<やったあレコ 第3回> After Hours Jazz(Epic) ああ、エルヴィン!
ハードバップ・エルヴィン~素晴らしいあのビート感!
何年か前に「ハードバップ・エルヴィン!」と題して、エルヴィンのレコード・リストを作っていたことがある。ハードバップ・エルヴィン!などと勝手にタイトルしたが、要は、コルトレーンとの共演以外ののエルヴィン参加アルバムのリストなのだ。コルトレーンとのエルヴィンは、もちろん凄いのだが、普通の4ビートでのエルヴィンも、これまた凄い(笑) 4ビートの場合、右手に持ったスティックで右側にセットしたトップシンバルを叩く~基本は「チーン・チーキ・チーン・チーキ」だが、それはあくまで基本であって、バリエーションは自由~のだが、この「シンバル・レガート」の鳴り方、いや、鳴らせ方が、エルヴィンだと、もう全然違うのだ。何が違うって・・・なかなかうまくは言えないが・・・手首を柔らかく使ってなめらかに、しかも豪快に鳴らしている。そうして、どんなテンポでも「速度」を感じさせる。といっても、テンポが軽はずみに走ったりするわけではない。「速度」というのは、「速度感」のことであり、テンポが速いとか、遅いとかいう問題ではない。この「速度感」というのは、おそらく・・・一定のテンポに対し、微妙に「突っ込み気味」だったりするシンバルワークや、ちょっと「もたれ気味」だったりするバスドラ、これに、時々繰り出す「爆風のようなロールと、そのロールの響きを巻き込むように、強烈なシンコペでドカーンとくるバスドラとシンバルの強打」・・・そんなもの全体から浮き出てくるfeelingなのかもしれない。一定のテンポを、とにかく律儀にキープするだけのドラマー~例えば、コニー・ケイ。(もちろんMJQの音楽には、あのスタイルが合っているのだろう)彼と比べてみれば、いかに全体のドラミングの表情が違うものか、お判りいただけるかと思う。
とにかく・・・エルヴィンの、あのシンバルレガートからは、凄いビート感が生まれてくるのだ。そうして、「ジャズ」という音楽の中で、どこに一番「ジャズらしさ」を感じるか、というと・・・それが、このこの「ビート感」なのだ。
同じように、凄いビートを感じさせるトニーのシンバルレガート。しかし・・・トニーとエルヴィンでは、ビートの質感が違う。トニーのレガートは、「爽快」だが、エルヴィンのレガートには、もう少し「重さ」がある。トニーのスピード感というのは、例えば・・・50kmの速度を、125ccのバイクでキビキビと走る感じか。
そうして、エルヴィンは・・・速度は同じだとしても、トルクに余裕を感じさせる400ccでゆったりと、しかもキレを保ったまま走る、というような感じか。もっともエルヴィンの場合、バイクというよりも、「野生の馬」で、自由自在に草原を駆け巡るようなイメージの方が似合ってる。何かに「乗る」というのを「ライド:ride」というが、「リズムに乗る」という状態も「ride」表現しているようだ。エルヴィンのシンバルレガートからは、文字通り、この「ライド感」がたっぷりと感じられる。そうだ、それにトップシンバルのことを「ライド・シンバル」ともいうじゃないか。エルヴィンのレガートは・・・聴いていてとにかく、気持ちがいいのだ!ひょっとしたら、ジャズを聴く上での「快感No.1」じゃないだろうか。
そして、そんなエルヴィンの「快感」を味わうには、コルトレーンとの諸作よりも、素直な「ハードバップ・エルヴィン」の方が最適なのだ。思いつくレコードを何枚か挙げてみる。
After Hours Jazz (Epic ) LNー3339
この盤は、いろんなセッションからのオムニバスだ。例の「Jazz Data Bank」(拙ブログ~月~日の記事)の「トミー・フラナガン」の項に、このレコードのジャケ写真が載っていた。その記憶を頼りに、トミ・フラ目当てで入手したのだ。だから、この盤を聴いた時、エルヴィンが入っていることを失念していた。そしてB面1曲目~サヒブ・シハブ(bs)のリーダーセッションだろうか~<Hum-Bug>を聴いて、僕は驚いてしまった。おおっ!このシンバル・レガートは!このキレ、このノリは・・・エルヴィンしかあり得ない! とすぐさまジャケ裏をチェックすると・・・やはり、エルヴィンだった。うれしい~(笑)
