャ」(チャがアクセント部分)てな感じか。3拍子を2小節単位でくくれば、こういうアクセントの入れ方も全くOKなわけで、ちょっと聴くのに慣れさえすれば・・・自然なノリに聴けると思う。ただ、僕が聞いたレコードでのその「3拍子ウラ打ち死守」違和感を覚えたのは・・・聴いていて、どうにも「ノッて」なかったからである。おそろしく不自然な感じがした。
おおまかに言えばアクセントの位置自体は、この2、4、6の位置でも合っているとは言えるのだが、それは・・・6拍単位のウラ打ちでも数字上の辻褄は合う~というだけのことのように思う。音楽は「辻褄合わせ」だけでは面白くないのだ。

そうしてこの間、なにげなく「いつか王子様が」を聴いていたら・・・「ぽっ」とアタマの中に電気が点いた(笑)  そうだっ!ケリーは、正にこの6拍単位での2、4、6の位置にあの「スッ!」「スッ!」を入れていたのである。ただし・・・先ほど「面白くない例」として挙げた機械的な6拍のウラ打ちではなく・・・「スッ!」が、実に微妙なタイミングで差し込まれているのだ。
3拍子でノッている以上、やはり1、2、3、1、2、3というカウントの中での生き生きしたノリが必要なのだと思う。その「ノリ」とは・・・微妙なシンコペーションであると考えている。この6拍ウラ打ちで3拍子特有の揺れるような感じを出すには・・・2小節目の1拍目・3拍目(つまり4番目と6番目)の位置に、わずかに「突っ込むような感じ」が必要なように思う。そうして、ケリーは・・・このサジ加減が実に絶妙で、一瞬、大丈夫かな?と感じてしまうほど突っ込み具合が「切れて」いるのだ。素晴らしいセンスだと思う。
この辺りのことは、本当に微妙なタイミングのことなので、とても文字では言い表せない。興味がある方は・・・ぜひ、このマイルスの「いつか王子様が」を、マイルスがテーマを吹き始めた際のケリーのバッキングを、ぜひ聴いてみてください。

みなさんもたぶん大好きであろうこの曲~マイルスが練りに練って構成したであろう「いつか王子様が」。
マイルス、モブレイ、コルトレーンの素晴らしいソロが聴き所であることはもちろんだが・・・ケリーならではのムチャクチャに鋭いセンスがあったからこそ、あのチャーミングなテーマを持つ3拍子が、本当に生き生きとしたものになったように思う。Dscn1569

さあ・・・マイルスがテーマを吹き終わった後に、再び始まるチェンバースのF音連打・・・そして再びケリーの見せ場。ケリーのピアノがぐうんと冴えてくる。このままいつまでも続けていけそうないいアドリブだ。
だがしかし・・・マイルスの鋭い構成力がそれを許さない。ケリーがシングルトーンを弾いている途中で、全体の音量を少し下げさせた後に、今度はクレシェンドをかけさせる~この辺り、チェンバースに向かって手のひらを上に向けて「上げろ」と指示しているマイルスが見えるようだ~チェンバースの音量が俄かに上がってくる。そのクレシェンドに反応したケリーがブロックコードのバッキングに戻してくる。ああ・・・これで終わるのだなあ・・・誰もがそう思ったそのとおりに・・・ケリーの終止感の薄い不思議な和音で「すう~っ」と、この曲は終わるのだ。見事なエンディング!
そうしてそのケリーの最後の音が伸び切ったその時「ッポン!」という音が聞こえる。あの「ポン!」の意味するものは・・・マイルスの会心の「OK!」のように、僕には思えてしまうのだ。
それにしても・・・あれはいったい何の音なんだろう?(笑)

【追記】 bsさん、貴HPの戯言日記にて当記事を話題のこと、ありがとうございます。リンクしてあるbsさんのHP(blue spirits)には、もうだいぶ前からこのマイルスのSomeday記事が載っております。僕の記憶の中では「恐るべき傑作」というようなbsさんのコメントが印象に残っていた。拙ブログをアップしてから再読しました(先に読むと影響されてしまいそうで:笑) マイルスの曲順に至るまで練りに練ったやり口を「悪魔の仕業」とまで激賞されております。全く異論ございません(笑) 

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