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2005年9月 4日 (日)

<思いレコ 第4回> セロニアス・モンク/ザ・モンク・ランズ・ディープ(vogue/東宝)

ニーノニーノの「こだわりの杜」~趣味でつながる楽しみ。

ニーノニーノというオリジナル盤通販のお店がある。そのニーノの新納さんは、HPも運営しているのだが~オーディオやレコードのセンターラベルの話しが満載の中身の濃いHPである~そこにはBBS「こだわりの杜」もあって、「拘りのオヤジたち」が、連日、親密なやり取りをしているのだ。最初に書き込む時には、ちょっと思い切りが要るかもしれないが、一度入ってしまえば、思いのほか気さくな方たちばかりである。僕も1年ほど前から、ちらちらと書き込みをするようになった。4月には、長野の白馬で「杜の会」なるオフ会が開かれたので、普段、出不精の僕もそのオフ会に参加したのだ。そこで、Dukeさんを始め、普段、ハンドルネイムでやりとりしている皆さんと~この「白馬」では、栃木・群馬・静岡・愛知・長野・大阪などから集まった「杜の住人」の方々~実際にお会いしたわけだが・・・いやあ、これが驚くほど自然な打ち解け具合だったのだ。我ながら偏屈な人間だよなあ、と思ってる僕なんかでも、初顔合わせの方々とすぐに打ち解けて、好きなジャズや音楽についてのいろんな話しができてしまうのだ。皆さんの持ち寄ったレコードもいろいろ聴けて、本当に楽しかった。「趣味」だけでつながる集まりというのは、実にいいものです。そんなこともあり、その後の「杜」というBBSでのやり取も、いっそうリアリティが増した、というか「立体感」が出てきたような手ごたえもある。
白馬でのオフ会から一週間後、Dukeさんから電話があった。HPの次の「コラム」を書いてくれ、「テーマは自由。なんでも好きに書いてください」とのこと。 この「コラム」というのは、「杜」の常連さんが、ほぼ月替わりの交代で、「ジャズやオーディオへの思いのたけをぶちまける」みたいなコーナーだ。あのコーナーに、自分の「文章」が載るのか! もちろんたいへんに光栄なことで、うれしくもあったのだが・・・さて何を書こうか。僕の場合、とにかくもうジャズが好きで好きでという状態なんで・・・そういう「ジャズへの拘り」具合なら、なんとかなりそうに思った。だから、中3の頃から自分が「どんな風にジャズという音楽へ没入していったか」みたいなことを書き始めたのだが・・・それからの2週間ほどは大変だった(笑) なかなか書けないのである。いや、書くには書くのだが・・・言い回しが判りにくいし、文章もガチガチ(笑) 普段の「杜」への書き込みは、誰かの話しへの反応やら、ちょっと自分から話しを振ったりで、ずいぶんと気楽に書けたんですが・・・いざ、「コラム」という場所を与えられて、そのスペースが、自分だけにまかされてしまうと・・・これが、妙に構えてしまうのです。そんなに大げさに考えるな、いつもの書き込みと同じだ、気楽にいけよ。もっと長く書いてもいいんだぞ、と自分に言い聞かせるのですが・・・そうは、なかなかできないもんなんです(笑)
例えば・・・ただ「モンクが好きだ」と書けばいいのに「僕はどうしてモンクが好きになったのだろうか?」とか変な言い回しになったり(笑) まあそれでも、結局は・・・自分の好きなジャズ、そのジャズ遍歴を回想風に書くしかない、という気持ち的な開き直りも経て、どうにかそのコラムを書いたのだ。けっこう何度も書き直したりしてましたが(笑)
そのコラムは、6月いっぱい、「ニーノニーノのコラム」欄に on air (笑:言葉の使い方が違ってますが)されていた。杜のみなさんから暖かい反応をいただくたびに、つい読み返してみたりしましたが、ガチガチな文章は、もはや変わるはずもないのでした(笑)
そのコラムの中で挙げたミュージシャンたちは・・・もちろん僕の個人的な好みの歴史なので、どの方にも共通する感覚というわけもないのですが、読まれた方には、bassclef という人間の「ジャズの趣味」がどんな具合なのかということは、判ってもらえたように思います。
「白馬・杜の会」があり、その白馬でのことを「杜」へ詳しく(いや、しつこく:笑)書き込みしたりしているうちに、さらに「コラム」も書くことになり~そうこうしてるうちに、どうやら「ジャズへの自分の想い」を、もっともっと綴りたくなってきてしまったようです。もともと、レコードへの思い込みは強い方だったので、自分のレコード購入記録みたいなものを<レコード日記>として書いていたんですが、4月初めにパソコンが壊れてしまい、(バックアップも取らないタイプなので)それらも全部、消えてしまったのです。そのことへの若干の「拘り」もあったのかもしれません。そんなわけで・・・5月末からこのブログ<夢見るレコード>を始めたのです。いずれにしても、僕がブログを始めたきっかけは、間違いなくあの「コラム」だったのです。ジャズへの想いを「コラム」という型でまとめる機会を与えてくれた、新納さん・・・いやDukeさんには、とても感謝しています。
そのコラムをここに再録します。この転載を快諾していただいたDukeさん、改めて・・・ありがとうございます!ジャズへの想いを正直に書いたつもりです。このガチガチ具合を笑って許してください(笑) 
Blame It On My Youth...

