« 2005年11月13日 (日) | トップページ | 2005年12月 4日 (日) »

2005年11月17日 (木)

<思いレコ 第7回 トニー・ベネットとビル・エヴァンスとのデュオアルバム>

少し前に<思いレコ 第6回 ビル・エヴァンス>のところで~歌詞なんてただの言葉じゃないか~と書いた。「インスト」においては、楽器で表現する「音」というものが全てであり、だから、あるスタンダード曲のテーマを吹く(弾く)時、その曲の歌詞を思い浮かべながら・・・というようなことは不自然なことだ、ということを言いたかった。唄には歌詞が必要だが・・・インストには歌詞は必要ない。いかに、楽器を唄わせるか・・・それだけだ。
こんな僕だが、たまには、ヴォーカルのレコードも聴く。あの記事の最後の方にも書いたが、僕が「ヴォーカル」というものに目覚めたのは、エヴァンスとトニー・ベネットのデュオアルバムからだった。聴いていて「ああ・・・ヴォーカルというのもいいもんだなあ」と素直に思えたのだ。

エヴァンスとベネットのデュエットアルバムは、2枚ある。bennett__evans_001

The Tony Bennett Bill Evans Album(fantasy) ビクター 1975年


伴奏はエヴァンスのピアノだけ。全曲が、ベネットとエヴァンスのデュオだ。
この盤は・・・82年10月に入手している。当時、エヴァンスの音は何でも聴いておきたかったので、この「ヴォーカル」のファンタジー盤も入手したのだろう。たぶん、この時まで「ヴォーカル」のレコードを、ほとんど買ったことがなかった。ジャズをどんどん好きになってきていて、まだまだ聴きたい、いや、聴かねばならぬインスト盤が山ほどあったので、ヴォーカルものにまで手を拡げることは、とても無理だったのだ。

ここでひとつ告白すると・・・僕はエヴァンスを大好きではあるが・・・ソロピアノでのエヴァンスを、実はそれほど好きではない。ソロピアノの世界では、モンクやダラー・ブランド、ランディ・ウエストンの方が好みなのだ。モンクは、ソロピアノの場合は、最初から「タイム」を自由にしているかのようで、全編ルバート、というか自由自在にタイムを伸縮させているようだ。むちゃくちゃにタメて弾いたり・・・わりとキッチリとインタイムで弾いてみたり・・・だけども聴いていて、何の不自然さも感じないだ。 むしろ、コンボでのソロパートでの方が、モンク独特の「タイムの歪ませ方」が、自ずと限定されてしまう場面もあるようだ。
エヴァンスのソロピアノは・・・ルバート風なところとイン・タイムなところが・・・何かこう「構成」として成り立っているようで、聴いていて、ちょっとだけ窮屈なイメージがあるのだ。モンクのソロピアノからは、そんな窮屈な感じを受けない。エヴァンスは・・・だから、ソロピアノの場合でも、常に「タイム」を強く意識しているタイプのピアニストなのだと思う。
しかし・・・そのエヴァンスの「タイム意識」が、こういうヴォーカルアルバム(ピアノだけの伴奏)では、すごく「生きた」のだと思う。このデュオでのエヴァンスの伴奏の素晴らしいこと! どの曲も、エヴァンスの短いイントロ~テーマにベネットの唄~エヴァンスのソロピアノ~ベネットの唄~というパターンなのだが、後半、ベネットが「どこ」から入るか~くらいは、もちろん決めてあったとは思う。そして、エヴァンスという人は、そういう「適度な枠」がある方が、自分ひとりだけのソロ演奏よりも~展開がやや冗長になり「構成的」になりすぎる感じがある~かえって素晴らしく職人的な技を見せてくれるようだ。ルバート的に弾く場面とキッチリとタイム・キープをする場面。その辺りの調節は、ソロピアノゆえに柔軟にやりくりできるのだ。エヴァンス独特のタイム感(つっこむような)と独特なフレーズで・・・もう完全に自分のの世界を創ってしまう、エヴァンスのソロ。普通の唄伴での「つなぎ」という感じのソロではない。ここまで自己主張のあるジャズのアドリブを「唄伴」でやってしまうエヴァンスという人・・・素晴らしい!   
そうしてさらに唸るのは・・・これほど突出したソロピアノの地平から、今度は「唄伴」のピアノ弾きとして、そこから見事に、自然に、無理なく、「唄がスタートした時のテンポ」に戻してくることだ。ベネットの出だしのちょっと前には、見事にテンポを安定させる。運転の巧い人が、シフトダウンとアクセルワークを巧みに操って、とてもスムースに減速したような感じだ。だから・・・「ああ、ここで唄が入ってくるぞ」と思わせてくれるのだ。そして、やはりそこから、ベネットの唄が入ってくる。トニー・ベネットの声は、ややくすんだようなしわがれた声だ。ベネットというと、声を張り上げるようなイメージがあると思うが、このアルバムでは、そのような場面はほとんどない。ゆっくりとしたバラード風が多いのだが、この声で、歌詞の一言一言を、ていねいにかみしめるように、唄いこんでいく。唄の最後に、声が消え入る瞬間まで気持ちがこもっているような唄い方だ。
<young and foolish>
<some other time>
<we’ll be together again>

