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2005年9月22日 (木)

<ジャズ雑感 第7回> ソニー・ロリンズ/カッティング・エッジ~野ばらによせて。

相性というものが・・・絶対にある。ミュージシャン同士の相性、それから、ミュージシャンと聴き手の相性。

ヴォーカルやサックスの場合、誰かの声・音色を聴いた時に、全く理屈ではなく本能的に、「好きな声質」、「好きな音色」と感じる場合と、そうでない場合があるかと思う。もう少し正確に言うと、聴いていて、普通に聴ける場合~これは、「好きだ」とまでは思わないが、少なくとも「いやではない」のだ。ほとんどの場合は、だいたいこの感じで聴ける。ところが・・・ほんの一部の「声質」の場合・・・「ああ、イヤだな」と、感じてしまうのだ。本能的・生理的な感性の問題(だと思う)だから、どうにもならない。仕方がない。僕の場合は、女性ヴォーカルで、苦手な音色、いや声質のタイプは・・・ジュディー・ガーランドやジョー・スタフォードなのだ。キレイな声だとは思うが、響きが金属的な感じがして、僕にはどうにも「硬い」のだ。ヴォーカルの場合は、発声の仕方とも相当に関連がありそうだが、総じて・・・オペラ的発声には、なじめない。どうにもジャズ好きな人間としては・・・「ぁぁあああっ~」と声を張らした瞬間に・・・がくっとくる(笑)

僕の好きなスタンダードに<old folks>という曲がある。マイルスの 「Someday My Prince Will Come」に入ってるバラードだ。マックス・ローチの 「Award Winning Drummer」~ジョージ・コールマンやブッカー・リトルが参加してる盤~を手に入れた。<old folks>が入っていたからだ。聴いてみて・・・驚いた。というよりあきれた。がっくりした(笑) あのチャーミングな曲、バラード、あるいは、ゆったりテンポで演るしかないであろうあの曲を、なんと端(はな)から「急速調」、ガンガンの4ビートで演っているのだ。
「オールド・フォークス」は、もちろんマイルスの「いつか王子様が」の1960年のテイクで知られている。ミュートの音色がしっとりとしたバラードである。
ローチの「Award~」は、1959年11月録音ということなので、もちろん、マイルスの<Old Folks>よりも録音時期が早い。もしマイルスのあの曲を聴いた後なら・・・とてもこんな風には演れなかった、とは思う。だから・・・仕方ないとは思わない。マクリーンの<オールド・フォークス>(prestige)(「マクリーンズ・シーン」1957年に収録)があるのだ。これは、ゆったりの4ビートだ。スロウなバラードではないが、「唄モノ」としてマクリーンが、じっくりと唄い上げている。そして、僕はこの<Old Folks>が大好きである。パーカーが吹き込んだ<Old Folks>(verve)1953年もある。ギル・エヴァンス伴奏での3曲の中の1曲だ~もある。ポピュラー風のコーラスも入っており、元々のポップチューンの感じに近いかな、と思える。これもやはり、ゆったりテンポで、パーカーが朗々と吹いている。スタンダードソングというものは、どんな曲にも、それぞれが自ずと持っている個性、特質みたいなものがあるはずだ。早いテンポでガンガンが合う曲、スロウでゆったりが合う曲。中くらいのテンポが合う曲。やはりそういう資質みたいなものがあると思う。
マックスローチという人は、そんな「曲の個性」というものを、あまり考えてないのだろう。おそらく・・・彼にとって「曲」は、ドラムスという楽器を「叩く」ための素材でしかないのだろう。だから、曲の解釈という点で、あまりデリカシーというものが感じられない。少なくとも・・・この<old folks>を聞くと、そうとしか思えないのだ。そして、これも僕の好みの問題だが・・・ローチのドラムのサウンドそのものが、あまり好きになれないのだ。ローチの音色は、「高い」そして「硬い」。基本的なチューニングが~ドラムスにも、調節によって「音の低い・高い」があるのです~高いのだろう。一部のレコードの録音のせいかな?とも思った時期もあるが、どのレコードで、あの「硬い音色」なので、やはり、ローチ自身が選んだ「音色」なのだと思う。ローチという人は、人間も堅いらしく・・・ドラムプレイも、やはり「硬い」のだ。だから、ローチのドラムソロも、あんまりおもしろくないものが多い。何か・・・設計図とおりに叩いているような感じ、を受ける。エルヴィンやロイ・へインズのような「ヒラメキ」というものがあまり感じられない。「硬いプレイ」と言ってもいいだろう。全てに正確かもしれないが・・・ドラムソロとしては、面白みがない。