シハブとのセッションは、2曲のみで、もう1曲は<Southern Exposure>で、トミフラやケニーバレル、エディ・バート(tb)も参加している。
ベニー・グリーン/ソウル・スターリン(bluenote)東芝盤
ブルーノートにエルヴィンは珍しい。エルヴィンのライド・シンバルにのって吹きまくる太っい(ぶっとい)音色のトロンボーン。無骨いテナーのジーン・アモンズも負けてはいない。2人ともディープなソウルに溢れている。
そんな重量感のある管奏者たちにキリリと絡むソニー・クラークのピアノがチャーミングに映える。バラードの「That’s All」は、思い切ったスロウなテンポだ。情感あふれるソニー・クラークのソロも絶品。これは、本当に好きな1枚だ。
クリフォード・ジョーダン/ストーリー・テイル(jazzland)Wave盤
ジョーダン(ts)とソニー・レッド(as)の2管にロニー・マシューズ(p)かトミー・フラナガン(p)が入る。61年録音なので、(私的には)
僕の思っているハードバップより少し新しい感じかもしれない。新しい・・・というのは、要するに「モードっぽい曲」が多い、ということだ。
割と急速調の曲が多いが、2管でモード、ということで、なにか後のエルヴィンのコンボのサウンドの原型のような感じも受ける。
ソニーレッドも好きなアルトだ。マクリーンほどではないが、音色が、充分に「濃くてドロドロ」している(笑) うれしくなってしまう。
ところで・・・エルヴィンのドラム音というのは、レコードでは、どうも「抑え目」に録音されていることが多いように思えてならない。
JJ ジョンソンと演ってるColumbiaの録音では、特にそう感じる。おそらく、録音ディレクターが、エルヴィンの「音のあまりの大きさ」に驚いて、思わず(録音技術上)入力レベルを下げてしまったのでは? と邪推したくなるほど、ドラム音が「遠い」。遠くて小さい。残念である。このジャズランド盤でも、若干、その傾向を感じる。その点、インパルスは偉い!エルヴィンのヴォリュームを基準として、他のレベルを合わせてる感じで、ドラムスが主役といってもよさそうだ。
最後に、オマケとして・・・僕がリストアップした「ハードバップ・エルヴィン!」の古い方から、1958年くらいまでの分を、ちょっと書き出してみる。もちろん完全じゃあない。録音年月もいい加減なものだ。追加情報も、ぜひコメントにて、お知らせ下さい。
1948年(と解説にあるが、そんな古いはずはないだろう)
? variousu aritists/Swing,Not Spring (savoy) 4曲
1955年
7月 Miles Davis/Blue Moods (debut) 4曲
1956年
5月 variousu aritists/After Hours (epic) 2曲
7月 J.J.Johnson/Jis For Jazz (columbia) 4曲
11月 Bobby Jasper/~ Quartet (仏columbia) 8曲
12月 Art Farmer/Farmer’s Market (new jazz) 4曲
1957年
1月 Sonny Rollins/~ Plays (period) 1曲のみ
1月 Thad Jones/Mad Thad (period) 3曲
1月 J.J.Johnson/Dial For J.J.(columbia)10曲
Jay & Kai/ Jay & Kai (columbia) 1曲のみ(I should care)
2月 Kenny Burrell/Blue Moods (prestige) 6曲
2月 Thad Jones/The Magnificent vol.3 (bluenote) 4曲
2月 Thad Jones/Olio (prestige) 6曲
5月 Paul Chambers/~ Quintet (bluenote) 6曲
5月 Bobby Jasper/with George Wallington(riverside)6曲
8月 Tommy Flanagan/Overseas ( ) 9曲+3曲
10月 various artists/Roots (prestige) 2曲