どの曲にも・・・深い味わいがある。何度も聴いてきたこのデュオアルバムを、このところ、再び2度3度と、聴いている。その度に
感じることは・・・2人の作り出す世界~その雰囲気、色彩みたいなものが、見事に調和していることだ。そしてその調和は・・・
2人がただ無難に合わせようとしたのではでなく、ひとつの曲の中で、それぞれの個性をぶつけ合いながら、それでいてお互いが見事な
バランス感覚を発揮し、そうしてその曲を仕上げていく~そんな中から生まれた調和なのだと思う。そんな厳しくも美しい表情が、このアルバムにはある。2人の「唄」を聴くことで、なぜかしら・・・人生の、厳しさ、寂しさ、そして温かさ、を感じさせてくれる。
本当に素晴らしいヴォーカルのレコードだと思う。

この「トニーベネット/ビル・エヴァンス・アルバム」を聴いて、ベネットを好きになった僕は、いくつかベネットを入手した。

bennett__evans_002 Tony Bennett & Bill Evans/Together again(improv)テイチク 1976年

デュエット続編の improv盤もすごくいい。
fantasy盤に比べると、ちょっと地味な曲が多いが、逆に、それがいいとも言える。
バーンステイン作の<lucky to be me>やミシェル・ルグラン作の<you must believe in spring>は、素晴らしい。

それから、けっこう愛聴している2枚組LPがある。
Columbiaレーベルからの「ジャズの曲」を集めた2LPの「ジャズ!」だ。たしか80年頃に発売された盤だ。この2LPには、スタン・ゲッツやエルヴィンとの未発表セッション3曲ほどが収録されていた。
この中の1曲、<Danny Boy>は、なかなか素晴らしい。ゲッツとエルヴィンをバックに唄うベネット・・・かっこいいです。

ベネットの古い時代のもの。これは、どれも悪くない。そりゃあそうだ、トニー・ベネットは、もともとジャズマインドの強い唄い手で、
すでに1955年くらいから、ジャズっぽい内容の盤をあまた出しているのだから。初期の2~3枚だけ挙げておく。

Cloud 7(1955 columbia) チャック・ウエイン(g)など。(未入手。konken氏が所有。ときどき聴かせていただいている)
the beat of my heart(1957 columbia) ブレイキーやチコ・ハミルトンなど。(近年のCBS再発盤を入手)
strike up the band(1959 roulette ) ベイシーとの共演。(CDです・・・)

bennett__evans_003ああ、そうだ。初期のもので、もう1枚、とてもいい盤がある。
Tony Bennett Sings a String of Harold Arlen(columbia 1960年)だ。僕の手持ち盤は、残念ながらCDだ。(CBSソニー)

ハロルド・アレンは、昔から好きな作曲家だ。地味だが、いい曲がいっぱいある。作曲家と唄い手の相性、というものもあるようだ。そして、トニー・ベネットとハロルド・アレンの相性。これが・・・抜群にいいのだ。
ベネットの「ちょっぴり幸せな気持ち」にさせてくれるような唄い方・・・これがハロルド・アレンのメロディとよく合うのだ。
<I’ve got the world on a strings>
<over the rainbow>
<when the sun comes out>
が、特に好きだ。
ああ、それにしても・・・世の中には、「いい曲」がいっぱいある。ジャズは・・・まだまだ止められない。

| | | コメント (14) | トラックバック (0)

« 2005年11月13日 (日) | トップページ | 2005年12月 4日 (日) »