「ドラムのサウンド」で思いだしたのだが、モンクの「ブリリアント・コーナーズ」というレコードがある。モンクとロリンズ、アーニー・ヘンリー、ペティフォード、それにローチだ。ロリンズもヘンリーも大好きなので、<Ba-lue Boliver Ba-lues-are>もいいし、ピアノソロの<I Surrender, Dear>も最高だ。しかし・・・B面3曲目の<Bemsha Swing>だけは・・・もうどうにもこうにも、ダメなのだ(笑) いや・・・この曲自体は、「クリスマス・セッション」での好演もあり、もちろん好きなんです。しかし、「ブリリアント~」での<Bemsha~>は・・・。あの曲で、ローチは、なんと「ティンパニ」を使っているのだ!解説によると、たまたまスタジオの隅に置いてあったとのことだが・・・。この「ティンパニ」の「グワーンン」という音に我慢がならない(笑) あの響き・あの音圧・あの音量・・・思い出しただけでも、身震いする。(笑) 何か不用意に大きな音で、周りを威圧するような雰囲気・・・モンクの「ちょっといい曲」の味わいを損なってしまっている。というより、単純に、ジャズとしての演奏のバランスを崩してしまっている。モンク好きの僕には、そのように聞こえる。<オールド・フォークス>の、あの解釈とも通じる「無神経さ」というものを、感じずにはいられないのだ。

こんな風に、僕は、ちょっと苦手なローチだが・・・もちろんローチには、鋭いバッキングでの快演がいっぱりある。特に、ロリンズのvol.1(bluenote)でのJJ・Johnsonとの絡み~JJの決めフレーズに、ここぞっ!とばかりに、スネアで応戦する~この辺りは、さすがに聴き応えがある。パーカーやパウエル、それにロリンズ(1955~56年頃)らのバッキング、特に急速調の曲では、キッチリしたスピード感とバップらしい熱気みたいなものを、生み出している。この時期、ローチの他に、こんな巧いドラマーはいなかっただろう。そして・・・マックス・ローチの、あの「高くて硬い音」を好きな方も多いと思う。ローチの律儀なドラミングを好きな方も多いだろう。ローチ好きの方には、「ティンパニが堪えられない」なんてもの、全くナンセンスな話しだろうし、<Old Folks>に、別段、思い入れのない方にとってみれば、ローチが、それを急速調で演ったって、何の問題もないことなのだろう。まあ結局は・・・相性がよろしくないということだろう。ローチの発する周波数は、僕のチューナーでは、うまく受信できないのだ。だから・・・これは、あくまで僕にとっての「不幸な例」ということで、ご理解下さい。
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・・・ああ、ロリンズのことを話そうと思ってるうちに・・・そのロリンズのボスだったこともあるローチの話しになってしまった。「不幸な例」はこのくらいにして・・・今度は「幸福な例」、これなら、いっぱいあるぞ(笑)
さて、ロリンズ。65年インパルス盤からぐんと時代が進み・・・ロリンズとしてはかなり後期の1972年「カッティング・エッジ」というモントルーでのライブ盤がある。そのA面2曲目に<野ばらによせて>というバラードが入っている。この曲は・・・たしかクラシックの曲(シューマンだったか? 請う情報)なのだが、素朴なメロディのとても優しい雰囲気の曲だ。こういう曲を選んだ、というまずそのことに共感してしまう。
*補記~その後、「野ばらによせて」の作曲者が判りました。アメリカの作曲家(1861~1908)で、エドワード・アレクサンダー・マクダウエルという人でした。ドビュッシーやシューマンの影響を受けた作曲家ということです。

そうして、ロリンズ自身が「いい」と思ったから選んだであろうこの曲を・・・テナーでいつくしむように吹くロリンズ。エンディングでは、バックの演奏を止めて、長いカデンツァに入っていく。このカデンツァが凄い。テナー1本でのカデンツァ。ロリンズ以外に誰が、こんな風に「音楽を生き生きと唄う」ことができるのか。コード進行がどうか、スケールがどうか、なんていう話しじゃあない。本当に「自分の唄」というものを持っているロリンズだから、こんなカデンツァを吹けるのだ!その長いカデンツァの終わり・・・ロリンズが再びメロディを吹くと・・・バックのバンドが「ここしかない」というタイミングで入ってくる。音楽が、ぐぐッっ!とインテンポに戻る。・・・と聴衆も思わず「うお~っ!」・・・ああ、このこの充実感、この高揚感はなんだ! ロリンズの 感じている feeling にバンドも聴衆も完全に感応したのだ!聴衆も幸せになったはずだが・・・こうしてレコードを聴いている僕らも幸せになってしまう。・・・・・この<野ばらによせて>は、本当に素晴らしい。こんな風に、ジャズ聴きの「幸せ」を、ひとつづつ積み重ねていくのは、実にいいものです。ジャズが好きだ。

