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2005年9月 7日 (水)

<ジャズ雑感 第6回> ソニー・ロリンズ/オン・インパルス~マット・デニスのスタンダード。

スタンダードソングの魔力~いい曲だなあ・・・と思うといつもマットデニスだ。

<everything happens to me>~この曲を最初に聞いたのは・・・ああ、モンクの「サンフランシスコ」だ。いや、正確には・・・米マイルストーンの Pure Monk(himself と sanfrancisco のカップリング2LP)という盤で聞いたのだ。モンクのソロピアノというと・・・「サンフランシスコ」より前に、1954年のヴォーグ盤を聴きこんでいた。特に「煙が眼にしみる」を気に入っていた。この曲はジェローム・カーンの作曲だが、とにかくあのメロディーが好きだった。あのメロディーをモンクはそれほど崩してはいない。崩してはいないが・・・その元メロディーの合間にモンク流のアドリブを混ぜ込んで、見事に唄い切っている。本当に素晴らしいピアノソロなのだ。もともと、こういう古いスタンダードソングというものが、僕の性に合っていたのかもしれない。だから、スタンダードがたくさん入っている「サンフランシスコ」も、すぐに大好きになった。<remember>という曲も、モンクの斬新な解釈で、というより斬新なピアノプレイが印象深い。なんというか・・・左手コードの入れ方が、スタカート気味というか、ほとんど伸ばさずに、「ブツ切れ」状態なのだ。そんな過激なアレンジ(いや、素晴らしいヒラメキ!)でありながら、演奏全体には、なんとも言えないノスタルジイみたいなものを感じる。この曲はホワイトクリスマスの作者として有名なアーヴィング・バリーンの作曲だ。 この<remember>は、ハンク・モブレイの「ソウル・ステーション」A面1曲目に入っているので、ご存知の方も多いと思います。ああ、もうひとつあった・・・スティーヴ・レイシーがこの曲のチャーミングなテーマを吹く演奏があるんです。ギル・エヴァンスのプレスティッジ盤「ギル・エヴァンス&テン」に入ってます。この曲のチャーミングなメロディが、レイシーのソプラノサックスの音色によくマッチしているようです。
そして・・・「サンフランシスコ」の中で、一番好きになった曲が<everything happens to me>だ。正真正銘、このテイクが初聴きだ。(少し後にロリンズ(後述)、うんと後にシナトラ~この曲のオリジナルバージョン~も聴いた) この曲を、本当に「すうっ」と好きになってしまった。なぜかは判らない。ただ・・・「煙が眼にしみる」もそうだが、モンクが弾くスタンダードには、いつも「ペイソス」が漂っているのだ。僕は、この「ペイソス」という言葉を~一抹の寂しさの中にほのかな希望を感じるような雰囲気~「人生にはつらいことも多いけど、まあがんばっていこうや。たまにはいいこともあるし」みたいな感じに捉えてます。その「ペイソス」。モンクが弾くから「それ」がにじみでてくるのか?あるいは・・・曲の中に「それ」を感じとったから、モンクがこの曲を選んだのか?
多分・・・その両方だろう。そして、聞き手があるミュージシャンの演奏するある曲を聴いて、ものすごく気に入る・・・ということも、まさにミュージシャンがその曲を選んだのと同じような feeling を聞き手も感じたからなのだと思う。そうしてさらに、その曲を得たミュージシャンが「どんな風に唄うのか」を聴くことで、聴いてその「唄い」が納得できれば、その曲を、本当に「自分のもの」にできるのだと思う。
こんな具合に、あるミュージシャンのと聞き手の feeling が一致する、というのは本当に幸せなことです。僕の場合は・・・まさにセロニアス・モンク、それからロリンズが、そういうミュージシャンなのです。今回は、そのロリンズが演奏した<everything happens to me>についてだけにします。ロリンズについては、また別の機会にじっくりと(笑)

