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2005年10月 3日 (月)

<思いレコ 第6回> ビル・エヴァンス/Peace Pieace & Other Pieaces(milestone)

マイルストーンの2枚組~ビル・エヴァンスのこと。

マイルストーンの twofer シリーズというものがあった。1972年頃から、主にRiverside、Prestigeの音源を2枚組として、再発したものだ。2枚組の廉価盤・センターレーベルも「濃い朱色のマイルストーン」・安っぽいジャケ写真・盤もペラペラ、という体裁なので、コレクト的価値は・・・ほとんどないだろう。今でも中古店で時々は見かけるが、かわいそうなくらい安かったりする。しかし、このtwoferが初出自だったセッションもけっこうあり、OJC以前には、とても重宝したのだ。当時は、ジャズ雑誌などにも輸入盤の情報などほとんどなかった。だから名古屋まで出かけて、輸入盤を扱うレコード店で「初めて」目にするのだ。そうして、その場で中身(の価値)を判断するしかない。最初の頃のtwoferは、ビッグネイムのミュージシャンのベスト集みたいな編集だったが、すぐに、2種のオリジナルLPをそのまま2枚組とすることが多くなったようだ。そして・・・その再、「未発表テイク」がいくつか付け加えられていることがたびたびあったのだ。マイルストーンは、オリン・キープニューズが監修していたので、特に「リバーサイド音源」のLPにその追加テイクが多かったのだ。僕の記憶では、「新品」の twoferはシュリンクされていたので、見開きジャケは開けられなかった。しかし、ジャケ裏の表記で、たいていの情報は判った。その2枚が、どのLPとどのLPのカップリングなのか?そのカップリングがそのままなのか、あるいは何らかの追加テイク、未発表テイクが入っているのか? 大体の場合、ジャケットにpreviously unrelased とかnewly discovered とか書いてある。今で言えば、「ボーナス・テイク」や「新発見のセッション」がCDで発売されるのと同じ感覚だ。DSCN0913

そんな twofer もので、ひときわ印象深いものがある。Bill Evans/peace piece &  other pieces (milestone)~Everybody Digs Bill Evans と「未発表セッション」のカップリングだ。これを見つけた時は、うれしかった。
「Everybody」も持っていなかったし、それにその「未発表」が、全く未知のトリオセッションだったからだ。ジャケ表紙に including 6 previously unissued selections と書かれており、ベースがチェンバース、ドラムスがフィリー・ジョーだった。この6曲は、「オン・グリーン・ドルフィンストリート」としてビクターから発売されたはずだ。この2LPには、さらにもう1曲・・・Loose Blues という曲も入っていた。ズート・シムスやジム・ホールとの共演で、不思議な雰囲気のブルースである。こちらの「ズート入りセッション」も、80年代に「アンノウン・セッションズ」というタイトルで、ビクターから発売された。さて、キープニューズは、この2枚組を「peace pieace and other pieces」と呼んだわけだが、このタイトルは、実はとてもおもしろい。というのは・・・Everybodyに入っているピアノソロに<peace pieace>なる曲があること。さらに・・・この曲は、バーンステイン作の<Some Other Time>と深い関係にあるのだ。もちろんこのことは、エヴァンス自身がキープニューズにも語ったようで、この2LPの解説の中で、キープニューズは、こんな風に書いている~『この日の成果は、エヴァンスが<Peace Pieace>と名づけた、注目すべきソロ・インプロヴィゼイションだ。この演奏は、全く偶然に生まれたのだ!エヴァンスは<Some Other Time>(40年代のミュージカル/On The Town)を演ろうとしていて、なにやら独自のイントロを工夫しているうちに・・・バーンステインの元メロディよりも、エヴァンス自身が気にいるような世界に入り込んでいったのだ』~こんなストーリーもあったらしい。その<Some Other Time>のタイトルともかけて other piecesと名づけたのだろう。なかなかシャレが効いてるじゃないか。

さて・・・この「Everybody Digs」。ビル・エヴァンスのあまたあるLPの中でも、エヴァンスのピアノプレイに限定した場合、私的エヴァンスNO.1である。まず<Minority><Oleo>などのちょっと早めの4ビート曲が素晴らしい。右手のシングルトーンで独特の長いラインを弾くのだが、とにかくタッチが強く(エヴァンスとしては)いつもに増して硬質な音を聞かせてくれるのだ。コリコリしたタッチで紡がれる個性的なアドリブが、すごく魅力的だ。それから、うんとスロウなバラードとして<Young and Foolish><Lucky To Be Me:ピアノソロ><What Is There To Say>それから<Peace Piece:ピアノソロ>。これらのバラードが・・・凄い。モンクとはまた別の感覚として・・・本当に「孤高」のサウンドというような世界を現出させている。エヴァンスは、これらの曲の録音時、相当に何か「深いfeeling」に浸っていたはずだ。<Young~>は、エヴァンスのピアノだけで、ルバート風に始まる。もうすぐに曲の芯にある「ググッと沈み込んだ感じ」に入り込んだような音世界になってしまう。しばらくソロピアノが続き、ようやく、ベースとドラムスが入り、イン・タイムになるが、あくまでもかなりスロウなバラードのままである。