11月 Sonny Rollins/A Night At The Village Vanguard vol.1~vol.3(bluenote)
11月 Sonny Red,Pepper Adams,Wynton Kelly etc./Two Altos(savoy) 2曲
11月 同じ/Jazz Is Busting Out All Over (savoy) 1曲
11月 Red Rodney/Fiery (savoy) 3曲
11月 Pepper Adams/The Cool Sound Of ~(regent) 4曲
1958年
1月 Mal Waldron/Mal 3 (new jazz) 5曲
3月 Pepper Adams,Jimmy Knepper (metro) 7曲
4月 Bennie Green/Soul Stiring (bluenote) 6曲
4月 Jones Brothers/Keeping Up With The Jones (metro) 7曲
? Hank Jones/Porgy & Bess (capitol) 10曲
4月 Pepper Adams/10 to 4 At The Five Spot (riverside) 5曲
10月 Lambert,Hendriks&Ross/The Swingers (pacific) 1曲のみ(jackie)
10月 Steve Lacy/Reflections (new jazz) 7曲
1959年
6月 Herb Geller/Gypsy (atco) 8曲
10月 Thad Jones/Motor City Scene (united artists)
(追加)1959年~
2月 Gil Evans/Great Jazz Standards (world pacific)
3月 Tommy Flanagan/Lonely Town (日キング)
3月 Crutis Fuller/Sliding Easy (united artists)
5月 Randy Weston/Destry Rides Again(united artists)
5月 Art Farmer/Brass Shout (united artists)
・・・・ああ、キリがない。この辺りでやめとこう(笑)
いつまでも現役でドラムを叩いてくれるのでは、と思ってたエルヴィンが昨年(2004年)亡くなった。エルヴィンの本当の凄さはテクニックなんかじゃない。今、演ってるその演奏を「もっとビートを出すぞ。もっともっと熱くしようぜ!」という気合いを、どの時代にも持ち続けたことなんだと思う。昨年、エルヴィンが亡くなる直前、たまたま、米オークションでエルヴィンのブルーノート盤(Liberty)に友人の代理でビッドしていた。運良く落札できたのだが、その少し後、エルヴィンの永眠を知った。僕はそのfeedback欄(オークションの取引後に短いコメントをアップするコーナー)に、こう書いた・・・<We Love Elvin Jones!We Love Jazz!>
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コメント
「ひまじん」さん、こんにちわ。ひまじんさんのHP、拝見しました。鉄道とかもお好きなのですね。そして・・・土岐・多治見あたりの地元オケでトロンボーンを吹いているとのこと・・・HPのメールアドレス名・・・どうやら僕のよく知ってるD介さんが「ひまじん」さんでしょうか(笑)
コメント、ありがとう!9月24日(土)には、久しぶりにみんなと会えて楽しかったですね。ベニー・グリーン~いいボントロですよね。じっくりと自分の唄を唄う、という感じ。ボントロ、がんばって下さい。ではまた。いつでもコメントどうぞ。
投稿: bassclef | 2005年10月 7日 (金) 09:04
この項目の内容とは全く関係ないですが、「ベニー・グリーン」などという渋いトロンボーンが出てくるところに感動しました。
投稿: ひまじん | 2005年10月 7日 (金) 00:44