《Sonny Rollins/On Impulse~僕の手持ち盤はMCA impulse盤。すごく安っぽい緑色のラベルが哀しい:笑》

050907_001さて、ソニー・ロリンズの「オン・インパルス」(impulse)1965年~ロリンズのあまたのLPの中では、あまり「傑作」とか言われないようだが、これが実にいいアルバムなんです。(僕の知る限り、このLPを「いい盤」として何度か取り上げていたのは、大和明氏だけだ) 僕は、もう長いことロリンズ好きだし、愛聴盤もたくさんあるが・・・「凄い盤」とか「大傑作」とかじゃなく・・・「好きな盤は?」と問われれば・・・真っ先に、この「オン・インパルス」が浮かんでくる。まず選曲がいい。A面には on green dolphin street(ちょっとモード風の速め4ビート)と everything happens to me(バラード)、B面には、hold 'em joe (カリプソ風),blue room(ゆったり4ビート),three little words(軽いノリの速め4ビート) この5曲のバランスが絶妙で、全く厭きさせない。レイ・ブライアント(p)の明るくきらめくフレーズ。ミッキー・ロッカー(ds)のカラッとした切れのいいドラミング。そして・・・ウオルター・ブッカー(b)のがっしりしたリズムと唄心を感じさせるベースソロ。トリオが造り出すまとまりのあるサウンドに、ロリンズの自由自在に唄うおおらかさ、みたいなものが、実にうまい具合にブレンドされて、聴いていて本当に「気持ちのいいジャズ」に仕上がっている。
そうして、この<everything happens to me>が、おおげさじゃなく絶品なのだ。モンクのソロピアノを聴いて以来、大好きになっていたこの曲。あのちょっとセンチメンタルなメロディを・・・ロリンズが、イントロなしで、いきなり吹き始める。ロリンズ独特の「揺らぐような」サウンドを響かせながら、軽いフェイク(崩し)も混ぜてくるが、あのメロディをいつくしみながら、ゆったりと謳い上げている。本当にテナーサックスで「唄っている」ようだ。僕は「ロリンズは・・・この曲を本当に好きなんだなあ・・・」と確信する。そんなバラードプレイだ。ピアノもしっとりしたソロを取る。そして・・・ウオルター・ブッカーの出番だ。ブッカーも・・・じっくりと、いやどちらかというと、もっさりと・・・しかし・・・ブッカー自身の「唄」をこの曲の中で、唄い上げている。「唄こころ」というものを、たっぷりと指先から弦に伝え、その弦を、気持ちを込めて弾(はじ)いているかのようだ。ブッカーもまた、この曲を好きなのだ。もちろんブッカー自身、この曲を以前から知っていたのかもしれないが、仮に、この日、初めて出会った曲だったとしても・・・この曲をロリンズがテーマを吹き始めたその瞬間に「好きになった」のだ、と思う。「曲との相性」というものは、人との出会いといっしょで「インスピレイション」で決まってしまうこともあるのだ。

ジャズ聴きの幸せは・・・やはり自分にとっての、本当のフェイバリットミュージシャン(そんなに多くはいるはずもないが)を見つけることだと思う。その人の音色、フレーズ、選曲、唄い・・・そんなもの全てが自分の好みと合致する、ということは少ないかもしれないが、人を好きになる、ということは、もういずれ、その人の全てを好きになってしまうものなんです(笑)

・・・そんなわけで、スタンダードが好きになってくると、だいたい「好きな曲の傾向」みたいなものができてくる。僕の場合は・・・なぜだか、コールポーターやガーシュインのゴージャスで壮大な曲想よりも

ハロルド・アレン(I’ve got a world on a string, over the rainbow,when the sun comes out,come rain or come shine, let’s fall in love など)
ジェローム・カーン(smoke gets in your eyes,all the things your are など)
アーヴィング・ヴァリーン(remember,blue skies など)などの、いかにも「小唄」と呼びたくなる曲の方がが好みのようだ。

そして・・・マット・デニス。さきほど書いたように、モンクのソロピアノでこのマットデニスの名曲<everything happens to me>を知ったのだが・・・実はそれより前に、マットデニスの曲をよく聴いていたのだ。72年9月頃、日本ビクターが prestige 音源から20枚だか30枚を、オリジナル・ジャケとセンターレーベルで050907_002復刻し、1100円盤シリーズとして発売したのだ。 その中から「コルトレーン」(1957年)を買っていた。コルトレーンがサックスを前に置いて正面を睨んでいるジャケ。あれだ。<コートにすみれを/violets for your furs>は、このLPに入っている。私見だが、この1100円盤シリーズは、案外にいい音だと思う。後に発売された米ファンタジーのOJCシリーズよりも、楽器の音に「芯」があるように感じる。