このtwofer2LPの「Everybody~」は、モノラルだ。75年remasteredby David Turner となっている。音質は・・・特に悪いわけではないが、まあOJCと似たりよったりというくらいだろう。先日、たまたまこのEverybody~の「黒ラベルのステレオ盤」を、初めて聴く機会があった。58年12月録音だから「ステレオ」がオリジナル録音なのだろう。その音質は・・・この頃のエヴァンス独自の硬質なタッチ、これがクッキリと右チャンネルから聞こえてきた。バラードでの、ピアノの「鳴り」にも、素晴らしいものがあった。フィリージョーのやけに鳴りのでかい「響き」もよく出ている。サム・ジョーンズのベース音も相当にでかそうだ。ウイルバー・ウエアほどの「大きさ」ではないが、やはり同じスタジオでの録音なのか、同質の「響き方」をしているようにも聞こえる。このサム・ジョーンズとフィリージョー。一見、エヴァンスのピアノとは合わないような感じを受けるが、そんなこともない。ギリギリと繊細に研ぎ澄まされたようなエヴァンスのピアノに、豪放になるフィリージョー。これが意外に合うのだ。ここで「繊細」なドラムスが寄り添うように撫でる~モチアンのように~のも悪くないが、この58年ハードバップ&沈潜バラードのエヴァンスには、僕はフィリージョーで最高だと思う。(そういえば78年に来日したエヴァンストリオ~名古屋で見ました。ドラムスが・・・フィリー・ジョーだったなあ・・・)ピアノトリオの力感がいいバランスで入っている「いいステレオ録音」だと思う。あの「ステレオ黒ラベル」のEverybody Digs・・・いつか入手したいものだ。

「バラード」といえば・・・マイルスが言ったとか、マイルスの自伝本に出ていたとかだったか・・・よく言われることがある。「バラードを演奏する時には~その唄の歌詞を思い浮かべながら演奏するのだ。そうすると、その唄のフィーリングがより表現できるのだ」という話しだ。僕は、この話しを信じない。歌詞?そんなもん、ただの言葉じゃないか。(ヴォーカルをやっている方、すみません(笑) インストに限った話しです) 「love」と言いたいときに「love」という言葉を思い浮かべるのなら・・・詩でも小説でもやればいいことだ。音楽(インスト)ってのは、もっと単純に「音」の世界のはずだ。言葉じゃない「純粋に抽象的な世界」、それだけのはずだ。発する「音」が全てなのだ。後はもう・・・その「音」から、これまた全く抽象的な feeling を感じればいいのだ。その feeling も「怒り」とか「優しさ」なんていう具体的なものじゃなく・・・「何らかの雰囲気~atmosphere」みたいなもの、そういうものでいいのだと思う。マイルスが、トランペットを吹くときに、本当に彼の脳内で「歌詞」を思い浮かべている、とは思えない。あるいは、「ちょっとした話し」として、そう語ったのかもしれない。それより、この「歌詞思い浮かべ説」について、僕がひとつうれしかったのは・・・かなり後期のエヴァンスのインタヴュー記事(80年9月に亡くなったので、その1~2年前だったか)の中で、こんなことが書かれていたことだ。

《僕はバラードを弾く時・・・歌詞なんて思いださないなあ。それよりその曲の持っているfeelingみたいなものを、出そうとするだけだよ》

みたいな内容だったはずだ。これを読んだ時・・・ああ、やっぱりそういうものだよなあ、と強力に納得したのだ。その記事を読んで後は、それまで以上に・・・エヴァンスを好きになったような気がした(笑)

どのスタンダードにもタイトルがある。そうしてそのタイトルから、その唄がだいたいどんなことを唄った(唄おうとした)のか、わかるのだ。そうして、どのスタンダードにも、その「メロディ・ハーモニー・リズム」から浮き上がってくる独自の「雰囲気~atmosphere」というものがあるのだ。<Young and Foolish>・・・若くて愚かだった・・・このタイトルだけあれば充分じゃないか。 さっき、「ビル・エヴァンスはこれらの曲の録音時、相当に何か「深いfeeling」に浸っていたはずだ」と書いた。何度聴いても・・・本当に深みのある内省的なエヴァンスのバラード演奏である。僕の勝手な推測では・・・エヴァンスは、このタイトルだけを「イメージ」したのだと思う。イメージだけ。あとは、「曲」と「音」しかない。もちろん、エヴァンスは、もうこの曲を大好きで好きで、だからこそ、吹き込んだのだと思う。だがしかし・・・演奏時に「歌詞」を思い浮かべる、などというレベルで、こんなにも深く沈潜したような feeling が生まれるだろうか?僕の耳には・・・この演奏は・・・エヴァンスのインタヴュー記事の真意を100%裏付けている、ように思う。
ちなみにエヴァンスは、この曲をやはり本当に好きなんだろう・・・うんと後のトニー・ベネットとのデュオアルバム(fantasy:1975年)でも、吹き込んでいる(A面1曲目) おまけに・・・あの<Some Other Time>も取り上げているのだ(笑) このレコードは、それまでほとんどインストものしか聴かなかった(聴けなかった)僕を、「ヴォーカルというのもいいものだ」と思わせてくれた恩盤なのである。エヴァンス興味だけで買ったのだが、ベネットのちょっとしゃがれた声や、バラードでの深み・表現力みたいなものに、惹かれるようになった。伴奏がエヴァンスのピアノだけ、ということもあってか「唄」がやたらと格調高いのだ。 トニー・ベネットについては・・・また別の機会に。

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