みなさんの「幸せな例」・・・どんなでしょうか?思いついたら・・・お知らせ下さい。

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コメント

54さん、コメントありがとうございます。返事が遅れました。さすが54さんですね・・・ローチとブレイキーのバッキングの雰囲気違い・・・モンクのトリオ盤(prestige)を聴いてみたくなります。それを聴いてから・・・と思ってる内に返事が遅くなってしましました。その「セロニアス・モンク・トリオ」2重に積んだレコードの下の段のまた奥にしまったようで出てきません(笑)ヘタに動かすと収集がつかなくなりそうで(笑)次の休みに聴いてみますね。またコメントします。

投稿: bassclef | 2005年9月26日 (月) 08:58

Yoさん、勇気あるコメントありがとうございます(笑) 僕自身も・・・ジャズ仲間でもローチを「苦手」という人は少ないです。そして「大好き」という人もあまりいないようです。(笑)すごい名手には違いないし、ただ・・・ドラミングのスタイルとしては、ロイ・へインズやフィリー・ジョー、それにエルヴィンより、やや昔風ということは間違いないですかね。活躍した時代がやや古いので、録音自体が、あまりクリアでないことも、ローチ聴くには不利な要素かもしれませんね。そこまでドラムスという楽器を意識してないのかもしれません。
>Yoさんが例に挙げた「マネー・ジャングル」実はあんまり聴きこんでないのです。ミンガス目当てで、だいぶ昔にキング国内盤を買ったのですが、キャンディドでのミンガスとだいぶ感じが違い、あまり「ワクワク」はしなかったような記憶があります。Yoさんのローチ観・・・多分、僕と似た質のものだと思います。多分、あのレコードというのは・・・エリントンのあまりにも個性的なピアノに、ミンガスの硬いプレイにとローチの硬いプレイが相乗に作用して、普通に聴いても、あまり楽しめないピアノトリオになったのかもしれませんね。また聴いてみます。

投稿: bassclef | 2005年9月25日 (日) 18:29

僕も昔はローチがあまり好きではなかったです。(過去形です)
チェロキーといえば、スタデイー・イン・ブラウンと相場は決まってますが、昔からチェロキーはBNのメモリアルの方が好きでした。
何故かなー?考えるに・・BN盤のいきなりブラウンのアドリブから入るアレンジの素晴らしさもありますがバックで鼓舞するブレーキの方がローチよりもブラウンには合ってるじゃないか、奔放なブラウニーにはやはり奔放なブレーキーの方が合うに決まってる、なんて思ってました。
今はどちらもいいな~と節操はなくなってきましたが(笑)
そんな思いでプレステッジのモンク・トリオを聴くと面白いですね。
ローチとブレーキが同時に聴けます。 ローチの時は緊張感というか硬い感じが確かにしますし、ブレーキーの時はチョット砕けた感じでユーモラスに聴こえたりします、勿論、曲が違いますので一概には言えませんが、、しかしローチがバックだとモンクもパウエルみたいに張り切って叩いてるように感じるんですが?・・僕だけでしょうネ(笑)

僕も好きな曲がたくさんありますが、ロリンズがらみでは『ドント・アスク』の『マイ・アイディアル』のラリー・コリエルとのデュオ
〈野ばらによせて〉は聴いたことがありません。
探します。  聴きたいです。
ところで10時間の鑑賞とは・・いやはや、凄いとしかいいようがありません(笑)

投稿: 54 | 2005年9月24日 (土) 14:45

ローチ嫌いの私としては嬉しいコメントでした。「マネー・ジャングル」でエリントンが凄みの有る演奏をし、ミンガスが必死に頑張っているのにベタベタと後からついて来るローチのドラムなんかいらない。・・・「不幸な例」はいっぱい出てきますね(笑)ローチが嫌いだからエマーシーのクリフォード・ブラウンはあまり聴かないとか・・・。ローチ好きの人・・・すみません。

投稿: Yo | 2005年9月22日 (木) 12:31

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