僕はA面2曲目の、この<violets~>とB面2曲目の<while my lady sleeps>が特に気に入っていた。<while~>はマットデニス作ではないが、こちらもなかなかいい曲だ。タイトルは「あいつ(女)が眠ってるうちに・・・」という意味だろうか~その眠ってる内に、多分・・・抜き足差し足で部屋を出て行こうとする男(笑)~すごく勝手な推測だが、この演奏を聴くと、そんなイメージが広がってくる。こちらは激賞されることもなく sleepしているようだ:笑)
両方ともバラードで、「静かに」演奏されていた。コルトレーンのバラードというのは、独特の「澄んだ感じ」があって、今思えば、このリーダーアルバム1作目には、片面3曲づつのLPのA・B面2曲目にバラードを配置してあり、コルトレーン自身も「バラード」にかなりの配慮をしていたのだろう。マイルスのLPでもそうだが、同じペースの曲が連続しないように~LP片面20分を飽きさせないようにする工夫が感じられる。そのコルトレーンのバラードがいい。コルトレーンがいい、という以上に、この「コートにすみれを」が、チャーミングなメロディーをもった素晴らしい曲なのだ!ということを言いたい。もちろん、この曲を選んだコルトレーンもまた素晴らしい。

そうしてこの素晴らしい曲を作ったのが・・・これまたマットデニスなのだ! 余談だが、FMで流れるジャズをマメにカセットにエアチェックしていた頃~71年~75年頃だったか~何かのジャズ番組で、峰厚介のコンサートのライブが放送された。その中に「コートにすみれを」が含まれたいた。「あれ・・・あのコルトレーンのLPに入ってるやつだぞ。渋い曲を演るなあ・・・」とちょっと驚いたことが印象に残っている。(やはりバラードで演奏されていたはずだ。この演奏はたしかレコード化もされてないだろう。僕のカセットテープコレクションのどこかに入ってるはずだが)自分が「いいなあ」と感じていた曲をこうして、日本のテナー奏者が取り上げている、ということに感心したのだ。「楽譜とかどうするんだろう?やっぱり耳でパパッと音もとっちゃうんだろうか?」とも思った。というのも、その頃、この「コート~」という曲のことをジャズ雑誌で活字として読んだ記憶が一切なかったからだ。僕の記憶では、この「コート~」がいい、というような記事がジャズ雑誌に載ったのは・・・かなり後、少なくとも80年より後だったと思う。「コルトレーンのバラードの原点」という表現が増えてきて、今ではすっかり名曲「コート~」として定着しているようだ。ズート・シムスの「コート~」も、相当に有名になった。ブルーノートのユタ・ヒップの緑色の盤(1956年)に入っている。この演奏もいい。やはり「曲の力」というのも相当にあるはずだ。とどめに(笑)同じテナーで、JRモンテローズの「コートに~」もとてもいい。

おまけとして・・・マット・デニスのちょっといい曲を以下。
everything happens to me
violets for your furs
the night we call it a day
angel eyes
will you still be mine?
let’s get away from it all
どれも印象的なメロディでを持っており、「品のいい寂しさ」みたいなものを感じさせる。僕の心に「きゅうん」と入り込んでしまうキュートな曲ばかりだ。
ついでに言うと・・・これらの曲のほとんどは、すでに1940年代、1950年代にシナトラが唄っている。だから・・・モンクもロリンズもコルトレーンも、そしてマイルスもみんなシナトラを聴いていたのに違いない。そうして、そのスタンダードソングを、「どうやってかっこいいジャズにしてやろうか?」てなことばかり考えていたに違いないのだ。実際、マイルスの回想本で「シナトラをよく聴いた」というのを読んだ記憶がある。なお、モンテローズの「コートに~」では、彼は、シナトラのキャピトル盤を聴き込んだようで、演奏としては珍しくも、ヴァースの部分からチャーミングに吹いている。
そんなことを考えてみると・・・シナトラこそ、モダンジャズのバラードの「父」みたいな存在だったのだ、と思えてくる。最高のジャズミュージシャン達が、最高の素材~ソフトでスイートな極上のポピュラーソング~に、少々のビターネスをまぶして「ジャズのバラード」に仕立て上げてきたのだ。「好きな曲」を軸に、ちょっといろんな唄・演奏を探ってみると、スタンダードソングの世界が本当に奥深いことを実感する。自分が「好きだ」と思えるスタンダードソングを何曲か知るだけで・・・もうジャズ聴きの楽しみはぐんと拡がるのだ。
そうして・・・やっぱり、ジャズはやっぱり止められない(笑)

追伸 :みなさんのお好きなスタンダード曲~ぜひコメントにてお知らせ下さい。とても絞りきれないでしょうが・・・思いつくままどうぞ(笑)

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