<全てはモンクから始まった>

~自分でもあきれるほどジャズが好きだ。休みの日には、たいていLP10枚くらいは聴く。なんでこんなにジャズが好きなんだろう?・・・よく判らない。でも<ジャズが好き>ということは、僕という人間の正真正銘の真実だ。この先、ジャズを聴かなくなるなんてことは・・・絶対にない。
これほど僕を惹きつけるジャズ。このどうしようもなく魅力的な音楽に、僕はどんな具合に、はまり込んできたのか。ちょっと思い出してみる。

・・・中3の時、マイルスデイビスをカセットに録音したのがきっかけだ。たしか週1回のNHK-FMのジャズ番組で、この日の放送はマイルス特集、DJは児山紀芳。今、思えばなぜ録音したのかわからない。その頃は、サイモンとガーファンクル、エルトン・ジョンなどを好んで聴いていたのだ。LPレコードはとても高くて、2ヶ月に1枚買えるかどうかだった。だからFMからいろんな曲を録音しては、気に入らなければそれを消去してまた使う、という感じだった。あの頃は、カセットテープも(まだTDKという名に変わる前の東京芝浦電気と漢字で書いてある真っ赤な箱のやつ)けっこう高かったし、決してムダ使いはできなかったのだ。 だから・・・名前だけ知っている「マイルス・デイビス」なる人を一度は聴いてみよう、くらいに思ったのかもしれない。いまだ鮮明に覚えているのは・・・その放送の中で、児山紀芳がマイルスの人物評として「タマゴの殻の上を歩くような」というフレーズを紹介していたことだ。そうしてその紹介のあとに流れた曲が・・・<ラウンドミッドナイト>(columbia/1956年)だ。「タマゴの殻?」そんな人物評にも興味を持ち、思わずカセットの録音ボタンを押したのだった。そんな風に気まぐれに録音した<ラウンドミッドナイト>。最初は、演奏なんかよくわからない。ただ・・・あの曲のもつムードに「何か」を感じた。そうして何度か聴くうちに、あのなんともいえない神秘的なテーマとそれを奏でるマイルスのミュートの音色が、もうグングンと僕の心に染み入ってきたのだ。さらに繰り返し聴いているうちに、マイルスのテーマが魅力的なのはもちろんだが、コルトレーンが出てくる場面にもゾクゾクしてくるようになった。そうしてラストのテーマでは、再びマイルスのミュートに戻る。このテーマに戻る場面でも、いつも気分がよくなるのだった。
「静寂」から「躍動」、再び「静寂」に戻る、という自然な流れ。何度でもまた繰り返して聴きたくなる。・・・それまでには味わったことのない感覚だった。

その少し後・・・今度は「あの曲」の作曲者、セロニアス・モンク自身のソロピアノでの「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」(vogue/1954年)を再びFMから録音した。マイルスのミュートが演出したあの曲の持つ「独特なムード」に慣れていたせいか、このモンクのソロピアノにも違和感など全く感じることもなく、いやそれどころか・・・モンクのピアノは、不思議なくらいに、本当に真っ直ぐに僕の心に入り込んできてしまったのだ。マイルスのラウンドミッドナイトは、もちろん素晴らしい。でもモンクのこの演奏には・・・もうムードなんてものを通り越して、モンクという一人の人間が、自分のあらゆる感情を吐露しているような厳しさがあった。モンクの、いや、あらゆる人が、人生を生きていく上で味わう感情・・・<挫折><孤独><哀愁>そして<優しさ><希望>・・・みたいなものが、この演奏の中に封じこめられているかのようだった。(そういう風に聴こえた)

このモンクのソロピアノのレコードは、なかなか見つからなかった。高1の夏に、東芝ブルーノートの国内プレス(ジニアス・モンク vol.1)を間違えて、買ったりしました。「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」という曲が入っている、という理由だけで買ったのだが、このLPに入っているバージョンは、モンクによる初演(1947年の3管入りのもの)だった。「なんか違うなあ・・・」とがっかりしたのだ。(笑)その年の秋だったか・・・ようやく vogue録音のソロピアノのLPが東宝から発売されたのだ。タイトルは・・・セロニアス・モンク/モンク・ランズ・ディープ(東宝) ようやく、あの「ラウンドアバウトミッドナイト」に出会えたのだ。すぐに手に入れて・・・・・このレコードは、本当に何度も何度も聴きました・・・・。runs_deep    