54さん、コメントどうもです。なんかいいのを入手されたようですね(笑) ジャズ好きの勤め人のささやかな楽しみは、出張の帰りにレコードを買うことですよね(笑) F.ウエス/Southern Comfort~米ファンタジーに製作させた日本企画盤だったかで出ましたね。オリジナルは「銀・黒」ラベルでしたか?いや、「黄・黒」だったか。レコ話しは尽きません・・・
54さん、ディープでいきましょう!(笑)
投稿: bassclef | 2005年8月11日 (木) 22:02
こんばんは。
今日は昨日仕入れた6枚のレコードをクリーニングしながら、ストーリー・テイルを聴いていますが、こんなレコードを紹介するbassclefさんは偉~い! 確かにエルヴィン控えめですね。
B-3のフォーリング・イン・ラヴ・イズ・ワンダフルが好みの僕です。
ベニーグリーンは聴いた事ないのですが、欲しいレコードです。 いまだ現れません、僕の前には!残念です。 今から昨日仕入れの1枚フランク・ウエスの『サウザン・コンフォート』プレステ盤を聴きます。 ステレオ・オリジだと思いますので期待です。
これからもデープなコレクションをどんどん紹介してください、楽しみにしています。
投稿: 54 | 2005年8月11日 (木) 20:19
54さん、ML2LONさん、BTMさん、いつも速攻でコメント、ありがとうございます。「杜」では、みなさんがオーディオで盛り上がってますので
こちらは・・・エルヴィンでGO!です(笑)
>54さん~エルヴィンのリストは、この後、65年くらいまで作ったんですが・・・どうしても入手できないのが、UA盤の「モーターシティシーン」とメトロ盤の「ペッパー&ネッパー」です。
杜のみなさん、どなたかお持ちでしょうか?
>ML2LONさん~エルヴィン・・・唸るようですね。モンクもですが、思わず唸るんでしょうね。>読んでて楽しいわ~これは・・・僕にとって、
最高のホメ言葉です。じわじわがんばります。
>BTMさん~トニー&エルヴィンと対面、生握手ですか!いいなあ・・・。実は・・・僕は、エルヴィンのこと、判ったようなこと書きましたが・・・生エルヴィンは見たことないのです。82年の長野/斑尾高原のジャズフェスの時、目玉がエルヴィン~マッコイ~ハバード~ロン・カーターのはずだったんです。うきうきしながら手にいれたばかりのべレット1800GTで出かけることにしたのですが・・・直前に、エルヴィン来日中止!代わりがトニーとなったのでした(笑)
斑尾には、もちろん行きましたが・・いや、トニーも、やっぱりすごかった!黄色のグレッヂが
かっこよかったなあ。
投稿: bassclef | 2005年8月10日 (水) 22:08
オーッ!これは永久保存版ですね。エルビンとトニーを生で聞いたことのある私はなんて果報者なんでしょうか!!特にエルビンの演奏と握手してもらった手の大きさは一生忘れられません(トイレを出たばかりのところだったのでちょっとシットリしていました・笑)
bassclefさんのブログでちょっと昔を思い出してしんみりしてしまいました。
投稿: BTM | 2005年8月10日 (水) 21:12
トニーとエルビンのドラムの違いをスピードとトルクの違いで表現されていた箇所、読んでて思わず納得!の上手い表現と感心しました。
どちらも凄いドラマーでしたし素晴らしいドラムさばきでした。
エルビンの拍遅れの唸り声も、演奏の熱気を盛り上げて実にサマになってました。
エルビンが加わったことで名演奏になったの、沢山あります。偉大なドラマーでした。エルビンが加わっていたらそれだけで買い間違いなし!と断言できますネ。
それにしてもbassclefさん、ジャズが本当にお好きなんですね。毎回その愛情がひしひしと伝わって読んでて楽しいわ。
投稿: ML2LON | 2005年8月10日 (水) 00:18
こんばんは。
凄い!、エルヴィンは凄い! 僕はこんな言葉しかいえないけど、ヤッパリ凄い!
夜更し54です(笑)
エルヴィン=コルトレーン、そんなイメージですよね、一般的には、しかし、これだけ凄いレコード残しているのですね、僕も何枚かは持ってますがこれからのレコード収集の参考になります。 まだまだ、これから! 勉強だな~!
これからも宜しくお願いしますね~!
投稿: 54 | 2005年8月10日 (水) 00:08