このLPには、ラウンド・アバウト・ミッドナイト以外にも、リフレクションズ(ポートレイト・オブ・アーマイト)、オフマイナー、ウエル・ユー・ニードントなどモンクの傑作曲が入っており、全てが気迫のこもった素晴らしい演奏ばかりです。。その中で、唯一のスタンダードの「煙が目にしみる」・・・これがまた素晴らしい!よく「モンクは変。判りにくい」とか言われるが・・・この「煙が目にしみる」みたいなスタンダードを弾くときのモンクは、一味違います。誰もがよく知っているあのメロディ、あの魅力的なメロディーをそれほど大きく崩したりはせず、謳い上げています。強いタッチなので、演奏全体にゴツゴツした「堅い岩」みたいな雰囲気を感じるかもしれませんが、それがモンクの「唄い口」です。そうしてこのモンク独特の無骨な唄い口が、却ってこの曲の持つ<哀感>みたいなものを、よく表わしているように思います。
ちょっと気持ちが弱った時なんかに聴くと・・・「おい君・・・人生ってそんなに悪いもんじゃないよ」とモンクに優しく諭されているような気分になります。

モンクの魂に触れてしまった(ように思えた)・・・ジャズにここまで深く入り込んでしまった・・・これでもう、僕のジャズ人生も決まったようなものです。この後、モンク~コルトレーン~マイルス~ミンガス~ドルフィー、ロリンズという具合に次々にジャズの巨人たちの<個性>を味わっていきました。それから、いかにモンク好きの僕としても、ずーっとモンクだけ! というわけにもいかず(笑)、ピアノでは、自然と、バド・パウエル、少ししてからビル・エヴァンス、ソニークラーク、ランディ・ウエストンなど好みになりました。特にウッドベースでは、モンク絡み(モンクス・ミュージック)とロリンズ絡み(ナイト・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード)で、ウイルバー・ウエアがもう大好きになったりしました。ちょうどその頃、大学でモダン・ジャズ研究会なるサークルに入りました。聴くだけではガマンできなくなったようです。ピアノかベースか迷いましたが、たまたまベースがいない、ということもあり、ウッドベースを始めたのです。先輩に「好きなベーシストは?」と尋ねられ「ウイルバー・ウエア」と答えたら、その先輩、「うう・・・まあそういのもいいけど・・・まずはチェンバーだよね。チェンバースを聴きなさい」とかなり動揺しておりました(笑)。

楽器を始めると、それまで遠いものに感じていたテナー~アルト~トランペット~トロンボーンなどが、うんと身近なものになり、管楽器への興味が深まっていきました。(それまではどちらかというとピアノ中心に聴いていた) そう思っていろんなレコードを聴いていくと・・・いろんなミュージシャンの音色・フレーズなどの違いにも興味が湧いてきました。ジャズはロリンズ、コルトレーン、マクリーン、ブラウンだけじゃあなかったんです!
「おっ。この人、好きだな。もっと聴きたい!」~「おお、この人もおもしろい。他のも聴いてみたい!」~「ああ、こんな人もいたのか」~ 
・・・キリがありません。そりゃあそうです。ミュージシャンの数だけ、異なる個性が在るわけですから。「個性」に黒人も白人もありません。
だから・・・どちらかというと黒人ハードバップ重量級ばかりを10年くらい聴いてきた後に、ふと手に入れたペッパーの「モダンアート」、この盤で聴いたペッパーは・・・ものすごく新鮮でした。特にバラードでの唄い口には、しびれました。チェット・ベイカーの<あまり強く吹かない乾いたような音色>にも強烈に惹かれました。シナトラの「唱」に急に感じるようになったのもこの頃です。

こうして自分がどんな具合でジャズを聴いてきたかを振り返ってみると・・・だから・・・僕のジャズの聴き方は、こんな具合に、全くの「人聴き」でした。
だから、決してジャズをスタイルで分けて聴いてきたつもりはないのですが、興味を覚えたミュージシャンを聴いてきた34年の間には、自然と、ハードバップ~バップ~ウエストコースト~ボーカルと聴く範囲が拡がってきたようです。この先は・・・バップからもう少し遡って<中間派/エリントン派>あたりに、少しづつ踏み込んでいきそうな気配も感じております。(気配って・・・自分の意思なのに、なんと無責任な(笑)) ただ、僕の場合は、ジャズへの興味が、どうしても過去へ過去へと向ってしまう傾向にあるようです。正直に言うと・・・これまでのところ、結果的には「新しいジャズ」はほとんど聴いておりません。もちろん、あるカテゴリーを偏見をもって意識的に避けたりはしてませんが、あまり好みではないミュージシャンを羅列すると・・・たまたま<新主流派>だった、とかいうことはあります(笑) 「人聴き」するタイプの僕には、「おもしろい」と感じるミュージシャンがあまり見つからないようです。

こんな風に長い間、ジャズを聴いてきても、まだ飽きない。いや、それどころか、ますます好きになってきている。聴きたいジャズはまだいっぱいある。欲しいレコードもまだいっぱいある。わおー!!!

・・・ジャズとはなんと魅力的な、しかも懐の深い音楽なんでしょうか。全てはモンクから始まったのだ・・・・・。

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